(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算手段は、前記要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得する際に、車両が所定の減速度よりも急な減速をするか否かを判定するための減速判定加速度を考慮して走行抵抗を取得することを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の異常検知装置。
前記判定手段は、前記トルク上限値が判定トルク以下であり、かつ、前記トルク上限値が、エンジン制御装置により設定される目標エンジン軸トルクと略一致している場合に異常であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無段変速機の異常検知装置。
前記判定手段は、車速が所定速度以上である場合に、前記トルク上限値が異常であるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無段変速機の異常検知装置。
前記判定手段は、前記トルク上限値が異常と判定される状態が所定時間以上継続した場合に、前記トルク上限値が異常であると確定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無段変速機の異常検知装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無段変速機の制御は、一般的に、例えばマイクロコンピュータ等を用いた電子制御装置によって行われている。このような電子制御装置では、極めてまれにではあるが、マイクロコンピュータの不良、例えばRAM等のメモリやレジスタ等の不良(例えば書き込んだデータと読み出したデータが一致しない等)、論理演算回路の不良、及びクロック信号のばらつきなどが生じることが有り得る。また、ROMデータ(制御データ等)の設定・書込み間違い等も生じることが有り得る。
【0006】
このようなハード的な不良やROMデータの設定間違い等が発生した場合には、上述した、無段変速機側から出されるエンジン出力トルクを制限するトルク上限値(制限値)が異常になることも考えられ得る。ここで、例えば、アクセルペダルが踏込まれて車両が加速されている途中でトルク上限値が異常値(例えば略ゼロ)になると、運転者の意図に反して、すなわち加速したいにもかかわらず車両が減速してしまう。
【0007】
よって、上述したようなフェイルが万が一発生したとしても、無段変速機やエンジンの制御に対して悪影響を及ぼさないような対処がなされていることが求められている。しかしながら、特許文献1に記載の無段変速機では、無段変速機側からエンジン側に対して要求される、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値(制限値)の異常を検知(合理性を判定)することは考慮されていなかった。なお、トルク上限値が同じであっても、例えば変速比等によって車両が減速する場合と減速しない場合とがあるため、トルク上限値の値のみでは、そのトルク上限値が異常か否かを判定することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、無段変速機からエンジンに対して要求される、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値の異常を検知することが可能な無段変速機の異常検知装置、及び無段変速機の異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、無段変速機の許容入力トルクに基づいて、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値を設定する設定手段と、アクセルの操作量から運転者の要求加速度を求め、該要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得し、該車両の走行抵抗および無段変速機の変速比に基づいて、上記トルク上限値の異常を判定するための判定トルクを算出する演算手段と、設定手段により設定されたトルク上限値が演算手段により算出された判定トルク以下である場合に、該トルク上限値が異常であると判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る無段変速機の異常検知方法は、無段変速機の許容入力トルクに基づいて、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値を設定する設定ステップと、アクセルの操作量から運転者の要求加速度を求め、該要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得し、該車両の走行抵抗および無段変速機の変速比に基づいて、上記トルク上限値の異常を判定するための判定トルクを算出する演算ステップと、設定ステップで設定されたトルク上限値が演算ステップで算出された判定トルク以下である場合に、該トルク上限値が異常であると判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置又は異常検知方法によれば、アクセルの操作量から運転者の要求加速度が求められ、その要求加速度が満足されるときの走行抵抗が取得される。そして、その走行抵抗と変速比とに基づいて、上記トルク上限値の異常を判定するための判定トルク、すなわち、運転者の要求加速度を発生させるために必要なエンジンの出力トルクが算出される。そのため、トルク上限値と判定トルクとを比較することにより、トルク上限値の合理性、すなわち、運転者の要求加速度が満たされているか否かを判定することが可能となる。すなわち、トルク上限値が判定トルク以下の場合(乖離しているとき)には、トルク上限値が異常であると判定することができる。よって、無段変速機からエンジンに対して要求される、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値の異常を検知することが可能となる。
【0012】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、演算手段が、要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得する際に、車両が所定の減速度よりも急な減速をするか否かを判定するための減速判定加速度を考慮して走行抵抗を取得することが好ましい。
【0013】
このようにすれば、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値が、運転者の意図しない急な減速を生じるような値になっていないかどうか判定することが可能となる。
【0014】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、判定手段が、トルク上限値が判定トルク以下であり、かつ、トルク上限値が、エンジン制御装置により設定される目標エンジン軸トルクと略一致している場合に異常であると判定することが好ましい。
【0015】
このようにすれば、目標エンジン軸トルク(エンジンが出そうとしているトルク)が、無段変速機のトルク上限値によって制限されているのか、他の要因によって制限されているのかを区別することができる。よって、トルク上限値が目標エンジン軸トルクと略一致している場合、すなわち、無段変速機からのトルク上限値によってエンジン出力トルクが制限されている場合に限って異常の有無を判定することができる。なお、目標エンジン軸トルクがトルク上限値よりも小さい場合には、無段変速機の制限値(トルク上限値)以外の他の要因によってエンジンの出力トルクが制限されていると考えられる。
【0016】
また、本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、判定手段が、車速が所定速度以上である場合に、トルク上限値が異常であるか否かを判定することが好ましい。
【0017】
このようにすれば、トルク上限値が異常になることによってエンジン出力トルクの減少が生じたときに、例えば、車両が運転者の意図しない減速を生じて危ない可能性のあり得る速度以上のときに異常判定を行うようにすることができる。
【0018】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置では、判定手段が、トルク上限値が異常と判定される状態が所定時間以上継続した場合に、トルク上限値が異常であると確定することが好ましい。このようにすれば、誤判定を適切に防止することができる。
【0019】
本発明に係る無段変速機の異常検知装置は、上記トルク上限値をエンジン制御装置に出力する出力手段を備え、該出力手段が、判定手段により、トルク上限値が異常であると確定された場合に、該トルク上限値のエンジン制御装置への出力を停止することが好ましい。
【0020】
この場合、トルク上限値が異常であると確定した場合には、該トルク上限値のエンジン制御装置への出力が停止される。そのため、例えば、運転者の意図しない減速を生じるようなエンジン出力トルクの異常低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、無段変速機からエンジンに対して要求される、エンジンの出力トルクを制限するトルク上限値の異常を検知することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0024】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る無段変速機の異常検知装置1の構成について説明する。
図1は、無段変速機の異常検知装置1、及び、該無段変速機の異常検知装置1が適用された無段変速機30等の構成を示すブロック図である。
【0025】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータにより検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ14が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0026】
上述したエアフローメータ、スロットル開度センサ14に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)60に接続されている。また、ECU60には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ62、及び、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0027】
エンジン10の出力軸15には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機30が接続されている。
【0028】
トルクコンバータ20は、主として、ポンプインペラ21、タービンライナ22、及びステータ23から構成されている。出力軸15に接続されたポンプインペラ21がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ21に対向して配置されたタービンライナ22がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ23は、タービンライナ22からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ21に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0029】
また、トルクコンバータ20は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ24を有している。トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ24が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップクラッチ24が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。トルクコンバータ20を構成するタービンライナ22の回転数(タービン回転数)は、タービン回転数センサ56により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)40に出力される。
【0030】
無段変速機30は、リダクションギヤ31を介してトルクコンバータ20の出力軸25と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
【0031】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0032】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0033】
ここでプライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0034】
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)50によってコントロールされる。バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ50内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、バルブボディ50は、例えば、車両の前進/後進を切替える前後進切替機構等にも油圧を供給する。
【0035】
ここで、車両のフロア(センターコンソール)等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)51が設けられている。シフトレバー51には、シフトレバー51と連動して動くように接続され、該シフトレバー51の選択位置を検出するレンジスイッチ59が取り付けられている。レンジスイッチ59は、TCU40に接続されており、検出されたシフトレバー51の選択位置が、TCU40に読み込まれる。なお、シフトレバー51では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。なお、TCU40には、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ57や、セカンダリプーリ35の回転数を検出するセカンダリプーリ回転センサ(車速センサ)58なども接続されている。
【0036】
無段変速機30の変速制御は、TCU40によって実行される。すなわち、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。
【0037】
ここで、TCU40には、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU60と相互に通信可能に接続されている。
【0038】
TCU40、及びECU60は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0039】
ECU60では、上述したカム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU60では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0040】
また、ECU60は、CAN100を介して、エンジン回転数、目標エンジン軸トルク、及びアクセルペダル開度(又はアクセルペダル開度率:全開に対する実アクセル開度の比率)等の情報をTCU40に送信する。一方、ECU60は、CAN100を介して、エンジン10の出力トルクを制限するトルク上限値(詳細は後述する)をTCU40から受信する。ECU60は、TCU40から受信したトルク上限値(他のユニットからのトルク制限要求がある場合には、それらの中で最も小さい制限値)に基づいて、エンジン10の出力トルク(目標エンジン軸トルク)が該トルク上限値を超えないように、エンジン10の出力トルクを制御する。ECU60は、トルク上限値に応じて、例えば、スロットルバルブ13の開度を補正して、エンジン10の出力トルクを調節する。
【0041】
TCU40は、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU40内のROMに格納されている。
【0042】
特に、TCU40は、無段変速機30からエンジン10に対して要求される、エンジン10の出力トルクを制限するトルク上限値(制限値)の異常を検知(合理性を判定)する機能を有している。そのため、TCU40は、トルク上限値設定部41、判定トルク演算部42、異常判定部43、及びCANデータ送受信部44を機能的に有している。TCU40では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、トルク上限値設定部41、判定トルク演算部42、異常判定部43、及びCANデータ送受信部44の各機能が実現される。
【0043】
トルク上限値設定部41は、無段変速機30の許容入力トルク(受取り可能なトルク)に基づいて、エンジン10の出力トルクを制限するトルク上限値を設定する。すなわち、トルク上限値設定部41は、特許請求の範囲に記載の設定手段として機能する。より具体的には、トルク上限値設定部41は、無段変速機30の運転状態(例えば変速比や車速等)に基づいて、無段変速機30を保護するように(例えばチェーン36が滑ったりクラッチがダメージを受けたりしないように、また無段変速機30の許容トルク以上のトルクが入力されないように)トルク上限値を設定する。なお、トルク上限値設定部41により設定されたトルク上限値は、異常判定部43及びCANデータ送受信部44に出力される。
【0044】
判定トルク演算部42は、アクセルの操作量(アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセル開度(又はアクセル開度率))から運転者の要求加速度を求め、該要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得し、該車両の走行抵抗および無段変速機30の変速比に基づいて、上記トルク上限値の異常を判定するための判定トルクを算出する。また、判定トルク演算部42は、要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得する際に、車両が所定の減速度よりも急な減速をするか否かを判定するための急減速判定加速度を考慮して走行抵抗を取得する。すなわち、判定トルク演算部42は、特許請求の範囲に記載の演算手段として機能する。
【0045】
より具体的には、判定トルク演算部42は、次式(1)に基づいて、判定トルク[N・m]を演算する。
判定トルク=プライマリ入力トルク÷トルクコンバータトルク比+ATFポンプトルク ・・・(1)
ここで、プライマリ入力トルク[N・m]は下式(1.1)に基づき、トルクコンバータトルク比は下式(1.2)に基づき、ATFポンプトルク[N・m]は下式(1.3)に基づき算出される。
【0046】
プライマリ入力トルク=走行抵抗÷実変速比÷ファイナルギヤ比÷リダクションギヤ比×タイヤ半径 ・・・(1.1)
ここで、走行抵抗[N]は下式(1.1.1)に基づいて算出される。また、ファイナルギヤ比、リダクションギヤ比、タイヤ半径には設計値がデータとして記憶される。
トルクコンバータトルク比=トルクコンバータトルク比テーブル(トルクコンバータ速度比) ・・・(1.2)
ここで、トルクコンバータトルク比テーブルは、トルクコンバータ速度比とトルクコンバータトルク比(トルク増幅比)との関係を定めたデータテーブルである。また、トルクコンバータ速度比は下式(1.2.1)に基づいて算出される。
ATFポンプトルク=ATFポンプトルクマップ(エンジン回転数、セカンダリプーリ圧) ・・・(1.3)
ここで、ATFポンプトルクマップはエンジン回転数[rpm]、セカンダリプーリ圧と、ATFポンプトルクとの関係を定めたデータマップである。
【0047】
走行抵抗=加速抵抗+空気抵抗+転がり抵抗 ・・・(1.1.1)
ここで、加速抵抗[N]は下式(1.1.1.1)に基づき、空気抵抗[N]は下式(1.1.1.2)に基づき、転がり抵抗[N]は下式(1.1.1.3)に基づいて算出される。
トルクコンバータ速度比=タービン回転数÷エンジン回転数 ・・・(1.2.1)
【0048】
加速抵抗=車両重量×(アクセル要求加速度+急減速判定加速度) ・・・(1.1.1.1)
ここで、車両重量[kg]には設計値がデータとして記憶される。アクセル要求加速度[m/s^2]は下式(1.1.1.1.1)に基づいて算出される。また、急減速判定加速度は、例えば「−3[m/s^2]」に設定される。なお、急減速判定加速度は、特許請求の範囲に記載の減速判定加速度に相当する。
空気抵抗=車速[m/s]^2×CD値×空気密度×前面投影面積÷2 ・・・(1.1.1.2)
ここで、CD値、及び前面投影面積[m^2]には設計値がデータとして記憶される。また、空気密度[kg/m^3]としては例えば常温(20℃)の値がデータとして記憶される。
転がり抵抗=転がり抵抗係数×車両重量×重力加速度[m/s^2] ・・・(1.1.1.3)
ここで、転がり抵抗は、例えば代表的な値を固定値としてデータ化してもよいし、路面状況(例えば砂利道や雪道等)に応じて切り替えるようにしてもよい。
【0049】
アクセル要求加速度=アクセル要求加速度テーブル(アクセルペダル開度率) ・・・(1.1.1.1.1)
ここで、アクセル要求加速度テーブルは、アクセルペダル開度率[%](全開に対する実アクセル開度の割合)とアクセル要求加速度(特許請求の範囲に記載の運転者の要求加速度に相当)との関係を定めたデータテーブルである。なお、アクセルペダル開度率に代えてアクセルペダル開度を用いてもよい。
以上のようにして判定トルク演算部42により算出された判定トルクは、異常判定部43に出力される。
【0050】
異常判定部43は、トルク上限値設定部41により設定されたトルク上限値がECU60により設定される目標エンジン軸トルクと一致又は略一致(双方の偏差が所定値以下)しており(すなわち目標エンジン軸トルクがトルク上限値で制限されており)、かつ、トルク上限値が判定トルク演算部42により算出された判定トルク以下である場合に、該トルク上限値が異常であると判定する。異常判定部43は、特許請求の範囲に記載の判定手段として機能する。
【0051】
なお、異常判定部43は、車速が所定速度(例えば20km/h)以上である場合に、トルク上限値が異常であるか否かを判定する。また、異常判定部43は、トルク上限値が異常と判定される状態が所定時間(例えば500msec)以上継続した場合に、トルク上限値が異常であると確定する。異常判定部43による判定結果はCANデータ送受信部44に出力される。
【0052】
CANデータ送受信部44は、トルク上限値設定部41により設定されたトルク上限値をCAN100を介してECU60に送信する。ただし、CANデータ送受信部44は、異常判定部43によってトルク上限値が異常であると確定された場合には、CAN送信を停止、すなわちトルク上限値のECU60への送信を停止する。CANデータ送受信部44は、特許請求の範囲に記載の出力手段として機能する。なお、CANデータ送受信部44は、例えばECU60等から送信されたCANデータ(例えば、エンジン回転数、目標エンジン軸トルク、アクセルペダル開度率等)の受信も行う。
【0053】
次に、
図2を参照しつつ、無段変速機の異常検知装置1の動作について説明する。
図2は、無段変速機の異常検知装置1による、異常検知(合理性判定)処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0054】
まず、ステップS100では、無段変速機30の許容入力トルクに基づいて、エンジン10の出力トルクを制限するためのトルク上限値が設定される。次に、ステップS102では、ステップS100で設定されたトルク上限値と、ECU60で設定された目標エンジン軸トルクとが一致しているか否かについての判断が行われる。ここで、トルク上限値が目標エンジン軸トルクと一致している場合には、ステップS106に処理が移行する。一方、トルク上限値が目標エンジン軸トルクと一致していないときには、ステップS104において、トルク上限値がCAN100を介してECU60に送信された後、本処理から一旦抜ける。
【0055】
ステップS106では、車速が所定速度(例えば20km/h)以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、車速が上記所定速度以上の場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、車速が上記所定速度未満のときには、ステップS104において、トルク上限値がCAN100を介してECU60に送信された後、本処理から一旦抜ける。
【0056】
ステップS108では、トルク上限値の異常を検知(合理性を判定)するための判定トルクが算出される。なお、判定トルクの算出方法については、上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0057】
続いて、ステップS110では、ステップS100で設定されたトルク上限値が、ステップS108で算出された判定トルク以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、トルク上限値が判定トルク以下である場合には、ステップS112に処理が移行する。一方、トルク上限値が判定トルクよりも大きいときには、ステップS104において、トルク上限値がCAN100を介してECU60に送信された後、本処理から一旦抜ける。
【0058】
ステップS112では、トルク上限値が判定トルク以下である状態(すなわち異常状態)が所定時間(例えば500ms.)以上継続しているか否かについての判断が行われる。ここで、異常状態が上記所定時間以上継続している場合(すなわち異常が確定した場合)には、ステップS114に処理が移行する。一方、異常状態が上記所定時間以上継続していないときには、ステップS104において、トルク上限値がCAN100を介してECU60に送信された後、本処理から一旦抜ける。
【0059】
ステップS114では、トルク上限値を含むデータのCAN送信が停止される。それにより、エンジン10の出力トルクが異常低下することが防止される。
【0060】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、アクセルの操作量から運転者の要求加速度が求められ、その要求加速度が満足されるときの走行抵抗が取得される。そして、その走行抵抗と変速比とに基づいて、上記トルク上限値の異常を判定するための判定トルク、すなわち、運転者の要求加速度を発生させるために必要なエンジン10の出力トルクが算出される。そのため、トルク上限値と判定トルクとを比較することにより、トルク上限値の合理性、すなわち、運転者の要求加速度が満たされているか否か(加速したいのに減速してしまわないか)を判定することが可能となる。すなわち、トルク上限値が判定トルク以下の場合(乖離しているとき)には、トルク上限値が異常であると判定することができる。よって、無段変速機30からエンジン10に対して要求される、エンジン10の出力トルクを制限するトルク上限値の異常を検知(合理性を判定)することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態によれば、要求加速度に応じて車両の走行抵抗を取得する際に、車両が所定の減速度よりも急な減速をするか否かを判定するための急減速判定加速度を考慮して走行抵抗が取得される。そのため、エンジン10の出力トルクを制限するトルク上限値が、運転者の意図しない急な減速を生じるような値になっていないかどうか判定することが可能となる。
【0062】
本実施形態によれば、トルク上限値が判定トルク以下であり、かつ、トルク上限値が、ECU60により設定される目標エンジン軸トルクと略一致している場合に異常であると判定される。そのため、エンジン10の目標エンジン軸トルク(エンジン10が出そうとしているトルク)が、無段変速機30のトルク上限値によって制限されているのか、他の要因によって制限されているのかを区別することができる。よって、トルク上限値が目標エンジン軸トルクと略一致している場合、すなわち、無段変速機30からのトルク上限値によってエンジン出力トルクが制限されている場合に限って異常の有無を判定することができる。なお、目標エンジン軸トルクがトルク上限値よりも小さい場合には、無段変速機30の制限値(トルク上限値)以外の他の要因によってエンジン10の出力トルクが制限されていると考えられる。
【0063】
本実施形態によれば、車速が所定速度(例えば20km/h)以上である場合に、トルク上限値が異常であるか否かが判定される。そのため、トルク上限値が異常になることによってエンジン出力トルクの減少が生じたときに、例えば、車両が運転者の意図しない減速を生じて危ない可能性のあり得る速度以上のときに異常判定を行うようにすることができる。
【0064】
本実施形態によれば、トルク上限値が異常と判定される状態が所定時間(例えば500msec)以上継続した場合に、トルク上限値が異常であると確定される。そのため、誤判定を適切に防止することができる。
【0065】
本実施形態によれば、トルク上限値が異常であると確定した場合には、該トルク上限値のECU60への送信が停止される。そのため、例えば、運転者の意図しない急減速を生じるようなエンジン出力トルクの異常低下を防止することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。
【0067】
上記実施形態では、エンジン10を制御するECU60と、無段変速機30を制御するTCU40とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
【0068】
上記実施形態では、トルク上限値設定部41と、判定トルク演算部42及び異常判定部43とを同一のCPU上に構築し、異常時に、内部からソフト的にCAN送信を停止する構成としたが、例えば、判定トルク演算部42及び異常判定部43を、トルク上限値設定部41とは異なるCPU又は監視用IC上に構築し、異常時に、外部からハード的にCAN送信を停止(ドライバの駆動を停止)する構成としてもよい。