(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、運転者によりパークロックが指示された場合に、前記油圧を所定油圧以上として、前記カムを前記ロック溝に嵌合させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ブレーキシステム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態のホイール駆動装置1を備える車両4の説明図である。
【0013】
本実施形態のホイール駆動装置1は、車両の駆動輪2を構成するホイール10の内部に収装され、駆動力源であるモータ20の駆動力により駆動輪2を回転させることにより、車両4を走行させる。車両4にはステアリング装置5が備えられており、駆動輪2の操舵方向を制御する。ホイール駆動装置1は、運転者によるステアリング装置5の操作、アクセルペダル6、ブレーキペダル7、パーキングロックレバー(または、スイッチ)11等の操作等の指示に基づいて、制御装置3の制御により動作する。
【0014】
制御装置3は、油圧制御部9に指示を送ることにより、ホイール駆動装置1に備えられるブレーキ装置72(
図2参照)に油圧を供給して、車両に制動力を発生させる。油圧制御部9は、ギヤ等の機械的な回転や電動モータ等により油圧を発生する油圧ポンプを有し、制御装置3からの指示に基づいて油圧を発生する。
【0015】
車両4は4つの車輪が備えられるが、少なくとも2つが駆動輪2として構成されていればよい。
【0016】
図2から
図4は、本実施形態のホイール駆動装置1の構成を示す説明図である。
【0017】
図2から
図4は、水平方向のx軸、垂直方向のy軸及びx軸y軸に直交するz軸を設定し、これらx軸平面、y軸平面及びz軸平面における断面図をそれぞれ示す。
【0018】
ホイール駆動装置1は、ホイール10、モータ20、変速機構30及び減速機構40を備える。
【0019】
ホイール10は、タイヤを保持する略円筒形状のリム部10aと、回転側のハブ15にボルト16を介して取付けられる円板状のディスク部10bとから構成される。ホイール10の内方には、ハウジング12に収容されたモータ20等の駆動装置が収装される。ハウジング12は、ホイール10のリム部10aの内径よりも僅かに小さい略円筒形状を有し、車両4の図示しないサスペンションに連結されている。
【0020】
モータ20は、コイルを有する円板状のステータ21、22と、永久磁石を有する円板状のロータ23とが回転軸方向に並べて配置されるアキシャルギャップモータとして構成される。モータ20が駆動されることで回転するロータ23の回転は、ロータ23に固定された入力軸31から変速機構30へと入力される。
【0021】
入力軸31は、モータ20からハウジング12内へと延設され、入力軸31の端部はホイール10のディスク部10bに結合されるハブ15の中央にベアリング12aを介して回転自在に支持される。
【0022】
変速機構30は、入力軸31に固定された円板状のプライマリディスク32と、出力軸33に固定された円板状のセカンダリディスク34とを、押付機構35により接触させることで、入力軸31の回転を変速可能に出力軸33へと伝達する摩擦駆動変速機である。
【0023】
減速機構40は、出力軸33に設けられた外歯出力ギヤ33aと同外歯出力ギヤ33aに噛合する内歯ギヤ14とで構成されており、出力軸33から出力される回転を内歯ギヤ14により減速し、減速された回転がハブ15を介してホイール10に伝達される。
【0024】
次に、ホイール駆動装置1の各構成を説明する。
【0025】
モータ20は、ステータ21、ロータ23及びステータ22が順に軸方向に配置されて構成される。モータ20は、その外周がハウジング12の開口部の内径に適う略円筒形状を有し、ハウジング12の内周側に固定される。
【0026】
ロータ23は、軸方向に間隙を存して配置されるステータ21、22の間に配置され、これらの発生する磁界の作用により回転する。ステータ21、22には、いずれも周方向に複数のコイルが備えられる。各コイルはモータ20の回転軸と平行な軸を中心として巻回される。本実施形態のモータ20は、ロータ23に備えられる永久磁石がフェライト磁石として構成される。
【0027】
制御装置3は、ステータ21、22に備えられるコイルに、アクセルペダル6の踏み込み量に応じた電流を供給することによりロータ23を回転させる。ロータ23が回転することにより、入力軸31が回転する。入力軸31の回転は変速機構30に入力される。
【0028】
変速機構30は、入力軸31に固定されたプライマリディスク32と、出力軸33に固定されたセカンダリディスク34と、押付機構35とにより構成される。
【0029】
プライマリディスク32は、2枚の円形のディスク32aが入力軸の軸方向に並べて取付けられて構成され、入力軸31と一体となって回転する。2枚のディスク32aは所定の間隔を設けて配置される。ディスク32aの外周端は出力軸33に近接するように配置される。
【0030】
セカンダリディスク34は、センターディスク34aと、センターディスク34aの両面側に向かい合わせて設けた2枚のサイドディスク34bとが出力軸33の軸方向に並べて取付けられて構成され、出力軸33と一体となって回転する。センターディスク34aとサイドディスク34bとは所定の間隔を設けて配置される。センターディスク34a及びサイドディスク34bの外周端は入力軸31に近接するように配置される。
【0031】
プライマリディスク32のディスク32aは、セカンダリディスク34のセンターディスク34aとサイドディスク34bとの間に配置される。プライマリディスク32とセカンダリディスク34とは、入力軸31と出力軸33との間でディスクの一部が重なり合うディスク重合領域を形成する。
【0032】
ディスク重合領域において、プライマリディスク32のディスク32aとセカンダリディスク34のセンターディスク34aとの間には、押付機構35による押付力が作用しない状態では隙間が形成される。押付機構35による押付力が作用する状態では、プライマリディスク32とセカンダリディスク34とが弾性変形して接触し、トルク伝達接触部が形成される。
【0033】
プライマリディスク32とセカンダリディスク34との間にトルク伝達接触部が形成されることにより、入力軸31から出力軸33に回転が伝達される。ディスク重合領域において、トルク伝達接触部をプライマリディスク32及びセカンダリディスク34の半径方向に移動させることで、入力軸31の回転を変速可能に出力軸33に伝達することができる。なお、
図3において太点線で示す軸心連結線Oは、入力軸31と出力軸33との軸心を結び、入力軸31と出力軸33とに直交する線である。トルク伝達接触部は、軸心連結線O上に形成される。
【0034】
押付機構35は、押付ローラ機構130、ディスククランプ機構131、押付力調整機構132及び摺動アクチュエータ133を備える。
【0035】
押付ローラ機構130は、押付ローラ140、保持部141、押付ローラシャフト142、ガイドブロック149、ガイドブロック150及びガイドブロックシャフト151を備える。
【0036】
一組の押付ローラ機構130は、プライマリディスク32及びセカンダリディスク34を挟んで両側に配置され、ガイドブロック149に取付けられる。ガイドブロック149は、ハウジング12の内周に取付けられる二つのガイドブロック150の間に取付けられ、軸心連結線O方向に延設される複数のガイドブロックシャフト151に摺動可能に取付けられる。
【0037】
ディスククランプ機構131は、
図4に示すように、フロントクランプアーム167及びリアクランプアーム168を備える。フロントクランプアーム167及びリアクランプアーム168は、それぞれ押付ローラ機構130の下側にあるガイド部146が摺動可能に取付けられる。フロントクランプアーム167及びリアクランプアーム168は、押付力調整機構132により互いにプライマリディスク32及びセカンダリディスク34を挟持する方向に移動させられることで、押付ローラ140をディスクに押し付ける。
【0038】
押付力調整機構132は、アクチュエータ190の動作により、フロントクランプアーム167及びリアクランプアーム168を互いにプライマリディスク32及びセカンダリディスク34を挟持する方向に移動させる。制御装置3からの指令信号によりアクチュエータ190を動作させることで、押付ローラ140がそれぞれディスク側に押し付けられる。これにより、プライマリディスク32とセカンダリディスク34とを弾性変形させ、これらを接触させることによりトルク伝達接触部が形成され、入力軸31の回転が出力軸33へと伝達される。
【0039】
摺動アクチュエータ133は、電動モータ134と摺動機構135とを備え、制御装置3からの指令信号により電動モータ134を動作させることで摺動機構135を進退させ、摺動機構135に連結される押付ローラ機構130を軸心連結線Oに沿って移動させる。これにより、押付ローラ機構130の押付ローラ140を軸心連結線O方向に移動させて、目標変速比に対応する位置にトルク伝達接触部を形成する。
【0040】
出力軸33のディスク部10b側の端部には、外歯出力ギヤ33aが備えられる。外歯出力ギヤ33aはホイール10に結合されるハブ15に固定される内歯ギヤ14と噛合し、内歯ギヤ14を回転させる。
【0041】
外歯出力ギヤ33aは、内歯ギヤ14の内周側にあって入力軸31と同軸に回転自在に備えられるアイドラギヤ51にも噛合する。内歯ギヤ14とアイドラギヤ51とは回転軸を同一とし、これらの間は外歯出力ギヤ33aが噛合する間隔を有する。アイドラギヤ51は、出力軸33に対して回転自在にベアリング51aを介して軸支される。
【0042】
内歯ギヤ14とアイドラギヤ51との間は、外歯出力ギヤ33aとは異なる位置に外歯出力ギヤ33aと略同形状のピニオン61aが噛合する。ピニオン61aは、カウンタ軸61のディスク部10b側に備えられる。
【0043】
出力軸33の外歯出力ギヤ33aは内歯ギヤ14の周方向等分割点の一点に備えられ、カウンタ軸61のピニオン61aは内歯ギヤ14の周方向等分割点の他点に備えられる。本実施形態では、入力軸31を中心として内歯ギヤ14の直径方向に外歯出力ギヤ33aとピニオン61aとを配置したが、さらに多くのピニオン61a及びカウンタ軸を配置してもよい。
【0044】
ハウジング12の内周側であってディスク部10b側の壁面にはベアリング17が備えられ、内歯ギヤ14は、ベアリング17に外周から回転自在に支持される。内歯ギヤ14は、ハブ15に固定される。ハブ15は、内歯ギヤ14及びベアリング17を介してハウジング12に回転自在に支持される。ホイール10のディスク部10bはボルト16を介してハブ15に結合される。
【0045】
ハブ15とハウジング12との間にはオイルシール18が備えられる。オイルシール18は、ベアリング17等から潤滑油がホイール10及びその外部へと飛散することを防止する。
【0046】
出力軸33に固定されるセカンダリディスク34には、ブレーキ装置72が備えられる。ブレーキ装置72は、セカンダリディスク34を構成するセンターディスク34a及び二つのサイドディスク34bをそれぞれ挟持することにより回転抵抗を与え、出力軸33の回転を制動する。出力軸33の回転を制動することにより車両に制動力を与える。
【0047】
ブレーキ装置72は、後述するように、運転者からの指示、例えばブレーキペダルの踏み込み量に応じて、制御装置3の指示により、油圧制御部9から供給される油圧によりホイール駆動装置1の制動力を制御する。
【0048】
このように、本実施形態のホイール駆動装置1は、モータ20の出力を、変速機構30により変速させ、変速された回転をホイール10の内方に備えられた内歯ギヤ14を介してホイール10に伝達させる構成である。このように、ホイール10への回転の伝達を内歯ギヤ14により行うことにより、ホイール10への回転を大きな減速比により伝達することができると共に、内歯ギヤ14の内径部分のスペースをホイール駆動装置1の構成部品に用いることができるので、構成部品の奥行きを扁平に形成することができて、ホイール駆動装置1のサイズ及び重量を低減することができる。
【0049】
次に、本実施形態のブレーキシステム8の構成を説明する。
【0050】
図5は、本実施形態のブレーキシステム8を示す説明図である。
【0051】
ブレーキシステム8は、制御装置3の制御により油圧制御部9からブレーキ装置72に油圧を供給することで、ホイール駆動装置1のセカンダリディスク34に制動力を付与するものである。
【0052】
制御装置3は、運転者によるブレーキペダル7の踏み込み力やパーキングロックレバー11の操作により、必要な制動力となるようにブレーキ装置72に供給する油圧を算出し、算出された油圧を油圧制御部9に指示する。油圧制御部9は、指示に基づいて、ブレーキ装置72に油圧を供給する。
【0053】
後述するように、ブレーキ装置72はブレーキ力調整油圧を供給することにより制動力が制御され、リターン油圧を供給することによりカム270とロック溝290との嵌合が解除される。油圧制御部9には切換バルブ9aが備えられており、切換バルブ9aが、ブレーキ装置72にブレーキ力調整油圧を供給するかリターン油圧を供給するかを切り換える。
【0054】
図6及び
図7は、本実施形態のブレーキ装置72の構成を示す説明図である。
図6(A)はブレーキ装置72の非制動時における構成を示す説明図であり、
図6(B)は、
図6(A)のA−A断面図である。
図7は、ブレーキ装置72の制動時における構成を示す説明図である。
【0055】
ブレーキ装置72は、ハウジング210に収装されるピストン280が油圧により進退することで、ライニング351及び中間ライニング361に挟持されるセカンダリディスク34のセンターディスク34a及びサイドディスク34bを互いに押圧して、セカンダリディスク34に制動力を付与する。
【0056】
ピストン280は、油圧室221に供給される作動油の油圧により進退する油圧ピストン250により可動する。油圧ピストン250にはアーム260が連結されており、アーム260の端部にはカム270が連結されている。油圧ピストン250の進退によりカム270が進退することにより、ピストン280が押圧される。
【0057】
ピストン280には、押圧板310及び皿バネ320が備えられる。押圧板310は、ピストン280に形成された凹部に皿バネ320を介して嵌装される。押圧板310がカム270に押圧されると、皿バネ320を圧縮するとともにピストン280が前進する。皿バネ320の圧縮による付勢力によりピストン280に固定されたライニング351がセカンダリディスク34を押圧し、セカンダリディスク34に制動力が付与される。
【0058】
油圧ピストン250には、一組のアーム260が連結されている。一組のアーム260の先端にはガイドロッド261が貫通しており、カム270はガイドロッド261を中心として回動可能に支持される。カム270は略円板形状であり、ガイドロッド261は、カム270の円板形状の中心から偏心した位置に形成された孔271を貫通する。
【0059】
ハウジング210の内部には、油圧室壁225により画成された油圧室221が形成される。油圧室221は、油圧ピストン250を境界として、ブレーキ力調整油圧室222とリターン油圧室223とから構成される。油圧ピストン250は、供給される作動油の油圧に従って、油圧室221の内部を前後進する。油圧ピストン250には作動油をシールするシール251が備えられる。ブレーキ力調整油圧室222とリターン油圧室223とには、それぞれ、ブレーキ力調整油圧供給口230とリターン油圧供給口240とが連通する。油圧制御部9から供給される作動油が、ブレーキ力調整油圧供給口230とリターン油圧供給口240とを介して各油室に供給され、各油室の油圧が制御される。
【0060】
図6(B)に示すように、ハウジング210の内部は、油圧ピストン250の進退方向と直行するA−A面で切断したときに、略長方形の空洞部221aが形成される。なお、本実施形態では、断面略長方形の空洞部としたが、油圧室221は液密性を確保し易い円筒状とするのが一般的であるので、空洞部221aの形状を油圧室221の形状と一致させるようにしてもよい。
【0061】
空洞部221aの垂直方向の内壁面には、ガイドロッド261を支持する一組の軸受溝261aが対向して形成される。軸受溝261aは、油圧ピストン250の進退方向にガイドロッド261を摺動可能に支持する。
【0062】
カム270の孔271は、カム270の円板形状中心から偏心した位置に形成される。孔271は、カム270の円板形状の中心よりも油圧ピストン250の進行方向側で、カム270の円板形状の中心よりも垂直方向の下側(ロック溝290側)に配置される。
【0063】
空洞部221aにおいて、カム270の前進方向側の底部には、カム270が嵌合可能なロック溝290が形成される。
【0064】
ロック溝290は、
図7に示すように、ブレーキ力調整油圧室222の油圧が略最大となった状態でカム270が嵌合し、カム270の動きがロックされることで、ブレーキの制動状態を維持する。
【0065】
ブレーキ力調整油圧室222の油圧を上昇させることで油圧ピストン250が制動力を付与する方向に前進する。油圧ピストン250の前進に連動してカム270が前進し、ピストン280の押圧板310を押圧する。これにより押圧板310が皿バネ320を圧縮する。圧縮された皿バネ320の付勢力により、ピストン280のライニング351がセカンダリディスク34を押圧する。
【0066】
ブレーキ力調整油圧室222の油圧を低下させると、皿バネの圧縮反力により油圧ピストン250が後退する。油圧ピストン250の後退に連動してカム270が後退し、ピストン280が押圧板310を押圧する力が減少する。これによりピストン280のライニング351がセカンダリディスク34を押圧する力が解除される。
【0067】
このようにして、ブレーキペダル7の踏み込み量に応じて制御装置3がブレーキ力調整油圧室222に供給する油圧を調整することにより、セカンダリディスク34に付与する制動力を調整できる。
【0068】
本実施形態のブレーキ装置72は、ブレーキ力調整油圧室222の油圧によらず、セカンダリディスク34の制動状態を維持することができる。
【0069】
ブレーキ力調整油圧室222の油圧を所定油圧よりも大きく(略最大値と)した場合は、油圧ピストン250が皿バネ320を圧縮して、カム270がロック溝290の位置まで到達する。カム270は、ガイドロッド261を反時計回りに回転しながら垂直方向の下側に移動し、ロック溝290に嵌合する。
【0070】
この場合、
図7に示すように、カム270がロック溝290に嵌合する。カム270がロック溝290に嵌合した場合は、皿バネ320の反発力と、カム270及びロック溝290の摩擦とが釣り合うことにより、カム270がロック溝290に係止される。カム270がロック溝290に嵌合した状態では、ブレーキ力調整油圧室222の油圧を低下させたとしてもカム270が移動せず、カム270に押圧されるピストン280がセカンダリディスク34の押圧を維持する。このようにして、ブレーキ力調整油圧を排出しても制動状態が維持される。
【0071】
図8は、本実施形態のブレーキ装置72におけるブレーキ動作を示す説明図である。
【0072】
図8において、ブレーキ力調整油圧室222のブレーキ力調整油圧をF、皿バネ320のスプリング反力をFsprg、カム270とハウジング210の内壁との摩擦をf、カム270の半径をr、カム270の中心とガイドロッド261の中心との垂直方向の距離(オフセット)をL、カム270の中心とガイドロッド261の中心との水平方向の距離(オフセット)をM、ロック溝の溝深さをΔxとする。
【0073】
図8(A)は、ブレーキ装置72が制動力を付与する状態を示す。
【0074】
車両が運転状態のとき、運転者がブレーキペダル7を踏み込んだ場合は、制御装置3は、ホイール駆動装置1に制動力を付与する。
【0075】
制御装置3は、運転者によるブレーキペダル7の踏み込み力から要求減速度を決定し、決定した要求減速度に基づいて、ホイール駆動装置1による制動力を制御する。ホイール駆動装置1にはモータ20が備えられているので、モータ20を回生動作させることにより制動力が発生する。また、ブレーキ装置72によりセカンダリディスク34に制動力を与えることによっても制動力が発生する。
【0076】
制御装置3は、エネルギー収支の効率を向上するため、モータ20を回生させることを優先する。具体的には、制御装置3は、要求減速度からモータ20を回生させた場合の制動力により発生可能な減速度を減じた差分値を算出する。算出された差分値が負であれば、モータ20の回生による減速度により要求減速度を満たすことができるので、制御装置3は、ブレーキ装置72に油圧を供給することなく、ブレーキ装置72による制動力を付与しない。
【0077】
算出された差分値が正であれば、差分値の分だけさらに減速度が必要であるため、この差分値の減速度(以降、「ブレーキ減速度」と呼ぶ)を、ブレーキ装置72による制動力により発生させる。
【0078】
この場合は、制御装置3は、ブレーキ減速度を発生させるために必要な制動力となるようにブレーキ力調整油圧室222に供給する油圧を算出し、算出された油圧を油圧制御部9に指示する。油圧制御部9は、指示に基づいて、油圧を発生し、ブレーキ力調整油圧室222に油圧を供給する。
【0079】
このとき、スプリング反力Fsprgを上回るようにブレーキ力調整油圧Fを調節することで、カム270がピストン280を押圧して、セカンダリディスク34に制動力を付与する。このようにブレーキ力調整油圧Fを調節することで、制動力を制御することができる。
【0080】
ブレーキ力調整油圧Fが増加し、所定のブレーキ力調整油圧Fmax以上となった場合、すなわち、ブレーキ装置72における所定の制動力以上となった場合は、次に説明するように、カム270がロック溝290に嵌合し、所定の制動力が維持される。所定の制動力とは、例えばブレーキ装置72が発生可能な最大の制動力とする。または、パークロックに必要な制動力であればよい。
【0081】
カム270が前進し、ロック溝290の位置に達したとき(
図8(B)参照)、ブレーキ力調整油圧Fがガイドロッド261の中心に対して加わるのに対して、スプリング反力Fsprgはカム270の中心に対して加わる。このとき、ガイドロッド261の中心にF×Lで表される反時計回りの回転モーメントが生じ、カム270がガイドロッド261を中心として反時計回りに回転する。この結果、カム270がロック溝290の側に移動し、カム270がロック溝290へ嵌合される(
図8(C))。
【0082】
カム270がロック溝290へ嵌合されたとき、カム270に働くスプリング反力Fsprgによりカム270を反時計回りに回転させようとする力(Fsprg×(L−Δx))と、ガイドロッド261を中心とする時計回りの回転モーメント(f×r)とが次式1のように釣り合う。これにより、カム270がロック溝290にロックされる。
Fsprg×(L−Δx)=f×r・・・式1
【0083】
カム270がロック溝290にロックされた状態では、ピストン280によりセカンダリディスク34に所定の制動力が維持される。
【0084】
カム270がロック溝290にロックされた場合は、ブレーキ力調整油圧Fを低下させてゼロとした場合、すなわち、油圧が排出された場合であっても所定の制動力が維持される。これを利用して、ブレーキ装置72をパーキングロックに用いることができる。
【0085】
例えば、車両が停車状態において、運転者からパーキングロックレバー11を操作することによるパーキングロックの指示があった場合に、制御装置3は、前述のようにブレーキ力調整油圧Fを所定のブレーキ力調整油圧Fmax以上となるように制御する。これにより、カム270がロック溝290にロックされる。この状態でイグニッションキーをOFFとするなど車両の制御が停止され、ブレーキ装置72に油圧が供給されなくなった場合にも、所定の制動力が維持される。
【0086】
所定の制動力の維持が必要なくなった場合、例えば運転者がパーキングロックレバー11を操作することによりパーキングロックの解除の指示があった場合は、制御装置3は、リターン油圧室223にリターン油圧Frを供給する。リターン油圧Frを供給することにより、油圧ピストン250が後退方向に移動する力が加わる。この力はアーム260を介してカム270に伝達される。
【0087】
この場合、カム270に働くスプリング反力Fsprgによりカム270を反時計回りに回転させようとする力(Fsprg×(L−Δx))に対して、ガイドロッド261にリターン油圧Frの回転方向の分力F’rが加わることにより、次式2のように力関係が変化して、カム270が時計回りに回転する(
図8(D)参照)。
Fsprg×(L−Δx)<F’r×(r−L)・・・式2
【0088】
これにより、カム270がガイドロッド261を中心として時計回りに回転し、カム270のロック溝290へのロックが解除される。
【0089】
カム270とロック溝290とのロックが解除された場合は、前述の
図8(A)で説明したように、制御装置3がブレーキ力調整油圧Fを調節することで、カム270がピストン280を押圧して、セカンダリディスク34に制動力を制御することができる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態のブレーキシステムは、ハウジング210に形成された油圧室221の油圧に基づいて前後進する油圧ピストン250と、油圧ピストン250に連結されるアーム260と、アーム260の端部に偏心して取付けられるカム270と、弾性体である皿バネ320を備え、カム270により押圧されるピストン280と、ハウジング210に形成され、カム270が嵌合するロック溝290と、油圧室221の油圧状態を制御する制御部としての制御装置3及び油圧制御部9と、を備え、制御部が油圧を上昇させることで、ピストン280に備えられるライニング351によりセカンダリディスク34を押圧して前記ディスクに制動力を与えるものである。
【0091】
本実施形態のブレーキシステムは、このような構成において、ブレーキ力調整油圧Fを所定油圧以上とした場合に、油圧ピストン250が、カム270とロック溝290とが嵌合する位置まで前進し、ブレーキ力調整油圧が前記所定油圧よりも低下した場合にも、カム270とロック溝290との嵌合状態が維持されることでセカンダリディスク34への制動力を維持するものである。
【0092】
このような構成により、ブレーキシステムは、車両を駆動するホイール駆動装置1に制動力を発生させることができる。そして、ブレーキ力調整油圧を制御してカム270とロック溝290とを嵌合させることで、セカンダリディスク34への制動力を維持するので、ブレーキ装置72を、パーキングロックとして機能させることができる。これにより、例えばイグニッションOFF後などブレーキ装置72に油圧が供給されない場合においても、パーキングロックを行うことができる。この効果は請求項1に対応する。
【0093】
本実施形態のブレーキシステムにおいて、油圧室221には、油圧ピストン250を後進方向に付勢するリターン油圧が供給されるリターン油圧室223が備えられ、リターン油圧が供給されることにより、カム270とロック溝290との嵌合状態が解除される。このような構成により、油圧によって容易に嵌合状態を解除できるので、簡易な構成によりパーキングロックとして機能させることができる。この効果は請求項2に対応する。
【0094】
本実施形態のブレーキ装置72において、運転者によりパークロックが指示された場合に、ブレーキ力調整油圧を所定油圧以上としてカム270をロック溝290に嵌合させるので、運転者の指示によりパーキングロックを行うことができる。この効果は請求項3に対応する。
【0095】
本実施形態のブレーキ装置72は、ホイール10の内方に配設されたモータ20と、モータ20に回転駆動されホイール10の回転中心軸上に配置された入力軸31と、入力軸31と平行に配置された出力軸33と、入力軸31及び出力軸33にそれぞれ固定され、入力軸31及び出力軸33の間において互いに重合するように配設された複数の円板(プライマリディスク32、セカンダリディスク34)と、円板が重合する重合領域において複数の円板を互いに押付けることで入力軸31から出力軸33へと回転を伝達する押付機構35とを備え、押付機構35が重合領域において円板の半径方向に移動することで入力軸31から出力軸33へと伝達する回転を変速可能とする摩擦駆動変速機としての変速機構30と、を備えるホイール駆動装置1に備えらる。ブレーキ装置72は、ブレーキ力調整油圧を上昇させることで、ピストンに備えられるライニングにより、出力軸33に備えられるセカンダリディスク34を押圧して制動力を与える。
【0096】
このような構成により、車両のホイール10の内方にブレーキ装置72を備えることができ、ホイール駆動装置1のサイズが大型化することがない。これにより、ホイール駆動装置1のサイズ及び重量を小さくすることができる。この効果は請求項4に対応する。
【0097】
本実施形態のブレーキ装置72は、車両に要求される要求減速度を取得し、要求減速度のうち、モータ20を回生動作させることにより発生する減速度を減じたブレーキ減速度を算出し、ブレーキ力調整油圧を上昇させてセカンダリディスク34に制動力を与えることで前記ブレーキ減速度を発生させる。このような構成により、減速時にモータ20の回生により減速度を発生させることを優先することができ、回生によるエネルギー収支の効率を向上することができる。この効果は請求項5に対応する。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0099】
本実施形態のブレーキ装置72は、ホイール駆動装置1において、摩擦駆動変速機である変速機構30の出力側のセカンダリディスク34に制動力を付与するように構成したが、これに限られない。車両の駆動輪又は従動輪とともに回転するブレーキディスクを備え、ブレーキディスクに制動力を付与する、いわゆる一般的なディスクブレーキに適用することも可能である。