特許第5926322号(P5926322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926322
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】被覆銅粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/30 20060101AFI20160516BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20160516BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20160516BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B22F9/30 Z
   B22F1/02 B
   B22F9/00 B
   B22F1/00 L
   H01B13/00 501Z
   H01B5/00 E
   H01B1/22 A
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-112794(P2014-112794)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-227476(P2015-227476A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2015年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】福本 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−032558(JP,A)
【文献】 特開2008−013466(JP,A)
【文献】 特開2013−047365(JP,A)
【文献】 特開2009−082828(JP,A)
【文献】 特開2011−032509(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053456(WO,A1)
【文献】 特開2004−273446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
B22F 9/30
B22F 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸銅、アミノアルコール、炭素数が5以上の脂肪族基を有する脂肪族カルボン酸及び溶媒を含む反応液を得ることと、
反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銅を生成することと、を含み、
アミノアルコールと溶媒とのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子の製造方法。
【請求項2】
アミノアルコールのSP値が11.0以上である、請求項1に記載の被覆銅粒子の製造方法。
【請求項3】
熱分解処理の温度が100℃〜130℃である、請求項1又は2に記載の被覆銅粒子の製造方法。
【請求項4】
溶媒が、水と共沸混合物を形成し得る有機溶剤を含み、熱分解処理が生成する水を共沸により除去することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆銅粒子の製造方法。
【請求項5】
脂肪族カルボン酸の脂肪族基の炭素数が5〜17である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆銅粒子の製造方法。
【請求項6】
反応液中の銅イオン濃度が1.0〜2.5モル/リットルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆銅粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆銅粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器関連分野において、配線や保護膜等の光露光によるパターニングを必要とせずにミクロンクラスの微細配線をインクジェットや印刷法で直接形成させるプリンタブルエレクトロニクスと呼ばれる技術分野が注目されている。当初は、金や銀などの微粒子が中心であったが、金はコストの問題があり、銀はエレクトロマイグレーションの問題及び硫化ガス等による腐食などの耐蝕性に課題がある。これらの問題点を解決する手段として銅系材料が注目されている。銅系材料は、金や銀と同様に高い導電性を示し、エレクトロマイグレーションは銀と比較すると数段優れており、耐蝕性にも優れている。
【0003】
貴金属である金や銀は比較的酸化を受けがたい特性を有しており、そのため、微粒子分散液を作製した際、含有される金属微粒子をその表面に酸化皮膜を形成しないで維持することが容易である。それに対して銅は、比較的酸化されやすい特性を有しており、特に粒子径が200nm以下の微細な銅微粒子となるとサイズ効果と比表面積の関係で、その傾向はさらに顕著なものとなり、微粒子分散液を調整した際、含有される微粒子は、短時間でその表面は酸化膜で覆われた状態になり、更に経時的に酸化皮膜の厚みも増し、微粒子の粒子径の大半が酸化銅の表面酸化皮膜層へと変換されることも少なくない。また、200nm以下の銅微粒子の場合、粒子表面の活性が非常に高い状態になっており、窒素ガス等の不活性雰囲気下又は真空条件下において加熱焼成する方法においても、雰囲気に存在する微量の酸素で酸化が進行して、微粒子同士の焼結が阻害されることがある。さらには、焼成中の表面酸化皮膜層の増大は、焼成の最終段階で水素ガス等を用いて還元焼成を行う場合、還元時の体積収縮を大きくし、焼成密度の低下につながることがある。
【0004】
一方、金属微粒子の技術が着目される理由のひとつにサイズ効果による融点降下がある。サイズ効果による融点降下は、金を例にとると融点は1,064℃だが、粒子径が2nmとなると約300℃となり、融点が電子材料等で使用可能な温度まで低下する。しかし、粒子径が20nmを超えると融点降下はほとんど認められないことが報告されている。したがって粒子径が2nm程度のシングルナノサイズであれば融点降下が十分期待できるが、銅の場合、酸化を防止する表面保護剤が必須であり、微粒子の比表面積の関係から表面保護剤の必要量は銅の体積の数倍以上となり、焼結時の大幅な体積収縮を引き起こし、高密度な焼結体を得ることが困難となる。これに対して、焼結段階において還元雰囲気下で金属酸化物よりシングルナノサイズの粒子を生成せしめて、サイズ効果による融点降下を利用して300℃〜400℃程度の温度で焼結を行う方法が知られている。また、ハンダのフラックス効果と同様に微粒子表面を覆っている酸化膜を有機カルボン酸等のフラックス剤で除去して、還元金属表面を露出させ、焼結する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
更に、銅微粒子をプリンタブルエレクトロニクスに適用する場合、最終的にはペースト化して供給するために単分散の粒子を作製し、分散安定性の良好な銅ペースト材にすることが求められている。粒子径を揃えた金属や金属酸化物微粒子を製造する方法として、いくつかの提案がなされている。微粒子を液相合成する場合、金属核となる溶質の溶解度と時間の関係を表したLaMerモデルで論じられることが多い。それによると溶解度の低い金属核の生成速度が速すぎると凝集機構で粒子成長が起こるため結晶核の成長が不十分な凝集体粒子となり、好ましくない。この対策として、溶質である金属核の生成速度をコントロールする方法が考案されている。例えば、粒子生成に必要な物質をリザーバー(固体あるいは金属キレート)から徐々に放出させることにより、溶液の過飽和度を制御し、粒子成長中の新たな核生成を抑制することにより、核生成期と粒子成長期を分離してごく初期に生成した核のみが成長することで単分散の粒子が作製出来るようになる。粒子成長中に溶質を供給するリザーバーの選択方法として、溶解度または溶解速度の十分に低い固体または錯化合物が選択される。
【0006】
上記に関連して、ギ酸銅から誘導される錯化合物を熱分解して銅微粒子を製造する技術が知られている。ギ酸銅の分解温度は、約220℃であるが、錯体構造とすることで分解温度を低下させることができる。例えば、特許文献1では、二座配位子として機能するアミノアルコールの錯化合物を用いて100℃、特許文献2、3では、一座配位子として機能する脂肪族アミンの錯化合物を用いて120℃で熱分解させて金属微粒子を製造する方法が提案されている。
【0007】
更に、界面活性剤を利用したマイクロ反応場で成長核に取り込まれる金属核を制限することで粒子径を制御する方法も考案されている。例えば、界面活性剤によって有機溶媒中に安定に分散したナノサイズの水滴を反応場として利用する逆ミセル法による金属や金属酸化物微粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−032558号公報
【特許文献2】特開2008−013466号公報
【特許文献3】特開2008−031104号公報
【特許文献4】特開2013−047365号公報
【特許文献5】特開平08−143916号公報
【特許文献6】特開2009−082828号公報
【特許文献7】特許第3900414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、錯化合物の分解温度が低すぎるため、分解時の発熱で加速度的に大量の金属核が生成し、また反応溶液中に含有される銅濃度が1.0〜2.4mol/Lと比較的高濃度のため、凝集機構で粒子成長が起こりやすく粗大粒子が生成することで収量が低くなりやすい。
また、特許文献2、3に記載の技術では、ギ酸銅錯体を構成する脂肪族アミンは、金属微粒子の分散保護剤の役割を同時に果たす為、粒子成長が起こりにくく、20nmからサブミクロンの粒子径を有する銅粒子を製造することは困難である。
【0010】
更に、特許文献4に記載の技術では、溶解度の低い酸化銅などの固体の銅化合物をリザーバーとして用いて有機カルボン酸で部分的に溶解しつつ、還元を行うために核の生成速度が制限され、特許文献1のような溶解系と比較して、核の成長段階での凝集は起こりにくくなる。しかし、凝集は制御できても核の生成している時間が長く、また被覆しているカルボン酸の炭素鎖が短く、十分な粒子間反発を得ることが出来ないため、粒度分布が揃った粒子を製造することが困難であり、また表面が酸化された銅粒子となりやすい。
【0011】
特許文献5〜7に記載の逆ミセル法では、多量の界面活性剤を使用してミセルを安定化しているため、反応中のミセルは大きさが一定に保たれる半面、反応場の大きさが制約されるため、20nm以上の粒子を製造するのは困難である。更に、逆ミセル法は銅化合物の反応液中の濃度を高くすることが困難で、大量の粒子を製造するには、不向きである。
【0012】
本発明は、以上の事情を鑑み、従来技術の問題点を解消し、従来技術では達成困難であった、優れた耐酸化性と焼結性とを併せ持つ被覆銅粒子及び低い熱処理温度、低酸素環境においてその被覆銅粒子を得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく検討した結果、反応液に含まれる溶媒と錯化剤であるアミノアルコールのSP値を適切に設定することで、反応初期においては均一系であるが、反応中盤で二層分離構造を形成するように反応系を構成することができ、これにより効率的に高品質の被覆銅粒子が製造できることを見出した。
【0014】
本発明は、以下の態様を包含する。
(1) ギ酸銅、アミノアルコール、炭素数が5以上の脂肪族基を有する脂肪族カルボン及び溶媒を含む反応液を得ることと、反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銅を生成することと、を含み、アミノアルコールと溶媒とのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子の製造方法である。
(2) アミノアルコールのSP値が11.0以上である、(1)に記載の被覆銅粒子の製造方法である。
(3) 熱分解処理の温度が100℃〜130℃である、(1)又は(2)に記載の被覆銅粒子の製造方法である。
(4) 溶媒が、水と共沸混合物を形成し得る有機溶剤を含み、熱分解処理が生成する水の少なくとも一部を共沸により除去することを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法である。
(5) 脂肪族カルボン酸の脂肪族基部分の炭素数が5〜17である、(1)〜(4)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法である。
(6) 反応液中の銅イオン濃度が1.0〜2.5モル/リットルである、(1)〜(5)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法である。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法で得られ、SEM観察による平均一次粒子径DSEMが0.02〜0.2μmであり、粒度分布の変動係数(標準偏差SD/平均一次粒子径DSEM)の値が0.1〜0.5である被覆銅粒子である。
(8) (1)〜(6)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法で得られ、粉体X線解析から求まる結晶粒子径DXRDのSEM観察による平均一次粒子径DSEMに対する比DXRD/DSEMが0.25〜1.00である被覆銅粒子である。
(9) (1)〜(6)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法で得られる被覆銅粒子と媒体とを含むスクリーン印刷用の導電性組成物である。
(10) (1)〜(6)のいずれかに記載の被覆銅粒子の製造方法で得られる被覆銅粒子と媒体とを含むインクジェット印刷用の導電性組成物である。
(11) 基材と、基材上に配置された(9)又は(10)に記載の導電性組成物の熱処理物である配線パターンとを備える回路形成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来技術では達成困難であった、優れた耐酸化性と焼結性とを併せ持つ被覆銅粒子及び低い熱処理温度、低酸素環境においてその被覆銅粒子を得ることができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1-1】実施例1で作製した被覆銅粒子を合成直後に測定したXRDデータである。
図1-2】実施例1で作製した被覆銅粒子を粉体の状態で大気中、25℃で4ヶ月保管後に測定したXRDデータである。
図2-1】実施例1で作製した被覆銅粒子のTof−SIMS分析の結果であり、Negative分析結果を示している。
図2-2】実施例1で作製した被覆銅粒子のTof−SIMS分析の結果であり、Negative分析結果を部分拡大して示している。
図3】実施例1で作製した被覆銅粒子のTG−DTA分析データである。
図4】実施例1の合成中の反応温度とガス発生総量をプロットしたデータである。
図5】実施例1の合成中に流出した留分のFT−IR分析データである。
図6】参考例2で作製した被覆銅粒子のXRDデータである。
図7】実施例1で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図8】実施例2で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図9】実施例4で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図10】比較例1で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図11】比較例2で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図12】比較例3で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図13】比較例4で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図14】比較例5で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図15】実施例5で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図16-1】実施例6で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図16-2】実施例6で作製した被覆銅粒子の拡大SEM観察画像である。
図17-1】実施例7で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図17-2】実施例7で作製した被覆銅粒子の拡大SEM観察画像である。
図18-1】実施例8で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図18-2】実施例8で作製した被覆銅粒子の拡大SEM観察画像である。
図19-1】実施例9で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図19-2】実施例9で作製した被覆銅粒子の拡大SEM観察画像である。
図20-1】実施例1で作製した被覆銅粒子の拡大SEM観察画像である。
図20-2】実施例1で作製した被覆銅粒子の粒度分布測定データである。
図21】比較例6で作製した被覆銅粒子のXRDデータである。
図22】比較例7で作製した被覆銅粒子のXRDデータである。
図23-1】比較例6で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図23-2】比較例6で作製した被覆銅粒子をペースト化して窒素雰囲気で500℃、1時間で焼成した焼結膜のSEM観察画像である。
図24-1】実施例1で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図24-2】実施例1で作製した被覆銅粒子をペースト化した銅ペーストAを窒素雰囲気で350℃、1時間で焼成した焼結膜のSEM観察画像である。
図25】銅ペーストA焼成膜の断面SEM画像である。
図26-1】比較例7で作製した被覆銅粒子のSEM観察画像である。
図26-2】比較例7で作製した被覆銅粒子をペースト化した銅ペーストBを窒素雰囲気で350℃、1時間で焼成した焼結膜のSEM観察画像である。
図27】銅ペーストC焼成膜の断面SEM画像である。
図28】試験例2のXPS最表面組成分析データである。
図29】試験例3のXPS最表面組成分析データである。
図30】試験例2のXPS−DepthProfile組成分析データである。
図31】試験例3のXPS−DepthProfile組成分析データである
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
<被覆銅粒子の製造方法>
本実施形態の被覆銅粒子の製造方法は、ギ酸銅、アミノアルコール、炭素数が5以上の脂肪族基を有する脂肪族カルボン及び溶媒を含む反応液を得ることと、反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銅を生成することと、を含み、アミノアルコールと溶媒とのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子の製造方法である。
【0019】
ギ酸銅を出発原料とし、液相中においてギ酸銅錯体の熱分解還元反応を進行させ、反応の進行に伴ってギ酸銅錯体から反応溶媒中にこれと相溶しないアミノアルコールが放出されることでWater−in−Oil Emulsion類似の新たな反応場を形成し、その中で継続的に銅の金属核を発生しつつ、核成長反応が進行することにより耐酸化性と焼結性に優れ、粒子径が制御されて粒度の揃った還元銅粒子が生成される。またギ酸銅錯体の熱分解速度が適切に制御されることで、溶質の供給が制御される。これにより金属核の成長が制御されて、より粒度の揃った還元銅粒子が生成される。
更に液相中に脂肪族カルボン酸が存在することで、物理吸着により脂肪族カルボン酸が生成した還元銅粒子を高密度に被覆する。こうして製造される被覆銅粒子は、酸化膜がほとんどない還元銅粒子で構成され、その表面を物理吸着により脂肪族カルボン酸が被覆しているため、耐酸化性と焼結性のバランスに優れている。これにより、被覆銅粒子の焼成工程において、銅粒子を被覆している有機保護剤である脂肪族カルボン酸が400℃以下の温度で除去され、水素ガスなどの還元雰囲気を用いるまでもなく、窒素置換等の手段で達成し得る低酸素雰囲気において、被覆銅粒子同士の焼結を行うことができる。このため、焼結に還元性雰囲気を必要とする従来の銅粒子では、適用が困難であった部位、例えば、水素脆化や水素との反応による変質が問題となる部位にも効果的に使用することができる。また、窒素置換リフロー炉などの既存の設備を利用して焼結させることができて、経済性の点においても優れる。
【0020】
本実施形態の被覆銅粒子の製造方法に用いられる反応液は、ギ酸銅と、少なくとも1種のアミノアルコールと、少なくとも1種の炭素数が5以上の脂肪族基を有する脂肪族カルボン酸と、溶媒とを含む。反応液は、必要に応じてその他の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0021】
(ギ酸銅)
ギ酸銅は2価の銅イオンと銅イオン1モルに対して2モルのギ酸イオンとから構成される。ギ酸銅は無水物であっても、水和物であってもよい。また、ギ酸銅は市販品を用いてもよく、新たに調製したものを用いてもよい。
ギ酸銅を熱分解して還元銅の微粒子を得る方法は、例えば、特公昭61−19682号公報などに開示されている。ギ酸は、通常のカルボン酸と異なり、還元性を有するので、ギ酸銅を熱分解すると2価の銅イオンを還元することができる。例えば、無水ギ酸銅は、不活性ガス中で加熱すると210℃〜250℃で熱分解して金属銅を生成することが知られている。
【0022】
反応液中のギ酸銅の含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。反応液中のギ酸銅の含有量は、例えば、製造効率の観点から、1.0〜2.5モル/リットルであることが好ましく、1.5〜2.5モル/リットルであることがより好ましく、2.0〜2.5モル/リットルであることが特に好ましい。
【0023】
(アミノアルコール)
アミノアルコールは、少なくとも1つのアミノ基を有するアルコール化合物であって、ギ酸銅と錯化合物を形成可能であれば特に制限されない。反応液中にアミノアルコールが存在することで、ギ酸銅から錯化合物が生成し、溶媒に可溶化することができる。
アミノアルコールは、モノアミノモノアルコール化合物であることが好ましく、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール化合物であることがより好ましい。またアミノアルコールは、単座配位性のモノアミノモノアルコール化合物であることもまた好ましい。
【0024】
アミノアルコールの沸点は特に制限されないが、熱分解処理の反応温度よりも、高いことが好ましい。具体的にはアミノアルコールの沸点は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。沸点の上限値は特に制限されず、例えば、400℃以下であり、300℃以下であることが好ましい。
【0025】
更にアミノアルコールは、極性の観点から、SP値が11.0以上であることが好ましく、12.0以上であることがより好ましく、13.0以上であることが更に好ましい。アミノアルコールのSP値の上限値は特に制限されず、例えば18.0以下であり、17.0以下であることが好ましい。
【0026】
ここでSP値とは、Hildebrandの定義によると、25℃における試料1mLあたりの分子間結合エネルギーEの平方根である。SP値の計算方法は『公益社団法人石油学会ホームページ』に記載される方法(http://sekiyu-gakkai.or.jp/jp/dictionary/petdicsolvent.html#solubility2)を採用した。具体的には以下のようにして算出される。
分子間結合エネルギーEは蒸発潜熱から気体エネルギーを差し引いた値である。蒸発潜熱Hbは、試料の沸点Tbとして下式で与えられる。
Hb = 21×(273+Tb)
このHb値から25℃におけるモル蒸発潜熱H25が下式で求められる。
25 = Hb×[1+0.175×(Tb−25)/100]
モル蒸発潜熱H25から分子間結合エネルギーEが下式より求められる。
E = H25−596
分子間結合エネルギーEから試料1mLあたりの分子間結合エネルギーEが下式により求められる。
= E×D/Mw
ここで、Dは試料の密度、Mwは試料の分子量であり、EよりSP値が下式により求められる。
SP =(E1/2
なお、OH基を含む溶剤は、OH基1基につき+1の補正が必要である。
〔例えば、三菱石油技資、No.42,p3,p11(1989)参照〕
【0027】
アミノアルコールとして具体的には、2−アミノエタノール(沸点:170℃、SP値:14.54)、3−アミノ−1−プロパノール(沸点:187℃、SP値:13.45)、5−アミノ−1−ペンタノール(沸点:245℃、SP値:12.78)、DL−1−アミノ−2−プロパノール(沸点:160℃、SP値:12.74)、N−メチルジエタノールアミン(沸点:247℃、SP値:13.26)等が例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
アミノアルコールは1種単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。
反応液におけるアミノアルコールの含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。アミノアルコールの含有量は、例えば、反応液中の銅イオンに対して1.5〜4.0倍モルの範囲が好ましく、1.5〜3.0倍モルの範囲がより好ましい。アミノアルコールの含有量が銅イオンに対して1.5倍モル以上であるとギ酸銅の溶解性が充分に得られ、反応に要する時間を短縮することができる。また4.0倍モル以下であると生成する被覆銅粒子の汚染を抑制することができる。
【0029】
(脂肪族カルボン酸)
脂肪族カルボン酸は、脂肪族基の炭素数が5以上の長鎖の脂肪族カルボン酸であれば特に制限されない。脂肪族基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよく、また飽和脂肪族基及び不飽和脂肪族基のいずれであってもよい。脂肪族基の炭素数は5以上であるが、5以上17以下であることが好ましく、7以上17以下であることがより好ましい。脂肪族基の炭素数が5以上であると、粒度分布の指標となる変動率が小さくなる傾向がある。これは例えば、炭素鎖の長さが会合力を左右するファンデルワールス力の大きさと相関性が高いことで説明できる。すなわち、炭素鎖の長いカルボン酸は、会合力が強く、ミクロ反応場であるWater−in−oil Emulsion類似の相安定化に寄与することで粒子径の揃った銅粒子を効率よく製造できると考えられる。
【0030】
また、脂肪族カルボン酸の沸点は、熱分解処理の温度よりも高いことが好ましい。具体的に脂肪族カルボン酸の沸点は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。沸点の上限値は特に制限されず、例えば、400℃以下である。沸点が400℃以下であると、被覆銅粒子の焼結性がより向上する傾向がある。
【0031】
脂肪族カルボン酸として具体的には、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、オクタン酸等が例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
脂肪族カルボン酸は1種単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。
反応液における脂肪族カルボン酸の含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。脂肪族カルボン酸の含有量は、例えば、反応液中の銅イオンに対して2.5〜25モル%の範囲が好ましく、5.0〜15モル%の範囲がより好ましい。脂肪族カルボン酸の含有量が銅イオンに対して25モル%以下であると反応系の粘度上昇を抑制できる傾向がある。また脂肪族カルボン酸の含有量が銅イオンに対して2.5モル%以上であると、充分な反応速度が得られ生産性が向上する傾向があり、粒度分布の指標となる変動率が小さくなる傾向がある。
【0033】
(溶媒)
反応液を構成する溶媒は、ギ酸による還元反応を過度に阻害せず、アミノアルコールとのSP値の差であるΔSP値が4.2以上となるように選択される限り特に制限はなく、通常用いられる有機溶剤から適宜選択することができる。
アミノアルコールのSP値と溶媒のSP値との差であるΔSP値が4.2以上であると、形成される被覆銅粒子の粒度分布の幅が狭い、粒子径の揃った被覆銅粒子が得られる。
【0034】
ΔSP値は4.2以上であり、反応場の形成性と被覆銅粒子の品質の観点から4.5以上が好ましく、5.0以上がより好ましい。ΔSP値の上限は特に制限されず、例えばΔSP値は11.0以下であり、10.0以下が好ましい。
溶媒のSP値は、ΔSP値が4.2以上となるように選択されるが、溶媒のSP値は、アミノアルコールよりも小さいことが好ましい。溶媒のSP値は11.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましい。溶媒のSP値の下限は特に制限されず、例えば溶媒のSP値は、7.0以上であることが好ましい。
【0035】
また、溶媒の沸点は、熱分解処理の温度よりも高いことが好ましい。具体的に溶媒の沸点は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。沸点の上限値は特に制限されず、例えば、沸点は400℃以下であり、300℃以下であることが好ましい。
さらに溶媒は、水と共沸混合物を形成可能な有機溶剤であることもまた好ましい。水と共沸混合物を形成可能であると、熱分解処理によって反応液中に生成した水を容易に反応系から除去することができる。
【0036】
溶媒として具体的には、エチルシクロへキサン(沸点:132℃、SP値:8.18)、C9系シクロへキサン[丸善石油製、商品名:スワクリーン#150](沸点:149℃、SP値:7.99)、n−オクタン(沸点:125℃、SP値:7.54)等が例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
溶媒は1種単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。
【0037】
溶媒が2種以上の組合せである場合、アミノアルコールと相溶しない主溶剤と、アミノアルコールと相溶可能な補助溶剤とを含むことが好ましい。主溶剤の具体例は既述のとおりである。
補助溶剤の沸点の好ましい態様は、主溶剤と同様である。補助溶剤のSP値は主溶剤をよりも大きいことが好ましく、アミノアルコールと相溶する程度に大きいことがより好ましい。補助溶剤の具体例としては、EO系グリコールエーテル、PO系グリコールエーテル、ジアルキルグリコールエーテルなどのグリコールエーテルを挙げることができる。より具体的には、メチルジグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール等のEO系グリコールエーテル;メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール等のPO系グリコールエーテル、ジメチルジグリコール等のジアルキルグリコールエーテルなどを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、これらの補助溶剤は、いずれも日本乳化剤(株)等より入手可能である。
【0038】
溶媒が2種以上の組合せである場合、溶媒のSP値は、溶媒に含まれるそれぞれの溶媒のSP値とモル容積とを考慮した平均SP値として算出される。具体的に平均SP値は、溶媒が溶媒1と溶媒2との2種からなる場合、下式により算出される。
δ=〔V×δ+V×δ〕/(V+V
δ:混合溶媒の平均SP値、δ:溶媒1のSP値、V:溶媒1のモル容積、
δ:溶媒2のSP値、V:溶媒2のモル容積
【0039】
反応液に含まれる溶媒量は、銅イオンの濃度が1.0〜2.5モル/リットルとなるように選択されることが好ましく、1.5〜2.5モル/リットルとなるように選択されることがより好ましい。反応液中の銅イオン濃度が1.0モル/リットル以上であると、生産性がより向上し、2.5モル/リットル以下であると、反応液の粘度の上昇が抑制され、良好な撹拌性が得られる。
【0040】
(錯化合物)
ギ酸銅、アミノアルコール、長鎖脂肪族カルボン及び溶媒を含む反応液からは、ギ酸銅に由来する錯化合物が生成する。錯化合物の構造は特に限定されず、1種のみからなっていてもよく、2種以上を含んでいてもよい。また、錯化合物は、熱分解処理の進行に伴い、その構成が変化してもよい。すなわち、熱分解処理の初期において主として存在する錯化合物と、熱分解処理の後期において主として存在する錯化合物は互いに構成が異なるものであってもよい。
【0041】
反応液中に生成する錯化合物としては、銅イオンと配位子としてのギ酸イオン及びアミノアルコールを含むことが好ましい。配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する。
反応液中に生成する錯化合物として具体的には、1個の銅イオンに2分子のギ酸イオンと2分子のアミノアルコールとが配位した錯化合物、1個の銅イオンに1分子のギ酸イオンと1分子の脂肪族カルボン酸と2分子のアミノアルコールとが配位した錯化合物等が挙げられる。
【0042】
反応液中に生成した錯化合物は、熱分解処理によって金属銅を生成する。熱分解処理の温度は錯化合物の構造等に応じて適宜選択すればよい。一般に、ギ酸銅の熱分解温度は約220℃であるが、ギ酸銅がアミノアルコールとともに錯化合物を形成することで、例えば、特開2008-013466号公報等に記載されているように、その熱分解温度は110〜120℃程度となると考えられる。したがって、熱分解処理の温度は100〜130℃であることが好ましく、110〜130℃であることがより好ましい。熱分解処理の温度が130℃以下であると、脂肪族カルボン酸とアミノアルコールとの脱水反応による酸アミドの生成が抑制され、得られる被覆銅粒子の洗浄性が向上する傾向がある。
【0043】
錯化合物の熱分解処理により金属銅が生成し、生成した金属銅の表面に反応液中に存在する脂肪族カルボン酸が吸着することで、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子を得ることができる。金属銅の表面への脂肪族カルボン酸の吸着は、物理吸着であることが好ましい。これにより被覆銅粒子の焼結性が向上する。錯化合物の熱分解処理において酸化銅の生成を抑制することで、脂肪族カルボン酸の物理吸着が促進される。
【0044】
熱分解処理においては、錯化合物の熱分解反応に伴って生成する水の少なくとも一部を除去することが好ましい。熱分解処理において水の除去を行うことで、酸化銅の生成をより効率的に抑制することができる。
水の除去方法は特に制限されず、通常用いられる水分除去方法から適宜選択することができる。例えば、溶媒として水と共沸混合物を形成し得る有機溶剤を用いて、共沸により生成する水を除去することが好ましい。
【0045】
熱分解処理の時間は、熱分解処理の温度等に応じて適宜選択すればよい。例えば30〜180分間とすることができる。また熱分解処理の雰囲気は、窒素雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0046】
被覆銅粒子の製造方法において、生成する被覆銅粒子の粒度分布を制御する因子としては、例えば、脂肪族カルボン酸の種類と添加量、ギ酸銅錯体の濃度及び混合溶媒の比率(主溶剤/補助溶剤)等で決定される。被覆銅粒子の大きさを制御する因子は、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
【0047】
被覆銅粒子の製造方法は、ギ酸銅、アミノアルコール、脂肪族カルボン及び溶媒を含む反応液を調製し、所望の温度で熱分解処理を行うという容易な操作で、粒子径が揃い、耐酸化性と焼結性に優れる被覆銅粒子を効率的に製造することができる。
【0048】
被覆銅粒子の製造方法においては、粒度分布が狭い被覆銅粒子が得られる。これは、例えば、以下のように考えることができる。
すなわち、ギ酸銅を反応溶媒に可溶化するための錯化剤としてのアミノアルコールと溶媒とのSP値の差であるΔSP値を4.2以上とすることで、ギ酸銅アミノアルコール錯体又はギ酸の1分子が脂肪族カルボン酸で置換されたギ酸銅アミノアルコール錯体の状態では、溶解しているが、錯体が熱分解されて錯化剤であるアミノアルコールが遊離すると、遊離したアミノアルコールは溶媒とは相溶できず、2相を形成し始める。そして、遊離されたアミノアルコールは、ギ酸銅やギ酸銅アミノアルコール錯体と親和性が高く、ギ酸銅の新たなる錯化剤又は溶剤として振る舞い、極性の高い内核(液滴)を形成し、外側を極性の低い溶媒が取り囲むWater in oil Emulsion類似の2相構造を取るようになり、これがマイクロ反応場として機能すると推定される。
さらに反応系中の水も脂肪族カルボン酸の置換で脱離したギ酸もこのマイクロ反応場に存在している。マイクロ反応場の中に金属核、その成長粒子及び金属核の発生源であるギ酸銅アミノアルコール錯体、ギ酸の1分子が脂肪族カルボン酸で置換されたギ酸銅アミノアルコール錯体、水及びギ酸が隔離されて反応が進行する。脂肪族カルボン酸が金属銅成長粒子の被覆材として固定化され、減少するにつれて反応初期ではギ酸銅錯体の熱分解機構が後述する反応式1〜3で進行していたものが、次第に反応式4の機構で進行するようになり、発生ガス成分が変化してくる。マイクロ反応場では、反応式5に示す水によるギ酸銅アミノアルコール錯体の加水分解でCuOが生成するが、反応式6又は反応式7を経由して再び還元されるため、亜酸化銅や酸化銅を含まない銅粒子が製造可能となっている。また、マイクロ反応場に含まれる銅原子数が限定されているため、銅粒子の粒子径は一定に制御される。
そして、マイクロ反応場に、表面に酸化銅が形成されていない銅粒子が生成するため、マイクロ反応場に存在する脂肪族カルボン酸が物理吸着しやすくなり、粒子径が揃い、耐酸化性と焼結性に優れる被覆銅粒子が効率的に得られると考えることができる。
【0049】
被覆銅粒子の製造方法は、熱分解処理後に、被覆銅粒子の洗浄工程、分離工程、乾燥工程等を更に有していてもよい。被覆銅粒子の洗浄工程としては、例えば、有機溶剤による洗浄工程を挙げることができる。洗浄工程に用いる有機溶剤としては、メタノール等のアルコール溶剤、アセトン等のケトン溶剤などを挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
<被覆銅粒子>
本実施形態の被覆銅粒子は、既述の被覆銅粒子の製造方法で製造され、SEM観察による平均一次粒子径DSEMが0.02〜0.2μmであり、粒度分布の変動係数(標準偏差SD/平均一次粒子径DSEM)の値が0.1〜0.5である。
既述の被覆銅粒子の製造方法で製造されていることで、粒度分布の変動係数が小さく、粒子径の揃った状態となる。被覆銅粒子の粒度分布の変動係数が小さいことで、分散性に優れ、高濃度の分散物を作製できるという効果が得られる。
【0051】
また、本実施形態の被覆銅粒子は、既述の被覆銅粒子の製造方法で得られ、粉体X線解析から求まる結晶粒子径DXRDのSEM観察による平均一次粒子径DSEMに対する比DXRD/DSEMが0.25〜1.00である。既述の被覆銅粒子の製造方法で製造されていることで、結晶粒子径と平均一次粒子径の差を小さくすることができる。これにより、耐酸化性に優れ、その結果から焼結性が向上するという効果が得られる。
【0052】
本実施形態の被覆銅粒子は、既述の被覆銅粒子の製造方法で得られることにより、銅粒子の表面が脂肪族カルボン酸で被覆されている。銅粒子を被覆する脂肪族カルボン酸は、銅粒子の表面に局在して酸化や凝集を抑制する被覆材であり、焼結時に粒子表面から除去され、さらに焼結温度以下で分解又は揮発するため焼結により形成される銅皮膜中への残存が抑制される。これは例えば、脂肪族カルボン酸が、銅粒子の表面に物理吸着しているためと考えられる。また被覆銅粒子を構成する銅粒子は、粒子径が揃っているため、分散性に優れる。更に銅粒子を構成する結晶子径とSEM観察径の差が小さいため、被覆銅粒子が複数の銅粒子の凝集で粒子を構成されておらず、凝集粒子境界部に被覆材や不純物、酸化層などが存在して、焼結を阻害することが抑制される。
【0053】
<導電性組成物>
本実施形態の導電性組成物は、既述の被覆銅粒子の製造方法で得られる同被覆粒子の少なくとも1種と、媒体とを含む。導電性組成物は、配線パターン形成に好適に用いることができ、低温で、導電性に優れる配線パターンを容易に形成することができる。
【0054】
導電性組成物に含まれる媒体の構成は、導電性組成物の目的等に応じて適宜選択することができる。
例えば、導電性組成物がスクリーン印刷用である場合、媒体としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール系溶剤、セロソルブ、セロソルブアセテート系溶剤等を挙げることができる。
また、スクリーン印刷用の導電性組成物の固形分濃度は、例えば、40〜95質量%とすることができる。ここで導電性組成物の固形分とは不揮発性成分の総量を意味する。
【0055】
また例えば、導電性組成物がインクジェット印刷用である場合、媒体としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール系溶剤、セロソルブ、セロソルブアセテート系溶剤等を挙げることができる。
インクジェット印刷用の導電性組成物の固形分濃度は、例えば、40〜90質量%とすることができる。
【0056】
導電性組成物は、被覆銅粒子及び媒体に加えて、必要に応じてその他の添加剤を更に含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤、ポリエステル系分散剤、ポリアクリル酸系分散剤等の分散剤などを挙げることができる。
【0057】
<回路形成物>
本実施形態の回路形成物は、基材と、基材上に配置される上記導電性組成物の熱処理物である配線パターンとを備える。配線パターンが上記導電性組成物から形成されることで、配線パターンの導電性に優れる。また低温で配線パターンを形成することができるため、基材の選択肢の自由度大きい。
【0058】
基材の材質としては、例えば、ポリイミドフィルム、ガラス、セラミックス、金属等を挙げることができる。基材の厚みは特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。基材の厚みは例えば0.01〜5mmとすることができる。
【0059】
配線パターンの形成は、例えば、基材上に導電性組成物を所望のパターンとなるように付与し、付与された導電性組成物を熱処理することで行うことができる。導電性組成物を用いることで、所望のパターンを有し、導電性に優れる配線パターンを、効率よく低温で形成することができる。
すなわち、回路形成物は、例えば、基材を準備する工程と、基材上に導電性組成物を付与する工程と、導電性組成物を熱処理する工程とを含む製造方法で製造できる。
【0060】
導電性組成物の付与方法は特に制限されず、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンス法等で行うことができる。導電性組成物の付与量は目的等に応じて適宜選択でき、例えば、熱処理後の厚みが1〜100μmとなるようにすることができる。
【0061】
導電性組成物の熱処理の温度は、例えば200〜600℃とすることができ、250〜450℃であることが好ましい。
熱処理の時間は、例えば1〜120分間とすることができ、5〜60分間であることが好ましい。
熱処理の雰囲気は、低酸素雰囲気であることが好ましい。低酸素雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等を挙げることができる。また酸素濃度が1,000ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例で用いた試験方法の詳細を以下に示す。
<平均一次粒子径及び変動率の計算>
測定装置:日本電子製FE−EPMA JXA−8510F
平均一次粒子径:サンプル20点の平均値
変動率:サンプル20点の標準偏差/平均値で計算される値
【0064】
<SEM観察画像>
測定装置:日本電子製FE−EPMA JXA−8510F
測定条件:加速電圧 6KV又は15KV
観察倍率 ×10,000〜×75,000
【0065】
<粉体X線回折(XRD)の測定>
測定器:島津製 XRD−6100
測定条件:ターゲット Cu
管電圧 40KV、管電流 30.0mA
【0066】
<Tof−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析装置)の測定>
測定器;ULVAC−PHI製 PHI TRIFT IV型
測定条件:1次イオン種 Au、加速電圧 30KV
【0067】
<TG−DTA測定> 有機残分及び金属含有量の測定
測定装置:リガク製 TG8120
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25℃〜600℃
測定雰囲気:窒素 100ml/min
【0068】
<粒度分布測定> レーザー回折・散乱式粒度分布測定
測定装置:堀場製作所製 LA−960
測定溶媒:キョウワノールM
分散剤:ポリアクリル酸系分散剤
分散方法:超音波5分
【0069】
<電気抵抗値測定> 体積固有抵抗値の測定
測定装置:共和理研製 K−705RS
測定方法:四端子測定法
測定点数:n=5の平均値
導電膜厚:SEM断面観察により決定
【0070】
<XPSによる最表面組成分析及びDepthProfile分析>
測定装置:JEOL製JPS−9010MX
高速エッチングイオン銃:XP−HSIG3
DepthProfile分析条件
イオンビーム径:φ15mm、Arイオン加速電圧:500V(電流:8.6mA)
SiOエッチング速度で20〜25nm/min相当
(Data_0からData_6は、下から上へ)
Data_0:エッチングなし
Data_1:実行エッチング時間−0.9秒(累計:0.9秒)
Data_2:実行エッチング時間−3.0秒(累計:3.9秒)
Data_3:実行エッチング時間−3.0秒(累計:6.9秒)
Data_4:実行エッチング時間−3.0秒(累計:9.9秒)
Data_5:実行エッチング時間−3.0秒(累計:12.9秒)
Data_6:実行エッチング時間−3.0秒(累計:15.9秒)
【0071】
(参考例1)
本実施例で用いたギ酸銅、ギ酸銅無水物の製造事例を以下に示すが、ギ酸銅の製造方法は、複数の方法がすでに公知であり、他の方法で製造されたギ酸銅を使用してもよい。
【0072】
[塩基性炭酸銅の前処理]
塊があると未反応で残存しやすいため、28メッシュ程度の篩い処理を行った。
[合成手順]
5リットル4ツ口フラスコにギ酸0.96kg、イオン交換水1.44kgを加えて均一に攪拌しながら、塩基性炭酸銅を少しずつ加えた。炭酸ガスの発生に注意しながら全量を加えた。投入し終えたら、温度を60℃まで昇温させて0.5時間反応を継続した。炭酸ガスの流出(ドレインを水トラップに導き、確認する)がほとんどなくなったのを確認して、この時点では、ギ酸銅及び塩基性炭酸銅が一部未溶解で残っていた。イオン交換水1.60Kgを追加して60℃で1.0時間反応を継続した。反応液が濃青色透明液となったことを確認して反応を終了し、エバポレーターで減圧濃縮して、水を1.5リットル留去した。この時点ですでに結晶が析出して、スラリー状になっていた。
室温まで冷却して反応物をろ過して、アセトン1リットルで洗浄した。得られた結晶は、緑青色を示した。
次いで乾燥脱水を以下のようにして行った。乾燥温度は、真空0.5KPa(最終)にて80℃以下(粉体の温度)で実施した。乾燥脱水によりライトブルー色結晶となった。
ギ酸銅の熱分解温度:214.9℃(窒素中)、大気中では200℃付近
[品質確認]
TG−DTA測定で含有Cu%が理論値に近似していることを確認した。
ギ酸銅無水物の式量:153.84
含有Cu%=41.3%、減量%=58.5%程度
【0073】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、75mLディーンスターク管、窒素導入管を備えた3000mLガラス製四ツ口フラスコをオイルバスに設置した。そこへ、ギ酸銅無水物484g(3.1モル)と、ラウリン酸(関東化学社製)68.1g(0.11当量/ギ酸銅無水物)と、反応溶媒としてトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)150g(0.23当量/ギ酸銅無水物)及びスワクリーン150(ゴードー社製)562g(1.42当量/ギ酸銅無水物)とを添加し、200rpmで攪拌しながら混合した。窒素雰囲気下、液温度が50℃になるまで200rpmで加温攪拌した。そこへ、3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)712g(3.00当量/ギ酸銅無水物)ゆっくり滴下した。滴下終了後、液温度が120℃付近になるまで340rpmで加温攪拌した。ディーンスターク管によりトラップされた水層は適時除去し、反応系内に還流されないようにした。液温度が上昇するにつれて、反応溶液は濃青色から茶褐色に変化し始め、炭酸ガスの発泡が生じた。炭酸ガスの発泡が収まったところを反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで冷却した。
室温まで冷却後、メタノール(関東化学社製)550gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)550g、アセトン(関東化学社製)300gを添加し、混合した。この混合溶液を30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得て、この操作を更にもう一回繰り返した。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)550gを用いて共洗いしながら500mLナスフラスコに移した。30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、得られた沈殿物を回転式エバポレーターに設置し、40℃、1kPa以下で真空乾燥した。真空乾燥終了後、室温まで冷却し窒素置換しながら減圧解除し、194gの茶褐色の被覆銅粒子を得た。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図7に示す。また拡大SEM観察画像を図20−1に、粒度分布を図20−2に示す。
【0074】
(実施例2)
3−アミノ−1−プロパノールをDL−1−アミノ−2−プロパノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図8に示す。
【0075】
(実施例3)
3−アミノ−1−プロパノールを5−アミノ−1−ペンタノール、反応溶媒をn−オクタンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
【0076】
(実施例4)
3−アミノ−1−プロパノールをDL−1−アミノ−2−プロパノール、反応溶媒をn−オクタンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図9に示す。
【0077】
(比較例1)
3−アミノ−1−プロパノールを1−ヘキシルアミンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図10に示す。
【0078】
(比較例2)
3−アミノ−1−プロパノールを2−ジエチルアミノエタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図11に示す。
【0079】
(比較例3)
3−アミノ−1−プロパノールを2−ジメチルアミノエタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図12に示す。
【0080】
(比較例4)
3−アミノ−1−プロパノールを5−アミノ−1−ペンタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図13に示す。
【0081】
(比較例5)
反応溶媒をn−オクタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図14に示す。
【0082】
以下に、長鎖脂肪族カルボン酸の種類及び添加量を変えた実施例を記載する。
(実施例5)
ラウリン酸をオレイン酸68.16g、溶媒は補助溶媒を使用せず、スワクリーン#150を 712gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図15に示す。
【0083】
(実施例6)
ラウリン酸48gを16gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図16−1及び図16−2に示す。
【0084】
(実施例7)
ラウリン酸48gを144gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図17−1及び図17−2に示す。
【0085】
(実施例8)
反応溶媒としてスワクリーン#150を150g、メチルプロピレントリグリコールを562gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図18−1及び図18−2に示す。
【0086】
(実施例9)
ラウリン酸をオクタン酸に変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図19−1及び図19−2に示す。
【0087】
(比較例6)
特開2013−047365号公報の実施例1に記載の方法に準じて、被覆銅粒子を合成した。具体的には被覆材として酢酸を用いて、被覆銅粒子を合成した。
銅化合物として亜酸化銅(I)(古河ケミカルズ社製;粒子径:2〜4μ)を14.3g(0.1モル)、被覆材として酢酸3.0g(50mmol)、還元剤としてヒドラジン・一水和物(和光純薬工業製)5.0g(0.1モル)、溶媒としてイソプロパノールを100ml混合し、300mlの4ツ口フラスコに加えた。フラスコには、冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた。窒素を200ml/minを通気しながら、攪拌しつつ70℃まで昇温させ、1時間加熱・攪拌を継続して亜酸化銅(I)を還元させ、被覆銅粒子分散液を得た。
被覆銅粒子分散液を桐山濾紙No.5Bで減圧濾過して、粉体を濾別した。濾別した粉体をメタノール(関東化学工業製)で3回洗浄して40℃、1kPa以下で減圧乾燥させ、室温まで冷却後に窒素置換をして取り出し、12gの茶褐色粉体を得た。
粉体のXRDを測定したところ(図21に示す)、原料に由来すると思われる亜酸化銅(I)が若干検出された。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図23−1に示す。
【0088】
(比較例7)
比較例6をスケールアップし、反応時間を2倍にして被覆銅粒子を合成した。銅化合物として亜酸化銅(I)(古河ケミカルズ社製)を71.5g(0.5モル)、被覆材として酢酸15.0g(250mmol)、還元剤としてヒドラジン・一水和物(和光純薬工業製〕25.0g(0.5モル)、溶媒としてイソプロパノールを500ml混合し、1,000mlの4ツ口フラスコに加えた。フラスコには、冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた。窒素を200ml/minを通気しながら、攪拌しつつ70℃まで昇温させ、2時間加熱・攪拌を継続して亜酸化銅(I)を還元させ、被覆銅粒子分散液を得た。
被覆銅粒子分散液を桐山濾紙No.5Bで減圧濾過して、粉体を濾別した。濾別した粉体をメタノール(関東化学工業製)で3回洗浄して40℃、1kPa以下で減圧乾燥させ、室温まで冷却後に窒素置換をして取り出し、62gの茶褐色粉体を得た。
粉体のXRDを測定したところ(図22に示す)、原料の亜酸化銅(I)は定量的に還元銅に転化されていた。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を図26−1に示す。
【0089】
<評価>
実施例1で製造された被覆銅粒子を用いて脂肪族カルボン酸で被覆された被覆銅粒子の組成をあきらかにするために、粉体X線分析、SEM観察、Tof−SIMS表面分析及びTG−DTA測定を実施した。
【0090】
実施例1で製造された被覆銅粒子の核の構造と粒子径を調べるために粉体X線分析を実施した。粉体X線分析の結果から(図1−1)、還元銅由来のピーク(2θ=43.3°付近)が検出され、酸化銅(2θ=35.5°及び38.7°)、亜酸化銅(2θ=37.0°付近)は検出されなかった。この結果から、本実施形態による被覆銅粒子は酸化物層がなく、還元銅を核として形成されていることが分かる。
結晶粒子径を粉体X線の回折角度と半値幅からScherrerの式より算出した。Scherrerの式は式(1)で表される。
D=Kλ/(βcosθ)・・・(1)
ここで、Dは結晶粒子径、KはScherrer定数(球体と仮定し、K=1として代入)、λは測定X線の波長(CuKα:1.5418Å)、βは式(2)で表される。
β=b−B・・・(2)
ここで、bはピークの半値幅、Bは装置の補正係数(B=0.114)である。
【0091】
計算結果から、被覆銅粒子の結晶子径DXRDは48.9nmであった。SEM観察結果より算出した平均一次粒子径DSEMは85.8nmであるので、DXRD/DSEMを計算すると0.57となり、平均一次粒子径に対する結晶子径が比較的大きいことが分かる。
【0092】
被覆銅粒子の表面組成を調べるためにTof−SIMS表面分析を実施した。Tof−SIMS表面分析の結果から、ほぼ定量的にフリーのラウリン酸が検出され(図2−1に示す)、一部、微量であるが63Cu及び65Cuの水酸化物と結合しているラウリン酸も検出された(図2−2に示す)。63Cu及び65Cuと結合しているラウリン酸が検出されなかったことから、被覆銅粒子表面に存在するのは、おおかた物理的吸着により被覆されたラウリン酸であるとことが分かった。
【0093】
被覆銅粒子において表面を被覆している有機成分量を調べるために、TG−DTA分析を実施した(図3)。TG−DTA分析結果から、加熱減量は1.09質量%であり、ラウリン酸の沸点付近ではほぼすべて脱離していることが分かる。この結果からもラウリン酸が物理的に吸着していることが示唆され、被覆銅粒子が低温焼結性を発現可能であると推測される。
【0094】
銅粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸の被覆密度を以下の方法で算出した。
Tof−SIMSの解析結果にしたがって、加熱減量成分の全量がラウリン酸と仮定すると、被覆銅粒子に含まれるラウリン酸の本数は式(3)で表される。
[ラウリン酸本数] = Macid/(M/N) ・・・(3)
ここで、Macidは加熱減量測定質量値(g)、Mはラウリン酸分子量(g/mol)、Nはアボガドロ定数(6.02×1023本/mol)である。
SEM観測により算出した一次粒子径はほぼすべて還元銅由来とし、その形状は球体と仮定すると、銅粒子1g中の粒子数は式(4)で表される。
[1g中の粒子数]=MCu/[(4πr/3)×d×10−21]・・・(4)
ここで、MCuは加熱減量測定値より求められる質量計算値(g)、rはSEM観測により算出した一次粒子径の半径(nm)、dは密度である(銅の密度として代入した;d=8.94)。銅粒子1g中の粒子表面積は式(4)を用いて、式(5)で表される。
[1g中の銅粒子表面積(nm)]=[1g中の粒子数]×4πr・・・(5)
ラウリン酸による銅粒子の被覆密度(本/nm)は、(3)式及び(5)式を用いて、式(6)で表される。
[被覆密度]=[ラウリン酸本数]/[1g中の銅粒子表面積]・・・(6)
【0095】
計算結果から、被覆銅粒子におけるラウリン酸の被覆密度は4.23本/nmであった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める−実験値と計算値−』より、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00本/nmである。この理論値から、本実施形態の被覆銅粒子は比較的高密度にラウリン酸が粒子表面に局在化していると推測される。この濃密な被覆効果が、ラウリン酸被覆が化学吸着よりも弱い物理吸着であるにも関わらず、耐酸化性に優れている理由として考えられる。
【0096】
次に、本発明の反応機構について、実施例1を例にとって、反応中に排出されるガスと蒸発留出物の成分分析により推定した。
<ガス成分分析>
方法:ガスクロマトグラフ
測定器:GLサイエンス GL320
検出器:熱伝導度検出器(TCD)
カラム:ステンレスカラム φ3mm×2m
カラム充填剤(水素):Molecular Sieve 5A
カラム充填剤(二酸化炭素):Active Carbon
キャリヤーガス(水素):N 20mL/min
キャリヤーガス(二酸化炭素):He 50mL/min
測定温度:43〜50℃
電流値:70〜120mA
【0097】
<蒸発留出成分分析>
方法:赤外分光法
測定器:パーキンエルマー Spectrum One
【0098】
【表1】
【0099】
反応初期では、排出ガス成分が炭酸ガスであり、反応温度が120℃付近であることから(図4)、下記反応式1を経て、反応式2の反応機構で進行していると考えられる。すなわち、まず初めにラウリン酸1分子により、ギ酸銅アミノアルコール錯体のギ酸1分子との平衡交換反応が生じる。
(反応式1)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+C1123COOH
→(C1123COO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+HCOOH
一般的には、210〜250℃付近で熱分解性を示すギ酸銅は、ラウリン酸と3−アミノ−1−プロパノールとによる錯化合物を形成することで熱分解温度が低下すると考えられる。100〜130℃付近で錯化合物の熱分解反応により炭酸ガスを放出しながら、2価の銅イオンの還元反応が進行する(反応式2)。錯化合物の分解後に生成する還元銅にはラウリン酸が物理的に吸着されていることが考えられる。
(反応式2)
(C1123COO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)
→Cu:C1123COOH+2HNCOH+CO
この還元銅に吸着したラウリン酸は可逆的な平衡をとり(反応式3)、還元銅近傍でギ酸銅アルカノールアミン錯体と反応式1によりラウリン酸平衡交換反応が再び生じ、次々と還元金属核が発生すると考えられる。
(反応式3)
Cu:C1123COOH
↑↓
Cu+C1123COOH
【0100】
反応後半では、排出ガス成分は水素ガスと炭酸ガスであり、その成分比から下記の反応機構が進行していると考えられる。
(反応式4)。
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)
→Cu+2HNCOH+H+2CO
ギ酸銅との錯化合物形成の平衡交換反応よりも還元銅の粒子成長機構の被覆材としてラウリン酸が消費されるにつれて、反応式1だけではなく反応式4も同時に進行すると考えられる。
【0101】
反応中に留出した蒸発留分は水分子であった(図5)。
特開2011−032558号公報には、残留する水分子によって、ギ酸銅アミノアルコール錯体が加水分解を受け、酸化銅が生成されることが開示されており、本発明に適用すると下記反応により、酸化銅が生成することとなる。
(反応式5)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(HNCOH)+H
→CuO+2HNCOH+2HCOOH
【0102】
反応系中に水分子が存在する場合、反応式5の機構が進行し酸化銅が生成すると考えられるが、実施例1で得られた被覆銅粒子においては、銅酸化物の存在は確認されなかった(図1−1)。これらの結果から、主反応とは別に酸化銅を還元する反応機構が存在すると推測される。酸化銅の還元反応機構として、例えば反応式6のようなギ酸による還元反応が考えられる。
(反応式6)。
2CuO+2HCOOH→CuO+HCOOH+HO+CO
→2Cu+2HO+2CO
また、反応式7のように酸化銅とギ酸によりギ酸銅が再生し、還元反応が進行することも考えられる。
(反応式7)
CuO+2HCOOH
→(HCOO)(HCOO)Cu2++H
再生されたギ酸銅は反応式1を経て反応式2に従い、還元反応が進行する。これらの副反応により、水分子が生成し、蒸発留分として排出されたと考える。この副反応は反応系中にギ酸が存在するならば起こり得る反応であるため、予期せず酸化銅が生成しても、反応式6及び反応式7の還元反応機構により酸化膜がない被覆銅粒子の合成が可能となっていると推定される。
この還元反応機構が本実施形態の製造方法で起こりうるか検証するため、意図的に反応系に酸化銅を加えて反応を実施して確認した。その結果を参考例2で説明する。
【0103】
(参考例2)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた100mLガラス製四ツ口フラスコをオイルバスに設置した。そこへ、ギ酸銅無水物12.0g(0.08モル)、酸化銅(関東化学社製)2.0g(0.32当量/ギ酸銅無水物)ラウリン酸(関東化学社製試、試薬1級)2.0g(0.12当量/ギ酸銅無水物)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)4.4g(0.27当量/ギ酸銅無水物)、スワクリーン150(ゴードー社製)16.6g(1.67当量/ギ酸銅無水物)添加し、200rpmで攪拌しながら混合させた。窒素雰囲気下、液温度が50℃になるまで200rpmで加温攪拌させた。そこへ、3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)21.0g(3.50当量/ギ酸銅無水物)ゆっくり滴下した。滴下終了後、液温度が120℃付近になるまで340rpmで加温攪拌させた。液温度が上昇するにつれて、反応溶液は濃青色から茶褐色に変化し始め、炭酸ガスの発泡が生じる。炭酸ガスの発泡が収まったところを反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで冷却した。室温まで冷却後、メタノール(関東化学社製)20.0gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)20.0g、アセトン(関東化学社製)10.0gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この操作を更にもう一回繰り返した。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)20.0gを用いて共洗いしながら100mLナスフラスコに移した。30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、得られた沈殿物を回転式エバポレーターに設置し、40℃、1kPa以下で真空乾燥した。真空乾燥終了後、室温まで冷却し窒素置換しながら減圧解除し、6.5gの茶褐色銅粉末を得た。
【0104】
参考例2で得られた被覆銅粒子の粉体X線分析を実施した(図6)。添加された酸化銅はほとんど還元され還元銅に転化されていることが分かる。この結果から、酸化銅が反応系中で生成しても、ギ酸による還元反応で還元銅に転化されることが示唆された。
【0105】
特開2011−032558号公報に記載される反応機構例によると、本実施形態と同様に脂肪族カルボン酸を含むギ酸銅アミノアルコール錯体を形成する
(反応式8)。
(RCOO)(HCOO)Cu2+:[(CNCOH]
→Cu:[(CNCOH]+RCOOH+CO
また、特開2011−032558号公報においては、2座配位性のアミノアルコールに限定されるため、このようなギ酸銅錯体の熱分解温度は低いこと、脂肪族カルボン酸とギ酸銅アミノアルコール錯体の交換反応で脱離するギ酸は、系外に排出されることが記載されている。さらに低温下での反応条件となるため、反応系中に存在するギ酸による還元反応が進行しないと考えられる。
【0106】
また、特開2008−013466号公報に記載される反応機構例によると、反応系に存在するギ酸はすべて錯化合物の熱分解反応で水素と炭酸ガスに分解される。
(反応式9)
(HCOO)(HCOO)Cu2+・(NH
→Cu+2NH+H+2CO
これに対して、本実施形態の反応機構においては、ギ酸銅錯体の熱分解反応により還元銅の生成と共に、反応式6及び反応式7により、副生する酸化銅を還元する反応機構も併せ持つため、合成される被覆銅粒子が酸化されにくい製造方法となっている。本実施形態の製造方法は、金属銅の酸化の原因として挙げられる水や酸素の厳密な製造管理は必要なく、より簡便な合成に適した製造方法である。
【0107】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた被覆銅粒子について、原料のSP値計算、TG−DTA測定、粉体X線分析(XRD)及びSEM観察を実施した。測定方法は以下のとおりである。結果を表2に示した。
【0108】
【表2】
【0109】
表2の結果が示すように、ギ酸銅アミノアルコール錯体を構成するアミノアルコールのSP値と反応溶媒、又は主溶剤と補助溶剤の混合溶媒のSP値の差、すなわちΔSP値が4.2以上と大きい場合には、個別の被覆銅粒子が製造できているが、4.2以下の場合は個別の被覆銅粒子とはならず、凝集体の形態となってしまい被覆銅粒子の製造方法としては適さないことが判る。
また、一次粒子に占める結晶粒子の大きさの割合、これを結晶化度と定義すると0.25以上となり、ほとんどの場合は、0.50程度となり、被覆銅粒子を大きな結晶子1個で構成しているようすが示されている。
【0110】
実施例5から8及び比較例6から7で得られた被覆銅粒子について、粉体X線分析及びSEM観察を実施した。結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
反応時の昇温速度が一定であれば、還元反応の速度は同一となり、金属核の発生量も同じとなるため、water−in−oil Emulsion類似のマイクロ反応場の大きさ、安定性を支配する因子によって粒子径及び粒度分布に差異があることが分かる。マイクロ反応場を安定化する方向だと粒子径及び変動率が小さく傾向となり、脂肪族カルボン酸の炭素鎖が長くなるほどこの傾向は大きい(実施例1、実施例5及び実施例9の比較)。また、脂肪族カルボン酸の銅原子に対するモル数も多くなると安定化する傾向だが、反応粘度が高くなる場合は、変動率は小さくても粒子径が大きくなる(実施例1、実施例6及び7の比較)。
反応溶媒における主溶剤と補助溶剤の比率を変えて、平均SP値が8.21から8.90と変動してもアミノアルコールとのΔSPが確保されておれば、得られる被覆銅粒子の特性に大きな差異が出ないことも確認された(実施例1及び実施例8の比較)。
【0113】
これに対して、本実施形態の被覆銅粒子と被覆材が脂肪族カルボン酸である点で類似した特開2013−047365号公報の実施例に準じて、比較例6及び7で被覆銅粒子の製造を試みた。これらの方法は銅原子の供給源を難溶性の固体であるリザーバーとして被覆銅粒子を製造する方法である。原料の亜酸化銅(I)として粒子径が2〜4μと小さいものを使用したが、所定時間では未反応物が残っていた。反応時間を倍にすることで定量的に還元銅に転化されたが、平均粒子径が大きくなった。また、粒度分布も変動率0.38及び0.29と大きかった。
【0114】
(試験例1) 耐酸化性の評価
実施例1の条件で製造された直後の粉体X線分析結果と25℃で4ヶ月貯蔵した後に同様に測定して酸化の進行の有無を確認した(図1−1及び図1−2)。4ヶ月後でも酸化成分は検出されず、本実施形態の製造方法で作製された被覆銅粒子は優れた耐酸化性を有することが確認された。
【0115】
(試験例2) 被覆銅粒子ペーストによる焼成皮膜の特性
実施例1の条件で製造された被覆銅粒子を溶剤で分散して銅ペースト組成物を作製して、窒素雰囲気下で300℃及び350℃×1時間焼成して銅皮膜(銅ペースト焼結層)を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。被覆銅粒子と溶媒を以下の組成となるように乳鉢を用いて分散混練してペースト化して金属含有量が33体積%の銅ペースト組成物を調合した。
銅ペースト組成物A
実施例1の被覆銅粒子 10質量部
キョウワノールM(NHネオケム製) 2質量部
【0116】
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上にこの銅ペーストをWet厚みで約10μmを塗布して窒素雰囲気下で乾燥及び焼成を行って評価用試料を作製した。
焼成後の銅の平均膜厚は、SEMによる断面観察で計測した。銅ペースト焼結層の膜厚は、2.4μmであった。
作製された被覆銅粒子と焼成銅皮膜のSEM観察像を図24−1及び図24−2に、測定に用いた評価用試料のSEM断面観察像を図25に、測定結果を表4に示す。
図25では、40μm厚のポリイミドフィルム層20の一方の面上に12μm厚の銅箔層30を有するポリイミドフィルムの銅箔層30とは反対側の面上に、銅ペースト組成物の焼成物である銅ペースト焼結層10が形成されている。
【0117】
(試験例3)
比較例7で製造された被覆銅粒子を用い、試験例2と同様にして銅ペースト組成物Bを作製して、窒素雰囲気下で350℃×1時間焼成して銅皮膜を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。
銅ペースト組成物B
比較例7の被覆銅粒子 10質量部
キョウワノールM(NHネオケム製) 2質量部
【0118】
作製された被覆銅粒子と焼成銅皮膜のSEM観察像を図26−1及び図26−2に、電気抵抗の測定結果を表4に示す。
【0119】
(試験例4) 被覆銅粒子と銅粉の混合ペーストによる焼成皮膜の特性
実施例1で製造された被覆銅粒子を市販の銅粉の焼結剤として添加して銅ペースト組成物を作製して、窒素雰囲気下で300℃及び350℃×1時間焼成して銅皮膜を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。各材料を下記の組成となるように三本ロールミルで分散混練して金属含有量が60体積%の銅ペースト組成物を調合した。
銅ペースト組成物C
実施例1の被覆銅粒子 100質量部
湿式銅粉2.0μm(三井金属製:1200N) 100質量部
湿式銅粉0.8μm(三井金属製:1050Y) 25質量部
ポリアクリル酸系分散剤 0.5質量部
キョーワノールM(NHネオケム製) 15質量部
【0120】
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上にこの銅ペーストをWet厚みで約10μmを塗布して窒素雰囲気下で乾燥及び焼成を行って評価用試料を作製した。
焼成後の銅の平均膜厚をSEMによる断面観察で計測した。銅ペースト焼結層の膜厚は、4.2μmであった。
測定に用いた評価用試料のSEM断面観察像を図27に、測定結果を表4に示す。
図27では、40μm厚のポリイミドフィルム層20の一方の面上に12μm厚の銅箔層30を有するポリイミドフィルムの銅箔層30とは反対側の面上に、銅ペースト組成物の焼成物である銅ペースト焼結層10が形成されている。
【0121】
【表4】
【0122】
非還元雰囲気で焼成可能な被覆銅粒子で銅ペースト組成物を作製して、その焼結銅皮膜の電気特性及びその表面組成構造を評価することで産業上の技術有用性が確認された。
実施例1で製造した被覆銅粒子を用いた銅ペースト組成物Aを試験例2で、市販の銅粉と混ぜて銅ペースト組成物Cを試験例4で、比較として特開2013−047365号公報の実施例1に準じて作製した比較例7で作製した被覆銅粒子を用いた銅ペースト組成物Bを試験例3でそれぞれ、電気特性及びXPSでの表面組成構造を評価した。
その結果、実施例1の被覆銅粒子で調製された銅ペースト組成物A及びCは、4〜6μΩ・cmと高い導電性能を示した。また、未処理のポリイミド面に高い密着性を示し、通常の折り曲げ試験では剥離しないことが確認された。銅ペースト組成物Bは同じ脂肪族カルボン酸で被覆された被覆銅粒子であるが、22μΩ・cmと銅バルクの体積固有抵抗値よりも1桁以上高い値を示した。
【0123】
銅ペースト組成物A及びBで作製した焼結銅皮膜の表面組成構造をXPSで組成解析を行い、電気特性の差異が発生するメカニズムを考察した。
図28及び図29のNarrowScanで得られたデータには、銅ペースト組成物A及びBの焼結銅皮膜の最表面の組成情報が示されている。銅ペースト組成物Bの焼結銅皮膜の最表面は、銅ペースト組成物Aのそれと比較して、還元銅の割合が高く、酸化銅成分と有機物成分の割合が少ないことが分かる。銅ペースト組成物Aで作成された焼結銅皮膜の最表面は、ラウリン酸と推定される脂肪族カルボン酸で被覆されており、その分、有機物成分が多くなっている。しかし、酸化物成分があるものの還元銅が相当量露出しており、接触抵抗を損なうことはないと判断される。
【0124】
次に、アルゴンイオンでエッチングして最表面から数nmの領域の表面組成をXPSのDepthProfile分析で明らかにした。
その結果、銅ペースト組成物A及びBともに最表面から1〜2nmよりも深い領域は還元銅で構成されていることがわかった。ただ、銅ペースト組成物Bの方は、Aと比較して数nmより深い領域でも炭素分が減らないことから、焼結密度が低いことが予想される。
また、SEM観察の結果でも焼結密度に明らかな差異があり、これが電気特性の差となって現れたと考えられる。従って、被覆銅粒子の低温焼結性を発現する仕組みは、被覆銅粒子の被覆材が低温で除去されることではなく、銅粒子同士の接触、ネッキング及び銅原子の相互拡散が阻害されないように適度に除去されることが重要なことがわかった。
本発明の被覆銅粒子から得られる焼結銅皮膜においては、粒子間に存在していた被覆材の脂肪族カルボン酸が効率的に除去されつつ、粒子の接触、ネッキング、及び銅原子の相互拡散が達成され、銅バルクの抵抗値に近い特性が達成できている。また、結果的に、焼結銅皮膜の最表面は、被覆材の脂肪族カルボン酸で覆われており、酸素に対するバリア層として期待ができることもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明に係る被覆銅粒子の製造方法は、独自のマイクロ反応場により粒子径が制御され、粒子表面が脂肪族カルボン酸の高密度被覆層で覆われた耐酸化性に優れた被覆銅粒子を製造することができる。そして、得られた被覆銅粒子は、ほぼ還元銅で構成されており、被覆材である脂肪族カルボン酸が物理吸着で結合していると考えられる。そのため、被覆材の沸点近傍で脱離されて、焼結能力を発現するため、例えば、常圧、300℃以下の比較的低い温度で銅バルクに近い体積固有抵抗値を持つ銅焼結皮膜を得ることができる。さらに、被覆銅粒子を溶剤等でペースト化してスクリーン印刷等の手段で配線パターン形成することができ、形成された配線パターンの焼成雰囲気も低酸素状態であればよく、通常の窒素置換炉等を用いることができる汎用性の高い生産プロセスを構成することが可能となる。
【符号の説明】
【0126】
10:銅ペースト焼結層、20:ポリイミドフィルム層、30:銅箔層
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17-1】
図17-2】
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
図20-1】
図20-2】
図21
図22
図23-1】
図23-2】
図24-1】
図24-2】
図25
図26-1】
図26-2】
図27
図28
図29
図30
図31