【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例で用いた試験方法の詳細を以下に示す。
<平均一次粒子径及び変動率の計算>
測定装置:日本電子製FE−EPMA JXA−8510F
平均一次粒子径:サンプル20点の平均値
変動率:サンプル20点の標準偏差/平均値で計算される値
【0064】
<SEM観察画像>
測定装置:日本電子製FE−EPMA JXA−8510F
測定条件:加速電圧 6KV又は15KV
観察倍率 ×10,000〜×75,000
【0065】
<粉体X線回折(XRD)の測定>
測定器:島津製 XRD−6100
測定条件:ターゲット Cu
管電圧 40KV、管電流 30.0mA
【0066】
<Tof−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析装置)の測定>
測定器;ULVAC−PHI製 PHI TRIFT IV型
測定条件:1次イオン種 Au、加速電圧 30KV
【0067】
<TG−DTA測定> 有機残分及び金属含有量の測定
測定装置:リガク製 TG8120
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25℃〜600℃
測定雰囲気:窒素 100ml/min
【0068】
<粒度分布測定> レーザー回折・散乱式粒度分布測定
測定装置:堀場製作所製 LA−960
測定溶媒:キョウワノールM
分散剤:ポリアクリル酸系分散剤
分散方法:超音波5分
【0069】
<電気抵抗値測定> 体積固有抵抗値の測定
測定装置:共和理研製 K−705RS
測定方法:四端子測定法
測定点数:n=5の平均値
導電膜厚:SEM断面観察により決定
【0070】
<XPSによる最表面組成分析及びDepthProfile分析>
測定装置:JEOL製JPS−9010MX
高速エッチングイオン銃:XP−HSIG3
DepthProfile分析条件
イオンビーム径:φ15mm、Arイオン加速電圧:500V(電流:8.6mA)
SiOエッチング速度で20〜25nm/min相当
(Data_0からData_6は、下から上へ)
Data_0:エッチングなし
Data_1:実行エッチング時間−0.9秒(累計:0.9秒)
Data_2:実行エッチング時間−3.0秒(累計:3.9秒)
Data_3:実行エッチング時間−3.0秒(累計:6.9秒)
Data_4:実行エッチング時間−3.0秒(累計:9.9秒)
Data_5:実行エッチング時間−3.0秒(累計:12.9秒)
Data_6:実行エッチング時間−3.0秒(累計:15.9秒)
【0071】
(参考例1)
本実施例で用いたギ酸銅、ギ酸銅無水物の製造事例を以下に示すが、ギ酸銅の製造方法は、複数の方法がすでに公知であり、他の方法で製造されたギ酸銅を使用してもよい。
【0072】
[塩基性炭酸銅の前処理]
塊があると未反応で残存しやすいため、28メッシュ程度の篩い処理を行った。
[合成手順]
5リットル4ツ口フラスコにギ酸0.96kg、イオン交換水1.44kgを加えて均一に攪拌しながら、塩基性炭酸銅を少しずつ加えた。炭酸ガスの発生に注意しながら全量を加えた。投入し終えたら、温度を60℃まで昇温させて0.5時間反応を継続した。炭酸ガスの流出(ドレインを水トラップに導き、確認する)がほとんどなくなったのを確認して、この時点では、ギ酸銅及び塩基性炭酸銅が一部未溶解で残っていた。イオン交換水1.60Kgを追加して60℃で1.0時間反応を継続した。反応液が濃青色透明液となったことを確認して反応を終了し、エバポレーターで減圧濃縮して、水を1.5リットル留去した。この時点ですでに結晶が析出して、スラリー状になっていた。
室温まで冷却して反応物をろ過して、アセトン1リットルで洗浄した。得られた結晶は、緑青色を示した。
次いで乾燥脱水を以下のようにして行った。乾燥温度は、真空0.5KPa(最終)にて80℃以下(粉体の温度)で実施した。乾燥脱水によりライトブルー色結晶となった。
ギ酸銅の熱分解温度:214.9℃(窒素中)、大気中では200℃付近
[品質確認]
TG−DTA測定で含有Cu%が理論値に近似していることを確認した。
ギ酸銅無水物の式量:153.84
含有Cu%=41.3%、減量%=58.5%程度
【0073】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、75mLディーンスターク管、窒素導入管を備えた3000mLガラス製四ツ口フラスコをオイルバスに設置した。そこへ、ギ酸銅無水物484g(3.1モル)と、ラウリン酸(関東化学社製)68.1g(0.11当量/ギ酸銅無水物)と、反応溶媒としてトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)150g(0.23当量/ギ酸銅無水物)及びスワクリーン150(ゴードー社製)562g(1.42当量/ギ酸銅無水物)とを添加し、200rpmで攪拌しながら混合した。窒素雰囲気下、液温度が50℃になるまで200rpmで加温攪拌した。そこへ、3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)712g(3.00当量/ギ酸銅無水物)ゆっくり滴下した。滴下終了後、液温度が120℃付近になるまで340rpmで加温攪拌した。ディーンスターク管によりトラップされた水層は適時除去し、反応系内に還流されないようにした。液温度が上昇するにつれて、反応溶液は濃青色から茶褐色に変化し始め、炭酸ガスの発泡が生じた。炭酸ガスの発泡が収まったところを反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで冷却した。
室温まで冷却後、メタノール(関東化学社製)550gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)550g、アセトン(関東化学社製)300gを添加し、混合した。この混合溶液を30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得て、この操作を更にもう一回繰り返した。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)550gを用いて共洗いしながら500mLナスフラスコに移した。30分以上静置して、上澄みをデカンテーションし、得られた沈殿物を回転式エバポレーターに設置し、40℃、1kPa以下で真空乾燥した。真空乾燥終了後、室温まで冷却し窒素置換しながら減圧解除し、194gの茶褐色の被覆銅粒子を得た。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図7に示す。また拡大SEM観察画像を
図20−1に、粒度分布を
図20−2に示す。
【0074】
(実施例2)
3−アミノ−1−プロパノールをDL−1−アミノ−2−プロパノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図8に示す。
【0075】
(実施例3)
3−アミノ−1−プロパノールを5−アミノ−1−ペンタノール、反応溶媒をn−オクタンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
【0076】
(実施例4)
3−アミノ−1−プロパノールをDL−1−アミノ−2−プロパノール、反応溶媒をn−オクタンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図9に示す。
【0077】
(比較例1)
3−アミノ−1−プロパノールを1−ヘキシルアミンに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図10に示す。
【0078】
(比較例2)
3−アミノ−1−プロパノールを2−ジエチルアミノエタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図11に示す。
【0079】
(比較例3)
3−アミノ−1−プロパノールを2−ジメチルアミノエタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図12に示す。
【0080】
(比較例4)
3−アミノ−1−プロパノールを5−アミノ−1−ペンタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図13に示す。
【0081】
(比較例5)
反応溶媒をn−オクタノールに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図14に示す。
【0082】
以下に、長鎖脂肪族カルボン酸の種類及び添加量を変えた実施例を記載する。
(実施例5)
ラウリン酸をオレイン酸68.16g、溶媒は補助溶媒を使用せず、スワクリーン#150を 712gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図15に示す。
【0083】
(実施例6)
ラウリン酸48gを16gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図16−1及び
図16−2に示す。
【0084】
(実施例7)
ラウリン酸48gを144gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図17−1及び
図17−2に示す。
【0085】
(実施例8)
反応溶媒としてスワクリーン#150を150g、メチルプロピレントリグリコールを562gに変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図18−1及び
図18−2に示す。
【0086】
(実施例9)
ラウリン酸をオクタン酸に変えた以外は、実施例1と同様に被覆銅粒子を合成した。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図19−1及び
図19−2に示す。
【0087】
(比較例6)
特開2013−047365号公報の実施例1に記載の方法に準じて、被覆銅粒子を合成した。具体的には被覆材として酢酸を用いて、被覆銅粒子を合成した。
銅化合物として亜酸化銅(I)(古河ケミカルズ社製;粒子径:2〜4μ)を14.3g(0.1モル)、被覆材として酢酸3.0g(50mmol)、還元剤としてヒドラジン・一水和物(和光純薬工業製)5.0g(0.1モル)、溶媒としてイソプロパノールを100ml混合し、300mlの4ツ口フラスコに加えた。フラスコには、冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた。窒素を200ml/minを通気しながら、攪拌しつつ70℃まで昇温させ、1時間加熱・攪拌を継続して亜酸化銅(I)を還元させ、被覆銅粒子分散液を得た。
被覆銅粒子分散液を桐山濾紙No.5Bで減圧濾過して、粉体を濾別した。濾別した粉体をメタノール(関東化学工業製)で3回洗浄して40℃、1kPa以下で減圧乾燥させ、室温まで冷却後に窒素置換をして取り出し、12gの茶褐色粉体を得た。
粉体のXRDを測定したところ(
図21に示す)、原料に由来すると思われる亜酸化銅(I)が若干検出された。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図23−1に示す。
【0088】
(比較例7)
比較例6をスケールアップし、反応時間を2倍にして被覆銅粒子を合成した。銅化合物として亜酸化銅(I)(古河ケミカルズ社製)を71.5g(0.5モル)、被覆材として酢酸15.0g(250mmol)、還元剤としてヒドラジン・一水和物(和光純薬工業製〕25.0g(0.5モル)、溶媒としてイソプロパノールを500ml混合し、1,000mlの4ツ口フラスコに加えた。フラスコには、冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた。窒素を200ml/minを通気しながら、攪拌しつつ70℃まで昇温させ、2時間加熱・攪拌を継続して亜酸化銅(I)を還元させ、被覆銅粒子分散液を得た。
被覆銅粒子分散液を桐山濾紙No.5Bで減圧濾過して、粉体を濾別した。濾別した粉体をメタノール(関東化学工業製)で3回洗浄して40℃、1kPa以下で減圧乾燥させ、室温まで冷却後に窒素置換をして取り出し、62gの茶褐色粉体を得た。
粉体のXRDを測定したところ(
図22に示す)、原料の亜酸化銅(I)は定量的に還元銅に転化されていた。
得られた被覆銅粒子のSEM観察画像を
図26−1に示す。
【0089】
<評価>
実施例1で製造された被覆銅粒子を用いて脂肪族カルボン酸で被覆された被覆銅粒子の組成をあきらかにするために、粉体X線分析、SEM観察、Tof−SIMS表面分析及びTG−DTA測定を実施した。
【0090】
実施例1で製造された被覆銅粒子の核の構造と粒子径を調べるために粉体X線分析を実施した。粉体X線分析の結果から(
図1−1)、還元銅由来のピーク(2θ=43.3°付近)が検出され、酸化銅(2θ=35.5°及び38.7°)、亜酸化銅(2θ=37.0°付近)は検出されなかった。この結果から、本実施形態による被覆銅粒子は酸化物層がなく、還元銅を核として形成されていることが分かる。
結晶粒子径を粉体X線の回折角度と半値幅からScherrerの式より算出した。Scherrerの式は式(1)で表される。
D=Kλ/(βcosθ)・・・(1)
ここで、Dは結晶粒子径、KはScherrer定数(球体と仮定し、K=1として代入)、λは測定X線の波長(CuKα:1.5418Å)、βは式(2)で表される。
β=b−B・・・(2)
ここで、bはピークの半値幅、Bは装置の補正係数(B=0.114)である。
【0091】
計算結果から、被覆銅粒子の結晶子径D
XRDは48.9nmであった。SEM観察結果より算出した平均一次粒子径D
SEMは85.8nmであるので、D
XRD/D
SEMを計算すると0.57となり、平均一次粒子径に対する結晶子径が比較的大きいことが分かる。
【0092】
被覆銅粒子の表面組成を調べるためにTof−SIMS表面分析を実施した。Tof−SIMS表面分析の結果から、ほぼ定量的にフリーのラウリン酸が検出され(
図2−1に示す)、一部、微量であるが
63Cu及び
65Cuの水酸化物と結合しているラウリン酸も検出された(
図2−2に示す)。
63Cu及び
65Cuと結合しているラウリン酸が検出されなかったことから、被覆銅粒子表面に存在するのは、おおかた物理的吸着により被覆されたラウリン酸であるとことが分かった。
【0093】
被覆銅粒子において表面を被覆している有機成分量を調べるために、TG−DTA分析を実施した(
図3)。TG−DTA分析結果から、加熱減量は1.09質量%であり、ラウリン酸の沸点付近ではほぼすべて脱離していることが分かる。この結果からもラウリン酸が物理的に吸着していることが示唆され、被覆銅粒子が低温焼結性を発現可能であると推測される。
【0094】
銅粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸の被覆密度を以下の方法で算出した。
Tof−SIMSの解析結果にしたがって、加熱減量成分の全量がラウリン酸と仮定すると、被覆銅粒子に含まれるラウリン酸の本数は式(3)で表される。
[ラウリン酸本数] = M
acid/(M
W/N
A) ・・・(3)
ここで、M
acidは加熱減量測定質量値(g)、M
Wはラウリン酸分子量(g/mol)、N
Aはアボガドロ定数(6.02×10
23本/mol)である。
SEM観測により算出した一次粒子径はほぼすべて還元銅由来とし、その形状は球体と仮定すると、銅粒子1g中の粒子数は式(4)で表される。
[1g中の粒子数]=M
Cu/[(4πr
3/3)×d×10
−21]・・・(4)
ここで、M
Cuは加熱減量測定値より求められる質量計算値(g)、rはSEM観測により算出した一次粒子径の半径(nm)、dは密度である(銅の密度として代入した;d=8.94)。銅粒子1g中の粒子表面積は式(4)を用いて、式(5)で表される。
[1g中の銅粒子表面積(nm
2)]=[1g中の粒子数]×4πr
2・・・(5)
ラウリン酸による銅粒子の被覆密度(本/nm
2)は、(3)式及び(5)式を用いて、式(6)で表される。
[被覆密度]=[ラウリン酸本数]/[1g中の銅粒子表面積]・・・(6)
【0095】
計算結果から、被覆銅粒子におけるラウリン酸の被覆密度は4.23本/nm
2であった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める−実験値と計算値−』より、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00本/nm
2である。この理論値から、本実施形態の被覆銅粒子は比較的高密度にラウリン酸が粒子表面に局在化していると推測される。この濃密な被覆効果が、ラウリン酸被覆が化学吸着よりも弱い物理吸着であるにも関わらず、耐酸化性に優れている理由として考えられる。
【0096】
次に、本発明の反応機構について、実施例1を例にとって、反応中に排出されるガスと蒸発留出物の成分分析により推定した。
<ガス成分分析>
方法:ガスクロマトグラフ
測定器:GLサイエンス GL320
検出器:熱伝導度検出器(TCD)
カラム:ステンレスカラム φ3mm×2m
カラム充填剤(水素):Molecular Sieve 5A
カラム充填剤(二酸化炭素):Active Carbon
キャリヤーガス(水素):N
2 20mL/min
キャリヤーガス(二酸化炭素):He 50mL/min
測定温度:43〜50℃
電流値:70〜120mA
【0097】
<蒸発留出成分分析>
方法:赤外分光法
測定器:パーキンエルマー Spectrum One
【0098】
【表1】
【0099】
反応初期では、排出ガス成分が炭酸ガスであり、反応温度が120℃付近であることから(
図4)、下記反応式1を経て、反応式2の反応機構で進行していると考えられる。すなわち、まず初めにラウリン酸1分子により、ギ酸銅アミノアルコール錯体のギ酸1分子との平衡交換反応が生じる。
(反応式1)
(HCOO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(H
2NC
3H
6OH)
2+C
11H
23COOH
→(C
11H
23COO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(H
2NC
3H
6OH)
2+HCOOH
一般的には、210〜250℃付近で熱分解性を示すギ酸銅は、ラウリン酸と3−アミノ−1−プロパノールとによる錯化合物を形成することで熱分解温度が低下すると考えられる。100〜130℃付近で錯化合物の熱分解反応により炭酸ガスを放出しながら、2価の銅イオンの還元反応が進行する(反応式2)。錯化合物の分解後に生成する還元銅にはラウリン酸が物理的に吸着されていることが考えられる。
(反応式2)
(C
11H
23COO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(H
2NC
3H
6OH)
2
→Cu:C
11H
23COOH+2H
2NC
3H
6OH+CO
2
この還元銅に吸着したラウリン酸は可逆的な平衡をとり(反応式3)、還元銅近傍でギ酸銅アルカノールアミン錯体と反応式1によりラウリン酸平衡交換反応が再び生じ、次々と還元金属核が発生すると考えられる。
(反応式3)
Cu:C
11H
23COOH
↑↓
Cu+C
11H
23COOH
【0100】
反応後半では、排出ガス成分は水素ガスと炭酸ガスであり、その成分比から下記の反応機構が進行していると考えられる。
(反応式4)。
(HCOO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(H
2NC
3H
6OH)
2
→Cu+2H
2NC
3H
6OH+H
2+2CO
2
ギ酸銅との錯化合物形成の平衡交換反応よりも還元銅の粒子成長機構の被覆材としてラウリン酸が消費されるにつれて、反応式1だけではなく反応式4も同時に進行すると考えられる。
【0101】
反応中に留出した蒸発留分は水分子であった(
図5)。
特開2011−032558号公報には、残留する水分子によって、ギ酸銅アミノアルコール錯体が加水分解を受け、酸化銅が生成されることが開示されており、本発明に適用すると下記反応により、酸化銅が生成することとなる。
(反応式5)
(HCOO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(H
2NC
3H
6OH)
2+H
2O
→CuO+2H
2NC
3H
6OH+2HCOOH
【0102】
反応系中に水分子が存在する場合、反応式5の機構が進行し酸化銅が生成すると考えられるが、実施例1で得られた被覆銅粒子においては、銅酸化物の存在は確認されなかった(
図1−1)。これらの結果から、主反応とは別に酸化銅を還元する反応機構が存在すると推測される。酸化銅の還元反応機構として、例えば反応式6のようなギ酸による還元反応が考えられる。
(反応式6)。
2CuO+2HCOOH→Cu
2O+HCOOH+H
2O+CO
2
→2Cu+2H
2O+2CO
2
また、反応式7のように酸化銅とギ酸によりギ酸銅が再生し、還元反応が進行することも考えられる。
(反応式7)
CuO+2HCOOH
→(HCOO
−)(HCOO
−)Cu
2++H
2O
再生されたギ酸銅は反応式1を経て反応式2に従い、還元反応が進行する。これらの副反応により、水分子が生成し、蒸発留分として排出されたと考える。この副反応は反応系中にギ酸が存在するならば起こり得る反応であるため、予期せず酸化銅が生成しても、反応式6及び反応式7の還元反応機構により酸化膜がない被覆銅粒子の合成が可能となっていると推定される。
この還元反応機構が本実施形態の製造方法で起こりうるか検証するため、意図的に反応系に酸化銅を加えて反応を実施して確認した。その結果を参考例2で説明する。
【0103】
(参考例2)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた100mLガラス製四ツ口フラスコをオイルバスに設置した。そこへ、ギ酸銅無水物12.0g(0.08モル)、酸化銅(関東化学社製)2.0g(0.32当量/ギ酸銅無水物)ラウリン酸(関東化学社製試、試薬1級)2.0g(0.12当量/ギ酸銅無水物)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)4.4g(0.27当量/ギ酸銅無水物)、スワクリーン150(ゴードー社製)16.6g(1.67当量/ギ酸銅無水物)添加し、200rpmで攪拌しながら混合させた。窒素雰囲気下、液温度が50℃になるまで200rpmで加温攪拌させた。そこへ、3−アミノ−1−プロパノール(東京化成社製)21.0g(3.50当量/ギ酸銅無水物)ゆっくり滴下した。滴下終了後、液温度が120℃付近になるまで340rpmで加温攪拌させた。液温度が上昇するにつれて、反応溶液は濃青色から茶褐色に変化し始め、炭酸ガスの発泡が生じる。炭酸ガスの発泡が収まったところを反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで冷却した。室温まで冷却後、メタノール(関東化学社製)20.0gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)20.0g、アセトン(関東化学社製)10.0gを添加し、混合させた。この混合溶液を30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、沈殿物を得た。この操作を更にもう一回繰り返した。この沈殿物にメタノール(関東化学社製)20.0gを用いて共洗いしながら100mLナスフラスコに移した。30分以上静置させて、上澄みをデカンテーションし、得られた沈殿物を回転式エバポレーターに設置し、40℃、1kPa以下で真空乾燥した。真空乾燥終了後、室温まで冷却し窒素置換しながら減圧解除し、6.5gの茶褐色銅粉末を得た。
【0104】
参考例2で得られた被覆銅粒子の粉体X線分析を実施した(
図6)。添加された酸化銅はほとんど還元され還元銅に転化されていることが分かる。この結果から、酸化銅が反応系中で生成しても、ギ酸による還元反応で還元銅に転化されることが示唆された。
【0105】
特開2011−032558号公報に記載される反応機構例によると、本実施形態と同様に脂肪族カルボン酸を含むギ酸銅アミノアルコール錯体を形成する
(反応式8)。
(R
1COO
−)(HCOO
−)Cu
2+:[(C
2H
5)
2NC
2H
4OH]
2
→Cu:[(C
2H
5)
2NC
2H
4OH]
2+R
1COOH+CO
2
また、特開2011−032558号公報においては、2座配位性のアミノアルコールに限定されるため、このようなギ酸銅錯体の熱分解温度は低いこと、脂肪族カルボン酸とギ酸銅アミノアルコール錯体の交換反応で脱離するギ酸は、系外に排出されることが記載されている。さらに低温下での反応条件となるため、反応系中に存在するギ酸による還元反応が進行しないと考えられる。
【0106】
また、特開2008−013466号公報に記載される反応機構例によると、反応系に存在するギ酸はすべて錯化合物の熱分解反応で水素と炭酸ガスに分解される。
(反応式9)
(HCOO
−)(HCOO
−)Cu
2+・(NH
2R
2)
2
→Cu+2NH
2R
2+H
2+2CO
2
これに対して、本実施形態の反応機構においては、ギ酸銅錯体の熱分解反応により還元銅の生成と共に、反応式6及び反応式7により、副生する酸化銅を還元する反応機構も併せ持つため、合成される被覆銅粒子が酸化されにくい製造方法となっている。本実施形態の製造方法は、金属銅の酸化の原因として挙げられる水や酸素の厳密な製造管理は必要なく、より簡便な合成に適した製造方法である。
【0107】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた被覆銅粒子について、原料のSP値計算、TG−DTA測定、粉体X線分析(XRD)及びSEM観察を実施した。測定方法は以下のとおりである。結果を表2に示した。
【0108】
【表2】
【0109】
表2の結果が示すように、ギ酸銅アミノアルコール錯体を構成するアミノアルコールのSP値と反応溶媒、又は主溶剤と補助溶剤の混合溶媒のSP値の差、すなわちΔSP値が4.2以上と大きい場合には、個別の被覆銅粒子が製造できているが、4.2以下の場合は個別の被覆銅粒子とはならず、凝集体の形態となってしまい被覆銅粒子の製造方法としては適さないことが判る。
また、一次粒子に占める結晶粒子の大きさの割合、これを結晶化度と定義すると0.25以上となり、ほとんどの場合は、0.50程度となり、被覆銅粒子を大きな結晶子1個で構成しているようすが示されている。
【0110】
実施例5から8及び比較例6から7で得られた被覆銅粒子について、粉体X線分析及びSEM観察を実施した。結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
反応時の昇温速度が一定であれば、還元反応の速度は同一となり、金属核の発生量も同じとなるため、water−in−oil Emulsion類似のマイクロ反応場の大きさ、安定性を支配する因子によって粒子径及び粒度分布に差異があることが分かる。マイクロ反応場を安定化する方向だと粒子径及び変動率が小さく傾向となり、脂肪族カルボン酸の炭素鎖が長くなるほどこの傾向は大きい(実施例1、実施例5及び実施例9の比較)。また、脂肪族カルボン酸の銅原子に対するモル数も多くなると安定化する傾向だが、反応粘度が高くなる場合は、変動率は小さくても粒子径が大きくなる(実施例1、実施例6及び7の比較)。
反応溶媒における主溶剤と補助溶剤の比率を変えて、平均SP値が8.21から8.90と変動してもアミノアルコールとのΔSPが確保されておれば、得られる被覆銅粒子の特性に大きな差異が出ないことも確認された(実施例1及び実施例8の比較)。
【0113】
これに対して、本実施形態の被覆銅粒子と被覆材が脂肪族カルボン酸である点で類似した特開2013−047365号公報の実施例に準じて、比較例6及び7で被覆銅粒子の製造を試みた。これらの方法は銅原子の供給源を難溶性の固体であるリザーバーとして被覆銅粒子を製造する方法である。原料の亜酸化銅(I)として粒子径が2〜4μと小さいものを使用したが、所定時間では未反応物が残っていた。反応時間を倍にすることで定量的に還元銅に転化されたが、平均粒子径が大きくなった。また、粒度分布も変動率0.38及び0.29と大きかった。
【0114】
(試験例1) 耐酸化性の評価
実施例1の条件で製造された直後の粉体X線分析結果と25℃で4ヶ月貯蔵した後に同様に測定して酸化の進行の有無を確認した(
図1−1及び
図1−2)。4ヶ月後でも酸化成分は検出されず、本実施形態の製造方法で作製された被覆銅粒子は優れた耐酸化性を有することが確認された。
【0115】
(試験例2) 被覆銅粒子ペーストによる焼成皮膜の特性
実施例1の条件で製造された被覆銅粒子を溶剤で分散して銅ペースト組成物を作製して、窒素雰囲気下で300℃及び350℃×1時間焼成して銅皮膜(銅ペースト焼結層)を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。被覆銅粒子と溶媒を以下の組成となるように乳鉢を用いて分散混練してペースト化して金属含有量が33体積%の銅ペースト組成物を調合した。
銅ペースト組成物A
実施例1の被覆銅粒子 10質量部
キョウワノールM(NHネオケム製) 2質量部
【0116】
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上にこの銅ペーストをWet厚みで約10μmを塗布して窒素雰囲気下で乾燥及び焼成を行って評価用試料を作製した。
焼成後の銅の平均膜厚は、SEMによる断面観察で計測した。銅ペースト焼結層の膜厚は、2.4μmであった。
作製された被覆銅粒子と焼成銅皮膜のSEM観察像を
図24−1及び
図24−2に、測定に用いた評価用試料のSEM断面観察像を
図25に、測定結果を表4に示す。
図25では、40μm厚のポリイミドフィルム層20の一方の面上に12μm厚の銅箔層30を有するポリイミドフィルムの銅箔層30とは反対側の面上に、銅ペースト組成物の焼成物である銅ペースト焼結層10が形成されている。
【0117】
(試験例3)
比較例7で製造された被覆銅粒子を用い、試験例2と同様にして銅ペースト組成物Bを作製して、窒素雰囲気下で350℃×1時間焼成して銅皮膜を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。
銅ペースト組成物B
比較例7の被覆銅粒子 10質量部
キョウワノールM(NHネオケム製) 2質量部
【0118】
作製された被覆銅粒子と焼成銅皮膜のSEM観察像を
図26−1及び
図26−2に、電気抵抗の測定結果を表4に示す。
【0119】
(試験例4) 被覆銅粒子と銅粉の混合ペーストによる焼成皮膜の特性
実施例1で製造された被覆銅粒子を市販の銅粉の焼結剤として添加して銅ペースト組成物を作製して、窒素雰囲気下で300℃及び350℃×1時間焼成して銅皮膜を作製してその皮膜の電気抵抗を測定した。各材料を下記の組成となるように三本ロールミルで分散混練して金属含有量が60体積%の銅ペースト組成物を調合した。
銅ペースト組成物C
実施例1の被覆銅粒子 100質量部
湿式銅粉2.0μm(三井金属製:1200N) 100質量部
湿式銅粉0.8μm(三井金属製:1050Y) 25質量部
ポリアクリル酸系分散剤 0.5質量部
キョーワノールM(NHネオケム製) 15質量部
【0120】
裏側に12μmの銅箔をラミネートした40μm厚のポリイミドフィルム上にこの銅ペーストをWet厚みで約10μmを塗布して窒素雰囲気下で乾燥及び焼成を行って評価用試料を作製した。
焼成後の銅の平均膜厚をSEMによる断面観察で計測した。銅ペースト焼結層の膜厚は、4.2μmであった。
測定に用いた評価用試料のSEM断面観察像を
図27に、測定結果を表4に示す。
図27では、40μm厚のポリイミドフィルム層20の一方の面上に12μm厚の銅箔層30を有するポリイミドフィルムの銅箔層30とは反対側の面上に、銅ペースト組成物の焼成物である銅ペースト焼結層10が形成されている。
【0121】
【表4】
【0122】
非還元雰囲気で焼成可能な被覆銅粒子で銅ペースト組成物を作製して、その焼結銅皮膜の電気特性及びその表面組成構造を評価することで産業上の技術有用性が確認された。
実施例1で製造した被覆銅粒子を用いた銅ペースト組成物Aを試験例2で、市販の銅粉と混ぜて銅ペースト組成物Cを試験例4で、比較として特開2013−047365号公報の実施例1に準じて作製した比較例7で作製した被覆銅粒子を用いた銅ペースト組成物Bを試験例3でそれぞれ、電気特性及びXPSでの表面組成構造を評価した。
その結果、実施例1の被覆銅粒子で調製された銅ペースト組成物A及びCは、4〜6μΩ・cmと高い導電性能を示した。また、未処理のポリイミド面に高い密着性を示し、通常の折り曲げ試験では剥離しないことが確認された。銅ペースト組成物Bは同じ脂肪族カルボン酸で被覆された被覆銅粒子であるが、22μΩ・cmと銅バルクの体積固有抵抗値よりも1桁以上高い値を示した。
【0123】
銅ペースト組成物A及びBで作製した焼結銅皮膜の表面組成構造をXPSで組成解析を行い、電気特性の差異が発生するメカニズムを考察した。
図28及び
図29のNarrowScanで得られたデータには、銅ペースト組成物A及びBの焼結銅皮膜の最表面の組成情報が示されている。銅ペースト組成物Bの焼結銅皮膜の最表面は、銅ペースト組成物Aのそれと比較して、還元銅の割合が高く、酸化銅成分と有機物成分の割合が少ないことが分かる。銅ペースト組成物Aで作成された焼結銅皮膜の最表面は、ラウリン酸と推定される脂肪族カルボン酸で被覆されており、その分、有機物成分が多くなっている。しかし、酸化物成分があるものの還元銅が相当量露出しており、接触抵抗を損なうことはないと判断される。
【0124】
次に、アルゴンイオンでエッチングして最表面から数nmの領域の表面組成をXPSのDepthProfile分析で明らかにした。
その結果、銅ペースト組成物A及びBともに最表面から1〜2nmよりも深い領域は還元銅で構成されていることがわかった。ただ、銅ペースト組成物Bの方は、Aと比較して数nmより深い領域でも炭素分が減らないことから、焼結密度が低いことが予想される。
また、SEM観察の結果でも焼結密度に明らかな差異があり、これが電気特性の差となって現れたと考えられる。従って、被覆銅粒子の低温焼結性を発現する仕組みは、被覆銅粒子の被覆材が低温で除去されることではなく、銅粒子同士の接触、ネッキング及び銅原子の相互拡散が阻害されないように適度に除去されることが重要なことがわかった。
本発明の被覆銅粒子から得られる焼結銅皮膜においては、粒子間に存在していた被覆材の脂肪族カルボン酸が効率的に除去されつつ、粒子の接触、ネッキング、及び銅原子の相互拡散が達成され、銅バルクの抵抗値に近い特性が達成できている。また、結果的に、焼結銅皮膜の最表面は、被覆材の脂肪族カルボン酸で覆われており、酸素に対するバリア層として期待ができることもわかった。