(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926344
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】非常停止時のロボットに関する不具合を防止するロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
B25J19/06
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-192948(P2014-192948)
(22)【出願日】2014年9月22日
(65)【公開番号】特開2016-64448(P2016-64448A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2015年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】有田 創一
【審査官】
佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−504053(JP,A)
【文献】
特開2004−188594(JP,A)
【文献】
特開2002−292468(JP,A)
【文献】
特開平05−084681(JP,A)
【文献】
特開昭63−134186(JP,A)
【文献】
特開2009−199155(JP,A)
【文献】
特開2013−052451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの動作を制御する制御部と、
前記ロボットを駆動する駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出する第1検出部と、
前記第1検出部が前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出したときに、所定の停止条件が満たされているか否かを判断する停止条件判断部と、
前記停止条件が満たされていれば前記ロボットの停止処理を実行し、前記停止条件が満たされていなければ前記ロボットの停止処理を実行しない停止処理実行部と、
を備えたロボット制御装置。
【請求項2】
前記停止条件は、ユーザによる所定の操作が行われたこと、又は前記ロボット制御装置に信号が入力されたことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記停止条件は、ロボットプログラム中で所定の命令が実行されたことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記停止条件は、指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットが到達したことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記停止条件は、ロボットプログラムの実行が完了したことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記停止条件は、前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出してから一定時間が経過したことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項7】
前記第1検出部が検出した前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大よりも、大きな度合いの前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出する第2検出部を備え、
前記停止条件は、前記第2検出部が、前記大きな度合いの前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出したことである、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項8】
前記第1検出部及び前記第2検出部は、検出する前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大の度合いのみ異なる同一の検出部である、請求項7に記載のロボット制御装置。
【請求項9】
前記停止条件を満たしたか否かを表示する表示部、及び前記停止条件を満たしたか否かを示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のロボット制御装置。
【請求項10】
前記指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットがどの程度近づいたかを表示する表示部、及び前記指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットがどの程度近づいたかを示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、請求項4に記載のロボット制御装置。
【請求項11】
前記一定時間が経過するまでの残り時間又は前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出してからの経過時間を表示する表示部、及び前記一定時間が経過するまでの残り時間又は前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出してからの経過時間を示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、請求項6に記載のロボット制御装置。
【請求項12】
前記駆動部のオーバヒート又は平均トルク過大を検出した時点からロボットの動作速度を低下させる、請求項1〜11のいずれか1項に記載のロボット制御装置。
【請求項13】
前記停止処理は、前記停止条件が満たされたら直ちにロボットを停止させること、所定のロボットプログラムを実行してからロボットを停止させること、又は予め設定した位置にロボットを移動させてからロボットを停止させることのいずれかである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットが非常停止した際のロボットへのダメージを軽減するとともに、非常停止からの復旧を容易にする機能を備えたロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット制御装置は通常、制御対象のロボットにおいて何らかの異常を検出した場合にロボットを非常停止させる。このときにロボットを即時停止させると、ロボットに過大な負荷がかかり、ロボットの故障や損傷につながることがある。
【0003】
これに関連する技術として、例えば特許文献1には、ロボットがエラー等で非常停止した際に、ロボットを待機位置へ安全に復帰させるためのプログラム作成装置が記載されており、該装置は、復帰プログラム作成装置は、自身が持つレイアウト情報、通知された情報、ロボットプログラムの教示点とその属性情報から、ロボットが停止位置から待機位置まで周辺物体との干渉なしで復帰できるようにプログラムを作成する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−012074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、ロボットが何らかの異常で非常停止した際に、ロボットを待機位置へ安全に復帰させることができる。しかし引用文献1には、ロボットが非常停止する際に受ける負荷を軽減することに関する記載はない。また予めロボット及びその周辺に存在する物体のレイアウト情報を有している必要があり、さらに、作成された復帰プログラムの動作を確認する必要もある。
【0006】
複雑に入り組んだ場所でロボットが停止してしまうと、その後の復旧が困難な場合がある。一方、ロボットを駆動するモータのオーバヒートや平均トルク過大等、異常の種類によっては、ロボットを即時停止させる必要がなく、ロボットが一連の作業を終えてから停止しても十分な場合がある。このような、即時停止を要さない異常が検出された場合は、その後の復旧が容易な位置にロボットを停止させることが望まれる。
【0007】
そこで本発明は、非常停止時のロボットへのダメージを軽減するとともに、非常停止からの復旧を容易にする機能を備えたロボット制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、ロボットの動作を制御する制御部と、予め設定された、前記ロボットの即時停止を要さない異常を検出する第1検出部と、前記第1検出部が前記ロボットの即時停止を要さない異常を検出したときに、所定の停止条件が満たされているか否かを判断する停止条件判断部と、前記停止条件が満たされていれば前記ロボットの停止処理を実行し、前記停止条件が満たされていなければ前記ロボットの停止処理を実行しない停止処理実行部と、を備えたロボット制御装置を提供する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記停止条件は、ユーザによる所定の操作が行われたこと、又は前記ロボット制御装置に信号が入力されたことである、ロボット制御装置を提供する。
【0010】
第3の発明は、第1の発明において、前記停止条件は、ロボットプログラム中で所定の命令が実行されたことである、ロボット制御装置を提供する。
【0011】
第4の発明は、第1の発明において、前記停止条件は、指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットが到達したことである、ロボット制御装置を提供する。
【0012】
第5の発明は、第1の発明において、前記停止条件は、ロボットプログラムの実行が完了したことである、ロボット制御装置を提供する。
【0013】
第6の発明は、第1の発明において、前記停止条件は、前記異常を検出してから一定時間が経過したことである、ロボット制御装置を提供する。
【0014】
第7の発明は、第1の発明において、前記予め設定した即時停止を要さない異常と同種で、かつ、予め設定した、より大きな度合いの異常を検出する第2検出部を備え、前記停止条件は、前記第2検出部が、前記予め設定した、より大きな度合いの異常を検出したことである、ロボット制御装置を提供する。
【0015】
第8の発明は、第7の発明において、前記第1検出部及び前記第2検出部は、検出する異常の度合いのみ異なる同一の検出部である、ロボット制御装置を提供する。
【0016】
第9の発明は、第1〜第8のいずれか1つの発明において、前記停止条件を満たしたか否かを表示する表示部、及び前記停止条件を満たしたか否かを示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、ロボット制御装置を提供する。
【0017】
第10の発明は、第4の発明において、前記指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットがどの程度近づいたかを表示する表示部、及び前記指定した位置若しくは領域に、又は指定した領域外に、ロボットがどの程度近づいたかを示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、ロボット制御装置を提供する。
【0018】
第11の発明は、第6の発明において、前記一定時間が経過するまでの残り時間又は前記異常を検出してからの経過時間を表示する表示部、及び前記一定時間が経過するまでの残り時間又は前記異常を検出してからの経過時間を示す信号を出力する信号出力部の少なくとも一方を有する、ロボット制御装置を提供する。
【0019】
第12の発明は、第1〜第11のいずれか1つの発明において、前記異常を検出した時点からロボットの動作速度を低下させる、ロボット制御装置を提供する。
【0020】
第13の発明は、第1〜第12のいずれか1つの発明において、前記停止処理は、前記停止条件が満たされたら直ちにロボットを停止させること、所定のロボットプログラムを実行してからロボットを停止させること、又は予め設定した位置にロボットを移動させてからロボットを停止させることのいずれかである、ロボット制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常検出によってロボットを非常停止させるべき場合でも、検出された異常が即時停止を要さないものであるときは、ロボットを即時停止させずに動かし続けることができるので、ロボットに過大な負荷がかかることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
【
図2】
図1のロボット制御装置における処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図1のロボット制御装置の表示部が表示可能な設定画面の一例を示す図である。
【
図4】検出された異常の度合いに応じてロボットの速度を低下させる処理の一例を説明するグラフである。
【
図5】
図1のロボット制御装置の表示部が表示可能な状態画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の好適な実施形態に係るロボット制御装置10の機能ブロック図である。ロボット制御装置10は、概略図示したロボット(例えば6軸の多関節ロボット)12の動作を、所定のロボットプログラム等に従って制御する制御部14と、予め設定された、ロボット12の即時停止を要さない異常を検出する第1検出部16と、第1検出部16がロボット12の即時停止を要さない異常を検出したときに、所定の停止条件が満たされているか否かを判断する停止条件判断部18と、該停止条件が満たされていればロボット12の停止処理を実行し、該停止条件が満たされていなければロボット12の停止処理を実行しない停止処理実行部20とを備える。
【0024】
またロボット制御装置10は、予め設定された即時停止を要さない異常と同種で、かつ、より大きな度合いの異常を検出する第2検出部22と、後述する情報を表示する表示部24と、該情報を信号として出力する信号出力部26とを有してもよい。
【0025】
図2は、本発明に係るロボット制御装置における基本的な処理を説明するフローチャートである。ロボット制御装置10がロボット12の制御中に、上述の第1検出部16が、予め設定された、ロボット12の即時停止を要さない異常を検出した場合(ステップS1)は、停止条件判断部18が、所定の停止条件が満たされているか(成立しているか)否かを判断する(ステップS2)。停止条件が成立していれば、停止処理実行部20がロボット12の停止処理を実行する(ステップS3)が、停止条件が成立していない場合は停止条件が成立するまで停止処理は実行されない。
【0026】
ここで「予め設定された即時停止を要さない異常」とは、例えばロボット12の各軸を駆動するサーボモータ等の駆動部のオーバヒートや、一定時間内でのサーボモータの平均トルクが所定の上限値を超えた場合(平均トルク過大)等、ロボット12を即時に停止させなくとも、作業者の負傷やロボットの損傷に至る可能性がない又は非常に低いと考えられる異常を意味する。
【0027】
ステップS2における所定の停止条件は、単一の条件であってもよいし、複数の条件を含むものでもよい。複数の条件を含む場合は、そのうち1つでも条件を満たしたら停止処理を実行してもよいし、全ての条件を満たしたら停止処理を実行してもよいし、複数の条件のうち、予め指定したいくつかの条件が同時に成立したら停止処理を実行してもよい。
【0028】
また停止処理を実行する方法として、ロボットの各軸を単に減速させて停止させてもよいし、停止処理として予め設定したロボットプログラムを実行させてもよい。
【0029】
以下、上述の停止条件の具体例を、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、例えば上述の表示部24が表示可能なユーザ設定画面30の一例を示しており、設定画面30では、ユーザがボタン操作によって入力操作ができるようになっている。
【0030】
設定画面30では、ユーザによる手動停止のためのボタン32が用意されており、ユーザがボタン32を押したらロボット12の停止処理が実行可能となるようにすることができる。ただし、ボタン32は通常は、操作できない状態(
図3ではボタン32を破線で図示)となっており、ロボット12の異常が検出されたら操作できるようになり、さらに、ロボットが停止したら操作できないようにすることができる。
【0031】
手動停止ボタン32により、ユーザは自らの意思で能動的に、復旧に都合がよいタイミングでロボットを停止させることができる。なお
図3では、停止条件の例としてユーザによる設定画面のボタン操作(手動停止)が説明されているが、他の手動停止操作として、ハードウェアのキー入力、外部機器からの停止指令、又は環境変数等の変更を利用してもよい。
【0032】
図3において参照符号34で示すように、停止条件として自動停止条件を利用することもできる。
図3の例では以下の7つの停止条件が例示されており、いずれも設定画面からユーザが選択して有効化することができる。
(1)信号入力
(2)(ロボットが)指定位置に到達
(3)(ロボットが)指定領域に到達
(4)(ロボットが)指定領域外に到達
(5)(ロボット)プログラム実行完了
(6)(異常検出から)一定時間経過
(7)異常レベルを更に超過
【0033】
条件(1)に関し、信号入力としては例えば、ロボット12が復旧に適した状態(例えば待機位置に復帰)になったときに、外部機器から信号が自動的にロボット制御装置10に入力されるように予め設定しておくことが挙げられる。
【0034】
条件(2)−(4)では、予め指定した位置若しくは領域に、又は予め指定した領域外に、ロボットが到達したら、停止処理を実行する。ここで位置又は領域を指定する際、各軸形式で指定してもよいし、直交形式で指定してもよい。さらに、各軸形式で指定する場合、複数の軸のうちの一部のみについて指定してもよいし、全ての軸について指定してもよい。また直交形式で指定する際、一部の方向のみについて指定してもよいし、ロボットの手先(ハンド先端)の姿勢や、付加軸の位置を考慮してもよい。
【0035】
また指定位置又は指定領域については、予め許容誤差を設定しておくこともできる。また領域を指定する際、その領域は任意の形状でよく、さらに完全に閉じた領域ではなく、一部の方向に関して開放された領域としてもよい。条件(2)−(4)の使用により、ロボットを非常停止からの復旧に適した場所に停止させることができる。
【0036】
さらに条件(2)−(4)については、組み合わせて利用することもできる。例えば、設定画面30(自動停止条件34)において(2)「指定位置に到達」及び(3)「指定領域に到達」が同時に指定(選択)された場合、(2)で設定された位置のうち(3)で設定された領域に含まれる位置だけを有効とすることができる。また(2)「指定位置に到達」及び(4)「指定領域外に到達」が同時に指定(選択)された場合、(2)で設定された位置のうち(4)で設定された領域に含まれない位置だけを有効とすることができる。さらに、(3)「指定領域に到達」及び(4)「指定領域外に到達」が同時に指定(選択)された場合、(3)で設定された領域に含まれ、かつ(4)で設定された領域に含まれない領域だけを有効とすることができる。
【0037】
条件(5)を選択すると、ロボットプログラムの実行が完了したらロボットの停止処理を実行することができる。例えば、複数のロボットプログラムのうち予め指定された1つ以上の特定のロボットプログラムの実行が完了したら停止処理を実行してもよいし、全てのロボットプログラムの実行が完了したら停止処理を実行してもよい。条件(5)により、プログラム実行中の中途半端な状況でロボットが停止することを防止できる。
【0038】
条件(6)を選択すると、異常を検出してから、予め設定した一定時間(例えば30〜60秒)が経過したら、ロボットの停止処理を実行することができる。条件(6)により、異常検出後も一定時間ロボットの動作を続行することができるので、ロボットに過大な負荷をかけずに安全に停止させることができる。
【0039】
条件(7)では、上述の第1検出部16によって「即時停止を要さない異常」が検出された後、さらに第2検出部22によって「即時停止を要さない異常」の度合いがさらに大きくなったことが検出されたときに、ロボット12の停止処理を実行することができる。例えば、ロボット12のある軸の速度が100%(上限値)を超えたことを第1検出部16が検出し、さらに該速度が上限値の120%に達したことを第2検出部22が検出したときに、停止処理を実行することができる。
【0040】
異常がオーバヒートの場合、同一の温度センサで、複数の閾値を設定することにより、異常の度合いを検出することもできる。このように、第1検出部16及び第2検出部22において検出する異常の度合いのみが異なる場合は、両検出部は実質同一の装置とすることができ、コスト低減が図れる。もちろん、第1検出部16及び第2検出部22を別々の温度センサとしたり、第1検出部16及び第2検出部22の少なくとも一方を、熱シミュレーションが実行可能なソフトウェアとしたりすることもできる。
【0041】
図3において参照符号36で示すように、設定画面30では、異常を検出した時点からロボット12の速度を低下させるための種々の設定(入力)をすることができ、これによりロボットを異常から保護することができる。図示例では、ロボットの速度に関して以下の5つの速度緩和項目が例示されており、いずれも設定画面からユーザが選択して有効化することができる。
(A)通常の[ ]%にする
(B)1秒間に[ ]%ずつ、通常の[ ]%まで低下させる
(C)ツール先端点の速度を[ ]mm/s以下にする
(D)各軸の速度を[ ]deg/s以下にする
(E)検出された異常度合いに応じて低下させる
【0042】
項目(A)、(C)及び(D)に関する設定は、動作速度を不連続に下げてもよいし、徐々に下げてもよい。項目(B)に関する設定は、図示例のように通常の何%としてもよいし、ユーザが指定した速度以下としてもよい。また項目(D)に関する設定は、例えば操作ボタン38を操作することにより、軸毎に設定できるようにすることもできる。なお上記項目(A)−(E)は、矛盾のない範囲で適宜組み合わせて使用することもできる。
【0043】
項目(E)に関し、検出された異常度合いを逐次監視できる手段を用意することもできる。例えば、検出された異常がオーバヒートである場合、温度センサで対象物の温度を逐次監視し、停止条件の判断に使用することができる。より具体的には、平常時の温度又は気温を別途測定しておき、現在の温度又は気温との差を、第1の検出部16の閾値を100%としたパーセンテージで計算し、得られた値を逐次監視することができる。
【0044】
図4は、項目(E)における(ロボットの速度を)「検出された異常度合いに応じて低下させる」ことの一例を説明する図である。先ず、ロボットの温度が、第1の検出部16について設定された閾値に達したときを異常度合い100%とし、このときのロボットの速度を通常時の0%〜100%の値に設定する(図示例では100%)。次に、ロボットの温度がさらに高くなる(異常(オーバヒート)の度合いが上昇する)につれて、ロボットの速度を徐々に低下させる。図示例では、異常度合いが100%から120%に至るまで、ロボットの速度を通常の100%から50%まで一次関数的に減少させている。なお速度の減少が一次関数である必要はないが、単調減少又は段階的に減少させることが好ましい。
【0045】
なお、
図4に例示したような異常度合いに応じた速度緩和を、複数のパラメータ(例えばモータの温度と平均トルク)について設定することもできるが、その場合は、選択されたパラメータ毎の異常度合いに応じて求めた速度のうち、最も低い速度を採用することが好ましい。或いは、各パラメータについて優先順位を予め定めておき、優先順位が最も高い1つのパラメータのみについての異常度合いを有効とすることもできる。
【0046】
上述の停止条件を満たした後は、ロボットを直ちに停止させてもよいが、所定のロボットプログラムを実行してからロボットを停止させてもよいし、予め設定した位置にロボットを移動させてからロボットを停止させてもよい。例えば、
図3において参照符号40で示すように、以下の2つのオプションを用意し、設定画面30でユーザが選択して有効化できるようにすることができる。
(a)プログラムを実行してから停止
(b)指定した位置に移動してから停止
【0047】
図3の例では、オプション(a)及び(b)はいずれか一方のみ選択可能とすることが好ましい。またどちらも選択されていない場合は、ロボットは停止条件を満たした直後にその場で停止する。なおここでの「ロボットプログラム」は、ロボットの動作を含まないものでもよい。
【0048】
図5に示すように、表示部24は、上述の設定画面30に加え、ロボットの状態を示す状態画面42を表示することもできる。状態画面42は、停止条件を満たした際に、どの条件が満たされたのかを表示することができる。
【0049】
図5の例では、状態画面42は、設定画面30の自動停止条件34に相当する7つの条件を表示しており、さらに、満たされた停止条件が(3)「指定領域に到達」であることを示している。このとき、条件(2)−(4)については、指定位置又は指定領域までの(最短)距離を数値として表示してもよい。また数値表示に加え又はこれの代わりに、指定位置又は指定領域とロボットの現在位置とをグラフィカルに表示してもよい。
【0050】
また条件(6)については、一定時間経過までの残り時間を表示してもよいし、異常検出からの経過時間を表示してもよい。このような表示機能により、ユーザは、現在の状態が停止条件の成立にどの程度近づいているかを定量的に容易に知ることができる。さらにユーザは、これらの情報を、設定画面30において手動停止(ボタン32)を利用する際のタイミングの判断に利用することもできる。
【0051】
図5の例では、ロボットの「状態」として、「異常未検出」、「異常検出」又は「停止完了」のいずれかを表示することができ、図示例では「停止完了」が表示されている。また、状態画面42に表示された種々の情報は、信号出力部26によって信号として他の外部機器等に出力可能であり、これにより該外部機器において情報を表示・確認できるようにすることができる。
【0052】
以下、
図3の設定画面30を用いたロボット制御装置の操作の一例を説明する。先ず、ユーザが設定画面30で設定を行い、ロボットプログラムを動作させる。
【0053】
ロボットプログラム動作中に、オーバヒート等の即時停止を要さない異常が検出された場合、ロボットを即座には停止させない。ここで、参照符号36で示す「異常検出後にロボットの動作を緩める」に関する項目のいずれかが設定されていた場合、その設定内容に基づいてロボット12の速度を低下させる。
【0054】
但し、異常検出後、以下の(I)−(III)のいずれかに該当する場合は、ロボットの停止処理を実行する。なお停止処理は、参照符号40で示すオプションが選択されている場合は、それが優先される。
(I)設定画面30で「ロボット停止」ボタン32を押した場合
(II)自動停止条件34で予め設定された項目のいずれかが成立した場合
(III)ロボットプログラム中に教示された所定の命令が実行された場合
【0055】
上記項目(III)に関連し、プログラム中の任意の場所に命令を教示しておくことで、復旧に都合のよいタイミングでロボットを停止させることができる。
【0056】
なお上述の実施形態では、設定画面30や状態画面42等の専用の仮面での表示例を説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、停止処理を実行する時に発生させるアラームを文字列として表示する形態も可能である。また表示するデバイスはロボット制御装置の表示部の他、教示操作盤、外部操作盤、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、又はタブレット等でもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ロボット制御装置
12 ロボット
14 制御部
16 第1検出部
18 停止条件判断部
20 停止処理実行部
22 第2検出部
24 表示部
26 信号出力部