特許第5926346号(P5926346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926346
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】人間協調ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   B25J19/06
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-195143(P2014-195143)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-64474(P2016-64474A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2015年8月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】王 悦来
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康広
(72)【発明者】
【氏名】有田 創一
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−188504(JP,A)
【文献】 特開2003−025272(JP,A)
【文献】 特開平11−070490(JP,A)
【文献】 特開2013−133192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットシステムであって、
ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する物理量を直接的又は間接的に検出する検出部と、
前記検出部により検出された物理量を、第1の閾値及び第1の閾値よりも大きい第2の閾値とそれぞれ比較し、前記物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の閾値未満であるときに、前記ロボットを所定の停止方法に従って停止させるとともに、前記物理量が前記第2の閾値以上であるときは、前記ロボットを前記所定の停止方法よりも短時間で停止させる停止指令部と、
を備える、人間協調ロボットシステム。
【請求項2】
前記物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである、請求項1に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項3】
前記物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値である、請求項1に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項4】
前記物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅である、請求項1に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項5】
ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットシステムであって、
ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する第1の物理量を直接的又は間接的に検出する第1の検出部と、
ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する第2の物理量を直接的又は間接的に検出する第2の検出部と、
前記第1の検出部により検出される前記第1の物理量を第1の閾値と比較するとともに、前記第2の検出部により検出される前記第2の物理量を第3の閾値と比較し、前記第1の物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の物理量が前記第3の閾値未満であるときに、前記ロボットを所定の停止方法に従って停止させるとともに、前記第1の物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の物理量が前記第3の閾値以上であるときに、前記ロボットを前記所定の停止方法よりも短時間で停止させる停止指令部と、
を備える、人間協調ロボットシステム。
【請求項6】
前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値である、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項7】
前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅である、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項8】
前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項9】
前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値であり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項10】
前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値であり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項11】
前記第1の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅であり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【請求項12】
前記第1の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅であり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である、請求項5に記載の人間協調ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
安全柵によって人間の作業空間から隔離された作業空間で動作する従来のロボットに対し、近年、ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットの普及が進んでいる。人間協調ロボットは、人間に危害を加えないように安全を確保することが必要である。
【0003】
特許文献1には、ロボット又はロボットに取付けられた作業機器に設置される力センサの検出値が所定の値を超えたときに、ロボットを停止させるか、又は力センサの検出値が小さくなるようにロボットの動作を制御するようにした人間協調ロボットシステムが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ロボットアームが障害物に衝突したことを検出する衝突検出装置を備えており、衝突検出装置からの情報に基づいて、ロボット及び障害物に対する機械的ダメージを最小限に抑えるように適切な停止方法を選択的に実行するようにしたロボットシステムが開示されている。具体的には、この公知技術によれば、サーボモータの回転方向と衝突トルクの方向との関係、及びサーボモータの回転速度などの情報に基づいて、急停止処理、柔軟停止処理、又は全軸引戻し処理のいずれかの方法に従って、ロボットを停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−040626号公報
【特許文献2】特開2010−137312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る公知技術では、ロボットと人間との接触を検知したときにロボットに対して常に所定の動作を実行させる。そのため、例えばロボットに接触した作業者が、急停止するロボットによって危険を感じてしまい、実際には危険性が低いにもかかわらず、作業に支障を来すことがある。種々の停止処理を選択的に実行する特許文献2に係る公知技術においても、ロボットに接触した作業者に安心感を与えるような態様でロボットを停止させることは想定されていない。
【0007】
したがって、ロボット及びロボットの外部環境の安全を確保しながら、人間に安心感を与えるようにロボットを円滑に停止できるように構成された人間協調ロボットシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1番目の発明によれば、ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットシステムであって、ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する物理量を直接的又は間接的に検出する検出部と、前記検出部により検出された物理量を、第1の閾値及び第1の閾値よりも大きい第2の閾値とそれぞれ比較し、前記物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の閾値未満であるときに、前記ロボットを所定の停止方法に従って停止させるとともに、前記物理量が前記第2の閾値以上であるときは、前記ロボットを前記所定の停止方法よりも短時間で停止させる停止指令部と、を備える、人間協調ロボットシステムが提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである。
3番目の発明によれば、1番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値である。
4番目の発明によれば、1番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅である。
5番目の発明によれば、ロボット及び人間が作業空間を共有する人間協調ロボットシステムであって、ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する第1の物理量を直接的又は間接的に検出する第1の検出部と、ロボットが外部環境と接触した際にロボットが受ける接触力に応じて変化する第2の物理量を直接的又は間接的に検出する第2の検出部と、前記第1の検出部により検出される前記第1の物理量を第1の閾値と比較するとともに、前記第2の検出部により検出される前記第2の物理量を第3の閾値と比較し、前記第1の物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の物理量が前記第3の閾値未満であるときに、前記ロボットを所定の停止方法に従って停止させるとともに、前記第1の物理量が前記第1の閾値以上であって、かつ前記第2の物理量が前記第3の閾値以上であるときに、前記ロボットを前記所定の停止方法よりも短時間で停止させる停止指令部と、を備える、人間協調ロボットシステムが提供される。
6番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値である。
7番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅である。
8番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクであり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である。
9番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値であり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである。
10番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクの時間に関する微分値であり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である。
11番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅であり、前記第2の物理量は、前記ロボットが前記外部環境から受ける力又はトルクである。
12番目の発明によれば、5番目の発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて、前記第1の物理量は、前記外部環境から受ける力又はトルクの所定の振動数における振動の振幅であり、前記第2の物理量は前記ロボットの速度である。
【0009】
これら及び他の本発明の目的、特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の例示的な実施形態に係る詳細な説明を参照することによって、より明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る人間協調ロボットシステムによれば、ロボットが外部環境と接触したときの接触力に応じて変化する物理量に基づいて、停止時間が異なる停止方法を選択的に適用してロボットを停止させる。すなわち、ロボットの周囲の作業者に対する危険性が高いときには、ロボットを急停止させるとともに、危険性が低いときにはロボットを円滑に停止させる。それにより、ロボット及び外部環境の安全を確保しつつ、作業者に安心感を与えるような円滑停止を可能にする人間協調ロボットシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る人間協調ロボットシステムにおいて使用されるロボットの構成例を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る人間協調ロボットシステムの機能ブロック図である。
図3】検出部により検出される物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図4】検出部により検出される物理量が外力の微分値である場合の例を示すグラフである。
図5A】検出部により検出される物理量が外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。
図5B】検出部により検出される物理量が外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。
図6】第2の実施形態に係る人間協調ロボットシステムにおいて、検出部の構成を示す機能ブロック図である。
図7A】検出部により検出される第1の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図7B】検出部により検出される第2の物理量が外力の微分値である場合の例を示すグラフである。
図8A】検出部により検出される第1の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図8B】検出部により検出される第2の物理量が外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。
図9A】検出部により検出される第1の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図9B】検出部により検出される第2の物理量がロボットの速度である場合の例を示すグラフである。
図10A】検出部により検出される第1の物理量が外力の微分値である場合の例を示すグラフである。
図10B】検出部により検出される第2の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図11A】検出部により検出される第1の物理量が外力の微分値である場合の例を示すグラフである。
図11B】検出部により検出される第2の物理量がロボットの速度である場合の例を示すグラフである。
図12A】検出部により検出される第1の物理量が外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。
図12B】検出部により検出される第2の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図13A】検出部により検出される第1の物理量が外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。
図13B】検出部により検出される第2の物理量がロボットの速度である場合の例を示すグラフである。
図14】第1の変形例において、検出部により検出される物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図15A】第2の変形例において、検出部により検出される第1の物理量が外力である場合の例を示すグラフである。
図15B】第2の変形例において、検出部により検出される第2の物理量がロボットの速度である場合の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図示される構成要素は、本発明の理解を助けるために縮尺が適宜変更されている。また、同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が使用される。
【0013】
図1は、本発明に係る人間協調ロボットシステム(以下、単に「ロボットシステム」という。)の構成例を示す図である。ロボットシステム10は、ロボット3及び人間が作業空間を共有することを意図して構成されている。ロボット3は、例えば図示されるような6軸の垂直多関節ロボットである。しかしながら、ロボット3は、他の任意の構成を有する公知のロボットであってもよい。ロボット3は、各関節軸に設けられたサーボモータ33(幾つかのサーボモータのみが図示される)によって、所望の位置及び姿勢を有するように動作する。ロボット3の各サーボモータ33は、通信ケーブル5などの公知の通信手段を介して制御装置4から送出される制御指令に従って駆動される。
【0014】
ロボット3は、アーム31の先端の手首32に取付けられたエンドエフェクタ(図示せず)によって所望の作業を実行できるようになっている。エンドエフェクタは、用途に応じて交換可能な外部装置であり、例えば対象物を把持するハンド、溶接ガン、工具などである。
【0015】
ロボット3は、ロボット3の動作状態を検出する各種センサ(図示せず)を備えている。センサには、例えばロボット3に作用する外力を検出する力センサ、ロボット3の各関節軸に作用するトルクを検出するトルクセンサ、ロボット3の加速度を検出する加速度センサ、サーボモータ33の回転位置を検出するエンコーダ、その他三次元測定器などが含まれるものの、それらには限定されない。各種センサは、ロボット3の機体内部に内蔵されていてもよいし、ロボット3の機体外部に取付けられてもよい。
【0016】
制御装置4は、CPU、RAM、ROM、並びに表示デバイス及び入力デバイスなどの外部装置との間で信号ないしデータを送受信するインタフェースなどを含むハードウェア構成を有するデジタルコンピュータである。図2は、一実施形態に係るロボットシステム10の機能ブロック図である。図示されるように、制御装置4は、指令作成部41と、検出部42と、停止指令部43と、を備えている。
【0017】
指令作成部41は、ロボット3に対する制御指令を作成する。制御指令は、例えばROMに記憶されたロボットプログラム44に従ってロボット3に所定の作業を実行させるように作成される。また、指令作成部41は、後述する停止指令部43から送出される信号に従って、ロボット3を安全のために停止させる停止指令を作成する。
【0018】
検出部42は、ロボット3に設けられる種々のセンサ6と協働して、ロボット3の動作状態に関連付けられる物理量を検出する。検出部42によって検出される物理量は、ロボット3が外部環境(例えばロボット3の周囲の物体又は作業者)と接触したときに生じる接触力に応じて変化する物理量である。検出部42により検出される物理量は、ロボット3が受ける接触力の大きさに応じて増減する性質を有しており、例えばロボット3に作用する外力(力又はトルク)、時間に関する外力の微分値、外力の振動の振幅、ロボット3の速度などである。検出部42は、それら物理量を、センサ6の検出値から直接的に取得するか、或いはセンサ6の検出値に基づいて、演算によって間接的に取得する。
【0019】
停止指令部43は、検出部42によって検出される所定の物理量と、予め定められる閾値を比較し、その比較結果に基づいてロボット3を急停止させるべきか否か、又は円滑停止させるべきか否かを判定する。「急停止」は、ロボット3を可及的速やかに停止させる停止処理を意味する。他方、「円滑停止」は、急停止に比べて、より長い停止時間をかけてロボット3を円滑に停止させる停止処理を意味する。円滑停止を実行するとき、制御装置4は、例えば減速度を所定の値以下に制限したり、或いはロボット3と外部環境との間に作用する接触力が小さくなるような方向にロボット3を退避させたりしてロボット3を円滑に停止させる。
【0020】
一実施形態によれば、停止指令部43は、検出部42により検出される物理量が、第1の閾値Th1以上であって、かつ第2の閾値Th2未満であるときに、ロボット3を円滑停止させるように、所定の信号を指令作成部41に送出する。また、物理量が第2の閾値Th2以上であるときは、ロボット3を急停止させるように、対応する信号を指令作成部41に送出する。なお、物理量が第1の閾値Th1未満のときは、ロボット3と外部環境との接触が生じていないとみなす。この場合、停止指令部43から信号が指令作成部41に送出されず、ロボット3はロボットプログラム44の内容に従って所定の作業を継続する。
【0021】
前述した実施形態に係るロボットシステム10においては、検出される物理量の大きさに応じてロボット3の停止動作が選択的に実行されるので、接触による危険度が高いときにはロボット3が速やかに停止し、ロボット及び作業者の安全を確保しながら、接触による危険度が比較的低いときには、作業者に対して安心感を与えるような態様でロボット3が円滑停止する。それにより、ロボット及び外部環境の安全を確保しながら、作業者が安心して作業できる作業環境を提供できるようになる。
【0022】
図3図6を参照して第1の実施形態に係るロボットシステム10における停止指令部43によるロボット3の停止方法の選択について説明する。
【0023】
図3は、検出部42により検出される物理量がロボット3に作用する外力(力又はトルク)である場合の例を示すグラフである。ロボット3に作用する外力は、例えばロボット3の手首32、若しくはロボット3のベース(床面に固定される非可動部)などのロボット3の機体に設けられる力センサ、又はロボット3の関節軸に設けられるトルクセンサなどによって検出される。検出部42により検出される外力は、ロボット3が外部環境に接触したときにロボット3が受ける反作用力である。そのため、検出部42により検出される外力が増大するのに従って、外部環境、例えば作業者の危険性は増大することが推定される。
【0024】
図3のグラフの横軸は時間、縦軸は外力を表している。グラフの点線は第1の閾値Th1、破線は第2の閾値Th2を示している。図示される例において、時間t1において、検出部42により検出される外力が第1の閾値Th1に達する。したがって、停止指令部43は、時間t1においてロボット3が外部環境に接触したとみなし、ロボット3を円滑停止させるように指令作成部41に信号を送出する。
【0025】
図示された例では、ロボット3を円滑停止させた結果、外力は第2の閾値Th2を超えることなく、ロボット3を停止することができた。他方、ロボット3を円滑停止させようとしたにもかかわらず、外力が第2の閾値Th2以上に達した場合、停止指令部43は指令作成部41に信号を送出し、ロボット3を急停止させる。なお、複数の力センサ又は複数のトルクセンサが用いられる場合、いずれか1つのセンサにおいてロボットと外部環境との接触が検出されたときに、ロボット3の停止処理が実行される。
【0026】
図4は、検出部42により検出される物理量が、ロボット3に作用する外力(力又はトルク)の時間に関する微分値である場合の例を示すグラフである。図4のグラフの横軸は時間、縦軸は外力の微分値を表している。この場合、検出部42は、センサ6により検出されるロボット3に作用する外力に基づいて、外力の微分値を演算する。外力の微分値は、ロボット3が外部環境に接触したときの接触力の大きさに対する相関関係を有する。例えば、ロボット3と接触する外部環境が柔軟な物体(例えば人間の身体)である場合、物体が変形することにより一部の力が吸収される。その結果、外力の変化量、すなわち外力の微分値が小さくなる。他方、物体が剛性の高い材料から形成される場合、ロボット3と接触したときに物体が変形しないので、外力の変化量、すなわち外力の微分値が大きくなる。そのため、外力の微分値が増大するのに従って、ロボット3と外部環境との接触による危険性は増大する傾向にあるといえる。
【0027】
図4のグラフの点線は第1の閾値Th1、破線は第2の閾値Th2を示している。図示される例において、時間t1において、検出部42により検出される外力の微分値が第1の閾値Th1以上の値をとる。したがって、停止指令部43は、時間t1においてロボット3が外部環境に接触したとみなし、ロボット3を円滑停止させるように指令作成部41に信号を送出する。他方、円滑停止を実行したにもかかわらず、外力の微分値が第2の閾値Th2以上に達した場合、停止指令部43は指令作成部41に信号を送出し、ロボット3を急停止させる。
【0028】
図5A及び図5Bは、検出部42により検出される物理量がロボット3に作用する外力の振動の振幅である場合の例を示すグラフである。図5Aの横軸は時間、縦軸は外力を表している。図5Aのグラフに示される外力はノイズを含んでおり、比較的小さな振幅を伴って振動している。ロボット3が外部環境と接触したとき、ロボット3の振動が増大し、その結果として、所定の振動数における外力の振動の振幅が増大する。
【0029】
図5Bのグラフの縦軸は、図5Aの外力から演算により求められる所定の振動数における外力の振動の振幅を表している。すなわち、本実施形態によれば、検出部42は、センサ6からの外力の検出値に基づいて、外力の振動の振幅を演算する。外力停止指令部43は、外力の振動の振幅が第1の閾値Th1以上に達した時間t1において、ロボット3を円滑停止させるように信号を指令作成部41に送出する。また、外力の振動の振幅がTh2以上に達した場合には、ロボット3と外部環境との接触による危険性が高いとみなして、停止指令部43は、ロボット3を急停止させるように信号を指令作成部41に送出する。
【0030】
図6は、第2の実施形態に係るロボットシステム10において、検出部42の構成を示す機能ブロック図である。本実施形態において、ロボットシステム10は、二種類の異なる物理量(以下、「第1の物理量」、「第2の物理量」という。)に基づいて、ロボット3の停止動作を制御する。検出部42は、図示されるように第1の検出部42a及び第2の検出部42bを備えている。第1の検出部42a及び第2の検出部42bは、第1の物理量及び第2の物理量をそれぞれ検出する。第1の物理量及び第2の物理量は、それぞれロボット3が外部環境と接触したときの接触力に応じて変化する物理量である。第1の物理量及び第2の物理量は互いに異なる物理量であるものの、同一のセンサ6から直接的又は間接的にそれぞれ取得されてもよい。或いは、第1の物理量及び第2の物理量は、互いに別個のセンサからそれぞれ取得されてもよい。
【0031】
本実施形態によれば、停止指令部43は、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量が第1の閾値Th1以上であって、かつ第2の検出部42bにより検出される第2の物理量が第3の閾値Th3未満であるときに、ロボット3を円滑停止させるように、所定の信号を指令作成部41に送出する。また、停止指令部43は、第1の物理量が第1の閾値Th1以上であって、かつ第2の物理量が第3の閾値Th3以上であるときに、ロボット3を急停止させるように、対応する信号を指令作成部41に送出する。図7A図13Bを参照して、本実施形態の適用例を説明する。
【0032】
図7A及び図7Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量が外力の微分値である場合の例をそれぞれ示している。すなわち、図7Aのグラフの縦軸は外力であり、図7Bのグラフの縦軸は外力の微分値である。図7Aに示されるように、第1の検出部42aにより検出される外力は時間t1において第1の閾値Th1に達する。したがって、停止指令部43は、時間t1においてロボット3が外部環境と接触したと判定する。その場合、停止指令部43は、図7Bに示される外力の微分値と第3の閾値Th3とを比較し、ロボット3を円滑停止すべきか、又は急停止すべきかを判定する。
【0033】
すなわち、停止指令部43は、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力の微分値が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させるとともに、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力の微分値が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0034】
図8A及び図8Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量が所定振動数における外力の振動の振幅である場合の例をそれぞれ示している。本実施形態によれば、停止指令部43は、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力の振動の振幅が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、停止指令部43は、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力の振動の振幅が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。図示された例の場合、図8Bに示されるように、外力の振動の振幅が第3の閾値Th3未満である。したがって、停止指令部43は、ロボット3を円滑停止させるように対応する信号を指令作成部41に送出する。
【0035】
図9A及び図9Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量がロボット3の速度である場合の例をそれぞれ示している。ロボット3が外部環境と接触するとき、ロボット3の速度の大きさに従って、接触時の衝撃は大きくなる。したがって、ロボット3の速度が増大するのに従って、ロボット3及び外部環境に対する危険性が増大するとみなすことができる。ロボット3の速度は、例えば加速度センサの検出値、又は各々のサーボモータ33に対して設けられるエンコーダなどの検出値に基づいて、演算により求められる。
【0036】
すなわち、本実施形態によれば、停止指令部43は、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、停止指令部43は、外力が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0037】
図10A及び図10Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力の時間に関する微分値であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量がロボット3に作用する外力である場合の例をそれぞれ示している。すなわち、停止指令部43は、外力の微分値が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、停止指令部43は、外力の微分値が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0038】
図11A及び図11Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力の時間に関する微分値であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量がロボット3の速度である場合の例をそれぞれ示している。すなわち、停止指令部43は、外力の微分値が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、停止指令部43は、外力の微分値が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0039】
図12A及び図12Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量が所定の振動数における外力の振動の振幅であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量がロボット3に作用する外力である場合の例をそれぞれ示している。すなわち、停止指令部43は、外力の振動の振幅が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、外力の振動の振幅が第1の閾値Th1以上であって、かつ外力が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0040】
図13A及び図13Bは、第1の検出部42aにより検出される第1の物理量が所定の振動数における外力の振動の振幅であり、第2の検出部42bにより検出される第2の物理量がロボット3の速度である場合の例をそれぞれ示している。すなわち、停止指令部43は、外力の振動の振幅が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値Th3未満であるときには、ロボット3を円滑停止させる。また、外力の振動の振幅が第1の閾値Th1以上であって、かつロボット3の速度が第3の閾値Th3以上であるときには、ロボット3を急停止させる。
【0041】
別の実施形態において、物理量を3つ以上の閾値と比較して、ロボット3の停止動作を段階的に制御してもよい。図14は、この思想を第1の実施形態に適用した変形例を説明するグラフである。図14には、第1〜第6の閾値Th1〜Th6が破線で示されている。停止指令部43は、検出部42により検出される物理量、すなわちこの場合における外力が、いずれの2つの閾値の間の範囲に含まれるかに応じて段階的に停止処理を実行する。すなわち、制御装置4は、例えば、外力が第4の閾値Th4と第5の閾値Th5との間に含まれる場合、外力が第3の閾値Th3と第4の閾値Th4との間に含まれる場合よりも短時間でロボット3が停止するように停止方法を選択して実行する。したがって、指令作成部41は、停止指令部43から送出される信号に従って、検出部42によって検出される外力が増大するのに応じて、より短時間でロボット3を停止させるように停止指令を作成する。
【0042】
図15A及び図15Bは、図14を参照して説明した思想を第2の実施形態に適用した変形例を説明するグラフである。図示された例においては、第1の検出部42a(図6参照)により検出される第1の物理量がロボット3に作用する外力であり、第2の検出部42bより検出される第2の物理量がロボット3の速度である。停止指令部43は、第1の検出部42aによって検出される外力が第1の閾値Th1以上である場合に、ロボット3の速度が第3の閾値Th3〜第8の閾値Th8のいずれの閾値を超えたかに応じて信号を指令作成部41に対して送出する。指令作成部41は、停止指令部43から送出される信号に従って、ロボット3の速度が増大するのに応じて、段階的により短時間でロボット3を停止させるように停止指令を作成する。
【0043】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、或いは公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。
【符号の説明】
【0044】
10 人間協調ロボットシステム
3 ロボット
31 アーム
32 手首
33 サーボモータ
4 制御装置
41 指令作成部
42 検出部
42a 第1の検出部
42b 第2の検出部
43 停止指令部
44 ロボットプログラム
5 通信ケーブル
6 センサ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15A
図15B