【実施例】
【0022】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0023】
第1実施例・・・
図1は、本発明の第1実施例に係る密封装置の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置は例えば、自動車関連の分野においてエンジンシールとして用いられるものであって、機内Aの油が機外Bへ漏洩するのを抑制するとともに機外Bの外部ダストが機内Aへ侵入するのを抑制する。また、当該実施例に係る密封装置は、機内Aに潤滑油が存在するディーゼルまたはガソリンエンジン用シールとして好適に用いられる。
【0024】
当該実施例に係る密封装置は、相対回転する二部材のうちの一方の部材(例えば軸、図示せず)に装着されるスリンガー11と、他方の部材(例えば軸ハウジング、図示せず)に装着されるリップ部材21とを有し、これらの組み合わせによって構成されている。
【0025】
スリンガー11は、金属材よりなり、筒状部12の軸方向一方(機内A側)の端部に径方向外方へ向けてフランジ部(外向きフランジ部)13を一体成形したものであって、筒状部12の内周面をもって一方の部材の外周面に嵌合される。
【0026】
リップ部材21は、取付環22と、この取付環に被着(接着)されたゴム状弾性体31とを有している。取付環22は、金属材よりなり、筒状部23の軸方向他方(機外B側)の端部に径方向内方へ向けてフランジ部(内向きフランジ部)24を一体成形したものであって、筒状部23の外周面をもって他方の部材の内周面に嵌合される。フランジ部24は、図示するようなテーパー面25を備えるものであっても良い。
【0027】
ゴム状弾性体31は、取付環に22被着(接着)された被着ゴム部32と、この被着ゴム部32に支持されてスリンガー11のフランジ部13の軸方向端面に摺動自在に密接する端面リップ(サイドリップ)33と、同じく被着ゴム部32に支持されてスリンガー11の筒状部12の外周面に摺動自在に密接するラジアルリップ(ダストリップ)34とを一体に有している。端面リップ33は主に機内Aの油をシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機内A側であって径方向外方へ向けている。ラジアルリップ34は主に機外Bの外部ダストをシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機外B側であって軸方向他方へ向けている。
【0028】
また、当該実施例に係る密封装置は、更なる特徴として、以下の構成を有している。
【0029】
(A)
リップ部材21のほうへ向けてすなわち軸方向他方へ向けて突出する環状の折り曲げ部14が端面リップ33の内周側に位置してスリンガー11のフランジ部13に設けられており、この折り曲げ部14とリップ部材21との間に微小間隙を備えるラビリンス構造41が設けられている。微小間隙は、折り曲げ部14および被着ゴム部32間の軸方向間隙として設けられ、またこれと連続する折り曲げ部14および端面リップ33の根元部間の径方向間隙として設けられている。折り曲げ部14は、全体として断面略U字形に形成され、内周筒状部14a、略180度に亙って反転する反転部14bおよび外周筒状部14cの組み合わせによって構成されている。内周筒状部14aの外周面および外周筒状部14cの内周面は互いに接触している。内周筒状部14aの内周面および外周筒状部14cの外周面はそれぞれ軸方向ストレートな円筒面状に形成されている。
【0030】
(B)
スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35が折り曲げ部14の内周側に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この非接触リップ35とスリンガー11との間に微小間隙を備えるラビリンス構造42が設けられている。微小間隙は、非接触リップ35および筒状部12間の径方向間隙として設けられ、またこれと連続する非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙として設けられている。非接触リップ35は全体として軸方向一方へ向けて設けられている。
【0031】
上記構成の密封装置においては、リップ部材21のほうへ向けて突出する折り曲げ部14がスリンガー11のフランジ部13に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造41が折り曲げ部14とリップ部材21との間に設けられているために、ラビリンス構造41が発揮するシール効果によって、外部ダストが端面リップ33の先端部に到達するのを抑制することが可能とされている。
【0032】
また、スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35がリップ部材21に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造42が非接触リップ35とスリンガー11との間に設けられているために、摺動トルクを増大させることなく、ラビリンス構造41,42を都合2箇所に亙って設けることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0033】
したがってこれらのことから、外部ダストによって端面リップ33が損傷するのが抑制され、端面リップ33のシール性が長期間に亙って維持されるため、端面リップ33の本来の機能である油漏れ抑制効果を長期間に亙って維持することが可能とされている。
【0034】
尚、追加で説明すると、上記端面リップ33、非接触リップ35およびラジアルリップ34などを含むゴム状弾性体31の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴムまたはアクリルゴムなどとし、特に当該密封装置をガソリンエンジン用シールとして用いる場合には、高温耐久性の観点からフッ素ゴム(FKM)とするのが好ましい。但し、フッ素ゴム(FKM)においては、潤滑油との親和性が低いため、端面リップ33から染み出た潤滑油が容易にラジアルリップ34側へ流れ出すことが懸念されるところ、当該密封装置によれば、染み出た潤滑油が端面リップ33と折り曲げ部14で作られる空間(端面リップ33のリップ端から折り曲げ部14ないしラビリンス構造41,42にかけての空間)に保持されるため、潤滑油不足による問題(トルク上昇や摩耗発生など)が端面リップ33の摺動面に発生するのを抑制することができる。また、この作用効果を一層促進するため、端面リップ33またはフランジ部13の摺動面およびこの摺動面からラジアルリップ34側(内周側)にかけて潤滑油を摺動面に戻すポンプ用のネジまたは溝を設けても良い。
【0035】
第2実施例・・・
図2は、本発明の第2実施例に係る密封装置の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置は例えば、自動車関連の分野においてエンジンシールとして用いられ、機内Aの油が機外Bへ漏洩するのを抑制するとともに機外Bの外部ダストが機内Aへ侵入するのを抑制する。また、当該実施例に係る密封装置は、機内Aに潤滑油が存在するディーゼルまたはガソリンエンジン用シールとして好適に用いられる。
【0036】
当該実施例に係る密封装置は、相対回転する二部材のうちの一方の部材(例えば軸、図示せず)に装着されるスリンガー11と、他方の部材(例えば軸ハウジング、図示せず)に装着されるリップ部材21とを有し、これらの組み合わせによって構成されている。
【0037】
スリンガー11は、金属材よりなり、筒状部12の軸方向一方(機内A側)の端部に径方向外方へ向けてフランジ部(外向きフランジ部)13を一体成形したものであって、筒状部12の内周面をもって一方の部材の外周面に嵌合される。
【0038】
リップ部材21は、取付環22と、この取付環に被着(接着)されたゴム状弾性体31とを有している。取付環22は、金属材よりなり、筒状部23の軸方向他方(機外B側)の端部に径方向内方へ向けてフランジ部(内向きフランジ部)24を一体成形したものであって、筒状部23の外周面をもって他方の部材の内周面に嵌合される。フランジ部24は、図示するようなテーパー面25を備えるものであっても良い。
【0039】
ゴム状弾性体31は、取付環に22被着(接着)された被着ゴム部32と、この被着ゴム部32に支持されてスリンガー11のフランジ部13の軸方向端面に摺動自在に密接する端面リップ(サイドリップ)33と、同じく被着ゴム部32に支持されてスリンガー11の筒状部12の外周面に摺動自在に密接するラジアルリップ(ダストリップ)34とを一体に有している。端面リップ33は主に機内Aの油をシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機内A側であって径方向外方へ向けている。ラジアルリップ34は主に機外Bの外部ダストをシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機外B側であって軸方向他方へ向けている。
【0040】
また、当該実施例に係る密封装置は、更なる特徴として、以下の構成を有している。
【0041】
(A)
リップ部材21のほうへ向けてすなわち軸方向他方へ向けて突出する環状の折り曲げ部14が端面リップ33の内周側に位置してスリンガー11のフランジ部13に設けられており、この折り曲げ部14とリップ部材21との間に微小間隙を備えるラビリンス構造41が設けられている。微小間隙は、折り曲げ部14および後述する第2非接触リップ36間の軸方向間隙として設けられている。折り曲げ部14は、全体として断面略V字形に形成され、内周テーパー部14d、反転部(頂部)14eおよび外周テーパー部14fの組み合わせによって構成されている。
【0042】
(B)
スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35が折り曲げ部14の内周側に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この非接触リップ35とスリンガー11との間に微小間隙を備えるラビリンス構造42が設けられている。微小間隙は、非接触リップ35および筒状部12間の径方向間隙として設けられ、またこれと連続する非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙として設けられている。非接触リップ35は全体として軸方向一方へ向けて設けられている。
【0043】
(C)
また、折り曲げ部14へ向けてリップ端36aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の第2非接触リップ36が端面リップ33の根元部内周面に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この第2非接触リップ36と非接触リップ35との間にダストの滞留を発生させる環状の空間部37が両リップ35,36間の谷間状のものとして設けられている。
【0044】
上記構成の密封装置においては、リップ部材21のほうへ向けて突出する折り曲げ部14がスリンガー11のフランジ部13に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造41が折り曲げ部14とリップ部材21との間に設けられているために、ラビリンス構造41が発揮するシール効果によって、外部ダストが端面リップ33の先端部に到達するのを抑制することが可能とされている。
【0045】
また、スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35がリップ部材21に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造42が非接触リップ35とスリンガー11との間に設けられているために、摺動トルクを増大させることなく、ラビリンス構造41,42を都合2箇所に亙って設けることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0046】
また、折り曲げ部14へ向けてリップ端36aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の第2非接触リップ36が端面リップ33の根元部に設けられるとともにダストの滞留を発生させる空間部37が非接触リップ35と第2非接触リップ36との間に設けられているために、空間部37にダストを滞留させることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0047】
したがってこれらのことから、外部ダストによって端面リップ33が損傷するのが抑制され、端面リップ33のシール性が長期間に亙って維持されるため、端面リップ33の本来の機能である油漏れ抑制効果を長期間に亙って維持することが可能とされている。
【0048】
尚、上記空間部37によるダスト滞留効果を十分に発揮させるには、上記(B)に係る非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙を侵入してくるダストが侵入方向を変えることなくそのまま空間部37へ入ることが望ましいので、空間部37はこれをこの非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙の延長線上に設けることが好ましく、このため、第2非接触リップ36を折り曲げ部14の内周テーパー部14dの延長線上に設け、第2非接触リップ36の傾斜角度(密封装置の中心軸線に対する傾斜角度)と内周テーパー部14dの傾斜角度(同上)を一致もしくは少なくとも概略一致させることが好ましい。
【0049】
また、上記端面リップ33、非接触リップ35およびラジアルリップ34などを含むゴム状弾性体31の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴムまたはアクリルゴムなどとし、特に当該密封装置をガソリンエンジン用シールとして用いる場合には、高温耐久性の観点からフッ素ゴム(FKM)とするのが好ましい。但し、フッ素ゴム(FKM)においては、潤滑油との親和性が低いため、端面リップ33から染み出た潤滑油が容易にラジアルリップ34側へ流れ出すことが懸念されるところ、当該密封装置によれば、染み出た潤滑油が端面リップ33と折り曲げ部14で作られる空間(端面リップ33のリップ端から折り曲げ部14ないしラビリンス構造41,42にかけての空間)に保持されるため、潤滑油不足による問題(トルク上昇や摩耗発生など)が端面リップ33の摺動面に発生するのを抑制することができる。また、この作用効果を一層促進するため、端面リップ33またはフランジ部13の摺動面およびこの摺動面からラジアルリップ34側(内周側)にかけて潤滑油を摺動面に戻すポンプ用のネジまたは溝を設けても良い。