特許第5926382号(P5926382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926382
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20160516BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   F16J15/32 311P
   F16J15/447
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-528100(P2014-528100)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2013070133
(87)【国際公開番号】WO2014021179
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-168105(P2012-168105)
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 しほ
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/145178(WO,A1)
【文献】 特開平03−020175(JP,A)
【文献】 特表2011−503493(JP,A)
【文献】 実開平04−027262(JP,U)
【文献】 国際公開第2009/125734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204−15/3236
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機内の油が機外へ漏洩するのを抑制するとともに機外のダストが機内へ侵入するのを抑制する密封装置であって、
に装着されるスリンガーとハウジングに装着されるリップ部材とを有し、前記スリンガーは、前記に嵌合される筒状部と前記筒状部の機内側端部から径方向外方へ延びるフランジ部とを一体に有し、前記リップ部材は、リップ端を機内側へ向けて配置するとともに前記リップ端を前記フランジ部の軸方向端面に摺動自在に密接させることにより前記機内の油をシールする端面リップを有し、
前記リップ部材のほうへ向けて軸方向に突出する折り曲げ部を前記フランジ部に設け、
微小間隙を備えるラビリンス構造を前記折り曲げ部と前記リップ部材との間に設け、
前記折り曲げ部と前記筒状部との間にリップ端を配置するとともに前記スリンガーに対し接触しない構造の非接触リップを前記リップ部材に設け、
微小間隙を備えるラビリンス構造を前記非接触リップと前記スリンガーとの間に設けたことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記折り曲げ部へ向けてリップ端を配置するとともに前記スリンガーに対し接触しない構造の第2非接触リップを前記端面リップの根元部に設け、
ダストの滞留を発生させる空間部を前記非接触リップと前記第2非接触リップとの間に設けたことを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の密封装置において、
当該密封装置は、機内に潤滑油が存在するエンジン用シールとして用いられることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封技術に係る密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、自動車関連の分野において回転用オイルシールとして用いられ、または汎用機械の分野等において回転用オイルシールとして用いられる。また、本発明の密封装置は、機内に潤滑油が存在するエンジン用シールとして好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図3に示すように、相対回転する二部材のうちの一方の部材(例えば軸71)に装着されるスリンガー51と他方の部材(例えば軸ハウジング、図示せず)に装着されるリップ部材61とを有し、前者のスリンガー51に一方の部材に嵌合される筒状部52と径方向に延びるフランジ部53とを一体に設けるとともに、後者のリップ部材61にフランジ部53に摺動自在に密接する端面リップ62を設けた密封装置(端面リップタイプオイルシール)が知られている。
【0003】
この種の密封装置は、上記したようにスリンガー51とリップ部材61とを組み合わせで使用され、スリンガー51が一方の部材と一緒に回転することによる油振り切り、およびネジ溝(図示せず)によるポンプ効果と、端面リップ62とスリンガー51とが適切な反発力(接触力)を有することにより機内Aの油を密封している。
【0004】
しかしながら、スリンガー51のポンプ効果が大きく、機外(大気側)Bのダストを大量に吸い込んでしまい、よってこれを原因として端面リップ62が損傷する等して油漏れが発生する可能性がある。
【0005】
また、この種の密封装置は、機内に潤滑油が存在するディーゼルまたはガソリンエンジン用シールとして用いられることがあり、この場合、端面リップは機内の潤滑油によって適度に潤滑される必要がある(特許文献3または4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−16863号公報
【特許文献2】実開昭63−128320号公報
【特許文献3】WO2009/125734A1
【特許文献4】特開2004−316681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、スリンガーとリップ部材との組み合わせよりなる密封装置において、そのシール性、特に外部ダストに対するシール性を向上させることができる密封装置を提供することを目的とし、また、これにより端面リップが外部ダストによって損傷しにくい構造の密封装置を提供することを目的とする。またこれに加えて、機内の油が端面リップを漏れたときに、この漏れた油を端面リップ近傍に蓄えることができ、もってこの油によって端面リップの摺動部を潤滑することができる構造の密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、機内の油が機外へ漏洩するのを抑制するとともに機外のダストが機内へ侵入するのを抑制する密封装置であって、軸に装着されるスリンガーとハウジングに装着されるリップ部材とを有し、前記スリンガーは、前記に嵌合される筒状部と前記筒状部の機内側端部から径方向外方へ延びるフランジ部とを一体に有し、前記リップ部材は、リップ端を機内側へ向けて配置するとともに前記リップ端を前記フランジ部の軸方向端面に摺動自在に密接させることにより前記機内の油をシールする端面リップを有し、前記リップ部材のほうへ向けて軸方向に突出する折り曲げ部を前記フランジ部に設け、微小間隙を備えるラビリンス構造を前記折り曲げ部と前記リップ部材との間に設け、前記折り曲げ部と前記筒状部との間にリップ端を配置するとともに前記スリンガーに対し接触しない構造の非接触リップを前記リップ部材に設け、微小間隙を備えるラビリンス構造を前記非接触リップと前記スリンガーとの間に設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記折り曲げ部へ向けてリップ端を配置するとともに前記スリンガーに対し接触しない構造の第2非接触リップを前記端面リップの根元部に設け、ダストの滞留を発生させる空間部を前記非接触リップと前記第2非接触リップとの間に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1または2記載の密封装置において、当該密封装置は、機内に潤滑油が存在するエンジン用シールとして用いられることを特徴とする。
【0012】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、リップ部材のほうへ向けて軸方向に突出する折り曲げ部がフランジ部に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造が折り曲げ部とリップ部材との間に設けられているために、ラビリンス構造が発揮するシール効果によって、外部ダストが端面リップの先端部に到達するのを抑制することが可能とされる。
【0013】
また、機内の油が端面リップを漏れた場合、この漏れた油は端面リップおよび折り曲げ部間の空間に蓄えられる。これは、折り曲げ部およびリップ部材間にラビリンス構造が設けられているため、油がラビリンス構造を通過しにくいからである。したがってこの端面リップおよび折り曲げ部間の空間に蓄えられる油によって端面リップの摺動部を適度に潤滑することが可能とされる。
【0014】
また、本発明の密封装置においては、折り曲げ部と筒状部との間にリップ端を配置するとともにスリンガーに対し接触しない構造の非接触リップがリップ部材に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造が非接触リップとスリンガーとの間に設けられているために、摺動トルクを増大させることなく、ラビリンス構造を2箇所に亙って設けることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされる。
【0015】
また、本発明の密封装置においては、折り曲げ部へ向けてリップ端を配置するとともにスリンガーに対し接触しない構造の第2非接触リップが端面リップの根元部に設けられるとともにダストの滞留を発生させる空間部が非接触リップと第2非接触リップとの間に設けられているために、空間部にダストを滞留させることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0017】
すなわち本発明によれば以上説明したように、ラビリンス構造が発揮するシール効果や、空間部にダストを滞留させることによるシール効果によって、外部ダストが端面リップの先端部に到達するのを抑制することが可能とされる。したがって外部ダストによって端面リップが損傷するのが抑制され、端面リップのシール性が長期間に亙って維持されるため、端面リップの本来の機能である油漏れ抑制効果を長期間に亙って維持することが可能とされる。
【0018】
また、機内の油が端面リップを漏れたときに、この漏れた油が端面リップ近傍に蓄えられるため、この油によって端面リップの摺動部を潤滑することができる。したがって端面リップが潤滑不足により損傷するのを抑制することが可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施例に係る密封装置の要部断面図
図2】本発明の第2実施例に係る密封装置の要部断面図
図3】従来例に係る密封装置の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)スリンガーに折り返しを設け、ラビリンス効果をリップ間に持たすことで、ダストが端面リップ先端に到達することを防ぐ。
(2)また、軸側にも非接触のリップ(非接触リップ)を設けることで、トルクUPすることなく、ラビリンス構造を2箇所設けることができ、更にダスト性の向上が期待できる。
(3)スリンガーをある角度で曲げただけでも同様のラビリンス効果が期待でき、端面リップに非接触のリップ(第2非接触リップ)を追加し、スリンガーの曲げ角度とリップ(第2非接触リップ)の角度を合わせることで、侵入したダストをリップ(第2非接触リップ)と軸側リップ(非接触リップ)の間のポケット(空間部)で滞留させてやり、端面リップ先端へのダスト侵入を防止する。
(4)本発明により、端面リップの耐外部ダスト性の向上が期待でき、油漏れの改善、および車両寿命の向上が図れる。
【0021】
(5)図3に示したタイプのオイルシールは、主にディーゼルエンジン用として使用されており、シールリップの材質は、シリコーンゴムやアクリルゴムまたは高品質品としてのフッ素ゴム(FKM)などとなっている。また、近年では、シールリップ摺動部の低トルク化を目的として、このタイプのオイルシールをガソリンエンジンに使用する開発検討も行なわれている。ここで、ガソリンエンジンでは、使用する回転数が高いなどの理由で耐熱性が求められ、シリコーンゴム等では耐久性に問題があるため、フッ素ゴム(FKM)が専ら使用されるようになる。しかしながら、フッ素ゴム(FKM)は潤滑油との馴染みが悪く、端面リップ(サイドリップ)から漏れた油が直ちにラジアルリップ(ダストリップ)側に流れ出てしまうことが懸念される。そこで、本発明では、ガソリンエンジン用のフッ素ゴム(FKM)からなるオイルシールにおいて、その漏れた油を端面リップ(サイドリップ)近傍で保持する構造とした。
【実施例】
【0022】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0023】
第1実施例・・・
図1は、本発明の第1実施例に係る密封装置の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置は例えば、自動車関連の分野においてエンジンシールとして用いられるものであって、機内Aの油が機外Bへ漏洩するのを抑制するとともに機外Bの外部ダストが機内Aへ侵入するのを抑制する。また、当該実施例に係る密封装置は、機内Aに潤滑油が存在するディーゼルまたはガソリンエンジン用シールとして好適に用いられる。
【0024】
当該実施例に係る密封装置は、相対回転する二部材のうちの一方の部材(例えば軸、図示せず)に装着されるスリンガー11と、他方の部材(例えば軸ハウジング、図示せず)に装着されるリップ部材21とを有し、これらの組み合わせによって構成されている。
【0025】
スリンガー11は、金属材よりなり、筒状部12の軸方向一方(機内A側)の端部に径方向外方へ向けてフランジ部(外向きフランジ部)13を一体成形したものであって、筒状部12の内周面をもって一方の部材の外周面に嵌合される。
【0026】
リップ部材21は、取付環22と、この取付環に被着(接着)されたゴム状弾性体31とを有している。取付環22は、金属材よりなり、筒状部23の軸方向他方(機外B側)の端部に径方向内方へ向けてフランジ部(内向きフランジ部)24を一体成形したものであって、筒状部23の外周面をもって他方の部材の内周面に嵌合される。フランジ部24は、図示するようなテーパー面25を備えるものであっても良い。
【0027】
ゴム状弾性体31は、取付環に22被着(接着)された被着ゴム部32と、この被着ゴム部32に支持されてスリンガー11のフランジ部13の軸方向端面に摺動自在に密接する端面リップ(サイドリップ)33と、同じく被着ゴム部32に支持されてスリンガー11の筒状部12の外周面に摺動自在に密接するラジアルリップ(ダストリップ)34とを一体に有している。端面リップ33は主に機内Aの油をシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機内A側であって径方向外方へ向けている。ラジアルリップ34は主に機外Bの外部ダストをシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機外B側であって軸方向他方へ向けている。
【0028】
また、当該実施例に係る密封装置は、更なる特徴として、以下の構成を有している。
【0029】
(A)
リップ部材21のほうへ向けてすなわち軸方向他方へ向けて突出する環状の折り曲げ部14が端面リップ33の内周側に位置してスリンガー11のフランジ部13に設けられており、この折り曲げ部14とリップ部材21との間に微小間隙を備えるラビリンス構造41が設けられている。微小間隙は、折り曲げ部14および被着ゴム部32間の軸方向間隙として設けられ、またこれと連続する折り曲げ部14および端面リップ33の根元部間の径方向間隙として設けられている。折り曲げ部14は、全体として断面略U字形に形成され、内周筒状部14a、略180度に亙って反転する反転部14bおよび外周筒状部14cの組み合わせによって構成されている。内周筒状部14aの外周面および外周筒状部14cの内周面は互いに接触している。内周筒状部14aの内周面および外周筒状部14cの外周面はそれぞれ軸方向ストレートな円筒面状に形成されている。
【0030】
(B)
スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35が折り曲げ部14の内周側に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この非接触リップ35とスリンガー11との間に微小間隙を備えるラビリンス構造42が設けられている。微小間隙は、非接触リップ35および筒状部12間の径方向間隙として設けられ、またこれと連続する非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙として設けられている。非接触リップ35は全体として軸方向一方へ向けて設けられている。
【0031】
上記構成の密封装置においては、リップ部材21のほうへ向けて突出する折り曲げ部14がスリンガー11のフランジ部13に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造41が折り曲げ部14とリップ部材21との間に設けられているために、ラビリンス構造41が発揮するシール効果によって、外部ダストが端面リップ33の先端部に到達するのを抑制することが可能とされている。
【0032】
また、スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35がリップ部材21に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造42が非接触リップ35とスリンガー11との間に設けられているために、摺動トルクを増大させることなく、ラビリンス構造41,42を都合2箇所に亙って設けることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0033】
したがってこれらのことから、外部ダストによって端面リップ33が損傷するのが抑制され、端面リップ33のシール性が長期間に亙って維持されるため、端面リップ33の本来の機能である油漏れ抑制効果を長期間に亙って維持することが可能とされている。
【0034】
尚、追加で説明すると、上記端面リップ33、非接触リップ35およびラジアルリップ34などを含むゴム状弾性体31の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴムまたはアクリルゴムなどとし、特に当該密封装置をガソリンエンジン用シールとして用いる場合には、高温耐久性の観点からフッ素ゴム(FKM)とするのが好ましい。但し、フッ素ゴム(FKM)においては、潤滑油との親和性が低いため、端面リップ33から染み出た潤滑油が容易にラジアルリップ34側へ流れ出すことが懸念されるところ、当該密封装置によれば、染み出た潤滑油が端面リップ33と折り曲げ部14で作られる空間(端面リップ33のリップ端から折り曲げ部14ないしラビリンス構造41,42にかけての空間)に保持されるため、潤滑油不足による問題(トルク上昇や摩耗発生など)が端面リップ33の摺動面に発生するのを抑制することができる。また、この作用効果を一層促進するため、端面リップ33またはフランジ部13の摺動面およびこの摺動面からラジアルリップ34側(内周側)にかけて潤滑油を摺動面に戻すポンプ用のネジまたは溝を設けても良い。
【0035】
第2実施例・・・
図2は、本発明の第2実施例に係る密封装置の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置は例えば、自動車関連の分野においてエンジンシールとして用いられ、機内Aの油が機外Bへ漏洩するのを抑制するとともに機外Bの外部ダストが機内Aへ侵入するのを抑制する。また、当該実施例に係る密封装置は、機内Aに潤滑油が存在するディーゼルまたはガソリンエンジン用シールとして好適に用いられる。
【0036】
当該実施例に係る密封装置は、相対回転する二部材のうちの一方の部材(例えば軸、図示せず)に装着されるスリンガー11と、他方の部材(例えば軸ハウジング、図示せず)に装着されるリップ部材21とを有し、これらの組み合わせによって構成されている。
【0037】
スリンガー11は、金属材よりなり、筒状部12の軸方向一方(機内A側)の端部に径方向外方へ向けてフランジ部(外向きフランジ部)13を一体成形したものであって、筒状部12の内周面をもって一方の部材の外周面に嵌合される。
【0038】
リップ部材21は、取付環22と、この取付環に被着(接着)されたゴム状弾性体31とを有している。取付環22は、金属材よりなり、筒状部23の軸方向他方(機外B側)の端部に径方向内方へ向けてフランジ部(内向きフランジ部)24を一体成形したものであって、筒状部23の外周面をもって他方の部材の内周面に嵌合される。フランジ部24は、図示するようなテーパー面25を備えるものであっても良い。
【0039】
ゴム状弾性体31は、取付環に22被着(接着)された被着ゴム部32と、この被着ゴム部32に支持されてスリンガー11のフランジ部13の軸方向端面に摺動自在に密接する端面リップ(サイドリップ)33と、同じく被着ゴム部32に支持されてスリンガー11の筒状部12の外周面に摺動自在に密接するラジアルリップ(ダストリップ)34とを一体に有している。端面リップ33は主に機内Aの油をシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機内A側であって径方向外方へ向けている。ラジアルリップ34は主に機外Bの外部ダストをシールするものであって、この機能を発揮するため、リップ端を機外B側であって軸方向他方へ向けている。
【0040】
また、当該実施例に係る密封装置は、更なる特徴として、以下の構成を有している。
【0041】
(A)
リップ部材21のほうへ向けてすなわち軸方向他方へ向けて突出する環状の折り曲げ部14が端面リップ33の内周側に位置してスリンガー11のフランジ部13に設けられており、この折り曲げ部14とリップ部材21との間に微小間隙を備えるラビリンス構造41が設けられている。微小間隙は、折り曲げ部14および後述する第2非接触リップ36間の軸方向間隙として設けられている。折り曲げ部14は、全体として断面略V字形に形成され、内周テーパー部14d、反転部(頂部)14eおよび外周テーパー部14fの組み合わせによって構成されている。
【0042】
(B)
スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35が折り曲げ部14の内周側に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この非接触リップ35とスリンガー11との間に微小間隙を備えるラビリンス構造42が設けられている。微小間隙は、非接触リップ35および筒状部12間の径方向間隙として設けられ、またこれと連続する非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙として設けられている。非接触リップ35は全体として軸方向一方へ向けて設けられている。
【0043】
(C)
また、折り曲げ部14へ向けてリップ端36aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の第2非接触リップ36が端面リップ33の根元部内周面に位置してリップ部材21のゴム状弾性体31によって設けられており、この第2非接触リップ36と非接触リップ35との間にダストの滞留を発生させる環状の空間部37が両リップ35,36間の谷間状のものとして設けられている。
【0044】
上記構成の密封装置においては、リップ部材21のほうへ向けて突出する折り曲げ部14がスリンガー11のフランジ部13に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造41が折り曲げ部14とリップ部材21との間に設けられているために、ラビリンス構造41が発揮するシール効果によって、外部ダストが端面リップ33の先端部に到達するのを抑制することが可能とされている。
【0045】
また、スリンガー11における折り曲げ部14と筒状部12との間にリップ端35aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の非接触リップ35がリップ部材21に設けられるとともに微小間隙を備えるラビリンス構造42が非接触リップ35とスリンガー11との間に設けられているために、摺動トルクを増大させることなく、ラビリンス構造41,42を都合2箇所に亙って設けることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0046】
また、折り曲げ部14へ向けてリップ端36aを配置するとともにスリンガー11に対し接触しない構造の第2非接触リップ36が端面リップ33の根元部に設けられるとともにダストの滞留を発生させる空間部37が非接触リップ35と第2非接触リップ36との間に設けられているために、空間部37にダストを滞留させることができ、よって更に外部ダストに対するシール性を向上させることが可能とされている。
【0047】
したがってこれらのことから、外部ダストによって端面リップ33が損傷するのが抑制され、端面リップ33のシール性が長期間に亙って維持されるため、端面リップ33の本来の機能である油漏れ抑制効果を長期間に亙って維持することが可能とされている。
【0048】
尚、上記空間部37によるダスト滞留効果を十分に発揮させるには、上記(B)に係る非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙を侵入してくるダストが侵入方向を変えることなくそのまま空間部37へ入ることが望ましいので、空間部37はこれをこの非接触リップ35および折り曲げ部14間の径方向間隙の延長線上に設けることが好ましく、このため、第2非接触リップ36を折り曲げ部14の内周テーパー部14dの延長線上に設け、第2非接触リップ36の傾斜角度(密封装置の中心軸線に対する傾斜角度)と内周テーパー部14dの傾斜角度(同上)を一致もしくは少なくとも概略一致させることが好ましい。
【0049】
また、上記端面リップ33、非接触リップ35およびラジアルリップ34などを含むゴム状弾性体31の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴムまたはアクリルゴムなどとし、特に当該密封装置をガソリンエンジン用シールとして用いる場合には、高温耐久性の観点からフッ素ゴム(FKM)とするのが好ましい。但し、フッ素ゴム(FKM)においては、潤滑油との親和性が低いため、端面リップ33から染み出た潤滑油が容易にラジアルリップ34側へ流れ出すことが懸念されるところ、当該密封装置によれば、染み出た潤滑油が端面リップ33と折り曲げ部14で作られる空間(端面リップ33のリップ端から折り曲げ部14ないしラビリンス構造41,42にかけての空間)に保持されるため、潤滑油不足による問題(トルク上昇や摩耗発生など)が端面リップ33の摺動面に発生するのを抑制することができる。また、この作用効果を一層促進するため、端面リップ33またはフランジ部13の摺動面およびこの摺動面からラジアルリップ34側(内周側)にかけて潤滑油を摺動面に戻すポンプ用のネジまたは溝を設けても良い。
【符号の説明】
【0050】
11 スリンガー
12,23 筒状部
13,24 フランジ部
14 折り曲げ部
14a 内周筒状部
14b,14e 反転部
14c 外周筒状部
14d 内周テーパー部
14f 外周テーパー部
21 リップ部材
22 取付環
25 テーパー面
31 ゴム状弾性体
32 被着ゴム部
33 端面リップ
34 ラジアルリップ
35 非接触リップ
35a,36a リップ端
36 第2非接触リップ
37 空間部
41,42 ラビリンス構造
図1
図2
図3