(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
送電線または配電線に接続された変圧器の一次側の3相の電流を表す信号を、商用周波数における1サイクル当たりN個(Nは正の整数)に相当するサンプリング周波数でA/D変換するA/D変換器と、
上記A/D変換器によりA/D変換された各相の電流波形データから上記変圧器の一次側の各相の電流のベクトル量を演算するベクトル量演算部と、
上記各相の電流波形データに基づいて、上記N個または上記N個の数倍の電流波形データ毎の各相の実効値を演算する実効値演算部と、
上記ベクトル量演算部の演算結果に基づいて、上記変圧器の一次側の欠相状態を判定する欠相状態判定部と
を備え、
上記ベクトル量演算部は、
上記商用周波数におけるMサイクル分(Mは正の整数)の上記各相の電流波形データに渡ってフーリエ変換演算を行って、上記変圧器の一次側の各相の電流の基本波成分の大きさと位相角からなるベクトル量を上記Mサイクル毎に抽出し、
上記欠相状態判定部は、
上記ベクトル量演算部により抽出された上記Mサイクル分の各相の電流の基本波成分のベクトル量において、3相のうち常に同一の“1相”のベクトル量の絶対値が他の相のベクトル量の絶対値のK1倍(K1は1.0未満の定数)以下であるという第1条件と、
上記変圧器の一次側の中性点が非接地の場合は、上記他の2相の各電流の基本波成分のベクトル和が略零であるか、または、上記変圧器の一次側の中性点が接地線を介して接地されている場合は、上記2相の各電流および上記接地線の電流のベクトル和が略零であるという第2条件と、
上記3相のうち電流のベクトル量の絶対値が最大となっている相の電流のベクトル量の絶対値が、上記変圧器の一次側の任意の一相における通常時の励磁電流を含めた充電電流値の50%程度以上であるという第3条件について、上記Mサイクル毎に判定して、予め設定されたL回(Lは正の整数)連続して上記第1,第2,第3条件を満たすとき、上記“1相”が正に欠相状態にあると判定すると共に、
上記実効値演算部により演算された上記N個の電流波形データ毎に、3相のうち実効値が最大となっている相の実効値が小さいほど上記Mの値を大きい値に設定する一方、上記実効値が最大となっている相の実効値が大きいほど上記Mの値を小さい値に設定するM値設定部を備えたことを特徴とする欠相検出器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術による欠相検出方法を以下に説明する。
【0007】
上記特許文献1(特許第4655207号)には、配電線の断線を事故点の負荷側で検出する場合に、三相電圧信号を計測し、微地絡による見かけ上の位相変化を抑制した安定な断線事故を検出すると共に、微地絡事故と断線事故との区分を可能とする方法が述べられている。
【0008】
また、上記特許文献2(特開2005−261157号公報)には、三相電流の欠相検出を2個の変流器で検出することでコストを削減した欠相検出技術が述べられている。
【0009】
また、上記特許文献3(特開2003−302434号公報)には、三相電流の欠相検出における誤判定を低減するため、データを平均化することが述べられている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載された欠相検出方法では、変圧器の二次側に他の電源が接続されている場合や、変圧器の一次側がY結線かつ二次側が△結線でかつ軽負荷である場合には、変圧器の一次側の受電線が開放状態になっても変圧器の端子には二次側の△結線に生じる線間電圧等のため、ほぼ正常な電圧が現れる場合が有る。
【0011】
例えば、
図9のように、変圧器の一次側の電源配線が1線断線すれば、その相は欠相状態となるが、二次側が無負荷状態でかつ△接続されていれば、他の健全な相の電圧によって通常の電圧値程度の逆圧が発生するため、欠相状態となった相の電圧が必ずしも低下するとは言えない。したがって、電圧信号観測だけでは欠相検出は不十分である。
【0012】
変電所や発電所の変圧器は超高電圧の場合、一次側がY接続方式であれば中性点を接地してあることが多い。また、変圧器の二次側は△接続方式である場合が多い。そのため、変圧器の一次側で一相断線して欠相しても、変圧器の二次側が無負荷または無負荷に近い状態の場合、他の二相の電圧のベクトル和が逆極性で欠相している相の二次側に掛かるので、その一次側は欠相状態にも関わらず常時の電圧と略同程度の電圧が現れる。
【0013】
一方、上記特許文献2に記載された欠相検出方法では、変圧器の二次側が無負荷の状態で測定値そのものが微小でかつ誘導ノイズ等のノイズ成分が多い場合、欠相状態を誤判定する可能性が有る。例えば、ホワイトノイズのような場合は、上記特許文献3に記載された欠相検出方法のように、データの平均化で解決できるが誘導ノイズの場合のようにノイズによる波形そのものが商用周波数のベクトル量を持つ場合は、平均化では解決されるものではない。
【0014】
また、変圧器の二次側に負荷が接続されている場合は、負荷電流がノイズ成分より大きいので問題ないが、この発明の狙いは負荷接続されていない場合にも欠相検出するところに有る。その理由は以下のとおりである。
【0015】
一般的には、変圧器の二次側が無負荷の状態なら、その一次側が欠相状態であってもなんら実害が無い。しかし、非常用電源設備であった場合は、普段無負荷の状態で非常時に負荷接続されると直ちに電圧不平衡が発生し、負荷が誘導機ならば正相分と同様の逆相分が発生する。そうなれば、ローターは回転せずに発熱してそのまま放置すれば焼損に至る。このような場合、この非常用電源設備を停止せざるを得なくなってしまう。これでは非常用設備である意味がない。したがって、このような非常用設備に用いられる欠相検出器は、平常時の無負荷状態でも使用でき、負荷接続される前に欠相状態を検出できるものでなければ意味がない。
【0016】
そこで、この発明は、変圧器の二次側に負荷が接続されていない場合や、別電源が接続されている場合および測定回路の信号ケーブルにホワイトノイズ成分や誘導ノイズ成分が重畳している場合であっても、欠相状態の検出を正確にできる欠相検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、この発明の欠相検出器は、
送電線または配電線に接続された変圧器の一次側の3相の電流を表す信号を、商用周波数における1サイクル当たりN個(Nは正の整数)に相当するサンプリング周波数でA/D変換するA/D変換器と、
上記A/D変換器によりA/D変換された各相の電流波形データから上記変圧器の一次側の各相の電流のベクトル量を演算するベクトル量演算部と、
上記各相の電流波形データに基づいて、上記N個または上記N個の数倍の電流波形データ毎の各相の実効値を演算する実効値演算部と、
上記ベクトル量演算部の演算結果に基づいて、上記変圧器の一次側の欠相状態を判定する欠相状態判定部と
を備え、
上記ベクトル量演算部は、
上記商用周波数におけるMサイクル分(Mは正の整数)の上記各相の電流波形データに渡ってフーリエ変換演算を行って、上記変圧器の一次側の各相の電流の基本波成分の大きさと位相角からなるベクトル量を上記Mサイクル毎に抽出し、
上記欠相状態判定部は、
上記ベクトル量演算部により抽出された上記Mサイクル分の各相の電流の基本波成分のベクトル量において、3相のうち常に同一の“1相”のベクトル量の絶対値が他の相のベクトル量の絶対値のK1倍(K1は1.0未満のゼロに近い定数、例えば0.03程度)以下であるという第1条件と、
上記変圧器の一次側の中性点が非接地の場合は、上記他の2相の各電流の基本波成分のベクトル和が略零であるか、または、上記変圧器の一次側の中性点が接地線を介して接地されている場合は、上記2相の各電流および上記接地線の電流のベクトル和が略零であるという第2条件と、
上記3相のうち電流のベクトル量の絶対値が最大となっている相の電流のベクトル量の絶対値が
、上記変圧器の
一次側の任意の一相における通常時の励磁電流を含めた充電電流値の50%
程度以上であるという第3条件について、上記Mサイクル毎に判定して、予め設定されたL回(Lは正の整数)連続して上記第1,第2,第3条件を満たすとき、上記“1相”が正に欠相状態にあると判定すると共に、
上記実効値演算部により演算された上記N個の電流波形データ毎に、3相のうち実効値が最大となっている相の実効値が小さいほど上記Mの値を大きい値に設定する一方、上記実効値が最大となっている相の実効値が大きいほど上記Mの値を小さい値に設定するM値設定部を備えたことを特徴とする。
【0018】
送電線または配電線に接続された変圧器の二次側が無負荷状態において一次側の欠相検出は、電流が小さいために困難なものではあるが、負荷が接続されて使用状態となるまでに検出できればよいので、欠相状態の検出には充分な時間が掛けられるという特徴がある。本発明者はこの特徴を利用して、微小電流ながら充分な時間を掛けて検出することによって、高精度で欠相検出することが可能な欠相検出器を考案したものである。
【0019】
本発明者は、この考え方により、約200m離れた場所に設置されている非常電源用変圧器の無負荷時の電圧(550kV)および電流(約0.1A)をその近くに設置された計測用電圧変圧器(VT)および変流器(変流比800:1)およびその二次側ケーブル(約200m以上)を通して観測し、最大で交流波形の約3000サイクルに渡ってデータ収集し、変電所内で発生するホワイトノイズ成分を除去することによって、より正確に欠相状態か否かを判断できる欠相検出器を実現することができた。
【0020】
また、同様の考え方を用い、変圧器のヒステリシス特性などで励磁電流に含まれる微小高調波成分が通常なら変圧器の一次側回路から、電源側に向かって流れるため、これを利用して電源側のインピーダンスが測定できるが、断線しているとその値が大きくなるため、この電源側のインピーダンスを長時間に渡って測定することで、信号そのものが小さくても、また、変流器二次側の信号ラインにホワイトノイズ成分や電磁誘導ノイズ成分が乗っていても、変圧器の一次側の断線の有無が正しく判定できると考えた。
【0021】
この発明では、変圧器の二次側が無負荷である時に、M値を大きい値に設定することにより、比較的長時間(例えば10秒〜1分程度)に渡って波形を観測して、欠相状態の有無を検出するが、負荷接続時には、より大きな負荷電流によって欠相状態を容易に短時間で検出することが可能であるので、M値を小さい値に設定する。そのような場合、短時間で判定できなければならないが、電流が大きく観測波形の瞬時値の誤差に対する比(S/N比という)が大きくなるので、短時間の測定で判定可能である。
【0022】
上記構成によれば、変圧器の二次側に負荷が接続されていない場合や、別電源が接続されている場合および測定回路の信号ケーブルにホワイトノイズ成分や誘導ノイズ成分が重畳している場合であっても、欠相状態の検出を正確にできる。
【0023】
また、一実施形態の欠相検出器では、
上記欠相状態判定部において、上記第1条件に用いられる定数K1は0.03程度である。
【0024】
上記実施形態によれば、欠相状態判定部において上記第1条件に用いられる定数K1を0.03程度とすることによって、欠相状態の検出をより正確に行うことができる。
【0025】
また、一実施形態の欠相検出器では、
上記欠相状態判定部の判定結果の表示または外部への伝送の少なくとも一方を行う判定結果出力部を備えた。
【0026】
上記実施形態によれば、判定結果出力部によって、欠相状態判定部の判定結果の表示または外部への伝送の少なくとも一方を行うので、正確な欠相状態の検出結果を報知することができる。
【0027】
また、一実施形態の欠相検出器では、
上記A/D変換器は、
上記変圧器の一次側の3つの線間電圧を表す信号を、上記商用周波数における1サイクル当たりN個に相当するサンプリング周波数でA/D変換し、
上記ベクトル量演算部は、
上記A/D変換器によりA/D変換された各線間電圧波形データから上記商用周波数におけるMサイクル分の上記各線間電圧波形データに渡ってフーリエ変換演算を行って、上記変圧器の一次側の各線間電圧の基本波成分および第3次〜第7次高調波成分の大きさと位相角からなるベクトル量を抽出し、
上記ベクトル量演算部により得られた上記各線間電圧の基本波成分および第3次〜第7次高調波成分のベクトル量に基づいて、上記第3次〜第7次の高調波成分のいずれか1つによる上記変圧器の一次側から電源側を見た3つの線間インピーダンスベクトル量を上記Mサイクル毎に演算する線間インピーダンスベクトル量演算部を備え、
上記欠相状態判定部は、
上記線間インピーダンスベクトル量演算部により演算された上記3つの線間インピーダンスベクトル量のうちの絶対値が最も小さい線間に対して絶対値が次に大きい線間の絶対値がK2倍(K2は1.0を超える定数)以上である場合に、上記絶対値が大きい2つの線間に含まれる共通の1相が欠相状態にあるという第4条件と共に、上記第1,第2,第3条件を上記Mサイクル毎に判定して、上記第1,第3,第4条件を満たしかつ上記第2条件を満たさないということが上記L回連続したとき、上記“1相”が正に欠相状態にあると判定する。
【0028】
ここで、線間インピーダンスベクトル量とは、線間インピーダンスの抵抗成分をX軸、リアクタンス成分をY軸とする平面座標上におけるインピーダンスベクトル量である。
【0029】
上記実施形態によれば、欠相判定の第1条件および稼働判定の第3条件を満たすが、電流ベクトル量の総和がゼロの第2条件を満たさなかった場合に、線間インピーダンスベクトル量演算部により演算された3つの線間インピーダンスベクトル量のうちの絶対値が最も小さい線間(1組の断線していない健全なライン間)に対して絶対値が次に大きい線間(欠相した相を含む2組のライン間)の絶対値がK2倍(K2は1.0を超える定数)以上であるときに、上記絶対値が大きい2つの線間に含まれる共通の1相が欠相状態にあるという第4条件によって、欠相状態の有無の判定を補完することができ、さらに確実な検出が可能になる。
【0030】
この実施形態の欠相検出器は、長時間観測することで微小励磁電流を検出しようとするものであるが、電流変換器の二次側の信号ラインで発生するランダムノイズは低減できるものの同一周波数成分からなる電磁誘導ノイズは低減できないので、送電線または配電線が断線して欠相状態であるにも関わらず、電流変換器の二次側回路が受ける誘導ノイズの影響で微小電流成分を検出し、導通ありと誤判定してしまう可能性がある。
【0031】
そのため、本発明者は、高調波を用いた電源のインピーダンス観測を行って電圧高調波が必ず電流波形にも反映され、それによって電源側の導通状態がより正確に確認できると考えた。また、線間電圧、線間電流の高調波成分を算出することで各信号に含まれる同周波数で同位相の電磁誘導ノイズに対しては互いにキャンセルする効果があり、より正確な判定が可能であると考えた。
【0032】
ところで、電磁誘導ノイズに対しては電圧高調波のみが観測されるのは断線状態で電流が流れていない場合であり、電流高調波のみが観測されるのは誘導ノイズのためと考えられる。この電源のインピーダンス観測も交流1サイクル分の観測のみではノイズの影響で正確には測定できず、長時間に渡って観測を行うことによってより高精度な欠相判定が可能である。
【0033】
また、一実施形態の欠相検出器では、
上記欠相状態判定部において、上記第4条件に用いられる定数K2は1.5程度である。
【0034】
上記実施形態によれば、欠相状態判定部において上記第4条件に用いられる定数K2を1.5程度とすることによって、第4条件の判定を正確に行うことができる。
【0035】
また、一実施形態の欠相検出器では、
上記欠相状態判定部が、上記Mサイクル分の各相の電流波形データ毎に、上記第1,第2,第3条件を判定して、上記第1,第2,第3条件を少なくとも1回満たしたとき、欠相の予兆と判断する欠相予兆判断部を備えた。
【0036】
上記実施形態によれば、欠相状態判定部が上記第1,第2,第3条件を少なくとも1回満たすとき、欠相予兆判断部により欠相の予兆と判断するので、欠相状態になる前に速やかに対応することが可能になる。
【発明の効果】
【0037】
以上より明らかなように、この発明によれば、変圧器の二次側に負荷が接続されていない場合や、別電源が接続されている場合および測定回路の信号ケーブルにホワイトノイズ成分や誘導ノイズ成分が重畳している場合であっても、欠相状態の検出を正確にできる欠相検出器を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、この発明の欠相検出器を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0040】
図1はこの発明の実施の一形態の欠相検出器11を用いた欠相検出システムの構成図を示している。なお、この欠相検出システムでは、一例として、受電線または母線より供給された三相電源が、送電線Lを介して変電所内の変圧器TRの一次側に接続され、欠相検出器11によって変圧器TRの一次側の三相電源の欠相状態を検出する。
【0041】
この実施の形態の欠相検出システムは、
図1に示すように、変圧器TRの一次側の線間電圧を変換する電圧変換器1(以下、VT1という)と、変圧器TRの一次側の相電流を電圧に変換する電流変換器2(以下、CT2という)と、上記VT1およびCT2からの信号を受けて、三相電源の欠相状態を判定する欠相検出器11と、欠相検出器11からの判定結果を通信ネットワーク12を介して受けるデータサーバー装置13と、欠相検出器11からの判定結果を通信ネットワーク12を介して受けて表示するモニター装置14とを備えている。
【0042】
上記欠相検出器11は、VT1により変換された変圧器TRの一次側の電圧を計測用電圧信号に変換する計測用電圧変換器3と、CT2により変換された変圧器TRの一次側の電流を表す電圧信号を計測用電圧信号に変換する計測用電流電圧変換器4と、計測用電圧変換器3および計測用電流電圧変換器4により変換された計測用電圧信号をA/D変換するA/D変換器5と、A/D変換器5によりデジタルデータに変換された波形データを記憶する波形データメモリ部6と、ベクトル量演算部7aと実効値演算部7bとM値設定部7cと線間インピーダンスベクトル量演算部7dを含む演算部7と、演算部7により演算されたベクトル量データに基づいて、欠相状態を判定する欠相状態判定部8と、欠相状態判定部8の判定結果に基づいて通信ネットワーク12に出力する判定結果出力部9と、判定結果出力部9からの判定結果を受けて、欠相状態判定部8の判定結果を表示する表示部10とを有する。
【0043】
また、ベクトル量演算部7aは、波形データメモリ部6に記憶された波形データに基づいてベクトル量演算を行う。
【0044】
また、実効値演算部7bは、商用周波数における1サイクル毎に各相電流の実効値を演算する。なお、実効値演算部7bは、数サイクル毎(N個の数倍の波形データ毎)に各相電流の実効値を演算してもよい。
【0045】
また、M値設定部7cは、実効値演算部7bにより演算された各相電流の実効値に基づいて、「M値」を設定する。
【0046】
また、線間インピーダンスベクトル量演算部7dは、3次〜7次の高調波成分毎に線間電圧のベクトル量を同次の線間電流のベクトル量で除することにより線間インピーダンスベクトル量を演算する。
【0047】
変電所の受電線または母線より供給された三相電源は、変圧器TRに供給されるが、その途中にVT1およびCT2が設置されている。
【0048】
VT1の電圧信号は、欠相検出器11内の計測用電圧変換器3により数V以下の電圧信号に変換される。また、CT2の電流信号は、欠相検出器11内の計測用電流電圧変換器4により数V以下の電圧信号に変換される。
【0049】
次に、計測用電圧変換器3および計測用電流電圧変換器4の各電圧信号は、A/D変換器5によって、商用周波数における1サイクル当たりNサンプル(Nは正の整数)に相当するサンプリング周波数でサンプリングされてデジタル信号に変換される。
【0050】
そのA/D変換器5によりデジタル信号に変換されたデジタルデータは、波形データとして波形データメモリ部6に記憶される。
【0051】
次に、波形データメモリ部6に記憶された波形データに基づいて、ベクトル量演算部7aによりベクトル量に変換されて欠相状態判定部8に送られる。
【0052】
〔第1欠相判定アルゴリズム〕
まず、第1欠相判定アルゴリズムでは、欠相状態判定部8は、次の[第1条件],[第2条件],[第3条件]をMサイクル毎(Mは正の整数)に判定する。したがって、各相の電流波形データは、N×M個となる。このMはM値という。
【0053】
[第1条件] ベクトル量演算部7aにより抽出されたMサイクル分の各相の電流波形データから抽出されたベクトル量において、3相のうち常に同一の“1相”のベクトル量の絶対値が他の相のベクトル量の絶対値のK1倍(K1は1.0未満のゼロに近い定数、例えば0.03程度)以下である。
【0054】
[第2条件] 変圧器TRの一次側の中性点が非接地の場合は、他の2相の各電流の基本波成分のベクトル和が略零であるか、または、変圧器TRの一次側の中性点が接地されている場合は、2相の各電流および接地線の電流のベクトル和が略零である。
【0055】
[第3条件] 3相のうち電流のベクトル量の絶対値が最大となっている相の電流のベクトル量の絶対値が変圧器TRの励磁電流を含めた充電電流値の50%以上である。
【0056】
欠相状態判定部8は、Mサイクル毎に上記[第1条件],[第2条件],[第3条件]判定して、予め設定されたL回連続して[第1条件],[第2条件],[第3条件]を満たすとき、上記[第1条件]の“1相”が正に欠相状態にあると判定する。
【0057】
そして、欠相状態判定部8は、上記[第1条件]の“1相”が欠相状態にあると判定すると、その判定結果を判定結果出力部9から出力する。また、判定結果出力部9からの判定結果を表示部10に表示すると共に、判定結果出力部9からの判定結果を通信ネットワーク12を介してデータサーバー装置13およびモニター装置14に伝送する。
【0058】
上記ベクトル量演算部7aにおいて、波形データからベクトル量データへの変換には離散的フーリエ変換法を用いる。これは波形データに、
sin(2πn・k△t/T) および cos(2πn・k△t/T)
ただし、n : 高調波成分ベクトル量の次数(基本波ベクトルの場合は1)
k : 0,1,2,…,N−1(N=T/△t)
△t: サンプル時間間隔
T : 時間幅
を掛けて積算し、波形データの第n次の高調波成分の正弦成分Anおよび余弦成分Bnを求めてベクトル量とするものである。これには個々に成分を求めるDFT(離散フーリエ変換)といわれる方法(後述する(式1)参照)を用いても良いし、全周波数成分を一度に求められるFFT(高速フーリエ変換)といわれる方法を用いても良い。
【0059】
また、当然のことながら波形データの切り出し時点の位相や観測対象の波形がFFTのBIN周波数のいずれにも合致していないことによって誤差が出ることを避けるため、窓関数を掛けて側帯波の帯域幅を一定値以下に抑制し、かつ実効値演算時には、主たるスペクトルの周辺の側帯波を含めたピラゴラス和で計算してもよい。また、演算時間を短縮するために先にFFTを行って、その後でFFTの演算結果に簡単な処理を行って窓関数を掛けたのと同様の効果を得たり、リカーシブDFTの方法を用いて逐次移動平均的にFFTの結果を求めたりしても良い。
【0060】
窓関数については既知の事実であるが、時間幅Tのデータを採ってきてフーリエ変換する場合、同時間幅の矩形波窓関数を掛けているのと同義となり、データの先頭部分と最後尾部分とで値に差が有ると、その差に相当する時間幅Tの繰り返し波形成分が有ると認識され、元の波形に含まれていなかった周波数成分が出現してしまう。
【0061】
そのため、窓関数を掛けてデータの先頭部分と最後尾部分を圧縮し、フーリエ変換の結果の周波数スペクトルデータのうち別途に定めるノイズレベルを超えるものが、周波数スペクトルデータ中で最大のものを中心としてその最大のものの前後数本以内に収まるようにし、ノイズレベルを超える周波数スペクトルデータが全て後述する(式2)の中に含まれるようにしなければならない。
【0062】
基本波成分の周波数が判ると、高調波成分の周波数もその整数倍の値として算出可能であり、高調波成分は、各高調波の周波数を中心にその前後数本のスペクトルから算出可能である。
【0063】
フーリエ変換の結果の第m番目のスペクトル成分は次の(式1)で算出できる。
【数1】
ただし、△t :波形のサンプリング時間間隔
v(k△t) :観測値の第kサンプル目の値
w(k△t) :窓関数
【0064】
例えば、ハニング窓の場合、
W(k△t)=0.5×(1−cos(2πk△t/T))
ただし、T : 時間幅
のような関数である。また、△t/Tは、
△t/T = 1/(N×M)
ただし、N : 商用周波数における1サイクル当たりサンプル数
M : 商用周波数のサイクル数
であるフーリエ変換に掛けられる総データサンプル数である。
【0065】
例えば、基本周波数が50Hzで、ベクトル量の抽出のためのサイクル数をM=4とし、商用周波数における1サイクル当たりのサンプル数がN=64サンプル/1サイクルの場合、波形データは64×4=256サンプルに渡ってサンプルされ、これは商用周波数の4サイクル分である。このとき、フーリエ変換の結果の周波数スペクトルは12.5Hz毎に1本となり、0Hz成分を第0番目とすれば第4番目が50Hzになり、窓関数の形態にもよるが、この第4番目の前後数本のスペクトルが基本波成分によるスペクトルとなる。基本波成分の実効値V
rmsは、第4番目の前後数本のスペクトルから次の(式2)により算出される。
【数2】
(ただし、N=64サンプル/1サイクル)
【0066】
上記(式1)は、例として電圧波形データを元に電圧ベクトル量を求める場合について示しているが、電流ベクトル量計算の場合もデータを電流波形データに代えるだけで同様の計算式を用いることができる。
【0067】
そして、ベクトル量が抽出できると、次は欠相判定を実施する。
【0068】
まず、欠相状態判定部8の欠相判定方法を説明する。抽出した電流ベクトル量は、その絶対値の大きさの順に並べて、
【数3】
とする。そして、欠相判定は、
【数4】
(ただし、K1は0.03程度の係数)
で行う。なお、係数K1は1.0未満の値を適宜設定してよい。
【0069】
通常の欠相判定はこれのみで充分であるが、この発明の目的は、変圧器TRの二次側に負荷が接続されていない状態で(変圧器TRの僅かな励磁電流もしくは充電電流のみで)欠相検出することにある。そのため、電流最大の相で通常の充電電流が流れていることを検出する([第3条件])。検出レベルは、充電電流値の50%程度としたが厳密でなくても良い。次に、誤検出の無いことを確認するため、接地電流I
0も含めた健全相の受電電流の総和≒0の条件が成立していることを確認する([第2条件])。電流は全て変圧器TRに流れ込む方向を正極性(または負極性)として極性を統一する。
【0070】
この欠相状態の判定に要するデータ数は、商用周波数のサイクル数(M値)で設定する。
【0071】
また、ベクトル量演算部7aによるベクトル量の抽出とは別に、商用周波数における1サイクル毎(または数サイクル毎)に各相電流の実効値を実効値演算部7bにより演算し、その大きさで判定に要する波形データの取得時間幅を商用周波数のサイクル数で表現した値(M値)を決定する。
【0072】
このM値は、3サイクルから3000サイクル程度までの間を変化させる。各相電流のうちの実効値が最大の相の電流実効値が小さい場合は、M値を大きく設定して長時間(商用周波数50HzでM=3000の場合は60秒相当)観測し、電流実効値が大きい場合は、M値を小さくして短時間(商用周波数50HzでM=3の場合は60msec相当)観測し、判定可能となるよう調整する。
【0073】
一例として次の(式3)によってM値を定めても良い。
M = Int[M
min・exp{ln(M
max/M
min)・(I
teikaku−I)/(I
teikaku−I
reiji)}] … (式3)
ただし、Int(x) : xの整数部分
M
min : M値の最小値
M
max : M値の最大値
I
teikaku : 変圧器TRの一次側の定格電流値
I
reiji : 変圧器TRの一次側の励磁電流値
I : 実効値が最大となっている相の電流値
(例えば、M
max=3000(50Hz商用周波数時60秒相当)、M
min=3)
このM値は、精密に設定する必要はないので、例えば3サイクル、30サイクル、300サイクルの各々に対応する電流値I
3、I
30、I
300、(I
3>I
30>I
300)を予め計算しておいて、電流値がI
3以上は3サイクル、I
3未満かつI
30以上は30サイクル、I
30未満かつI
300以上は300サイクルのように設定しても良い。
【0074】
ここで、N×M個サンプルのデータ収集中にM値がM’に変更された場合は、N×M’個サンプルに達していれば、最後からN×M’個サンプルのデータを用いてベクトル量の抽出を行う。
【0075】
稼働状態で受電電流の総和≒0の条件も満たした上で欠相判定された場合は、電流実効値が最小の相が欠相状態にあると判定し、その判定結果を判定結果出力部9から出力して、判定結果を表示部10に表示したり通信ネットワーク12を介して伝送したりする。
【0076】
図2は欠相検出器11の演算部7の第1欠相判定アルゴリズムのフローを示している。また、
図3のグラフに上記(式3)によるM値の特性を示している。
【0077】
第1欠相判定アルゴリズムでは、まず、
図2に示す処理ブロック101で変圧器TRの一次側の相電流Ia,Ib,Icの1サイクル分(Nサンプル)の波形データから各相電流の実効値を演算する(実効値演算部7b)。なお、数サイクル分の波形データから各相電流の実効値を演算してもよい。
【0078】
そして、その処理ブロック101で演算された各相電流の実効値に基づいて、処理ブロック102で「M値」を設定する(M値設定部7c)。
【0079】
このとき、定格負荷時は、M=M
min(例えば「3」)として、無負荷時は、M=M
max(例えば「3000」)とする(
図3参照)。
【0080】
また、処理ブロック103では、処理ブロック102で設定した「M値」を用いて、変圧器TRの一次側の相電流Ia,Ib,IcのN×M個(Mサイクル分)の波形データから各相電流の基本波成分のベクトル量を抽出する(ベクトル量演算部7a)。
【0081】
次に、処理ブロック104では、処理ブロック103で抽出された各相電流の基本波成分のベクトル量について、絶対値(すなわち大きさ)の大きいものから、
【数5】
の順に並べ替える。
【0082】
そして、処理ブロック105では、
【数6】
(K1は0.03程度の係数)
であるとき、欠相状態の判定に関わる[第1条件]を満たす。
【0083】
また、処理ブロック106では、
【数7】
(ただし、I
0は接地電流)
であるとき、接地電流I
0も含めた健全相の受電電流の総和≒0の判定すなわち電流ベクトル和の判定に関わる[第2条件]を満たす。
【0084】
また、処理ブロック107では、
【数8】
であるとき、稼働中であるとして[第3条件]を満たす。
ここで、励磁電流は、変圧器の一次側の任意の一相における通常時の励磁電流を含めた充電電流値である。
【0085】
そして、論理ブロック108では、上記[第1条件],[第2条件],[第3条件]のAND(論理積)条件を判定する。
【0086】
次に、処理ブロック109で、Mサイクル毎の判定結果が、予め設定されたL回連続して上記[第1条件],[第2条件],[第3条件]を満たすとき、すなわち、AND(論理積)の結果が「真」であるとき、[第1条件]の絶対値の最も小さいベクトル量、すなわち、
【数9】
である相が欠相状態にあると判定する(欠相状態判定部8)。このようにして欠相状態にあると判定すると、処理ブロック109から、欠相状態にあることを表す信号を出力する(第1判定結果出力)。ここで、欠相状態にある相の情報を出力するようにしてもよい。
【0087】
また、論理ブロック111において、Mサイクル毎に、[第1条件],[第3条件]を満たしかつ[第2条件]を満たさないときのAND(論理積)の結果が「真」であるとし、判定不能であることを出力する。すなわち、[第1条件](欠相条件)と[第3条件](稼働条件)とを満たすも[第2条件]の電流総和が略ゼロでない場合、ノイズのために判定不能であることを表す信号出力する(第1判定不能出力)。
【0088】
なお、変圧器TRの一次側の中性点が接地されている場合は、処理ブロック110において、接地電流I
0のN×M個(Mサイクル分)の波形データから接地電流I
0の基本波成分のベクトル量、すなわち、
【数10】
を抽出する。この処理ブロック110で抽出された接地電流I
0の基本波成分のベクトル量は、処理ブロック106にて用いられる。ここで、変圧器TRの一次側の中性点が非接地の場合は、接地電流I
0=0とする。
【0089】
上記第1欠相判定アルゴリズムにおいて、稼働状態にも関わらず、健全相の受電電流の総和≒0の条件が満たされなかった場合は、欠相状態にないか、または、誘導電流ノイズなどのために商用周波数のベクトル量演算では正しく欠相判定ができないものとして、高調波による電源側の線間インピーダンスベクトル量に基づく第2欠相判定アルゴリズムで判定する。
【0090】
〔第2欠相判定アルゴリズム〕
次に、健全相の受電電流の総和≒0の条件が満たされなかった場合に正しく判定可能な第2欠相判定アルゴリズムについて説明する。
【0091】
図5は略無負荷時(負荷抵抗値100MΩ)の電源用変圧器TRの回路モデル1相分を示している。
図5において、R1は負荷抵抗、R2は送電線Lの抵抗、Eは電源、C1は変圧器TRの一次側の接地容量、C2は変圧器TRの二次側の接地容量である。
【0092】
この
図5の回路モデルにおいて、変圧器TRの一次側の電圧実効値を550kV/√3とし、変圧器TRの二次側の電圧値を66kVとし、変圧器TRの二次側が略無負荷時(負荷抵抗値100MΩ)、変圧器TRの励磁電流が略0.1A程度で定格電流値の0.1%程度になるように設計されているものとする。励磁電流は、変圧器TRのコア材のヒステリシス特性の影響を受けやすく、負荷電流が略0Aの場合の一次側の電流波形は
図6のように歪んだ正弦波状の波形となり、そのフーリエ変換結果は
図7のようになる。
【0093】
図6は略無負荷時の電源用変圧器の一次側の波形例を示している。
図6において、横軸は時間[sec]を表し、縦軸はブランチ電流(相電流)[A]およびノード間電位差(線間電圧)[V]を表しており、太線の曲線が電圧波形、細線の曲線が電流波形を示す。
【0094】
また、
図7は
図6の電圧波形のフーリエ変換結果を示している。
図7において、横軸は次数を表し、縦軸は次数毎の成分の大きさであるノード間電位差(線間電圧)[V](棒グラフ)および位相角[deg](折れ線グラフ)を示す。
【0095】
図8にその電流波形のフーリエ変換結果を示している。
図8において、横軸は次数を表し、縦軸は次数毎の成分の大きさであるブランチ電流(相電流)[A](棒グラフ)および位相角[deg](折れ線グラフ)を示す。
【0096】
この
図8から基本波成分を除く高調波成分の中で3次高調波成分が最大でかつ変圧器TRに流れ込む基本波成分とは逆位相なので、3次高調波成分が変圧器TRから電源側に流れていることが判る。
【0097】
例えば、3次の高調波成分の線間電圧ベクトル量を同次の線間電流ベクトル量で除して線間インピーダンスベクトル量を求める。
【0098】
このベクトル量の抽出に必要な元データのサンプル数は、第1欠相判定アルゴリズムと同じN×M個である。
【0099】
この線間インピーダンスベクトル量を絶対値の大きいものから、
【数11】
の順に並べ替える。
【0100】
【数12】
(ただし、K2は1.5程度の係数)
の条件を満たすときにZ
maxの線間と、Z
midの線間に共通に含まれる相が欠相状態にあると判定する。なお、係数K2は1.0以上の値を適宜設定してよい。
【0101】
図4は欠相検出器11の演算部7の第2欠相判定アルゴリズムのフローを示している。
【0102】
図4に示す処理ブロック201で、処理ブロック102で設定した「M値」を用いて、変圧器TRの一次側の線間電圧Vab,Vbc,Vcaおよび線間電流Iab,Ibc,IcaのN×M個(Mサイクル分)の波形データから各線間電圧および各線間電流の基本波成分および3次〜7次の高調波成分のベクトル量を抽出する。
【0103】
次に、処理ブロック202で、3次〜7次の高調波成分毎に線間電圧のベクトル量を同次の線間電流のベクトル量で除して線間インピーダンスベクトル量を演算する(線間インピーダンスベクトル量演算部7d)。ここで、相電流Ia,Ib,Icのベクトル量を、
【数13】
とすると、線間電流Iab,Ibc,Icaのベクトル量は、
【数14】
により求める。
【0104】
そして、処理ブロック203では、3次〜7次の線間インピーダンスベクトル量のうちの基本波成分に対して位相が逆向きの高調波成分の1つを選択し、その高調波成分の線間インピーダンスベクトル量の絶対値(すなわち大きさ)の大きい線間から、
【数15】
の順に並べ替える。
【0105】
次に、処理ブロック204では、
【数16】
(ただし、K2は1.5程度の係数)
であるとき、欠相状態であると判定する。
【0106】
そして、論理ブロック205により、第1欠相判定アルゴリズムで判定不能であるという第1判定不能出力と処理ブロック204で欠相状態であるという条件のAND(論理積)を判定する(欠相状態判定部8)。
【0107】
次に、処理ブロック206で、Mサイクル毎の判定結果が、予め設定されたL回連続して論理ブロック205のAND(論理積)の結果が「真」であるとき、
【数17】
の2つの線間インピーダンスベクトル量に共通に含まれる相が欠相状態にあると判定する(欠相状態判定部8)。そして、処理ブロック206から、2つの線間インピーダンスベクトル量に共通に含まれる相が欠相状態にあることを表す信号を出力する((判定結果出力部9からの第2判定結果出力)。
【0108】
上記構成の欠相検出器11では、変圧器TRの二次側が無負荷時に比較的長時間(例えば10秒〜1分程度)に渡って波形を観測して欠相状態の有無を検出することを想定しているが、負荷接続時にはより大きな負荷電流によって欠相状態を容易に短時間で検出することが可能である。また、そのような場合は、短時間で判定できなければならないが、電流が大きく観測波形の瞬時値の誤差に対する比(S/N比という)が大きくなるので、短時間の測定で判定可能である。
【0109】
また、上記欠相検出器11によれば、変圧器TRの二次側に負荷が接続されていない場合や、別電源が接続されている場合および測定回路の信号ケーブルにホワイトノイズ成分や誘導ノイズ成分が重畳している場合であっても、欠相状態の検出を正確にできる。
【0110】
また、上記欠相状態判定部8において上記[第1条件]に用いられる定数K1を0.03程度とすることによって、欠相状態の検出をより正確に行うことができる。
【0111】
また、上記判定結果出力部9によって、欠相状態判定部8の判定結果の表示および外部への伝送を行うので、正確な欠相状態の検出結果を報知することができる。なお、欠相状態判定部8の判定結果の表示または外部への伝送の一方を行うものでもよい。
【0112】
また、上記欠相判定の[第1条件]および稼働判定の[第3条件]を満たすが、電流ベクトル量の総和がゼロの[第2条件]を満たさなかった場合に、線間インピーダンスベクトル量演算部7dにより演算された3つの線間インピーダンスベクトル量のうちの絶対値が次に小さい線間(1組の断線していない健全なライン間)に対して絶対値が次に大きい線間(欠相した相を含む2組のライン間)の絶対値がK2倍(K2は1.0を超える定数)以上であるときに、上記絶対値が大きい2つの線間に含まれる共通の1相が欠相状態にあるという[第4条件]によって、欠相状態の有無の判定を補完することができ、さらに確実な検出が可能になる。
【0113】
この実施形態の欠相検出器11は、長時間観測することで微小励磁電流を検出しようとするものであるが、CT2の二次側の信号ラインで発生するランダムノイズは低減できるものの同一周波数成分からなる電磁誘導ノイズは低減できないので、送電線または配電線が断線して欠相状態であるにも関わらず、CT2の二次側回路の受ける誘導ノイズの影響で微小電流成分を検出し、導通ありと誤判定する可能性が有る。
【0114】
そのため、本発明者は高調波を用いた電源のインピーダンス観測を行って電圧高調波が必ず電流波形にも反映され、それによって電源側の導通状態がより正確に確認することができる。また、線間電圧、線間電流の高調波成分を算出することで各信号に含まれる同周波数で同位相の電磁誘導ノイズに対しては互いにキャンセルする効果があり、より正確な判定が可能である。
【0115】
ところで、電磁誘導ノイズに対しては電圧高調波のみが観測されるのは断線状態で電流が流れていない場合であり、電流高調波のみが観測されるのは誘導ノイズのためと考えられる。この電源のインピーダンス観測も交流1サイクル分の観測のみではノイズの影響で正確には測定できず、長時間に渡って観測を行うことによってより高精度な欠相判定が可能である。
【0116】
また、上記欠相状態判定部8において上記[第4条件]に用いられる定数K2を1.5程度とすることによって、[第4条件]の判定を正確に行うことができる。
【0117】
なお、上記欠相状態判定部8が上記[第1条件],[第2条件],[第3条件]を少なくとも1回満たすとき、欠相の予兆と判断する欠相予兆判断部を備えてもよい。この場合、欠相予兆判断部により欠相の予兆と判断することで、欠相状態になる前に速やかに対応することが可能になる。
【0118】
この発明の欠相検出器によれば、変圧器TRの二次側が無負荷の場合でも、励磁電流程度の微弱な充電電流の有無で変圧器TRの一次側の欠相監視が可能である。電流信号が微弱な場合は、測定時間を最大1000倍程度まで増加させてデータのサンプル数を増やすことにより、ランダムノイズは低減されて測定精度が増加する。また、CT2の二次側の信号ラインに並走する電流信号などによる誘導ノイズのように、サンプル数を増しても低減されないノイズに対しては、この発明の第2欠相判定アルゴリズムによって、変圧器TRのコアのヒステリシス特性のために励磁電流に含まれる3次〜7次の高調波成分から求めた電源側を見た線間インピーダンスベクトル量を用いて欠相状態を再確認することができ、より精度の高い判定を行うことができる。
【0119】
また、この発明によれば、電流信号が微弱な場合は測定時間を最大1000倍程度まで増加させることにより高精度な判定が可能であると共に、電流信号が急激に増大した場合は測定時間を自動的に短縮するので、最短で交流信号の数サイクルでの判定が可能である。
【0120】
上記実施の形態では、
図2に示す第1欠相判定アルゴリズムと、
図4に示す第2欠相判定アルゴリズムを用いて欠相状態の判定を行う欠相検出器およびそれを備えた欠相検出システムについて説明したが、欠相検出器はこれに限らず、第1欠相判定アルゴリズムのみを用いて欠相状態の判定を行う欠相検出器にこの発明を適用してもよい。
【0121】
また、上記実施の形態では、欠相状態判定部8の判定結果の表示および外部への伝送を行う判定結果出力部9を備えた欠相検出器11について説明したが、欠相状態判定部はなくともよい。
【0122】
従来の発電所の非常時電源装置の変圧器は、普段稼働しないことから励磁電流が極端に小さくなるよう設計されており、線間電圧550kVでも励磁電流は0.1A程度である。一方、短絡電流は数千Aになるので、測定側では5桁程度の有効数字が必要になる。このような数千Aの短絡電流を測定系にそのまま流せないので、CTなどの変換器が現場では必須要件となるが、例えば電流4千Aを5Aにするには変流比が800:1のCTが必要となる。この場合のCTの一次側電流0.1Aとすると二次側電流は125μAとなり、このような微小電流を数百m離れた保護リレー室で監視することは精度上困難である。
【0123】
これに対して、この発明の欠相検出器では、CTの二次側電流を数十秒の電流波形データを蓄積させてDFTにより各相の電流のベクトル量を抽出することにより、μAのオーダーにまで小さくなってしまったCTの二次側電流から欠相判定することができる。
【0124】
なお、測定対象が125μA程度の電流である場合、隣接する別系統のCT電流が数A流れていると、そのケーブルが同じ配線ダクト内を数十m併走されている場合は、商用周波数の誘導ノイズ(基本波成分)が測定対象であるCTの二次側電流に重畳する。このような誘導ノイズによる影響を低減させるため、この発明の欠相検出器では、各相電流と零相電流のベクトル和が略零となる当然成立すべき論理条件を確認し、その条件を満たさない場合は、高調波成分の線間複素電圧(線間電圧のベクトル量)を線間複素電流(線間電流のベクトル量)で割って線間インピーダンスベクトル量を求めて、電源側の欠相判定を行うので、商用周波数の誘導ノイズは、線間要素による演算でキャンセルされて効果的に低減できる。
【0125】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【解決手段】欠相状態判定部(8)は、常に同一の“1相”のベクトル量の絶対値が他の相のベクトル量の絶対値のK1倍以下であるという[第1条件]と、他の2相の各電流の基本波成分のベクトル和が略零であるという[第2条件]と、3相のうち電流のベクトル量の絶対値が最大となっている相の電流のベクトル量の絶対値が変圧器の励磁電流を含めた充電電流値の50%以上であるという[第3条件]について、Mサイクル毎に判定して、L回連続して[第1条件],[第2条件],[第3条件]を満たすとき、“1相”が正に欠相状態にあると判定する。M値設定部(7c)により、N個の電流波形データ毎の3相のうち実効値が最大となっている相の実効値が小さいほどMの値を大きくする一方、実効値が最大となっている相の実効値が大きいほどMの値を小さくする。