(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る終減速装置について、図面を参照しながら以下に説明する。
<1.構成>
(1−1.ブルドーザの全体構成)
図1は、本実施の形態に係る終減速装置を用いたブルドーザ1を示す側面図である。本実施の形態のブルドーザ1は、車両本体2と、作業機3と、走行装置4とを備えている。
【0011】
車両本体2は、主にキャブ11、エンジン、冷却装置13などを有する。キャブ11には、作業車両のオペレータが座るためのシートや各種操作のためのレバー、ペダルおよび計器類が内装されている。エンジンは、キャブ11の前方に配置されておりエンジンカバー12によって覆われている。冷却装置13は、キャブ11の後方に配置されている。冷却装置13は、例えば、エンジンの冷却液を冷却するラジエータと、作動油を冷却するオイルクーラと、空気の流れを生成する冷却ファンとを含む。なお、以下の説明において、前後方向とは、ブルドーザ1の前後方向を意味する。言い換えれば、前後方向とは、キャブ11に着座したオペレータから見た前後方向を意味する。また、左右方向とは、キャブ11に着座したオペレータから見た左右方向を意味する。ブルドーザ1の車幅方向とは、前述の左方向もしくは右方向のいずれかを意味する。
【0012】
作業機3は、エンジンカバー12の前方に設けられている。作業機3は、ブレード14とブレード駆動機構15とを有する。ブレード駆動機構15には、油圧シリンダ16が設けられており、油圧シリンダ16によってブレード14が動作される。
(1−2.走行装置)
走行装置4は、履帯17と、トラックフレーム18と、アイドラ19と、スプロケット5とを有している。スプロケット5は、外周に設けられたスプロケットティース21と、内部に設けられた終減速装置20(減速装置の一例)並びに油圧モータ22(後述する
図2参照)とを有している。履帯17は、車両本体2の左右に設けられており、無端状である。トラックフレーム18は、車両前後方向に沿って配設されている。アイドラ19は、トラックフレーム18の前端に回転可能に支持されている。終減速装置20は、トラックフレーム18の後端に固定されている。スプロケットティース21は、終減速装置20に取り付けられている。アイドラ19とスプロケット5に履帯17が巻き掛けられている。
【0013】
油圧モータ22の回転が終減速装置20によって減速されてスプロケットティース21に伝達され、履帯17が回転し、ブルドーザ1は走行する。
(1−3.油圧モータ、終減速装置の概要)
図2は、本実施の形態の終減速装置20をブルドーザ1の後方から視た断面図である。
図3は、終減速装置20の主要部品の配置を示す分解斜視図である。
図3では、減速部33の構成部品、他の構成を適宜省略している。
図2、
図3および以下の図では、左側面側の終減速装置20を示しているため、
図2および
図3における左側は、車幅方向外側に対応し、右側は車幅方向内側に対応する。ここで、車幅方向外側は、平面視で幅方向中心を通る車両本体2の前後方向に延びる中心線から車幅方向に離れる方向を意味し、車幅方向内側とは中心線に近づく方向を意味する。
【0014】
図2に示すように、本実施の形態の終減速装置20は、主にハウジング部30と、減速部33と、シール部34と、油掻き部35と、ベアリング部36と、複数の連通孔47eとを備える。
ハウジング部30は、油圧モータ22および減速部33を収納する。ハウジング部30は、固定側ハウジング31と、回転側ハウジング32を有する。
【0015】
油圧モータ22は、固定側ハウジング31に収納されている。固定側ハウジング31は、回転側ハウジング32を回転可能に支持する。回転側ハウジング32には、減速部33が収納されている。減速部33は、油圧モータ22の回転を減速し、回転側ハウジング32に伝達する。シール部34は、固定側ハウジング31と回転側ハウジング32の隙間Gを封止し、潤滑油が漏れることを防止する。油掻き部35は、シール部34の上部に潤滑油を掻き上げる。ベアリング部36は、固定側ハウジング31の周囲に配置され、回転側ハウジング32を回転可能にする。複数の連通孔47eは、減速部33が配置されている収納空間S1とシール部34が配置されているシール配置空間S2とを連通する。
【0016】
上記構成について以下に詳細に説明する。
(1−4.固定側ハウジング)
図4は、
図2の部分拡大図であって、後述するシール部34近傍を示す図である。
図5は、固定側ハウジング31を車幅方向外側から見た正面図である。
固定側ハウジング31は、トラックフレーム18(
図3参照)に固定されており、油圧モータ22を収納する。油圧モータ22は、
図2に示すように出力軸22aが水平方向に配置されている。固定側ハウジング31は、軸受40、41を介して油圧モータ22の出力軸22aを回転可能に支持している。
【0017】
固定側ハウジング31は、主に、筒状部42と、固定側対向部43と、突出部44と、外縁部45と、先端面50を有している。筒状部42は、水平方向に中心軸Oを有する筒形状の部材であって、油圧モータ22を覆っている。この中心軸Oは、出力軸22aの中心と一致する。筒状部42の車幅方向外側は、
図3および
図5に示すように開口が形成された先端面50によって閉じられている。また、筒状部42の先端面50の近傍には開口が形成されており、後述する減速部33の構成部品が開口より露出する。なお、以下の説明において径方向内側および径方向外側とは、中心軸Oを基準とした内側(中心軸Oに近づく側)および外側(中心軸Oから離れる側)を示す。
【0018】
筒状部42の基端側であって筒状部42から径方向外側に突出するように突出部44が形成されている。突出部44は、筒状部42の一周にわたって形成されている。
固定側対向部43は、回転側ハウジング32に対向する部分である。固定側対向部43は、突出部44から車幅方向外側に向かって突出するように形成されている。固定側対向部43の内周面43aと筒状部42の外周面42aの間には、
図2および
図4に示すように空間が形成されており、この空間は後述するシール部34が配置されるシール配置空間S2の一部を構成する。
【0019】
固定側対向部43の径方向内側の内周面43aは、
図4に示すように車幅方向の内側から外側に向かって径が広くなるように傾斜している。固定側対向部43は、その先端部に溝部43bを有している。固定側対向部43は円環状に形成されており、その円環部分に溝部43bが円環状に形成されている。
図5では、分かりやすくするために溝部43bにハッチングが施されている。
【0020】
この溝部43bには、後述する回転側ハウジング32の突出部48bが非接触で挿入され、いわゆるラビリンス構造が形成される。
外縁部45は、固定側対向部43および突出部44の径方向外側に位置している。
図2における上方の外縁部45は、固定側対向部43および突出部44を覆うように形成されている。
【0021】
(1−5.回転側ハウジング)
回転側ハウジング32は、先端が閉じられた円筒状の部材であって、
図2及び
図3に示すように蓋部46と、ハブ47と、カバー48と、を有する。回転側ハウジング32は、固定側ハウジング31を外側から覆うように設けられている。回転側ハウジング32の中心軸は、固定側ハウジング31の中心軸Oと一致する。
【0022】
蓋部46は、固定側ハウジング31の先端を覆っている。詳細には、蓋部46は、円板形状の第1部材51と、筒状の第2部材52とを有している。第1部材51は、固定側ハウジング31よりも車幅方向外側に配置されている。第1部材51は、その主面が出力軸22aと略垂直になるように配置されている。第2部材52は、第1部材51とボルトによって固定されている。第2部材52には、その車幅方向内側の端に径方向外側に向かって突出した縁部52eが形成されている。縁部52eは、ハブ47と接続される部分である。
【0023】
第2部材52は、中心軸Oに対して垂直な方向から見て固定側ハウジング31の筒状部42と重なるように配置されている。
(1−5−1.ハブ)
ハブ47は、回転側ハウジング32の一部分であり、中心軸O方向で蓋部46とカバー48との間に配置される。
【0024】
ハブ47は、スプロケットティース21を支持するための円環状の部材であって蓋部46よりも車幅方向内側に配置されている。
ハブ47は、蓋部46の縁部52eにボルトによって固定される。ハブ47は、筒状部42の外周面にベアリング部36を介して配置されている。
ハブ47は、内周面近傍に中心軸O方向に延びる連通孔47eを備える。連通孔47eは、後述の減速部33の収納空間S1とシール配置空間S2との間を連通する。
【0025】
図6(a)と
図6(b)は、車幅方向外側からハブ47を見た平面図と斜視図である。
図6(c)は、車両本体後方からハブ47を見た図である。
図6(d)と
図6(e)は、車幅方向内側からハブ47を見た平面図と斜視図である。また、
図7は、車両本体2の後方から見たハブ47の断面図である。
ハブ47の車幅方向外側の外側面47aには、
図6(a)〜(c)および
図7に示すように車幅方向外側に向かって突出した当接部47gが円環状に形成されている。この当接部47gは、第2部材52の縁部52eと当接する。当接部47gには、第2部材52と接続するための複数のボルト孔47bが形成されている。
【0026】
また、ハブ47の車幅方向内側の内側面47cには、
図6(c)〜(e)および
図7に示すように車幅方向内側に向かって突出した当接部47hが円環状に形成されている。当接部47hには、カバー48と接続するための複数のボルト孔47dが形成されている。
ハブ47の外側面47aであって当接部47gの径方向内側には、傾斜面47iが形成されている。この傾斜面47iは、
図4に示すように第2部材52および筒状部42とは当接しておらず、後述する収納空間S1に面している。
【0027】
また、ハブ47には、
図4および
図7に示すように傾斜面47iから内側面47cまで連通する連通孔47eが形成されている。傾斜面47iにおける連通孔47eの開口が47e1として示され、内側面47cにおける連通孔47eの開口が47e2として示されている。連通孔47eは、中心軸Oと平行に形成されている。連通孔47eは、
図6(a)〜(e)に示すように中心軸Oを基準とした同一半径上に複数個形成されている。開口47e2は、内側面47cにおいて、当接部47hの径方向内側に設けられている。
【0028】
ハブ47の外周縁部47jは、
図6および
図7に示すように径方向外側に向かって形成されており、スプロケットティース21が取り付けられる。外周縁部47jには、中心軸O方向と平行に形成されたボルト孔47fが周方向に沿って複数個設けられている。一方、スプロケットティース21には、
図3に示すようにボルト孔21aが複数形成されている。スプロケットティース21は、ボルト孔21aを介してボルトによってハブ47に固定される。
【0029】
(1−5−2.カバー)
カバー48は、ハブ47の車幅方向内側を覆う部材であり、ハブ47にボルトによって固定されている。カバー48は、車幅方向内側に回転側対向部49を有している。
図8(a)と
図8(b)は、車幅方向外側からカバー48を見た平面図と斜視図である。
図8(c)は、車両本体後方からカバー48を見た図である。
図8(d)と
図8(e)は、車幅方向内側からカバー48を見た平面図と斜視図である。また、
図9は、車両本体2の後方からカバー48を見た断面図である。
【0030】
カバー48は、円環状であり、ハブ47の内側に配置される。カバー48は、固定側ハウジング31の突出部44に対向する回転側ハウジング32の面を形成する。カバー48の径方向内側には、シール部34、固定側ハウジング31の筒状部42が配置される。
図8(c)〜(e)および
図9に示すようにカバー48の車幅方向内側の内側面48aには、車幅方向の内側に向かって突出した円環状の突出部48bが形成されている。突出部48bは、
図4に示すように溝部43bに非接触で挿入されている。突出部48bと突出部48bの径方向内側および外側の部分によって、固定側対向部43に対向する回転側対向部49が形成されている。
【0031】
中心軸Oに対して垂直な方向から見て、固定側対向部43と回転側対向部49は互いに重なるように形成されており、ラビリンス構造を形成している。このように中心軸Oと平行な方向に互いに対向している固定側対向部43と回転側対向部49の間には、隙間Gが形成されている。このラビリンス構造により、終減速装置20内部への異物の侵入が防がれている。
【0032】
カバー48には、突出部48bの径方向外側にハブ47にボルトで締結するための複数のボルト孔48cが形成されている。また、
図8(a)〜(c)および
図9に示すようにカバー48の車幅方向外側の外側面48dであってボルト孔48cの径方向内側には、車幅方向外側に向かって突出した突出部48eが形成されている。突出部48eは円環状に形成されている。突出部48eはハブ47の内側面47cに当接する。突出部48eの径方向内側には、突出部48eに沿って複数の凹部48fが形成されている。凹部48fについては後段にて更に説明する。
【0033】
カバー48の内周縁の車幅方向内側の端には、
図4および
図9に示すように、傾斜面48gが形成されている。傾斜面48gは、
図4および
図9に示すように車幅方向の内側から外側に向かって径が小さくなるように傾斜している。
(1−6.減速部)
減速部33は、回転側ハウジング32の内側に形成される収納空間S1に収納されている。減速部33は、
図2に示すように主に第1サンギア61、第1遊星キャリア62、第1遊星ギア63、第2サンギア64、第2遊星ギア65、第2遊星キャリア66、およびリングギア67を有している。
【0034】
第1サンギア61は、油圧モータ22の出力軸22aの端部に設けられた第1サンギア軸61aに取り付けられている。リングギア67は、回転側ハウジング32の第2部材52の内周面に形成されている。第1遊星ギア63は、第1サンギア61およびリングギア67と噛み合っている。第1遊星キャリア62は、第1遊星ギア63を回転自在に支持する。第1遊星キャリア62は、第2サンギア64と噛み合っている。第1サンギア61、第1遊星キャリア62、第1遊星ギア63、リングギア67によって1段目の遊星減速機構が構成されている。
【0035】
第2サンギア64は、出力軸22aに遊嵌されている。第2遊星ギア65は、第2サンギア64およびリングギア67に噛み合っている。第2遊星キャリア66は、第2遊星ギア65を回転自在に支持する。第2遊星キャリア66は、固定側ハウジング31と一体形成されている。第2サンギア64、第2遊星ギア65、第2遊星キャリア66、およびリングギア67によって2段目の遊星減速機構が構成されている。
【0036】
以上のような減速部33によって油圧モータ22の出力軸22aの回転が減速されて回転側ハウジング32に伝達され、回転側ハウジング32が回転する。
また、減速部33が収納されている収納空間S1には、減速部33を潤滑するための潤滑油Lが貯留されている。潤滑油Lは、回転側ハウジング32の約半分の高さまで貯留されている。
【0037】
(1−7.シール部)
シール部34は、上述のラビリンス構造の径方向内側にあり、固定側対向部43と回転側対向部49によって形成される隙間Gを封止し、潤滑油Lが漏れることを防止する。
シール部34は、
図4に示すように隙間Gの径方向内側に配置されている。シール部34は、一対の固定側シールリング71および回転側シールリング72と、一対の固定側Oリング73及び回転側Oリング74とを有する。
【0038】
固定側Oリング73は、断面が円形のニトリルゴム製リングである。固定側Oリング73は、上述した固定側対向部43の内周面43aに当接している。固定側Oリング73の内周側に固定側シールリング71が配置されている。
回転側Oリング74は、断面が円形のニトリルゴム製リングである。回転側Oリング74は、上述したカバー48の傾斜面48gに当接している。回転側Oリング74の内周側に回転側シールリング72が配置されている。
【0039】
固定側シールリング71は金属製であり、内周面43aと対向するように傾斜し、固定側Oリングに当接する傾斜面71aと、回転側シールリング72が摺接する摺接面71bとを有する。摺接面71bは、中心軸Oに対して略垂直に配置されている。
回転側シールリング72は金属製であり、傾斜面48gと対向するように傾斜し、固定側Oリングに当接する傾斜面72aと、固定側シールリング71に摺接する摺接面72bとを有する。摺接面72bは、中心軸Oに対して略垂直に配置されている。
【0040】
シールリング71、72は、ゴム製のOリング73、74を介して回転部より浮いた状態の摺接面を持つので、シール部34はフローティングシールと呼ばれる。上記摺接面72bによりシール性がもたらされる。
油圧モータ22の駆動によって回転側ハウジング32が回転すると、回転側Oリング74および回転側シールリング72は、回転側ハウジング32とともに回転する。一方、固定側Oリング73および固定側シールリング71は、固定側ハウジング31に固定されている。そして、回転側シールリング72が固定側シールリング71に対して摺動しながら回転することによって、封止が保たれた状態で回転側ハウジング32が固定側ハウジング31に対して回転できる。
【0041】
なお、シール部34は、カバー48とハブ47と後述するベアリング部36と、固定側ハウジング31(特に、筒状部42、突出部44および固定側対向部43)に囲まれた略円環状のシール配置空間S2に配置されている。
図10は、シール配置空間S2を示す図である。
図10は、
図4と同じ図であるが、説明のためにシール配置空間S2にハッチングを施している。
【0042】
(1−8.ベアリング部)
ベアリング部36は、
図2〜
図4に示すように主に第1ベアリング53と第2ベアリング54を有する。
第1ベアリング53と第2ベアリング54は、固定側ハウジング31の筒状部42の外周面42aに配置されている。第1ベアリング53と第2ベアリング54の外周側にはハブ47が配置されている。
【0043】
第1ベアリング53は、ハブ47の車幅方向内側の端側であってハブ47の径方向内側に配置されている。詳しくは、固定側対向部43の径方向内側近傍の筒状部42には、
図4に示すように段差42bが形成されており、この段差42bに第1ベアリング53は当接している。
第2ベアリング54は、ハブ47の車幅方向外側の端側であってハブ47の径方向内側に配置されている。
【0044】
ベアリング部36は、固定側ハウジング31および回転側ハウジング32によって形成される空間を、概ねシール部34が配置されるシール配置空間S2と減速部33が収納される収納空間S1に分けている。ベアリング部36は、分けたシール配置空間S2と収納空間S1の間を潤滑油Lが移動可能に接続している。
(1−9.油掻き部)
油掻き部35は、
図4に示すようにシール配置空間S2に面するようにカバー48に設けられている。油掻き部35は、カバー48に形成された複数の凹部48fを有している。
図4、
図8(a)、(b)および
図9に示すように、複数の凹部48fは、外側面48dであって円環状に形成された突出部48eの径方向内側に形成されている。凹部48fは、その深さ方向Z(
図9参照)が中心軸Oと平行に形成されている。凹部48fは、カバー48の回転側ハウジング32の内部に面して径方向に延びる面に形成されている。また、凹部48fは、
図4に示すようにシール部34の径方向外側に設けられている。複数の凹部48fは、
図8(a)に示すように中心軸Oを中心として同一半径上に一周にわたって形成されている。それぞれの凹部48fは、正面視において円周方向に沿うように湾曲して形成されている。
【0045】
このように複数の凹部48fを周方向に一定の間隔で設けることによって、円環状に凹凸が繰り返され油掻き部35が形成される。円環状に繰り返された凹凸形状は、シール配置空間S2に面している。
また、凹部48fは、上述した連通孔47eと対向するように配置されている。詳細には、連通孔47eの内側面47c側の開口47e2と凹部48fが対向している。
【0046】
<2.動作>
以下の動作では、潤滑油の流れを中心に説明する。
回転側ハウジング32が回転していない静止状態において減速部33が収納されている収納空間S1には約半分の高さまで潤滑油Lが貯留されている。このため、円環状のシール配置空間S2のうちの下部空間S20(
図2参照)は、常に潤滑油Lが貯留されている状態となっている。
【0047】
このような状態において、油圧モータ22が駆動して出力軸22aが回転すると、その回転が減速部33によって減速されて回転側ハウジング32に伝達され、回転側ハウジング32が回転する。
回転側ハウジング32の回転によってカバー48も回転する。この回転の際に、シール配置空間S2のうち下側の下部空間S20の潤滑油Lが、油掻き部35の凹凸形状によって上側の上部空間S21へと掻き上げられる。このため、上側の上部空間S21へ潤滑油Lが供給され、上部空間S21に配置されているシール部34の上部にも潤滑油Lが供給される。このため、シール配置空間S2に配置されているシール部34の全体にわたって潤滑油Lが供給され、シール部34を冷却できる。このため、シール部34の固定側Oリング73および回転側Oリング74の寿命を延ばすことができる。
【0048】
また、回転側ハウジング32の回転によって収納空間S1内の潤滑油Lは、
図10の矢印Aに示すように、ベアリング部36を介してシール配置空間S2へ供給される。シール配置空間S2に供給された潤滑油Lは、連通孔47eを通って収納空間S1へと戻される(矢印B参照)。このように連通孔47eを設けることによって、シール配置空間S2から潤滑油Lが収納空間S1側に出ていきやすい。そのため、潤滑油Lが収納空間S1からシール配置空間S2側へと流れ込みやすくなる。
【0049】
すなわち、収納空間S1とシール配置空間S2の間を潤滑油Lが循環する経路が形成される(矢印Aおよび矢印B)ため、シール配置空間S2が狭い場合であっても潤滑油Lがシール配置空間S2内に供給される。
なお、
図10では、潤滑油Lがベアリング部36を通ってシール配置空間S2へと流入して連通孔47eから流出すると記載したが、回転の速度、内部の形状等によって、潤滑油Lが連通孔47eを通ってシール配置空間S2へと流入しベアリング部36を通って収納空間S1へと流出する場合もあり得る。要するに、循環経路を形成することによって潤滑油Lのシール配置空間S2へ流入しやすくなる。
【0050】
<3.主な特徴>
(3−1)
本実施の形態の終減速装置20(減速装置の一例)は、ハウジング部30と、減速部33と、シール部34と、凹部48fと、を備えている。油圧モータ22(駆動部の一例)の出力軸22aの回転によって水平方向を中心軸O(回転軸の一例)として回転する回転側ハウジング32(第1ハウジングの一例)と、回転側ハウジング32を回転可能に支持する固定側ハウジング31(第2ハウジングの一例)とを有する。減速部33は、油圧モータ22の回転を減速して回転側ハウジング32に伝達しハウジング部30に収納されている。シール部34は、回転側ハウジング32と固定側ハウジング31の間に配置される。凹部48fは、シール部34より径方向外側に位置し、シール部34の回転側ハウジング32側と空間的につながり、回転側ハウジング32の内側部分に形成されている。
【0051】
このように油掻き部35を備えることによって、
図2に示すように、シール配置空間S2のうちの下部空間S20に貯留されている潤滑油Lをシール配置空間S2のうちの上部空間S21に掻き上げることができる。これによって、シール配置空間S2に配置されているシール部34の上部に潤滑油Lを供給できる。このため、シール部34の全体に亘って潤滑油Lを供給できる。
【0052】
また、油を掻き上げるための構成として複数の凹部48fを形成している。凹部48fは、シール部34が配置されている空間がたとえ狭い場合であっても形成できるため、シール部34の上部にも潤滑油Lを供給できる。
(3−2)
本実施の形態の終減速装置20は、ベアリング部36を更に備える。ベアリング部36は、回転側ハウジング32を固定側ハウジング31に対して回転するために固定側ハウジング31と回転側ハウジング32の間に設けられている。ベアリング部36は、減速部33が配置された収納空間S1(第2空間の一例)とシール部34が配置されたシール配置空間S2(第1空間の一例)を潤滑油Lが通過可能に接続する。
【0053】
シール配置空間S2は、ベアリング部36を通じて減速部33が収納された収納空間S1と接続されているが、シール配置空間S2が狭い場合には、シール配置空間S2の上部には収納空間S1から潤滑油Lが供給され難い。しかしながら、上記のように油掻き部35を設けることによってシール部34の上部にも潤滑油Lを供給できる。
(3−3)
本実施の形態の終減速装置20は、複数の連通孔47eを更に備えている。複数の連通孔47eは、回転側ハウジング32に形成され、シール配置空間S2と収納空間S1の間を連通する。
【0054】
これにより、
図10に示すように、シール配置空間S2から収納空間S1に潤滑油Lが戻る通路が形成されるため、たとえシール配置空間S2が狭い場合であっても収納空間S1からシール配置空間S2に向かって潤滑油が供給されやすい。すなわち、連通孔47eによってベアリング部36とともに潤滑油Lが循環する経路が形成するため、シール配置空間S2が行き止まりにならないのでシール配置空間S2にベアリング部36を介して潤滑油Lが供給されやすくなる。
【0055】
(3−4)
本実施の形態の終減速装置20では、凹部48fは複数形成されており、複数の連通孔47eは、複数の凹部48fに対向して設けられている。
これにより、掻き上げられた潤滑油Lが連通孔47eを通して収納空間S1に戻りやすくなるため、潤滑油Lが循環しやすくなり、シール部34の冷却効果が向上する。
【0056】
(3−5)
本実施の形態の終減速装置20では、固定側ハウジング31は、筒状部42と、固定側対向部43(第1対向部の一例)とを有する。筒状部42は、水平方向に中心軸Oを有する。固定側対向部43は、シール部34より径方向外側に位置し、回転側ハウジング32と対向して隙間Gを形成する。ベアリング部36は、筒状部42の周囲に配置されている。回転側ハウジング32は、蓋部46と、ハブ47と、カバー48とを有する。蓋部46は、筒状部42の先端を覆う。ハブ47は、ベアリング部36の外周側に設けられ、スプロケットティース21と接続される。カバー48は、ハブ47の蓋部46の反対側に設けられる。カバー48は、固定側対向部43に対向し隙間Gを形成する回転側対向部49(第2対向部の一例)を含む。シール配置空間S2は、筒状部42の外側であって、カバー48とハブ47とベアリング部36および固定側ハウジング31によって囲まれて形成されている。凹部48fは、カバー48のハブ47に対向する外側面48dに形成されている。
【0057】
これにより、ハブ47の車幅方向内側に形成されたシール配置空間S2内に配置されたシール部34の上部に潤滑油Lを供給できる。このため、シール部34の全体に亘って潤滑油Lを供給できる。
(3−6)
本実施の形態の終減速装置20では、凹部48fは複数形成されており、複数の凹部48fは、中心軸Oから同一半径上に形成されている。それぞれの凹部48fは、円周方向に沿って形成されている。
【0058】
これにより、シール配置空間S2のうちの下部空間S20に貯留されている潤滑油Lをシール配置空間S2のうちの上部空間S21に掻き上げてシール部34の上部に供給できる。
(3−7)
本実施の形態の終減速装置20では、油圧モータ22は、固定側ハウジング31に収納される。減速部33は、回転側ハウジング32に収納される。収納空間S1は、回転側ハウジング32の内側に形成される。回転側ハウジング32は、出力軸22aを中心に回転する。
【0059】
このようなHST(Hydro Static Transmission)タイプの減速装置の場合、油圧モータ22が終減速装置20の固定側ハウジング31内に収納されるため、配管等の制約を受けてシール配置空間S2が狭くなることが多く、シール部34の上部に潤滑油Lを供給しにくい。このため、本実施の形態の構成は、HSTタイプの減速装置において、より効果を発揮できる。
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
(A)
上記実施の形態では、油掻き部35は、カバー48の外側面48dに形成された複数の凹部48fを有しているが、凹部48fは、外側面48dに形成されていなくてもよい。
図11(a)に示すように、突出部48eの径方向内側に凹部48f´が形成されていてもよい。この凹部48f´は、その深さ方向が中心軸Oと垂直になるように形成されている。
【0061】
(B)
上記実施の形態では、油掻き部35はカバー48に設けられていたが、
図11(b)に示すように、ハブ47に設けられていてもよい。この場合、ハブ47の内側面47cであって、シール配置空間S2に面する位置に複数の凹部47kが形成される。これら複数の凹部47kは、連通孔47eの間に設けられる。例えば、連通孔47eと凹部48fが交互に配置されていてもよい。
【0062】
(C)
上記実施の形態では、連通孔47eは中心軸Oと平行に水平に形成されているが、傾斜していてもよい。例えば開口47e1側が開口47e2側よりも外周側に位置するように連通孔47eが形成されていてもよい。
(D)
上記実施の形態では、静油圧式無段変速機(HST、Hydro-Static Transmission)における終減速装置20が油掻き部35および連通孔47eを備えた構成について説明したが、油圧式操向装置(HSS、Hydrostatic Steering System)の終減速装置に対して上述したような油掻き部35および連通孔47eが設けられていてもよい。
【0063】
(E)
上記実施の形態では、作業車両の一例としてブルドーザ1を例に挙げて説明したが、ブルドーザに限られなくてもよく、例えば油圧ショベルなどであってもよい。
本発明の終減速装置(20)では、減速部(33)は、油圧モータ(22)の出力軸(22a)に連結され、油圧モータ(22)の回転を減速する。ハウジング部(30)は、減速部(33)によって減速された油圧モータ(22)の回転によって水平方向を中心軸(O)として回転する回転側ハウジング(32)と、回転側ハウジング(32)を回転可能に支持する固定側ハウジング(31)とを有する。ハウジング部(30)は、減速部(33)を収納する。シール部(34)は、回転側ハウジング(32)と固定側ハウジング(31)の間の隙間(G)の内側に配置され、隙間(G)を封止する。油掻き部(35)は、シール部(34)の上部に潤滑油(L)を供給するために潤滑油(L)を掻き上げる。油掻き部(35)は、シール部(34)が配置されたシール配置空間(S2)に面した回転側ハウジング(32)の部分に形成された複数の凹部(48f)を有する。