特許第5926488号(P5926488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5926488フッ素化されたオレフィンを生成するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926488
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】フッ素化されたオレフィンを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20160516BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20160516BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07B61/00 300
   C07C21/18
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-522069(P2010-522069)
(86)(22)【出願日】2008年8月22日
(65)【公表番号】特表2010-536881(P2010-536881A)
(43)【公表日】2010年12月2日
(86)【国際出願番号】US2008074033
(87)【国際公開番号】WO2009026526
(87)【国際公開日】20090226
【審査請求日】2011年8月12日
【審判番号】不服2014-18018(P2014-18018/J1)
【審判請求日】2014年9月9日
(31)【優先権主張番号】60/957,193
(32)【優先日】2007年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/196,207
(32)【優先日】2008年8月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100098590
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 隆
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス,スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】フレミング,キム
(72)【発明者】
【氏名】デュベイ,ラジェシュ
(72)【発明者】
【氏名】ボルツ,シェリル
(72)【発明者】
【氏名】ムコパドヒャイ,スディプ
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 瀬良 聡機
【審判官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/079431(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C17/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化された有機化合物を製造する方法であって、
(a)CFCCl=CHをフッ化水素と反応させて、CFCFCH及びCFCFClCHの少なくとも1種の化合物を含む生成物を生成させ、
(b)前記生成物を、未反応フッ化水素を除く以外に更なる処理をすることなく、脱ハロゲン化水素工程に導入してCFCF=CHを含む生成物を生成させる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記CFCCl=CHが、
3,3,3−トリフルオロプロペンを塩素付加剤と接触させて、式(A):
CF(CXCHClCH (A)
(式中、Xは、Cl、Br、又はIであり、そして、nは0である。)
にしたがった化合物を生成させ、そして
前記式(A)にしたがった化合物を脱ハロゲン化水素して、CFCCl=CHを形成することを含む方法
によって製造される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化された有機化合物を調製するための新規な方法、より特定的には、フッ素化されたオレフィンを生成する方法、更により特定的には、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO−1234yf)を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)、特に、テトラフルオロプロペン(特定的には、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンを含む)などのハイドロフルオロアルケンは、有効な冷媒、消火剤、熱移動媒体、推進剤、起泡剤、発泡剤、気体誘電体、滅菌剤担体、重合媒体、粒子除去流体、担体流体、バフ研磨剤、置換乾燥剤(displacement drying agents)、及び動力サイクル作動流体であると開示されてきた。クロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は地球のオゾン層を破壊する可能性があるが、これらと異なり、HFCは塩素を含有しないので、オゾン層に対して何ら脅威をもたらさない。
【0003】
ハイドロフルオロアルケンを調製する方法はいくつか知られている。例えば、米国特許第4,900,874号(Ihara et al)(特許文献1)は、水素ガスをフッ素化されたアルコールと接触させることによりフッ素含有オレフィンを生成する方法を記載している。これは比較的高い収率の方法であるようだが、商業的規模の製造に関して、高温での水素ガスの取り扱いは困難な安全に関する問題を提起している。また、現場で水素プラントを建築するなど、水素ガスを製造するコストは多くの状況において禁止的であり得る。
【0004】
874号特許は、また、背景において、次式:
RfCF2CH2Cl+Zn→RfCF=CH2+ZnClF
のような、フッ素化されたアルカンを亜鉛と反応させることを含む方法により、フッ素化されたオレフィンを生成するための方法を記載している。
しかし、この反応は、(1)塩化物の使用に基づき反応速度が遅いこと、(2)このような反応において典型的に使用される有機溶媒を廃棄する必要があること、(3)副生物であるハロゲン化亜鉛を廃棄しなければならない問題があることをはじめとする、種々の不利益を有すると捉えられている。
【0005】
米国特許第2,931,840号(Marquis)(特許文献2)は、塩化メチルとテトラフルオロエチレン又はクロロジフルオロメタンとの熱分解によりフッ素含有オレフィンを生成する方法を記載している。この方法は、比較的収率が低い方法で、非常に大きな割合の有機出発材料がこの方法において、かなり多い量のカーボンブラックをはじめとする不所望及び/又は重要でない副生物へと転化される。カーボンブラックは、不必要なだけではなく、プロセスにおいて使用する触媒を失活させる傾向がある。
【0006】
トリフルオロアセチルアセトン及び四フッ化硫黄からのHFO−1234yfの調製が記載されている。Banks, et al., Journal of Fluorine Chemistry, Vol. 82, Iss. 2, p. 171-174 (1997)(非特許文献1)を参照されたい。また、米国特許第5,162,594号(Krespan)(特許文献3)は、テトラフルオロエチレンを別のフッ素化されたエチレンと液相において反応させてポリフルオロオレフィン生成物を生成する方法を開示している。先行する教示にもかかわらず、本出願人らは、一定のハイドロフルオロカーボン、特にHFO−1234yfなどのテトラフルオロプロペンを効率よく調製する方法に対する継続した必要性を認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,900,874号
【特許文献2】米国特許第2,931,840号
【特許文献3】米国特許第5,162,594号
【非特許文献1】Banks, et al., Journal of Fluorine Chemistry, Vol. 82, Iss. 2, p. 171-174 (1997)
【発明の概要】
【0008】
本出願人らは、好ましくは、すくなくとも1種の式(I):
CF(CXCX=CH (I)
の化合物を、すくなくとも1種の式(II):
CF(CXCF=CH (II)
(式中、Xは、Cl、Br、又はIであり、各Xは、独立して、H、Cl、F、Br、又はIからなる群から選択され、nは、0、1、又は2である)
の化合物へと転化することを含む、ハイドロフルオロプロペンを含むフッ素化された有機化合物を生成するための方法を発見した。一定の好ましい態様において、XはClであり、nは0である。
【0009】
ひとつの広い側面においては、転化工程に関して多種多様の条件を使用できると企図している。例えば、転化工程は、一定の態様において、触媒の有無に関わらず気相反応、触媒の有無に関わらず液相反応、及びこれらふたつの組み合わせを含むことができると企図している。しかし、本出願人らは、比較的高い式(I)の化合物の全転化率レベルと比較的高い式(II)の化合物への全選択率とを達成するために、転化工程が少なくとも第一の反応工程とその後の第二の反応工程とを含む一定の態様にしたがえば、例外的な結果を得ることができることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のひとつの有益な側面は、比較的魅力のある出発材料から所望なフルオロオレフィン、好ましくはC3フルオロオレフィンの生成を可能とすることであり、好ましい態様において、本発明は、達成することが可能である。非常に望ましいレベルの出発材料の転化率を達成できると同時に、所望の生成物への高いレベルの選択率を提供することができる。クロロフルオロオレフィン、及び好ましくは2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HFCO−1233xf)は、多くの態様において有利な出発材料である。なぜなら、そのような生成物は、比較的費用がかからず、比較的扱うのが簡単であり、一般的には商業的な量で容易に入手可能であり、又は、他の容易に入手可能な材料から容易に精製することができる。例えば、そのような生成物、特に2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、3,3,3−トリフルオロプロペンの不飽和非末端炭素に塩素を付加してCFCHClCHClを生成し、これを次いで所望の反応体である2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンへと転化することにより形成することができる。したがって、一定の態様において、本方法は、式(A)
CF(CXCHXCH (A)
(式中、X、X、及びnは、前述のとおりである)
の化合物を生成するのに有効な条件下で、トリフルオロプロペンなどのフッ素化されたC3オレフィンをハロゲン付加剤、好ましくは塩素付加剤と反応させることにより、式(I)の化合物を形成する工程を含む。好ましい態様においては、XはClであり、nは0である。次いで、式(A)の化合物は、好ましくはハロゲン化水素化により、式(I)の化合物へと転化する。
【0011】
これまでに参照したタイプの工程、他の方法工程、又は、単に化合物を購入するかのいずれかにより、式(I)の化合物を提供したら、式(II)の化合物へと転化する。必ずしも好ましくはないが、転化工程は、単一の反応条件セット又は範囲を利用する反応条件下で起こり得ると企図しており、かかる工程は、必ずしも限定するものではないが、便宜のため本明細書中においては、一工程反応と呼ぶことがある。そのような一工程反応は、好ましくは、転化及び交換などの、ふたつ又はそれより多い反応機構を含む。好ましくは、一工程反応は、フッ素化などの付加反応と、その後に、脱ハロゲン化水素化などの交換反応を伴う。
【0012】
しかし、本出願人らは、一定のそのような一工程反応の態様において、式(I)の化合物の転化率及び/又は式(II)に関する化合物への選択率は比較的低いことを発見した。本出願人らは、本方法に関して、式(I)の化合物を第一の反応条件セット又は範囲に暴露し、次いで、反応生成物、又は少なくともその一部を、式(II)の化合物を生成する少なくとも第二の反応条件セットに暴露することを含むことが一般的に好ましいことを発見した。そのような態様は、必ずしも限定するものではないが、便宜のため本明細書中においては、多工程反応方法と呼ぶことがある。かかる多工程反応は、好ましくは、付加及び交換などの、ふたつ又はそれより多い反応機構を含む。好ましくは、多工程方法は、フッ素化などの付加反応と、その後の、脱ハロゲン化水素化などの交換反応を伴う。多工程方法の個々の工程はすべて、多段反応器などの−単一の反応器中、又は、直列、並列、若しくはこれらふたつの組み合わせで運転する複数の反応器中で行うことができる。
【0013】
本発明の多段反応方法の好ましい側面において、式(I)の化合物は、
好ましくは比較的高い転化率及び/又は比較的高い選択率で、式(I)の化合物より大きいフッ素置換度を有する飽和化合物を生成するのに有効な条件、好ましくは式(B):
CF(CXCYYCH (B)
(式中、X2及びnは、各々、前述のとおりであり、各Yは、すくなくともひとつのYはFであることを条件として、独立して、F、Cl、Br、又はIである)
にしたがったすくなくとも1種の化合物を生成するのに有効な条件に暴露する。式(I)の化合物を式(B)の化合物に転化する好ましい反応は、必ずしも限定するものではないが、便宜のため本明細書中において、フッ素付加反応と呼ぶ場合がある。好ましくは、第一の反応条件セットからの少なくとも一部の反応生成物、好ましくは、すくなくとも1種の式(B)の化合物を含む反応生成物を、次いで、好ましくは比較的高い転化率及び/又は選択率で、一種又はそれより多い所望のフルオロオレフィン、好ましくは一種又はそれより多い式(II)の化合物を含有する反応生成物を生成するのに有効な条件に暴露する。式(B)の化合物を式(II)の化合物へと転化する好ましい反応は、必ずしも限定するものではないが、便宜のため本明細書中においては、脱フッ化水素化反応と呼ぶことがある。好ましい工程の各々の好ましい側面を以下に説明するが、これらの工程について見出しとして使用する標題は、便宜のために使用し必ずしも限定するものではない。
I.単一工程転化反応
単一工程転化反応は、本明細書中に含まれる全体の教示に照らして、多種多様な方法パラメータ及び方法条件を用いて実施できると企図している。しかし、一定の態様においては、この単一工程反応は、好ましくは触媒の存在下、好ましくは金属触媒の存在下、更により好ましくは、担持された又はバルクのFeCl、酸化クロム、フッ化クロム、オキシフッ化クロム、Ni(Niメッシュを含む)、NiCl、CrF、V、MgO、及びこれらの混合物などの、遷移金属を基材とする一又はそれより多い触媒の存在下 (一定の好ましい態様においては遷移金属ハロゲン化物触媒を含む)で、気相反応を含むことが好ましい。他の触媒としては、炭素を基材とする触媒(活性炭など)及び炭素に担持された触媒、アンチモンを基材とする触媒(SbF、Sb/Cl、及びSb/Clなど)、チタンを基材とする触媒(TiClなど)、アルミニウムを基材とする触媒(AlF、及びAlなど)が挙げられる。例えば、パラジウムを基材とする触媒(Pd/Alなど)、白金を基材とする触媒、ロジウムを基材とする触媒、及びルテニウムを基材とする触媒(Ru/Alなど)をはじめとする、多くの他の触媒を使用してもよいと予期している。もちろん、これらの触媒又は本明細書中に名前を挙げない他の触媒のうち任意のものの二種又はそれより多くを組み合わせて使用してもよい。一般的には、触媒はフッ素化及び/又は塩素化されていることが好ましい。
【0014】
好ましい態様においては、触媒のフッ素化は、触媒をおよそ反応温度及び圧力においてHFの流れに曝露することを含む。
単一工程転化反応は、例えば、気体の形態の式(I)の化合物を適する反応容器又は反応器中に導入することにより行うことができる。好ましくは、容器は、ハステロイ、インコネル、モネル、及び/又はフルオロポリマーライニングなどの腐食に対して耐性のある材料から構成される。好ましくは、容器は、触媒、例えば、所望の反応温度に加熱するための適する手段を備え適する触媒により充填された固定又は流動触媒床を含有する。
【0015】
使用する触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応温度を使用できると企図しているが、一般的には、単一工程転化反応に関する反応温度は、約20℃〜約600℃、好ましくは約50℃〜約550℃、更により好ましくは約300℃〜約550℃であることが好ましい。一般的には、再び、使用する具体的な触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応圧力を使用できることも企図している。反応圧力は、例えば、大気超過圧(superatmospheric)、大気圧、又は減圧であることができるが、一定の態様においては、約0〜約10psigの反応器圧力が好ましい。
【0016】
一定の態様においては、窒素などの不活性希釈ガスを、式(I)の化合物及びHFなどのフッ素化剤と組み合わせて使用してもよい。そのような希釈剤を使用する場合、一般的には、式(I)の化合物対希釈剤のモル比は約1:2〜約50:1であることが好ましい。触媒の量は各態様において存在する特定のパラメータに依存して変動すると企図しており、また、当業者であれば、本明細書中に含まれる教示に照らして過度な実験をすることなく操作可能な範囲を決定することができると企図している。
【0017】
好ましくは、かかる一工程反応条件において、転化率は少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%、更により好ましくは少なくとも約20%である。好ましくは、HFO−1234yfへの選択率は、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%である。
II.多工程転化反応
上述のように、本発明の好ましい側面は、第一の反応工程と少なくとも第二の反応工程とを含む転化プロセスを伴う。第一の反応工程の好ましい態様は、フッ素付加反応を含み、第二の反応工程の好ましい形態は、脱ハロゲン化水素化反応を含む。これらの好ましい工程は各々以下に詳細に説明する。
A.フッ素付加
好ましい態様においては、式(I)の反応体化合物は、ハイドロフルオロクロロオレフィン、より好ましくはハイドロフルオロクロロプロペン、更により好ましくはCFCCl=CHである。フッ素付加剤は、式Xの化合物(式中、少なくともひとつのXがFであることを条件として、各Xは、独立して、H、Cl、F、I、又はBrである)であることが更に好ましい。好ましくは、フッ素付加剤は、ClF、F、及びHFのうち一種又はそれより多くを含む。
【0018】
主としてCFCF=CH(HFO−1234yf)の生成に向けられた態様について、一般的には、式(I)の化合物を、式(B1)
CFCFCH (B1)
(式中、YはF、Cl、Br、又はIであり、nは1又は2であり、mは0又は1であり、そしてn+m=2である)のすくなくとも1種の化合物を生成するのに有効な条件下で反応させるのが好ましい。好ましい態様においては、第一の反応工程は、少なくとも1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)及び2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244)を含む反応生成物を生成する。
【0019】
一定の好ましい態様において、フッ素付加工程は、好ましくは過剰量、更により好ましくは反応の化学量論に必要とされる量の少なくとも1.5倍である量のフッ素化剤と式(I)の化合物とを接触させること(好ましくは反応器中に導入することにより)を含む。好ましい態様においては、フッ素付加剤化合物はHFを含み、式(I)の化合物はCFCCl=CHを含む。一般的には、フッ素付加工程について連続的な気相反応が好ましい。しかし、一定の態様においては、この反応工程を液相において、又は気相と液相の組み合わせで行うようにすることが望ましい場合があることは企図しており、また、この反応は、バッチ様式、半連続、又はこれらの組み合わせで実施することができることも企図している。したがって、本明細書中に含まれる全体の教示に照らせば、多種多様なプロセスパラメータを用いてハロゲン付加工程を実施することができると企図している。しかし、一定の態様においては、この単一工程反応は、好ましくは触媒の存在下で、好ましくは金属触媒、好ましくはアンチモンを基材とする触媒の存在下で、気相反応を含むことが好ましい。非常に好ましい態様において、触媒は、すくなくとも1種のハロゲン化アンチモン、より好ましくは一種又はそれより多いハロゲン化アンチモン、更により好ましくは五塩化アンチモン(SbCl)を含み、好ましくは反応器中の全触媒に基いて少なくとも約30重量%の割合で含む。一定の好ましい態様において、触媒は、炭素上に50重量%のSbClを含む。また、他の触媒を使用してもよい。例えば、触媒は、遷移金属を基材とする触媒(例えば、FeCl及びTiClなどの遷移金属ハロゲン化物触媒を含む)及びSnClなどのスズを基材とする触媒の一種又はそれより多くを含んでもよいことは企図している。すべての触媒はバルクで使用してもよく、及び/又は、例えば、炭素上に担持されていてもよい。特定の態様の要求に依存して、多くの他の触媒を使用できることを企図している。もちろん、これらの触媒又は本明細書中に挙げない他の触媒のうち任意のもの二種又はそれより多くを組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本出願人らは、触媒の前処理、特定的かつ好ましくは塩化アンチモンを基材とする触媒の前処理が一定の好ましい態様において非常に好ましいことを見出した。好ましい態様における前処理工程は、触媒を、すくなくとも1種のハロゲン含有分子、好ましくはF及び/又はClを含有するすくなくとも1種の分子に曝露することを含む。好ましい態様においては、好ましくは約50℃より高い温度で、好ましくは少なくとも2時間の間、更により好ましくは少なくとも4時間の間、前処理ガスを触媒の活性表面上に流すことにより触媒を前処理する。
【0021】
一定の好ましい態様において、前処理ガスはHF及び/又はClを含む。前処理は多くの形態をとることができるが、好ましい態様において、前処理は、触媒をまず、HFを含むガス、好ましくはHFから本質的になるガスにより処理し、次いでこの触媒を、HF及びClを含む、好ましくはこれらから本質的になる、第二のガスにより処理することを含む。また、一般的には、前処理の後、触媒を窒素などの不活性ガスにより吹き流して、触媒からフリーなハロゲン、特にフリーの塩素を実質的に除去することが好ましい。
【0022】
使用する触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応温度を使用できると企図しているが、一般的には、フッ素付加工程に関する反応温度は、約20℃〜約600℃、好ましくは約50℃〜約550℃、更により好ましくは約300℃〜約550℃であることが好ましい。一般的には、再び、使用する具体的な触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応圧力を使用できることも企図している。反応圧力は、例えば、大気超過圧(superatmospheric)、大気圧、又は減圧であることができるが、一定の態様においては、約0〜約10psigの反応器圧力が好ましい。
B.フッ素化剤の分離
一定の態様において、第一反応工程からの反応生成物は、実質的な更なる処理をすることなく、本発明の第二の工程中に導入してもよいと企図しているが、一般的には、反応生成物を第二の反応段階へと導入する前に、未反応の出発材料、及び/又は、不所望な副生物を反応流れから除去するための中間処理工程を使用することが好ましい。例えば、HFなどの未反応のフッ素付加剤を、好ましくは、所望の式(B)の化合物を第二反応段階へと導入する前に、第一反応工程からの反応生成物から除去することを企図している。この除去工程としては、例えば、反応生成物を分離又は抽出ユニット、好ましくはNaF、KF、及び/又はAlOなどの洗浄剤(scrubbing agent)を含有する充填カラムへと導入して、フッ素化剤(好ましくはHF)を反応生成物流れから分離することが挙げられる。好ましくは、かかる態様において、洗浄カラム(scrubbing column)は、高い吸収効率を得るために約50℃〜約75℃の温度に維持する。別の態様では、好ましくは約20重量%〜約60重量%の濃度の、KOH水溶液などの洗浄溶液(scrubber solution)を使用して、反応の第一段階からの反応生成物流れからフッ素化剤(好ましくはHF)を洗浄することができる。
C.脱ハロゲン化水素化
本発明の方法は、好ましくは、第一の反応段階において生成された式(B)の化合物を脱ハロゲン化水素化剤と接触させて、フルオロオレフィン、好ましくはC3又はC4のフルオロオレフィン、より好ましくは式(II)の化合物、更により好ましくはテトラフルオロプロペンを生成することを含む。
【0023】
一定の好ましい態様において、この脱ハロゲン化水素化工程は、少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約55%、更により好ましくは少なくとも約70%の式(II)の化合物の平均転化率を提供するのに有効な条件下で実施する。一定の好ましい態様において、転化率は、少なくとも約90%、より好ましくは約100%である。更に、一定の好ましい態様において、式(II)の化合物を生成するための式(B)の化合物の添加は、少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約70%、更により好ましくは少なくとも約90%の式(II)の選択率を提供するのに有効な条件下で実施する。
【0024】
この反応工程は、液相又は気相中で、又は、気相と液相の組み合わせで実施することができ、反応は、バッチ様式、連続、又はこれらの組合せで実施できると企図している。 しかし、一定の非常に好ましい態様において、反応の第二段階は、気相において実質的に実施する。
【0025】
したがって、脱ハロゲン化水素化反応工程は、本明細書中に含まれる全体の教示に照らして、多種多様なプロセスパラメータを用いて行うことができると企図している。しかし、一定の態様においては、この反応工程は、好ましくは触媒、好ましくは炭素、更により好ましくは活性炭の存在下での、気相反応を含むことが好ましい。他の触媒を単独で、あるいは、互いに組合せるか、又は、好ましい活性炭と一緒に使用してもよい。例えば、アンチモンを基材とする触媒(Sb/Cl)及び/又はアルミニウムを基材とする触媒(AlF及びAlなど)もまた、第二の反応段階において本発明の一定の態様における利点のために使用してもよいと企図している。特定の態様の要求に依存して、例えば、パラジウムを基材とする触媒、白金を基材とする触媒、ロジウムを基材とする触媒、及びルテニウムを基材とする触媒をはじめとする、多くの他の触媒を使用してもよいと予期している。
【0026】
好ましい気相脱ハロゲン化水素化反応は、例えば、気体の形態の式(b)の化合物を適する反応容器又は反応器中に導入することにより、行うことができる。好ましくは、容器は、ハステロイ、インコネル、モネル、及び/又はフルオロポリマーライニングなどの腐食に対して耐性のある材料から構成される。好ましくは、容器は、触媒、例えば、反応混合物を所望の反応温度に加熱するための適する手段を備えた適する脱ハロゲン化水素化触媒により充填された固定又は流動触媒床を含有する。
【0027】
使用する触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応温度を使用できると企図しているが、一般的には、脱ハロゲン化水素化工程に関する反応温度は、約100℃〜約300℃、好ましくは約120℃〜約200℃、更により好ましくは約140℃〜約190℃であることが好ましい。
【0028】
一般的には、再び、使用する具体的な触媒や最も望ましい反応生成物などの関連する因子に依存して多種多様の反応圧力を使用できることも企図している。反応圧力は、例えば、大気超過圧(superatmospheric)、大気圧、又は減圧であることができる。一定の態様においては、約0〜約100psigの圧力が好ましい。
【0029】
一定の態様においては、窒素などの不活性希釈ガスを、式(B)の化合物と組み合わせて使用してもよいと企図している。そのような希釈剤を使用する場合、一般的には、式(B)の化合物は、希釈剤と式(B)の化合物を組み合わせた重量に基いて、約5重量%〜95重量%より多くを含むことが好ましい。
【0030】
触媒の量は各態様において存在する特定のパラメータに依存して変動すると企図している。
式(II)の所望な生成物がHFO−1234yfである態様について、式(B)の化合物は、すくなくとも1種の式(B1)の化合物、すなわち、
CFCFCH (B1)
(式中、Y、n、及びmは、式(B1)に関してこれまでに説明したとおりである)、特に1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)及び/又は2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244)を含むことが好ましい。本出願人らは、かかる態様において、触媒として活性炭を使用することが好ましいことを見出した。加えて、一般的には、かかる態様において、反応の少なくとも実質的な部分を約100℃〜約700℃の温度で行うことが好ましい。一定の好ましい態様において、約100℃〜約250℃、より好ましくは約140℃〜約190℃の反応器温度を使用する。他の態様においては、反応器温度を約400℃〜約600℃に維持する。
【0031】
好ましくは、全体の転化率、すなわち、式(I)の化合物の両方の反応段階を考慮した転化率は、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約65%、更により好ましくは少なくとも約90%である。好ましくは、式(II)の化合物、特にHFO−1234yfへの全体の選択率は、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約75%である。
【実施例】
【0032】
本発明の追加の特徴を以下の実施例に提供するが、これらは特許請求の範囲をいかなるようにも限定するものと解釈すべきではない。
これらの実施例は、CFCCl=CHを用いてCFCF=CH(1234yf)を生成する、第一段階における気相フッ素化と気相脱フッ化水素化とを例示する。
【0033】
22インチ(1/2インチ径)のモネル製管式反応器に、以下の表1に示すように、120ccの触媒を充填した。この反応器の内部に加熱器を取り付け、反応器内部の中間に保持した熱電対を用いて温度を観察した。反応器の入口を予熱器に接続し、電気的な加熱により約300℃に保持した。有機供給材料(具体的には、HFCO−1233xf)を約70℃に維持したシリンダーから反応器中に導入した。フッ素付加剤、すなわち、HFは、45psigの実質的に定圧のシリンダー中に維持し、予熱後に反応器中に導入した。すべての反応は、約ゼロから約100psigの範囲の実質的に定圧で行う。一定の実施例においては、Nを希釈剤として使用し、予熱後に反応器中に供給する。反応器温度を表に示す温度にした。第一反応器中の触媒をまず、約65℃にて約4時間、50g/hのHFで前処理し、次いで約65℃にて約4時間、約50g/hのHFと約200sccmのClの組合せにより前処理した。前処理後に、50sccmの窒素ガスを触媒に約40分の時間導入して、有機反応体を導入する前に触媒表面からフリーの塩素を除去した。多くの態様において、触媒前処理なしでは反応速度は望ましくないほど低くなることが観察された。
【0034】
これまでに説明したように第一の反応段階から出る生成物混合物は、HF除去剤(NaF、KF、又はAl)を含有する充填カラムを通過させて、未反応のHFを反応生成物流れから分離し、充填カラムは約50℃〜約75℃の温度に維持した。
【0035】
反応流れは、HF除去後に、次いで約400℃〜約600℃の温度に維持された120ccの活性炭(好ましくはCalgon Corp.により提供される活性炭)を含有する第二反応器中に導入した。好ましくは、反応の第二段階を出る反応生成物を処理して、不必要な副生物、例えば、HF又はHClを除去する。次いで、洗浄液からの流出物を凝縮して、生成物を収集した。次いで、所望の生成物であるCFCF=CH2(1234yf)を蒸留により混合物から単離した。
【0036】
結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
第二の反応器中に導入する前に、第一の反応器からの反応生成物流れからHFを分離しない、追加の実施例を行う。この実施例は、かかる態様の選択率が中間分離工程を行う態様のうちの多くのものより実質的に低いと考えられる限りにおいて、中間分離工程を行うことが望ましいことを実証する。例えば、中間分離工程なしの追加の実施例において、HFO−1234yfへの選択率は、わずかおよそ50%であることが分かった。すべての反応条件はこれまでに示したものと実質的に同じである。
【0039】
本発明の2,3の特定の態様を説明してきたが、当業者にとっては種々の変更、修飾、及び改良は容易に想起される。かかる変更、修飾、及び改良はこの開示により自明とされ、本明細書中には明示的に述べられていないがこの記載の一部であると意図しており、そして本発明の精神及び範囲の内部にあると意図している。したがって、前述の説明は、たら例としてのみであり限定するものではない。本発明は、特許請求の範囲とその均等物のみにより限定される。
[本発明の態様]
1.フッ素化された有機化合物を製造する方法であって、少なくとも1種の式(I):
CF(CXCX=CH (I)
の化合物を、少なくとも1種の式(II):
CF(CXCF=CH (II)
(上記式中、XはCl、Br、又はIであり、各Xは独立して、H、Cl、F、Br、又はIからなる群から選択され、nは0、1、又は2である)
の化合物に転化することを含む、前記方法。
2.前記転化することが、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を、式(I)の化合物より多いフッ素置換基を有する飽和化合物を生成するのに有効な条件に曝露し、そして、
前記より多いフッ素置換基を有する飽和化合物を、1種又はそれより多い式(II)の化合物を含有する反応生成物を生成するのに有効な条件に曝露することを含む、1記載の方法。
3.前記少なくとも1種の式(I)の化合物を曝露することがフッ素化反応を伴い、前記飽和化合物を曝露することが脱塩素化反応を伴う、2記載の方法。
4.前記転化することが、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を、少なくとも1種の式(B):
CF(CXCYYCH (B)
(式中、X及びnは、各々、上記1に規定する通りであり、各Yは独立して、F、Cl、Br、又はIであり、少なくともひとつのYはFであることを条件とする)
の化合物を生成するのに有効な条件下でフッ素化し、そして、
前記式(B)の化合物を、少なくとも1種の式(II)の化合物を生成するのに有効な条件下で脱ハロゲン化することを含む、1記載の方法。
5.前記式(II)の化合物がCFCF=CHを含む、4記載の方法。
6.前記式(I)の化合物がCFCCl=CHを含む、5記載の方法。
7.前記式(B)の化合物が、少なくとも1種の式(B1):
CFCFCH (B1)
(式中、YはF、Cl、Br、又はIであり、nは1又は2であり、mは0又は1であり、n+m=2である)
の化合物を含む反応生成物を生成する、6記載の方法。
8.前記式(B1)の化合物が、CFCFCH及びCFCFClCHのうち少なくとも1種を含む、7記載の方法。
9.炭素三個のオレフィンを塩素付加剤と接触させて、式(A):
CF(CXCHClCH (A)
の化合物を生成し、
前記式(A)の化合物をハロゲン化して、式(I):
CF(CXCX=CH (I)
の化合物を形成し;そして、
前記式(I)の化合物を式(II):
CF(CXCF=CH (II)
の化合物へと転化すること
(上記式中、XはCl、Br、又はIであり、各Xは独立して、H、Cl、F、Br、又はIからなる群から選択され、nは0、1、又は2である)
を含む、フッ素化された有機化合物を調製する方法。
10.前記炭素三個のオレフィンが3,3,3−トリフルオロプロペンである、9記載の方法。