特許第5926551号(P5926551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926551
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】透明不燃性シートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/08 20060101AFI20160516BHJP
【FI】
   C08J5/08CFE
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-268752(P2011-268752)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-119601(P2013-119601A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】593173840
【氏名又は名称】株式会社トッパン・コスモ
(73)【特許権者】
【識別番号】000237411
【氏名又は名称】富士高分子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 典
(72)【発明者】
【氏名】新名 勝之
(72)【発明者】
【氏名】友高 洋和
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−098290(JP,A)
【文献】 特開2003−041084(JP,A)
【文献】 特開2003−246872(JP,A)
【文献】 特開平09−194613(JP,A)
【文献】 特開平02−107650(JP,A)
【文献】 特開平07−157971(JP,A)
【文献】 特開2005−319746(JP,A)
【文献】 特開2011−213093(JP,A)
【文献】 特開2010−52370(JP,A)
【文献】 特開2012−255296(JP,A)
【文献】 特表2009−532231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16、15/08−15/14
C08J 5/04−5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物をジアリルフタレートプレポリマー10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化させてなる防煙垂壁であって、上記熱硬化性樹脂混合物の硬化物をガラス繊維織物100重量部に対して60重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに400g以下の範囲で有し、上記ガラス繊維織物のガラス繊維が1.54〜1.57の範囲の屈折率を有し、上記不飽和ポリエステル樹脂が1.53〜1.57の範囲の屈折率を有するものであることを特徴とする防煙垂壁
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂混合物の硬化物がジアリルフタレートプレポリマー20〜80重量%と不飽和ポリエステル樹脂80〜20重量%からなるものである請求項1に記載の防煙垂壁
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂混合物の硬化物をガラス繊維織物100重量部に対して80重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに360g以下の範囲で有する請求項1に記載の防煙垂壁。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が分子中に第4級アンモニウム構造を有するものである請求項1に記載の防煙垂壁。
【請求項5】
前記ガラス繊維織物が40〜220g/m2 の範囲の坪量を有するものである請求項1に記載の防煙垂壁。
【請求項6】
分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物にジアリルフタレートプレポリマーが10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂が固形分で10〜90重量%からなる熱硬化性樹脂混合物を含浸してプリプレグを得、これを加熱加圧して、上記ガラス繊維織物を上記硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化する防煙垂壁の製造方法であって、上記熱硬化性樹脂混合物をガラス繊維織物100重量部に対して60重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに400g以下の範囲で含浸し、上記ガラス繊維織物のガラス繊維が1.54〜1.57の範囲の屈折率を有し、上記不飽和ポリエステル樹脂が1.53〜1.57の範囲の屈折率を有するものであることを特徴とする防煙垂壁の製造方法
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂混合物がジアリルフタレートプレポリマー20〜80重量%と不飽和ポリエステル樹脂80〜20重量%からなるものである請求項6に記載の防煙垂壁の製造方法
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂混合物をガラス繊維織物100重量部に対して80重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに360g以下の範囲で含浸する請求項6に記載の防煙垂壁。
【請求項9】
前記シランカップリング剤が分子中に第4級アンモニウム構造を有するものである請求項6に記載の防煙垂壁の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス繊維織物が40〜220g/m2 の範囲の坪量を有するものである請求項6に記載の防煙垂壁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、防煙垂壁として好適に用いることができる透明不燃性シートとその製造方法に関し、詳しくは、ガラス繊維織物を熱硬化性樹脂硬化物と一体化させてなり、透明性と不燃性にすぐれるのみならず、靱性乃至曲げ特性にすぐれる透明不燃性シートとその製造方法に関する。更に、本発明は、上記透明不燃性シートからなる防煙垂壁に関する。
【背景技術】
【0002】
商業ビル等の建築物には、火災時に煙や有毒ガスの流動拡散を妨げるために、天井に防煙垂壁を設置することが義務付けられている。従来、防煙垂壁には、良好な視野を確保することができると共に美観を損なわないように、通常、プラスチック板や板ガラスが用いられている。
【0003】
プラスチック板は軽量であり、また、衝撃によっても損傷し難いものもあるが、不燃性については、十分ではない。そこで、プラスチック板に多量の無機物を配合して、不燃性を高めれば、透明性に劣ることとなる。
【0004】
一方、板ガラスからなる防煙垂壁は、確かに透明性と不燃性にすぐれているが、重いという欠点があり、また、天井からの落下防止のための措置が施されているが、それでも、例えば、大きい地震が発生したときには、落下して、破損することが懸念される。
【0005】
そこで、近年、ガラス繊維織物に樹脂硬化物層を設けてなるものが提案されているが(特許文献1及び2参照)、透明性において、尚、十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−276113号公報
【特許文献2】特開2005−319746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の透明不燃性シートにおける上述した問題を解決するためになされたものであって、透明性と不燃性にすぐれているのみならず、靱性乃至曲げ特性にすぐれていて、曲げや衝撃によって割れ難い透明不燃性シートとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物をジアリルフタレート10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化させてなることを特徴とする透明不燃性シートが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物にジアリルフタレートプレポリマー10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物を含浸してプリプレグを得、これを加熱加圧して、上記ガラス繊維織物を上記硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化することを特徴とする透明不燃性シートの製造方法が提供される。
【0010】
更に、本発明によれば、上述した透明不燃性シートからなる防煙垂壁が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による透明不燃性シートは、予め、シランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物を所定の割合のジアリルフタレートと不飽和ポリエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化してなるので、透明性と不燃性にすぐれているのみならず、靱性乃至曲げ特性にもすぐれていて、曲げや衝撃によっても割れ難いという特性を有する。従って、本発明による透明不燃性シートは、防煙垂壁として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による透明不燃性シートは、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物をジアリルフタレート10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化させてなるものである。
【0013】
このような透明不燃性シートは、本発明に従って、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物にジアリルフタレートプレポリマー10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物を含浸してプリプレグを得、これを加熱加圧して、上記ガラス繊維織物を上記硬化性樹脂組成物の硬化物と一体化することによって得ることができる。
【0014】
先ず、本発明による透明不燃性シートの製造方法について説明する。
【0015】
本発明において、ガラス繊維織物を構成するガラス繊維は、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、高強度で高弾性率のガラス繊維(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等のいずれであってもよく、特に限定されるものではないが、なかでは、汎用性の高い無アルカリガラス繊維が好ましく用いられる。
【0016】
本発明によれば、このようなガラス繊維は、そのフィラメント直径が1〜20μmの範囲にあることが好ましく、特に、3〜12μmの範囲にあることが好ましい。更に、本発明によれば、このようなガラス繊維からなるガラス繊維織物は、その織組織は、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等のいずれでもよいが、これらのなかでは、平織、斜子織、畦織が好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、ガラス繊維織物は、その坪量が40〜220g/m2の範囲にあることが好ましい。また、ガラス繊維織物は、その厚みが0.03〜0.20mmの範囲にあることが好ましい。
【0018】
更に、本発明によれば、ガラス繊維織物が火炎に接しても、火炎がガラス繊維織物を通過し難いように、ガラス繊維織物中の隣接する経糸間の隙間が0.5mm以下であり、ガラス繊維織物中の隣接する緯糸間の隙間が0.5mm以下であることが好ましく、特に、いずれの隙間も0.2mm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明においては、ジアリルフタレート樹脂の屈折率が1.57であり、用いる熱硬化性樹脂混合物の硬化物が1.54〜1.57の範囲の屈折率を有するので、用いるガラス繊維織物も、1.54〜1.57の範囲の屈折率を有することが好ましい。
【0020】
本発明によれば、ガラス繊維織物は、これに熱硬化性樹脂混合物の硬化物を一体化して得られるいわば複合シートがすぐれた透明性を有するように、予め、シランカップリング剤にて表面処理されていることが必要であり、ここに、上記シランカップリング剤は、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するものである。例えば、分子中にエポキシ基有するシランカップリング剤を用いるときは、透明性にすぐれる不燃性シートを得ることが困難である。また、ガラス繊維織物が上記シランカップリング剤で表面処理されていない場合には、得られた複合シートを折り曲げたとき、ガラス繊維織物と硬化樹脂の間で剥離や割れが生じ、部分的に白くなって、透明性が損なわれるので、取扱い性に問題がある。
【0021】
分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤として、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、しかし、本発明において、分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤は、これら例示に限定されるものではない。
【0022】
また、分子中に第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤として、例えば、トリメトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、トリメトキシシリルプロピルデシルメチルアンモニウムクロリド、トリエトキシシリルプロピルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、1−トリメトキシシリルプロピル−1−メチルモルホリニウムヨージド(iodide)等を挙げることができるが、しかし、本発明において、分子中に第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤は、上記例示に限定されるものではない。
【0023】
本発明によれば、必要に応じて、上記分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤と上記第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤を併用してもよい。
【0024】
本発明による透明不燃性シートは、このように予め、前記シランカップリング剤で表面処理したガラス繊維織物にジアリルフタレートプレポリマーと不飽和ポリエステル樹脂からなる硬化性樹脂混合物を含浸してプリプレグを得、これを、加熱加圧して、即ち、熱圧成形して、上記ガラス繊維織物を上記熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化させることによって得ることができる。
【0025】
本発明の方法において、プリプレグとは、上記ガラス繊維織物に上記熱硬化性樹脂混合物を付与して得られる成形用シート材をいう。
【0026】
かくして得られる透明不燃性シートにおいては、上記熱硬化性樹脂混合物の硬化物は、ガラス繊維織物の内部の空隙を充填していると共に、ガラス繊維織物の表裏の両表面を被覆して、上記熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化している。
【0027】
ジアリルフタレートプレポリマーは、ジアリルフタレートモノマーに有機過酸化物やアゾ系重合開始剤を加え、塊状重合させて、線状ポリマーの生成の段階で重合を中止し、貧溶媒中で沈殿させ、濾過、乾燥して得られる白色の粉末である。このようなジアリルフタレートプレポリマーが硬化して得られる樹脂は、前述したように、屈折率が1.57である。
【0028】
不飽和ポリエステル樹脂は、典型的には、無水マレイン酸のような不飽和酸と無水フタル酸のような飽和多塩基酸を併用して、これらを2価アルコールと縮合させて得られる不飽和ポリエステルをスチレンモノマーのような重合性単量体や適宜の有機溶媒に溶解させた液状樹脂をいう。
【0029】
上述したような不飽和ポリエステル樹脂は、通常、1.53〜1.57の範囲の屈折率を有する。本発明によれば、不飽和ポリエステル樹脂を構成する成分にもよるが、前述したように、ジアリルフタレート樹脂の屈折率である1.57に近い屈折率を有するものが好ましく用いられる。従って、通常、ジアリルフタレート樹脂と不飽和ポリエステル樹脂の共重合によって得られる硬化物は、1.54〜1.57の範囲の屈折率を有する。
【0030】
ジアリルフタレートプレポリマーと不飽和ポリエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂混合物は、通常、重合開始剤を含み、更に、必要に応じて、重合禁止剤、内部離型剤等を含む。上記重合開始剤としては、通常、ジクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキシド等が用いられるが、これら例示に限定されるものではない。
【0031】
更に、上記熱硬化性樹脂混合物は、必要に応じて、難燃剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、トリクロロエチルホスフェート、トリアリルホスフェート、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステル等を挙げることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等を、また、充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等を、帯電防止剤としては、例えば、界面活性剤を挙げることができる。
【0032】
このような熱硬化性樹脂混合物は、ガラス繊維織物のガラス繊維間に十分に浸透し得る粘度を有するように、適宜の有機溶媒を用いて希釈して、適当な固形分濃度とした液状樹脂組成物とし、これをガラス繊維織物に含浸させ、例えば、スクイズロール等を用いて、樹脂量が所定量になるように調整した後、所定の揮発分を有するように、例えば、熱風乾燥機を用いて乾燥して、プリプレグを得る。上記有機溶媒は、上記乾燥において、樹脂中にボイドが生成しないように、低沸点溶媒と高沸点溶媒の組み合わせ、例えば、アセトンと酢酸プロピルの組み合わせが好ましく用いられる。
【0033】
本発明によれば、得られる透明不燃性シートが透明性と不燃性にすぐれのみならず、曲げや衝撃に対して十分な抵抗を有するように、即ち、靱性を有して、割れ難いように、前記熱硬化性樹脂混合物は、ジアリルフタレートプレポリマーが10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂が固形分にて90〜10重量%からなる。熱硬化性樹脂混合物において、ジアリルフタレートプレポリマーが10重量%よりも少ないとき、即ち、不飽和ポリエステル樹脂が固形分にて90重量%を越えるときは、得られるプリプレグを熱圧成形して得られる複合シートは透明性に劣る。一方、熱硬化性樹脂混合物において、ジアリルフタレートプレポリマーが90重量%よりも多いとき、即ち、不飽和ポリエステル樹脂が10重量%よりも少ないときは、得られるプリプレグを熱圧成形して得られるシートは曲げ特性乃至靱性に劣って、曲げや衝撃によって割れやすい。
【0034】
本発明によれば、前記熱硬化性樹脂混合物は、好ましくは、ジアリルフタレートプレポリマーが20〜80重量%と不飽和ポリエステル樹脂が固形分にて80〜20重量%からなる。
【0035】
更に、本発明において、プリプレグにおける樹脂量、即ち、ジアリルフタレートプレポリマーと不飽和ポリエステル樹脂(固形分)の合計量は、得られるシートがすぐれた透明性を有するように、ガラス繊維織物100重量部に対して60重量部以上であり、すぐれた不燃性を有するように、ガラス繊維織物1m2当たりに400g以下である。プリプレグにおける樹脂量は、得られる透明不燃性シートにおける樹脂量でもある。
【0036】
プリプレグにおける樹脂量がガラス繊維織物100重量部に対して60重量部よりも少ないときは、得られるシートの透明性が低下するおそれがあり、一方、プリプレグにおける樹脂量がガラス繊維織物1m2当たりに400gよりも多いときは、得られるシートの不燃性が低下するおそれがある。
【0037】
上記プリプレグにおける樹脂量の下限量、即ち、ガラス繊維織物100重量部に対して60重量部は、用いるガラス繊維織物の坪量が40g/m2であるとき、樹脂量はガラス繊維織物1m2当たりに24g/m2であり、用いるガラス繊維織物の坪量が220g/m2であるとき、樹脂量はガラス繊維織物1m2当たりに132g/m2である。
【0038】
また、上記プリプレグにおける樹脂量の上限量、即ち、ガラス繊維織物1m2当たりに400gは、用いるガラス繊維織物の坪量が40g/m2であるとき、樹脂量はガラス繊維織物100重量部に対して1000重量部であり、用いるガラス繊維織物の坪量が220g/m2であるとき、樹脂量はガラス繊維織物100重量部に対して182重量部である。
【0039】
従って、本発明によれば、プリプレグにおける樹脂量は、ガラス繊維織物1m2当たりに24〜400gの範囲とガラス繊維織物100重量部に対して60〜1000重量部の範囲の両方を満たす範囲の量であるということができる。
【0040】
特に、本発明によれば、好ましくは、プリプレグにおける樹脂量は、固形分にて、ガラス繊維織物100重量部に対して80重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに360g以下である。
【0041】
本発明によれば、上述したように、上記熱硬化性樹脂混合物を含む液状組成物をガラス繊維織物に含浸させ、所定の樹脂量と揮発分を有するように調整して、プリプレグを得、これを熱圧成形することによって、目的とする透明不燃性シートを得ることができる。より詳細には、例えば、プリプレグをアルミニウム板の間に挟んで積層体とし、更に、この積層体をクッションの間に挟んだ後、一対の熱盤の間で温度120〜150℃、圧力1.0〜7.0MPaで10分乃至1時間加熱加圧し、上記ガラス繊維織物を上記硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化することによって得ることができる。
【0042】
かくして、本発明による透明不燃性シートは、分子中にアミノ基又は第4級アンモニウム構造を有するシランカップリング剤にて表面処理したガラス繊維織物をジアリルフタレート10〜90重量%と不飽和ポリエステル樹脂90〜10重量%からなる熱硬化性樹脂混合物の硬化物と一体化させてなり、好ましくは、シートにおける樹脂量は、ガラス繊維織物100重量部に対して60重量部以上で、ガラス繊維織物1m2当たりに400g以下の範囲であり、透明性と不燃性にすぐれており、そのうえ、靱性や曲げ特性にもすぐれていて、衝撃を受けても割れ難い。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
実施例1、2、比較例1及び2においては、ガラス繊維織物に対して樹脂量を比較的多くし、比較例1及び2においては、樹脂として、ジアリルフタレート又は不飽和ポリエステル樹脂のいずれか一方のみを用いた。また、用いたガラス繊維織物を構成するガラス繊維の屈折率は1.56であり、不飽和ポリエステル樹脂の屈折率は1.53であった。
【0045】
実施例3〜6、比較例3及び4においては、ガラス繊維織物に対する樹脂量を一定とし、実施例3〜6においては、硬化性樹脂として、ジアリルフタレートと不飽和ポリエステル樹脂の割合を変化させた。比較例3においては、予め、シランカップリング剤で表面処理しなかったガラス繊維織物を用い、比較例4においては、予め、ガラス繊維織物を分子中にエポキシ基を有するシランカップリング剤にて表面処理したものを用いた。
【0046】
また、以下実施例と比較例において、得られたシ−トの透明性と不燃性と反発圧縮力は以下のようにして評価乃至測定した。
【0047】
(透明性)
得られたシ−トを通して、2m離れた紙上の60ポイントの「新」なる文字が明瞭に識別できたときを「良好」とし、明瞭に識別できないときを「不良」とした。
【0048】
(不燃性)
ISO 5660−1に規定するコーンカロリーメーター法に準拠した発熱試験によって評価した。即ち、輻射電気ヒーターによって試料シートの表面に輻射熱50KW/m2を照射する発熱性試験において、(1)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であると共に、(2)加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200KW/m2を超えず、更に、(3)上記発熱性試験の後も、ガラス繊維織物における経糸間の間隔と緯糸間の間隔がいずれも0.5mm以下であるという条件をすべて満たすときを「合格」とし、上記(1)〜(3)の条件の少なくとも1つを満たさないときを「不合格」とした。尚、不燃性の欄の括弧内の数値は、上記発熱性試験における加熱開始後20分間の総発熱量を示す。
【0049】
(反発圧縮力)
得られたシートを幅25mm、長さ50mmの短冊状に裁断し、これを長手方向に巻いて環状体を作製し、この環状体の周面を水平面に接触させて立てて、周面の最上部を5mm押し下げたときの環状体の反発力を反発圧縮力として測定した。測定には万能引張り試験機(ミネベア(株)製TCM−10KNB)を用いた。
【0050】
(全光線透透過率)
JIS K−7105によった。
【0051】
実施例1
樹脂成分としてのジアリルフタレートプレポリマー粉末(ダイソー(株)製商品名ダイソーダップ、以下、同じ。)80重量部と液状不飽和ポリエステル樹脂(固形分)(ディーエイチ・マテリアル(株)製商品名サンドーマ、以下、同じ。)20重量部に過酸化ベンゾイル(固形分75重量%)3.5重量部、離型剤(中京油脂(株)製リン酸アルキルエステル、セパール325、以下、同じ。)0.5重量部、アセトン65重量部及び酢酸プロピル10重量部を均一に混合して液状樹脂組成物を調製した。
【0052】
予め、第4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性シランカップリング剤で表面処理した坪量47g/m2の平織りのガラス繊維織物に上記液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、樹脂量360g/m2(ガラス繊維織物100重量部に対して766重量部)を有するジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0053】
このプリプレグをアルミニウム板の間に挟んで積層体とし、更に、この積層体をクッションの間に挟んだ後、一対の熱盤の間で温度130℃、圧力6.0MPa、時間20分の条件で加熱加圧して、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、不燃性「合格」(6.5MJ/m2)であった。
【0054】
実施例2
ガラス繊維織物として、坪量209g/m2の平織りのガラス繊維織物を用いて、樹脂量360g/m2(ガラス繊維織物100重量部に対して172重量部)を有するジアリルフタレートプリプレグを得た以外は、実施例1と同様にして、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「合格」、不燃性「合格」(6.3MJ/m2)であった。
【0055】
比較例1
樹脂成分として液状不飽和ポリエステル樹脂(固形分)100重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、液状樹脂組成物を調製した。
【0056】
実施例1と同じシランカップリング剤で表面処理した坪量47g/m2の平織りのガラス繊維織物に上記液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、樹脂量190g/m2(ガラス繊維織物100重量部に対して400重量部)を有するジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0057】
このプリプレグを用いて、実施例1と同様にして、比較例1としての透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「不良」、不燃性「合格」(3.6MJ/m2)であった。
【0058】
比較例2
樹脂成分としてジアリルフタレートプレポリマー粉末100重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、液状樹脂組成物を調製した。
【0059】
予め、実施例1と同じシランカップリング剤で表面処理した坪量47g/m2の平織りのガラス繊維織物に上記液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、樹脂量190g/m2(ガラス繊維織物100重量部に対して400重量部)を有するジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0060】
このプリプレグを用いて、実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、比較例2としての透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、不燃性「合格」(3.7MJ/m2)であった。但し、この透明不燃性シートは、環状体の反発圧縮力の測定時に割れた。
【0061】
実施例3
予め、実施例1と同じ第4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性シランカップリング剤で表面処理した坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に実施例1と同じ液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0062】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、反発圧縮力2.5N、全光線透過率92.4%であった。
【0063】
実施例4
予め、アミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理した坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に実施例1と同じ液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0064】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、反発圧縮力2.3N、全光線透過率91.5%であった。
【0065】
実施例5
樹脂成分として、ジアリルフタレートプレポリマー粉末20重量部と液状不飽和ポリエステル樹脂(固形分)80重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、液状樹脂組成物を調製した。
【0066】
予め、実施例1と同じアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理した坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に上記液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0067】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、反発圧縮力0.98N、全光線透過率90.4%であった。
【0068】
実施例6
樹脂成分として、ジアリルフタレートプレポリマー粉末50重量部と液状不飽和ポリエステル樹脂(固形分)50重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、液状樹脂組成物を調製した。
【0069】
予め、実施例1と同じ第4級アンモニウム塩構造を有するカチオン性シランカップリング剤で表面処理した坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に上記液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0070】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、本発明による透明不燃性シートを得た。この透明不燃性シートは、透明性「良好」、反発圧縮力1.5N、全光線透過率91.6%であった。
【0071】
比較例3
予め、シランカップリング剤で表面処理することなく、坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に実施例1と同じ液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0072】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、比較例3としてのシートを得た。このシートは透明性において「不良」であった。
【0073】
比較例4
予め、エポキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理した坪量100g/m2の平織りのガラス繊維織物に実施例1と同じ液状樹脂組成物を含浸させ、所定の樹脂量となるようにスクイズロールを用いて調整した後、熱風式乾燥機を用いて所定の揮発分を有するように乾燥して、ガラス繊維織物100重量部に対して樹脂量110重量部のジアリルフタレートプリプレグを得た。
【0074】
このプリプレグを実施例1と同じ条件下に加熱加圧して、比較例4によるシートを得た。この不燃性シートは透明性において「不良」であった。