特許第5926577号(P5926577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926577
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/16 20060101AFI20160516BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20160516BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160516BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20160516BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B32B27/16
   B32B27/42
   B32B9/04
   B32B15/08 Q
   H01B5/14 A
   G06F3/041 420
   G06F3/041 400
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-41658(P2012-41658)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-176877(P2013-176877A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦史
(72)【発明者】
【氏名】今村 公一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晴彦
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−042284(JP,A)
【文献】 特開2002−012638(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001946(WO,A1)
【文献】 特開2010−015507(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G06F 3/03− 3/047
H01B 5/00− 5/16
G02F 1/1333
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なプラスチック基板(A)上の少なくとも一方の表面に、紫外線硬化性樹脂(以下、UV硬化樹脂と表記する)と熱硬化性樹脂の混合物からなる混合ハードコート層(B)が2層以上形成されており、その上に透明導層(C)が形成されている積層フィルムであって、混合ハードコート層(B)の樹脂の構成が、UV硬化性樹脂100重量部に対して熱硬化性樹脂が10重量部以上30重量部以下であり、かつ、当該熱硬化性樹脂がメラミン樹脂および/又はアルコキシシランであることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載される透明導電層(C)の上にCu、Ag、Al、Au、Ni、Ni/Cr、Tiの郡から選ばれた1種、または複数種の金属から形成された層であって、かつ、20℃における比抵抗が1×10−6Ωcm以上1×10−4Ωcm以下である補助電極層(D)を設けたことを特徴とする積層フィルム。
【請求項3】
当該補助電極層(D)銅あるいはアルミニウムのいずれかの金属を含む金属から形成されることを特徴とする請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
当該混合ハードコート層(B)のUV硬化樹脂がラジカル重合により形成されることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
当該積層フィルムのHazeが1%以下であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された積層フィルムを備えたタッチパネル。
【請求項7】
請求項6記載のタッチパネルを備えることを特徴とする電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電層を有するプラスチックフィルム積層体に関するものである。さらに詳しくは、プラスチックフィルムの片面、もしくは両面に2層以上からなるハードコート層を有し、透明導電層および透明導電層の上に形成される金属層の密着性に優れたタッチパネルに好適な透明導電性積層体およびこれを用いた透明タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マンマシンインターフェースの一つとして透明タッチパネルが多く使用されるようになった。特に、携帯電話やタブレット型のパーソナルコンピュータでは静電容量方式のタッチパネルが用いられる場合が多くなってきている。
【0003】
静電容量式タッチパネルでは、指で表面を接触した際に生成する、指と透明電極間のキャパシタンスを介して電流が流れることを利用して位置検出がおこなわれる。いずれかの透明電極をX座標検出用にもう一方をY座標検出用として使用するために、透明導電膜には一定の間隔で酸化インジウム錫(以下ではITOと表示する)が存在する部分とITOが存在しない部分からなるパターンが形成される。
【0004】
このパターンを形成する方法としては、一般に酸性の水溶液を用いたウェットエッチング法や酸を含んだペーストを印刷し過熱するドライエッチング法などがある。ITOと硬化樹脂層との密着性が悪い場合、エッチングを行う際にITOが剥離するという問題があった。
【0005】
また、上記透明導電膜のリード用電極としては銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)などの金属微粒子をバインダー樹脂に分散した金属ペーストが一般的に用いられている。最近では、Cu、アルミニウム(Al)等の金属層をITO上に積層し、当該金属のみをエッチング加工することにより、リード用電極として用いるものも提案されている。
しかしながら、一般的にITOとCuやAlとの密着性は悪く、電極のパターンを形成する際に上記と同様の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−160362号公報
【特許文献2】特開2011−134464号公報
【特許文献3】特開2010−211790号公報
【特許文献4】特開2011−248629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、上記密着性の不足を解消するべくさまざまな検討が行われてきた。
特許文献1および特許文献2では、透明基板上に、酸化金属、酸化ケイ素を順に積層した上から、透明導電層(ITO)を設けることにより、透明基板との密着性を改善する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1では、透明基板として透明ガラスを用いているが、酸化金属層を積層する際に透明基板を200℃以上に加熱する必要があるため、耐熱性の見地から透明樹脂を透明基板として適用することはできない。また、特許文献2では、酸化金属および酸化ケイ素を気相成膜法で積層しているが、生産性が悪いばかりでなく、リード電極として用いられる金属層との密着性については何ら言及されていない。
【0008】
特許文献3によると、透明樹脂基板上に、金属微粒子が無機酸化物層との界面側に偏在している紫外線硬化樹脂層、無機酸化物層、透明導電層を順次積層することで紫外線硬化樹脂層と無機酸化物層の密着性を向上することができるが、特許文献3では透明電極層と金属層との密着性については言及されていない。
【0009】
特許文献4では、プラスチック基材上に樹脂からなる易接着層、透明導電層、金属層を順次形成し、易接着層および透明導電層を形成後にプラズマ処理を行うことで各層の密着性を向上させる手法が開示されているが、プラズマ処理を複数回行う必要があることから、著しく生産性が悪いという問題がある。
本発明は、ITO等からなる透明導電層と金属電極層を有し、各層間の密着性に優れた透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
筆者らが上記課題を解決するために鋭意検討を実施した結果、本発明は、透明なプラスチック基板(A)上の少なくとも一方の表面に、以下の2つの特徴を同時に具備する紫外線硬化性樹脂(以下、UV硬化樹脂と表記する)と熱硬化性樹脂の混合物からなる混合ハードコート層(B)が2層以上形成されており、その上に透明導層(C)が形成されている積層フィルムであって、混合ハードコート層(B)の樹脂の構成が、UV硬化性樹脂100重量部に対して熱硬化性樹脂が10重量部以上30重量部以下であり、かつ、当該熱硬化性樹脂がメラミン樹脂および/又はアルコキシシランであることを特徴とする積層フィルムとした。
【0011】
ここで、当該積層フィルムには上記透明導電層(C)の上にCu、Ag、Al、Au、Ni、Ni/Cr、Tiの郡から選ばれた1種、または複数種の金属から形成された層であって、かつ、比抵抗が1×10−6Ωcm以上1×10−4Ωcm以下である補助電極層(D)を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ITO等の透明導電層と金属電極層を有し、各層間の密着力に優れる透明導電積層体を提供できる。また、本発明によれば、このような本発明の透明導電積層体を用いてなるタッチパネルおよび光学電子部品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の透明導電性積層体で用いられる透明プラスチックフィルムは、任意の透明プラスチックフィルムで足りるが、好ましくは光学分野で使用されている耐熱性、透明性等に優れた透明プラスチックフィルムであれることが望まれる。
【0014】
本発明の透明導電性積層体に用いる透明プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムがあげられる。また、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミドに代表されるアミド系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムもあげられる。またさらに、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや上記ポリマーのブレンド物等の透明ポリマーからなる基板などもあげられる。
【0015】
本発明の透明導電性積層体における用途では、これら透明プラスチックフィルムのうち、光学的に複屈折の少ないもの、あるいは複屈折を光学波長λに大して、λ/4やλ/2に制御したもの、さらには複屈折をまったく制御していないものを、用途に応じて適宜選択することができる。ここで言うように用途に応じて適宜選択を行う場合としては、例えば液晶ディスプレイに使用する偏光板や位相差フィルム、インナー型のタッチパネルのように、直線偏光、楕円偏光、円偏光などの偏光によって機能を発現するディスプレイ部材として、本発明の透明導電性積層体を用いる場合をあげることができる。
【0016】
透明プラスチックフィルムの膜厚は適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性などの点より10〜500μm程度であり、特に20〜300μmが好ましく、殊更には30〜200μmがより好ましい。
【0017】
本発明に用いられる混合ハードコート層は、紫外線硬化性樹脂(以下、UV硬化性樹脂)および熱硬化性樹脂からなる。
UV硬化性樹脂成分としては、硬化樹脂層形成後に皮膜として十分な強度を持ち、かつ透明性のあるものを使用できるが、アクリル樹脂、不飽和エステル樹脂などのラジカル重合型の樹脂が好ましい。エポキシ樹脂等のカチオン重合型の樹脂を用いた場合、カチオン型反応開始剤が熱硬化樹脂の反応も進めてしまうため、本発明の効果が十分に得られなくなる。
【0018】
UV硬化性樹脂を与えるモノマーとしては、例えばポリオールアクリレート、ポリエステルアクリレート、上記以外の硬い層を与えるウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、変性スチレンアクリレート、メラミンアクリレート、シリコン含有アクリレート等の単官能および多官能アクリレートを挙げることができる。
【0019】
UV硬化性樹脂を与える具体的なモノマーとしては、例えばトリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールポロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールポロパンプロピレンオキサイド変性トリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリプロピレングリコールトリアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エポキシ変性アクリレート、ウレタン変性アクリレート、エポキシ変性アクリレート等の多官能モノマーが挙げられる。
【0020】
UV硬化性樹脂を与えるこれらのモノマーは、単独で用いても、数種類を混合して用いてよい。なお、UVによって樹脂層の重合を行う場合、一般に光重合開始剤を適量添加し、また必要に応じ光増感剤を適量添加してもよい。この光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾイルベンゾエート、チオキサンソン類等が挙げられる。光増感剤としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等が挙げられる。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えばメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のシラン化合物をモノマーとしたオルガノシラン系の熱硬化型樹脂、下記構造式1記載のモノマーからなるメラミン系熱硬化型樹脂が用いられる。これら熱硬化型樹脂を単独又は複数組合せて使用することも可能である。
【0022】
【化1】
【0023】
Xは、−NR’であり;
Yは、−NR’であり;
Zは、−NR’であり;
ここで、R、R’、R、R’、R、R’はそれぞれ互いに独立して、水素原子、C〜Cアルキル、又はC〜Cヒドロキシアルキルであり、ここで該C〜Cアルキルおよび/又はC〜Cヒドロキシアルキルは1個以上の酸素原子で中断されていてもよい。
【0024】
また、反応促進剤および/または硬化剤を適量配合することができる。反応促進剤としては、例えばトリエチレンジアミン、ジブチル錫ジラウレート、ベンジルメチルアミン、ピリジン等が挙げられる。また、硬化剤としては、例えばメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−3,3′―ジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0025】
本発明において、上記UV硬化性樹脂と上記熱硬化性樹脂は積層フィルムを形成した際にHazeが1.0%以下となるように選択されることが望ましい。好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下である。Hazeが1.0%を超える場合、タッチパネルおよび電子デバイスを形成した際の見栄えが悪くなるためである。
【0026】
UV硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の配合割合は、UV硬化性樹脂を100重量部として、熱硬化性樹脂が10重量部以上30重量部以下の範囲に入ることが望ましい。好ましくは15重量部以上25重量部以下の範囲に入ることが好適である。熱硬化性樹脂の含有量が10重量より少ない場合には、本発明の期待効果である密着性が十分に得られない。また、30重量部より多い場合はUV照射後に混合ハードコート層が十分に硬化せず、本発明の積層体を得ることができない。
【0027】
本発明の混合ハードコート層の膜厚については、特に制限はないが、透明プラスチックフィルムに隣接するハードコート層の厚みは、望ましくは0.05〜10μm、好ましくは1〜6μmである。当該膜厚が薄いときには、ハードコート層の耐傷付き性等の性能が出にくく、一方で、当該膜厚が厚いときにはハードコート層の性能が出やすいが、クラック発生の可能性が高くなり、生産性が悪くなる。
【0028】
本発明の混合ハードコート層には金属酸化物や金属フッ化物等の無機化合物を分散させた、屈折率調整層を設けることができる。屈折率調整層を設けることで、ITO層にパターンを形成した際に、ITOが存在する部分と、ITOが存在しない部分の光学特性の差を小さくすることができ、見栄えのよい透明導電性積層体を得ることが出来る。
【0029】
無機化合物の材料としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ニオブが挙げられる。
屈折率調整層は目的とする光学特性に応じて、任意の膜厚とを設定できるが、好ましくは20nm以上200nm以下の範囲にある。さらに好ましくは50nm以上150nm以下であり、最も好ましくは80nm以上120nm以下である。
【0030】
本発明の透明導電層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズの群から選ばれた一種、また複数主によって形成される酸化物、さらには、その他の添加物が加えられた物等が挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用できるので、特に限定されない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
【0031】
最も好適な透明導電材料である酸化インジウムスズ(ITO)を透明導電として用いる場合、酸化インジウムにドープされるスズの含有割合はデバイスに求められる仕様に応じて、任意の割合を採択することができるが、酸化インジウム100重量部に対して、スズの重量割合が2重量部以上15重量部以下、好ましくは5重量部以上10重量部以下の範囲が推奨される。スズの含有割合が2重量部よりも小さい場合は十分に抵抗値が低くならず、また、15重量部よりも大きい場合はITOの結晶性が劣化するため、耐久性が悪化し、好ましくない。
【0032】
本発明の透明導電層は本透明導電性積層体が適用される用途に応じて、各種のパターンを形成してもよい。このパターンの形成方法は透明導電層を形成する材料を選択的に除去する既知のあらゆる方法で形成することができる。透明導電層がITOである場合は、エッチング液として、酸を用いることが好ましい。酸としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、およびこれらの混合物、ならびにそれらの水溶液があげられる。
【0033】
本発明において使用する金属電極の材料としては、比抵抗が1×10−6Ωcm以上1×10−4Ωcm以下のものが望ましい。比抵抗が1×10−6Ωcm未満の金属材料を使用すると用途機能上では不安定であり、薄膜として形成することが難しくなる。一方、比抵抗が1×10−4Ωcmより大きい金属材料を使用すると、抵抗値が高すぎるために、細線加工した際に抵抗値が高くなってしまう。以上の理由から、実使用に適する金属は、Cu、Ag、Al、Au、Ni、Ni/Cr、Ti群から選ばれる単一金属、または複数種からなる合金が推奨される。特に、電気導電性が高く、パターンエッチング、電気メッキ等の加工性に優れる金属で、電極と回路等のリード部との電気的機械的接続性(ハンダ、異方導電性コネクター等)が良く、曲げに強く、熱伝導性が高い上に、安価という点においてCu、Al等が好ましく、特にCuが好ましい。
【0034】
金属電極の厚さとしては、特に限定されるものではないが、通常の設計仕様として0.001〜100μm、好ましくは0.01〜25μmの範囲が推奨される。
金属電極の形成には、公知の処理方法を使用できるが、スパッタリング法で形成することが好ましい。また、必要に応じてその後電解・無電解湿式金属メッキ等でさらに膜厚を厚くして導電性を上げても良い。
また、必要に応じて、上記金属電極の保護(主に酸化防止)を目的に、金属電極の上下層にNi、Ni/Cr、Cr、Ti、Mo他からなる高融点金属層及びこれらの酸化物層を設けても良い。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例に示される各種物性の測定方法を示す。
【0036】
(1)全光線透過率
JIS K 7361−1号に準じ、日本電色(株)製ヘーズメーター(MDH2000)を用いて積層フィルムの全光線透過率を測定した。
【0037】
(2)ヘーズ
日本電色(株)製ヘーズメーター(株)を用いてJIS K 7136号に準じて積層フィルムのヘーズを測定した。
【0038】
(3)密着性
密着性の評価はASTM D3359に準拠した。
透明導電層を有するサンプルフィルムを両面テープにてステンレス製平板に強粘着テープにて貼付固定した後、当該サンプルフィルムにカッターナイフで1mm間隔の100個の碁盤目を作成した。続いて、ニチバン製粘着テープ(商品名“セロテープ(登録商標) No.405”)を碁盤目上に指先にてしっかりと圧着し、垂直に強く引き剥がしてサンプルフィルム上に透明導電層が残った程度を観察し、100個の碁盤目のうち残った数を評価した。
【0039】
総合判定
総合判定は、透明導電の密着性が95/100以上(ASTM D3359における4B相当)であること、全光線透過率が85%以上であること、ヘーズが1%以下であることを同時に満たすものを○(優良)とし、透明導電の密着性が80/100以上であること、全光線透過率が80%以上であること、ヘーズが2%以下であることを同時に満たすものを△(良)とし、上記を満たさなければ×(不可)とした。
【0040】
尚、補助電極層として金属層を形成した場合は、全光線透過率およびヘーズは金属層のみを選択的にエッチングした状態で測定した。また、補助電極層として金属層を形成した場合は、JIS K 7194に従い、表面抵抗値計(三菱化学株式会社製 Loresta MCP−T610)を用いて測定し、上記総合判定を、○(優良)は、密着性が95/100以上、全光線透過率が85%以上であること、ヘーズが1%未満であること、表面抵抗値が1Ω/□であることを同時に満たすこととし、△(良)を密着性が80/100以上、全光線透過率が80%以上であること、ヘーズが2%未満であること、表面抵抗値が100Ω/□であることを同時に満たすこととし、×(可)を、上記○(優良)、および、△(良)を満たさないこととした。
【0041】
以下の実施例および比較例で得られた積層フィルムについては、上記3項目について評価し、総合判定を行い、表1、表2、表3に記載する。
【0042】
実施例1
<塗工液A>
UV硬化性樹脂として、ウレタンアクリレート(東亜合成化学製「アロニックス」M405)と、ラジカル系光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガキュア」 184)をウレタンアクリレート100重量部に対し、ラジカル系光重合開始剤が5重量部となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)へ溶解し塗工液Aとした。塗工液Aの固形分はMIBK100重量部に対し、20重量部であった。
【0043】
<塗工液B>
熱硬化性樹脂として、メチロールメラミン(日本カーバイド工業製「ニカラック」MW−390)をMIBK 100重量部に対し、20重量部となるように溶解し、塗工液Bとした。
【0044】
<塗工液C>
塗工液A100重両部に対し、塗工液Bが12重量部となるように混合し、塗工液Cとした。
【0045】
<塗工液D>
塗工液A100重両部に対し、塗工液Bが12重量部となるように混合した。該塗工液にCIKナノテック社製酸化チタンナノ微粒子(一次平均粒子径30nm)を該塗工液の樹脂重量部100に対して25重量部となるように混合し、塗工液Dとした。
【0046】
<混合ハードコート層1の形成>
厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(帝人化成株式会社製「ピュアエース」C110)の片面に塗工液Cをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、紫外線を積算光量220 mJ/cm照射して硬化させることにより、厚さ3μmの混合ハードコート層1を形成した。
【0047】
<混合ハードコート層2の形成>
上記ハードコート層の上に塗工液Dをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して硬化させることにより厚さ0.1μmの混合ハードコート層2を形成した。
【0048】
<熱硬化性樹脂の反応>
得られた積層フィルムを130℃で2分熱処理することにより、メラミン樹脂の反応を完了させた。
【0049】
<透明導電層の形成>
次いでハードコート層を形成した面上に、酸化インジウムと酸化錫の質量比が95:5の組成で充填密度が98%の酸化インジウム−酸化錫ターゲットを用いて、スパッタリング法により非晶質の透明導電層(ITO層)を形成した。ITO層の厚さは約20nm、表面抵抗値は約150Ω/□であった。
【0050】
実施例2
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:22重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:22重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0051】
実施例3
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:28重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0052】
実施例4
実施例1の塗工液Dにおいて、混合比を100重量部:28重量部にしたほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0053】
実施例5
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:28重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0054】
実施例6
実施例2の透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値は約0.8Ω/□であった。
【0055】
実施例7
実施例5の透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.7Ω/□であった。
【0056】
実施例8
実施例2の透明導電層の上に補助電極として純度99.95%のアルミニウムをスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.7Ω/□であった。
【0057】
実施例9
実施例2の透明導電層の上に純度99.95%のモリブデンをスパッタリング法によって厚さ70nmとなるように積層した。当該モリブデン層の上に純度99.95%のアルミニウムをスパッタリング法により150nmとなるように積層し、さらに当該アルミニウム層の上にスパッタリング法により70nmとなるように積層し、補助電極層を形成した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.5Ω/□であった。
【0058】
実施例10
実施例2の透明導電層の上に、銅−マンガン−ニッケル合金(それぞれの配合比が、86wt%、12wt%、12wt%のもの)をスパッタリング法により積層し、補助電極層とした。このときの表面抵抗値を測定したところ約6.5Ω/□であった。
【0059】
以上の実施例の評価を表1に示す。表1から明らかなように本発明の範囲内では良好な密着性および光学特性を示す。また、補助電極層として金属層を積層したばあいにおいても良好な密着性および光学特性を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
比較例1
実施例1において、混合ハードコート層1を塗工液Aのみのハードコート層に変更した。また、塗工液Aと、CIKナノテック社製酸化チタンナノ微粒子(一次平均粒子径30nm)を、塗工液Aの樹脂重量部100に対して25重量部となるように混合し、混合ハードコート層2とした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0062】
比較例2
実施例1において、混合ハードコート層2を形成しなかったほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0063】
比較例3
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0064】
比較例4
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.7Ω/□であった。
【0065】
比較例5
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.7Ω/□であった。
【0066】
比較例6
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例1の塗工液Dにおいて塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%のアルミニウムをスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.7Ω/□であった。
【0067】
比較例7
実施例1の塗工液Cにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:33重量部にした。混合ハードコート層1を形成するためにUVを照射したが、硬化が十分ではなく積層体をえることが出来なかった。
【0068】
比較例1から比較例7までの評価を表2に示す。混合ハードコート層1および混合ハードコート層2におけるUV硬化樹脂と熱硬化樹脂の比率が、本発明の範囲よりも小さい場合には、密着性が悪くなる。また、混合ハードコート層1におけるUV硬化樹脂と熱硬化樹脂の比率が、本発明の範囲よりも多きい場合には、そもそも積層体を得ることが出来ない。
【0069】
【表2】
【0070】
以下の実施例11〜15、および、比較例8、9、10は実施例1〜10のUV硬化性樹脂および/ないしは熱硬化性樹脂を変更した場合であり、評価結果は表3に記載する。
【0071】
実施例11
実施例1と同様にして塗工液Aを調整した。
【0072】
<塗工液E>
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン(信越化学工業社製「KBM403」)とメチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製「KBM13」)を1:1のモル比で混合し、酢酸水溶液(ph=3.0)により公知の方法で前記アルコキシシランの加水分解を行った。こうして得たアルコキシシランの加水分解物に対して、イソプロピルアルコールとn−ブタノールの混合溶液で希釈を行い、アルコキシシラン塗工液Eを作製した。このとき、固形分が溶媒100重量部に対して、20重量部となるように調整した。
【0073】
<塗工液F>
塗工液A100重両部に対し、塗工液Eが12重量部となるように混合し、塗工液Fとした。
【0074】
<塗工液G>
塗工液A100重両部に対し、塗工液Eが12重量部となるように混合した。該塗工液にCIKナノテック社製酸化チタンナノ微粒子(一次平均粒子径30nm)を該塗工液の樹脂重量部100に対して25重量部となるように混合し、塗工液Gとした。
【0075】
<混合ハードコート層1の形成>
厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(帝人化成株式会社製「ピュアエース」C110)の片面に塗工液Fをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、紫外線を積算光量220 mJ/cm照射して硬化させることにより、厚さ3μmの混合ハードコート層1を形成した。
【0076】
<混合ハードコート層2の形成>
上記ハードコート層の上に塗工液Gをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、紫外線を照射して硬化させることにより厚さ0.1μmの混合ハードコート層2を形成した。
【0077】
<透明導電層の形成>
次いでハードコート層を形成した面上に、酸化インジウムと酸化錫の質量比が95:5の組成で充填密度が98%の酸化インジウム−酸化錫ターゲットを用いて、スパッタリング法により非晶質の透明導電層(ITO層)を形成した。ITO層の厚さは約20nm、表面抵抗値は約150Ω/□であった。
【0078】
実施例12
実施例9の塗工液Fにおいて、塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:22重量部にした。また、実施例9の塗工液Gにおいて塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:22重量部にした。そのほかは実施例9と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.8Ω/□であった。
【0079】
実施例13
実施例9の塗工液Fにおいて、塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例9の塗工液Gにおいて塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:28重量部にした。そのほかは実施例9と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%のアルミニウムをスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.8Ω/□であった。
【0080】
実施例14
実施例1の塗工液Dにおいて、熱硬化性樹脂をエポキシ樹脂(熱重合性化合物)(三菱化学株式会社製 JER825)に変更し、重合開始剤として前記エポキシ樹脂100重量部に対して、三菱化学株式会社製 JERキュア ST11を5重量部加えたほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.8Ω/□であった。
【0081】
実施例15
実施例1の塗工液Aにおいて、UV硬化性樹脂をエポキシ樹脂(光重合性化合物)(アデカ社製 アデカレジンEP−4100)に変更し、ラジカル系光重合開始剤を光カチオン重合開始剤(商品名「アデカオプトマーSP−170、アデカ社製」)に変更したほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。このときの表面抵抗値を測定したところ約0.8Ω/□であった。
【0082】
比較例8
実施例9の塗工液Fにおいて、塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例9の塗工液Gにおいて塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例9と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%の銅をスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。
【0083】
比較例9
実施例9の塗工液Fにおいて、塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:28重量部にした。また、実施例9の塗工液Gにおいて塗工液Aと塗工液Eの混合比を100重量部:8重量部にした。そのほかは実施例9と同様にして積層フィルムを得た。その後、透明導電層の上に補助電極として純度99.95%のアルミニウムをスパッタリング法によって厚さ5nmとなるように積層した。
【0084】
比較例10
実施例9の塗工液Fにおいて、塗工液Aと塗工液Bの混合比を100重量部:33重量部にした。混合ハードコート層1を形成するためにUVを照射したが、硬化が十分ではなく積層体をえることが出来なかった。
【0085】
表3から明らかなように、混合ハードコート層1および2におけるUV硬化性樹脂がカチオン重合性樹脂の場合は、ラジカル重合性樹脂と比較して密着性が若干劣る。一方で、熱硬化性樹脂がメラミンおよびアルコキシシラン以外では密着性が低下する。
【0086】
【表3】