(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接トーチ内に配置されたプラズマ電極と母材との間にプラズマ溶接電圧を印加してプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させると共に、前記プラズマ電極を中空形状とし、前記プラズマ電極内に配置された給電チップを介して給電される溶接ワイヤを前記中空形状内を通って送給し、前記給電チップと母材との間にミグ溶接電圧を印加してミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
前記プラズマアークによる母材の予熱幅とビード幅との差を計測し、この差が予め定めた基準値未満のときは前記ミグアークはウィービングさせないで、前記プラズマアークのみをウィービングさせて溶接し、前記差が前記基準値以上のときは前記ミグアーク及び前記プラズマアークを共にウィービングさせないで溶接する、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマ溶接方法とミグ溶接方法とを組み合わせたプラズマミグ溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このプラズマミグ溶接方法においては、溶接トーチ内に配置されたプラズマ電極と母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させる。同時に、プラズマ電極を中空形状とし、上記のプラズマ電極内に配置された給電チップを介して給電される溶接ワイヤを上記の中空形状内を通って送給し、溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させる。したがって、ミグアークはプラズマアークに包まれた状態となっている。溶接ワイヤは、ミグアークを発生させる電極として機能すると共に、その先端が溶融することにより溶滴となって母材の接合を補助する。したがって、プラズマミグ溶接方法は、厚板の高効率溶接、薄板の高速溶接等に使用されることが多い。
【0003】
上記のミグ溶接電流は、スパッタの発生を抑制し、かつ、溶滴を安定して供給するために、一般的に直流のパルス波形が使用されることが多い。したがって、ミグ溶接方法は、一般的なミグパルス溶接方法である。ミグパルス溶接方法を含む消耗電極式アーク溶接方法では、溶接中のアーク長を適正値に維持することが重要であるために、アーク長制御が行われる。上記のプラズマ溶接電流には、直流又は直流パルス波形が使用される。これ以降の説明において、単にアーク長と記載したときはミグアークのアーク長を意味している。以下、上述したプラズマミグ溶接方法について説明する。
【0004】
図6は、従来技術におけるプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwmを示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwpを示し、同図(D)はプラズマ溶接電圧Vwpを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、ピーク期間Tp中のピーク電流Ip及びベース期間Tb中のベース電流Ibから成るミグ溶接電流Iwmが通電する。このピーク期間Tpとベース期間Tbとを合わせてパルス周期Tfになる。そして、このミグ溶接電流Iwmの通電に対応して、同図(B)に示すように、ピーク期間Tp中はピーク電圧Vpが溶接ワイヤと母材との間に印加し、ベース期間Tb中はベース電圧Vbが印加する。
【0006】
ミグパルス溶接では、良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、ミグ溶接電圧Vwmがアーク長と略比例関係にあることを利用して、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が制御される。ミグ溶接電圧Vwmの平均値は、ミグ溶接電圧Vwmをローパスフィルタに通すことによって生成される。このアーク長制御の方式は、周波数変調方式と呼ばれる。この場合、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、パルスパラメータとなる。ピーク電流Ipは臨界値以上に設定され、ピーク期間Tpと組み合わせてユニットパルス条件と呼ばれる。このユニットパルス条件は、1パルス周期1溶滴移行になるように設定される。ベース電流Ibは、臨界値未満の数十A程度の小電流値に設定される。ユニットパルス条件及びベース電流Ibは、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。
【0007】
他方、同図(C)に示すように、プラズマ溶接電流Iwpは、定電流制御されており、予め定めた一定値の直流波形となる。また、同図(D)に示すように、プラズマ溶接電圧Vwpがプラズマ電極と母材との間に印加する。したがって、プラズマアークは、一定値のプラズマ溶接電流Iwpの通電によって発生している。
【0008】
また、特許文献2の発明では、プラズマミグ溶接方法において、ミグアークの発生位置及び発生角度のうち少なくとも一方をプラズマアークの発生範囲内で変化させることにより、アークの強度分布を変化させるものである。特許文献2には、このようにミグアークの発生位置又は発生角度をプラズマアークの発生範囲内でずらすことにより、アルミニウム、鋼等の熱伝導の良い材料から成る狭開先に対して、開先を大きくしたり、アーク長を必要以上に長くすることなく、高品質に溶接施工することができる、と記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
【0019】
本溶接装置は、破線で囲まれた溶接トーチWT、ミグ溶接電源PSM及びプラズマ溶接電源PSPを備えている。溶接トーチWTは、シールドガスノズル52内に、プラズマノズル51、プラズマ電極1b及び給電チップ4が同心軸上に配置された構造となっている。シールドガスノズル52とプラズマノズル51との隙間からは、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のシールドガス63が供給される。プラズマノズル51とプラズマ電極1bとの間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のプラズマガス62が供給される。プラズマ電極1bと給電チップ4との間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のセンターガス61が供給される。
【0020】
プラズマ電極1bは、中空形状に形成されている。給電チップ4は、このプラズマ電極1bの中空形状内に絶縁されて配置されている。そして、この給電チップ4に設けられた貫通孔からは、溶接ワイヤ1aが送給される。給電チップ4は、溶接ワイヤ1aに対して導通している。しかし、溶接ワイヤ1aは、プラズマ電極1bとは絶縁されている。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。プラズマ電極1bは、たとえば銅又は銅合金からなり、図外の経路を通る冷却水によって間接的に水冷されている。プラズマノズル51は、たとえば銅又は銅合金からなり、冷却水を通す流路が形成されていることにより、直接冷却されている。溶接トーチWTは、通常ロボット(図示は省略)によって保持された状態で、母材2に対して移動させられる。溶接ワイヤ1aの先端と母材2との間には、ミグアーク3aが発生する。プラズマ電極1bと母材2との間には、プラズマガス62によって熱的に拘束されたプラズマアーク3bが発生する。したがって、ミグアーク3aは、プラズマアーク3bに包まれた状態になっている。このために、プラズマアーク3bは、ミグアーク3aの形状が広がるのを拘束する作用がある。
【0021】
同図に示すように、溶接ワイヤ1aの突出し部の一部はプラズマアーク3bに包まれているために、熱を受けて温度が上昇する。このことが、上述したプラズマアーク3bによる溶接ワイヤ1aへの予熱効果となる。
【0022】
ウィービング駆動機構8は、溶接トーチWT内の上部に設けられており、後述するウィービング制御信号Wsを入力として、プラズマ電極1b、プラズマノズル51及びシールドガスノズル52を溶接方向の左右方向にウィービングさせるためのモータを含む機構である。この機構としては、従来から、モータの回転運動を滑子クランク機構により直線運動に変換する機構、モータの回転運動をクランクと揺動梃により揺動運動に変換する機構等が用いられている。この結果、プラズマアーク3b、プラズマガス62及びシールドガス63がウィービングされる。他方、給電チップ4及び溶接ワイヤ1aはウィービングされない。このために、ミグアーク3a及びセンターガス61はウィービングされない。例えば、シールドガスノズル52の内径が19mm、プラズマノズル51の内径が12mm、プラズマ電極1bの内径が9mmの場合、ウィービングの周波数を5Hzに、振幅を±2mmに設定する。
【0023】
ミグ溶接電源PSMは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1aと母材2との間に、ミグ溶接電圧Vwmを印加することにより、ミグ溶接電流Iwmを通電するための電源である。ミグ溶接電源PSMからは、送給モータWMに対して送給制御信号Fcが送られ、溶接ワイヤ1aの送給速度が制御される。ミグ溶接電源PSMからミグ溶接電圧Vwmが印加されるときは、溶接ワイヤ1aが+側とされる。ミグ溶接電源PSMは、定電圧特性の電源であり、ミグ溶接電圧Vwmが予め定めた電圧設定信号Vr(図示は省略)の値と等しくなるように制御される。また、ミグ溶接電流Iwmは、溶接ワイヤ1aの送給速度によってその値が定まる。
【0024】
プラズマ溶接電源PSPは、プラズマ電極1bと母材2との間にプラズマ溶接電圧Vwpを印加することによりプラズマ溶接電流Iwpを通電するための電源である。プラズマ溶接電源PSPからは、ウィービング駆動機構8に対してウィービング制御信号Wsが送られ、プラズマアーク3bのウィービング周波数及び振幅が制御される。プラズマ溶接電源PSPからプラズマ溶接電圧Vwpが印加されるときは、プラズマ電極1bが+側とされる。プラズマ溶接電源PSPは、定電流特性の電源であり、プラズマ溶接電流Iwpが所定値になるように制御される。
【0025】
図2は、上述した
図1を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0026】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、ミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、上記の電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行いその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、を備えている。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMに結合された送給ロール7によって給電チップ4内を通って送給され、母材2との間にミグアーク3aが発生する。溶接トーチの構造は
図1のとおりであり、ここでは簡略化して図示している。
【0027】
電圧検出回路VDは、ミグ溶接電圧Vwmを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均値算出回路VAVは、この電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧平均値信号Vavを出力する。
【0028】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値によって定まる送給速度Fwで溶接ワイヤ1aを送給するための送給制御信号Fcを送給モータWMに出力する。
【0029】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vrと上記の電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧/周波数変換回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間だけHighレベルになるトリガ信号である。
【0030】
ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。ピーク期間タイマ回路TPは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルになると上記のピーク期間設定信号Tprの値によって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号TpがHighレベルのときがピーク期間となり、Lowレベルのときがベース期間となる。
【0031】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。電流設定制御回路IRCは、上記のピーク期間信号TpがLowレベルのときは上記のベース電流設定信号Ibrを電流設定制御信号Ircとして出力し、Highレベルのときは上記のピーク電流設定信号Iprを電流設定制御信号Ircとして出力する。
【0032】
電流検出回路IDは、ミグ溶接電流Iwmを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定制御信号Ircと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによってミグ溶接電流Iwmが通電する。上述したミグ溶接電源PSMは、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期が変化して出力制御されるので、定電圧特性の電源となる。
【0033】
同図は、ミグ溶接電流Iwmがパルス波形の場合であるが、直流波形とするときには、上記の電圧誤差増幅信号Evを上記の電流誤差増幅信号Eiの代わりに直接電源主回路PMに入力するようにすれば良い。このようにすると、ミグアーク3aは、直流のミグ溶接となる。
【0034】
図3は、上述した
図1を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0035】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行いプラズマ溶接電流Iwpを出力する。このプラズマ溶接電流Iwpは、プラズマ電極1b、プラズマアーク3b、母材2を通って通電する。溶接トーチの構造は上述した
図1のとおりであるが、ここでは簡略化して図示している。
【0036】
プラズマ溶接電流設定回路IWPRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Iwprを出力する。電流検出回路IDは、上記のプラズマ溶接電流Iwpを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって直流のプラズマ溶接電流Iwpが通電する。上述したプラズマ溶接電源PSPは、プラズマ溶接電流Iwpがプラズマ溶接電流設定信号Iwprの値と等しくなるように出力制御されるので、定電流特性の電源となる。
【0037】
ウィービング周波数設定回路FPRは、予め定めたウィービング周波数設定信号Fprを出力する。ウィービング振幅設定回路DPRは、予め定めたウィービング振幅設定信号Dprを出力する。ウィービング制御回路WSは、上記のウィービング周波数設定信号Fprによって定まる周波数及び上記のウィービング振幅設定信号Dprによって定まる振幅で正弦波状に変化するウィービング制御信号Wsを
図1の溶接トーチWT内に設けられたウィービング駆動機構8に出力する。このウィービング制御信号Wsについては、
図4で詳述する。
【0038】
同図は、プラズマ溶接電流Iwpが直流波形である場合であるが、パルス波形とするときは、上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprをパルス波形に設定すれば良い。
【0039】
図4は、本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwm(A)を示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwm(V)を示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwp(A)を示し、同図(D)はプラズマ溶接電圧Vwp(V)を示し、同図(E)はウィービング制御信号Wsを示し、同図(F)はミグアークの左右変位量Lm(mm)を示し、同図(G)はプラズマアークの左右変位量Lp(mm)を示す。同図は、上述した
図51のときよりも横軸に示す時間スケールを50倍程度縮めて表示している。そのために、同図(A)及び同図(B)のパルス波形は、
図51と同一であるが、時間軸が縮められているので、密集したパルス波形となっている。これらの周波数は、100〜300Hz程度である。同図(E)に示すウィービング制御信号Wsに従って、プラズマアークのウィービングが溶接線に対して直交する方向(左右方向)に行われている。同図(F)に示すミグアークの左右変位量Lmは、溶接線に対する左右方向への変位量を示しており、ミグアークはウィービングされないので常にLm=0である。同様に、同図(G)に示すプラズマアークの左右変位量Lpは、溶接線に対する左右方向への変位量を示している。ミグアークの左右変位量Lmとは、
図1の給電チップ4及び溶接ワイヤ1aの左右変位量である。プラズマアークの変位量Lpとは、
図1のプラズマ電極1bの中心線の左右変位量である。以下、同図を参照して説明する。
【0040】
同図(A)に示すミグ溶接電流Iwm及び同図(B)に示すミグ溶接電圧Vwmについては、時間軸が縮められて表示されている以外は、上述した
図51と同様であるので、説明は省略する。また、同図(C)に示すプラズマ溶接電流Iwp及び同図(D)に示すプラズマ溶接電圧Vwpについては、
図51と同様であるので、説明は省略する。
【0041】
同図(F)に示すミグアークの左右変位量Lmは、上述したように、ウィービングされないので常に0mmである。同図(E)に示すように、ウィービング制御信号Wsは予め定めた周波数及び振幅で正弦波状に変化する信号である。同図(G)に示すように、プラズマアークの左右変位量Lpは、このウィービング制御信号Wsと同期して正弦波状に変化し、周波数がウィービング周波数fp(Hz)となり、振幅がウィービング振幅Dp(mm)となっている。これらウィービング周波数fp及びウィービング振幅Dpは、ウィービング制御信号Wsによって設定される。ウィービング周波数fpは1〜20Hz程度に設定され、ウィービング振幅Dpは±1〜±3mm程度に設定される。両値は、継手形状、溶接ワイヤの送給速度、溶接速度、母材の材質等に応じて適正値に設定される。このようにすると、プラズマ電極1bの左右移動範囲は内径+2×Dpへと広くなり、プラズマアークの予熱幅も2×Dp広くなる。同図では、ウィービング制御信号Ws及びプラズマアークの左右変位量Lpは正弦波状に変化する場合であるが、三角波状に変化するようにしても良い。また、左端及び右端で短時間停止するようにウィービングしても良い。
【0042】
溶接条件の一例を以下に示す。プラズマ電極1bの内径を9mmとし、溶接ワイヤに直径1.2mmのアルミニウムワイヤを使用し、送給速度を9m/minとし、ミグ溶接電流Iwm=170A、ミグ溶接電圧Vwm=19V、プラズマ溶接電流Iwp=100A、溶接速度1m/minの条件において、ウィービング周波数fp=5Hz及びウィービング振幅Dp=±2mmに設定する。このようにすると、プラズマ電極1bの左右移動範囲は、9mmから13mmへと広くなる。この結果、プラズマアークによる予熱幅も、ウィービングによって4mm広くなる。
【0043】
上述した実施の形態1によれば、ミグアークはウィービングさせないで溶接線上を移動させ、プラズマアークは左右方向にウィービングさせながら溶接を行う。このために、プラズマアークによる母材の予熱幅が広くなるので、ビード止端部のなじみがよくなり疲労強度が向上する。このときに、ミグアークはウィービングさせないで溶接線上を移動するので、ビード表面に粗い波目ができビード外観が悪くなるという現象も生じない。また、プラズマアークによる予熱範囲を広くするためにプラズマ電極1bの内径を大きくすることが考えられる。しかし、このようにすると、プラズマアークへの拘束力が弱くなり、プラズマアークの特質である高い集中性が失われることになる。さらには、この高い集中性を有するプラズマアークに包まれることによって安定したミグアークが発生しているので、プラズマアークへの拘束力が弱くなるとミグアークの安定性も低下することになる。これに対して、本実施の形態では、プラズマ電極1bの内径を大きくすることなく、プラズマアークによる予熱幅を広くすることができる。
【0044】
[実施の形態2]
上述したように、従来技術では、プラズマアークによる母材の予熱幅に対して溶着金属量が多い溶接条件の場合、ビード止端部のなじみが悪くなるという問題がある。プラズマアークによる母材の予熱幅に対して溶着金属量が多い溶接条件の場合には、プラズマアークによる母材の予熱幅とビード幅との差が小さいときである。換言すれば、このプラズマアークによる母材の予熱幅とビード幅との差が大きいときは、ビード止端部のなじみは良好である。
【0045】
そこで、実施の形態2に係るプラズマミグ溶接方法は、以下のステップにて行われる。
ステップ1:実施工の前に、プラズマアーク及びミグアークを共にウィービングさせないでテスト溶接を行い、プラズマアークによる母材の予熱幅及びビード幅を計測し、両値の差を計測する。
【0046】
ステップ2:実施工では、計測した差を溶接装置(
図5のプラズマ溶接電源PSP)に入力する。プラズマ溶接電源PSPは、この差が予め定めた基準値未満のときはHighレベルになり、以上のときはLowレベルになるモード切換信号Msを出力する。
【0047】
ステップ3:プラズマ溶接電源PSPは、このモード切換信号MsがHighレベルのときは、ウィービングの周波数及び振幅が適正値(0以外の値)に設定されたウィービング制御信号Wsをウィービング駆動機構8に出力することによって、ミグアークはウィービングさせないで、プラズマアークのみをウィービングさせて溶接を行う。
【0048】
ステップ4:他方、プラズマ溶接電源PSPは、上記のモード切換信号MsがLowレベルのときは、ウィービングの周波数及び振幅が0に設定されたウィービング制御信号Wsをウィービング駆動機構8に出力することによって、ミグアーク及びプラズマアークを共にウィービングさせないで溶接を行う。
【0049】
上記の基準値は、2〜5mm程度に設定される。この基準値は、上記の差がこの基準値以上であれば、ビード止端部のなじみが良好となる値として設定される。
【0050】
実施の形態2に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成は、上述した
図1と同一である。但し、溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図は、
図5で説明するようになる。
【0051】
図5は、実施の形態2に係るプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。同図において、上述した
図3と同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は省略する。同図は、差入力回路DW及びモード切換回路MSを新たに追加し、
図3のウィービング制御回路WSを第2ウィービング制御回路WS2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0052】
差入力回路DWは、テスト溶接で計測したプラズマアークによる母材の予熱幅とビード幅との差を数値データとして入力すると、差信号Dwとして出力する。この差信号Dwは、例えば2(mm)という数値データとなる。この回路は、上述したステップ1の処理の一部を行っている。
【0053】
モード切換回路MSは、上記の差信号Dwを入力として、差信号Dwの値が予め定めた基準値未満のときはHighレベルになり、以上のときはLowレベルになるモード切換信号Msを出力する。この回路は、上述したステップ2の処理を行っている。
【0054】
第2ウィービング制御回路WS2は、上記のモード切換信号Ms、ウィービング周波数設定信号Fpr及びウィービング振幅設定信号Dprを入力として、モード切換信号Ms=Highレベルのときは、ウィービング周波数設定信号Fprによって定まる周波数及びウィービング振幅設定信号Dprによって定まる振幅で正弦波状に変化するウィービング制御信号Wsを
図1の溶接トーチWT内に設けられたウィービング駆動機構8に出力し、モード切換信号Ms=Lowレベルのときは0のままのウィービング制御信号Wsをウィービング駆動機構8に出力する。この回路は、上述したステップ3及び4の処理を行っている。
【0055】
実施の形態2に係るプラズマミグ溶接方法を示す波形図については、以下のとおりである。モード切換信号MsがHighレベル(差信号Dwの値が基準値未満)のときの波形図は、上述した
図4と同一である。他方、モード切換信号MsがLowレベル(差信号Dwの値が基準値以上)のときの波形図は、
図4(G)が異なっている。すなわち、プラズマアークはウィービングされないので、
図4(G)に示すプラズマアークの左右変位量Lpが常に0となる点が異なっている。
【0056】
上述した実施の形態2によれば、プラズマアークによる母材の予熱幅とビード幅との差を計測し、この差が予め定めた基準値未満のときは、実施の形態1と同様に、ミグアークはウィービングさせないで、プラズマアークのみをウィービングさせて溶接を行う。このために、実施の形態1と同様に、プラズマアークによる母材の予熱範囲に対して溶着金属量が多い溶接条件において、ビード止端部のなじみを良好にし、かつ、ビード外観も良好にすることができる。他方、計測された差が基準値以上のときは、ミグアーク及びプラズマアークを共にウィービングさせないで溶接を行う。このケースは、予熱幅がビード幅に対して余裕のある場合であり、この場合にはビード止端部のなじみは良好である。したがって、プラズマアークをウィービングする必要はない。このように、ウィービングが不要のときにウィービングを停止することで、ウィービング駆動機構8のメンテナンス間隔を伸ばすことができ、生産効率を高めることができる。