【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アセタール化度が20〜30モル%であり、かつ、残存金属成分量が120ppm以下である水溶性ポリビニルアセタールを製造する方法であって、ポリビニルアルコール、アルデヒド、及び、塩化水素換算で500ppm以下の酸触媒を溶媒に溶解した混合溶液を、前記溶媒及びアルデヒドの沸点以上の温度、大気圧以上の圧力の条件下で反応させる工程を有し、
前記ポリビニルアルコールに対して、理論反応量の1.0〜1.2当量のアルデヒドを用い、かつ、アルカリ中和剤による中和工程を有しない水溶性ポリビニルアセタールの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、ポリビニルアルコールとアルデヒドとのアセタール化反応の反応条件等を検討したところ、一定の条件下で反応させた場合には、酸触媒を従来考えられていた量よりも大幅に低減、又は、全く酸触媒を配合しなくとも、充分にアセタール化反応を進められることを見出した。そして、このように酸触媒濃度が低い条件で反応させた場合には、アルカリ中和剤による中和工程を行う必要がなく、従ってアルカリ中和剤に起因する残存金属成分が極めて少ない水溶性ポリビニルアセタールを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法は、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを溶媒に配合した混合溶液を、一定の条件下で反応させる工程を有する。
上記ポリビニルアルコールとしては、例えば、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の、従来公知のポリビニルアルコールを用いることができる。
【0010】
上記ポリビニルアルコールは、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば、完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコールであってもよい。
また、上記ポリビニルアルコールとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等の、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
上記ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0011】
上記ポリビニルアルコールには、ポリ酢酸ビニルをけん化する際に用いた酢酸ナトリウム等のアルカリに由来する金属成分が含まれていることがある。特に金属成分量の少ない水溶性ポリビニルアセタールを得るためには、金属成分量の少ないポリビニルアルコールを原料として用いることが好ましい。具体的には、例えば、ソックスレー抽出器を用いて、メタノールを洗浄溶媒として洗浄することにより、不純物として含まれる酢酸ナトリウム等の金属成分を除去したポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0012】
上記アルデヒドは、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒド等が挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒド化合物はホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0013】
上記ポリビニルアルコールに対する上記アルデヒドの配合量は、ポリビニルアルコールに対して理論反応量の1.0〜1.2当量であることが好ましい。上記アルデヒドの配合量をこの範囲とすることにより、アセタール化度が20〜30モル%である水溶性ポリビニルアセタールを得ることができる。上記アルデヒドの配合量が1.0当量未満であると、充分にアセタール化反応が進まずに、所期のアセタール化度を有する水溶性ポリビニルアセタールを得られないことがあり、1.2当量を超えると、30モル%超えてアセタール化が進んだポリビニルアセタールが析出してくることがある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい上限は1.1当量である。
【0014】
上記溶媒としては、例えば、水、アルコール又はその混合媒体を用いることができる。
【0015】
上記混合溶液には、塩化水素換算で500ppm以下の酸触媒を配合する。本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法では、混合溶液を一定の条件下で反応させることから、酸触媒の配合量が500ppm以下であっても充分にアセタール化反応が進行する。上記酸触媒の配合量は塩化水素換算で100ppm以下であることがより好ましい。ブチルアルデヒドやアセトアルデヒド等の比較的反応しやすいアルデヒドを用いる場合には、酸触媒を配合しなくとも反応を進めることができる。
上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸等が挙げられる。
【0016】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法では、上記混合溶液を、上記溶媒及びアルデヒドの沸点以上の温度、大気圧以上の圧力の条件下で反応させる。このような高温条件下で反応させることにより、酸触媒の配合量が500ppm以下であっても充分にアセタール化反応を進行させることができる。
【0017】
上記混合溶液の反応時の温度は上記溶媒及びアルデヒドの沸点以上であるが、具体的には100℃以上であることが好ましい。上記混合溶液を反応させる温度が100℃未満であると、反応が充分に進まず、アセタール化度が20〜30モル%であるポリビニルアセタール系樹脂が得られないことがある。上記混合溶液を反応させる温度のより好ましい下限は110℃である。
上記混合溶液の反応時の温度の好ましい上限は200℃である。反応時の温度が200℃を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、原料であるポリビニルアルコールの脱水反応が起こって分子内に共役二重結合を有する構造が発生し、得られるポリアセタール樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して得られる水溶性ポリビニルアセタールの重合度が低下してしまうことがある。上記混合溶液を反応させる温度のより好ましい上限は180℃である。
【0018】
上記混合溶液の反応時の圧力は大気圧以上であるが、具体的には0.1MPa以上であることが好ましい。上記混合溶液を反応させる圧力が0.1MPa未満であると、反応が充分に進まず、アセタール化度が20〜30モル%であるポリビニルアセタール系樹脂が得られないことがある。上記混合溶液を反応させる圧力のより好ましい下限は0.12MPaである。
上記混合溶液を反応させる圧力の好ましい上限は3MPaである。反応時の圧力が3MPaを超えると、製造に必要な装置に高い耐圧設計が必要となり、実質的に製造装置を製造することが困難となることがある。上記混合溶液を反応させる圧力のより好ましい上限は2.8MPaである。
【0019】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法では、アルカリ中和剤による中和工程は行わない。上述のように本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法では、酸触媒の配合量を最小限に抑えることにより、中和工程を行わずとも長期保存時の脱アセタール化による品質の低下、加熱条件での樹脂の黄変、劣化による重合度の低下等の不具合は発生しない。
残存金属成分の原因となるアルカリ中和剤による中和工程を不要とすることにより、本願発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法によれば、残存金属成分量が少ない水溶性ポリビニルアセタールを容易に製造することができる。
【0020】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法は、例えば、
図1に示したような回分式反応装置を用いて行うことができる。
図1の回分式反応装置は、反応部3に対して、原料タンクA1と原料タンクB2とが耐圧性のラインで接続されており、例えば、原料タンクA1には原料となるビニルアルコール系樹脂を、原料タンクB2には原料となるアルデヒドを貯留する。原料タンクA1と反応部3とを結ぶ耐圧性のライン上には、スラリーポンプ8とバルブA4とが配置されている。原料タンクB2と反応部3とを結ぶ耐圧性のライン上には、高圧液送ポンプ9とバルブB5とが配置されている。反応部3には、反応容器内圧力計15が取り付けられている。また、反応部3には、反応の状況を目視にて確認するための反応容器サイドグラス17が取り付けられている。更に反応部3には、反応部撹拌機10と反応部加熱ヒーター7とが設置されている。
【0021】
一方、反応部3は、バルブC6が配置された耐圧性のラインで回収タンク11に接続されている。回収タンク11には、冷却器13が配置されており、反応後の混合溶液を速やかに冷却できる。また、回収タンク11の内部はメッシュ12で画分されており、固形状の不純物(例えば、生成した粒子状の樹脂)を、生成した水溶性ポリビニルアセタールから分離できる。また、回収タンク11には、回収タンク圧力計16が取り付けられている。圧力調整弁14を開放することにより、生成した水溶性ポリビニルアセタールを含む液を回収タンク11から排出できる。
【0022】
図1の回分式反応装置を用いた本発明の水溶性ビニルアセタール樹脂の製造方法では、まず原料となるビニルアルコール系樹脂を水等の適当な媒体に溶解又は懸濁させた流体を原料タンクA1に投入する。この原料流体をスラリーポンプ8を反応部3に送液し、バルブA4を閉じた後、撹拌、加熱して、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力とする。
一方、原料となるアルデヒドを原料タンクB2に投入し、バルブB5を閉じた状態で高圧液送ポンプ9で送液することにより、アルデヒドを所定の温度、圧力にまで加熱、加圧する。バルブB5を開いて加熱、加圧されたアルデヒドを、ビニルアルコール系樹脂が投入された反応部3に導き、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力に保った状態で撹拌することにより、アセタール化反応を進める。
【0023】
図1の回分式反応装置を用いた本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法では、バルブC6を開いて、反応後の混合溶液を回収タンク11中に投入する。冷却器13により回収タンク11中の反応後の混合溶液を冷却することにより、混合溶液の圧力を大気圧付近にまで低下させることができる。その後、圧力調整弁14を開放することにより、生成した水溶性ポリビニルアセタールを含む液を回収することができる。
【0024】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法によれば、残存金属成分量が少ない水溶性ポリビニルアセタールを容易に製造することができる。
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの製造方法で製造された、アセタール化度が20〜30モル%であり、かつ、残存金属成分量が120ppm以下である水溶性ポリビニルアセタールもまた、本発明の1つである。
【0025】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールは、アセタール化度が20〜30モル%である。この範囲内であると、成型したフィルムが柔軟かつ高強度というポリビニルアセタール本来の性能と、水溶性とを両立することができ、積層型セラミックコンデンサ用バインダー等の電子材料用接着剤に好適に用いることができる。
なお、上記アセタール化度は、
13C−NMRを用いて測定することができる。また、上記アセタール化度を求めるときは、アセタール基をアセタール化された2つの水酸基として数える。
【0026】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの重合度は、好ましい下限が150、好ましい上限が3300である。上記水溶性ビニルアセタール樹脂の重合度が150未満であると、フィルムに成形した際の強度が低下したりすることがある。上記水溶性ビニルアセタール樹脂の重合度が3300を超えると、熱溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。上記水溶性ビニルアセタール樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は2700である。
【0027】
本発明の水溶性ポリビニルアセタールは、残存金属成分量が120ppm以下である。
従来の製造方法により製造された水溶性ポリビニルアセタールは、残存金属成分量の低減が困難であり、数百〜数千ppmの残存金属成分を含んでいた。このような従来の水溶性ポリビニルアセタールは、残存金属成分が原因となって保存中に電気絶縁性等が著しく変化してしまうことから、積層型セラミックコンデンサ用バインダー等の電子材料用接着剤用途への応用が困難であった。
これに対して、残存金属成分量が120ppm以下である本発明の水溶性ポリビニルアセタールでは、このような保管中の電気絶縁性等の変化がほとんどないことから、積層型セラミックコンデンサ用バインダー等の電子材料用接着剤用途にも好適に用いることができる。
本発明の水溶性ポリビニルアセタールの残存金属成分量の好ましい上限は110ppm、更に好ましい上限は10ppmである。