(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による塩化ビニル系ホースの劣化判定方法および劣化判定装置の実施形態を
図1〜
図13を参照して説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態による塩化ビニル系ホースの劣化判定方法について説明する。
図1は、本発明による劣化判定方法により劣化が判定される塩化ビニル系ホースの一例の構造概略図である。なお、塩化ビニル系ホースには種々の構造があり、また可塑剤の濃度によりその脆性などの特性は様々であるので、本発明により劣化判定される塩化ビニル系ホースは
図1に示す構造に限定されるものではない。したがって、プラントや設備で使用される複数の異なる特性を有する塩化ビニル系ホースにも本発明を適用できる。
なお以下の説明では、塩化ビニル系ホースを単にホースとも呼称する。
【0011】
図1に示すように、塩化ビニル系ホース1は、最外層に硬質塩化ビニル2を使用しており、塩化ビニル系ホース1の耐圧性を保持している。また、最内層にはゴム3を使用しており、耐水性を保持している。その最内層のゴム3および最外層の硬質塩化ビニル2を接着させるために軟質塩化ビニル4が使用されている。
【0012】
内層のゴム3および軟質塩化ビニル4には、多くの可塑剤が使用されており、脆化温度も低くなっている。しかし最外層の硬質塩化ビニル2については、耐圧性を保持する観点から、ある程度の強度を有するために可塑剤の濃度は内層および中間層に比べ低くくされており、脆化温度が高くなっている。そこで、最外層の硬質塩化ビニル2に着目して塩化ビニル系ホース1の劣化判定を実施する。すなわち、第1の実施形態では、この硬質塩化ビニル2の寿命が塩化ビニル系ホース1の寿命であるとしている。
【0013】
(劣化判定方法の手順)
第1の実施形態の劣化判定方法は、劣化判定対象ホースと同一材料の最大使用可能期間を特定し、当該ホースの現実の使用期間を特定し、最大使用可能期間と現実の使用期間との差を残存使用可能期間、すなわち、余寿命として算出するものである。そこで、この実施形態では、あらかじめ
図2〜
図4に示す特性線
図I〜IIIを予め作成しておき、これらの特性線
図I〜IIIを使用して余寿命を精度よく算出する。
【0014】
(1)特定線
図I
劣化判定すべきホースと同一材料の新品の塩化ビニル系ホース1について、最外層の硬質塩化ビニル2の可塑剤濃度と脆化温度を測定する。また、所定の期間だけ屋外暴露した塩化ビニル系ホース1についても同様に、最外層の硬質塩化ビニル2の可塑剤濃度と脆化温度を測定する。
【0015】
以上の可塑剤濃度と脆化温度の測定値から、
図2の特性線
図Iで示すような可塑剤濃度と脆化温度の関係を表わす特性線図を求める。
図2は、横軸を可塑剤濃度、縦軸を脆化温度とした特性線図であり、可塑剤濃度が少ないほど脆化温度が高くなる傾向を表している。
図2の特性に基づいて、劣化判定対象であるホースが使用される環境で最も低い温度(環境最低温度と呼ぶ)に対応する可塑剤濃度を下限濃度として規定する。
【0016】
(2)特定線
図II
最外層の硬質塩化ビニル2の使用期間と可塑剤濃度の関係を表わす
図3で示すような特性線
図IIを求める。特性線
図IIの算出については後述する。
図3は、横軸を使用期間、縦軸を可塑剤濃度とした特性線図であり、使用期間が長くなるほど可塑剤濃度が低下する傾向を表している。
図3の特性線
図IIを参照して、上述した環境最低温度に対応する可塑剤濃度、すなわち下限濃度に対応する使用期間を特定する。この使用期間は、塩化ビニル系ホース1の劣化限界を可塑剤濃度で評価する場合の最大使用可能期間であり、この期間をTmax1とする。
【0017】
そして、任意の期間使用して劣化した塩化ビニル系ホース1の最外層の硬質塩化ビニル2の可塑剤濃度を測定し、
図3の特性線
図IIに基づいて、測定した可塑剤濃度に対応する使用期間Tuseを特定する。特定された使用期間Tuseと最大使用可能期間Tmax1との差は、劣化した塩化ビニル系ホース1の可塑剤濃度で評価する場合の残存使用可能期間Tresである。
【0018】
(3)特定線
図III
塩化ビニル系ホース1の脆化温度と使用期間の関係を表わす
図4の特性線
図IIIのような特性線図を求める。特性線
図IIIの算出については後述する。
図4は、横軸を使用期間、縦軸を脆化温度とした特性線図であり、使用期間が長くなるほど脆化温度が増加する傾向を表している。前述の環境最低温度を塩化ビニル系ホース1の劣化限界に対応する脆化温度とし、この温度に対応する使用期間を脆化温度で評価する場合の最大使用可能期間Tmax2とする。
【0019】
そして、任意の期間使用して劣化した塩化ビニル系ホース1の最外層の硬質塩化ビニル2の脆化温度を測定し、
図4の特性線
図IIIに基づいて、測定した脆化温度に対応する使用期間Tuseを特定する。特定された使用期間Tuseと最大使用可能期間Tmax2との差は、塩化ビニル系ホース1の残存使用可能期間Tresである。
【0020】
以上の特性線
図I〜IIIを使用して余寿命を算出する手順の概略を説明する。
(1)劣化判定対象であるホースが使用される環境下の最低温度を特定し、この最低温度での最大使用可能期間を特定し、劣化判定対象であるホースの使用期間を特定し、この使用期間と最大使用可能期間との差に基づいて余寿命を算出する。
【0021】
(2)塩化ビニル系ホースの劣化は、ホースの脆化温度と可塑剤濃度に依存することが知られている。そこで、可塑剤濃度と使用期間の相関関係を特性線
図II(
図3参照)としてあらかじめ取得するとともに、脆化温度と使用期間の相関関係を特性線
図III(
図4参照)としてあらかじめ取得する。脆化温度から最大使用可能期間を特定する際は、環境最低温度で特性線
図IIIを参照して最大使用可能期間Tmax2を特定することができる。
【0022】
(3)可塑剤濃度から最大使用可能期間を特定する際は、環境最低温度における可塑剤濃度を特定する必要がある。そこで、第1の実施形態では、可塑剤濃度と脆化温度の相関関係を特性線
図I(
図2参照)として取得しておき、環境最低温度で特性線
図Iを参照して可塑剤濃度を特定し、この濃度を環境最低温度下での下限濃度とし、下限濃度で特性線
図IIを参照して最大使用可能期間Tmax1を特定する。
【0023】
(4)このように特定された最大使用可能期間Tmax1およびTmax2のいずれか小さい方の温度を最大使用可能期間Tmaxとし、劣化判定対象のホースに対応付けて最大使用可能期間Tmaxをたとえばテーブルとして記憶しておく。劣化判定対象のホースは、使用する材料、サイズなどで種別化しておき、各種別のホースに対する最大使用可能期間Tmaxが記憶されている。
(5)劣化判定対象のホースに基づいて最大使用可能期間Tmaxを特定する。
(6)劣化判定対象のホースの使用期間Tuseが明確な場合は、最大使用可能期間Tmaxと使用期間Tuseの差を残存使用期間Tres、すなわち余寿命として算出する。
【0024】
(7)劣化判定対象ホースの使用期間が不明確な場合は、対象ホースから試験片を切り出す。ホースの最大使用可能期間が可塑剤濃度から特定されている場合は、試験片から可塑剤濃度を特定し、その可塑剤濃度で特性線
図IIを参照して推定使用期間TermFを特定する。またホースの最大使用可能期間が脆化温度から特定されている場合は、試験片から脆化温度を特定し、その脆化温度で特性線
図IIIを参照して推定使用期間TermDを特定する。そして、最大使用可能期間Tmaxと推定使用期間TermFの差、または最大使用可能期間Tmaxと推定使用期間TermDの差を残存使用期間Tres、すなわち余寿命として算出する。
【0025】
上記の
図2〜4で説明した特性線
図I〜IIIを求める際に必要な塩化ビニル系ホース1の脆化温度、および可塑剤濃度を測定する方法について説明する。
[A:脆化温度の測定方法]
脆化温度の試験方法は、一定の温度の試験槽に入れた片持ばりの試験片に所定の打撃を与えて高分子材料の脆化温度を測定する。この試験方法は、可塑剤の低温による相分離によって生じる効果を評価するために用いられている一般的な方法である。
脆化温度はJIS規格K7216に従って測定する。脆化温度試験装置は、試験片つかみ具に片持ちで保持された試験片を試験槽で所定温度に維持し、打撃ハンマで試験片に衝撃を与え、その時の破壊状況を観察する装置である。
【0026】
以下に上記の脆化温度試験装置を用いた脆化温度の測定手順を示す。
(ステップA1)塩化ビニル系ホースから最外層の硬質塩化ビニル2を切り取り、長さ38mm、幅6mm、厚さ2mmの試験片、もしくは、長さ20mm、幅2.5mm、厚さ1.6mmの試験片に機械加工することにより試験片を作製する。
(ステップA2)試験槽に伝熱媒体としてエタノールを入れて所定の温度に調節する。
(ステップA3)試験片は脆化温度試験装置の試験片つかみ具にトルクドライバーを用いて2kgf/cm(0.19J)のトルクで取り付ける。
【0027】
(ステップA4)打撃ハンマをJIS規定の速度で回転させて試験片を打撃した後に破壊の有無を確認する。
(ステップA5)試験温度を5℃おきに上昇させ、各温度につき10個以上の試験片について試験し、それぞれの温度における破壊個数を記録する。
(ステップA6)脆化温度(Tb)を次の式を用いて求める。
Tb=Th+ΔT(S/100−1/2)
ここで、
Tb:脆化温度(℃)
Th:全試験片が破壊する最高温度(℃) ΔT:試験温度間隔(℃)
S:全試験片が破壊しない最低の温度からTbまでの各測定温度における破壊数の総和の百分率
【0028】
[B、C:可塑剤濃度の測定方法]
可塑剤濃度の測定方法にはソックスレー抽出法と加熱還流法の2通りの方法があり、いずれの方法でも測定が可能である。測定方法はJIS規格K6229に従って測定する。
【0029】
[B:ソックスレー抽出法]
試験片を溶剤でソックスレー抽出し、抽出液から溶剤を除去して抽出量を求める。2回の測定の平均値を定量値とする。
【0030】
以下にソックスレー抽出法による可塑剤濃度の測定手順を示す。
(ステップB1)塩化ビニル系ホース1から最外層の硬質塩化ビニル2を切り取って、2mm角以下のサイズに細かく切断する。より好ましくは凍結粉砕を用いる。凍結粉砕することによって平均的なデータが得られ易い。これを3〜5gとって秤量する。
(ステップB2)フラスコを100℃で乾燥させ、デシケータ中で放冷後、秤量する。
【0031】
(ステップB3)秤量した試験片を円筒ろ紙に入れた後に抽出装置に入れ、抽出溶剤が1時間に10〜20回抽出カップを満たすように加熱速度を調節する。抽出時間は16時間である。抽出溶剤には、アセトン、n−ヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、ジエチルエーテルなどを使用する。可塑剤の種類によって、溶剤を使い分けることが望ましい。
(ステップB4)抽出終了後、加熱を止めて冷却する。抽出装置から受器フラスコを取り出し、蒸留ヘッド及び冷却器を取り付けて溶剤を留去する。
【0032】
(ステップB5)フラスコ中の抽出分は100℃の乾燥器で2h乾燥する。デシケータ中で放冷後、フラスコの質量を秤量する。
(ステップB6)試験片を用いずに同じ装置、同量の抽出溶媒を用いて全手順を行い、フラスコ質量増加分を求める。
(ステップB7)可塑剤濃度(%)を次の式を用いて求める。
可塑剤濃度(%)={(m2−m1−m3)/m0}×100
ここで、m0:試験片質量(g)
m1:フラスコだけの質量(g)
m2:抽出分を含むフラスコ質量(g)
m3:空試験におけるフラスコ質量増加分(g)
【0033】
[C:加熱還流法]
可塑剤濃度は加熱還流法を用いても測定できる。以下にこの加熱還流法を用いた塩化ビニルの可塑剤濃度の測定方法について説明する。
まず、試験片を溶剤で還流抽出する。試験片から溶剤を除去し、抽出前後の試験片の質量差から抽出量を求める。2回の測定の平均値を定量値とする。
【0034】
以下に加熱還流法による可塑剤濃度の測定手順を示す。
(ステップC1)塩化ビニル系ホースから最外層の硬質塩化ビニル2を切り取って、厚さ2mm以下の短冊状の試験片に切断する。1個の試験片質量は90〜110mgとする。これを4〜6個とって秤量する。
(ステップC2)フラスコに抽出溶剤と試験片を一緒に入れて、冷却器を取付け、60分間還流抽出を行う。抽出溶剤には、アセトン、n−ヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、ジエチルエーテルなどを使用する。可塑剤の種類によって、溶剤を使い分けることが望ましい。
【0035】
(ステップC3)抽出時間終了後、加熱を止め、放冷する。その後、150μmのふるいを用いて、抽出後の試験片と抽出液とを分離する。
(ステップC4)抽出終了後の試験片は、100℃の乾燥器中で10分間の質量変化が0.1mg以下になるまで乾燥させる。
(ステップC5)デシケータ中で放冷後、抽出後の試験片質量を秤量する。
(ステップC6)可塑剤濃度(%)を次の式を用いて求める。
可塑剤濃度(%)={(m4−m5)/m4}×100
ここで、m4:抽出前の試験片質量(mg)
m5:抽出後の試験片質量(mg)
【0036】
[D:最大使用可能期間の算出方法]
塩化ビニル系ホース1の最大使用可能期間の算出方法について
図2〜6を参照して説明する。
(ステップD1)新品の塩化ビニル系ホース1より最外層の硬質塩化ビニル2を切り出す。さらに、
図5に示すように、最外層の硬質塩化ビニル2を切断面5で表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。
表面側6は内側7と比べて紫外線や熱に直接曝される環境下にある。そのため、可塑剤の揮発が進行し易い。また、使用期間によっては、可塑剤が内部から表面へ移動して染み出してくるために可塑剤濃度が上昇する場合がある。このように、測定箇所によって可塑剤濃度に分布が見られることから、可塑剤濃度が変化し易い表面側6と可塑剤濃度が比較的変化し難い内側7に分割してそれぞれ測定する。
【0037】
(ステップD2)最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7について、上述の測定方法に従って脆化温度(℃)を測定する。但し、表面側6と内側7の脆化温度が異なる場合、高い方値を使用する。
【0038】
(ステップD3)最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7について、上述の測定方法に従って可塑剤濃度(%)を測定する。但し、表面側6と内側7の可塑剤濃度が異なる場合、低い方の値を使用する。
【0039】
(ステップD4)所定の期間使用した塩化ビニル系ホース1より最外層の硬質塩化ビニル2を切り出す。さらに、
図5に示すように、最外層の硬質塩化ビニル2を表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。
【0040】
(ステップD5)新品の場合と同様に、最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7について、上述の測定方法Aに従って脆化温度(℃)を測定する。但し、表面側6と内側7の脆化温度が異なる場合、高い方の脆化温度の値を使用する。
【0041】
(ステップD6)新品の場合と同様に、最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7について、上述の測定方法BまたはCに従って可塑剤濃度(%)を測定する。但し、表面側6と内側7の可塑剤濃度が異なる場合、低い方の可塑剤濃度の値を使用する。
【0042】
(ステップD7)新品の脆化温度と所定の期間使用した塩化ビニル系ホース1の脆化温度を使用期間に対してプロットし、
図4で説明した特性線
図III、すなわちホース1の脆化温度と使用期間の関係を求める。
ここでは、新品のホース1では可塑剤濃度の値はある決まった値であり、したがってその脆化温度もある決まった値であるとする。またこの新品の塩化ビニル系ホース1の使用開始時を使用期間0と設定する。
(ステップD8)この特性線
図IIIより、脆化温度が環境最低温度に到達するまでの最大使用可能期間Tmax2を求める。
【0043】
(ステップD9)新品ホース1と所定の期間使用したホースについて、可塑剤濃度と脆化温度との関係をプロットし、
図2で説明した特性線
図I、すなわち可塑剤濃度と脆化温度の関係を表わす特性線図を求める。
(ステップD10)
図2より、脆化温度が環境最低温度に到達する時の可塑剤濃度を求め、これを下限濃度とする。
【0044】
(ステップD11)新品の可塑剤濃度と所定の期間使用した塩化ビニル系ホース1の可塑剤濃度を使用期間に対してプロットし、
図3で説明した特性線
図II、すなわち塩化ビニル系ホース1の可塑剤濃度と使用期間の関係を求める。
(ステップD12)
図3より、(ステップD10)で求めた下限濃度に到達するまでの最大使用可能期間Tmax1を求める。
(ステップD13)(ステップD8)で求めた最大使用可能期間Tmax2と(ステップD12)で求めた最大使用可能期間Tmax1を比較して、短い方を実際に劣化の判断に用いる最大使用可能期間Tmaxとして採用する。
すなわちTmax=min(Tmax1、Tmax2)とする。
【0045】
このようにして劣化判定対象のホース種別ごとに最大使用可能期間Tmaxが算出され、ホース種別と最大使用可能期間がたとえば対応テーブル形式で記憶される。たとえば、ホース種別Pに対して最大使用可能期間TmaxP、ホース種別Qに対して最大使用可能期間TmaxQのようにテーブル化されて記憶される。
【0046】
以上説明した
図2〜
図4の特性線
図I〜IIIの作成手順を纏めると以下のとおりである。
図2の脆化温度および可塑剤濃度の特性線
図Iは次のようにして作成される。
(a)新品のホースの脆化温度および可塑剤濃度の計測点を
図2の座標上にプロットする。
(b)所定の期間だけ環境下に暴露した一つのホースから切り出した試験片の脆化温度および可塑剤濃度の計測点を
図2の座標上にプロットする。
(c)(a)と(b)の2つのプロットを直線で結んで特性線
図Iが作成される。
精度の高い特性線
図Iを得るには、(b)の手順において、複数の期間だけ環境下に暴露した複数のホースのそれぞれについて脆化温度と可塑剤濃度を計測し、
図2の座標上にプロットし、3点以上のプロットを結んで特性線図とする。
たとえば、ホース1の試料を一定期間毎に適宜入手して特性線
図Iを更新する。
【0047】
図3の可塑剤濃度と使用期間の特性線
図IIは次のようにして作成される。
(a)新品のホースの可塑剤濃度の計測点を
図3の座標上にプロットする。
(b)所定の期間だけ環境下に暴露した一つのホースから切り出した試験片の可塑剤濃度の計測点を
図3の座標上にプロットする。
(c)(a)と(b)の2つのプロットを直線で結んで特性線
図IIが作成される。
精度の高い特性線
図IIを得るには、(b)の手順において、複数の期間だけ環境下に暴露した複数のホースのそれぞれについて可塑剤濃度を計測し、
図3の座標上にプロットし、3点以上のプロットを結んで特性線図とする。
たとえば、ホース1の試料を一定期間毎に適宜入手して特性線
図IIを更新する。
【0048】
図4の脆化温度と使用期間の特性線
図IIIは次のようにして作成される。
(a)新品のホースの脆化温度の計測点を
図4の座標上にプロットする。
(b)所定の期間だけ環境下に暴露した一つのホースから切り出した試験片の脆化温度の計測点を
図4の座標上にプロットする。
(c)(a)と(b)の2つのプロットを直線で結んで特性線
図IIIが作成される。
精度の高い特性線
図IIIを得るには、(b)の手順において、複数の期間だけ環境下に暴露した複数のホースのそれぞれについて脆化温度を計測し、
図4の座標上にプロットし、3点以上のプロットを結んで特性線図とする。
たとえば、ホース1の試料を一定期間毎に適宜入手して特性線
図IIIを更新する。
このようにして、より正確な最大使用可能期間Tmaxを求めることができる。
【0049】
[E:残存使用可能期間算出方法]
塩化ビニル系ホース1の残存使用可能期間をTresと表し、劣化判定対象であるホースの使用期間をTuseと表す。残存使用可能期間Tresは、使用期間Tuseが明確か否か、およびホース1が脆化温度や可塑剤濃度の試験のために入手可能か否かに応じた異なる方法で算出する。この残存使用可能期間Tresの算出フローを
図7を参照して以下に説明する。
【0050】
(ステップE1)ホースの使用した期間Tuseが明確か否か判定する。
もし、ホース1の使用した期間Tuseが明確であれば、ステップE2に進み、明確でなければステップE3に進む。
【0051】
<使用した期間が明確な敷設ホースの場合>
(ステップE2)前述の最大使用可能期間Tmaxから既に使用した期間Tuseを差し引いた残りの期間、すなわち、残存使用可能期間Tresを余寿命として算出する。
すなわちTres=Tmax−Tuseとする。
【0052】
<使用した期間が不明な敷設ホースの場合>
(ステップE3)実際に使用している塩化ビニル系ホース1が入手可能かどうか判定する。入手可能な場合はこのホースの試験片を用いて脆化温度や可塑剤濃度を分析するためステップE4に進む。もし入手困難な場合は、実際に使用されているホースと同時期に製造されたホースを用いるのでステップE12に進む。
【0053】
(ステップE4)使用中の敷設ホースより、最外層の硬質塩化ビニル2を切り出す。さらに、
図5に示すように、最外層の硬質塩化ビニル2を表面側6と軟質塩化ビニル4に接する内側7に2分割する。
【0054】
(ステップE5)劣化判定対象のホースの最大使用可能期間Tmaxが脆化温度から求めた最大使用可能期間Tmax2か、あるいは可塑剤濃度から求めた最大使用可能期間Tmax1かどうかを判定する。Tmax2であった場合は、脆化温度からTresを算出するためステップE6に進む。Tmax1であった場合は、可塑剤濃度からTresを算出するためステップE9に進む。
【0055】
<脆化温度から残存使用期間を算出する>
(ステップE6)劣化判定対象のホースの最大使用可能期間Tmaxが脆化温度から求めた最大使用可能期間Tmax2であった場合には、最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7の脆化温度を測定する。但し、表面側6と内側7の脆化温度が異なる場合、高い方の温度tempCを使用する。
【0056】
(ステップE7))
図4で説明した特性線
図III、すなわちホース1の脆化温度と使用期間の関係を示す特性線
図IIIに、
図8に示すように、上記で求めた脆化温度tempCをプロットして現在までの使用期間、すなわち推定使用期間TermDを推定する。
【0057】
(ステップE8)最大使用可能期間Tmax2から現在までの推定使用期間TermDを差し引いた残りの期間を残存使用可能期間Tresとして算出する。
すなわちTres=Tmax2−TermDとする。
【0058】
<可塑剤濃度から残存使用期間を算出する>
(ステップE9)劣化判定対象のホースの最大使用可能期間Tmaxが可塑剤濃度から求めた最大使用可能期間Tmax1であった場合には、最外層の硬質塩化ビニル2の表面側6と内側7の可塑剤濃度を測定する。但し、表面側6と内側7の可塑剤濃度が異なる場合、低い方の値の可塑剤濃度DensEを使用する。
【0059】
(ステップE10)
図3で説明した特性線
図II、すなわちホース1の可塑剤濃度と使用期間の関係を示す特性線図に、
図9に示すように、上記で求めた可塑剤濃度DensEをプロットして現在までの使用期間TermFを推定する。
【0060】
(ステップE11)最大使用可能期間Tmax1から現在までの推定使用期間TermFを差し引いた残りの期間を残存使用可能期間Tresとして算出する。
すなわちTres=Tmax1−TermFとする。
【0061】
<劣化判定したい敷設ホースの入手が困難な場合>
(ステップE12)ステップE3において、プラントや設備で現に使用している塩化ビニル系ホース、すなわち敷設ホースが入手不可能な場合は本ステップ以降の処理を実施する。
ここでは、敷設ホースと同ロット、もしくは同時期に作製された新品の塩化ビニル系ホース1を用いて、上述の最大使用可能期間の算出方法に従い、最大使用可能期間を算出するための脆化温度と可塑剤濃度を測定する。但し、新品のホース1は屋内に保管しているものを使用することが望ましい。
あるいは、所定の期間、類似の環境で使用、もしくは保管されていたダミーのホースを用いて、上述の最大使用可能期間の算出方法に従い、最大使用可能期間を算出するための脆化温度と可塑剤濃度を測定する。この場合にも、敷設ホースと同ロット、もしくは同時期に作製されたホースを用いることが望ましい。
【0062】
上述の最大使用可能期間の算出方法に従って、
図3に説明した特性線
図II、すなわち塩化ビニル系ホース1の可塑剤濃度と使用期間の関係を示す特性線図と、
図4で説明した特性線
図III、すなわち塩化ビニル系ホース1の脆化温度と使用期間の関係を示す特性線図を作成する。
【0063】
(ステップE13)上述の最大使用可能期間の測定方法に従って、最大使用可能期間Tmax2と最大使用可能期間Tmax1を求める。両者を比較して、短い方を実際にホース1の劣化判断に用いる最大使用可能期間Tmaxとして採用する。
【0064】
(ステップE14)
図3の特性線
図IIまたは
図4の特性線
図IIIを参照して、敷設ホースの現時点までの推定使用期間TermGを算出する。上記の最大使用可能期間Tmaxから敷設ホースの現時点までの推定使用期間TermGを差し引いた残りの期間を、以後使用可能な期間である余寿命として算出する。すなわちTres=Tmax−TermGとする。
【0065】
以上で説明したように、第1の実施形態による塩化ビニル系ホースの劣化判定方法によれば次のような作用効果を奏することができる。
(1)ホース劣化状態を2つの異なる方法、すなわち脆化温度の測定、および可塑剤濃度の測定で評価し、それぞれに基づいて算出された最大使用可能期間から、最も短い最大使用可能期間を採用し、現在までの使用時間を差し引くことにより残存使用可能期間を算出している。この方法により、劣化によるホースの破損等が起こらないように、従来より確実に破損が起こる前の時点で残存使用期間が終了することを確認することができる。
【0066】
(2)脆化温度の測定は、たとえば上記で説明したJIS規格K7216に規定されているように5℃おきの試験温度で測定している。そのため、僅かな脆化温度の上昇を見逃す可能性がある。また、脆性破壊と延性破壊が混合した破壊が起こった場合には、正確な脆化温度を知ることができない。
【0067】
一方、可塑剤はその種類によって揮発速度や固体内での移動速度が異なるので、可塑剤の種類により塩化ビニル内での濃度の減少速度が異なる。そのため、可塑剤を2種類以上混合している場合には、特定の可塑剤が他の可塑剤よりも早く枯渇する可能性がでてくる。この場合、可塑剤濃度と脆化温度の関係から得られた近似直線が変曲点を持つことになり、これによる誤差が生じる可能性がある。また、可塑剤濃度は、サンプリング箇所によってばらつきが発生する。これは、可塑剤の揮発が表面のみで起こること、固体である塩化ビニル内部の可塑剤は周囲の環境温度により、浸潤等により元の場所からその周辺に移動できることなどが理由として挙げられる。
【0068】
第1の実施形態では、脆化温度と使用期間の関係から最大使用可能期間Tmax2を算出する方法と、可塑剤濃度と使用期間の関係から最大使用可能期間Tmax1を算出する方法の2つの方法を実施する。さらに、最大使用可能期間Tmax2と最大使用可能期間Tmax1を比較して、短い方を実際に塩化ビニル系ホース1の劣化判断に使用する最大使用可能期間Tmaxとして採用する。これにより、塩化ビニル系ホース1の使用期間を劣化によるホースの破損が生じる前の時点、すなわち最大使用可能期間Tmaxより所定の期間だけ前の時点に設定することができる。これにより、ホースの劣化による破損を未然に防ぐことができ、漏えいなどの不測の事態を回避することができる。
【0069】
なお、上記で説明した本発明による塩化ビニル系ホースの劣化判定方法では、たとえば以下のような可塑剤を含むホースについて、その最大使用可能期間Tmaxを算出できるように構成されている。
・ジ−2−エチルヘキシルフタレート
・シブチルフタレート
・ジイソデシルフタレート
・ジイソノニルフタレート
・フタル酸ジウンデシル
・ジトリデシルフタレート
・ジ-2-エチルヘキシルアジペート
・ジイソデシルアジペート
・ジイソノニルアジペート
・ジ-2-エチルヘキシルアゼレート
・ジ-2-エチルヘキシルセバケート
・トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート
・トリイソデシルトリメリテート
・トリクレジルホスフェート
・トリキシリルホスフェート
・トリブチルホスフェート
【0070】
(第2の実施形態)
第1の実施形態で説明した塩化ビニル系ホースの劣化判定方法を実施する装置を
図10を参照して説明する。
【0071】
(劣化判定装置構成概要)
劣化判定装置10は、CPUやROM、RAMなどの周辺装置からなる演算装置60と、演算装置60に種々のデータを入力する外部入力装置14と、塩化ビニル系ホースが敷設されている環境温度を測定し演算装置60に入力する温度センサ11と、演算装置60で演算した各種情報や警告を表示する表示装置12と、演算装置60で検出した警告を音声等で外部に報知する警告装置13とを備えている。
【0072】
演算装置60は、塩化ビニル系ホースの劣化を判断するためのデータを格納する記憶部24と、記憶部24に記憶した塩化ビニル系ホースのデータに基づいて、塩化ビニル系ホースの劣化を予測する劣化予測部22と、劣化予測部22での判定あるいは予測の結果に基づいて外部の警告装置13に警告信号を送信する警告部23と、データ入出力部25とを備える。
【0073】
(記憶部24に格納されるデータについて)
記憶部24に格納される種々のデータとしては、たとえば前述の可塑剤濃度−脆化温度の相関を表す特性線
図Iのデータ(
図2)が、異なる構成および異なる製造時期の塩化ビニル系ホースに対しそれぞれ用意されて、ホースデータ部41に格納される。塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度の経時変化の特性線
図IIを表すデータ(
図3)、および脆化温度の経時変化の特性線
図IIIを表すデータ(
図4)も同様に異なる構成および異なる製造時期の塩化ビニル系ホースに対しそれぞれ用意されて、使用期間データ部42に格納される。
【0074】
記憶部24には、塩化ビニル系ホースの劣化状態について警告を行うための劣化状態の閾値、すなわち、残存使用可能期間の閾値も格納されている。
【0075】
なお、上述したように、記憶部24には、使用中のホースの試験片による測定、あるいは同時期に製造されたホースの試験片による測定によって得られたデータが各ホース毎に格納されている。また、これらのデータは適宜試験片の測定を行って更新・追加されたものが、外部入力装置14から入力されて使用期間データ部42に格納される。
【0076】
ホースリスト部43には、本発明による劣化判定装置が適用されるプラントや設備に使用されている複数の塩化ビニル系ホースのリストが格納される。このリストには、各ホースの番号、、ホース種別、使用開始時期も含まれており、これらの情報は劣化状態の予測に使用される。
【0077】
各ホースの現在までの使用期間は、各ホースの使用開始時期から算出できる。あるいは、この使用開始時期が明確でない場合は、上記で説明したように、ホースの試験片による測定によって得られた使用期間をホースの現在までの使用期間として用いてもよい。
【0078】
なお、上記で説明した記憶部24の構成は1つの例であり、上記説明した内容の種々のデータの格納形態は様々な形態が可能である。したがって、
図10で示した記憶部24の構成に限定するものではない。
【0079】
(劣化予測部22の構成と動作について)
劣化予測部22は、可塑剤濃度と脆化温度との相関を示す線
図I(
図2)、可塑剤濃度の経時変化特性(
図3の線
図II)、および、脆化温度の経時変化特性(
図4の線
図III)に基づいて、最大使用可能期間を上記で説明したように算出する最大使用可能期間算出部32と、算出された最大使用可能期間と記憶部24に格納されている塩化ビニル系ホースの使用開始時期とから残存使用可能期間を算出する残存使用可能期間算出部33とを備える。さらに、劣化予測部22は、算出された残存使用可能期間を、記憶部24の警告データ部44に格納されている所定の閾値と比較し、残存使用可能期間がこの所定の閾値より小さいかどうか判定する判定部31を備える。判定部31はこのような判定を全ての塩化ビニル系ホースに対して行う。最大使用可能期間と残存使用可能期間は環境や使用条件により異なったり、ホースの劣化速度が変化することも考えられるので、最大使用可能期間と残存使用可能期間はこれらが算出されるたびに記憶部24のホースリスト部43の各ホースのデータに追加される。
【0080】
残存使用可能期間が所定の閾値より小さい、すなわち、所定の塩化ビニル系ホースの状態を表す可塑剤濃度または脆化温度より劣化したと判定された塩化ビニル系ホースがある場合、劣化予測部22の判定部31は、警告部23に、たとえばこれらの所定の劣化状態となった塩化ビニル系ホースの番号を警告部23に出力する。
【0081】
なお、上記の警告データ部44に格納されている残存使用可能期間の所定の閾値には複数の閾値を設けてもよい。たとえば、残存使用可能期間が6ヶ月(第1の閾値)の場合は警告レベルを1に設定する。さらに残存使用可能期間が1ヶ月(第2の閾値)であれば警告レベルを2に設定する。この警告レベルは、判定部31で設定されて、算出された残存使用可能期間とともに警告部23に出力される。また、記憶部24のホースリスト部の各ホースのデータに追加される。
【0082】
警告部23は、劣化予測部から劣化状態と判定された塩化ビニル系ホースの番号が入力された場合、記憶部24からこの番号のホースの残存使用可能期間を読み出し、外部のディスプレイ等の表示装置12に表示する。この際、たとえば警告レベルが1であればディスプレイ等に視認し易いように表示する。さらに警告レベルが2であれば、警告灯13を点灯するようにしてもよい。なお、上記で説明した閾値は2つに限らず、3つ以上設けて、それぞれに緊急度に対応して異なる警告を行うようにしてもよい。
【0083】
なお、必要により、全ての塩化ビニル系ホースの劣化状態を記憶部24から読み出して表示することも可能である。この表示は表示装置12で行ってもよいし、データ入出力部25を介して、外部の不図示のコンピュータあるいはプラントの制御装置等に出力し、これらの表示装置で行ってもよい。
【0084】
外部入力装置14はネットワークに接続された外部データ装置や他のコンピュータ装置であってよく、またキーボードのような入力装置であってもよい。
【0085】
プラント等に使用されている塩化ビニル系ホースは多数あるので、順次これらの塩化ビニル系ホースの試料を入手して可塑剤濃度や脆化温度を測定して、
図2〜
図4のデータ更新が行われ、データが更新された塩化ビニル系ホースと同じ構成および同時期に製造された塩化ビニル系ホースが用いられている、使用中の塩化ビニル系ホースに対し、上記で説明したように最大使用可能期間と残存使用可能期間が算出される。
【0086】
以上説明した第2実施形態の塩化ビニル系ホースの劣化判定装置によれば、塩化ビニル系ホースが劣化して破損する状態となる前に確実に警告が発生される。したがって、劣化判定された塩化ビニル系ホースを交換することにより、劣化によるホースの破損を未然に防ぐことができる。
【0087】
(変形例1)
上記で説明から分かるように、本発明の第2の実施形態では、プラント等で使用されている全ての塩化ビニル系ホースの劣化状態を予測あるいは判定することができる。この機能を利用して、塩化ビニル系ホースの交換作業のスケジュ−リングを行うことが可能である。
【0088】
たとえば、ホースリスト部43に格納されている使用中の塩化ビニル系ホースのデータを表示装置12に
図11のように表示する。
上記で例として説明した警告レベル1あるいは2が表示される時期も、前述の残存使用可能期間の算出方法を用いて予測することができるので、これも合わせて表示する。この場合は、警告レベル1あるいは2に対応して、異なる可塑剤の下限濃度や、異なる脆性温度を設定しておき、これらに基づいて、前述のように最大使用可能期間と残存使用可能期間を算出すればよい。
【0089】
このように、表示された各塩化ビニル系ホースの劣化予測を参照して、ホースの交換作業日(▼で示す)を設定することが可能である。このようにして設定された各ホースの交換作業日も、ホースリスト部43に各々のホースに対し格納することができる。
【0090】
(変形例2)
(温度センサの利用方法1;塩化ビニル温度低下の考慮)
たとえば冬期には外気温が低下し、建屋外部に露出している塩化ビニル系ホースの温度が低下し、上記で算出された脆化温度に近づくことも考えられる。
【0091】
このような場合、温度センサ11を塩化ビニル系ホース自体や周囲環境に設置しておき、塩化ビニル系ホースあるいは周囲の温度と脆化温度との差が所定の閾値より小さくなった場合に劣化予測部により塩化ビニル系ホースが劣化していると判定してもよい。
あるいは、天気予報等のデータを外部入力装置から取り込んで、予想される外気温から塩化ビニル系ホースの劣化判定を行うことも可能である。
このような温度を考慮した劣化判定においても、判定に用いる温度差の閾値に2種類以上準備してそれぞれ異なる警告を行うようにしてもよい。日中の温度変化の大きさは季節により異なるが、上記で説明した残存使用可能期間がある程度まで少なくなった場合、冬期はこのような温度を考慮した劣化判定を頻繁に行うことが望ましい。
【0092】
(変形例3)
(温度センサの利用方法2;可塑剤濃度低下の考慮)
たとえば夏季には外気温が上昇して、建屋外部に露出している塩化ビニル系ホースの温度が上昇する。またホースの使用状態により、高温の流体が流れる場合にもホースの温度は上昇する。このような場合、可塑剤のホースからの放出が加速され、
図3で説明した可塑剤下限濃度に早く到達するようになることも考えられる。
【0093】
このような場合、詳細な説明は省略するが、温度に依存した可塑剤含有量の変化特性を別に記憶部に格納しておき、温度による可塑剤含有量の変化を積算して、塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度と上記で説明した可塑剤の下限濃度との差が所定の閾値より小さくなった場合に劣化予測部が塩化ビニル系ホースが劣化していると判定してもよい。このような温度を考慮した劣化判定においても、判定に用いる温度差の閾値に2種類以上準備してそれぞれ異なる警告を行うようにしてもよい。
【0094】
(変形例4)
(その他の利用方法;紫外線による劣化)
塩化ビニル系ホースは、紫外線の照射により劣化し、脆化温度が上昇する。詳細な説明は省略するが、建屋外部で露出されている塩化ビニル系ホースへの紫外線照射量のデータを劣化判定装置10に外部から入力し、上記で説明した脆化温度を補正することも可能である。このような紫外線照射による劣化は紫外線の照射積算量に依存するので、脆化温度と紫外線線量の関係のデータを事前に記憶部に格納しておき、照射線量は外部から気象データ等を入手して積算することで、紫外線照射による劣化を評価することができる。
図2で説明した環境最低温度との差が所定の閾値より小さくなった場合に、劣化予測部22が劣化したと判定する。この場合も、変形例3と同様に、複数の閾値を設けて、それぞれに異なる警告を行うようにしてもよい。
【0095】
本発明はまた以下のように変形して実施することができる。
(1)可塑剤濃度と脆化温度の相関を示す
図2の特性線
図Iと、可塑剤濃度の経時変化特性を示す
図3の特性線
図IIとを用い、可塑剤濃度のみによって余寿命を算出してもよい。
(2)このような変形例の劣化判定装置は、塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度の経時変化特性(
図3の線
図II)、および判定対象の塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度DensE(
図9)を記憶する記憶部24(
図7)と、可塑剤濃度DensE(
図9)により経時変化特性を参照して、得られた使用期間を判定対象の塩化ビニル系ホースの第1の使用期間TermF(
図9)として算出する第1使用期間算出部22(
図7)とを備え、この第1の使用期間により劣化を判定する。
【0096】
(3)上記変形例の劣化判定装置は、さらに、記憶部24には、塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度と脆化温度の相関を示す特性線図(
図2の線
図I)が記憶される。そして、判定対象の塩化ビニル系ホースが使用される環境下での最低温度に等しい脆化温度により前記特性線図を参照し、その脆化温度に対応する可塑剤濃度を下限濃度として算出する下限濃度算出部22(
図2、
図7参照)と、下限濃度により可塑剤濃度の経時変化特性(
図3の線
図II)を参照し、得られた使用期間を塩化ビニル系ホースの第1の最大使用可能期間Tmax1として算出する第1最大使用期間算出部32(
図7)と、第1の最大使用可能期間Tmax1と第1の使用期間TermF(
図9)との差を残存使用可能期間Tresとして算出する余寿命算出部33(
図7)とをさらに備える。
【0097】
(4)変形例の劣化判定方法は、任意の期間使用されている塩化ビニル系ホースの劣化判定を行う方法において、塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度の経時変化特性を算出し、判定対象の塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度を検出し、検出した可塑剤濃度により経時変化特性を参照して、得られた使用期間を判定対象の塩化ビニル系ホースの第1の使用期間として算出し、第1の使用期間により劣化を判定する。
(5)上記変形例の劣化判定方法は、さらに、塩化ビニル系ホースの可塑剤濃度と脆化温度の相関を示す特性線図を算出し、判定対象の塩化ビニル系ホースが使用される環境下での最低温度に等しい脆化温度により特性線図を参照し、その脆化温度に対応する可塑剤濃度を下限濃度として算出し、下限濃度により可塑剤濃度の経時変化特性を参照し、得られた使用期間を塩化ビニル系ホースの第1の最大使用可能期間として算出し、第1の最大使用可能期間と第1の使用期間との差を残存使用可能期間として算出する。
【0098】
この変形例の作用効果は次のとおりである。
脆化温度の測定は、たとえば上記で説明したJIS規格K7216に規定されているように5℃おきの試験温度で測定しているため、僅かな脆化温度の上昇を見逃す可能性があり、残存使用可能期間の算出精度が低下するおそれがある。この点、可塑剤濃度は連続した値として測定できるので、残存使用可能期間を精度良く算出することができる。
【0099】
なお、本発明は上記の実施形態および変形例に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態や変形実施例で説明した、本発明による塩化ビニル系ホースの劣化判定方法あるいは劣化判定装置を様々な機器や装置に組み合わせて、より安全性の高い機器および装置とすることができる。