特許第5926801号(P5926801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5926801プラスマローゲンの加水分解方法、プラスマローゲンの測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926801
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】プラスマローゲンの加水分解方法、プラスマローゲンの測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20160516BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20160516BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20160516BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160516BHJP
【FI】
   C12P7/64
   C12Q1/34
   C12N9/16 DZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2014-525575(P2014-525575)
(86)(22)【出願日】2012年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2012068073
(87)【国際公開番号】WO2014013538
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】酒瀬川 信一
(72)【発明者】
【氏名】松本 英之
(72)【発明者】
【氏名】杉森 大助
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−516271(JP,A)
【文献】 特表2008−506381(JP,A)
【文献】 杉森大助ほか,Streptomyces albidoflavus由来ホスホリパーゼA1の精製と特性解明、遺伝子クローニング,第63回日本生物工学会大会講演要旨集,2011年 8月25日,p.132
【文献】 secreted hydrolase [Streptomyces albus J1074],GenBank AccessionNo.EFE80399,2010年 3月23日,[retrieved on 2012.08.06]Retrieved from theInternet<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/EFE80399>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/64
C12N 9/16
C12Q 1/34
C12N 15/09
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(a)から(c)までの特性を有し、さらに下記(h)から(j)までのいずれかの特性を有するホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解することを特徴とするプラスマローゲンの加水分解方法。
(a)エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する比活性が0.66±0.2U/mgである。
(b)SDS−PAGE法による分子量が25〜30kDaの範囲である。
(c)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
(h)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
(j)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
【請求項2】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(d)及び(e)の特性を有することを特徴とする請求項1に記載のプラスマローゲンの加水分解方法。
(d)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、18:1)に対する相対活性が、ジパルミトイルホスホコリンに対して、19±5%である。
(e)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する相対活性が、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリンに対して、29±13%である。
【請求項3】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(f)の特性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスマローゲンの加水分解方法。
(f)Streptomyces albidoflavus由来である。
【請求項4】
少なくとも下記(a)から(c)までの特性を有し、さらに下記(k)から(m)までのいずれかの特性を有するホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解することを特徴とするプラスマローゲンの加水分解方法。
(a)エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する比活性が0.66±0.2U/mgである。
(b)SDS−PAGE法による分子量が25〜30kDaの範囲である。
(c)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
(k)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。
(l)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
(m)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
【請求項5】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(g)の特性を有することを特徴とする請求項に記載のプラスマローゲンの加水分解方法。
(g)Streptomyces avermitilis由来である。
【請求項6】
前記プラスマローゲンがエタノールアミン型プラスマローゲンであり、前記リゾプラスマローゲンがエタノールアミン型リゾプラスマローゲンであることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のプラスマローゲンの加水分解方法。
【請求項7】
前記プラスマローゲンが試料中のプラスマローゲンであることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のプラスマローゲンの加水分解方法。
【請求項8】
少なくとも下記(a)から(c)までの特性を有し、さらに下記(h)から(j)までのいずれかの特性を有するホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンを測定することを特徴とするプラスマローゲンの測定方法。
(a)エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する比活性が0.66±0.2U/mgである。
(b)SDS−PAGE法による分子量が25〜30kDaの範囲である。
(c)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
(h)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
(j)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
【請求項9】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(d)及び(e)の特性を有することを特徴とする請求項に記載のプラスマローゲンの測定方法。
(d)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、18:1)に対する相対活性が、ジパルミトイルホスホコリンに対して、19±5%である。
(e)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する相対活性が、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリンに対して、29±13%である。
【請求項10】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(f)の特性を有することを特徴とする請求項8又は9に記載のプラスマローゲンの測定方法。
(f)Streptomyces albidoflavus由来である。
【請求項11】
少なくとも下記(a)から(c)までの特性を有し、さらに下記(k)から(m)までのいずれかの特性を有するホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンを測定することを特徴とするプラスマローゲンの測定方法。
(a)エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する比活性が0.66±0.2U/mgである。
(b)SDS−PAGE法による分子量が25〜30kDaの範囲である。
(c)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
(k)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。
(l)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
(m)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有する。
【請求項12】
前記ホスホリパーゼが、さらに下記(g)の特性を有することを特徴とする請求項11に記載のプラスマローゲンの測定方法。
(g)Streptomyces avermitilis由来である。
【請求項13】
前記プラスマローゲンがエタノールアミン型プラスマローゲンであり、前記リゾプラスマローゲンがエタノールアミン型リゾプラスマローゲンであることを特徴とする請求項から12までのいずれか一項に記載のプラスマローゲンの測定方法。
【請求項14】
前記プラスマローゲンが試料中のプラスマローゲンであることを特徴とする請求項から13までのいずれか一項に記載のプラスマローゲンの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な作用を有するホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する方法、また上記のホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンを測定する方法、また上記のホスホリパーゼを含有する加水分解用又は測定用の組成物、また上記のホスホリパーゼを製造する方法に関する。本発明が利用可能な技術分野は、例えばプラスマローゲン及び/又はリゾプラスマローゲンが関連する疾病等の診断技術、プラスマローゲン及び/又はリゾプラスマローゲンを含有する食料・食品の生産技術などである。
【背景技術】
【0002】
公知のホスホリパーゼA2(EC 3.1.1.4)は、カルシウムイオンの存在下、リン脂質のsn−2位を加水分解してリゾリン脂質とする作用を示す分子量14〜18.5kDaの酵素である(非特許文献1)。
【0003】
プラスマローゲンはリン脂質の1つであるので、プラスマローゲンのsn−2位を加水分解してリゾプラスマローゲンとする作用を有する酵素は、ホスホリパーゼA2であると考えられてきた(非特許文献2)。
【0004】
リン脂質のsn−2位を加水分解してリゾリン脂質とする作用を有するその他の公知の酵素としてホスホリパーゼA1(EC 3.1.1.32)がある。ホスホリパーゼA1はリン脂質のsn−1位を加水分解してリゾリン脂質とする作用が主であるが、sn−2位を加水分解してリゾリン脂質とする作用も有する(非特許文献1)。微生物由来のホスホリパーゼA1として、作用にカルシウムイオンが必要であるホスホリパーゼA1(非特許文献3)と、作用がカルシウムイオンで活性化されるホスホリパーゼA1(非特許文献4)とが公知である。微生物由来のホスホリパーゼA1のSDS−PAGE法による分子量は35kDaであると報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】酵素ハンドブック(朝倉書店、1984年)
【非特許文献2】Progress in Lipid Research 40巻、2001年、199−229頁
【非特許文献3】Biochemistry 10巻、1971年、4447−4456頁
【非特許文献4】Enzyme Microb.Technol.42巻、2008年、 187−194頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、ホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する方法、ホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンを測定する方法、ホスホリパーゼを含有する組成物、ホスホリパーゼを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非特許文献2の情報に従い、ホスホリパーゼA2の作用によりプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンへ加水分解することを試みた。ところが、ホスホリパーゼA2は、カルシウムイオンの存在下でも、効率よくプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンへ加水分解する作用を有しない場合があるという、従来の常識とは異なる知見を本発明者らは見出した。
【0008】
次に本発明者らは、日本農芸化学会2011年度大会(講演番号:2C10a05)において、ホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2の作用を併せもつと報告され、かつSDS−PAGE法による分子量が約40kDaであるStreptomyces sp.NA684由来ホスホリパーゼ(本明細書ではPLBという場合がある)の作用によるプラスマローゲンのリゾプラスマローゲンへの加水分解を試みた。
【0009】
ところが、PLBは、カルシウムイオンの存在下でも、効率よくプラスマローゲンを脂肪酸とリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有しない場合があることを見出した。
【0010】
そこで、本発明者らは、ホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2の作用を併せもつが、ホスホリパーゼA1の作用の方がホスホリパーゼA2の作用より強いホスホリパーゼの作用によるプラスマローゲンのリゾプラスマローゲンへの加水分解を試みた。その結果、このホスホリパーゼは効率よくプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する作用を有するという、従来の常識からは予見不可能であった知見を本発明者らは見出した。さらにこのホスホリパーゼが、
(i)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、18:1)に対する相対活性が、ジパルミトイルホスホコリンに対して、19±5%であり、
(ii)カルシウムイオン非存在下、エタノールアミン型プラスマローゲン(C18、20:4)に対する相対活性が、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリンに対して、29±13%であり、
(iii)SDS−PAGE法による分子量が約25〜30kDaの範囲である、
という点で公知のホスホリパーゼA1及びホスホリパーゼA2とは明確に異なることを見出した。
【0011】
このようにして本発明者らは、上記のホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する新規な方法と、上記のホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンを測定する新規な方法とを見出し、さらに上記のホスホリパーゼを含有する組成物と上記のホスホリパーゼを製造する方法とを創出して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、効率よくプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】新規なホスホリパーゼ(PL(A))のプラスマローゲン(Pls)をリゾプラスマローゲン(lyPls)に加水分解する作用と、公知のlysoplasmalogenaseを使用する、エタノールアミン型プラスマローゲン(PlsEtn)を測定する方法を示す簡略図である。
図2】PL(A)のPlsをlyPlsに加水分解する作用と、Lysophospholipase Dを使用するPlsEtnを測定する方法を示す簡略図である。
図3】各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、及びLIPOMOD 699L)の活性測定方法を示す簡略図である。
図4】ホスファチジルコリンのsn−1位とsn−2位に対するPL(A)の反応速度の比較を示すグラフである。
図5】各ホスホリパーゼのSDS−PAGEの結果を示す電気泳動写真である。
図6】薄層クロマトグラフィー(TLC)による、各ホスホリパーゼのブタ脳から抽出したPlsEtnに対する作用の比較を示す写真である。ただし、カルシウムイオンの存在下である。
図7】TLCによる、各ホスホリパーゼのPlsEtn(化1)に対する作用の比較を示す写真である。ただし、カルシウムイオンの存在下である。
図8】TLCによる、各ホスホリパーゼのブタ脳から抽出したPlsEtnに対する作用の比較を示す写真である。ただし、カルシウムイオンの非存在下である。
図9】TLCによる、各ホスホリパーゼのPlsEtn(化1)に対する作用の比較を示す写真である。ただし、カルシウムイオンの非存在下である。
図10】TLCにより、PL(A)酵素量とPlsEtn(化1)への作用の関係を比較した結果を示す写真である。
図11】TLCにより、pHとPL(A)のPlsEtnへの作用の関係を比較した結果を示す写真である。
図12】PL(A)のPlsをlyPlsに加水分解する作用と公知のlysoplasmalogenaseを使用した、PlsEtn(化4)の検量線である。
図13】TLCによる、Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)が、PlsEtn(化4)に作用することを示す写真である。ただし、カルシウムイオンの非存在下である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0015】
本発明は、ホスホリパーゼを用いてプラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する方法、ホスホリパーゼを用いて試料中の未知濃度のプラスマローゲンの含有量を測定する方法、ホスホリパーゼを含有する組成物、ホスホリパーゼを製造する方法である。
【0016】
本発明のプラスマローゲン(plasmalogen、Plsと略す場合がある)は、公知のPlsを含む。本発明の好ましいPlsは、グリセロリン脂質のうち、sn−1(C1)位に脂肪酸がビニルエーテル結合したアルケニルアシル型グリセロリン脂質(アルケニルアシル型エーテルリン脂質)であり、以下の(化1)で表される。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、低級若しくは高級アルキル基又はアルケニル基であり、Xは、水素、コリン、エタノールアミン、セリン、イノシトール、エタノール又はこれらの誘導体である)
本発明においては特に上記式中、Xがコリン又はエタノールアミンであるPlsが好ましい。本明細書中において、上記式中、Xがコリンの場合をコリン型プラスマローゲン(PlsChoと略す場合がある)といい、Xがエタノールアミンの場合をエタノールアミン型プラスマローゲン(PlsEtnと略す場合がある)という。本明細書中において単にPlsと記載した場合は、少なくともPlsChoとPlsEtnを含み、本発明においてはPlsEtnが好ましい。
【0019】
本発明のリゾプラスマローゲン(lysoplasmalogen、lyPlsと略す場合がある)は、公知のlyPlsを含む。本発明において好ましいlyPlsは、グリセロリン脂質のうち、sn−1位に脂肪酸がビニルエーテル結合したアルケニルアシル型グリセロリン脂質(アルケニルアシル型エーテルリン脂質)であり、以下の(化2)で表される。
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、Rは、低級若しくは高級アルキル基又はアルケニル基であり、Xは、水素、コリン、エタノールアミン、セリン、イノシトール、エタノール又はこれらの誘導体である)
本発明においては特に上記式中、Xがコリン又はエタノールアミンであるlyPlsが好ましい。本明細書中において、上記式中、Xがコリンの場合をコリン型リゾプラスマローゲン(lyPlsChoと略す場合がある)といい、Xがエタノールアミンの場合をエタノールアミン型リゾプラスマローゲン(lyPlsEtnと略す場合がある)という。本明細書中において単にlyPlsと記載した場合は、少なくともlyPlsChoとlyPlsEtnを含み、本発明においてはlyPlsEtnが好ましい。
【0022】
本発明においてPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法に用いるホスホリパーゼ(phospholipase)は、以下に示す特性や性質のいずれかを有するものであることが好ましい。すなわち、ホスホリパーゼは、リン脂質を脂肪酸とその他の親油性物質に加水分解する作用(性質)、具体的にはリン脂質のsn−1位のアシル基を加水分解する作用(ホスホリパーゼA1(Phospholipase A1))、リン脂質のsn−2位のアシル基を加水分解する作用(ホスホリパーゼA2(Phospholipase A2))、リン脂質のsn−1位及びsn−2位のアシル基を加水分解する作用、リゾリン脂質のsn−1位又はsn−2位のアシル基を加水分解する作用(ホスホリパーゼB(Phospholipase B))の作用のうちのいずれか1つ以上の作用を有するものであることが好ましく、その他の特性や性質の有無は特に限定されない。また本願明細書に記載の特性や性質のうち、任意の1つ又は2つ以上を備えていればさらに好ましい。さらに好ましくは、後述する特性(a)から(c)までを、特に好ましくは(a)から(e)までを、さらに好ましくは(a)から(m)までを有することであり、そのようなホスホリパーゼを、本明細書ではPL(A)という場合がある。
【0023】
なお、本発明において実験方法は、例えば「蛋白質・酵素の基礎実験法、改訂第2版、堀尾武一、1994年南光堂」、「バイオ実験で失敗しない!検出と定量のコツ、編集森山達哉、羊土社、2005年」、「バイオ実験イラストレイテッド〈5〉タンパクなんてこわくない、西山敬人、秀潤社、2003年第1版第5刷」や、市販のキットなどに添付された手順書などに従えば実施できるものであるが、測定値は測定の条件や使用機器の精度などによりその値は変化し得る。
【0024】
(a)PlsEtn(C18、20:4)に対する比活性が0.66±0.2U/mgである。
【0025】
ここで、「PlsEtn(C18、20:4)」とは、sn−1位の脂肪酸の炭素数が18、sn−2位の脂肪酸の炭素数が20で二重結合の数が4であるPlsEtnを意味する。そのようなPlsEtnの一例として、1−(1Z−octadecenyl)−2−arachidonoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamineが挙げられる(化3)。このPlsEtnは、例えばAvanti Polar Lipids、Inc.より、品番852469として購入できる。
【0026】
【化3】
【0027】
ここで、「比活性(U/mg)」は、活性(U/mL)とタンパク濃度(mg/mL)を測定し、以下の(数1)で算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
活性(U/mL)は以下の方法で測定することができる。
【0030】
<第一反応試薬混合液>
80mM トリス−塩酸緩衝液pH8.0
50mM 塩化カルシウム
4mM ATP
4mM CoA
1.06U/mL Acyl−CoA Synthetase
2mM PlsEtn(C18、20:4)
<第二反応試薬混合液>
40mM PIPES−NaOH緩衝液pH7.5
0.06% 4−AA
0.04% フェノール
4.5U/mL peroxidase
30U/mL Acyl−CoA Oxidase
0.2% トリトンX−100
20mM ATP
0.1mM FAD
Acyl−CoA Synthetase(EC 6.2.1.3)及びAcyl−CoA Oxidase(EC 1.3.3.6)は旭化成ファーマ株式会社から入手することができる(品番はそれぞれT−16及びT17)。
【0031】
<反応停止液>
0.5% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む0.1M EDTA溶液pH8.0
<PL(A)溶解希釈用液>
0.05%BSAを含む10mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0
<測定操作法>
(1)小試験管に第一反応試薬混合液0.50mLずつを正確に分注し、37℃で予備加温する。
【0032】
(2)5分経過後、適切な濃度に酵素溶解希釈緩衝液で希釈したPL(A)を50μL正確に加えて混和し、37℃で第一反応を開始する。盲検は酵素試料液の代わりに酵素溶解希釈緩衝液50μLを加える。
【0033】
(3)10分経過後、20mM N−エチルマレイミド(NEM)溶液0.50mLを加えて混和し、15秒後に第二反応試薬混合液0.50mLを加えて混和し、37℃で第二反応を開始する。
【0034】
(4)5分経過後、反応停止液1.50mLを加えて混和し、反応を停止する。
【0035】
(5)500nmにおける吸光度を測定する。求められた吸光度を試料液についてはAs、盲検液についてはAbとする。吸光度範囲はΔA=(As−Ab)≦0.25Absとする。
【0036】
<計算>
以下の(数2)に従い活性を計算する。なお、1ユニット(U)とは、上記の条件下、PL(A)がPlsEtn(C18、20:4)を加水分解する作用をして脂肪酸を1分間に1μmol生成する酵素量とする。
【0037】
【数2】
【0038】
タンパク濃度(mg/mL)は、例えば紫外吸収法、Bradford法、Lowry法、BCA法などで測定すればよいが、手軽であるので紫外吸収法が好ましい。
【0039】
本発明においてPL(A)のPlsEtn(C18、20:4)に対する比活性は、存在すればよいので下限は設けないが、あえて設けるとすると0.1U/mgであり、0.2U/mgでもよく、0.3U/mgでもよく、0.4U/mgでもよいが、0.46U/mgが最も好ましい。本発明においてPL(A)のPlsEtn(C18、20:4)に対する比活性は、高いほど好ましいので上限は設けないが、あえて設けるとすると200U/mgであり、100U/mgでもよく、50U/mgでもよく、10U/mgでもよく、5U/mgでもよく、2U/mgでもよく、1U/mgでもよく、0.86U/mgが最も好ましい。
【0040】
(b)SDS−PAGE法による分子量が約25〜30kDaの範囲である。
【0041】
本発明におけるSDS−PAGE(Poly−Acrylamide Gel Electrophoresis)法による分子量測定とは、ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium dodecyl sulfate(SDS))により変性(SDS−タンパク質複合体を形成させる)したタンパク質(ポリペプチド)に、アクリルアミドを重合させたゲル中で電圧を付加し、その移動度によってそれぞれのポリペプチドが分離できることを利用する分子量の測定方法である。
【0042】
なお、SDS−PAGE法による分子量測定においては、使用する分子量マーカーの種類や数、ポリアクリルアミドゲルのポリアクリルアミド含有率、大きさ、製法など、泳動bufferの種類、pH、濃度、電圧を付加する際の、温度、電流、時間など、ポリペプチドの染色方法、脱色方法など、によって測定値が誤差を含み得る。
【0043】
本発明においてホスホリパーゼのSDS−PAGE法による分子量は約25〜30kDaの範囲であれば限定されないが、下限は約25kDaであり、26kDaであれば好ましく、27kDaであればさらに好ましい。上限は約30kDaであり、29kDaであれば好ましく、28kDaであればさらに好ましい。
【0044】
(c)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
【0045】
(f)Streptomyces albidoflavus由来である。
【0046】
(g)Streptomyces avermitilis由来である。
【0047】
本発明においてホスホリパーゼの由来は、Streptomyces属に属する微生物(放線菌)であればよいが、Streptomyces albidoflavus又はStreptomyces avermitilis由来のホスホリパーゼであれば好ましく、Streptomyces albidoflavus NA297(受託番号:NITE BP−1014)又はStreptomyces avermitilis JCM 5070(=DSM 46492)由来であれば最も好ましい。
【0048】
例えば土壌、湖沼、海、生物の表面や体腔内などから分離した菌株が、Streptomyces属に属する微生物であるかどうかは、例えば「Bergey’s Manual 第2版(2001年)」、「微生物の分類・同定実験法―分子遺伝学・分子生物学的手法を中心に(Springer Lab Manual)シュプリンガー・フェアラーク東京、2001年9月」などに記載の方法、市販の細菌同定検査用製品(例えばBIOMERIEUX社)を使用する方法、「株式会社テクノスルガ・ラボ(静岡県静岡市)」などに委託する方法などにより同定すればよい。
【0049】
さらにそれらの菌株が、Streptomyces albidoflavus又はStreptomyces avermitilisであるかどうかは、「Stackebrandt E.、Ebers J.: Taxonomic parameters revisited: tarnished gold standards, Microbiology today, nov, 152−155頁、2006年」に記載の方法などで判断すればよい。すなわち、DNA−DNAハイブリダイゼーションで70%以上の相同性がある、又は16S rRNAが98.5%以上同一であれば同族同種と判断できる。好ましくはDNA−DNAハイブリダイゼーションで70%以上の相同性があれば同族同種と判断する。
【0050】
(d)カルシウムイオン非存在下、PlsEtn(C18、18:1)に対する相対活性が、ジパルミトイルホスホコリンに対して、19±5%である。
【0051】
ここで「PlsEtn(C18、18:1)」とは、sn−1位の脂肪酸の炭素数が18、sn−2位の脂肪酸の炭素数が18で二重結合の数が1であるPlsEtnを意味する。そのようなPlsEtnの一例として、1−(1Z−octadecenyl)−2−oleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamineが挙げられる(化4)。このPlsEtnは、例えばAvanti Polar Lipids、Inc.より、品番852758として購入できる。
【0052】
【化4】
【0053】
ここで、「ジパルミトイルホスホコリン(DPPC)」とは、sn−1位の脂肪酸の炭素数が16、sn−2位の脂肪酸の炭素数が16であるホスファチジルコリンである。そのようなホスファチジルコリンの一例として、1,2−dipalmitoyl−sn−glycero−3−phosphocholineが挙げられる(化5)。このPlsEtnは、例えばAvanti Polar Lipids、Inc.より、品番850355として購入できる。
【0054】
【化5】
【0055】
ここで、相対活性とは、PlsEtn(C18、18:1)とDPPCに対するPL(A)の反応速度(加水分解速度(作用する速度))の相対値(%)を意味し、以下の(数3)で表される。
【0056】
【数3】
【0057】
本発明におけるPlsEtn(C18、18:1)の、DPPCに対する相対活性(%)は19±5%であるが、9%以上でもよく、11%以上でもよく、12%以上でもよく、13%以上でもよく、14%以上でもよく、15%以上であれば好ましく、16%以上であればさらに好ましい。相対活性は高いほどよいことはいうまでもないので上限は特に設けないが、上限を設けるとすれば100%以下であり、80%以下でもよく、60%以下でもよく、40%以下でもよく、30%以下でもよく、24%以下でもよく、21%以下でも好ましく、19%以下でもよい。
【0058】
(e)カルシウムイオン非存在下、PlsEtn(C18、20:4)に対する相対活性が、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリンに対して、29±13%である。
【0059】
ここで、「1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリン(POPC)」とは、sn−1位の脂肪酸の炭素数が16、sn−2位の脂肪酸の炭素数が18で二重結合の数が1であるホスファチジルコリンである。そのようなホスファチジルコリンの一例として、1−palmitoyl−2−oleoyl−sn−glycero−3−phosphocholineが挙げられる(化6)。このPOPCは、例えばAvanti Polar Lipids、Inc.より、品番850457として購入できる。
【0060】
【化6】
【0061】
ここで、相対活性とは、PlsEtn(C18、20:4)とPOPCに対するPL(A)の反応速度(加水分解速度(作用する速度))の相対値(%)を意味し、以下の(数4)で表される。
【0062】
【数4】
【0063】
本発明におけるPlsEtn(C18、20:4)の、POPCに対する相対活性(%)は29±13%であるが、16%以上であれば好ましく、20%以上であればさらに好ましい。相対活性は高いほどよいことはいうまでもないので上限は特に設けないが、上限を設けるとすれば42%以下であり、35%以下でも好ましく、30%以下でもよい。
【0064】
上述の(d)及び(e)におけるカルシウムイオンの由来は、そのカウンターイオン(対イオン)により限定されないが、例えば塩化物、臭化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩などが挙げられる。
【0065】
本発明における「非存在」とは、カルシウムイオンを意図的に存在させないことを意味する。また、PlsをlyPlsに加水分解する組成物中の、水、pH緩衝剤、Pls、本発明におけるホスホリパーゼや容器などにもカルシウムイオンを意図的に含有させないことを意味する。すなわち、PlsをlyPlsに加水分解する組成物中に、本発明者らの過失無くカルシウムイオンが存在する場合も本発明における「非存在」に含まれる。そのようなPlsをlyPlsに加水分解する組成物中のカルシウムイオンの濃度は、10μM以下であればよく、1μM以下であれば好ましく、0.1μM以下であればさらに好ましく、0μMが最も好ましい。
【0066】
(h)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
【0067】
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0068】
(j)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0069】
(k)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する。
【0070】
(l)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0071】
(m)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が変異、欠損又は付加されたアミノ酸配列を有し、さらに配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を有し、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0072】
すなわち、本発明のPL(A)は、例えば配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列からなり、またその他に配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列と実質的に均等なアミノ酸配列や、触媒作用に関与しない一部のアミノ酸を変異させ、又は各種のアミノ酸残基が付加されたアミノ酸配列からなり、またこのアミノ酸配列は配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有するホスホリパーゼを用いることができる。そのようなアミノ酸配列の好ましい相同性は50%以上であり、60%であれば好ましく、70%以上であればさらに好ましく、80%以上であれば特に好ましく、最も好ましくは90%以上である。
【0073】
本発明のPL(A)のN末端側及び/又はC末端側にチオレドキシン酵素など機能性酵素やその他のアミノ酸配列からなる部分を付加したり、融合酵素としたりすることも好ましく、その付加する部分により精製や確認などをすることのできるタグと呼ばれる部分を融合させ、場合によっては、そのタグ部分を削除しても、場合によってはその全部又は一部が残る場合も例示される。例えば、本発明のPL(A)を菌体外やペリプラズムへ輸送するための約20個のシグナルペプチドや、効率的な精製を行うための4〜10個のHisの付加でもよいし、それらを直列して付加してもよい。また、それらのアミノ酸配列の間などに数個のプロテアーゼ認識アミノ酸配列を配置して付加することもできる。上述の付加の例と同様に、欠失、又は置換を行うことができ、例えば、本発明のPL(A)の本質的な機能とは無関係の数個のアミノ酸からなるドメインが存在する場合や、配列番号1に記載のアミノ酸配列中の複数個のアミノ酸からなるギャップが存在する場合、それらの欠失を組み合わせることもできる。また、欠失、置換若しくは付加を適宜組み合わせることも可能である。その付加アミノ酸残基としてはシグナルペプチド、TEE配列、Sタグ、又はHisタグなどが挙げられる。配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸を欠失する場合は、例えば、N末端側のMet又はC末端側のLysから順に削除する例が挙げられる。配列番号1に記載のアミノ酸配列において、N末端のMetの欠失や、N末端がアシル基やアルキル基などによる修飾を受けるなどの翻訳後修飾されたホスホリパーゼも本発明のPL(A)である。また、本発明のPL(A)を公知の方法で無水コハク酸やPEGなどにより化学修飾して、本発明のPL(A)の至適pHや安定性などの性質を利用しやすいように変化させることも可能である。本発明のPL(A)の好ましいアミノ酸配列は配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列である。
【0074】
配列番号1の場合、本発明のPL(A)の分子量は27199であり、配列番号2の場合、本発明のPL(A)の分子量は27565と推定される。分子量は上述のタグ部分の付加や一部のアミノ酸の欠失などにより変化する。
【0075】
本発明のPL(A)の塩基配列が必要となるのであれば、上述の配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列において1つ又は複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、PL(A)をコードする塩基配列を用いればよい。本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法に用いるホスホリパーゼの好ましい塩基配列は配列番号3又は配列番号4に記載の塩基配列であり、それぞれ配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードしている。
【0076】
配列番号9及び配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号9及び配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする任意の塩基配列を遺伝子暗号表から選択すればよく、好ましい塩基配列は、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は配列番号11又は配列番号12に記載の塩基配列であり、配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は配列番号13又は配列番号14に記載の塩基配列である。
【0077】
本発明のPlsは試料中のPlsであれば好ましい。本発明のPlsの由来は特に限定されないが、試料中のPlsであれば好ましい。試料としては、血漿、血清、尿、研究用試料などを挙げることができ、Plsを含有すると予想される全血、血漿、血清、血球、髄液、リンパ液、尿などを含む生体試料や研究用試料及びそれらの抽出物などを挙げることができ、それらの試料は、Plsを含有すると予想される試料であれば好ましい。その他の試料としては、例えば、ホヤ、オキアミ、貝、などの生物からの抽出物、海水、天然水、果汁、飲料、廃液などが挙げられる。そのような試料中のPlsには、例えば(化3)や(化4)のようなPlsが含まれると予想されるし、その他のPlsも複数種類混合していると考えられる。
【0078】
Plsが試料中に含まれている可能性の有無の判断には、本発明の測定方法を実施する前にPlsが試料中に含まれている可能性の有無が判断できる場合を含み(例えば通常ヒト血中にはPlsは含まれている(Plasmalogens in human serum positively correlate with high− density lipoprotein and decrease with aging.Maebaら、J Atheroscler Thromb.2007年14巻1号12−18頁。))、HPLC(特開2007−33410号公報)やLC−MS(特開2011−136926号公報)などの従来技術により可能性の有無を判断してもよい。
【0079】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法において使用するPL(A)の量は、PlsをlyPlsに加水分解できれば、及び/又はPlsを測定できれば特に限定されず、試料に含まれるPlsの存在量、目的とするPlsを加水分解する程度、使用する装置、PL(A)の純度、及び/又は経済的な事情などに応じて好ましい結果が得られるように決定し得る。さらにpH緩衝剤、金属イオン、界面活性剤を使用する場合、その種類と量についても同様である。
【0080】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法において使用するPL(A)の量は、例えば、試料に含まれるPlsの存在量が2μmol以下で、その全てを37℃、10分間で加水分解する条件の場合、下限が0.05mU以上、好ましくは0.1mU以上、さらに好ましくは0.5mU以上、ホスホリパーゼ量が多いほど加水分解の効率がよいことは明らかであるので上限は特に設けないが、例えば経済的な理由などで上限を設けるならば10U以下、好ましくは5U以下、さらに好ましくは1U以下である。
【0081】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法は、液体中、気相、又は固相などやそれぞれの臨界面で実施すればよいが、液体中で実施することが好ましい。液体には水溶液、有機溶媒などが考えられ、本発明の測定方法を水溶液中で実施することが好ましいが、適宜の有機溶媒を含有した水性媒体でもよく、そのような場合は適宜のpH緩衝剤を用いることが好ましい。pH緩衝剤を使用する場合、その種類は目的のpHを保つことができ、PlsをlyPlsに加水分解できれば、及び/又はPlsを測定できれば特に限定されないが、グッドのpH緩衝液、Tris/HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、酢酸/NaOH緩衝液、クエン酸/NaOH緩衝液が例示できる。本発明を実施する際のpHは、PlsをlyPlsに加水分解できれば、及び/又はPlsを測定できれば特に限定されないが、下限としてpH4以上、好ましくはpH5以上、さらに好ましくはpH6以上が例示され、上限としてはpH11以下、好ましくはpH10.5以下、さらに好ましくはpH10以下が例示される。pH緩衝剤の濃度は目的のpHを保つことができ、PlsをlyPlsに加水分解できれば、及び/又はPlsを測定できれば特に限定されないが、下限として3mM以上、好ましくは5mM以上、さらに好ましくは10mM以上が例示され、上限としては500mM以下、好ましくは200mM以下、さらに好ましくは100mM以下が例示される。
【0082】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法のその他の好ましい態様として、例えばゾル・ゲル法を用いて酵素(PL(A)等)を固定化したりセンサーを作製したりすることが挙げられる。ゾル・ゲルとするためには、例えば、寒天などの多糖類を利用すればよい。ゾル・ゲルと乳濁液を区別する場合は、乳濁液として実施してもよい。乳濁液とするためには、例えば、有機溶媒などを利用すればよいし、両親媒性物質を利用すればミセルとしても実施できる。いずれの場合も、pH緩衝剤を用いる場合は上記と同様である。
【0083】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法において、反応時間は、試料中のPlsをlyPlsに加水分解できれば、及び/又はPlsを測定できれば特に限定されないが、それぞれ、下限が15秒以上、好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上である。上限は特に設けないが、好ましくは30分以下、さらに好ましくは15分以下、特に好ましくは10分以下である。
【0084】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解する方法及び/又はPlsを測定する方法において、温度は、試料中のPlsをlyPlsに加水分解できる温度、及び/又はPlsを測定できる温度であれば特に限定されないが、使用するホスホリパーゼの作用温度の範囲内が好ましく、下限は10℃以上、好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上、上限は70℃以下、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
【0085】
本発明のPlsを測定する方法は、本明細書に記載の特性や性質を有するPL(A)を用いてPlsをlyPlsに加水分解する方法を含む。すなわち、本発明のPlsを測定する方法は、
<工程1>本明細書に記載の特性や性質を有するホスホリパーゼ(PL(A))を用いてPlsをlyPlsに加水分解する工程、
を含む。
【0086】
本発明のPlsを測定する方法は、さらに<工程1>とは別異のlyPlsを測定するための公知の工程を含んでもよい。そのような工程の例は、
<工程2−1>lysoplasmalogenase(EC 3.3.2.2; EC 3.3.2.5、alkenyl hydrolase、(Biochimica et Biophysica Acta、1437巻、1999年、142〜156頁、The journal of biological chemistry、286巻、24916〜24930頁、2011年)「lyPls ase」と略す場合がある)を用いる方法、
<工程2−2>薄層クロマトグラフィー(TLC)などを用いる方法、
<工程2−3>Lysophospholipase D(Autotaxin,The journal of biological chemistry、277巻、2002年、39436−39442頁)を用いる方法、
<工程2−4>HPLCを使用する方法(特開2007−33410号公報)、
<工程2−5>LC−MS(特開2011−136926号公報)を使用する方法、
などが挙げられる。
【0087】
試料中にPls以外の物質が混在してもそれを消去することなくPlsを正確に測定できるという観点からは<工程2−1>が好ましい。測定に必要な材料が安価で手軽に入手でき、当業者なら容易に実施できるという観点からは<工程2−2>が好ましい。<工程2−3>は<工程2−1>に比較して使用する酵素の種類がひとつ少ないという観点で好ましい。正確に定量できるという観点からは<工程2−4>が好ましい。Plsの分子種(「化1」のR)も特定できるという観点からは<工程2−5>が好ましい。
【0088】
<工程1>と<工程2−1>を含む本発明のPlsを測定する方法のうち、PlsEtnを測定する方法を図1に簡略して示した。ここで使用するlyPls aseは、「Biochimica et Biophysica Acta、1437巻、1999年、142〜156頁」又は「The journal of biological chemistry、286巻、24916〜24930頁、2011年」に記載の方法で製造できるラット由来のlyPls aseを使用する。また、Glycerophosphorylcholine phosphatase(GPCP、EC 3.1.4.2)は旭化成ファーマ株式会社から購入できる(品番T−33)。Ethanolamine oxidaseをBioscience, Biotechnology, and Biochemistry 2008年、72巻、2732−2738頁の方法で製造し、特許第4244168号公報に記載の方法で定量すればよい。なお、PlsChoを測定する場合は、上記のEthanolamine oxidaseの代わりに、Choline Oxidaseを旭化成ファーマ株式会社から購入し(品番T−05)、特開昭58−28283号公報に記載の方法で定量すればよい。
【0089】
はPeroxidase(POD、EC 1.11.1.7)、後述するフェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体などのトリンダー試薬の色原体、4−アミノアンチピリン若しくは3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンなどのカップラーを使用するなど公知の方法で定量できる。Hは蛍光法や電極法でも分析することができる。蛍光法には、酸化によって蛍光を発する化合物、例えばホモバニリン酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、チラミン、パラクレゾール、ジアセチルフルオレスシン誘導体などを、化学発光法には、触媒としてルミノール、ルシゲニン、イソルミノール、ピロガロールなどを用いることができる。
【0090】
を電極で測定する場合、電極にはHとの間で電子を授受することのできる材料である限り特に制限されないが、例えば白金、金、銀などが挙げられ電極測定方法としてはアンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの公知の方法を用いることができ、さらにオキシダーゼ又は基質と電極との間の反応に電子伝達体を介在させ、得られる酸化、還元電流あるいはその電気量を測定してもよい。電子伝達体としては電子伝達機能を有する任意の物質が使用可能であり、例えばフェロセン誘導体、キノン誘導体などの物質が挙げられる。またオキシダーゼ反応により生成するHと電極の間に電子伝達体を介在させて得られる酸化、還元電流又はその電気量を測定してもよい。本発明において分析用試薬には必要に応じて緩衝液、酵素の安定化剤、防腐剤などを適宜使用する。
【0091】
<工程2−1>において使用するlyPls aseの酵素の量は、Biochimica et Biophysica Acta、1437巻、1999年、142〜156頁の記載と同じく、4.2U/mLである。
【0092】
<工程2−1>において使用するlyPls aseは、The journal of biological chemistry、286巻、24916〜24930頁、2011年」に「Tmem86b(発明者註:lyPls aseの遺伝子) has only been identified in vertebrates, including humans, mice, rats, cows, dogs, and zebrafish.」と記載されているので、ヒト、マウス、ラット、牛、犬、セブラフィッシュ由来を使用する。
【0093】
<工程2−2>のTLCは、例えば「バイオ実験で失敗しない!検出と定量のコツ、編集森山達哉、羊土社、2005年」に記載された公知の方法を適宜組み合わせて実施すればよく、検出方法としてはUVランプや呈色による方法が挙げられ、呈色剤としてはアニス−硫酸、リンモリブデン酸、ヨウ素、ニンヒドリン溶液、カメレオン溶液、2,4−Dinitrophenylhydrazine溶液、ブロモクレゾールグリーン溶液、Dragendorff試薬などの公知の試薬を目的、試料、使用する装置などに応じて好ましい結果が得られるように決定し得る。
【0094】
<工程1>と<工程2−3>を含む本発明のPlsを測定する方法のうち、PlsEtnを測定する方法を図2に簡略して示した。ここで使用するLysophospholipase Dは、例えば「The journal of biological chemistry、277巻、39436〜39442頁、2002年」に記載のヒト由来の酵素を使用することができる。Ethanolamine oxidaseとPlsChoを測定する場合については、<工程2−1>の場合と同様である。<工程2−3>において使用するLysophospholipase Dの酵素の量は、<工程2−1>の場合と同様である。
【0095】
<工程1>と<工程2−1>、<工程2−2>又は<工程2−3>はそれぞれ別異の反応槽(相)で実施できるが、同一反応槽(相)で実施することが好ましい。また、<工程1>と<工程2−1>、<工程2−2>又は<工程2−3>は、不連続に実施できるが、連続して実施することが好ましい。また、<工程1>と<工程2−1>、<工程2−2>又は<工程2−3>は、<工程1>の次に<工程1>と<工程2−1>、<工程2−2>又は<工程2−3>を行ってもよく、<工程1>と<工程2−1>、<工程2−2>又は<工程2−3>を同時に行ってもよい。<工程1>と<工程2−4>又は<工程2−5>は通常<工程1>、<工程2−4>又は<工程2−5>の順で行われる。これらの反応槽(相)や実施の順序は、目的、試料、使用する装置などに応じて好ましい結果が得られるように決定し得る。
【0096】
<工程2−1>及び<工程2−3>のpH、反応時間、反応温度などの態様は<工程1>と同様であるが、<工程1>と<工程2−1>又は<工程2−2>のpH、反応時間、反応温度などの態様は必ずしも<工程1>と均一でなくてもよく、本明細書に記載の範囲で<工程1>と不均でもよい。
【0097】
本発明の特性や性質を有するPlsをlyPlsに加水分解するためのPL(A)及び/又はPlsを測定するためのPL(A)は、PlsをlyPlsに加水分解するための組成物及び/又はPlsを測定するための組成物となり得る。
【0098】
本発明の組成物は下記の(I)の成分を含む組成物(ホスホリパーゼ含有組成物)であればよいが、本発明の特性や性質を有する(I)であれば好ましい。また本発明の組成物は(I)、(V)及び(IV)の成分を含む組成物でもよいが、(I)〜(IV)の成分を含む組成物がさらに好ましい。組成物はPlsをlyPlsに加水分解するための組成物、Plsを測定するための組成物、PlsをlyPlsに加水分解してPlsを測定するための組成物のいずれであってもよい。
【0099】
(I)PL(A)
(II)公知のlyPls ase
(III)GPCP
(IV)Ethanolamine oxidase
(V)Lysophospholipase D
これらの組成物は必要に応じて、Peroxidase、Catalase(EC 1.11.1.6)、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体などのトリンダー試薬の色原体、4−アミノアンチピリン(4−AA)若しくは3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンなどのカップラーを含有してもよい。
【0100】
トリンダー型試薬の色原体としては、フェノール誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体などが使用可能であり、具体例としてN,Nジメチルアニリン、N,Nジエチルアニリン、2,4ジクロロフェノール、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3、5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル− 3, 5ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3− スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)(以上同人化学研究所社製)などが挙げられる。また過酸化水素はパーオキシダーゼ存在下ロイコ型試薬を用いて発色することができる。この試薬の具体例としては、o−ジアニシジン、o−トリジン、3,3ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン(以上同人化学研究所社製)、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)(以上和光純薬社製)などが挙げられる。
【0101】
本発明のPlsをlyPlsに加水分解するための組成物及び/又はPlsを測定するための組成物は、カルシウムイオンを含有しなくてもよい。組成物が水溶液の場合、経時的に空気中の二酸化炭素が組成物に溶解する場合がある。この際、組成物にカルシウムイオンが含有すると、カルシウムイオンは炭酸カルシウムとなり析出して組成物が白濁する場合があるが、本発明のPlsをlyPlsに加水分解するための組成物及びPlsを測定するための組成物は、カルシウムイオンを含有しなくてもよいので、このような経時変化が起きにくいという利点がある。
【0102】
さらに本発明の組成物は、上記成分のうち(I)及び(II)、(III)及び(IV)は、(V)と測定直前に合一されて本発明の組成物となることが好ましい。すなわち、測定時には必要な全ての成分を有する本発明の組成物とするにあたり、その測定以前においては、少なくとも(I)、(II)、(III)及び(IV)と、(V)は分離されていることが好ましい。好ましい形態は、3試薬に分けておき、第一試薬は(I)及び(II)を含み、第二試薬は(III)及び(IV)を含み、第三試薬は(V)を含む。これらを測定直前に合一して組成物とする場合、合一する順序は任意であり、ひとつずつ合一してもよく同時に合一してもよい。最も好ましい形態は、2試薬に分けておき、第一試薬は(I)、(II)、(III)及び(IV)を含み、第二試薬は(V)を含む。測定直前まで、第一試薬と第二試薬は別々の試薬としておく。これらを測定直前に合一して組成物とする。
【0103】
本発明の組成物に含まれる(I)〜(V)の成分の有効量、すなわち、組成物がPlsをlyPlsに加水分解するための組成物及び/又はPlsを測定するための組成物となり得るために有効な添加量及びpH緩衝剤の条件などは、上記の本発明の測定方法と同様である。
【0104】
本発明の組成物は適宜pH緩衝剤を含むことも好ましい。さらに少なくとも既知量のPlsを含んでなるキャリブレーション試薬を含むことも好ましい。
【0105】
本発明においてキャリブレーション試薬は、少なくとも既知量のPlsを含む試薬がよいが、好ましくはpH緩衝剤、アジ化ナトリウムや抗生物質などの防腐剤、糖などの安定化剤を含む試薬である。pH緩衝剤を含む場合、種類や濃度などの条件などは本発明の測定方法と同様である。アジ化ナトリウムや抗生物質などを含む場合、種類や濃度は防腐効果があれば限定されないが、例えばアジ化ナトリウムの場合、下限は0.005%以上、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上、上限は1%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。例えば抗生物質の場合、下限は5μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、さらに好ましくは30μg/mL以上、上限は100μg/mL以下、好ましくは75μg/mL以下、さらに好ましくは60μg/mL以下である。安定化剤を含む場合、種類や濃度などの条件などは上記のホスホリパーゼの安定化剤と同様である。キャリブレーション方法は、一点検量の他、多点検量(折れ線やスプライン)や多点検量の直線回帰などが選択できる。
【0106】
既知量は特に限定されず、試料中のPlsを正確に測定するために選択すればよい。また、複数のキャリブレーション試薬を使用する場合のキャリブレーション試薬の既知量も同様である。例えばPlsの場合、下限は0.00μM以上、好ましくは10μM以上、さらに好ましくは50μM以上、上限は500μM以下、好ましくは200μM以下、さらに好ましくは150μM以下である。
【0107】
本発明のPls測定用の組成物及びキャリブレーション試薬は、液状品、液状品の凍結物、液状品の凍結乾燥品、又は液状品の乾燥品(加熱乾燥及び/又は風乾及び/又は減圧乾燥などによる)として提供できる。液状品の凍結物が好ましく、液状品の凍結乾燥品がさらに好ましく、液状品が最も好ましい。別の態様として、液状品の凍結物が好ましい場合もある。さらに別の態様としては、液状品の凍結乾燥が好ましい場合もある。本発明のPlsをlyPlsに加水分解するための組成物及び/又はPlsを測定するための組成物は、一試薬の組成物としてもよいが、通常は上記のように二試薬以上に分離するのが好ましい。また、試薬の品質向上などを目的としてNaClやKClなどの塩、TX−100やTween20などの界面活性剤、及び/又はアジ化ナトリウムや抗生物質など防腐剤を混合してもよい。また、例えば、POC(point of care)のキャピラリーへの使用、又は酵素センサーとしての使用の場合、各成分の濃度は通常よりも濃い濃度が好ましく、例えば、固定化したり、紙や膜に染み込ませたり、ゲル・ゾル状組成物としたりして使用することが好ましい。塩を混合する場合、種類や濃度は限定されないが、通常は5〜200mMの範囲であり、界面活性剤を混合する場合、種類や濃度は限定されないが、通常は0.001%〜2%であり、防腐剤を混合する場合は上記キャリブレーション試薬の場合と同様である。
【0108】
本発明のホスホリパーゼの製造方法は、下記<1>から<3>までのいずれかのホスホリパーゼを製造する方法であって、ホスホリパーゼをコードする塩基配列に基づきホスホリパーゼを形成する工程と、ホスホリパーゼを取得する工程を含むホスホリパーゼの製造方法を含む。
【0109】
<1>配列番号2に記載のアミノ酸配列からなり、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0110】
<2>配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1つ又は複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、アミノ酸配列は配列番号9に記載のアミノ酸配列及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む、PlsをlyPlsに加水分解する作用を有する。
【0111】
<3>下記の(a)〜(d)の特性を有する。
【0112】
(a)カルシウムイオン非存在下、PlsEtn(C18、18:1)に対する相対活性が、ジパルミトイルホスホコリンに対して、19±5%である。
【0113】
(b)カルシウムイオン非存在下、PlsEtn(C18、20:4)に対する相対活性が、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスホコリンに対して、29±13%である。
【0114】
(c)SDS−PAGE法による分子量が約25〜30kDaの範囲である。
【0115】
(d)Streptomyces属に属する放線菌由来である。
【0116】
ここで、PlsをlyPlsに加水分解する作用及び(a)〜(d)の特性については上述と同様である。すなわち、上記ホスホリパーゼの製造方法は、本発明のPL(A)の製造方法である。また、配列番号2、配列番号9及び配列番号10に記載のアミノ酸配列については上述と同様である。配列番号2、配列番号9及び配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と、好ましい塩基配列である配列番号4、配列番号11、配列番号12、配列番号13及び配列番号14に記載の塩基配列についても上述と同様である。
【0117】
このような本発明のPL(A)を製造するに際しては、PL(A)をコードする塩基配列に基づきPL(A)を形成する工程を用いることができる。この工程としては、PL(A)をコードする塩基配列を含む無細胞蛋白質合成系、好ましくはPL(A)をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程、又は天然のPL(A)を形成する微生物などPL(A)をコードする塩基配列を有する微生物を用いる工程、又はPL(A)をコードする塩基配列を導入した形質転換体を用いる工程等がそれぞれ例示される。
【0118】
典型的な本発明のPL(A)の製造方法としては、PL(A)を形成する天然の微生物を用いてPL(A)を形成する例が挙げられるが、本発明のPL(A)を調製できる天然の微生物としては、好ましくはStreptomyces属に属する放線菌、さらに好ましくはStreptomyces avermitilis、最も好ましくはStreptomyces avermitilis JCM 5070(=DSM 46492)が例示できる。これらの微生物の取得、同定及び判断方法については上述の通りである。
【0119】
本発明のPL(A)を形成する天然の微生物は、さらにNTG等の薬剤、紫外線、及び/又は放射線で処理した変異株となすこともできる。変異株によって、本発明のPL(A)の生産性を向上することや、本発明のPL(A)の変異体を形成させることが可能であり、安定性、生産性、反応性等が優れた性質を有する変異体を形成することも可能である。本発明のPL(A)をコードする塩基配列を含む細胞を用いる工程を採用する場合には、上述の塩基配列をベクターに挿入して宿主微生物に導入させて形質転換体を作成し、その形質転換体を用いて蛋白質を形成させる工程が例示される。本発明のPL(A)をコードする塩基配列を導入した形質転換体は、塩基配列が挿入されたベクターである組換体ファージ又は組換体プラスミドを宿主に導入した細胞、又は微生物を含む。本発明のPL(A)をコードする塩基配列は、一部又は全てを合成して使用することができ、好ましくは本発明のPL(A)を、コードする塩基配列を遺伝子供与体から取得して使用する。遺伝子供与体としては、Streptomyces属に属する放線菌、さらに好ましくはStreptomyces avermitilis、最も好ましくはStreptomyces avermitilis JCM 5070(=DSM 46492)が例示できる。
【0120】
本発明のPL(A)をコードする塩基配列を挿入するベクターとしては、宿主微生物体内で自律的に増殖しうるファージ又はプラスミドのうち遺伝子組換用として構築されたものが適しており、ファージベクターとしては、例えば、大腸菌に属する微生物を宿主とする場合にはλgt・λC、λgt・λB等が使用できる。また、プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、Novagen社のpETベクター、又はpBR322、pBR325、pACYC184、pUC系、バチラス・サチリスを宿主とする場合にはpWH1520、pUB110、pKH300PLK、放線菌を宿主とする場合にはpIJ680、pIJ702、酵母、特にサッカロマイセス・セレビジアエを宿主とする場合にはYRp7、pYC1、YEp13等が使用できる。本発明においては大腸菌及び放線菌を宿主とするプラスミドベクターが好ましい。プロモーターは宿主中で発現できるものであれば特に限定されるものではない。
【0121】
このようなベクターを、本発明のPL(A)をコードする塩基配列の切断に使用した制限酵素により生成する塩基配列の末端と、同じ末端を生成する制限酵素により切断してベクター断片を作成し、本発明のPL(A)をコードする塩基配列の断片とベクター断片とを、DNAリガーゼにより常法に従って結合させて本発明のPL(A)をコードする塩基配列を目的のベクターに挿入して、組換体ファージ又は組換体プラスミドとなす。組換体プラスミドを導入する宿主としては、組換体プラスミドが安定かつ自律的に増殖可能な細胞、又は微生物であればよく、大腸菌B株、K株、C株やそれらの溶原菌が利用できる。また、宿主微生物がバチラス属に属する微生物の場合、バチラス・サチリス、バチラス・メガテリウム等、放線菌に属する微生物の場合、ストレプトマイセス・リビダンス TK24等、サッカロマイセス・セルビシエに属する微生物の場合、サッカロマイセス・セルビシエ INVSC1等が使用できる。本発明においては大腸菌又は放線菌を宿主微生物とすることが好ましい。
【0122】
本発明のPL(A)は、PL(A)をコードする塩基配列を導入した形質転換体、又はPL(A)をコードする塩基配列を有する微生物を培養することで形成してもよい。
【0123】
このような微生物から、本発明のPL(A)を得る場合は、例えば「Catalogue of Strains、fifth edition、1993年、Deutsche SammLung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH」や「Catalogue of BACTERIA & BACTERIOPHAGES、18th edition、1992年、American Type Culture Collection」などに記載の方法で、それらの微生物を培養し、それらの培養液や菌体内から例えば「蛋白質・酵素の基礎実験法(改訂第2版、堀尾武一、1994年南光堂参照)」などに記載の方法で精製又は精製することなく得ることができるが、好ましくは精製して得る。すなわち、本発明のPL(A)は、上記のように形成された本発明のPL(A)を取得する工程を含む方法によって製造できるが、簡便には殺菌、非殺菌を問わず菌体を含む細胞等のままであってもよく、培養不純物や細胞破砕物等を軽く除いた不純物が残存したままのPL(A)とすることも好ましい。さらに本発明の蛋白質の粗蛋白質は、目的や用途等場合によっては実質的に不純物を包含しないようにすることも好ましいが、通常は、例えば50%以上、70%以上、95%以上の各種の純度にすることが例示される。純度はSDS−PAGEやHPLC等の公知の方法で確認すればよい。
【0124】
本発明のPL(A)は、PL(A)を形成する天然の微生物や、PL(A)をコードする塩基配列を導入した形質転換体の微生物等を培養し、培養物からPL(A)を取得することによって製造することができる。まず、微生物等を栄養培地で培養して菌体内又は培養液中にPL(A)を形成させ、菌体内に形成される場合には培養終了後、得られた培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を採集する。次いで、この菌体を機械的方法又はリゾチーム等の酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTA、及び/又は適当な界面活性剤等を添加してPL(A)を濃縮するか濃縮することなく、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒による分別沈殿法、硫酸アンモニウム、食塩等による塩析法等を適用して本発明のPL(A)を沈殿させ回収する。この沈殿物を必要に応じて透析、等電点沈殿を行った後、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーや疎水的クロマトグラフィーにより処理して、本発明のPL(A)を得ることができる。また、これらの方法を適宜組み合わせて行うことができる。また、本発明のPL(A)が培養液中に形成される場合には、培養物を濾過又は遠心分離等の手段により菌体を除去し、培養液について、前記菌体内に形成される場合と同様の処理を行えばよい。
【0125】
これらの方法によって得られる本発明のPL(A)は安定化剤として、各種の塩類、糖類、蛋白質、脂質、界面活性剤等を加え、あるいは加えることなく、限外濾過濃縮、凍結乾燥等の方法により、液状又は固形の本発明のPL(A)を得ることができ、また、適宜凍結乾燥を行ってもよく、この場合安定化剤としてサッカロース、マンニトール、食塩、アルブミン等を0.5〜10%程度添加してもよい。
【0126】
配列番号4に記載の塩基配列は、Nat.Biotechnol.21巻,526−531頁、2003年で明らかにされていたが、塩基配列がコードする蛋白質の性質はこれまでに解明されておらず、単にhydrolaseとして予想されていた。すなわち、配列番号4に記載の塩基配列がコードする配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質が、PlsをlyPlsへ加水分解する作用を有することなど(本発明のPL(A)としての性質を有することは従来全く知られていなかった。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例などに基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例などに限定して解釈されない。なお、以下に記述した技術は、例えばマニアティスらの方法(Maniatis,T.,et al.Molecular Cloning.Cold Spring Harbor Laboratory 1982年、1989年)や本明細書に記載の(非)特許文献、市販の各種酵素、又はキット類に添付された手順に従えば実施できるものである。
【0128】
本実施例にて使用したホスホリパーゼA2は次の通りである。
【0129】
PLA2 II L(Lot 1001A、旭化成ファーマ株式会社、Streptomyces avermitilis由来、品番T−194)。PLA2ナガセ(製造番号7907851、ナガセケムテックス株式会社、Streptomyces avermitilis由来)。LIPOMOD 699L(Batch No.90825437、Biocatalyst、豚の膵臓由来、品番L699L)。
【0130】
本実施例にて使用した試薬類は、特に断らない限り、和光純薬工業株式会社製、シグマアルドリッチ社製、タカラバイオ株式会社製などであり、市販で容易に入手できるものを使用した。
【0131】
以下に示した測定値などは測定の条件、使用機器の精度、試薬のメーカーや純度などによりその値は変化し得る。
【0132】
[実施例1:活性測定方法]
各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、及びLIPOMOD 699L)の活性測定方法を図1に簡略して示した。Acyl−CoA Synthetase(EC 6.2.1.3)及びAcyl−CoA Oxidase(EC 1.3.3.6)は旭化成ファーマ株式会社から入手した(品番はそれぞれT−16及びT17)。
【0133】
<第一反応試薬混合液>
80mM トリス−塩酸緩衝液pH8.0
50mM(0mM(*)) 塩化カルシウム
4mM ATP
4mM CoA
1.06U/mL Acyl−CoA Synthetase
2mM ジパルミトイルホスホコリン(DPPC)
(*)他の実施例では0mMの場合もある。
【0134】
<第二反応試薬混合液>
40mM PIPES−NaOH緩衝液pH7.5
0.06% 4−AA
0.04% フェノール
4.5U/mL peroxidase
30U/mL Acyl−CoA Oxidase
0.2% トリトンX−100
20mM ATP
0.1mM FAD
<反応停止液>
0.5% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む0.1M EDTA溶液pH8.0
<酵素溶解希釈用液>
0.05%BSAを含む10mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0
<測定操作法>
(1)小試験管に第一反応試薬混合液0.50mLずつを正確に分注し、37℃で予備加温する。
【0135】
(2)5分経過後、適切な濃度に酵素溶解希釈緩衝液で希釈した酵素試料液(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ又はLIPOMOD 699L)50μLを正確に加えて混和し、37℃で第一反応を開始する。盲検は酵素試料液の代わりに酵素溶解希釈緩衝液50μLを加える。
【0136】
(3)10分経過後、20mM NEM溶液0.50mLを加えて混和し、15秒後に第二反応試薬混合液0.50mLを加えて混和し、37℃で第二反応を開始する。
【0137】
(4)5分経過後、反応停止液1.50mLを加えて混和し、反応を停止する。
【0138】
(5)500nmにおける吸光度を測定する。求められた吸光度を試料液についてはAs、盲検液についてはAbとする。吸光度範囲は△A=(As−Ab)≦0.25Absとする。
【0139】
<計算>
以下の(式5)に従い活性を計算する。なお、1ユニット(U)とは、本実施例の条件下、各ホスホリパーゼが基質(実施例1においてはDPPC)を加水分解する作用をして脂肪酸を1分間に1μmol生成する反応速度とした。
【0140】
【数5】
【0141】
<結果>
図1で示したように、本実施例の活性測定方法は各ホスホリパーゼの作用により生成した脂肪酸を測定する方法である。したがって、本実施例の活性測定方法でPL(A)の活性が測定できたことは、PL(A)は他のPLA2と同様に、DPPCに作用して少なくとも脂肪酸を生成していることを示している。
【0142】
実施例1にて測定した各ホスホリパーゼの活性を表1に示した。
【0143】
【表1】
【0144】
本実施例では表1の各ホスホリパーゼを適宜希釈して用いた。すなわち、各ホスホリパーゼの表示活性は本実施例では採用しなかった。
【0145】
[参考例1:Streptomyces albidoflavus由来PL(A)の調製方法]
[参考例1−1:Streptomyces albidoflavus NA297の染色体DNAの分離]
Streptomycesa albidoflavus NA297をYEME培地(0.3%酵母エキス、0.5%ペプトン、0.3%麦芽エキス、1%グルコース、34%シュークロース、5mM MgCl、0.5%グリシン)50mLを用いて28℃で4日間培養し集菌した。次いで、この菌体を75mM NaCl、25mM EDTA、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)及び1mg/mlリゾチームからなる溶液5mLに懸濁し、37℃で一晩処理した。これに10%(w/v) SDSを750μL、proteinase Kを5mg添加し55℃で2時間処理した。この溶液にクロロホルム7.5mLを加えて攪拌し、遠心分離により水相5mLを分取した。この水相に3mLのイソプロパノールを添加混合してDNA画分を回収し、10mM 卜リス−塩酸緩衝液(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液500μLに溶解した。これにRNaseAを20μg/mLとなるように加え、37℃で1時間処理した後、0.8MのNaClを含む13%PEG溶液を500μL加え攪拌し、遠心分離により、水相を500μL分取した。これにフェノール/クロロホルム混合液500μLを加えて攪拌し、遠心分離により、水相を500μL分取した。この水相に3M 酢酸ナトリウム(pH5.2) 50μL及びエタノール1mLを添加混合しDNAを回収した。このDNAを70%(v/v)エタノールに10分間浸漬した後、10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)及び1mM EDTAからなる溶液200μLに溶解し、鋳型染色体DNAとした。
【0146】
[参考例1−2:Streptomyces albidoflavus NA297PL(A)遺伝子を含む組換えプラスミドの作製]
PCR用のオリゴとして、センスプライマー「primer S」(配列番号5)及びアンチセンスプライマーとして「primer AS」(配列番号6)を合成した。参考例1−1で得た鋳型染色体DNA 50ng、10×PCR Buffer 2.5μL、プライマー各1200nM、dNTPs各0.3mM、MgCl、1.2mM、DMSO 4%、KOD DNA Polymerase 1.25ユニット、蒸留水を全量25μLとなるように添加した。PCR反応条件は次のとおりである。
【0147】
ステップ1:98℃、2分;
ステップ2:98℃、15秒;
ステップ3:72℃、15秒;
ステップ4:74℃、60秒;
ステップ2からステップ4を30サイクル繰り返す;
ステップ5:74℃、4分。
【0148】
このPCRにより約900bpの特異的な増幅産物が得られた。増幅産物中の689AGATCT694配列は、Kunkel法(Kunkel,T.A.(1985)Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection.Proceedings of the National Academy of Science of the USA,82巻、488−492頁)により689AAATCT694とした。
【0149】
この増幅された断片をNheIとBglIIで消化し、発現ベクターである放線菌プラスミド(pMD20−Tベクター(TaKaRa製))のNheI−BglII部位に挿入して、組換えプラスミドを得た。
【0150】
[参考例1−3:Streptomyces albidoflavus NA297由来PL(A)遺伝子を発現する組換え放線菌の作製]
参考例1−2で得た組換えプラスミドを用いて、「PRACTICAL STREPTOMY CES GENETICS(Kieserら、John Innes Foundation、2000年)」に記載の方法に従い、プロトプラスト化された放線菌Streptomyces lividans)1326を形質転換し、組換え放線菌を得た。
【0151】
[参考例1−4:Streptomyces albidoflavus NA297由来PL(A)遺伝子を発現する組換え放線菌の培養]
参考例1−3で得た組換え放線菌を、12μg/mLのチオストレプトンを含む100mL×4本のトリプチックソイ培地(ペクトン・ディッキンソン社製)で培養した。得られた培養液340mLから遠心分離(15000rpm、5分、4℃)にて上清を回収し、硫酸アンモニウム分画にて、沈殿を回収した。回収した沈殿を20mM 卜リス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を外液として透析して酵素溶液を得た。得られたPL(A)の濃度は約2.5U/mLで、適宜10−kDa centrifugal filter device(ミリポア社製)などで濃縮して実施例1〜実施例11で本発明のPL(A)として使用した。
【0152】
[参考例2:PLBの調製方法]
日本農芸化学会2011年度大会の講演番号:2C10a05(2011年3月23日9:44〜)、Streptomyces sp. NA684由来新規ホスホリパーゼBの大量発現とその特性解析(松本優作、杉森大助(福島大院・理工))によって公開された方法で調製して実施例で使用した。
【0153】
(a)培養
NB培地「1%ペプトン(べクトン・ディンキンソン社製)、1%肉エキス(極東製薬工業(株)製)、0.5% 塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)、pH7.2」300mLを調製し、500mL容三角フラスコに100mlずつ分注して、さらに1%大豆レシチンと0.1%ツィーン(Tween)80を添加した後、121℃で15分間蒸気殺菌を行った。予め平板培地に生育したストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684のコロニーを適当量とり、トリプチックソイ培地(べクトン・ディンキンソン社製)5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に接種し、28℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mlずつ接種し、28℃で108時間振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0154】
(b)硫安分画
上記(a)で回収した培養上清に、80%(w/v)飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、30分、4℃)により回収した。この沈殿を可溶化し、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で透析し、粗酵素液を得た。
【0155】
(c)DEAE−Toyopearlカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液を、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化した「DEAE−Toyopearl650Mカラム」(内径26mm、高さ55mm、東ソー社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0156】
(d)HiTrap Qカラムクロマトグラフィー
上記(c)で得られた活性画分を集め、Viva spin(ザルトリウス社製)を用い濃縮脱塩した。これに、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えた。これを、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化した「HiTrap Q」(5ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0157】
(e)RESOURCE PHEカラムクロマトグラフィー
上記(d)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、1M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を加えた。1M硫酸アンモニウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化した「RESOURCE PHE」(1ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0158】
(f)Mono Sカラムクロマトグラフィー
上記(e)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、20mMメス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)を加えた。20mMメス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)で予め平衡化した「Mono S」(1ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0159】
(g)SDS−PAGE
上記(e)で溶出した活性画分を集めてSDS−PAGE(12%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により解析した。
【0160】
以上のようにして、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684株より、電気泳動的に単一に精製された酵素を得た。
【0161】
[実施例2:PL(A)の基質特異性1]
本実施例では、ホスファチジルコリンのsn−1位とsn−2位に対するPL(A)の反応速度(加水分解速度)を比較した。
【0162】
<反応液>
100mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.2)
0.50% ホスファチジルコリン(ナカライテスク、品番20342−52)
25mM EDTA
1% トリトンX−100
0.9mU/mL PL(A)
反応は37℃で行った。反応開始0、5、10、20、30分後に<反応液>を50μLずつ取り出して、この<反応液>にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を50μL加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリゾリン脂質の量をHPLCで測定した。
【0163】
<HPLC条件>
Systech社、Alltima Silica 3μm、100mm×4.6mm
溶離液A:CHCl/MeOH/HO(80/18/2)
溶離液B:CHCl/MeOH/HO(60/34/6)
グラジエント:0min、100%Aから15minで100%Bのリニアグラジエント
検出器:ELSD
流速:1 ml/min
カラム温度:25℃
<結果>
37℃、20分間の加水分解反応で、収率約16.5%でリゾリン脂質を得ることができた。その内訳は、2−アシル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(2−Acyl−sn−glycero−3−phosphocholine)が約8割、1−アシル−sn−グリセ口−3−ホスホコリン(1−AcyL−sn−glycero−3−phosphocholine)が約2割であり、その比率は少なくとも反応開始後5分から30分の間は一定であった(図4)。
【0164】
したがって、ホスファチジルコリンのsn−1位とsn−2位に対するPL(A)の反応速度比は約4:1であることが示された。
【0165】
[実施例3:PL(A)の基質特異性2と比活性]
本実施例では、PlsEtn(C18、18:1)とDPPCに対するPL(A)の反応速度(加水分解速度)を比較し、比活性を測定した。
【0166】
<第一反応試薬混合液2>
80mM トリス−塩酸緩衝液pH8.0
5又は0mM 塩化カルシウム
4mM ATP
4mM CoA
1.06U/mL Acyl−CoA Synthetase
2mM PlsEtn(C18、18:1)
まず実施例1の方法でPL(A)の活性を測定した。次に0mM塩化カルシウム(カルシウムイオン非存在)の<第一反応試薬混合液>を調製し、実施例1の方法でPL(A)の活性を測定した。次に<第一反応試薬混合液>の代わりに<第一反応試薬混合液2>を用いて、それ以外は実施例1の方法と同様にしてPL(A)の活性を測定した。最後に0mM塩化カルシウム(カルシウムイオン非存在)の<第一反応試薬混合液2>を用いて、それ以外は実施例1の方法と同様にしてPL(A)の活性を測定した。そして相対活性を(式3)で計算した。n=5で実施した。
【0167】
<結果>
【0168】
【表2】
【0169】
表2で示したように、PlsEtn(C18、18:1)に対するPL(A)の相対活性はDPPCに対して19±5%(平均±SD)であった。
【0170】
[実施例4:PL(A)の基質特異性3]
本実施例では、PlsEtn(C18、20:4)とPOPCに対するPL(A)の反応速度(加水分解速度)を比較した。
【0171】
<反応液1>
120mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.2)
2.5% PlsEtn(C18、20:4)
1mM EDTA
1% トリトンX−100
<反応液2>
120mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.2)
2.5% POPC
1mM EDTA
1% トリトンX−100
50℃にした100μLの<反応液1>及び<反応液2>に、5mU/mLのPL(A)を5μL添加して反応を開始した。反応開始後5分後に、<反応液1>及び<反応液2>を煮沸して反応を停止した。<反応液1>及び<反応液2>に含まれる遊離脂肪酸の生成量を、遊離脂肪酸測定キットである「NEFA Cテストワコー」(和光純薬工業社製)で測定した。相対活性は(式4)で計算した。n=5で実施した。
【0172】
<結果>
PL(A)はPlsEtn(C18、20:4)に作用して脂肪酸を生成していることが明らかになった。また、本発明のPL(A)のPlsEtn(C18、20:4)に対する相対活性は、POPCに対して、29±13%(平均±SD)であった。
【0173】
[実施例5:各ホスホリパーゼのSDS−PAGE法による分子量測定]
<SDS−PAGEサンプルバッファー>
125mM Tris−塩酸緩衝液(pH6.8)
4(W/V)% SDS
10(W/V)% シュークロース
0.01(W/V)% ブロモフェノールブルー
10(W/V)% 2−メルカプトエタノール
<泳動buffer>
3g/L Tris
14.4g/L Glycine
1g/L SDS
各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、及びLIPOMOD 699L))溶液を280nmにおける吸光度が約1.0になるように蒸留水で希釈し、各ホスホリパーゼ水溶液とした。次に各ホスホリパーゼ水溶液20μLと<SDS−PAGEサンプルバッファー>を20μLとを混合して、99℃で20分間加熱して変性した。変性した各ホスホリパーゼを室温まで冷却して、10μLをSDS−PAGE法により分子量測定した。分子量マーカーはSDS−PAGEスタンダードBroad range(Bio RAD、品番161−0317)を使用した。ポリアクリルアミドゲルはe−PAGEL(アトー株式会社、品番E−T15S)を使用した。泳動bufferは上記の通りである。泳動は室温、定電流(20mA)にて約60分間行った。ポリペプチドの染色はEz Stain Aqua(アトー株式会社、品番AE−1340)を使用した。脱色は純水を使用した。
【0174】
<結果>
図5のレーン1と7はマーカーである。レーン2〜6は各ホスホリパーゼで、SDS− PAGE法による分子量は、
レーン2 PL(A) 約25〜30kDaの範囲
レーン3 PLB 約43〜45kDaの範囲
レーン4 PLA2 II L 約12〜14kDaの範囲
レーン5 PLA2ナガセ 約12〜14kDaの範囲
レーン6 LIPOMOD 699L 約12〜14kDaの範囲
となった。
【0175】
PLA2 II L、PLA2ナガセ及びPLIPOMOD 699LのSDS−PAGE法による分子量は公知のホスホリパーゼA2と同様であった。一方、PL(A)のSDS−PAGE法による分子量は約25〜30kDaの範囲であり、ホスホリパーゼA1及びホスホリパーゼA2とは明確に異なっていた。
【0176】
[実施例6−1:PlsEtnに対する各ホスホリパーゼの作用(カルシウムイオンの存在下)]
本実施例では、各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、LIPOMOD 699L)のブタ脳から抽出したPlsEtnに対する作用をカルシウムイオンの存在下比較した。
【0177】
なお、ブタ脳から抽出したPlsEtn(Brain,Porcine、Avanti Polar Lipids、Inc.、品番840022)は、天然物であるので(化3)や(化4)を含む複数のPlsEtnが混在していると考えられる。すなわち、各ホスホリパーゼにより作用されやすい分子種のPlsEtnと作用されにくい分子種のPlsEtnが混在していると考えられる。
【0178】
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM ブタ脳から抽出したPlsEtn(又はlyPls(化7))
2mM CaCl
10U/mL 各ホスホリパーゼ
<反応液>を37℃で反応し、反応開始10分後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と等量加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。盲検は各ホスホリパーゼを<反応液>に加えなかった。
【0179】
<TLCの方法>
薄層クロマトグラフィー(TLC、TLC silica gel 60、MERCK社)に3μLスポットし、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:蒸留水=65:25:4)で約2〜3時間展開した。展開したTLCにニンヒドリンスプレー(和光純薬工業株式会社、品番145−08601)を適量噴霧して100℃で約15〜30秒間乾熱オーブンで熱してlyPlsEtnやPlsEtnを検出した。なお、他の実施例におけるTLCの条件も本実施例と同様である。
【0180】
ここで、lyPlsEtnの標品として使用した1−O−1’−(Z)−octadecenyl−2−hydroxy−sn−glycero−3−phosphoethanolamine((化7)Avanti Polar Lipids、Inc.品番852471)である。
【0181】
【化7】
【0182】
<結果>
図6のレーン1〜7は次の通りである。
【0183】
レーン1はブタ脳から抽出したPlsEtnに各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0184】
レーン2はlyPlsEtn(化7)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0185】
レーン3はPL(A)をブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0186】
レーン4はPLBをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0187】
レーン5はPLA2 II Lをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0188】
レーン6はPLA2ナガセをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0189】
レーン7はLIPOMOD 699Lをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0190】
TLCのスポットを、デンシトメーターで定量した結果を表3に示した。
【0191】
【表3】
【0192】
ブタ脳から抽出したPlsEtnが消失し、lyPlsEtn(レーン2)と同じ位置に移動度が変化する作用を強く示したのはレーン3(PL(A))であった。レーン6(PLA2ナガセ)とレーン7(LIPOMOD 699L)も同様の作用を示したが、その程度はPL(A)より弱かった。
【0193】
[実施例6−2:各ホスホリパーゼのPlsEtnへの作用(カルシウムイオンの存在下)]
本実施例では、各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、LIPOMOD 699L)のPlsEtn(化1)に対する作用を、カルシウムイオンの存在下、比較した。
【0194】
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM PlsEtn(化1)(又はlyPls(化7))
2mM CaCl
10U/mL 各ホスホリパーゼ
<反応液>を37℃で反応し、反応開始10分後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と同じ量加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。
【0195】
<結果>
図7のレーン1〜7は次の通りである。
【0196】
レーン1はPlsEtn(化4)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0197】
レーン2はlyPlsEtn(化7)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0198】
レーン3はPL(A)をPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0199】
レーン4はPLBをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0200】
レーン5はPLA2 II LをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0201】
レーン6はPLA2ナガセをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0202】
レーン7はLIPOMOD 699LをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0203】
TLCのスポットを、デンシトメーターで定量した結果を表4に示した。
【0204】
【表4】
【0205】
PlsEtn(化4)が消失し、lyPlsEtn(化7)と同じ位置に移動度が変化する作用を強く示したのはレーン3(PL(A))であった。レーン6(PLA2ナガセ)とレーン7(LIPOMOD 699L)も同様の作用を示したが、その程度はPL(A)より弱かった。
【0206】
[実施例7−1:各ホスホリパーゼのPlsへの作用(カルシウムイオンの非存在下)]
本実施例では、各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、LIPOMOD 699L)のブタ脳から抽出したPlsEtnに対する作用をカルシウムイオンの非存在下比較した。
【0207】
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM ブタ脳から抽出したEtnPls(又はlyPls(化7))
10U/mL 各ホスホリパーゼ
<反応液>を37℃で反応し、反応開始10分後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と同じ量加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。盲検は各ホスホリパーゼを<反応液>に加えなかった。
【0208】
<結果>
図8のレーン1〜7は次の通りである。
【0209】
レーン1はブタ脳から抽出したPlsEtnに各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0210】
レーン2はlyPlsEtn(化7)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0211】
レーン3はPL(A)をブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0212】
レーン4はPLBをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0213】
レーン5はPLA2 II Lをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0214】
レーン6はPLA2ナガセをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0215】
レーン7はLIPOMOD 699Lをブタ脳から抽出したPlsEtnに作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0216】
TLCのスポットを、デンシトメーターで定量した結果を表5に示した。
【0217】
【表5】
【0218】
PL(A)はカルシウムの非存在下においてもブタ脳から抽出したPlsEtnが消失し、lyPlsEtn(化7)と同じ位置に移動度が変化する作用を強く示した(レーン3)。
【0219】
[実施例7−2:各ホスホリパーゼのPlsEtnへの作用(カルシウムイオンの非存在下)]
本実施例では、各ホスホリパーゼ(PL(A)、PLB、PLA2 II L、PLA2ナガセ、LIPOMOD 699L)のPlsEtn(化4)に対する作用を、カルシウムイオンの存在下、比較した。
【0220】
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM PlsEtn(化4)(又はlyPls(化7))
10U/mL 各ホスホリパーゼ
<反応液>を37℃で反応し、反応開始10分後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と同じ量加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。盲検は各ホスホリパーゼを<反応液>に加えなかった。
【0221】
<結果>
図9のレーン1〜7は次の通りである。
【0222】
レーン1はPlsEtn(化4)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0223】
レーン2はlyPlsEtn(化7)に各ホスホリパーゼを作用させなかった<反応液>(盲検)から有機相に抽出したリン脂質である。
【0224】
レーン3はPL(A)をPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0225】
レーン4はPLBをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0226】
レーン5はPLA2 II LをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0227】
レーン6はPLA2ナガセをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0228】
レーン7はLIPOMOD 699LをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0229】
TLCのスポットを、デンシトメーターで定量した結果を表6に示した。
【0230】
【表6】
【0231】
カルシウムの非存在下においてもPlsEtn(化4)が消失し、lyPlsEtn(化7)と同じ位置に移動度が変化する作用を強く示したのはレーン3(PL(A))であった。レーン7(LIPOMOD 699L)も同様の作用を示したが、その程度はPL(A)より弱かった。
【0232】
[実施例8:PL(A)をPlsへ作用させたときの生成物]
実施例6−2及び実施例7−2において、PL(A)をPlsEtn(化4)に作用させたときの生成物(すなわち図7及び図9の矢印の物質)をLC/MSによって確認した。
【0233】
<LCの条件>
装置 Waters,UPLC
カラム Waters、ACQUITY UPLC HSS C18 1.8μm
(2.1mmI.D.×50mm)
カラム温度 40℃
検出 220nm
移動相 A=水(0.1% HCOOH) B=イソプロピルアルコール
グラジェント 0分 A 80% B 20%
10分 A 0% B 100%
13分 A 0% B 100%
13.1分 A 80% B 20%
15分 A 80% B 20%
注入量 1μL
<MSの条件>
装置 Waters,Synapt G2
イオン化 ESI+
スキャンレンジ m/z 100〜1500
<結果>
MSではPlsEtn(化4)と考えられるイオンが1種類(m/z 730.55)、lyPlsEtn(化7)と考えられるイオンが1種類(m/z 466.31)検出され、標品のPlsEtn(化4)及びlyPlsEtn(化7)と一致した。したがって、PL(A)をPlsEtn(化4)に作用させたときの生成物はlyPlsEtn(化7)であることを確認した。
【0234】
[実施例9:PL(A)酵素量とPlsへの作用の関係]
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM PlsEtn(化4)(又はlyPls(化7))
0〜0.5U/mL PL(A)
0、0.005、0.0067、0.01、0.02、0.05、0.5U/mLのPL(A)を含む<反応液>を各1mL調製した。これらの<反応液>を37℃で10分間反応した後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と1mL加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。
【0235】
<結果>
図10のレーン1〜8は次の通りである。
【0236】
レーン1はPlsEtnにPL(A)を0.5U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0237】
レーン2はPlsEtnにPL(A)を0.05U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0238】
レーン3はPlsEtnにPL(A)を0.02U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0239】
レーン4はPlsEtnにPL(A)を0.01U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0240】
レーン5はPlsEtnにPL(A)を0.0067U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0241】
レーン6はPlsEtnにPL(A)を0.005U/mL作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0242】
レーン7はlyPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0243】
レーン8はPlsにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>からから有機相に抽出したリン脂質である。
【0244】
本実施例から、少なくとも0.5U/mLのPL(A)が2mMのPlsEtnを37℃、10分間でlyPlsに加水分解できることが分かった。すなわち、少なくとも0.5mUのPL(A)が2μmolのPlsEtnを37℃、10分間でlyPlsに加水分解できることが分かった。
【0245】
[実施例10−1:pHとPL(A)のPlsEtnへの作用の関係]
<反応液>
50mM 各緩衝液
2mM PlsEtn(化4)(又はlyPls(化7))
0又は0.5U/mL PL(A)
各緩衝液として、クエン酸−NaOH緩衝液(pH4、5、6)、リン酸カリウム緩衝液pH7、トリス−塩酸緩衝液(pH8、9)、グリシン−NaOH緩衝液pH10を含む<反応液>を調製した。これらの<反応液>を室温で10分間反応した後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と1mL加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。
【0246】
<結果>
図11のレーン1〜18は次の通りである。
【0247】
レーン1〜3は、順に、クエン酸−NaOH緩衝液pH4、5、6の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0248】
レーン4は、リン酸カリウム緩衝液pH7の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0249】
レーン5〜7は、順に、トリス−塩酸緩衝液pH7.5、8、9の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0250】
レーン8は、グリシン−NaOH緩衝液pH10の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0251】
レーン9〜11は、順に、クエン酸−NaOH緩衝液pH4、5、6の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0252】
レーン12は、リン酸カリウム緩衝液pH7の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0253】
レーン13〜15は、順に、トリス−塩酸緩衝液pH7.5、8、9の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0254】
レーン16は、グリシン−NaOH緩衝液pH10の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0255】
レーン17は、トリス−塩酸緩衝液pH7.5の<反応液>中のlyPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0256】
レーン18は、トリス−塩酸緩衝液pH7.5の<反応液>中のPlsEtnにPL(A)を作用させなかった(0U/mL)<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0257】
図11から、本実施例の条件下、pH4〜10の範囲でPL(A)はPlsEtnをlyPlsに加水分解できることが分かった。そしてその作用はpHが高いほど強いことが分かった。なお、レーン1から8で明らかなように、PlsEtnはpH変化により自発的にlyPlsに変化することはなかった。
【0258】
[実施例11:試料中のPls測定]
試料中のPls測定は図1の方法で測定した。
【0259】
<反応液1>
50mM BES−NaOH pH7.5
10U/mL Peroxidase
50U/mL Ethanolamine oxidase
5U/mL GPCP
1U/mL PL(A)
<反応液2>
50mM BES−NaOH pH7.5
4.2U/mL lyPls ase
12μM DA67
ここで、PeroxidaseはSIGMAより品番P8375として購入した。Ethanolamine oxidaseはBioscience, Biotechnology, and Biochemistry 2008年、72巻、2732−2738頁の方法で製造した。GPCP(Glycerophosphorylcholine phosphatase)は旭化成ファーマ株式会社より品番T−33として入手した。lyPls aseはThe journal of biological chemistry、2011年、286巻、24916〜24930頁に記載の方法でラット由来のlyPls aseを大腸菌組換体として製造した。DA67は和光純薬工業株式会社より品番046−22341として購入した。
【0260】
<試料>
10%ドデシルマルトシド水溶液(同仁化学研究所、品番347−06163)にPlsEtn(化4)を0〜200μMになるように添加して調製した。
【0261】
<測定>
日立7080形自動分析機を使用して測定した。サンプル量は12μL、<反応液1>の量は180μL、<反応液2>の量は45μL、反応温度は37℃、1ポイントエンドアッセイとして660nm(副波長750nm)の吸光度差を測定した。
【0262】
<結果>
図12は10%ドデシルマルトシド水溶液にPlsEtn(化4)を0〜200μMになるように添加して調製した試料の検量線を示す。検量線は相関式Y=2.2724X−52.962で表され、R=0.9991であった。試料中のPlsEtnが本実施例にて測定できたことが示された。なお、切片が−53となったのは、<反応液1>及び<反応液2>が着色・懸濁しているためである。
【0263】
[実施例12:Streptomyces avermitilis JCM 5070由来PL(A)の調製方法]
[実施例12−1:Streptomyces avermitilis JCM 5070の染色体DNAの分離]
Streptomycesa avermitilis JCM 5070を5mLのLB培地で用いて28℃で2日間培養し集菌した。次いで、この菌体をQIAprep Miniprep(QIAGEN社)のP1 buffer 250μLで懸濁し、250μLのP2 bufferを加えて5回転等攪拌して鋳型染色体DNAとした。
【0264】
[実施例12−2:Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)遺伝子を含む組換えプラスミドの作製]
PCR用のオリゴとして、センスプライマー「primer S」(配列番号7)及びアンチセンスプライマーとして「primer AS」(配列番号8)を合成した。実施例12−1で得た鋳型染色体DNA 50ng、10×PCR Buffer 2.5μL、プライマー各1200nM、dNTPs各0.3mM、MgCl、1.2mM、DMSO 4%、KOD DNA Polymerase 1.25ユニット、蒸留水を全量25μLとなるように添加した。PCR反応条件は次のとおりである。
【0265】
ステップ1:98℃、2分;
ステップ2:98℃、15秒;
ステップ3:72℃、15秒;
ステップ4:74℃、60秒;
ステップ2からステップ4を30サイクル繰り返す;
ステップ5:74℃、4分。
【0266】
このPCRにより約810bpの特異的な増幅産物が得られた。この増幅された断片をNdeIとEcoRIで消化し、発現ベクターであるpET21a(+)及びpET24a(+)のNdeI−EcoRI部位に挿入して、組換えプラスミドを得た。
【0267】
[実施例13−3:Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)遺伝子を発現する組換え大腸菌の作製]
実施例12−2で得た組換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、組換え大腸菌を得た。
【0268】
[実施例13−4:Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)遺伝子を発現する組換え放線菌の培養]
実施例13−3で得た組換え大腸菌を、50μg/mLのアンピシリン(pET21a(+)を形質転換した大腸菌の場合)又は30μg/mLのカナマイシン(pET24a(+)を形質転換した大腸菌の場合)を含む100mLのOvernight Express TB培地(Novagen社製)で、34℃、24時間培養した。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収した。菌体は20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で懸濁した後、超音波破砕し、遠心上清をそのまま実施例14で使用した(約0.1U/mL)。形質転換していない大腸菌を培養(抗生物質は加えない)・超音波破砕して得た遠心上清をネガティブコントロールとした。
【0269】
[実施例14:Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)のPlsEtnへの作用(カルシウムイオンの非存在下)]
本実施例では、Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)が、カルシウムイオンの非存在下、PlsEtn(化4)に作用することをTLCで確認した。
【0270】
<反応液>
10mM トリス−塩酸緩衝液pH7.5
2mM PlsEtn(化4)(又はlyPls(化7))
培養可溶化遠心上清
<反応液>を25℃又は30℃で反応し、反応開始10分後にCHCl:CHOH(体積比2:1)の溶液を<反応液>と同じ量加えて混合し反応を停止した。有機相に抽出されたリン脂質をTLCのサンプルとした。
【0271】
<結果>
図13のレーン1〜8は次の通りである。
【0272】
レーン1はPlsEtn(化4)にPL(A)を作用させなかった<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0273】
レーン2はlyPlsEtn(化7)にPL(A)を作用させなかった<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0274】
レーン3はpET21a(+)を形質転換した大腸菌由来のPL(A)をPlsEtn(化4)に25℃で作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0275】
レーン4はpET24a(+)を形質転換した大腸菌由来のPL(A)をPlsEtn(化4)に25℃で作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0276】
レーン5はネガティブコントロールをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に25℃で抽出したリン脂質である。
【0277】
レーン6はpET21a(+)を形質転換した大腸菌由来のPL(A)をPlsEtn(化4)に30℃で作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0278】
レーン7はpET24a(+)を形質転換した大腸菌由来のPL(A)をPlsEtn(化4)に30℃で作用させた<反応液>から有機相に抽出したリン脂質である。
【0279】
レーン8はネガティブコントロールをPlsEtn(化4)に作用させた<反応液>から有機相に30℃で抽出したリン脂質である。
【0280】
TLCのスポットを、デンシトメーターで定量した結果を表7に示した。
【0281】
【表7】
【0282】
Streptomycesa avermitilis JCM 5070由来PL(A)が、カルシウムイオンの非存在下、PlsEtn(化4)に作用することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0283】
本発明により、プラスマローゲンをリゾプラスマローゲンに加水分解する方法、プラスマローゲンを測定する方法、加水分解用及び/又は測定用の組成物、ホスホリパーゼの製造方法を提供できる。
【受託番号】
【0284】
[Streptomyces albidoflavus NA297(受託番号:NITE BP−1014)]
受託番号:NITE BP−1014
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)
寄託機関のあて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
寄託の日付:2011年1月26日。
[Streptomyces sp. NA684(受託番号:NITE BP−1015)]
受託番号:NITE BP−1015
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)
寄託機関のあて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
寄託の日付:2011年1月26日。
【配列表フリーテキスト】
【0285】
配列番号1:PL(A)のアミノ酸配列の全長
配列番号2:他のPL(A)のアミノ酸配列の全長
配列番号3:PL(A)遺伝子の塩基配列
配列番号4:他のPL(A)遺伝子の塩基配列
配列番号5:プライマーS
配列番号6:プライマーAS
配列番号7:他のプライマーS
配列番号8:他のプライマーAS
配列番号9:PL(A)のアミノ酸配列の一部
配列番号10:他のPL(A)のアミノ酸配列の一部
配列番号11:配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号12:配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする他の塩基配列
配列番号13:配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号14:配列番号10に記載のアミノ酸配列をコードする他の塩基配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]