【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。また、純度や不純物含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0026】
(1)セラミック構造体の製法
(1−1)第1の基体の準備
(1−1−1)原料粉末の調整
Al
2O
3粉末には、市販の高純度Al
2O
3(純度99.99%以上、平均粒径0.5μm)を使用した。Al
2O
3 成形体を焼結させるための焼結助剤としては、MgF
2粉末とMgO粉末を使用した。MgF
2粉末には、市販のMgF
2(純度99.9%以上)を粉砕して平均粒径が1μm以下になったものを使用した。MgO粉末には、市販のMgO粉末(純度99.95%以上、平均粒径1μm)を使用した。MgF
2粉末及びMgO粉末の添加量は、Al
2O
3100質量%に対して、それぞれ0.3質量%及び0.1質量%とした。上述した組成となるよう秤量したAl
2O
3粉末、MgF
2粉末及びMgO粉末を、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径5mmのAl
2O
3玉石を用いて4時間湿式で混合し、スラリーとした。ポットから取り出したスラリーを窒素気流中110℃で乾燥し、乾燥物を30メッシュの篩に通し、篩下の粉末を第1の基体(Al
2O
3焼結体)作製用の原料粉末とした。
【0027】
(1−1−2)円盤状成形体の作製
上記原料粉末を、200kgf/cm
2の圧力で一軸加圧成形し、直径50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製した。
【0028】
(1−1−3)円盤状成形体の焼成
上記円盤状成形体をホットプレス用の黒鉛型に収めた後、ホットプレス炉にセットし、プレス圧を200kgf/cm
2とし、焼成温度(最高温度)1200℃で4時間保持し、焼結体を作製した。昇温速度及び降温速度はいずれも300℃/hrとし、昇温中の1000℃までは真空引きし、その後に窒素ガスを導入した。導入後のガス圧力は1.5atm程度になるように維持した。降温時は1000℃で温度制御を止め、炉冷した。得られた焼結体を、直径50mm、厚さ10mm程度になるよう加工し、それを第1の基体として使用するAl
2O
3焼結体とした。
【0029】
以上は、実験例1〜8,10〜30の第1の基体として使用したAl
2O
3焼結体について説明したが、実験例9ではAl
2O
3仮焼体を第1の基体として使用した。Al
2O
3仮焼体は、1−1−2に準じた方法で作製した円盤状成形体をアルゴン雰囲気下で900℃で熱処理をした後に、直径50mm、厚さ20mm程度に形状を調整したものを使用した。また、実験例31,32の第1の基体として使用したY
2O
3焼結体及びYb
2O
3焼結体については次のように作製した。実験例31では、市販の高純度Y
2O
3粉末を使用し、焼成温度を1575℃とした以外は、上記(1−1)に準じた方法でY
2O
3焼結体を作製した。また、実験例32では、市販の高純度Yb
2O
3粉末を使用し、焼成温度を1500℃とした以外は、上記(1−1)に準じた方法でYb
2O
3焼結体を作製した。なお、Y
2O
3粉末、Yb
2O
3粉末は、純度99.9%以上、平均粒径1μm以下のものを使用した。
【0030】
(1−2)電極ペーストの印刷
市販のRu粉末(純度99.9%)を粉砕し、平均粒径4μm程度にしたものを原料粉末に使用した。Ru電極に導入したフィラー成分やRu以外の金属成分については、次のものを使用した。なお、フィラー成分とは、Ruとの反応性が低い成分をいい、本発明ではセラミック成分を導入した場合を指すものとする。例えば、Al
2O
3やZrO
2,TiN,Y
2O
3,Yb
2O
3などをフィラー成分と呼ぶ。一方、金属成分であるAlやTi,Nbは、フィラー成分として挙げたセラミック成分よりもRuと反応しやすく、例えばAlの場合はRuAl合金(モル比でRu:Al=1:1)となり、またNbの場合はRuに固溶する分が明らかに認められるため、総じてRu以外の金属成分と呼ぶこととする。フィラー成分に用いたAl
2O
3,Y
2O
3,Yb
2O
3としては、第1の基体で使用したものと同じものを用いた。ZrO
2としては、純度99.9%、平均粒径1μm以下の市販品を用いた。TiNとしては、酸素を除く不純物含有量が0.1%以下で平均粒径が0.9μmの市販品を用いた。Alとしては、高純度Al粉末で#500以下の市販品を用いた。Tiとしては、純度99.9%で平均粒径が10μmの市販品を用いた。Nbとしては、純度99%で平均粒径が20μmの市販品を用いた。Ru粉末と各種フィラー成分あるいはRu以外の金属成分とを、表1に記載の割合になるよう秤量し、バインダとしてポリメタクリル酸−n−ブチル、有機溶媒としてブチルカルビトールを使用し、印刷用の電極ペーストとした。
【0031】
印刷用の電極ペーストを、上記(1−1−3)で得られた焼結体の上面にスクリーンを通して幅5mm×長さ15mmの大きさで印刷した(実験例1〜8,10〜32)。このとき、電極ペーストの印刷厚さは50〜100μmとし、印刷後、大気中、100℃で1時間乾燥させた。なお、実施例9では、第1の基体として、混合粉末の円盤状成形体を不活性雰囲気中で900℃で熱処理したものを用い、この成形体の一面に電極ペーストを印刷した。
【0032】
(1−3)第2の基体の配置
上記(1−2)までで作製した第1の基体の電極ペースト印刷面の上に、第2の基体を重ね、積層体とした。実験例1〜9,11〜30では、第2の基体として上記(1−1−2)で得られたAl
2O
3 成形体を使用した。実験例10では、第2の基体として、上記(1−1−3)で得られたAl
2O
3焼結体を使用した。実験例31,32では、第2の基体として、上記(1−1−3)のY
2O
3焼結体及びYb
2O
3焼結体を得る前の成形体を使用した。
【0033】
(1−4)焼成一体化
上記(1−3)で作製した積層体をホットプレス炉に収め、上記(1−1−3)と基本的に同じ条件でホットプレス焼成し、積層体を一体化することにより、セラミック基体の内部に焼結電極を備えたセラミック構造体を得た。但し、各実験例における焼成温度(最高温度)は、表1に記載したとおりとした。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)セラミック構造体の評価項目
・単体の熱膨張係数
Ru単体の熱膨張係数は、Ru粉砕粉末の焼結体を作製し、JIS−R1618に準じた方法により測定した。ここでは、セラミック基体と電極ペーストとを焼成によって一体化した後の熱膨張係数の不一致によって生じる歪みを問題視しているため、熱膨張係数の温度範囲を40〜1200℃(1200℃は実験例1〜30における最低の焼成温度)とした。1200℃を超える焼成温度で作製された構造体においては、このような高温下でセラミック材料がホットプレスによって荷重負荷されると、Ruを主成分とする金属系の電極材料だけでなくセラミック材料も幾分塑性変形をすることによって熱膨張係数の不一致等によって生じる歪みが緩和されるものと考えられる。そのため、熱膨張係数の温度範囲を40〜1200℃とした。Al
2O
3の熱膨張係数は、Al
2O
3のセラミック基体から切り出したAl
2O
3焼結体試料を用い、JIS−R1618に準じた方法により測定した。なお、Al
2O
3フィラーの熱膨張係数もこれと同じ値とした。フィラー成分やRu以外の金属の熱膨張係数は、文献に報告された値、あるいは、Al
2O
3と同様に焼結体を作製し、JIS−R1618に準じた方法により測定した値を用いた。これら単体の熱膨張係数は、表1に記載の通りである。
【0036】
・電極の熱膨張係数
個々の電極の40〜1200℃での熱膨張係数は、使用した材料単体の40〜1200℃での熱膨張係数と電極の調合割合から計算によって求めた。その結果を表1に記載した。
【0037】
・熱膨張係数差
セラミック基体と電極との40〜1200℃での熱膨張係数差を、絶対値として算出した。
【0038】
・電極の抵抗率
作製したセラミック構造体から、幅9mm×長さ9mm×厚さ6mm程度の直方体状で、中央に電極が幅5mm×長さ9mm程度に内蔵されるよう、試験片を切り出した。なお、電極の端面は、試験片の両端面に幅5mmで露出されるようにし、顕微鏡によって電極の幅と厚さを計測し、電極端面の断面積S(cm
2)を求めた。また、ノギスによって電極の長さL(cm)を測定し、抵抗率の算出に使用した。抵抗測定用の回路は、電極の両端面に導電性ペーストを塗布した上でリード線を接続して構成し、大気中、室温で微小電流I(mA)を0〜150mAの範囲で流し、その際に発生する微小電圧値V(mV)を測定し、電極の抵抗R(Ω)をR=V/Iより求めた。その後、電極の電気抵抗率ρ(Ωcm)を、ρ=R×S/Lより算出した。
【0039】
・微構造
得られた部材の切断面を鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)及び電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用い、電極、セラミック基体の界面やその周辺等の微構造を観察した。
【0040】
・焼結体密度、開気孔率
棒状に切り出した試料を用い、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
【0041】
(3)セラミック構造体の評価結果
以下、各実験例の評価結果について説明する。
【0042】
・実験例1
上側から順に、Al
2O
3成形体(第2の基体)/Ru100%電極/Al
2O
3焼結体(第1の基体)のように積層した積層体を、1200℃で4時間ホットプレス焼成し、セラミック構造体を作製した例である。セラミック基体と電極との熱膨張係数差は0.7ppm/Kで小さく、断面観察においても界面やその近傍でクラック発生等の異常は認められなかった。電極の抵抗率は1.3×10
-5Ωcmで非常に小さく、ヒータ用の電極として十分機能することがわかった。なお、第1の基体、第2の基体より切り出したAl
2O
3焼結体は、嵩密度が3.97g/cm
3以上、開気孔率が0.02%以下であり、十分な緻密性を有していた。
【0043】
・実験例2〜4
実験例2では、電極にAl
2O
3フィラーを添加し、電極組成をRu90vol%、Al
2O
310vol%とした以外は、実験例1と同様な条件で部材を作製した。実験例3,4では、Al
2O
3フィラーの添加量を実験例2よりも増やした。Al
2O
3フィラーの熱膨張係数はRuよりも大きいため、Al
2O
3フィラーの添加量が多くなるにつれて電極の熱膨張係数は大きくなり、Al
2O
3基体の熱膨張係数に近づいた。これらの例では、電極の熱膨張係数が8.0〜8.2ppm/Kであり、Al
2O
3との熱膨張係数差は0.6〜0.4ppm/Kに小さくなった。電極の抵抗率は1.6×10
-5〜2.8×10
-5Ωcmであり、フィラーの添加量が増えるにつれて高くはなるが、実験例4の40vol%でも2.8×10
-5Ωcmで非常に小さく良好であった。また、実験例1と同様、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。
【0044】
・実験例5〜8
実験例5〜8では、Al
2O
3フィラーの添加量、焼成温度を変えた以外、実験例2と同様な方法によってセラミック構造体を作製した。実験例5はAl
2O
3フィラーを20vol%とし、1300℃で焼成した例であるが、電極の抵抗率は同組成の1200℃焼成材料(実験例3)よりもやや低下し、1.6×10
-5Ωcmで良好であった。実験例6は、Al
2O
3フィラーを加えず、1500℃で焼成した例であるが、電極の抵抗率は1.0×10
-5Ωcmで、実験例1〜30のなかで最も低抵抗であった。Al
2O
3フィラーを20,40vol%添加した実験例7,8においても、それぞれ抵抗率は1.5×10
-5,2.1×10
-5Ωcmで良好であった。また、実験例5〜8のいずれも、実験例1と同様、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。なお、実験例6〜8と実験例1,3,4とを比較すると、焼結温度1500℃の実験例6〜8の方が焼結温度1200℃の実験例1,3,4と比べて電極の抵抗率が低くなったが、その理由は1500℃では電極の焼結がよく進むと共に、個々の粒子が大きくなり、粒界での抵抗が減少したことによると推察される。
【0045】
・実験例9,10
第1の基体として、実験例9ではAl
2O
3仮焼体を用い、実験例10ではAl
2O
3焼結体を用いた以外は、実験例5と同様な方法によってセラミック構造体を作製した。実験例9,10における電極の抵抗率は、それぞれ1.6×10
-5,1.5×10
-5Ωcmであり、低抵抗で良好であった。実験例9のように第1の基体として仮焼体を用いた場合には、セラミック構造体を作製するための高温での焼成(本焼成)を1回で済ますことが可能になり、製造工程を短くできるメリットがある。実験例10のように第1の基体として焼結体を用いた場合には、電極面の平坦性を一層高めることが可能になる。そのため、実験例10のセラミック構造体を、ウエハーを保持するセラミックヒータとして利用した場合に温度均一性が一層高まることが期待される。
【0046】
・実験例11〜13
実験例11では、フィラーにZrO
2を用いた以外は、実験例2と同様な方法でセラミック構造体を作製した。ZrO
2の熱膨張係数は、文献より、12.2ppm/Kと推定した。ZrO
2は熱膨張係数が高いため、実験例11のように16vol%の添加によって熱膨張係数差を0.0ppm/Kにすることができ、電極の熱膨張係数とAl
2O
3基体の熱膨張係数とを完全に一致させることができた。実験例12は、焼成温度を1300℃とした以外は実験例11と同様な方法でセラミック構造体を作製した例であり、ここでも、熱膨張係数を完全に一致させたセラミック構造体を作製することができた。実験例13では、ZrO
2の添加量を22vol%、焼成温度を1300℃とした以外は実験例11と同様な方法でセラミック構造体を作製した。この実験例13は、電極の熱膨張係数をAl
2O
3の熱膨張係数よりも大きくした例である。実験例11〜13のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。電極の抵抗も1.5×10
-5〜1.8×10
-5Ωcmと低く、良好であった。
【0047】
・実験例14,15
実験例14では、フィラーにTiNを用いた以外は、実験例2と同様な方法でセラミック構造体を作製した。実験例15では、TiNの添加量を30vol%とした以外は、実験例14と同様な方法でセラミック構造体を作製した。TiNの熱膨張係数は、作製した焼結体の測定より、9.4ppm/Kであった。TiNは導電性の物質であるため、実験例14の電極の抵抗率はAl
2O
3フィラーが同添加量である実験例2の場合よりも低く、1.4×10
-5Ωcmであった。また、実験例15の電極の抵抗率は1.8×10
-5Ωcmであったが、Al
2O
3フィラーが20vol%と少ない実験例3よりも抵抗率は低かった。実験例14,15のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。
【0048】
・実験例16〜22
実験例16〜22では、電極の熱膨張係数を調整するために金属成分としてAlをRuに添加し、AlとRuとの反応によってRuAl合金を電極内に生成させ、Ru/RuAl電極とした。セラミック構造体の基本的な作製方法は、実験例2に準じた。RuAl合金の熱膨張係数及び密度は、焼結体での実測により、10.9ppm/K、7.97g/cm
3と分かっており、添加したAlのすべてがRuと反応してRuAl合金になると想定し、Alの添加量を設定した。表1の備考欄には、電極中のRuAl合金の量をvol%で示した。RuAl合金は導電性が高く、かつ、熱膨張係数も大きい材料であることから、実験例16〜22に示すように少量のAlの添加でAl
2O
3基体の熱膨張係数に近づけることができ、かつ、電極の抵抗率を1×10
-5〜2×10
-5Ωcmと低くすることができた。特に、実験例16,18、21において、11vol%のAlを添加しRuAl合金を18vol%生成させることによって、電極の熱膨張係数をAl
2O
3基体との熱膨張係数差で0.2ppm/Kまで近づけることができた。実験例16〜22のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。
【0049】
・実験例23〜30
実験例23〜28では、金属成分としてTiを添加し、実験例29,30では、金属成分としてNbを添加した。実験例23〜30では、実験例2に準じた方法でセラミック構造体を作製した。実験例23〜30においても、電極の熱膨張係数をAl
2O
3基体の熱膨張係数に近づけることができ、かつ、TiやNbは熱膨張係数が高く導電性を有する成分であることから、抵抗率の低い電極が得られた。特に、実験例24,27では、電極の熱膨張係数をAl
2O
3基体の熱膨張係数と完全に一致させることができた。TiやNbはRuに固溶し易い成分であるが、電極のEPMAによる元素分布解析から、特にNbがRu内に広く拡散していることが認められた。電極の抵抗率は、Tiを添加した実験例23〜28において、1×10
-5Ωcm〜2×10
-5Ωcmと低いが、Nb添加はこれらよりもやや抵抗が高く、実験例30の30vol%添加で1.6×10
-4Ωcmとなった。なお、実験例23〜30のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al
2O
3基体の緻密性も良好であった。
【0050】
・実験例31,32
実験例31,32は、セラミック基体の主成分を希土類金属酸化物とした例であり、焼成温度をそれぞれ1575℃、1500℃とした以外は実験例2と同様な方法によりセラミック構造体を作製した。セラミック基体の熱膨張係数は、セラミック構造体より切り出した試料を用いて実測した。両実験例とも、電極には第1の基体と同種成分のフィラーを20vol%添加したが、電極とセラミック基体との熱膨張係数差は0.3〜0.5ppm/Kと小さく、電極の抵抗率が1.4×10
-5と共に低く、良好なものが得られた。セラミック構造体より切り出したセラミック基体の試料は、Y
2O
3の嵩密度が5.00g/cm
3以上、Yb
2O
3の嵩密度が9.17g/cm
3以上で、開気孔率は共に0.03%以下で、緻密性は良好であった。また、電極の界面や近傍でのクラック等の異常も認められなかった。
【0051】
・比較例1〜5
比較例1〜5は、Al
2O
3基体に、従来より使用されている電極を埋設した例である。それぞれ、表2に記載の導電成分に、所定量のAl
2O
3フィラーを添加し、実験例1に準じた方法でセラミック構造体を作製した。なお、WC電極には焼結を促進させるための助剤として、Ni,Coをそれぞれ5vol%添加した。また、各導電成分の熱膨張係数は、文献値を採用した。比較例1〜5のいずれも、Al
2O
3基体、電極の緻密性は良好であったが、電極の熱膨張係数が小さいため、Al
2O
3フィラーを相当量電極に添加しても、Al
2O
3基体と電極との熱膨張係数差は1ppm/Kよりも大きくなってしまった。しかも、相当量のAl
2O
3フィラーが添加されたことによって電極の抵抗率は3.0×10
-5Ωcmよりも高くなってしまった。
【0052】
【表2】
【0053】
比較例1〜5の結果を踏まえると、従来技術では、アルミナや希土類金属酸化物(イットリアなど)に代表される熱膨張係数が7.5〜9.5ppm/K(特に8〜9ppm/K)のセラミック基体に対し、セラミック基体との熱膨張係数差が1ppm/K以内で、かつ、3×10
-5Ωcm以下の低抵抗率の電極を組み合わせることは困難であった。また、ヒータ電極としてより高い性能を発現できる、電極の抵抗率が2.5×10
-5Ωcm以下、あるいは1×10
-5Ωcm台を得つつ、電極の熱膨張係数を適正に調整したセラミック構造体を得ることは非常に困難であった。また、比較例で示したような電極のうち、NiやCoは磁化率の非常に高い元素である。このような磁性を帯び易い元素は、磁場を利用するようなマグネトロン式の装置においては、磁場環境に影響を与えることが懸念されるため、電極に含ませるのは可能な限り避けることが好ましい。なお、実験例1〜32に示した電極は、いずれも磁化率が小さく、磁場への影響が心配されるものではない。
【0054】
・実験例33、34
実験例33は、実験例16〜22と同様、金属成分としてAlをRuに添加し、Ru/RuAl電極を作製した例である。Alの添加量を14vol%とした以外は、実験例21と同様な条件でセラミック構造体を作製し、特性を評価した。本例では、電極中のAlの添加量を14vol%とすることでRu/RuAl電極の熱膨張係数をAl
2O
3基体の熱膨張係数と完全に一致させることができ、電極とAl
2O
3との界面でクラック等のない良好な電極埋設Al
2O
3基体が得られた。電極の抵抗率は1.3×10
-5Ωcmで低く、良好であった。実験例34では、Al
2O
3粉末に加える焼結助剤をMgO粉末0.25質量%のみとし、ホットプレス焼成温度を第1の基材の作製、積層体の作製共に1500℃とした以外は、実験例33と同様な方法でRu/RuAl電極が埋設されたAl
2O
3基体を作製した。本例においても、Al
2O
3と電極材との熱膨張係数差はゼロであり、クラックのない良好な構造体が得られた。電極抵抗率は1.1×10
-5Ωcmで低く、良好であった。
【0055】
本出願は、2014年9月16日に出願された日本国特許出願第2014−187868号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0056】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。