特許第5926870号(P5926870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5926870セラミック構造体、基板保持装置用部材及びセラミック構造体の製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5926870
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】セラミック構造体、基板保持装置用部材及びセラミック構造体の製法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20160516BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20160516BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20160516BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   H01L21/68 N
   C04B35/10 Z
   C04B35/50
   C04B41/88 C
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-557260(P2015-557260)
(86)(22)【出願日】2015年8月14日
(86)【国際出願番号】JP2015072968
【審査請求日】2015年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-187868(P2014-187868)
(32)【優先日】2014年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】西村 昇
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−163109(JP,A)
【文献】 特開2008−016795(JP,A)
【文献】 特開2007−173828(JP,A)
【文献】 特開2013−229310(JP,A)
【文献】 特開2010−248054(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/10
C04B 35/50
C04B 41/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の焼結体であるセラミック基体の表面又は内部に電極を備えたセラミック構造体であって、
前記セラミック基体の熱膨張係数は40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/Kであり、
前記電極の主成分は金属ルテニウムであ
前記電極は、金属ルテニウム以外にルテニウムアルミニウム合金を含む、
セラミック構造体。
【請求項2】
前記セラミック基体と前記電極との40〜1200℃における熱膨張係数の差の絶対値は、1.0ppm/K以下である、
請求項1に記載のセラミック構造体。
【請求項3】
前記電極は、金属ルテニウム以外に、フィラー成分を含む、
請求項1又は2に記載のセラミック構造体。
【請求項4】
前記フィラー成分が、ジルコニア、窒化チタン及び前記セラミック基体を構成する主成分物質からなる群より選ばれた少なくとも1つである、
請求項3に記載のセラミック構造体。
【請求項5】
前記電極の室温での抵抗率が3.0×10-5Ωcm以下である、
請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック構造体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミック構造体を備えた基板保持装置用部材。
【請求項7】
主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の成形体、仮焼体又は焼結体である第1の基体の一面に、主成分が金属ルテニウムであり金属ルテニウム以外にルテニウムアルミニウム合金を含む電極又は電極前駆体を配置し、その上に、主成分が前記第1の基体と同じ酸化物の成形体、仮焼体又は焼結体である第2の基体を積層して積層体とし、該積層体をホットプレス焼成することによりセラミック構造体を得る、
セラミック構造体の製法。
【請求項8】
前記第1の基体及び前記第2の基体の主成分がアルミナの場合には、前記ホットプレス焼成の焼成温度を1500℃以下に設定し、
前記第1の基体及び前記第2の基体の主成分が希土類金属酸化物の場合には、前記ホットプレス焼成の焼成温度を1600℃以下に設定する、
請求項に記載のセラミック構造体の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック構造体、基板保持装置用部材及びセラミック構造体の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板、ガラス基板、各種単結晶基板等の板状の材料を精密加工し、半導体等の素子やデバイスを製造する際に、基板保持装置が多用されている。この基板保持装置には、基板を吸着する機能を有する静電チャックや真空チャック、加熱機能を有するヒーターやこれらが組み合わされたもの等、様々な種類がある。なかでも、静電チャックやヒーターには、基板保持面を有する基体の内部に、導電性物質が電極としてパターン状に埋設され、静電力や加熱のためのジュール熱等を発生させる機能を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、各種のセラミック基体と、その内部に埋設された電極とを備えた静電チャックが開示されている。セラミック基体の材料としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、サイアロン、窒化ほう素、炭化ケイ素あるいはこれらの混合物が示されている。一方、電極の材料としては、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金などの金属、グラファイト、カーボン、炭化ケイ素、窒化チタン、炭化チタンなどのセラミック、あるいはこれらの混合物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−297265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、主成分がアルミナや希土類酸化物であるセラミック基体を用いた基板保持装置において、厚みを薄くしたいという要望がある。しかしながら、こうした基板保持装置は、例えばセラミック基体と電極とを高温で一体焼成することにより製造した場合、厚みが薄い分、セラミック基体と電極との熱膨張差によって反ってしまうという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物であるセラミック基体の表面又は内部に電極を備えたセラミック構造体において、製造時に反りが生じにくいものを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミック構造体は、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物であるセラミック基体の表面又は内部に電極を備えたセラミック構造体であって、前記セラミック基体の熱膨張係数は40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/Kであり、前記電極の主成分は金属ルテニウムであるものである。なお、「主成分」とは、50体積%以上の体積割合を占める成分又は全成分のうち最も体積割合の高い成分のことをいう。
【0008】
本発明の基板保持装置用部材は、上述したセラミック構造体を備えたものである。
【0009】
本発明のセラミック構造体の製法は、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の成形体、仮焼体又は焼結体である第1の基体の一面に、主成分が金属ルテニウムである電極又は電極前駆体を配置し、その上に、主成分が前記第1の基体と同じ酸化物の成形体、仮焼体又は焼結体である第2の基体を積層して積層体とし、該積層体をホットプレス焼成することによりセラミック構造体を得るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセラミック構造体では、セラミック基体の熱膨張係数は40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/Kである。一方、電極の主成分は金属ルテニウムであり、金属ルテニウムの熱膨張係数は40〜1200℃で7.9ppm/Kである。このように、セラミック基体と電極との熱膨張係数差が小さいため、本発明のセラミック構造体は製造時に高温でセラミック基体と電極とが一体焼成されたとしても、反りが生じにくい。
【0011】
本発明の基板保持装置用部材は、上述したセラミック構造体を備えたものであるため、このセラミック構造体によって得られる効果と同様の効果が得られる。
【0012】
本発明のセラミック構造体の製法は、上述したセラミック構造体を製造するのに適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】セラミック構造体10の斜視図。
図2図1のA−A断面図。
図3】セラミック構造体10の製造工程図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のセラミック構造体は、セラミック基体の表面又は内部に電極を備えている。
【0015】
セラミック基体は、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の焼結体であり、熱膨張係数が40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/K、好ましくは8〜9ppm/Kのものである。主成分がアルミナの場合、アルミナ以外に焼結助剤に由来する成分を含んでいてもよい。アルミナの焼結助剤としては、例えばアルカリ土類金属のフッ化物(MgF2やCaF2など)や酸化物(MgOやCaOなど)が挙げられる。アルミナの焼結助剤としてアルカリ土類金属のフッ化物を用いた場合には、焼結後もそのまま構成相として存在する分や反応して酸フッ化物となる分がある。アルミナの焼結助剤としてアルカリ土類金属の酸化物を用いた場合には、焼結後はその酸化物とアルミナとの反応物が主たる構成相となる。例えば、アルミナの焼結助剤としてMgOを用いた場合には、構成相としてMgAl24が含まれる。主成分が希土類金属酸化物の場合も、希土類金属酸化物以外に焼結助剤に由来する成分を含んでいてもよい。希土類金属酸化物の焼結助剤としては、例えば希土類金属やアルカリ土類金属のフッ化物(YF3,YbF3,CaF2など)が挙げられる。
【0016】
電極は、主成分が金属ルテニウムである。金属ルテニウムの熱膨張係数は40〜1200℃で7.9ppm/Kである。そのため、セラミック基体と電極との40〜1200℃における熱膨張係数の差の絶対値は、小さな値となる。また、金属ルテニウムの室温での抵抗率は6〜10×10-6Ωcmと低いため、例えば電極をヒータ電極として利用する場合に発熱量を精度よくコントロールしやすい。特に、基板保持装置を薄くするような場合においては、セラミック基体に形成する電極の厚みも薄くすることが望ましいため、電極の抵抗率は低いことが求められる。抵抗率に特に下限はないが、5×10-6Ωcmが現実的な限界と思われる。
【0017】
電極は、金属ルテニウム以外に、フィラー成分、他の金属元素、ルテニウムと他の金属との合金のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。その場合、セラミック基体と電極との40〜1200℃における熱膨張係数の差の絶対値が小さくなるように、フィラー成分やルテニウム以外の金属、ルテニウムと他の金属との合金を含ませるのが好ましい。こうした絶対値は1.0ppm/K以下とすることが好ましい。こうすれば、40〜1200℃におけるセラミック基体と電極と熱膨張係数差は非常に小さいため、セラミック構造体の厚みが薄くても反りはほとんど生じない。
【0018】
フィラー成分としては、ジルコニア、窒化チタン及びセラミック基体を構成する主成分物質からなる群より選ばれた少なくとも1つが好ましい。ジルコニアの熱膨張係数は、40〜1200℃で12〜12.5ppm/Kであるため、電極の熱膨張係数を高くしたい場合のフィラー成分として有用である。つまり、ジルコニアは、電極に少量添加するだけで電極の熱膨張係数を高くすることができる。更に、ジルコニアは、高温でも金属ルテニウムと反応しないか反応し難いため、金属ルテニウムの抵抗率への影響が小さく、この点でもフィラー成分として好ましい。窒化チタンの熱膨張係数は、40〜1200℃で9〜9.5ppm/Kであるため、電極の熱膨張係数を高くしたい場合のフィラー成分として有用である。窒化チタンは、導電性物質であるため、電極の抵抗率を低く抑えたい場合のフィラー成分として有用である。窒化チタンは、高温でも金属ルテニウムと反応しないか反応し難いため、金属ルテニウムの抵抗率への影響が小さく、この点でもフィラー成分として好ましい。セラミック基体を構成する主成分物質の熱膨張係数は、電極に添加することにより電極とセラミック基体との熱膨張係数差を小さくすることができる。なお、フィラー成分としては、熱膨張係数の高いMgOも使用可能であるが、セラミック基体の主成分がアルミナの場合には、高温でアルミナと反応してスピネルを生成する。スピネルは、熱膨張係数がアルミナと同等であること、絶縁性もアルミナと同等で高いこと、電極内のスピネルの体積量は添加したMgOの体積量よりも増えることに留意する必要がある。
【0019】
ルテニウム以外の他の金属としては、チタン及びニオブの少なくとも一方が好ましい。チタンやニオブは、熱膨張係数がルテニウムより高いため、電極の熱膨張係数を高くしたい場合の添加物として有用である。また、チタンやニオブは、導電性を有する成分であるため、電極の抵抗率を低く抑えたい場合の添加物として有用である。更に、チタンやニオブは、磁化率が小さいため、セラミック構造体を、磁場を利用するようなマグネトロン式の装置に用いたとしても磁場へ悪影響を与えない。
【0020】
ルテニウムと他の金属との合金としては、RuAl合金が好ましい。RuAl合金の熱膨張係数は、40〜1200℃で11ppm/K前後とルテニウムより高いため、電極の熱膨張係数を高くしたい場合の添加物として有用である。また、RuAl合金は、導電性が高いため、電極の抵抗率を低く抑えたい場合の添加物として有用である。こうした合金を電極に添加する場合には、ルテニウムと合金を作る他の金属を、焼成時にルテニウムと反応して合金が生成することを見越して添加量を定め、ルテニウムに添加してもよい。
【0021】
電極は、室温での抵抗率が3.0×10-5Ωcm以下であることが好ましい。こうすれば、電極をヒータ電極として利用する場合に発熱量を精度よくコントロールしやすい。したがって、電極の室温での抵抗率がこの数値範囲となるように、金属ルテニウムにフィラー成分やルテニウム以外の金属、ルテニウムと他の金属との合金を含ませるのが好ましい。電極をヒータ電極として利用する場合には、室温での抵抗率が2.5×10-5Ωcm以下であることがより好ましく、2.0×10-5Ωcm以下であることが更に好ましい。
【0022】
本発明のセラミック構造体の一実施形態を、図1及び図2に示す。図1はセラミック構造体10の斜視図、図2はA−A断面図である。セラミック構造体10は、円盤状のセラミック基体12の内部に電極14を内蔵したものである。セラミック基体12は、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の焼結体であり、熱膨張係数は40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/Kである。電極14は、主成分が金属ルテニウムである。電極14は、シート状に形成されていてもよいし、面全体に広がるように一筆書きの要領でパターン形成されていてもよい。更に、シート状やパターン状に形成された電極が複数個形成されていてもよい。こうしたセラミック構造体10の製法の一例を、図3に示す。この製法では、まず、第1の基体21としてセラミック焼結体を用意する(図3(a)参照)。続いて、第1の基体21の上面に電極パターン24を形成する(図3(b)参照)。続いて、その電極パターン24を覆うように、第2の基体22であるセラミック成形体を積層して積層体20とする(図3(c)参照)。そして、その積層体20をホットプレス焼成する。ホットプレス焼成後、第1の基体21と第2の基体22とが一体となってセラミック基体12となり、電極前駆体24が電極14となり、セラミック構造体10が完成する(図3(d)参照)。第1の基体21及び第2の基体22の主成分がアルミナの場合には、ホットプレス焼成の焼成温度は1500℃以下(例えば1100℃以上1500℃以下)に設定するのが好ましい。また、第1の基体21及び第2の基体22の主成分が希土類金属酸化物の場合には、ホットプレス焼成の焼成温度を1600℃以下(例えば1400℃以上1600℃以下)に設定するのが好ましい。この製法において、第1の基体21をセラミック成形体としてもよいしセラミック仮焼体としてもよい。また、第2の基体22をセラミック仮焼体としてもよいしセラミック焼結体としてもよい。また、電極14がホットプレス焼成の前後で変化しない場合には、電極前駆体24は電極14と同じものである。更に第1の基体21の代わりに、セラミック構造体10や積層体20を用いることで、電極を多層に含むセラミック構造体を作製することができる。なお、セラミック構造体10は、セラミック基体12の内部に電極14を内蔵したものを例示したが、セラミック基体12の表面に電極14を配置したものとしてもよい。
【0023】
ところで、国際公開第2013/54806号パンフレットには、酸化マグネシウムにAl,N成分が固溶したMg(Al)O(N)を主相とするセラミック基体と、その内部に埋設された電極とを備えたセラミック構造体が開示されている。この文献には、電極として、金属ルテニウムにMgOを配合したものが示されている。しかし、この文献のセラミック基体は、Mg(Al)O(N)を主相とするものであり、熱膨張係数が10.2〜12.8ppm/Kである。そのため、この点で本発明のセラミック構造体と相違する。また、電極は、セラミック基体の熱膨張係数と合わせるために金属ルテニウムに多量のMgOを配合している。MgOは絶縁体のため、これを多量に配合した電極は高抵抗となる。そのため、電極をヒータ電極として用いる場合、電極断面積を大きくしたりする必要が生じるため、発熱量を精度よくコントロールできないおそれがあり、またヒータに高電圧を印加する必要が生じるためヒータ制御用の電源に非常に大きなパワーが要求される等のおそれがある。
【0024】
本発明の基板保持装置用部材は、上述したセラミック構造体を備えたものである。基板保持装置用部材としては、半導体用のSi基板、SiC基板、GaN基板などの半導体用の基板を保持する装置に用いられる部材のほか、照明用やディスプレイ用のガラス基板を保持する装置に用いられる部材などが挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。また、純度や不純物含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0026】
(1)セラミック構造体の製法
(1−1)第1の基体の準備
(1−1−1)原料粉末の調整
Al23粉末には、市販の高純度Al23(純度99.99%以上、平均粒径0.5μm)を使用した。Al23 成形体を焼結させるための焼結助剤としては、MgF2粉末とMgO粉末を使用した。MgF2粉末には、市販のMgF2(純度99.9%以上)を粉砕して平均粒径が1μm以下になったものを使用した。MgO粉末には、市販のMgO粉末(純度99.95%以上、平均粒径1μm)を使用した。MgF2粉末及びMgO粉末の添加量は、Al23100質量%に対して、それぞれ0.3質量%及び0.1質量%とした。上述した組成となるよう秤量したAl23粉末、MgF2粉末及びMgO粉末を、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径5mmのAl23玉石を用いて4時間湿式で混合し、スラリーとした。ポットから取り出したスラリーを窒素気流中110℃で乾燥し、乾燥物を30メッシュの篩に通し、篩下の粉末を第1の基体(Al23焼結体)作製用の原料粉末とした。
【0027】
(1−1−2)円盤状成形体の作製
上記原料粉末を、200kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、直径50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製した。
【0028】
(1−1−3)円盤状成形体の焼成
上記円盤状成形体をホットプレス用の黒鉛型に収めた後、ホットプレス炉にセットし、プレス圧を200kgf/cm2とし、焼成温度(最高温度)1200℃で4時間保持し、焼結体を作製した。昇温速度及び降温速度はいずれも300℃/hrとし、昇温中の1000℃までは真空引きし、その後に窒素ガスを導入した。導入後のガス圧力は1.5atm程度になるように維持した。降温時は1000℃で温度制御を止め、炉冷した。得られた焼結体を、直径50mm、厚さ10mm程度になるよう加工し、それを第1の基体として使用するAl23焼結体とした。
【0029】
以上は、実験例1〜8,10〜30の第1の基体として使用したAl23焼結体について説明したが、実験例9ではAl23仮焼体を第1の基体として使用した。Al23仮焼体は、1−1−2に準じた方法で作製した円盤状成形体をアルゴン雰囲気下で900℃で熱処理をした後に、直径50mm、厚さ20mm程度に形状を調整したものを使用した。また、実験例31,32の第1の基体として使用したY23焼結体及びYb23焼結体については次のように作製した。実験例31では、市販の高純度Y23粉末を使用し、焼成温度を1575℃とした以外は、上記(1−1)に準じた方法でY23焼結体を作製した。また、実験例32では、市販の高純度Yb23粉末を使用し、焼成温度を1500℃とした以外は、上記(1−1)に準じた方法でYb23焼結体を作製した。なお、Y23粉末、Yb23粉末は、純度99.9%以上、平均粒径1μm以下のものを使用した。
【0030】
(1−2)電極ペーストの印刷
市販のRu粉末(純度99.9%)を粉砕し、平均粒径4μm程度にしたものを原料粉末に使用した。Ru電極に導入したフィラー成分やRu以外の金属成分については、次のものを使用した。なお、フィラー成分とは、Ruとの反応性が低い成分をいい、本発明ではセラミック成分を導入した場合を指すものとする。例えば、Al23やZrO2,TiN,Y23,Yb23などをフィラー成分と呼ぶ。一方、金属成分であるAlやTi,Nbは、フィラー成分として挙げたセラミック成分よりもRuと反応しやすく、例えばAlの場合はRuAl合金(モル比でRu:Al=1:1)となり、またNbの場合はRuに固溶する分が明らかに認められるため、総じてRu以外の金属成分と呼ぶこととする。フィラー成分に用いたAl23,Y23,Yb23としては、第1の基体で使用したものと同じものを用いた。ZrO2としては、純度99.9%、平均粒径1μm以下の市販品を用いた。TiNとしては、酸素を除く不純物含有量が0.1%以下で平均粒径が0.9μmの市販品を用いた。Alとしては、高純度Al粉末で#500以下の市販品を用いた。Tiとしては、純度99.9%で平均粒径が10μmの市販品を用いた。Nbとしては、純度99%で平均粒径が20μmの市販品を用いた。Ru粉末と各種フィラー成分あるいはRu以外の金属成分とを、表1に記載の割合になるよう秤量し、バインダとしてポリメタクリル酸−n−ブチル、有機溶媒としてブチルカルビトールを使用し、印刷用の電極ペーストとした。
【0031】
印刷用の電極ペーストを、上記(1−1−3)で得られた焼結体の上面にスクリーンを通して幅5mm×長さ15mmの大きさで印刷した(実験例1〜8,10〜32)。このとき、電極ペーストの印刷厚さは50〜100μmとし、印刷後、大気中、100℃で1時間乾燥させた。なお、実施例9では、第1の基体として、混合粉末の円盤状成形体を不活性雰囲気中で900℃で熱処理したものを用い、この成形体の一面に電極ペーストを印刷した。
【0032】
(1−3)第2の基体の配置
上記(1−2)までで作製した第1の基体の電極ペースト印刷面の上に、第2の基体を重ね、積層体とした。実験例1〜9,11〜30では、第2の基体として上記(1−1−2)で得られたAl23 成形体を使用した。実験例10では、第2の基体として、上記(1−1−3)で得られたAl23焼結体を使用した。実験例31,32では、第2の基体として、上記(1−1−3)のY23焼結体及びYb23焼結体を得る前の成形体を使用した。
【0033】
(1−4)焼成一体化
上記(1−3)で作製した積層体をホットプレス炉に収め、上記(1−1−3)と基本的に同じ条件でホットプレス焼成し、積層体を一体化することにより、セラミック基体の内部に焼結電極を備えたセラミック構造体を得た。但し、各実験例における焼成温度(最高温度)は、表1に記載したとおりとした。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)セラミック構造体の評価項目
・単体の熱膨張係数
Ru単体の熱膨張係数は、Ru粉砕粉末の焼結体を作製し、JIS−R1618に準じた方法により測定した。ここでは、セラミック基体と電極ペーストとを焼成によって一体化した後の熱膨張係数の不一致によって生じる歪みを問題視しているため、熱膨張係数の温度範囲を40〜1200℃(1200℃は実験例1〜30における最低の焼成温度)とした。1200℃を超える焼成温度で作製された構造体においては、このような高温下でセラミック材料がホットプレスによって荷重負荷されると、Ruを主成分とする金属系の電極材料だけでなくセラミック材料も幾分塑性変形をすることによって熱膨張係数の不一致等によって生じる歪みが緩和されるものと考えられる。そのため、熱膨張係数の温度範囲を40〜1200℃とした。Al23の熱膨張係数は、Al23のセラミック基体から切り出したAl23焼結体試料を用い、JIS−R1618に準じた方法により測定した。なお、Al23フィラーの熱膨張係数もこれと同じ値とした。フィラー成分やRu以外の金属の熱膨張係数は、文献に報告された値、あるいは、Al23と同様に焼結体を作製し、JIS−R1618に準じた方法により測定した値を用いた。これら単体の熱膨張係数は、表1に記載の通りである。
【0036】
・電極の熱膨張係数
個々の電極の40〜1200℃での熱膨張係数は、使用した材料単体の40〜1200℃での熱膨張係数と電極の調合割合から計算によって求めた。その結果を表1に記載した。
【0037】
・熱膨張係数差
セラミック基体と電極との40〜1200℃での熱膨張係数差を、絶対値として算出した。
【0038】
・電極の抵抗率
作製したセラミック構造体から、幅9mm×長さ9mm×厚さ6mm程度の直方体状で、中央に電極が幅5mm×長さ9mm程度に内蔵されるよう、試験片を切り出した。なお、電極の端面は、試験片の両端面に幅5mmで露出されるようにし、顕微鏡によって電極の幅と厚さを計測し、電極端面の断面積S(cm2)を求めた。また、ノギスによって電極の長さL(cm)を測定し、抵抗率の算出に使用した。抵抗測定用の回路は、電極の両端面に導電性ペーストを塗布した上でリード線を接続して構成し、大気中、室温で微小電流I(mA)を0〜150mAの範囲で流し、その際に発生する微小電圧値V(mV)を測定し、電極の抵抗R(Ω)をR=V/Iより求めた。その後、電極の電気抵抗率ρ(Ωcm)を、ρ=R×S/Lより算出した。
【0039】
・微構造
得られた部材の切断面を鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)及び電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用い、電極、セラミック基体の界面やその周辺等の微構造を観察した。
【0040】
・焼結体密度、開気孔率
棒状に切り出した試料を用い、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
【0041】
(3)セラミック構造体の評価結果
以下、各実験例の評価結果について説明する。
【0042】
・実験例1
上側から順に、Al23成形体(第2の基体)/Ru100%電極/Al23焼結体(第1の基体)のように積層した積層体を、1200℃で4時間ホットプレス焼成し、セラミック構造体を作製した例である。セラミック基体と電極との熱膨張係数差は0.7ppm/Kで小さく、断面観察においても界面やその近傍でクラック発生等の異常は認められなかった。電極の抵抗率は1.3×10-5Ωcmで非常に小さく、ヒータ用の電極として十分機能することがわかった。なお、第1の基体、第2の基体より切り出したAl23焼結体は、嵩密度が3.97g/cm3以上、開気孔率が0.02%以下であり、十分な緻密性を有していた。
【0043】
・実験例2〜4
実験例2では、電極にAl23フィラーを添加し、電極組成をRu90vol%、Al2310vol%とした以外は、実験例1と同様な条件で部材を作製した。実験例3,4では、Al23フィラーの添加量を実験例2よりも増やした。Al23フィラーの熱膨張係数はRuよりも大きいため、Al23フィラーの添加量が多くなるにつれて電極の熱膨張係数は大きくなり、Al23基体の熱膨張係数に近づいた。これらの例では、電極の熱膨張係数が8.0〜8.2ppm/Kであり、Al23との熱膨張係数差は0.6〜0.4ppm/Kに小さくなった。電極の抵抗率は1.6×10-5〜2.8×10-5Ωcmであり、フィラーの添加量が増えるにつれて高くはなるが、実験例4の40vol%でも2.8×10-5Ωcmで非常に小さく良好であった。また、実験例1と同様、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、Al23基体の緻密性も良好であった。
【0044】
・実験例5〜8
実験例5〜8では、Al23フィラーの添加量、焼成温度を変えた以外、実験例2と同様な方法によってセラミック構造体を作製した。実験例5はAl23フィラーを20vol%とし、1300℃で焼成した例であるが、電極の抵抗率は同組成の1200℃焼成材料(実験例3)よりもやや低下し、1.6×10-5Ωcmで良好であった。実験例6は、Al23フィラーを加えず、1500℃で焼成した例であるが、電極の抵抗率は1.0×10-5Ωcmで、実験例1〜30のなかで最も低抵抗であった。Al23フィラーを20,40vol%添加した実験例7,8においても、それぞれ抵抗率は1.5×10-5,2.1×10-5Ωcmで良好であった。また、実験例5〜8のいずれも、実験例1と同様、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、Al23基体の緻密性も良好であった。なお、実験例6〜8と実験例1,3,4とを比較すると、焼結温度1500℃の実験例6〜8の方が焼結温度1200℃の実験例1,3,4と比べて電極の抵抗率が低くなったが、その理由は1500℃では電極の焼結がよく進むと共に、個々の粒子が大きくなり、粒界での抵抗が減少したことによると推察される。
【0045】
・実験例9,10
第1の基体として、実験例9ではAl23仮焼体を用い、実験例10ではAl23焼結体を用いた以外は、実験例5と同様な方法によってセラミック構造体を作製した。実験例9,10における電極の抵抗率は、それぞれ1.6×10-5,1.5×10-5Ωcmであり、低抵抗で良好であった。実験例9のように第1の基体として仮焼体を用いた場合には、セラミック構造体を作製するための高温での焼成(本焼成)を1回で済ますことが可能になり、製造工程を短くできるメリットがある。実験例10のように第1の基体として焼結体を用いた場合には、電極面の平坦性を一層高めることが可能になる。そのため、実験例10のセラミック構造体を、ウエハーを保持するセラミックヒータとして利用した場合に温度均一性が一層高まることが期待される。
【0046】
・実験例11〜13
実験例11では、フィラーにZrO2を用いた以外は、実験例2と同様な方法でセラミック構造体を作製した。ZrO2の熱膨張係数は、文献より、12.2ppm/Kと推定した。ZrO2は熱膨張係数が高いため、実験例11のように16vol%の添加によって熱膨張係数差を0.0ppm/Kにすることができ、電極の熱膨張係数とAl23基体の熱膨張係数とを完全に一致させることができた。実験例12は、焼成温度を1300℃とした以外は実験例11と同様な方法でセラミック構造体を作製した例であり、ここでも、熱膨張係数を完全に一致させたセラミック構造体を作製することができた。実験例13では、ZrO2の添加量を22vol%、焼成温度を1300℃とした以外は実験例11と同様な方法でセラミック構造体を作製した。この実験例13は、電極の熱膨張係数をAl23の熱膨張係数よりも大きくした例である。実験例11〜13のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al23基体の緻密性も良好であった。電極の抵抗も1.5×10-5〜1.8×10-5Ωcmと低く、良好であった。
【0047】
・実験例14,15
実験例14では、フィラーにTiNを用いた以外は、実験例2と同様な方法でセラミック構造体を作製した。実験例15では、TiNの添加量を30vol%とした以外は、実験例14と同様な方法でセラミック構造体を作製した。TiNの熱膨張係数は、作製した焼結体の測定より、9.4ppm/Kであった。TiNは導電性の物質であるため、実験例14の電極の抵抗率はAl23フィラーが同添加量である実験例2の場合よりも低く、1.4×10-5Ωcmであった。また、実験例15の電極の抵抗率は1.8×10-5Ωcmであったが、Al23フィラーが20vol%と少ない実験例3よりも抵抗率は低かった。実験例14,15のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al23基体の緻密性も良好であった。
【0048】
・実験例16〜22
実験例16〜22では、電極の熱膨張係数を調整するために金属成分としてAlをRuに添加し、AlとRuとの反応によってRuAl合金を電極内に生成させ、Ru/RuAl電極とした。セラミック構造体の基本的な作製方法は、実験例2に準じた。RuAl合金の熱膨張係数及び密度は、焼結体での実測により、10.9ppm/K、7.97g/cm3と分かっており、添加したAlのすべてがRuと反応してRuAl合金になると想定し、Alの添加量を設定した。表1の備考欄には、電極中のRuAl合金の量をvol%で示した。RuAl合金は導電性が高く、かつ、熱膨張係数も大きい材料であることから、実験例16〜22に示すように少量のAlの添加でAl23基体の熱膨張係数に近づけることができ、かつ、電極の抵抗率を1×10-5〜2×10-5Ωcmと低くすることができた。特に、実験例16,18、21において、11vol%のAlを添加しRuAl合金を18vol%生成させることによって、電極の熱膨張係数をAl23基体との熱膨張係数差で0.2ppm/Kまで近づけることができた。実験例16〜22のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al23基体の緻密性も良好であった。
【0049】
・実験例23〜30
実験例23〜28では、金属成分としてTiを添加し、実験例29,30では、金属成分としてNbを添加した。実験例23〜30では、実験例2に準じた方法でセラミック構造体を作製した。実験例23〜30においても、電極の熱膨張係数をAl23基体の熱膨張係数に近づけることができ、かつ、TiやNbは熱膨張係数が高く導電性を有する成分であることから、抵抗率の低い電極が得られた。特に、実験例24,27では、電極の熱膨張係数をAl23基体の熱膨張係数と完全に一致させることができた。TiやNbはRuに固溶し易い成分であるが、電極のEPMAによる元素分布解析から、特にNbがRu内に広く拡散していることが認められた。電極の抵抗率は、Tiを添加した実験例23〜28において、1×10-5Ωcm〜2×10-5Ωcmと低いが、Nb添加はこれらよりもやや抵抗が高く、実験例30の30vol%添加で1.6×10-4Ωcmとなった。なお、実験例23〜30のいずれにおいても、電極の界面やその近傍でのクラック発生等の異常はなく、かつ、Al23基体の緻密性も良好であった。
【0050】
・実験例31,32
実験例31,32は、セラミック基体の主成分を希土類金属酸化物とした例であり、焼成温度をそれぞれ1575℃、1500℃とした以外は実験例2と同様な方法によりセラミック構造体を作製した。セラミック基体の熱膨張係数は、セラミック構造体より切り出した試料を用いて実測した。両実験例とも、電極には第1の基体と同種成分のフィラーを20vol%添加したが、電極とセラミック基体との熱膨張係数差は0.3〜0.5ppm/Kと小さく、電極の抵抗率が1.4×10-5と共に低く、良好なものが得られた。セラミック構造体より切り出したセラミック基体の試料は、Y23の嵩密度が5.00g/cm3以上、Yb23の嵩密度が9.17g/cm3以上で、開気孔率は共に0.03%以下で、緻密性は良好であった。また、電極の界面や近傍でのクラック等の異常も認められなかった。
【0051】
・比較例1〜5
比較例1〜5は、Al23基体に、従来より使用されている電極を埋設した例である。それぞれ、表2に記載の導電成分に、所定量のAl23フィラーを添加し、実験例1に準じた方法でセラミック構造体を作製した。なお、WC電極には焼結を促進させるための助剤として、Ni,Coをそれぞれ5vol%添加した。また、各導電成分の熱膨張係数は、文献値を採用した。比較例1〜5のいずれも、Al23基体、電極の緻密性は良好であったが、電極の熱膨張係数が小さいため、Al23フィラーを相当量電極に添加しても、Al23基体と電極との熱膨張係数差は1ppm/Kよりも大きくなってしまった。しかも、相当量のAl23フィラーが添加されたことによって電極の抵抗率は3.0×10-5Ωcmよりも高くなってしまった。
【0052】
【表2】
【0053】
比較例1〜5の結果を踏まえると、従来技術では、アルミナや希土類金属酸化物(イットリアなど)に代表される熱膨張係数が7.5〜9.5ppm/K(特に8〜9ppm/K)のセラミック基体に対し、セラミック基体との熱膨張係数差が1ppm/K以内で、かつ、3×10-5Ωcm以下の低抵抗率の電極を組み合わせることは困難であった。また、ヒータ電極としてより高い性能を発現できる、電極の抵抗率が2.5×10-5Ωcm以下、あるいは1×10-5Ωcm台を得つつ、電極の熱膨張係数を適正に調整したセラミック構造体を得ることは非常に困難であった。また、比較例で示したような電極のうち、NiやCoは磁化率の非常に高い元素である。このような磁性を帯び易い元素は、磁場を利用するようなマグネトロン式の装置においては、磁場環境に影響を与えることが懸念されるため、電極に含ませるのは可能な限り避けることが好ましい。なお、実験例1〜32に示した電極は、いずれも磁化率が小さく、磁場への影響が心配されるものではない。
【0054】
・実験例33、34
実験例33は、実験例16〜22と同様、金属成分としてAlをRuに添加し、Ru/RuAl電極を作製した例である。Alの添加量を14vol%とした以外は、実験例21と同様な条件でセラミック構造体を作製し、特性を評価した。本例では、電極中のAlの添加量を14vol%とすることでRu/RuAl電極の熱膨張係数をAl23基体の熱膨張係数と完全に一致させることができ、電極とAl23との界面でクラック等のない良好な電極埋設Al23基体が得られた。電極の抵抗率は1.3×10-5Ωcmで低く、良好であった。実験例34では、Al23粉末に加える焼結助剤をMgO粉末0.25質量%のみとし、ホットプレス焼成温度を第1の基材の作製、積層体の作製共に1500℃とした以外は、実験例33と同様な方法でRu/RuAl電極が埋設されたAl23基体を作製した。本例においても、Al23と電極材との熱膨張係数差はゼロであり、クラックのない良好な構造体が得られた。電極抵抗率は1.1×10-5Ωcmで低く、良好であった。
【0055】
本出願は、2014年9月16日に出願された日本国特許出願第2014−187868号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【0056】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、半導体等の素子やデバイスを製造する際に用いられる基板保持装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 セラミック構造体、12 セラミック基体、14 電極、20 積層体、21 第1の基体、22 第2の基体、24 電極パターン。
【要約】
セラミック構造体10は、円盤状のセラミック基体12の内部に電極14を内蔵したものである。セラミック基体12は、主成分がアルミナ又は希土類金属酸化物の焼結体であり、熱膨張係数は40〜1200℃で7.5〜9.5ppm/Kである。電極14は、主成分が金属ルテニウムである。電極14は、シート状に形成されていてもよいし、面全体に広がるように一筆書きの要領でパターン形成されていてもよい。
図1
図2
図3