【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両のフロント側のバンパービーム14の近傍を車両の上方から見た概略平面図である。クラッシュボックス10は、サイドメンバー12Rとバンパービーム14の右端部との間に配設されて使用されるもので、
図1は車両の右側半分を示す平面図であり、左側半分は中心線を挟んで対称的に構成される。クラッシュボックス10は、平板状の複数の側壁を有する断面多角形状の中空の筒状体22と、その筒状体22の軸方向(軸心Sの方向)の両端部にそれぞれ一体的に溶接固定された一対の取付プレート24、26とを備えており、筒状体22の軸心Sが車両の前後方向と略平行になる姿勢でサイドメンバー12Rとバンパービーム14との間に配設され、取付プレート24、26を介して図示しないボルト等によりそれ等のサイドメンバー12R、バンパービーム14に一体的に固定される。サイドメンバー12Rは車体側部材で、バンパービーム14はバンパー部材である。
【0026】
上記筒状体22の軸方向の両端縁は、それぞれその端縁の全周に亘って取付プレート24、26に密着させられ、アーク溶接等により一体的に固設されている。
図1では、取付プレート24、26共に筒状体22の軸心Sに対して略直角になる姿勢で取り付けられているが、例えばバンパービーム14の取付部分が傾斜している場合には、筒状体22の端縁を軸心Sに対して傾斜させ、その傾斜端縁に密着するように取付プレート26を傾斜させた姿勢で固設することもできる。このようなクラッシュボックス10は、車両前方から衝撃が加えられて軸圧縮荷重を受けると、筒状体22が蛇腹状に圧壊させられ、その変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。この蛇腹状の圧壊は、筒状体22が軸方向の多数箇所で連続的に座屈(V字状の折れ曲がり)することによって生じる現象で、通常はバンパービーム14側すなわち入力側から座屈が開始し、時間の経過と共に車体側へ進行する。バンパービーム14は、バンパーのリインフォースメント(補強部材)および取付部材として機能するもので、図示しない、合成樹脂等から成るバンパーフェイシアが一体的に取り付けられるようになっている。
【0027】
図2は、クラッシュボックス10の軸方向と直角な断面形状を示す図で、
図1におけるII−II矢視部分の拡大断面図である。また、
図3は、クラッシュボックス10を単独で示す斜視図である。筒状体22は、軸方向に対して直角な断面が上下方向に長い扁平な多角形状、具体的には上下に長い長方形の4つの角部に平面取りを施した八角形状を基本形状としており、全体として8の字形状乃至瓢箪形状の断面形状を成している。すなわち、その基本形状の長辺を構成している略垂直で互いに平行な一対の幅広側壁30、31と、その幅広側壁30、31の上下の両端からそれぞれ内側へ斜めに傾斜するように設けられた4箇所の傾斜側壁34、35と、基本形状の短辺を構成するように長手方向(長軸A方向)の両端に長手方向と直角に設けられて左右の傾斜側壁34、35を接続している略水平で互いに平行な一対の幅狭側壁36、37とを備えている。そして、幅広側壁30、31の幅方向の中央部分、すなわち
図2における上下方向の中央の略水平な短軸B部分には、長軸Aに対して対称的すなわち左右対称形状となるように、それぞれ筒形状の内側へ凹む一対の凹溝32、33が設けられている。凹溝32、33は、先端部すなわち溝底側へ向かうに従って幅寸法が狭くなる台形形状の断面で、軸心Sと平行に筒状体22の軸方向の全長に亘って設けられている。長軸Aおよび短軸Bは、何れも
図2に示す断面形状に基づいて定められ、左右両側の一対の長辺である幅広側壁30、31と平行で且つそれ等の幅広側壁30、31の間の中心線が長軸Aであり、上下両端の一対の短辺である幅狭側壁36、37と平行で且つそれ等の幅狭側壁36、37の間の中心線が短軸Bである。軸心Sは、これ等の長軸Aと短軸Bとの交点であり、本実施例ではこの軸心S方向(軸方向)の全長に亘って
図2に示す一定の断面形状で構成されている。
【0028】
上記筒状体22は、断面八角形の上下両端部に位置する互いに平行な一対の幅狭側壁36、37の各々の車幅方向外側の一対の外上稜線部40および外下稜線部42で2つに分割されており、それぞれプレス加工によって成形された一対の半割体44、46によって構成されている。すなわち、車幅方向内側に位置する内側半割体44は、凹溝32が設けられた幅広側壁30、その幅広側壁30の上下両端から斜めに車幅方向外側へ延び出す一対の傾斜側壁34、およびその一対の傾斜側壁34の端部から水平に延び出す一対の幅狭側壁36、37を一体に備えている。また、車幅方向外側に位置する外側半割体46は、凹溝33が設けられた幅広側壁31、およびその幅広側壁31の上下両端から車幅方向内側へ斜めに延び出す一対の傾斜側壁35を一体に備えている。
【0029】
上記内側半割体44、外側半割体46はまた、その両側端部、すなわち稜線部40、42を構成する部分に、互いに重ね合わされてスポット溶接、アーク溶接等により一体的に接合される接合部を有し、その接合部によって筒状体22の外側へ突き出す一対の上フランジ48および下フランジ50が形成される。上フランジ48、下フランジ50は平板状のリブ状突出部で、短軸Bに対して対称的すなわち上下対称形状となるように突き出しており、一定の突出寸法tで筒状体22の軸方向の全長に亘って連続して設けられている。この上フランジ48および下フランジ50の軸方向の両端縁は、それぞれ前記取付プレート24、26に密着するように突き当てられ、溶接等によりそれ等の取付プレート24、26に一体的に固定されている。外上稜線部40および外下稜線部42は複数の外側稜線部に相当し、上フランジ48および下フランジ50は複数のフランジに相当する。
【0030】
上フランジ48について具体的に説明すると、
図2に示す断面において稜線部40を挟んで隣接する一対の側壁35、36に対して何れも60°を超える角度を有するとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられ、車幅方向外側の斜め上方へ突き出すように設けられている。すなわち、上フランジ48と傾斜側壁35との間の交差角度αが60°より大きく、上下方向の垂線からの傾斜角度βが15°以上である。本実施例では、外上稜線部40の内角θ≒135°で、交差角度α≒105°、傾斜角度β≒30°である。また、突出寸法tは8mm以上が適当で、本実施例では約12mmである。下フランジ50は上フランジ48と対称形状を成しており、各部の角度や寸法は上フランジ48と同じである。なお、筒状体22の高さ寸法Hは約100mm、幅寸法Wは約60mm、軸方向長さは約140mmであり、一対の半割体44、46の板厚は約1.0mm、取付プレート24、26の板厚は約2.0mmである。
図1〜
図3における各部の寸法や角度、寸法比は、必ずしも正確なものではない。
【0031】
ここで、
図4に示すようにバリア角度γで傾斜した衝突面62を有する衝突バリア60に対して車速V1で車両の右側前部を衝突させるオフセット衝突試験を行い、FEM解析によりクラッシュボックス10の圧縮ストロークに対する軸方向の荷重変化特性および吸収エネルギー特性を調べた結果を説明する。今回の衝突試験では、バリア角度γ≒15°で、車速V1≒16km/hである。また、本発明品(クラッシュボックス10)の他に、
図5に示すように前記フランジ48、50を備えていない従来品70、および
図6に示すように本発明のクラッシュボックス10と左右反対でフランジ48、50が車幅方向内側に設けられた比較品72についても同じ条件で試験を行った。
図6の比較品72は、フロント左側のクラッシュボックスとして用いる場合、本発明品と見做すことができる。
【0032】
図7および
図8は、圧縮ストロークに対する軸方向荷重および吸収エネルギーの特性を、本発明品、比較品、および従来品について比較して示した図である。吸収エネルギーは、軸方向荷重の積分値に対応する。これ等の図から明らかなように、本発明品では軸方向荷重が圧壊過程の終盤まで高いレベルで比較的安定しており、従来品や比較品に比べて吸収エネルギーが大きくなり、優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。比較品は、圧壊中盤の圧縮ストロークST1付近で横倒れが生じ、軸方向荷重が低下して十分な衝撃エネルギー吸収性能が得られない。
【0033】
上記試験結果について、
図9、
図10を参照して検討する。
図9および
図10は、クラッシュボックスを上方から見た平面視の状態の荷重説明図で、点aはクラッシュボックスの基端側の車幅方向外側の支持点、点bは車幅方向内側の支持点であり、荷重F1、F2は各支持点a、bの車両前側の真正面の入力荷重である。そして、これ等の入力荷重F1、F2に基づいて、支持点a、bまわりにそれぞれモーメント荷重Ma、Mbが生じ、全体として左回り方向(車幅方向内側向き)のモーメント荷重が発生する。その場合に、本発明品では車幅方向外側の上下の稜線部40、42に一対のフランジ48、50が設けられているため、車幅方向外側部分の剛性が高くなり、右側の入力荷重F1が左側の入力荷重F2に比較して相対的に大きくなる。特に入力荷重F1の軸方向分力f1aが大きくなる。この軸方向分力f1aは、車幅方向内側の支持点bに対しては右回り方向のモーメントとして作用するため、その支持点bの左回り方向のモーメント荷重Mbが小さくなり、或いはマイナスになって右回り方向に作用する。車幅方向外側の支持点aの左回り方向のモーメント荷重Maは、軸方向と直角な方向の分力f1pの増加で多少大きくなるものの、分力f1pの変化は軸方向分力f1aの変化に比べて小さいとともに、支持点aと支持点bの間では支持点bに向かうに従って軸方向分力f1aの影響が大きくなるため、全体として左回り方向のモーメント荷重が低減され、クラッシュボックスの横倒れが抑制されると考えられる。これに対し、車幅方向内側にフランジ48、50が設けられた比較品は、車幅方向内側部分の剛性が高くなり、左側の入力荷重F2が右側の入力荷重F1に比較して相対的に大きくなるため、左回り方向のモーメント荷重が大きくなり、従来品よりも更に横倒れが生じ易くなったと考えられる。
【0034】
また、
図11に示すように前記交差角度αおよび傾斜角度βが異なる6種類の試験品(本発明品)No1〜No6を用意し、上記と同じ条件でオフセット衝突試験を行って、FEM解析により荷重変化特性および吸収エネルギー特性を調べたところ、
図12および
図13に示す結果が得られた。何れの試験品No1〜No6も荷重変化特性が比較的安定しており、優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られるが、交差角度αが60°の試験品No6(細い破線)については、圧壊終盤の圧縮ストロークST2付近で横倒れが発生した。また、傾斜角度βが15°の試験品No1(太い実線)については、明確な横倒れは認められなかったものの、圧壊終盤で軸方向荷重や衝撃エネルギー吸収性能が若干低下した。
【0035】
このように、本実施例のクラッシュボックス10においては、筒状体22の複数の稜線のうち車幅方向外側の一対の稜線部40、42のみにフランジ48、50が筒状体22の軸方向の全長に亘って設けられているため、その筒状体22の車幅方向外側部分の圧縮荷重に対する剛性が高くなる。これにより、車両の斜め外側から衝撃荷重Fが加えられるオフセット衝突の場合でも、車両内側方向へ向かうモーメント荷重が低減されて横倒れが抑制され、優れた衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるようになる。
【0036】
また、筒状体22が一対の半割体44、46にて構成されているとともに、その一対の半割体44、46の両側端部に、互いに重ね合わされて一体的に接合されることにより筒状体22の外側へ突き出す一対の上フランジ48および下フランジ50が設けられる。このため、複数のフランジ48、50を有する筒状体22をプレス加工や溶接などで簡単且つ安価に製造できるとともに、押出し成形で製造する場合に比較して材料や形状の制約が少なく、フランジ48、50を後から溶接等で固設する場合に比較して材料の歩留りが高くなる。
【0037】
また、上下のフランジ48、50が何れも稜線部40、42を挟んで隣接する一対の側壁35および36、或いは35および37に対して60°を超える角度を有して設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられているため、筒状体22の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、一対の上フランジ48および下フランジ50が設けられることにより、筒状体22の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、それ等のフランジ48、50を上記角度で設けることにより筒状体22の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【0038】
また、複数のフランジ48、50が筒状体22の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法tで設けられているため、車幅方向外側部分の剛性を高くして耐横倒れ性能を適切に向上させることができる。
【0039】
また、本実施例の筒状体22は断面が扁平な八角形状を成しているとともに、左右両側の一対の幅広側壁30、31に凹溝32、33が設けられている場合で、複数のフランジ48、50は上下両端部に位置する一対の幅狭側壁36、37の各々の車幅方向外側の一対の稜線部40、42に設けられているため、筒状体22の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、複数のフランジ48、50が設けられることにより、筒状体22の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、圧壊に関与する凹溝32、33から離れた上下両端の稜線部40、42にフランジ48、50が設けられているため、凹溝32、33による筒状体22の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。