特許第5926875号(P5926875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926875
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】クラッシュボックス
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20160516BHJP
   B60R 19/34 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   F16F7/00 J
   B60R19/34
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-119474(P2013-119474)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-238103(P2014-238103A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】神谷 啓介
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−327463(JP,A)
【文献】 特開2010−149771(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第19540787(DE,A1)
【文献】 特開2002−155981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R19/00−19/56
F16F7/00−7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の複数の側壁を有する断面が多角形状の筒状体を備えており、該筒状体の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で配設され、該軸方向に圧縮荷重を受けることにより該軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスにおいて、
前記筒状体には、前記複数の側壁の境界に位置する複数の稜線のうち車幅方向外側に位置する複数の外側稜線部のみに、該筒状体の外側へ突き出す複数のフランジが該筒状体の軸方向の全長に亘って設けられている一方、
前記筒状体は、前記複数の側壁の境界に位置する複数の稜線のうち車幅方向外側の上下に位置する一対の外上稜線部および外下稜線部で分割された一対の半割体にて構成されているとともに、
該一対の半割体のうち前記一対の外上稜線部および外下稜線部に位置する両側端部には、それぞれ互いに重ね合わされて一体的に接合されるとともに前記筒状体の外側へ突き出す接合部が設けられており、該接合部によって前記複数のフランジとして機能する一対の上フランジおよび下フランジが構成されており、
前記上フランジは前記筒状体の軸方向と直角な断面において車幅方向外側の斜め上方へ突き出すように設けられ、前記下フランジは前記筒状体の軸方向と直角な断面において車幅方向外側の斜め下方へ突き出すように設けられている
ことを特徴とするクラッシュボックス。
【請求項2】
前記上フランジは、前記外上稜線部を挟んで隣接する一対の側壁に対して何れも60°を超える角度で設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられており、
前記下フランジは、前記外下稜線部を挟んで隣接する一対の側壁に対して何れも60°を超える角度で設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられている
ことを特徴とする請求項1に記載のクラッシュボックス。
【請求項3】
前記上フランジおよび前記下フランジは、前記筒状体の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法で設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のクラッシュボックス。
【請求項4】
前記筒状体は、該筒状体の軸方向と直角な断面が車両上下方向に長い扁平な八角形状で、車幅方向の左右両側に互いに平行に一対の幅広側壁を備えているとともに、該一対の幅広側壁には左右対称に該筒状体の内側へ凹む凹溝が該筒状体の軸方向と平行に設けられており、
面八角形状の前記筒状体の上下両端部に位置する互いに平行な一対の幅狭側壁の各々の車幅方向外側の一対の稜線部が前記外上稜線部および前記外下稜線部である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のクラッシュボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッシュボックスに係り、特に、車両の斜め前方或いは斜め後方から衝撃荷重を受けた場合の衝撃エネルギー吸収性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平板状の複数の側壁を有する断面が多角形状の筒状体を備えており、その筒状体の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で配設され、その軸方向に圧縮荷重を受けることによりその軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスが知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、筒状体の外周面には複数のフランジが筒状体の軸方向に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−155981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなフランジを有するクラッシュボックスにおいても、例えば図4に示すオフセット衝突では横倒れが生じ易くなり、衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる場合があった。すなわち、図4の例では、車両右側のクラッシュボックスには斜め右前方から衝撃荷重が加えられるため、例えば図9図10に示すように衝撃荷重Fに基づいてモーメント荷重Ma、Mbが発生し、車両の内側(図9図10における左方向)へ横倒れする可能性がある。
【0005】
図9および図10は、クラッシュボックスを上方から見た平面視の状態の入力荷重の説明図で、点aはクラッシュボックスの基端側の車幅方向外側の支持点、点bは車幅方向内側の支持点であり、荷重F1、F2は各支持点a、bの軸方向正面の入力荷重である。そして、支持点aについては、図9に示すように入力荷重F1、F2が何れも左回り方向に作用し、左回り方向のモーメント荷重Maが生じる。入力荷重F1の軸方向分力f1aはモーメント荷重Maに関与しないが、他の分力f1p、f2a、f2pは何れも左回り方向に作用する。支持点bについては、図10に示すように入力荷重F2は左回り方向に作用するものの、入力荷重F1は右回り方向に作用し、それ等の合力でモーメント荷重Mbが定まる。入力荷重F2の軸方向分力f2aはモーメント荷重Mbに関与しないが、入力荷重F1の軸方向分力f1aは右回り方向に作用し、軸方向と直角な分力f1p、f2pは何れも左回り方向に作用する。すなわち、モーメント荷重Mbは、支持点a、b間の距離やバリア角度γによって右回り方向に作用する場合もあるが(Mb<0)、その大きさはモーメント荷重Maに比べて十分に小さく、支持点a、bを含めてクラッシュボックスに作用する全体のモーメント荷重は左回り方向に作用する。特許文献1では筒状体の外側に複数のフランジが設けられているが、車幅方向の左右両側に略対称的に設けられるため、単に軸方向の剛性が高くなるだけで、斜め方向からの衝撃荷重Fに起因する上記モーメント荷重を低減する作用は得られない。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、車両の斜め横方向から衝撃荷重が加えられた場合の耐横倒れ性能を向上させて、優れた衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、平板状の複数の側壁を有する断面が多角形状の筒状体を備えており、その筒状体の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で配設され、その軸方向に圧縮荷重を受けることによりその軸方向に蛇腹状に圧壊させられて衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスにおいて、(a) 前記筒状体には、前記複数の側壁の境界に位置する複数の稜線のうち車幅方向外側に位置する複数の外側稜線部のみに、その筒状体の外側へ突き出す複数のフランジがその筒状体の軸方向の全長に亘って設けられている一方、(b) 前記筒状体は、前記複数の側壁の境界に位置する複数の稜線のうち車幅方向外側の上下に位置する一対の外上稜線部および外下稜線部で分割された一対の半割体にて構成されているとともに、(c) その一対の半割体のうち前記一対の外上稜線部および外下稜線部に位置する両側端部には、それぞれ互いに重ね合わされて一体的に接合されるとともに前記筒状体の外側へ突き出す接合部が設けられており、その接合部によって前記複数のフランジとして機能する一対の上フランジおよび下フランジが構成されており、(d) 前記上フランジは前記筒状体の軸方向と直角な断面において車幅方向外側の斜め上方へ突き出すように設けられ、前記下フランジは前記筒状体の軸方向と直角な断面において車幅方向外側の斜め下方へ突き出すように設けられていることを特徴とする。
【0009】
発明は、第1発明のクラッシュボックスにおいて、(a) 前記上フランジは、前記外上稜線部を挟んで隣接する一対の側壁に対して何れも60°を超える角度で設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられており、(b) 前記下フランジは、前記外下稜線部を挟んで隣接する一対の側壁に対して何れも60°を超える角度で設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられていることを特徴とする。
【0010】
発明は、第1発明または第2発明のクラッシュボックスにおいて、前記上フランジおよび前記下フランジは、前記筒状体の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法で設けられていることを特徴とする。
【0011】
発明は、第1発明〜第発明の何れかのクラッシュボックスにおいて、(a) 前記筒状体は、その筒状体の軸方向と直角な断面が車両上下方向に長い扁平な八角形状で、車幅方向の左右両側に互いに平行に一対の幅広側壁を備えているとともに、その一対の幅広側壁には左右対称にその筒状体の内側へ凹む凹溝がその筒状体の軸方向と平行に設けられており、(b) 断面八角形状の前記筒状体の上下両端部に位置する互いに平行な一対の幅狭側壁の各々の車幅方向外側の一対の稜線部が前記外上稜線部および前記外下稜線部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようなクラッシュボックスにおいては、筒状体の複数の稜線のうち車幅方向外側の外側稜線部のみにフランジが筒状体の軸方向の全長に亘って設けられているため、その筒状体の車幅方向外側部分の圧縮荷重に対する剛性が高くなる。これにより、車両の斜め外側から衝撃荷重が加えられるオフセット衝突の場合でも、車両内側方向へ向かうモーメント荷重が低減されて横倒れが抑制され、優れた衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるようになる。
【0013】
前記図9図10を参照して具体的に説明すると、車幅方向外側部分の剛性が高くなることから入力荷重F1がF2に比較して相対的に大きくなり、特に入力荷重F1の軸方向分力f1aが大きくなる。この軸方向分力f1aは、車幅方向内側の支持点bに対しては右回り方向のモーメントとして作用するため、その支持点bの左回り方向のモーメント荷重Mbが小さくなり、或いはマイナスになって右回り方向に作用する。車幅方向外側の支持点aの左回り方向のモーメント荷重Maは、軸方向と直角な方向の分力f1pの増加で多少大きくなるものの、分力f1pの変化は軸方向分力f1aの変化に比べて小さいとともに、支持点aと支持点bの間では支持点bに向かうに従って軸方向分力f1aの影響が大きくなるため、全体として左回り方向のモーメント荷重が低減され、クラッシュボックスの横倒れが抑制される。
【0014】
また、筒状体が一対の半割体にて構成されているとともに、その一対の半割体の両側端部に設けられた接合部によって上記複数のフランジとして機能する一対の上フランジおよび下フランジが構成されている。このため、複数のフランジを有する筒状体をプレス加工や溶接などで簡単且つ安価に製造できるとともに、押出し成形で製造する場合に比較して材料や形状の制約が少なく、フランジを後から溶接等で固設する場合に比較して材料の歩留りが高くなる。
【0015】
発明では、一対の上フランジおよび下フランジが何れも稜線部を挟んで隣接する一対の側壁に対して60°を超える角度を有して設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられているため、筒状体の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、一対の上フランジおよび下フランジが設けられることにより、筒状体の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、それ等のフランジを上記角度で設けることにより筒状体の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【0016】
発明では、上フランジおよび下フランジが筒状体の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法で設けられているため、車幅方向外側部分の剛性を高くして耐横倒れ性能を適切に向上させることができる。
【0017】
発明は、断面が扁平な八角形状を成しているとともに、左右両側の一対の幅広側壁に凹溝が設けられている筒状体を有する場合で、上フランジおよび下フランジは上下両端部に位置する一対の幅狭側壁の各々の車幅方向外側の一対の外上稜線部および外下稜線部に設けられているため、筒状体の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、上フランジおよび下フランジが設けられることにより、筒状体の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、圧壊に関与する凹溝から離れた上下両端の稜線部分にフランジが設けられているため、凹溝による筒状体の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例であるクラッシュボックスを説明する図で、配設態様の一例を示す概略平面図である。
図2図1のクラッシュボックスの軸方向と直角な断面形状を示す図で、図1におけるII−II矢視部分の拡大断面図である。
図3図1のクラッシュボックスの斜視図である。
図4】車両の斜め横方向から衝撃荷重が加えられるオフセット衝突試験を説明する図である。
図5】オフセット衝突試験で使用する従来のクラッシュボックスを説明する図で、図2に対応する断面図である。
図6】オフセット衝突試験で使用する比較品を説明する図で、車幅方向内側の稜線部分に一対のフランジが設けられた場合の図2に対応する断面図である。
図7】本発明品、従来品、および比較品を用いてオフセット衝突試験を行い、FEM解析により得られた圧縮ストロークに対する軸方向の荷重の変化特性を示した図である。
図8図7の荷重の変化特性から求められる吸収エネルギーの特性を示した図である。
図9】オフセット衝突時に衝撃荷重Fに基づいて生じる車幅方向外側の支持点aまわりのモーメント荷重Maを説明する図で、車両上方からクラッシュボックスを見た平面視における各部の荷重を示した図である。
図10図9において、車幅方向内側の支持点bまわりのモーメント荷重Mbを説明する図である。
図11】オフセット衝突試験の別の試験結果を説明する図で、図2の角度αおよびβが相違する6種類の試験品No1〜No6と試験結果を示した図である。
図12図11の6種類の試験品No1〜No6を用いてオフセット衝突試験を行い、FEM解析により得られた圧縮ストロークに対する軸方向の荷重の変化特性を示した図である。
図13図12の荷重の変化特性から求められる吸収エネルギーの特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のクラッシュボックスは、車両前側に取り付けられるバンパー部材の取付部にも車両後側に取り付けられるバンパー部材の取付部にも適用され得るが、何れか一方のみに適用するだけでも差し支えない。クラッシュボックスは、筒状体の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で配設されるが、必ずしも厳密に前後方向である必要はなく、バンパー部材の形状等により左右或いは上下方向へ傾斜する姿勢で配設することもできる。
【0020】
クラッシュボックスは、筒状体の他に例えば筒状体の軸方向の両端に一体的に固設される一対の取付プレートを有して構成される。上フランジおよび下フランジも、これ等の取付プレートに一体的に固設することが望ましい。筒状体は、例えば断面が扁平な八角形状のものが好適に用いられるが、断面が四角形状や六角形状等の八角形以外の多角形状の筒状体を採用することもできる。この断面多角形状の筒状体には、必要に応じて筒状体の内側へ凹む凹溝が軸方向と平行に設けられるが、この凹溝の数は適宜定められ、一つの側壁に複数の凹溝を設けることも可能である。第発明では左右対称に凹溝が設けられるが、非対称に設けることもできるし、上下の側壁に凹溝を設けることも可能である。凹溝は、断面V字状やU字状、半円弧状、矩形状、台形状など種々の態様が可能である。稜線部は必ずしも厳密に角張っている必要はなく、断面が全体として多角形状を成していれば、その角部(稜線部)が円弧等の湾曲部であっても良い。
【0022】
対の半割体の両側端部を重ね合わせて接合する手段としては、スポット溶接が適当であるが、アーク溶接等の他の溶接手段を採用することもできるし、リベット等の接合部材を用いて接合することも可能である。軸方向において所定の間隔を隔てて断続的に接合しても良いが、アーク溶接などでは軸方向に連続して接合することも可能である。上フランジおよび下フランジの突出方向は、例えば第発明のように設定することが望ましいが、筒状体の基本形状やフランジが設けられる稜線部の場所等により適宜定めることができる。また、例えばその筒状体の軸方向と直角な断面において、それ等の上フランジおよび下フランジを含めて上下対称形状を成すように構成されるが、上下非対称形状であっても良い。上フランジおよび下フランジのみ、上下非対称に設けることもできる。
【0023】
発明では、上フランジおよび下フランジが筒状体の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法で設けられるが、筒状体の軸方向において突出寸法が変化していても良い。例えば、車体側の基端部では突出寸法が大きく、バンパー部材側の先端部では突出寸法が小さくなるように、線形または非線形に突出寸法を連続的に変化させることもできる。
【0024】
発明の筒状体は断面が扁平な八角形状を成しており、上下両端部に位置する一対の幅狭側壁の各々の車幅方向外側の一対の外上稜線部および外下稜線部に上フランジおよび下フランジが設けられるが、それ等のフランジの代わりに、車幅方向外側に位置する幅広側壁の上下の両端の稜線部分に、上フランジおよび下フランジを設けることも可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両のフロント側のバンパービーム14の近傍を車両の上方から見た概略平面図である。クラッシュボックス10は、サイドメンバー12Rとバンパービーム14の右端部との間に配設されて使用されるもので、図1は車両の右側半分を示す平面図であり、左側半分は中心線を挟んで対称的に構成される。クラッシュボックス10は、平板状の複数の側壁を有する断面多角形状の中空の筒状体22と、その筒状体22の軸方向(軸心Sの方向)の両端部にそれぞれ一体的に溶接固定された一対の取付プレート24、26とを備えており、筒状体22の軸心Sが車両の前後方向と略平行になる姿勢でサイドメンバー12Rとバンパービーム14との間に配設され、取付プレート24、26を介して図示しないボルト等によりそれ等のサイドメンバー12R、バンパービーム14に一体的に固定される。サイドメンバー12Rは車体側部材で、バンパービーム14はバンパー部材である。
【0026】
上記筒状体22の軸方向の両端縁は、それぞれその端縁の全周に亘って取付プレート24、26に密着させられ、アーク溶接等により一体的に固設されている。図1では、取付プレート24、26共に筒状体22の軸心Sに対して略直角になる姿勢で取り付けられているが、例えばバンパービーム14の取付部分が傾斜している場合には、筒状体22の端縁を軸心Sに対して傾斜させ、その傾斜端縁に密着するように取付プレート26を傾斜させた姿勢で固設することもできる。このようなクラッシュボックス10は、車両前方から衝撃が加えられて軸圧縮荷重を受けると、筒状体22が蛇腹状に圧壊させられ、その変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。この蛇腹状の圧壊は、筒状体22が軸方向の多数箇所で連続的に座屈(V字状の折れ曲がり)することによって生じる現象で、通常はバンパービーム14側すなわち入力側から座屈が開始し、時間の経過と共に車体側へ進行する。バンパービーム14は、バンパーのリインフォースメント(補強部材)および取付部材として機能するもので、図示しない、合成樹脂等から成るバンパーフェイシアが一体的に取り付けられるようになっている。
【0027】
図2は、クラッシュボックス10の軸方向と直角な断面形状を示す図で、図1におけるII−II矢視部分の拡大断面図である。また、図3は、クラッシュボックス10を単独で示す斜視図である。筒状体22は、軸方向に対して直角な断面が上下方向に長い扁平な多角形状、具体的には上下に長い長方形の4つの角部に平面取りを施した八角形状を基本形状としており、全体として8の字形状乃至瓢箪形状の断面形状を成している。すなわち、その基本形状の長辺を構成している略垂直で互いに平行な一対の幅広側壁30、31と、その幅広側壁30、31の上下の両端からそれぞれ内側へ斜めに傾斜するように設けられた4箇所の傾斜側壁34、35と、基本形状の短辺を構成するように長手方向(長軸A方向)の両端に長手方向と直角に設けられて左右の傾斜側壁34、35を接続している略水平で互いに平行な一対の幅狭側壁36、37とを備えている。そして、幅広側壁30、31の幅方向の中央部分、すなわち図2における上下方向の中央の略水平な短軸B部分には、長軸Aに対して対称的すなわち左右対称形状となるように、それぞれ筒形状の内側へ凹む一対の凹溝32、33が設けられている。凹溝32、33は、先端部すなわち溝底側へ向かうに従って幅寸法が狭くなる台形形状の断面で、軸心Sと平行に筒状体22の軸方向の全長に亘って設けられている。長軸Aおよび短軸Bは、何れも図2に示す断面形状に基づいて定められ、左右両側の一対の長辺である幅広側壁30、31と平行で且つそれ等の幅広側壁30、31の間の中心線が長軸Aであり、上下両端の一対の短辺である幅狭側壁36、37と平行で且つそれ等の幅狭側壁36、37の間の中心線が短軸Bである。軸心Sは、これ等の長軸Aと短軸Bとの交点であり、本実施例ではこの軸心S方向(軸方向)の全長に亘って図2に示す一定の断面形状で構成されている。
【0028】
上記筒状体22は、断面八角形の上下両端部に位置する互いに平行な一対の幅狭側壁36、37の各々の車幅方向外側の一対の外上稜線部40および外下稜線部42で2つに分割されており、それぞれプレス加工によって成形された一対の半割体44、46によって構成されている。すなわち、車幅方向内側に位置する内側半割体44は、凹溝32が設けられた幅広側壁30、その幅広側壁30の上下両端から斜めに車幅方向外側へ延び出す一対の傾斜側壁34、およびその一対の傾斜側壁34の端部から水平に延び出す一対の幅狭側壁36、37を一体に備えている。また、車幅方向外側に位置する外側半割体46は、凹溝33が設けられた幅広側壁31、およびその幅広側壁31の上下両端から車幅方向内側へ斜めに延び出す一対の傾斜側壁35を一体に備えている。
【0029】
上記内側半割体44、外側半割体46はまた、その両側端部、すなわち稜線部40、42を構成する部分に、互いに重ね合わされてスポット溶接、アーク溶接等により一体的に接合される接合部を有し、その接合部によって筒状体22の外側へ突き出す一対の上フランジ48および下フランジ50が形成される。上フランジ48、下フランジ50は平板状のリブ状突出部で、短軸Bに対して対称的すなわち上下対称形状となるように突き出しており、一定の突出寸法tで筒状体22の軸方向の全長に亘って連続して設けられている。この上フランジ48および下フランジ50の軸方向の両端縁は、それぞれ前記取付プレート24、26に密着するように突き当てられ、溶接等によりそれ等の取付プレート24、26に一体的に固定されている。外上稜線部40および外下稜線部42は複数の外側稜線部に相当し、上フランジ48および下フランジ50は複数のフランジに相当する。
【0030】
上フランジ48について具体的に説明すると、図2に示す断面において稜線部40を挟んで隣接する一対の側壁35、36に対して何れも60°を超える角度を有するとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられ、車幅方向外側の斜め上方へ突き出すように設けられている。すなわち、上フランジ48と傾斜側壁35との間の交差角度αが60°より大きく、上下方向の垂線からの傾斜角度βが15°以上である。本実施例では、外上稜線部40の内角θ≒135°で、交差角度α≒105°、傾斜角度β≒30°である。また、突出寸法tは8mm以上が適当で、本実施例では約12mmである。下フランジ50は上フランジ48と対称形状を成しており、各部の角度や寸法は上フランジ48と同じである。なお、筒状体22の高さ寸法Hは約100mm、幅寸法Wは約60mm、軸方向長さは約140mmであり、一対の半割体44、46の板厚は約1.0mm、取付プレート24、26の板厚は約2.0mmである。図1図3における各部の寸法や角度、寸法比は、必ずしも正確なものではない。
【0031】
ここで、図4に示すようにバリア角度γで傾斜した衝突面62を有する衝突バリア60に対して車速V1で車両の右側前部を衝突させるオフセット衝突試験を行い、FEM解析によりクラッシュボックス10の圧縮ストロークに対する軸方向の荷重変化特性および吸収エネルギー特性を調べた結果を説明する。今回の衝突試験では、バリア角度γ≒15°で、車速V1≒16km/hである。また、本発明品(クラッシュボックス10)の他に、図5に示すように前記フランジ48、50を備えていない従来品70、および図6に示すように本発明のクラッシュボックス10と左右反対でフランジ48、50が車幅方向内側に設けられた比較品72についても同じ条件で試験を行った。図6の比較品72は、フロント左側のクラッシュボックスとして用いる場合、本発明品と見做すことができる。
【0032】
図7および図8は、圧縮ストロークに対する軸方向荷重および吸収エネルギーの特性を、本発明品、比較品、および従来品について比較して示した図である。吸収エネルギーは、軸方向荷重の積分値に対応する。これ等の図から明らかなように、本発明品では軸方向荷重が圧壊過程の終盤まで高いレベルで比較的安定しており、従来品や比較品に比べて吸収エネルギーが大きくなり、優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。比較品は、圧壊中盤の圧縮ストロークST1付近で横倒れが生じ、軸方向荷重が低下して十分な衝撃エネルギー吸収性能が得られない。
【0033】
上記試験結果について、図9図10を参照して検討する。図9および図10は、クラッシュボックスを上方から見た平面視の状態の荷重説明図で、点aはクラッシュボックスの基端側の車幅方向外側の支持点、点bは車幅方向内側の支持点であり、荷重F1、F2は各支持点a、bの車両前側の真正面の入力荷重である。そして、これ等の入力荷重F1、F2に基づいて、支持点a、bまわりにそれぞれモーメント荷重Ma、Mbが生じ、全体として左回り方向(車幅方向内側向き)のモーメント荷重が発生する。その場合に、本発明品では車幅方向外側の上下の稜線部40、42に一対のフランジ48、50が設けられているため、車幅方向外側部分の剛性が高くなり、右側の入力荷重F1が左側の入力荷重F2に比較して相対的に大きくなる。特に入力荷重F1の軸方向分力f1aが大きくなる。この軸方向分力f1aは、車幅方向内側の支持点bに対しては右回り方向のモーメントとして作用するため、その支持点bの左回り方向のモーメント荷重Mbが小さくなり、或いはマイナスになって右回り方向に作用する。車幅方向外側の支持点aの左回り方向のモーメント荷重Maは、軸方向と直角な方向の分力f1pの増加で多少大きくなるものの、分力f1pの変化は軸方向分力f1aの変化に比べて小さいとともに、支持点aと支持点bの間では支持点bに向かうに従って軸方向分力f1aの影響が大きくなるため、全体として左回り方向のモーメント荷重が低減され、クラッシュボックスの横倒れが抑制されると考えられる。これに対し、車幅方向内側にフランジ48、50が設けられた比較品は、車幅方向内側部分の剛性が高くなり、左側の入力荷重F2が右側の入力荷重F1に比較して相対的に大きくなるため、左回り方向のモーメント荷重が大きくなり、従来品よりも更に横倒れが生じ易くなったと考えられる。
【0034】
また、図11に示すように前記交差角度αおよび傾斜角度βが異なる6種類の試験品(本発明品)No1〜No6を用意し、上記と同じ条件でオフセット衝突試験を行って、FEM解析により荷重変化特性および吸収エネルギー特性を調べたところ、図12および図13に示す結果が得られた。何れの試験品No1〜No6も荷重変化特性が比較的安定しており、優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られるが、交差角度αが60°の試験品No6(細い破線)については、圧壊終盤の圧縮ストロークST2付近で横倒れが発生した。また、傾斜角度βが15°の試験品No1(太い実線)については、明確な横倒れは認められなかったものの、圧壊終盤で軸方向荷重や衝撃エネルギー吸収性能が若干低下した。
【0035】
このように、本実施例のクラッシュボックス10においては、筒状体22の複数の稜線のうち車幅方向外側の一対の稜線部40、42のみにフランジ48、50が筒状体22の軸方向の全長に亘って設けられているため、その筒状体22の車幅方向外側部分の圧縮荷重に対する剛性が高くなる。これにより、車両の斜め外側から衝撃荷重Fが加えられるオフセット衝突の場合でも、車両内側方向へ向かうモーメント荷重が低減されて横倒れが抑制され、優れた衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるようになる。
【0036】
また、筒状体22が一対の半割体44、46にて構成されているとともに、その一対の半割体44、46の両側端部に、互いに重ね合わされて一体的に接合されることにより筒状体22の外側へ突き出す一対の上フランジ48および下フランジ50が設けられる。このため、複数のフランジ48、50を有する筒状体22をプレス加工や溶接などで簡単且つ安価に製造できるとともに、押出し成形で製造する場合に比較して材料や形状の制約が少なく、フランジ48、50を後から溶接等で固設する場合に比較して材料の歩留りが高くなる。
【0037】
また、上下のフランジ48、50が何れも稜線部40、42を挟んで隣接する一対の側壁35および36、或いは35および37に対して60°を超える角度を有して設けられているとともに、車両上下方向の垂線から15°以上車幅方向外側へ傾斜させられているため、筒状体22の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、一対の上フランジ48および下フランジ50が設けられることにより、筒状体22の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、それ等のフランジ48、50を上記角度で設けることにより筒状体22の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【0038】
また、複数のフランジ48、50が筒状体22の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一定の突出寸法tで設けられているため、車幅方向外側部分の剛性を高くして耐横倒れ性能を適切に向上させることができる。
【0039】
また、本実施例の筒状体22は断面が扁平な八角形状を成しているとともに、左右両側の一対の幅広側壁30、31に凹溝32、33が設けられている場合で、複数のフランジ48、50は上下両端部に位置する一対の幅狭側壁36、37の各々の車幅方向外側の一対の稜線部40、42に設けられているため、筒状体22の圧壊による衝撃エネルギー吸収性能を適切に確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。すなわち、複数のフランジ48、50が設けられることにより、筒状体22の圧壊が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性があるが、圧壊に関与する凹溝32、33から離れた上下両端の稜線部40、42にフランジ48、50が設けられているため、凹溝32、33による筒状体22の圧壊特性に対する影響を抑制できるのである。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:クラッシュボックス 22:筒状体 30、31:幅広側壁 32、33:凹溝 34、35:傾斜側壁 36、37:幅狭側壁 40:外上稜線部(外側稜線部) 42:外下稜線部(外側稜線部) 44:内側半割体 46:外側半割体 48:上フランジ(接合部) 50:下フランジ(接合部) S:軸心(軸方向) α:交差角度 β:傾斜角度 t:突出寸法
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13