(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926903
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】所望のキュリー温度を有するポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20160516BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20160516BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20160516BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20160516BHJP
H01L 41/22 20130101ALI20160516BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20160516BHJP
H01G 4/18 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
C08J3/20 ZCER
C08L27/16
C08J5/18CEZ
C08F214/22
H01L41/22
H01L41/18 102
H01G4/18 327Z
H01G4/24 321C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-180742(P2011-180742)
(22)【出願日】2011年8月22日
(65)【公開番号】特開2013-43903(P2013-43903A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100097320
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 貞二
(74)【代理人】
【識別番号】100155192
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 美代子
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131820
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】森山 信宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太郎
【審査官】
原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−196412(JP,A)
【文献】
特開平10−098829(JP,A)
【文献】
特開2008−147632(JP,A)
【文献】
特開昭62−001744(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0067172(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08F 214/22
C08J 5/18
C08L 27/16
H01G 4/18
H01L 41/193
H01L 41/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のキュリー温度を有するポリマーの製造方法であって、
第1のキュリー温度を有するコポリマーを溶融体にする工程と、
コポリマーを構成するモノマーが前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと同一であり、前記第1のキュリー温度とは異なる第2のキュリー温度を有するコポリマーを溶融体にする工程と、
溶融後、前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーを混合し、ポリマーブレンドを生成する工程とを備え、
前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーの混合比により、前記混合されたポリマー(ポリマーブレンド)のキュリー温度が単一の温度に定まり、
前記コポリマーは、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンからなるコポリマーである、
ポリマーの製造方法と;
前記ポリマーの製造方法によって製造されたポリマーを、フィルム状に成形する工程と;
フィルム状に成形された前記ポリマーを分極処理する工程とを備え;
前記単一のキュリー温度は、前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーを構成するフッ化ビニリデンの含有量によって直線的に変化し、
前記フッ化ビニリデンの含有量は、前記コポリマーの総量に対して75〜80重量%であり、
前記単一のキュリー温度は、118〜137℃である、
圧電・焦電性フィルムの製造方法。
【請求項2】
所望のキュリー温度を有するポリマーブレンドであって、
第1のキュリー温度を有するコポリマーと;
コポリマーを構成するモノマーが前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと同一であり、前記第1のキュリー温度とは異なる第2のキュリー温度を有するコポリマーとを備え;
前記ポリマーブレンドは、前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーの混合比による、単一のキュリー温度を有し、
前記コポリマーは、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンからなるコポリマーであり、
前記単一のキュリー温度は、前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーを構成するフッ化ビニリデンの含有量によって直線的に変化し、
前記フッ化ビニリデンの含有量は、前記コポリマーの総量に対して75〜80重量%であり、
前記単一のキュリー温度は、118〜137℃である、
ポリマーブレンド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリマーブレンドを含む、分極した、
圧電・焦電性フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電・焦電性フィルムと;
前記フィルムを挟む2枚の電極板とを備える;
圧電・焦電性素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーの製造方法に関し、特に所望のキュリー温度を有するポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キュリー温度(キュリー点ともいう)とは、強磁性体が常磁性体に変化する転移温度、または強誘電体が常誘電体に変化する転移温度をいう。
【0003】
キュリー温度に関連した発明として、特許文献1には、帯電した強誘電性高分子物質を加熱したときの電位減衰を利用した画像記録方法、特に、複写、印刷、プリンター等に用いることができる画像記録方法が記載されている。具体的には、導電性支持体に強誘電性高分子物質を主成分とする画像記録層を設けた画像記録媒体を用いる。画像記録層を抗電界以上に帯電させた後、画像に対応する加熱によって静電潜像を形成し、トナー現像、転写、定着等の各工程を経過する。このとき、静電潜像を形成するための加熱温度を、画像記録層に含有される強誘電性高分子物質のキュリー温度以下にする。(特許文献1、(2)頁、3段、19行〜31行)。
【0004】
画像記録媒体を帯電させる場合、未処理状態では、強誘電性高分子物質の抗電界に相当する表面電位までの電位の立ち上がりが悪い。しかし、抗電界に達し、分極が揃った状態(ポーリング処理に相当)になると、表面電位の立ち上がりが速くなる(いわゆる二段現象、特許文献1、第3図)。帯電後、キュリー温度以下で加温すると表面電位は直ちに減衰し、0Vになる。再び帯電すると、表面電位の立ち上がりで二段現象は生じず、立ち上がりは速い(特許文献1、第4図)。
【0005】
このように、特許文献1に記載された画像記録方法は、強誘電性高分子物質を抗電界以上に帯電させた後の表面電位の立ち上がりの速さを利用している。なお、帯電後、強誘電性高分子物質(画像記録層)に静電潜像を形成するための加熱は、キュリー温度以下でなければならない。すなわち、強誘電性高分子物質の有するキュリー温度により加熱可能な温度範囲が定まる。帯電後キュリー温度以上に加熱し、帯電させた場合は、未処理状態と同じように立ち上がり二段現象が現れる(特許文献1、(2)頁、4段、14行、第5図)。
【0006】
キュリー温度は、強誘電性が消去する温度として定義され、誘電率の温度分散により求められる(特許文献1、(2)頁、4段、29行)。強誘電性高分子物質がホモポリマーの場合には、キュリー温度はその高分子物質に特有な1の温度に定まる。また、コポリマーの場合には、キュリー温度はコポリマーを構成するモノマーの配合比によって決まり、重合後キュリー温度を変えることはできない。すなわち、特許文献1に記載された発明において、強誘電性高分子物質にコポリマーを用いた場合には、重合時の配合比を変えることにより、加熱可能な温度範囲を自由に選択することができる。なお、特許文献1の
図1には、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンのコポリマー(P(VDF/TrFE))の組成(モル比)を変えた場合のキュリー温度が記載されている(変曲点がキュリー温度である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3027591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、コポリマーのキュリー温度は、コポリマーを重合する際のモノマーの配合比で決まり重合後にコポリマーのキュリー温度を変更することはできない。そのため、所望のキュリー温度を有するコポリマーの強誘電性高分子物質を得ようとすると、その都度特定の配合比でモノマーどうしを共重合させる必要があり、労力と時間を要する。
そこで本発明は、コポリマーから所望のキュリー温度を有するポリマーを容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様に係るポリマーの製造方法は、例えば
図1に示すように、所望のキュリー温度を有するポリマーの製造方法であって、第1のキュリー温度を有するコポリマーを溶液または溶融体にする工程(S01)と;コポリマーを構成するモノマーが前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと同一であり、前記第1のキュリー温度とは異なる第2のキュリー温度を有するコポリマーを溶液または溶融体にする工程(S02)と;溶解または溶融後、前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーを混合し、ポリマーブレンドを生成する工程(S03、S04)とを備え;前記第1のキュリー温度を有するコポリマーと前記第2のキュリー温度を有するコポリマーの混合比により、前記混合されたポリマー(ポリマーブレンド)のキュリー温度が単一の温度に定まる。
なお「溶液」とは、2つ以上の物質から構成される液体状態の混合物をいう。例えば、溶媒(solvent)と溶質(solute)。「溶融体」とは、液体状態を含む流動性を有する状態の物質をいう。
【0010】
このように構成すると、キュリー温度の異なるコポリマーどうしを混合するだけで単一のキュリー温度を有するポリマーを得ることができる。さらに、混合により得られたポリマーのキュリー温度は、混合時の混合比と相関する。よって、コポリマーを混合する際の混合比を調節することにより、重合させることなく、所望のキュリー温度を有するポリマーを得ることができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係るポリマーの製造方法は、上記本発明の第1の態様に係るポリマーの製造方法において、前記コポリマーは、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンからなるコポリマーである。
【0012】
このように構成すると、所望のキュリー温度を有するフッ化ビニリデン−3フッ化エチレンのコポリマー(P(VDF/TrFE))を容易に得ることができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る強誘電体フィルムの製造方法は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係るポリマーの製造方法によって製造されたポリマーを、フィルム状に成形する工程を備える。
【0014】
このように構成すると、モノマーを共重合させる工程を経ることなく、所望のキュリー温度を有する強誘電体フィルムを製造することがきる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る圧電・焦電性フィルムの製造方法は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係るポリマーの製造方法によって製造されたポリマーを、フィルム状に成形する工程と;フィルム状に成形された前記ポリマーを分極処理する工程とを備える。
【0016】
このように構成すると、モノマーを共重合させる工程を経ることなく、所望のキュリー温度を有する圧電性・焦電性を備えたフィルムを製造することがきる。なお、キュリー温度は、圧電性、焦電性が失われる温度であるから、キュリー温度を容易にコントロールできることにより、フィルムの耐熱性を向上させることができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係るポリマーPTC素子は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係るポリマーの製造方法によって製造されたポリマー中に分散する導電性のフィラーを有する、フィルム状のポリマーと;フィルム状の前記ポリマーを挟む2枚の電極板とを備える。
【0018】
このように構成すると、モノマーを共重合させる工程を経ることなく、所望のキュリー温度を有するポリマーを備えた、ポリマーPTC素子を製造することができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る強誘電体キャパシタは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係るポリマーの製造方法によって製造されフィルム状に成形された、絶縁性のポリマーと;フィルム状の前記ポリマーを挟む2枚の電極板とを備える。
【0020】
このように構成すると、モノマーを共重合させる工程を経ることなく、所望のキュリー温度を有するポリマーを備えた、強誘電体キャパシタを製造することができる。
【0021】
本発明の第7の態様に係る強誘電体メモリは、上記本発明の第6の態様に係る強誘電体キャパシタと;格子状に配線された、ワード線とビット線とを備える。
【0022】
このように構成すると、モノマーを共重合させる工程を経ることなく、所望のキュリー温度を有するポリマーを備えた強誘電体キャパシタを用いて、強誘電体メモリを製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所望のキュリー温度を有するポリマーを容易に製造することができ、さらに、該ポリマーを用いて、所望のキュリー温度を有する強誘電体フィルムや圧電・焦電性フィルムを容易に製造することができる。さらに、該ポリマーを用いて、所望のキュリー温度を有するポリマーPTC素子、さらには、強誘電体キャパシタ、強誘電体メモリを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】フィルムを分極処理する装置10の概念図である。
【
図4】コポリマーAとコポリマーBのキュリー温度Tc、およびコポリマーAとコポリマーBの混合により製造したポリマーのキュリー温度Tcを示す表である。
【
図5】横軸をコポリマーBの混合比(重量%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフである。
【
図6】コポリマーAとコポリマーCのキュリー温度Tc、融点Tm、およびコポリマーAとコポリマーCの混合により製造したポリマーのキュリー温度Tc、融点Tmを示す表である。
【
図7】示差走査熱量測定(DSC)による、温度変化に対する測定試料の熱の収支を伴う変化を示すグラフである。
【
図8】横軸をコポリマーCの混合比(重量%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフである。
【
図9】横軸をコポリマーA、B、C、コポリマーAとコポリマーBを混合したポリマー、およびコポリマーAとコポリマーCを混合したポリマー中のフッ化ビニリデン(VDF)の含有量(mol%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0026】
一般に、異なるキュリー温度を有するポリマーどうしを混合すると、そのポリマーブレンドには混合したポリマーが有していたそれぞれのキュリー温度が現れる。しかし、本発明者等は、異なるキュリー温度を有するポリマーどうしを混合した場合に、そのポリマーブレンドがただ1つのキュリー温度を有するポリマーとなる場合があることを見出した。さらに、そのキュリー温度は、混合するポリマーの混合比に相関し、混合比を調節することにより所望のキュリー温度を有するポリマーが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法について説明する。ポリマーとして、フッ化ビニリデン(C
2H
2F
2、VDF)と三フッ化エチレン(C
2HF
3、TrFE)のコポリマー(フッ化ビニリデン−三フッ化エチレン共重合体:P(VDF/TrFE))を用いて説明する。
【0028】
まず、重合時の配合比が異なるフッ化ビニリデンと三フッ化エチレンのコポリマー(共重合体)を準備する。以下、重合時の配合比が異なるコポリマーをコポリマーXおよびコポリマーYとして説明する。重合時の配合比が異なるため、コポリマーXとコポリマーYは異なるキュリー温度を有する。なお、重合には、周知の方法を用いることができる。例えば、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法が採用できる。しかし、後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系懸濁重合が特に好ましい。
【0029】
水を分散媒とした懸濁重合においては、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等の懸濁剤を、水に対して0.005〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.4重量%の範囲で添加して使用する。
【0030】
重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロアシル)パーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシピバレート等が使用できる。その使用量は、モノマー合計量(フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンの合計量)に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0031】
酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素、ジエチルカーボネート等の連鎖移動剤を添加して、得られる重合体の重合度を調節することも可能である。その使用量は、通常は、モノマー合計量に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0032】
モノマーの合計仕込量は、モノマー合計量:水の重量比で1:1〜1:10、好ましくは1:2〜1:5である。重合は、温度10〜80℃で5〜100時間行なう。このように懸濁重合により、フッ化ビニリデン(VDF)と三フッ化エチレン(TrFE)とを共重合させることができる。なお、生成する共重合体の配列は、ランダム共重合体、交互共重合体であってもよく、ブロック共重合体およびグラフト共重合体の場合は、繰り返し数がより少ないものが好ましい。また、混合させるコポリマーXとコポリマーYは、配列が同一の共重合体どうしであってもよく、異なる共重合体どうしであってもよい。
【0033】
重合時の配合比が異なるため、コポリマーXとコポリマーYは異なるキュリー温度を有する。この異なるキュリー温度を有するコポリマーXとコポリマーYを用いて、
図1に示すとおり、以下の方法により所望のキュリー温度を有するポリマーを製造する。
S01:コポリマーX(P(VDF
x/TrFE
100−x))を溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、溶液Xとする。なお、x、100−xは、それぞれ、VDFとTrFEの重合時の配合比(重量%)を表す。
S02:コポリマーY(P(VDF
y/TrFE
100−y))を溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、溶液Yとする。なお、y、100−yは、それぞれ、VDFとTrFEの重合時の配合比(重量%)を表し、x≠yである。
S03:溶液Xと溶液Yを混合し、混合液とする。
S04・S05:溶液キャスティング法を用いてフィルム状に成形する。すなわち、混合液を、表面を平滑にしたドラム(キャスティングドラム)に流し込んで付着させ、これを加熱して溶媒を蒸発させ、得られたポリマー(ポリマーブレンド)をフィルム状に成形する。フィルムの厚さは、その用途に応じて適宜選択する。例えば、厚さ1〜500μmのフィルムに成形する。
【0034】
溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の他に、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、アセトン、ジエチルカーボネート(DEC)等の極性溶媒を用いてもよい。また、これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、または、これらの溶媒のうち2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
なお溶液ではなく、コポリマーX、Yを溶融した後混合してもよい。溶融体とすると、溶媒を除去する工程を省くことができる。さらに、上記の溶液キャスティング法以外に、スピンコート法または溶融押出法を用いてもよい。例えば、コポリマーXとコポリマーYを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダーなどの混練機に供給して、溶融混練し、ポリマーブレンドをペレット化した後フィルム状に成形してもよい。または、コポリマーXのペレットとコポリマーYのペレットを予め混合機で良く混合し、ポリマーブレンドを単軸押出機に供給して、直接フィルム等として押し出し冷却してもよい。溶融押出法を用いることにより、厚さが5μm〜2mm程度のフィルムを得ることができる。
【0036】
キュリー温度の異なるコポリマーXとコポリマーYを混合すると、そのポリマー(ポリマーブレンド)は、コポリマーXのキュリー温度とコポリマーYのキュリー温度の間の温度である1つのキュリー温度を有する。さらに、後述の実施例で説明するように、このポリマーブレンドのキュリー温度は、混合の際の混合比により変化し、混合比との相関を示した。したがって、コポリマーXのキュリー温度とコポリマーYのキュリー温度の間の温度であれば、コポリマーXとコポリマーYの混合比を選択的に変えることによって、所望のキュリー温度を有するポリマーを容易に得ることができる。すなわち、本発明のポリマーの製造方法により、重合から製造することなく、すでに製造されたコポリマーどうしを混合することで所望のキュリー温度を有するポリマーを製造することができる。さらに、このポリマーをフィルム状に成形することにより、所望のキュリー温度を有する強誘電体フィルムを容易に得ることができる。
【0037】
本発明の第2の実施の形態に係る圧電・焦電性フィルムの製造方法について説明する。第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法により製造されたポリマーを、フィルム状に成形した後分極処理を施す。なお分極処理には、周知の方法を用いることができる。例えば、分極処理をする装置の一例として、
図2に示す分極装置10を用いてもよい。装置10は、適度な大きさにカットされたフィルム1を固定する平板状の金属板12と、フィルム1の上方に配置された非接触の針電極11(少なくとも1本)を備える。分極処理時は、金属板12が針電極11の対向電極として機能する。さらに、針電極11と金属板12は直流高圧電源13を介して接続される。具体的には、例えば、厚さ50μmのフィルムを10cm×10cmの大きさにカットし、
図2に示す装置10の金属板12上に固定し、針電極11を用いて、フィルム1に対して10〜15(−kV)の直流電圧Vpを印加する。分極処理時には、金属板12(すなわちフィルム1)の温度が110℃となるようにヒータ(不図示)を用いて金属板12を加熱することが好ましい。上記第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法により製造されたフィルム状のポリマーに分極処理を施すことにより、圧電・焦電性を有するフィルムを得ることができる。
【0038】
本発明の第3の実施の形態に係るポリマーPTC素子は、上記第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法により製造されたポリマー中に導電性のフィラーを分散させ、フィラーを含むポリマーをフィルム状に成形し、当該フィルムを2枚の電極板(白金などの金属箔等)で挟むことにより構成される。導電性のフィラーとしては、カーボンブラックやカーボンファイバー、またはニッケル粉等の金属粉を用いることができる。ポリマーPTC素子は、チップ形の素子であってもよく、電極板に実装用のリードを溶接してリード線付き素子であってもよい。
【0039】
本発明の第4の実施の形態に係る強誘電体キャパシタは、上記第1の実施の形態に係るポリマーの製造方法により製造されたフィルム状のポリマーと、当該フィルムを挟む2枚の電極板(白金などの金属箔等)を備えることにより構成される。さらに、この強誘電体キャパシタを用いて、強誘電体メモリを構成してもよい。強誘電体メモリは、例えば、
図3に示す回路のように、本発明の強誘電体キャパシタ21とワード線26およびビット線27からなる1T型(
図3(a))であってもよい。さらに、強誘電体キャパシタ21、ワード線26、ビット線27に加え、トランジスタ22およびプレート線28を備えた1T1C型(
図3(b))、または2T2C型(
図3(c))であってもよい(T:トランジスタ、C:キャパシタ)。さらに、本発明の強誘電体キャパシタを強誘電体ラッチ、強誘電体SRAM、強誘電体ゲートFET等の回路に用いてもよい。
【実施例】
【0040】
フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンのコポリマーP(VDF/TrFE)を以下の配合比(フッ化ビニリデン/三フッ化エチレン)で共重合させ製造した。配合比の単位は重量%である。なお、それぞれのコポリマーについてキュリー温度(Tc)を示す。
コポリマーA=75/25、Tc:118℃
コポリマーB=78/22、Tc:128℃
コポリマーC=80/20、Tc:137℃
【0041】
図4に、コポリマーAとコポリマーBのキュリー温度Tc、およびコポリマーAとコポリマーBの混合により製造したポリマー(ポリマーブレンド)のキュリー温度Tcを示す。ポリマーブレンドは、
図4に示す混合比(重量%)で、それぞれジメチルホルムアミド(DMF)に溶解しこの溶液を混合後、40℃で2〜48時間乾燥させ溶媒を除去し製造した。なお、気流としてドライN
2またはドライエアー(air)を存在させると、乾燥効率を高めることができ好ましい。
【0042】
混合により製造されたポリマーブレンドは、1つのキュリー温度を有していた。さらに、そのキュリー温度は、コポリマーAのキュリー温度(118℃)とコポリマーBのキュリー温度(128℃)の間に存在し、混合比により変化した。
図5に、横軸をコポリマーBの混合比(重量%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフを示す。
図5のグラフが示すとおり、キュリー温度の高いコポリマーBの含有量が増えるにつれて、ポリマーブレンドのキュリー温度が高くなった。さらに、コポリマーBの含有量とキュリー温度には明らかな相関が表れている。特に、コポリマーBが30〜100重量%では、コポリマーBの含有量に対して、キュリー温度がほぼ直線的に上昇している。したがって、コポリマーAのキュリー温度とコポリマーBのキュリー温度の間の所望のキュリー温度を有するポリマーは、コポリマーAとコポリマーBの混合比を選択的に変えることによって、容易に得ることができる。
【0043】
図6に、コポリマーAとコポリマーCのキュリー温度Tc、融点Tm、およびコポリマーAとコポリマーCの混合により製造したポリマー(ポリマーブレンド)のキュリー温度Tc、融点Tmを示す。ポリマーブレンドは、
図6に示す混合比(重量%)で、それぞれジメチルホルムアミド(DMF)に溶解しこの溶液を混合後、40℃で48時間乾燥させ溶媒を除去し製造した。
図6においても
図4と同様に、混合により製造されたポリマーブレンドは、1つのキュリー温度を有していた。さらに、そのキュリー温度は、コポリマーAのキュリー温度(118℃)とコポリマーCのキュリー温度(137℃)の間に存在し、混合比により変化した。
【0044】
図7のグラフは、示差走査熱量測定(DSC)により、温度変化に対する測定試料の熱の収支を伴う変化を測定したものである。横軸は温度、縦軸は熱流である。測定試料は、
図6に示す、コポリマーAとコポリマーC、およびコポリマーAとコポリマーCの混合により製造したポリマー(ポリマーブレンド)である。
吸熱反応であることを示す2つの谷のピークは、小さいピークが強誘電相から常誘電相への転移点(キュリー点、Tc)を示し、大きいピークが常誘電相から溶融相への転移点(融点、Tm)を示している。
図7のグラフが示すとおり、キュリー温度の異なるコポリマーAとコポリマーCを混合すると、キュリー温度の高いコポリマーCの含有量が増えるにつれて、ポリマーブレンドのキュリー温度が高くなり、コポリマーCのキュリー温度に近づいていった。
【0045】
図8に、横軸をコポリマーCの混合比(重量%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフを示す。
図8のグラフにも
図5のグラフと同様に、コポリマーCの含有量とキュリー温度には明らかな相関が表れている。すなわち、コポリマーCの含有量の増加に対して、キュリー温度がほぼ直線的に上昇し、コポリマーCのキュリー温度に近づいている。
【0046】
図9に、横軸をコポリマーA、B、C、コポリマーAとコポリマーBのポリマーブレンド、およびコポリマーAとコポリマーCのポリマーブレンド中のフッ化ビニリデン(VDF)の含有量(mol%)、縦軸をキュリー温度(℃)とするグラフを示す。
図9中のアルファベットA、B、Cは、それぞれコポリマーA、コポリマーB、コポリマーCを示す。A、Bを結ぶ線分上の◆は、ポリマーAとポリマーBを混合したポリマー(ポリマーブレンド)を示す。□は、ポリマーAとポリマーCを混合したポリマー(ポリマーブレンド)を示す。
図9のグラフ上でA、□、およびCを結んだ場合、その線分は、A、◆、およびBを結ぶ線分とほぼ重なる。このことは、いずれの重合比のコポリマー2つを選んでブレンドした場合であっても、含有するフッ化ビニリデンの割合(または三フッ化エチレンの割合)により、一のキュリー温度に定まることを示唆するものである。
【符号の説明】
【0047】
1 フィルム
10 装置
11 針電極
12 金属板
13 直流高圧電源
21 強誘電体キャパシタ
22 トランジスタ
26 ワード線
27 ビット線
28 プレート線