特許第5926944号(P5926944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926944
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】ポリフェノール組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20160516BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160516BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20160516BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160516BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   A61K31/7048
   A61K47/26
   A61K9/19
   A61K9/14
   A61P9/00
   A61P9/10 101
   A61P37/08
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-273272(P2011-273272)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2012-224612(P2012-224612A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-85424(P2011-85424)
(32)【優先日】2011年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰司
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/012525(WO,A1)
【文献】 特開2007−039419(JP,A)
【文献】 特開2007−308414(JP,A)
【文献】 特開平07−010898(JP,A)
【文献】 特開2000−236856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,C07D,C07H
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)及び(2):
(1)水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール(A)を100〜180℃で加熱処理し、更に、加熱処理して得られた処理液を冷却する工程、
(2)加熱処理後10分以内に処理液を噴霧乾燥又は凍結乾燥する工程、
を含み、
前記難水溶性ポリフェノール(A)はフラバノン類及びフラボノール類から選ばれる1種又は2種以上であり、下記可溶化剤(B)は難水溶性ポリフェノール(A)の糖付加物であって、
前記加熱処理を、難水溶性ポリフェノール(A)と可溶化剤(B)の合計に対する可溶化剤(B)の質量比[(B)/((A)+(B))]が0.1未満である条件で行う、ポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項2】
水性媒体のpHが3以上9未満である、請求項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項3】
更に、冷却された処理液から固体部を除去する工程を含む、請求項1又は2記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項4】
処理液を冷却する工程において、加熱処理温度から90℃までの冷却速度が0.5℃/s以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項5】
難水溶性ポリフェノール(A)のlogP値が−1.0〜4.0である請求項1〜4のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【請求項6】
難水溶性ポリフェノール(A)がヘスペリジン、ナリンギン及びルチンから選択される1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれか1項記載のポリフェノール組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解性に優れるポリフェノール組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、生理機能を有する様々な素材が提案され、これらを含有する数多くの健康食品が上市されている。なかでも、ポリフェノールは、抗酸化力を有することが知られており、抗動脈硬化、抗アレルギー、血流増強等の効果が期待されるため、健康食品の重要な成分として認識されている。
しかしながら、ポリフェノールには難水溶性のものが多く、それらを飲食品等へ使用することは難しい。
【0003】
そこで、難水溶性ポリフェノールを水に可溶化させる技術が検討され、例えば、ヘスペリジン配糖体を柑橘果汁ならびに果汁飲料に添加ののち加熱し、含まれているフラボノイド化合物を溶解する方法(特許文献1);難水溶性フラボイドとβ−サイクロデキストリンを加熱処理して難水溶性フラボノイドをβ−サイクロデキストリンに包接させた後、α−グルコシルヘスペリジンを共存させる方法(特許文献2);水性媒体中に難溶性のフラボノイドと大豆サポニン及び/又はマロニルイソフラボン配糖体を共存させ、加熱処理してフラボノイドを可溶化させる方法(特許文献3)が提案されている。これらの方法において、難水溶性ポリフェノールの加熱処理は、70℃〜90℃前後で行われている。
【0004】
また、水難溶性フラボノイドとケルセチン−3−O−配糖体が共存するアルカリ溶液等を乾燥させる水難溶性フラボノイドの改質方法(特許文献4)、ヘスペリジンとヘスペリジン糖付加物を特定の割合でアルカリ性水溶液に溶解し、乾燥してアモルファス状態とすることによりヘスペリジンの水溶性を向上させる方法(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−236856号公報
【特許文献2】特開2008−271839号公報
【特許文献3】国際公開第2005/003112号
【特許文献4】特開平7−10898号公報
【特許文献5】特開2007−308414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のように、従来知られている糖付加物等の可溶化剤を用いて難水溶性ポリフェノールの溶解度を高める方法は、可溶化剤を多量に使用する必要があった。このため、難水溶性ポリフェノール含有量が低い組成物しか得られておらず、経済的な方法とは言えない。
一方で、特許文献4及び5のように、難水溶性ポリフェノールと可溶化剤をアルカリ性水溶液に溶解した後アモルファス状態として溶解度を高める方法は、アルカリの中和と脱塩の工程が必要で、プロセスの煩雑化が懸念される。
【0007】
したがって、本発明の課題は、難水溶性ポリフェノールの含有量が高く、かつ水への溶解性に優れるポリフェノール組成物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、難水溶性ポリフェノールの可溶化技術について種々検討したところ、水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノールを特定の温度範囲で加熱処理した後に、特定の時間内に噴霧乾燥又は凍結乾燥すると、難水溶性ポリフェノールの溶解濃度を大幅に高め、かつ高濃度を維持したまま乾燥することができ、水溶性に優れたポリフェノール組成物を高収率で得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の工程(1)及び(2):
(1)水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール(A)を100〜180℃で加熱処理する工程、
(2)加熱処理後600分以内に処理液を噴霧乾燥又は凍結乾燥する工程、
を含み、
前記加熱処理を、難水溶性ポリフェノール(A)と可溶化剤(B)の合計に対する可溶化剤(B)の質量比[(B)/((A)+(B))]が0.1未満である条件で行う、ポリフェノール組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水に対する難水溶性ポリフェノールの溶解濃度を増加させることができ、高収率で溶解性に優れるポリフェノール組成物を製造することができる。また、可溶化剤を用いなくとも、あるいは可溶化剤の使用量を低減させても難水溶性ポリフェノールを溶解させることができるため、難水溶性ポリフェノールの純度が高い組成物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ポリフェノール組成物IのX線回折の結果を示す図である。
図2】ポリフェノール組成物IIのX線回折の結果を示す図である。
図3】ポリフェノール組成物IIIのX線回折の結果を示す図である。
図4】ポリフェノール組成物IVのX線回折の結果を示す図である。
図5】ポリフェノール組成物VのX線回折の結果を示す図である。
図6】ポリフェノール組成物VIのX線回折の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「難水溶性ポリフェノール」とは、logP値が−1.0〜4.0のポリフェノールを云う。難水溶性ポリフェノールは、logP値が−0.5〜3.5のものが好ましい。logP値は、1−オクタノール/水間の分配係数の常用対数をとった値で、有機化合物の疎水性を示す指標である。この値が正に大きい程疎水性が高いことを表す。ポリフェノールのlogP値は、日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法により測定できる。詳細は実施例に記載した。
【0013】
本明細書における難水溶性ポリフェノール(A)とは、ベンゼン環にヒドロキシル基が1個以上、好ましくは2個以上結合したフェノール性物質を云う。例えば、植物由来のフラボノイド、タンニン、フェノール酸等が挙げられる。より好ましく適用できる難水溶性ポリフェノールとしては、フラボノール類、フラバノン類、フラボン類、イソフラボン類、フェノールカルボン酸類等が挙げられる。
具体的には、ルチン、ケルシトリン、イソケルシトリン、ケルセチン、ミリシトリン、ダイゼイン、ダイジン、グリシテイン、グリシチン、ゲニステイン、ゲニスチン、ミリセチン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン、ヘスペレチン、ナリンギン、クルクミン、リンゲニン、プルニン、アストラガリン、ケンフェロール、レスベラトロール、アピイン、アピゲニン、デルフィニジン、デルフィン、ナスニン、ペオニジン、ペオニン、ペツニン、ペオニジン、マルビジン、マルビン、エニン、シアニジン、ロイコシアニジン、シアニン、クリサンテミン、ケラシアニン、イデイン、メコシアニン、ペラルゴニジン、カリステフィン、フェルラ酸、p−クマル酸又はこれらの誘導体が挙げられる。上記誘導体としては、アセチル化物、マロニル化物、メチル化物、配糖体が例示される。なかでも、フラボノール類及びフラバノン類が好ましく、ヘスペリジン、ナリンギン、ルチンが更に好ましい。難水溶性ポリフェノールは、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0014】
本明細書において水性媒体とは、水、及び有機溶媒の水溶液を云う。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水が例示される。有機溶媒としては、水と均一に混合するものであれば特に限定されない。有機溶媒としては炭素数4以下のアルコールが好ましく、メタノール及びエタノールがより好ましく、食品に適用可能であるという観点よりエタノールが更に好ましい。前記水溶液中の有機溶媒の濃度は、0.1〜80質量%(以下、単に「%」とする)が好ましく、1〜70%がより好ましく、5〜60%が更に好ましい。
【0015】
水性媒体のpHは、難水溶性ポリフェノールの安定性の観点より、3以上9未満が好ましく、3.5〜8.5がより好ましく、4〜8が更に好ましい。
【0016】
難水溶性ポリフェノール(A)は水への溶解度が低いため、水性媒体へ分散させ、スラリーの状態で存在させるのが好ましい。水性媒体中の難水溶性ポリフェノール(A)の含有量は、難水溶性ポリフェノールの種類によって異なるが、スラリーの流動性の点から、0.1〜100g/Lが好ましく、0.5〜50g/Lがより好ましく、0.7〜20g/Lが更に好ましく、0.7〜10g/Lが更に好ましい。
【0017】
本発明の方法における工程(1)は、水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール(A)を100〜180℃で加熱処理する工程である。
水性媒体の存在下、難水溶性ポリフェノール(A)を加熱処理する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。
加熱処理の温度は、100〜180℃であるが、110〜170℃がより好ましく、120〜160℃が更に好ましく、120〜150℃が更に好ましい。100℃以上において大幅な溶解性の向上が達成され、また、180℃以下において難水溶性ポリフェノールの安定性が確保される。加熱の手段は、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0018】
加熱処理時の圧力は、ゲージ圧で0〜10MPaが好ましく、0.1〜8MPaがより好ましく、0.1〜6MPaが更に好ましく、0.2〜6MPaが更に好ましく、0.2〜4MPaが更に好ましく、0.25〜2MPaが更に好ましく、0.3〜1.5MPaが更に好ましく、0.3〜0.6MPaが更に好ましい。なお、ゲージ圧とは、大気圧を0MPaとした圧力である。また、水の飽和蒸気圧以上に設定するのが好ましい。飽和蒸気圧以上の加圧は、背圧弁により調整しても良く、また、ガスを用いてもよい。用いられるガスとしては、例えば、不活性ガスが好ましく、窒素ガス、ヘリウムガス等がより好ましい。
【0019】
加熱処理は、例えば、回分法、半回分法、流通式処理方法等いずれの方法によっても実施できる。なかでも、流通式処理方法は、処理時間の制御が容易である点で好ましい。
【0020】
加熱処理の時間は、難水溶性ポリフェノールの溶解性向上と熱安定性の点から、水性媒体が設定温度に達してから0.1〜30分が好ましく、更に0.2〜15分、更に0.5〜8分が好ましい。
流通式処理方式で行う場合、加熱処理の時間は、処理器の高温高圧部の体積を水性媒体の供給速度で割ることにより算出される平均滞留時間を用いる。
【0021】
加熱処理後、噴霧乾燥又は凍結乾燥前に処理液を90℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下に冷却する工程を行うのが、ポリフェノールの熱劣化防止の点から好ましい。冷却時に、処理液を混合攪拌してもよい。
加熱処理温度から90℃まで低下するのに要した時間から算出される処理液の冷却速度は0.1℃/s以上、更に0.2℃/s以上、更に0.5℃/s以上、1℃/s以上、更に3℃/s以上、更に5℃/s以上が好ましい。冷却速度が大きいほど難溶性ポリフェノールの溶解度を改善することができる。このため、冷却速度の上限は特に定めないが、製造設備の制約等の観点より、例えば100℃/s以下、更に50℃/s以下が好ましい。
【0022】
更に、処理液から溶解せずに残留する固体部を除去する工程を行うのが、得られるポリフェノール組成物の溶解性を高める点から好ましい。固体部を除去する方法としては、特に制限されず、例えば遠心分離やデカンテーション、ろ過により行うことができる。
【0023】
本発明の方法において、加熱処理は、難水溶性ポリフェノール(A)と可溶化剤(B)の合計に対する可溶化剤(B)の質量比[(B)/((A)+(B))]が0.1未満である条件で行う。すなわち、難水溶性ポリフェノール(A)と可溶化剤(B)の関係は、
0≦(B)/((A)+(B))<0.1
と表すことができる。
組成物中の難水溶性ポリフェノール純度を高めるという観点からは、上記質量比は0.09以下が好ましく、0.07以下がより好ましく、0.05以下が更に好ましく、0.04以下が更に好ましく、0(可溶化剤(B)が存在しない条件)が殊更好ましい。
【0024】
可溶化剤(B)としては、難水溶性ポリフェノール(A)の糖付加物が好ましく、ヘスペリジン糖付加物がより好適に用いられる。難水溶性ポリフェノール(A)の糖付加物は、難水溶性ポリフェノール(A)に1個〜10個の糖が結合した化合物である。糖としては、グルコース、マルトース、フルクトース、ラムノース、ラクトース等が挙げられる。なお、難水溶性ポリフェノールの中にはアグリコンに糖が結合した配糖体が含まれる。例えば、ヘスペリジンは、ヘスペレチン(5,7,3’−トリヒドロキシ−4’−メトキシ
フラバノン)の7位の水酸基にルチノース(L−ラムノシル−(α1→6)−D−グルコース)がβ結合した配糖体である。本発明においてはこれと区別するため、難水溶性ポリフェノールに更に糖が結合したものを難水溶性ポリフェノール糖付加物、ヘスペリジンに更に糖が結合したものをヘスペリジン糖付加物と表記する。
【0025】
本発明の方法における工程(2)は、加熱処理後600分以内に処理液を噴霧乾燥又は凍結乾燥する工程である。
本明細書において、加熱処理後「600分以内」とは、加熱処理が終了した時点、すなわち処理液が100℃未満に下がった時点から、噴霧乾燥又は凍結乾燥の開始までの時間である。加熱処理後から噴霧乾燥又は凍結乾燥の開始までの時間は、ポリフェノール収率の点から、0.1〜600分が好ましく、更に0.1〜200分が好ましい。
【0026】
噴霧乾燥又は凍結乾燥の方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。
例えば、噴霧乾燥の場合、処理液をノズルからスプレーし、100〜220℃、好ましくは130〜190℃の熱風中を落下させることにより、乾燥することができる。
また、凍結乾燥の場合、処理液を液体窒素やクールバス、冷凍庫等で凍結し、粉砕し、篩別したのち真空で水分を昇華させて、乾燥することができる。処理液の凍結温度は−70〜0℃が好ましい。乾燥中の絶対圧力は0.1〜1000Paが好ましく、0.5〜100Paがより好ましく、1〜10Paが更に好ましい。
噴霧乾燥又は凍結乾燥後、必要に応じて、分級、造粒、粉砕等を行ってもよい。
【0027】
かくして得られるポリフェノール組成物は、アモルファス状態であり、水への溶解性に極めて優れる。ここで、アモルファスとは、結晶性を持たない固体物質を指す。アモルファス状態はX線回折を行った場合に明瞭な回折ピークが検出されないことで確認できる。
例えば本発明のヘスペリジン組成物の場合は、X線回折における回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度との比(回折角(2θ)15.5°での回折強度/回折角(2θ)14.5°での回折強度)が、水に対する初期溶解度、および溶解性の点から、3.0以下であることが好ましく、さらに2.0以下が好ましい。
【0028】
また、ポリフェノール組成物における水に対する難水溶性ポリフェノール(A)の初期溶解度(25℃)は、好ましくは1〜1000(g/L)、より好ましくは10〜1000(g/L)である。なお、「初期」とは、水への溶解時から30分まで、好ましくは5分までの期間を云う。
【0029】
本発明の製造方法によれば、可溶化剤の量を少なくしても難水溶性ポリフェノールの溶解度を高めることができる。即ち、ポリフェノール組成物の難水溶性ポリフェノール(A)の純度を高めることができる。純度は95%以上であることが好ましく、さらに97%以上、実質的に100%であることが可溶化剤の異味異臭を抑制する点からより好ましい。本明細書において難水溶性ポリフェノール(A)の純度(質量%)とは、[難水溶性ポリフェノール/(難水溶性ポリフェノール+可溶化剤)×100]を指す。
例えば、ヘスペリジンに対してヘスペリジン糖付加物を可溶化剤として用いる場合、ポリフェノール組成物中のヘスペリジンの純度は、95%以上であるものを好ましく得ることができ、さらに97%以上、実質的に100%であるものをより好ましく得ることができる。本明細書においてヘスペリジンの純度(質量%)とは、[ヘスペリジン/(ヘスペリジン+ヘスペリジン糖付加物)×100]を指す。
【0030】
本発明の製造方法で得られたポリフェノール組成物は、様々な飲食品や医薬品等に使用することができる。例えば、飲食品としては、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、スナック類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、粉末コーヒー等のインスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品等の固形状又は半固形状の飲食品が挙げられる。
【実施例】
【0031】
[難水溶性ポリフェノールの測定]
難水溶性ポリフェノールの測定は、日立製作所製高速液体クロマトグラフを用い、インタクト社製カラムCadenza CD−C18 (4.6mmφ×150mm、3μm)を装着し、カラム温度40℃でグラジエント法により行った。移動相A液は0.05mol/L酢酸水溶液、B液はアセトニトリルとし、1.0mL/分で送液した。グラジエント条件は以下のとおりである。
時間(分) A液(%) B液(%)
0 85 15
20 80 20
35 10 90
50 10 90
50.1 85 15
60 85 15
試料注入量は10μL、検出はルチンは波長360nm、その他の難水溶性ポリフェノールは波長283nmの吸光度により定量した。
【0032】
[難水溶性ポリフェノールのlogP値の測定]
日本工業規格 Z7260−107記載のフラスコ振盪法に従って測定した。まず1−オクタノールと蒸留水を25℃で24時間振とうして平衡化させた。次いで蓋付きガラス瓶にポリフェノール10mgを量りとり、平衡化させた1−オクタノールと蒸留水をそれぞれ4mLずつ加え、25℃で4日間振とうした。遠心分離により1−オクタノール相と水相を分け、上記[難水溶性ポリフェノールの測定]と同様にしてHPLCにより各相のポリフェノール濃度を測定した。2相間の分配係数の常用対数を取った値をlogP値とした。
【0033】
[溶解性の評価]
ポリフェノール組成物I〜IXは、試料0.1gを10g/Lとなるように蒸留水に分散させ、ポリフェノール組成物X〜XIは、試料0.1gを1g/Lとなるように蒸留水に分散させ、それぞれ20mLのガラス製サンプル瓶に入れてロータリーシェーカー(アズワン製、50rpm)で25℃で3時間振とう後の状態を目視にて確認した。下記の評価基準で溶解性を評価した。
3:完全に溶解して沈殿なし
2:不溶性固形分による濁りがみられるが沈降物なし
1:サンプル瓶の底に沈殿が層状に堆積
【0034】
[X線回折分析]
X線回折強度は、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X−RAY diffractometer」
を用いて以下の条件で測定した。
X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/min。
【0035】
[pHの測定]
pHは、水性媒体を20℃において、(株)堀場製作所製pHメーター(F−22)で測定した。
【0036】
実施例1
ヘスペリジン製剤(ヘスペリジン「ハマリ」(商品名)、浜理薬品工業(株)、ヘスペリジン(HES)含有量90%)を蒸留水(pH7)に10g/Lで分散し、スラリー供給タンク内で均一攪拌した。内容積100mLのステンレス製流通式処理器(日東高圧社製)に、スラリー供給タンク内の液を100mL/分で供給し、120℃で加熱処理を行った(平均滞留時間1分)。処理器内のゲージ圧力は出口バルブにより0.3MPaに調整した。処理器出口から処理液を抜き出し、熱交換器により25℃まで冷却し、孔径7μmの金属焼結フィルターを通した後、出口バルブで溶解液の圧力を大気圧に戻して回収した。溶解液を、加熱処理終了時点から5分後に噴霧乾燥機(Niro社製、モービルマイナmic型、入口エアー温度160℃、出口エアー温度72℃)に供給し、粉末の形態にてポリフェノール組成物Iを得た。溶解液中のHES濃度、HES純度、収率及びポリフェノール組成物Iの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物IのX線回折結果を図1に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0037】
さらに、ポリフェノール組成物の溶解度を調べるためポリフェノール組成物I 0.25gに蒸留水(25℃)0.3gを加えて振盪し、5分後に0.2μmのメンブレンフィルターでろ過してヘスペリジン濃度を測定したところ530g/Lであり、市販ヘスペリジン製剤の溶解度(0.02g/L)と比較して顕著に高かった。
【0038】
実施例2
加熱処理の温度を150℃、圧力を0.6MPaとした以外は実施例1と同様にして溶解液を回収した。溶解液を、−50℃のクールバスで予備凍結した後、加熱処理終了時点から5分後に凍結乾燥機(CHRIST社製ALPHA1−4LSC)により減圧乾燥した。このときの絶対圧力は1Paであった。72時間後にポリフェノール組成物IIを得た。溶解液中のHES濃度、HES純度、収率及びポリフェノール組成物IIの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物IIのX線回折結果を図2に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0039】
比較例1
実施例1で用いたヘスペリジン製剤をそのままポリフェノール組成物IIIとした。ポリフェノール組成物IIIの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物IIIのX線回折結果を図3に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0040】
比較例2
加熱処理後、乾燥開始までの時間を10分とし、噴霧乾燥機のかわりに70℃に設定した減圧電気乾燥機中で乾燥した以外は実施例1と同様にしてポリフェノール組成物IVを得た。溶解液中のHES濃度、HES純度、収率及びポリフェノール組成物IVの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物IVのX線回折結果を図4に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0041】
比較例3
加熱処理後、乾燥開始までの時間を1440分とした以外は実施例1と同様にしてポリフェノール組成物Vを得た。溶解液中のHES濃度、HES純度、収率及びポリフェノール組成物Vの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物VのX線回折結果を図5に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0042】
比較例4
加熱処理の温度を80℃、圧力を0.3MPaとした以外は実施例2と同様にしてポリフェノール組成物VIを得た。溶解液中のHES濃度、HES純度、収率及びポリフェノール組成物VIの溶解性評価の結果を表1に示す。また、ポリフェノール組成物VIのX線回折結果を図6に示し、回折角(2θ)15.5°での回折強度と回折角(2θ)14.5°での回折強度の比を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から明らかなように、本発明方法によれば、ヘスペリジンの溶解濃度を顕著に増大させることができ、水への溶解性に極めて優れたヘスペリジン組成物を収率よく得ることができた。特に、実施例1及び2より、可溶化剤を含まないヘスペリジン純度100%の組成物を得ることができた。図1図2及び表1より、本発明のヘスペリジン組成物はアモルファス状態であることが確認された。
他方、市販ヘスペリジン製剤である比較例1と、70℃乾燥機で乾燥した比較例2では、水への溶解性が低かった。これらは、図3及び4に示すとおり高結晶性であった。
また、噴霧乾燥を加熱処理終了から1440分後に開始した比較例3と、加熱処理を80℃と低い温度で行った比較例4では、ヘスペリジンの収率が悪かった。
【0045】
実施例3
ヘスペリジン製剤に代えて、ナリンギン製剤(ACROS ORGANICS社製、ナリンギン含有量97%、以下同じ)を用いた以外は実施例1と同様にして溶解液を回収した。120℃から90℃までの冷却時間から求めた冷却速度は7.58℃/sであった。溶解液を、加熱処理終了時点から10分後に噴霧乾燥機(ヤマト科学製、ADL311S−A、入口エアー温度150℃、出口エアー温度60℃)に供給し、粉末の形態にてポリフェノール組成物VIIを得た。溶解液中のナリンギン濃度、ナリンギン純度、収率及びポリフェノール組成物VIIの溶解性評価の結果を表2に示す。
さらに、ポリフェノール組成物の溶解度を調べるためポリフェノール組成物VII 0.25gに蒸留水(25℃)0.3gを加えて振盪し、5分後に0.2μmのメンブレンフィルターでろ過してナリンギン濃度を測定したところ584g/Lであり、市販ナリンギン製剤の溶解度(0.44g/L)と比較して顕著に高かった。
【0046】
実施例4
ナリンギン製剤を蒸留水(pH7)に10g/Lで分散した分散水150mLを、バッチ式水熱処理装置(日東高圧製Start200New Quick、容積180mL)に入れ、上部空間を窒素置換し、加熱した。昇温速度は3.4℃/分とし、120℃に到達後、1分後に装置を水浴に浸して25℃まで冷却した。120℃から90℃までの冷却時間から求めた冷却速度は0.38℃/sであった。処理液を孔径3μmのメンブレンフィルターを通して溶解液を回収した。溶解液を、実施例3と同様に噴霧乾燥して粉末の形態にてポリフェノール組成物VIIIを得た。溶解液中のナリンギン濃度、ナリンギン純度、収率及びポリフェノール組成物VIIIの溶解性評価の結果を表2に示す。
【0047】
比較例5
実施例3で用いたナリンギン製剤をそのままポリフェノール組成物IXとした。ポリフェノール組成物IXの溶解性評価の結果を表2に示す。
【0048】
実施例5
ヘスペリジン製剤に代えて、ルチン製剤((株)常盤植物化学研究所製、ルチン含有量100%、以下、同じ)を蒸留水に5g/Lで分散した以外は実施例1と同様にして溶解液を回収した。溶解液を、加熱処理終了時点から10分後に実施例2と同様に凍結乾燥して粉末の形態にてポリフェノール組成物Xを得た。溶解液中のルチン濃度、ルチン純度、収率及びポリフェノール組成物Xの溶解性評価の結果を表2に示す。
さらに、ポリフェノール組成物の溶解度を調べるためポリフェノール組成物X 0.25gに蒸留水(25℃)0.3gを加えて振盪し、5分後に0.2μmのメンブレンフィルターでろ過してルチン濃度を測定したところ14g/Lであり、市販ルチン製剤の溶解度(0.03g/L)と比較して顕著に高かった。
【0049】
比較例6
実施例5で用いたルチン製剤をそのままポリフェノール組成物XIとした。ポリフェノール組成物XIの溶解性評価の結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2から明らかなように、本発明方法によれば、ナリンギン及びルチンの溶解濃度を顕著に増大させることができ、水への溶解性に極めて優れ、且つ可溶化剤を含まない純度100%の組成物を収率よく得ることができた。
他方、市販ナリンギン製剤及びルチン製剤である比較例5と6では、水への溶解性が低かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6