(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂発泡体シートは、ポリオレフィン発泡体シートであり、他方の前記繊維シートにおける複合繊維の低融点ポリマー成分及び高融点ポリマー成分は、ともにポリオレフィンである請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、繊維強化樹脂用シートと樹脂発泡体シートとを貼りあわせて所定の形状の繊維強化樹脂成形体に圧縮成形する際に、繊維強化樹脂成形体の表面に皺が発生する問題について鋭意検討した。その結果、繊維強化樹脂用シートにおける強化繊維が連続繊維であるがゆえ圧縮成形により強化繊維が折れ曲がり又は座屈することと、特に低密度の樹脂発泡体シートを用いた際、樹脂発泡体シートが柔らかいため皺を抑えることができないことなどにより繊維強化樹脂成形体の表面に皺が発生することを突き止めた。そこで、樹脂発泡体シートの主面上にガラス繊維不織布を配置することで、繊維強化樹脂成形体の表面に皺が発生することを抑制し得ることを見出し、本発明に至った。
【0012】
以下、図面などを参酌しながら、本発明の繊維強化樹脂成形体について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の繊維強化樹脂成形体の模式的断面図である。本発明の繊維強化樹脂成形体10において、樹脂発泡体シート2の両側の主面上に繊維シート1、3がそれぞれ配置されており、繊維シート1、3の少なくとも一方がガラス繊維不織布で構成されている。また、繊維シート1、3の一方はガラス繊維不織布であり、繊維シート1、3の他方はガラス繊維不織布以外の繊維シート(以下において、ガラス繊維不織布以外の繊維シートを他の繊維シートとも記す。)であっても良い。
【0014】
本発明の繊維強化樹脂成形体では、樹脂発泡体シートの両側の主面上には、繊維シートがそれぞれ配置されており、いわゆるサンドイッチ構造となっている。本発明において、主面とは、いわゆる面積の大きな面のことをいう。具体的には、樹脂発泡体シートの両側の主面とは、樹脂発泡体シートのいわゆる表面及び裏面となる。すなわち、本発明では、樹脂発泡体シートの表面及び裏面に繊維シートをそれぞれ配置した構成となっている。なお、上記繊維強化樹脂成形体を車両用天井材として用いる場合は、室内側の面が表面であり、室外側の面が裏面となる。また、室内側に現れる材料を表面材又は表皮材という。繊維シート及び繊維強化樹脂成形体についても同様に、いわゆる表面及び裏面が主面となる。
【0015】
<ガラス繊維不織布>
ガラス繊維不織布の製造方法は特に限定されないが、例えば湿式抄紙法によって製造され、丸網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、あるいは2種以上の抄紙機を組み合わせたコンビネーション型抄紙機を用いて製造することができる。上記ガラス繊維不織布において、ガラス繊維の繊維長は、特に限定されないが、皺防止に優れるという観点から、5〜50mmであることが好ましく、10〜30mmであることがより好ましい。
【0016】
上記ガラス繊維不織布は、特に限定されないが、物理的強度の観点から、目付が10〜70g/m
2であることが好ましく、より好ましくは15〜45g/m
2である。なお、上記ガラス繊維不織布の厚みは、通常約0.05〜1.5mm程度である。
【0017】
上記ガラス繊維不織布としては、例えば、セントラル硝子社製のGFサーフェースマット(品番FC−30SK)などの市販品を用いることができる。
【0018】
<他の繊維シート>
ガラス繊維不織布以外の繊維シートは、特に限定されないが、低融点ポリマー成分と高融点ポリマー成分を含む複合繊維で構成されることが好ましい。本発明において、複合(コンジュゲート)繊維とは、例えば複数のポリマー成分を個別に紡糸口金まで導き、紡糸口金で一体化して押し出し、延伸して繊維としたものをいう。複合繊維の構造としては、例えば芯鞘構造、海島構造、サイドバイサイド構造などがあり、いかなる構造であっても良い。複合繊維はフィラメントヤーンでも良いし、高融点ポリマー成分からなる繊維と低融点成分からなる繊維を紡績した糸のようなものであっても良い。
【0019】
本発明の繊維強化樹脂成形体において、上記低融点ポリマー成分はマトリックス樹脂となり、上記高融点ポリマー成分は強化繊維となる。上記マトリックス樹脂とは、母材樹脂ともいう。マトリックス樹脂と強化繊維とで繊維強化樹脂、いわゆる繊維強化プラスチック(FRP: fiber reinforced plastics)となる。
【0020】
上記低融点ポリマー成分と上記高融点ポリマー成分としては熱可塑性樹脂且つ同種のポリマーを用いることが好ましい。同種のポリマーとは、ポリオレフィン同士、ポリエステル同士、ポリアミド同士などのように、ポリマーを構成する成分が同種のものであることを意味する。ホモポリマー同士だけではなく、共重合ポリマー(二元共重合、三元共重合など多成分共重合ポリマーを含む)から選択しても良い。本発明において、ポリオレフィンとは、エチレン系炭化水素化合物の重合体又は共重合体であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、またはそれらの共重合体を含む。ポリアミドは、アミド結合をもつ線状の合成高分子であり、一般的にはナイロンと称され、ナイロン66、ナイロン6,10、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12などが工業化されている。ポリエステルは、主鎖にエステル結合を持つ高分子の総称である。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどがある。その他、ポリカーボネート、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂なども使用できる。
【0021】
上記複合繊維において、上記高融点ポリマー成分の含有量は50〜90質量%の範囲であり、上記低融点ポリマー成分の含有量は10〜50質量%の範囲であることが好ましい。上記の範囲であれば強化繊維の割合を高くすることができ、強度を高くすることができるうえ、FRPとしたときにマトリックス樹脂と強化繊維のバランスをとりやすい。
【0022】
上記複合繊維において、低融点ポリマー成分と高融点ポリマー成分の融点差が20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。融点差が20℃以上であれば、圧縮成形して繊維強化樹脂成形体にしたとき、高融点ポリマー成分は強化繊維として機能し、低融点ポリマー成分はマトリックス樹脂として機能しやすい。
【0023】
上記複合繊維の低融点ポリマー成分及び高融点ポリマー成分は、ともにポリオレフィンであることが好ましい。ポリオレフィン(オレフィン系ポリマー)は軽量で強度も高く、耐久性も良好であり、不要品のリサイクルも廃棄も容易である。一例として、高融点ポリマー成分はポリプロピレンであり、低融点ポリマー成分はポリエチレンであることが好ましい。ポリプロピレンの比重は製法によって異なるが通常0.902〜0.910であり、ポリエチレンの比重も製法によって異なるが通常0.910〜0.970である。したがって、高融点ポリマー成分としてポリプロピレン、低融点ポリマー成分としてポリエチレンを使用した場合の複合繊維の比重は約0.9〜0.95の範囲となり、かなり低いものとなる。
【0024】
上記他の繊維シートは、上記複合繊維が一方向に配列された一方向シートを少なくとも1層含む。1層の場合は1軸繊維シートとなり、2層以上の場合は、多軸繊維シートとなる。また、熱圧縮成形時の形状維持性の観点から、上記他の繊維シートは、ステッチング糸で連結されていることが好ましい。1軸繊維シートがステッチング糸で連結されている場合は、すだれ状シートとなり、多軸繊維基材がステッチング糸で連結されている場合は、多軸挿入たて編み物となる。本発明において、連結とは、1層の場合は複合繊維を複数本引き揃えてシート状とするが、その複数本をバラバラにならないように保形することをいう。また、2層以上の場合は、上記1層の場合に加えて、層間をバラバラにならないように保形するという意味も有する。なお、ステッチング糸を用いず、熱融着により保形した(連結した)ものを用いることも可能である。
【0025】
上記ステッチング糸としては、例えばポリプロピレン糸、ポリエチレン糸、ポリエステル糸などが使用可能であるが、上記複合繊維の低融点ポリマー成分と高融点ポリマー成分と同種のポリマーからなる繊維で構成されることが好ましい。例えば、上記複合繊維において高融点ポリマー成分はポリプロピレンであり、低融点ポリマー成分はポリエチレンである場合、ステッチング糸はポリプロピレン糸又は芯成分がポリプロピレンで鞘成分がポリエチレンの複合糸を使用するのが好ましい。なお、ステッチング糸が無い場合や低融点ポリマー成分のみからなる糸の場合、圧縮成形において、加熱時に強化繊維部分の配列が乱れてしまうことがあり、結果として繊維強化樹脂成形体の強度が均一にならない恐れがある。これは、特に凹凸の大きな繊維強化樹脂成形体を製造するとき、すなわち深絞り成形時によく見られる現象であり、このような不均一性を防ぐには、高融点ポリマー成分と同程度の融点又は低融点ポリマー成分より20℃程度高い融点を有するステッチング糸が好ましく使用される。なお、ステッチ法としては、単環縫い(チェーンステッチ)やトリコット編みなどが用いられる。
【0026】
図2は他の繊維シートの一例である多軸挿入たて編み物の概念斜視図である。多軸挿入たて編み物20において、複合繊維(糸)21a〜21fは、それぞれ異なる方向に配列され各々の一方向シートを構成し、それらの一方向シートは編針26に掛けられたステッチング糸27、28によって厚さ方向にステッチング(結束)され、一体化されている。複合繊維の配列方向が異なる複数の一方向シートを含む多軸挿入たて編み物を用いると、多方向に強化効果の優れた繊維強化樹脂成形体を得ることが可能となる。ステッチング糸27、28の替わりに、又は併用して熱融着糸、ホットメルトフィルムなどのバインダーを用いて複数の一方向シートを一体化しても良い。
【0027】
上記他の繊維シートは、多方向に優れた強化効果を得る観点から、多軸挿入たて編み物であることが好ましい。多軸挿入たて編み物は繊維の配向性が高いからである。本発明で使用する他の繊維シートの好ましい目付(単位面積当たりの質量)及び厚さは特に限定されるものではないが、1層あたり約10〜150g/m
2、繊維シート全体として約10〜600g/m
2である。また、厚さは1層あたり約0.1〜0.5mm、繊維シート全体として約0.2〜2mmである。
【0028】
<樹脂発泡体シート>
上記樹脂発泡体シートとしては、例えばポリウレタン発泡体、ポリオレフィン発泡体、ポリスチレン発泡体、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)発泡体などの樹脂発泡体で構成されている樹脂発泡体シートなどを用いることができる。上記ポリオレフィン発泡体シートとしては、リサイクル性の観点から、ポリプロピレン発泡体シート、ポリエチレン発泡体シートなどを用いることが好ましく、特に耐熱性の観点からポリプロピレン発泡体シートが好ましい。上記ポリプロピレン発泡体シートとしては、市販のもの、例えばJSP社製の「ピーブロック」などを用いることができる。上記ポリスチレン発泡体シートとしては、市販のもの、例えばJSP社製の「スチロダイア」などを用いることができる。また、上記樹脂発泡体シートは繊維シートにおける樹脂と同種のポリマーからなるものが好ましい。圧縮成形する際にかける熱により、繊維シートの低融点成分が接着剤的な機能をはたし、別途接着剤を付与することなく繊維シートと樹脂発泡体シートとを貼り合わせて一体化することができるためである。
【0029】
上記樹脂発泡体シートの発泡倍率は繊維強化樹脂成形体の使用目的によって任意の倍率を選択できるが、車両用内装材として用いる場合は10〜100倍であることが好ましい。特にポリオレフィン発泡体シートの場合は15〜60倍程度が好ましい。また、上記樹脂発泡体シートの厚さは、例えば1〜300mm程度であり、車両用内装材として用いる場合は、軽量性や賦形性を考慮して好ましくは2〜15mm程度、より好ましくは2〜10mmである。また、軽量性の観点から、上記樹脂発泡体シートの密度は、0.009〜0.09g/cm
3であることが好ましく、より好ましくは、0.015〜0.06g/cm
3である。なお、0.015〜0.06g/cm
3の樹脂発泡体シートを用いた場合に、本発明の皺防止効果は、特に有効に発揮される。
【0030】
<接着層>
上記樹脂発泡シートと上記ガラス繊維不織布との間には、接着層を設けることが好ましい。接着性を高めるとともに、強度を向上させることもできる。上記接着層としては、接着性を有するもので構成されていればよく、特に限定されないが、圧縮成形時に同時に貼り合わせることができるということから、ホットメルト接着剤で構成されていることが好ましい。上記ホットメルト接着剤としては、例えば酢酸ビニル−エチレン共重合体系ホットメルト接着剤、オレフィン系ホットメルト接着剤、ポリアミド系ホットメルト接着剤、エステル系ホットメルト接着剤、ポリイソブチレン系ホットメルト接着剤などを用いることができる。また、上記接着剤としては、フィルム状のものを用いても良い。上記フィルム状のホットメルト接着剤としては、例えば、低密度ポリエチレンフィルム、低融点ナイロンフィルムなどの接着フィルムを用いることができる。
【0031】
上記繊維強化樹脂成形体は、表面上に皺が発生することを防止するとともに、深絞り成形時の成形性にも優れるという観点から、上記樹脂発泡体シートの一方の主面上にガラス繊維不織布が配置され、他方の主面上に多軸挿入たて編み物が配置されている構成であることが好ましい。本発明において、「深絞り成形」とは、側壁が周囲からの流入によって形成される成形法をいう。樹脂発泡体シートの両側の主面上にガラス繊維不織布を配置することで皺の発生を抑制することができるが、深絞り成形の場合は、
図8に示すように、繊維強化樹脂成形体に割れが発生する。深絞り成形時に、繊維強化樹脂成形体に割れが発生するのは、ガラス繊維不織布のガラス繊維と樹脂発泡樹脂の伸びの違いに起因すると推測される。そこで、上記樹脂発泡体シートの一方の主面上にガラス繊維不織布を配置し、他方の主面上に多軸挿入たて編み物を配置することで、ガラス繊維不織布により繊維強化樹脂成形体の表面上に皺が発生することを抑制しつつ、
図9に示すように多軸挿入たて編み物により深絞り成形時に生じやすい繊維強化樹脂成形体の割れも抑制することができる。
【0032】
上記繊維強化樹脂成形体を車両用内装材として用いる場合は、ガラス繊維不織布が配置されている面を表面として用いることにより、見栄えがよくなる。
【0033】
上記繊維強化樹脂成形体は、軽量の観点から、目付が1kg/m
2以下であることが好ましく、0.5kg/m
2以下であることがより好ましく、0.3kg/m
2以下であることがさらに好ましい。上記繊維強化樹脂成形体は剛性に優れており、曲げ弾性勾配が25N/cm以上であることが好ましく、曲げ弾性勾配が30N/cm以上であることがより好ましい。本発明において、曲げ弾性勾配は、厚さ方向に加わる荷重に対する抵抗を示すもので、下記のように測定する。まず、幅50mm、長さ150mmの試験片を用い、試験速度50mm/min、支点間距離100mmにて、JIS K 7221−2に準じて3点曲げ試験を実施する。次に、得られる荷重(N)−たわみ(cm)曲線を用い、曲線の勾配が最も大きい部分で接線を引き、当該接線から弾性勾配(N/cm)を算出する。
【0034】
上記繊維強化樹脂成形体は、上記樹脂発泡体シートの両側の主面上に繊維シートをそれぞれ配置し、圧縮成形することにより得ることができる。繊維シートが両方ともガラス繊維不織布である場合は、特に限定されないが、120〜140℃に加熱して圧縮成形することが好ましい。また、繊維シートの一方がガラス繊維不織布であり、他方が上述した多軸挿入たて編み物である場合は、特に限定されないが、多軸挿入たて編み物における低融点ポリマー成分の融点以上高融点ポリマー成分の融点未満の温度に加熱して圧縮成形することが好ましい。上記圧縮成形(compression molding)は、熱ロールの間を通過させるような熱ロールプレス成形でも良いが、通常はカム、トグル、圧空又は油圧などを使用して金型又は加熱板を上下させる機構により、シートを目的の形に圧縮成形する方法が用いられる。圧縮成形の場合は、成形天井やドアトリムのような深絞り成形が必要とされる用途にも使用可能である。圧縮成形する際には真空成形又は減圧成形と組み合わせることもできる。なお、圧縮成形はプレス成形ともいわれる。
【0035】
また、繊維強化樹脂成形体の一体性を高め、強度を向上させるという観点から、所定の形状に圧縮成形する前に、予備成形されることが好ましい。すなわち、上記樹脂発泡体シートの両側の主面上に繊維シートをそれぞれ配置した後圧縮成形(以下において、一次成形とも記す。)し、その後所定の形状、例えば天井やドア形状に圧縮成形(以下において、二次成形とも記す。)することが好ましい。一次成形により、樹脂発泡体シートと、樹脂発泡体シートの両側の主面上に配置された繊維シートとを一体化して一次成形基材を得、一次成形基材を二次成形することにより、所定の形状に賦形された繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0036】
図3A〜
図3Cは、繊維強化樹脂成形体を製造する際の一次成形工程を示す概念斜視図である。まず、
図3Aに示すように、下金型51上に、繊維シート42、樹脂発泡体シート43、繊維シート41をこの順番に積層して積層体40にし、その上に上金型55を配置する。次に、
図3Bに示すように、積層体40を、加熱プレス機に掛けてプレスし、その後冷却プレス機に移動し、さらにプレスして、積層体40を一体化する。その後、
図3Cに示すように、脱型して、一次成形基材50を得る。圧縮成形の条件は、例えば、加熱プレス条件として温度125〜140℃、成形圧力0.1〜4MPa、成形時間15〜300秒とし、冷却プレス条件として、温度25〜40℃、成形圧力0.1〜4MPa、成形時間15〜300秒とすることができる。なお、一次成形基材50の厚さは、下金型51と上金型55の間にクリアランススペーサを配置することで調整することができる。
【0037】
図4A〜
図4Bは、繊維強化樹脂成形体を製造する際の二次成形工程を示す概念斜視図である。まず、
図4Aに示すように、所定の寸法に切断した一次成形基材50を、コンベア63から加熱炉61に供給する。加熱炉61は加熱源の赤外線加熱器62により、所定の温度に加熱されており、一次成形基材50は加熱軟化される。次に
図4Bに示すように、予熱された一次成形基材50は、圧縮成形装置64の上金型65と下金型66の間に配置される。上金型65も下金型66も所定の温度に保持されている。上金型65が下降し、上金型65と下金型66の間で一次成形基材50は圧縮成形され、所定の形状に賦形されて繊維強化樹脂成形体110となる。上記において、予熱温度は、低融点ポリマー成分の融点以上高融点ポリマー成分の融点未満の温度であれば良い。予熱温度は、例えば、110〜150℃であり、好ましくは130〜140℃である。また、圧縮成形の条件は、例えば、温度125〜140℃、成形圧力0.1〜4MPa、成形時間30〜300秒とすることができる。
【0038】
上記繊維強化樹脂成形体の表面にはさらに表皮材を貼り付けても良い。さらに、表皮材と反対側の面に裏面材を貼り付けることも可能である。なお、これら表皮材や裏面材は、上記圧縮成形時に同時に貼り合わせることも可能である。例えば、ガラス繊維不織布と表皮材との間に接着フィルムを介在させた状態で熱圧縮成形を行うことで表皮材を貼り合わせることができる。上記表皮材や裏面材は、車両用内装材に用いるものであればよく特に限定されないが、例えばポリエステル不織布、ポリエステル製編物、ナイロン不織布などを用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(
参考例1)
樹脂発泡シート、ガラス繊維不織布及び接着フィルムを、
図5に示しているように、接着フィルム77、ガラス繊維不織布76、接着フィルム75、樹脂発泡シート74、接着フィルム73、ガラス繊維不織布72、接着フィルム71の順番に配置し、厚さ4.4mmの積層体を得た。次に、得られた積層体を金型内に挿入し、130℃で、30秒間、1MPaの圧力で熱プレスした後、20℃で120秒間冷却プレスすることで、積層体を一体化し、厚さ4mmの一次成形基材を得た。得られた一次成形基材を、130℃で60秒間加熱処理した後、所定の形状の金型に配置し、圧縮成形装置にて40℃で60秒間処理することで、
図8に示したように所定の形状に賦形された繊維強化樹脂成形体を得た。樹脂発泡シートとして、JSP社製の「ピーブロック」(発泡倍率:45倍、厚さ:4mm、密度:0.02g/cm
3)を用い、ガラス繊維不織布としてガラス繊維サーフェースマット(セントラル硝子社製「FC−30SK」、目付:30g/m
2、繊維長:約20mm、厚さ:0.1mm)、接着フィルムとして、低密度ポリエチレンフィルム(LDPEフィルム、厚さ:50μm)を用いた。
参考例1の繊維強化樹脂成形体200は、
図8A〜Bに示しているように、樹脂発泡シート202の両側の主面上にガラス繊維不織布201、203が配置されているものである。
【0041】
(実施例2)
<多軸挿入たて編み物の製造例1>
芯成分の融点が165℃のポリプロピレン(PP)と、その周りの鞘成分が融点110℃のポリエチレン(PE)で構成されている芯鞘型繊維(弾性率:7.8GPa、芯成分/鞘成分質量比:65/35)を240本引き揃えて得られたトータル繊度1850dtexのマルチフィラメントヤーンを複合繊維として用いた。得られたトータル繊度1850dtexのマルチフィラメントヤーン(複合繊維)を3本/インチで一方向に1層配列し、一方向シートを得た。得られた一方向シート3枚を
図11Aのように各層間の繊維の角度が60°となるように積層し、ステッチング糸(ポリプロピレン製糸、繊度:84dtex)で厚さ方向にステッチングして一体化し、多軸挿入たて編み物Iを得た。各一方向シートの目付は約22g/m
2であり、多軸挿入たて編み物Iの目付は約70g/m
2であり、厚さは約0.5mmであった。なお、
図11Aでは、ステッチング糸を省略している。
【0042】
<繊維強化樹脂成形体>
樹脂発泡シート、ガラス繊維不織布、接着フィルム、多軸挿入たて編み物Iを、
図6に示すように、多軸挿入たて編み物I、樹脂発泡シート74、接着フィルム73、ガラス繊維不織布72、接着フィルム71の順番に配置し、厚さ4.7mmの積層体を得た。得られた積層体を金型内に挿入し、130℃で、30秒間、1MPaの圧力で熱プレスした後、20℃で120秒間冷却プレスすることで、積層体を一体化し、厚さ4mmの一次成形基材を得た。得られた一次成形基材を、130℃で60秒間加熱処理した後、所定の形状の金型に配置し、圧縮成形装置にて40℃で60秒間処理することで、
図9に示したような所定の形状に賦形された繊維強化樹脂成形体を得た。なお、多軸挿入たて編み物Iは裏返して用いた。実施例2の繊維強化樹脂成形体200は、
図9A〜Bに示しているように、樹脂発泡シート202の片方の主面上にガラス繊維不織布201、他方の主面上に多軸挿入たて編み物204が配置されているものである。
【0043】
(比較例1)
<多軸挿入たて編み物の製造例2>
芯成分の融点が165℃のポリプロピレン(PP)と、その周りの鞘成分が融点110℃のポリエチレン(PE)で構成されている芯鞘型繊維(弾性率:7.8GPa、芯成分/鞘成分質量比:65/35)を240本引き揃えて得られたトータル繊度1850dtexのマルチフィラメントヤーンを複合繊維として用いた。得られたトータル繊度1850dtexのマルチフィラメントヤーン(複合繊維)を3本/インチで一方向に1層配列し、一方向シートを得た。得られた一方向シート3枚を
図11Bのように各層間の繊維の角度が60°となるように積層し、ステッチング糸(ポリプロピレン製糸、繊度:84dtex)で厚さ方向にステッチングして一体化し、多軸挿入たて編み物IIを得た。各一方向シートの目付は約22g/m
2であり、多軸挿入たて編み物IIの目付は約70g/m
2であり、厚さは約0.5mmであった。なお、
図11Bでは、ステッチング糸を省略している。
【0044】
<繊維強化樹脂成形体>
図7に示しているように、多軸挿入たて編み物I、IIを樹脂発泡体シート74の両側の主面上に配置し、厚さ5mmの積層体を得た。次に、積層体を金型内に挿入し、130℃で、30秒間、1MPaの圧力で熱プレスした後、20℃で120秒間冷却プレスすることで、積層体を一体化し、厚さ4mmの一次成形基材を得た。得られた一次成形基材を、130℃で60秒間加熱処理した後、所定の形状の金型に配置し、圧縮成形装置にて40℃で60秒間処理することで、
図10に示すような所定の形状に賦形された繊維強化樹脂成形体を得た。なお、多軸挿入たて編み物Iは裏返して用いた。比較例1の繊維強化樹脂成形体300は、
図10A〜Bに示しているように、樹脂発泡シート302の両側の主面上に多軸挿入たて編み物301、303が配置されているものである。
【0045】
実施例及び比較例の繊維強化樹脂成形体の曲げ弾性率(MPa)、曲げ強度(MPa)及び曲げ弾性勾配(N/cm)を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例の繊維強化樹脂成形体の成形性を下記のように評価し、その結果を下記表1に示した。なお、車両用内装材として用いる場合、曲げ弾性勾配は、25N/cm以上であれば良い。
【0046】
(曲げ弾性率及び曲げ強度)
幅50mm、長さ150mmの試験片を用い、JIS K 7055:1995の3点曲げ試験に準じて曲げ試験を行い、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。
【0047】
(曲げ弾性勾配)
曲げ弾性勾配(剛性比)は、厚さ方向に加わる荷重に対する抵抗を示すもので、下記のように測定した。まず、幅50mm、長さ150mmの試験片を用い、試験速度50mm/min、支点間距離100mmにて、JIS K 7221−2に準じて3点曲げ試験を実施した。次に、得られる荷重(N)−たわみ(cm)曲線を用い、曲線の勾配が最も大きい部分で接線を引き、当該接線から弾性勾配(N/cm)を算出した。
【0048】
(成形性)
成形可能:繊維強化樹脂成形体の平坦部とコーナー部のいずれにも皺が少ない。
成形不良:繊維強化樹脂成形体の平坦部には引き連れ皺があり、コーナー部には折りたたみ皺がある。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から、
参考例1及び実施例2の曲げ弾性勾配は、いずれも25N/cm以上であり、車両用内装材として用いても良いことが分かった。また、樹脂発泡体シートの表面上にガラス繊維不織布を配置して
参考例1及び実施例2では、表面に皺が発生することを抑制でき、成形性が良好であることが分かった。また、
図8と
図9の対比から分かるように、樹脂発泡体シートの片方の主面上に多軸挿入たて編み物を配置し、他方の主面上にガラス繊維サーフェースマットを配置した場合、深絞り成形時に割れが生じず成形性が良好であることが分かった。