特許第5926959号(P5926959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5926959チタン酸リチウム、該チタン酸リチウムの製造方法、該製造方法に用いるスラリー、該チタン酸リチウムを含む電極活物質及び該電極活物質を用いたリチウム二次電池
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  • 特許5926959-チタン酸リチウム、該チタン酸リチウムの製造方法、該製造方法に用いるスラリー、該チタン酸リチウムを含む電極活物質及び該電極活物質を用いたリチウム二次電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5926959
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】チタン酸リチウム、該チタン酸リチウムの製造方法、該製造方法に用いるスラリー、該チタン酸リチウムを含む電極活物質及び該電極活物質を用いたリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20160516BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160516BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160516BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   H01M4/485
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 B
   C01G23/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-547534(P2011-547534)
(86)(22)【出願日】2010年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2010072876
(87)【国際公開番号】WO2011078112
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2009-291269(P2009-291269)
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100097870
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 斎子
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】本間 昌利
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−221881(JP,A)
【文献】 特開2003−217583(JP,A)
【文献】 特開2008−270795(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/100918(WO,A2)
【文献】 国際公開第2009/071332(WO,A2)
【文献】 特開2004−288644(JP,A)
【文献】 特開2004−155631(JP,A)
【文献】 特開2000−264614(JP,A)
【文献】 特開2003−142097(JP,A)
【文献】 特開平05−174810(JP,A)
【文献】 特表2005−504693(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101378119(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
C01G 23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水溶性リチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤及び炭素材料を含むスラリーを乾燥した後、不活性雰囲気下において焼成する、炭素を含有するチタン酸リチウムの製造方法であって、前記チタン化合物が、チタン酸化合物もしくは酸化チタン又はこれらの混合物である、前記製造方法。
【請求項2】
少なくとも水溶性リチウム化合物と、チタン化合物と、界面活性剤と、を含む媒液に、粉末の炭素材料を加えて前記スラリーを調製する請求項1に記載の製造方法であって、前記チタン化合物が、チタン酸化合物もしくは酸化チタン又はこれらの混合物である、前記製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤の量は、スラリー中の固形分に対して、0.25重量%以上である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥が、乾燥造粒である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥造粒が、噴霧乾燥である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤を用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも水溶性リチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤及び炭素材料を含む、炭素を含有するチタン酸リチウムの製造用スラリーであって、前記チタン化合物が、チタン酸化合物もしくは酸化チタン又はこれらの混合物である、上記スラリー。
【請求項9】
分光色彩計を用いSCE(正反射光抜き)で測定されるL値が80以下であることを特徴とする請求項8に記載のスラリー。
【請求項10】
請求項8に記載のスラリーを乾燥したものである、炭素材料を含むチタン酸リチウム前駆体。
【請求項11】
請求項10に記載のチタン酸リチウム前駆体を焼成して得られる、炭素材料を含むチタン酸リチウム。
【請求項12】
金属リチウムを負極としたリチウム二次電池に正極活物質として用いた場合に、放電レート30Cにおける放電容量が、放電レート0.25Cでの放電容量に対して75%以上である請求項11に記載のチタン酸リチウム。
【請求項13】
チタン酸リチウムは二次粒子を含み、炭素が二次粒子の内部に存在している請求項12に記載のチタン酸リチウム。
【請求項14】
請求項11に記載のチタン酸リチウムを含む電極活物質。
【請求項15】
請求項14に記載の電極活物質を正極又は負極に用いたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性、特にレート特性に優れたチタン酸リチウム、このチタン酸リチウムの製造方法、この製造方法に用いるスラリー及びチタン酸リチウムを含む電極活物質、並びにこの電極活物質を用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度で、且つサイクル特性に優れていることから、近年、携帯機器電源等の小型電池に急速に普及しており、一方、電力産業用や自動車用等の大型電池にも展開が望まれている。これら大型リチウム二次電池の電極活物質には、長期信頼性や高入出力特性が求められており、特に負極活物質には、安全性と寿命に優れ、レート特性にも優れたチタン酸リチウムが有望視されている。
【0003】
上記チタン酸リチウムとしては、例えば、球状二次粒子に造粒して充填性を改良し、電池特性を向上させたチタン酸リチウムが知られている(特許文献1、2)。また、チタン酸リチウム二次粒子の放電容量を改良するために、リチウム化合物を分散させた溶液を50℃以上に予熱し、結晶性酸化チタンとチタン化合物を添加して前記スラリーを調製してチタン酸リチウムを製造する方法、及び該チタン酸リチウムとバインダーと導電材を混合して電極を作製する方法(特許文献3)や、チタン酸リチウムの二次粒子表面、あるいは内部に導電材を含むチタン酸リチウムの二次粒子表面に、CVD法により炭素蒸着処理を施し、サイクル特性を向上させる方法も知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−192208号公報
【特許文献2】特開2002−211925号公報
【特許文献3】特開2005−239460号公報
【特許文献4】特開2005−158721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HEV自動車や電力貯蔵用のリチウム二次電池を考えた場合、短時間に大電流を取り出す必要があり、大電流放出時の放電容量も問題となる。このため、特許文献1〜4などの技術については、さらなるレート特性の向上が求められている。たとえば、特許文献4の技術では、蒸着された炭素は、チタン酸リチウムの二次粒子の表面や粒子内部の表面近傍に存在するものが大半であり、二次粒子の芯部には存在せず、内部に導電材が含まれていても、導電材が均一に分散していないので、所望のレート特性が得られない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、活物質自体の改良によりレ−ト特性を向上させる方法について鋭意研究を重ねた結果、炭素を含有するチタン酸リチウムであって、金属リチウムを負極としたリチウム二次電池に正極活物質として用いた場合に、放電レート30Cにおける放電容量が、放電レート0.25Cでの放電容量に対して75%以上であるチタン酸リチウムを見出した。
【0007】
また、本発明者らは、少なくともリチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤及び炭素材料を含むスラリーを乾燥した後、不活性雰囲気下において焼成することによって、レート特性に優れたチタン酸リチウムを得られることを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、リチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤及び炭素材料を含む上記のスラリーが、分光色彩計を用いたSCE(正反射光抜き)で測定されるL値が80以下となるものであれば、分散状態が良好であり、チタン酸リチウムの製造に好適であることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記チタン酸リチウムを含む電極活物質が、優れた電池材料であることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、上記電極活物質を正極又は負極に用いたリチウム二次電池が、優れたレート特性を有することを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明のチタン酸リチウムを電極活物質として用いることにより、優れたレート特性を有するリチウム二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各放電レートにおける容量維持率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のチタン酸リチウムは、炭素を含有するものであり、リチウム二次電池の電極材料として有用である。具体的には、金属リチウムを負極としたリチウム二次電池に、本発明の炭素を含有するチタン酸リチウムを正極活物質として用いた場合に、放電レート30Cにおける放電容量が、放電レート0.25Cでの放電容量に対して75%以上となるものである。この30Cにおける放電容量は、後述する実施例3〜4のように、0.25Cでの放電容量に対して80%以上となることが好ましい。これらの各放電容量は、後述する実施例4〜6と同様の手順で作成された評価用コインセルを、測定環境の温度を25度に保ち、電圧範囲を1〜3Vの範囲に設定して、測定することができる。
【0014】
上記チタン酸リチウムは、一次粒子が集合して二次粒子が構成されたものが好ましく、好ましくは90%以上が二次粒子である。このようなチタン酸リチウムの一例として、上記一次粒子の大半、好ましくは90%以上が、組成式LiTiで表されるチタン酸リチウムが挙げられる。前記一般式中のx、yの値は、x/yの値で表して0.5〜2の範囲が好ましく、組成式Li4/3Ti5/3(LiTi12)で表されるスピネル型のものが特に好ましい。
【0015】
上記チタン酸リチウムの二次粒子は、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、ファンデルワールス力等の粒子間の相互作用で凝集したり、機械的に圧密化されたものではなく、工業的に用いられる通常の機械的粉砕では容易に崩壊せず、二次粒子として残るものである。一方、上記チタン酸リチウムに含有された炭素は、主として二次粒子の内部に存在している。この炭素は、二次粒子の一部に局所的に存在するのではなく、二次粒子の内部に均一に分布している可能性が高く、二次粒子表面に貫通している孔隙は勿論、二次粒子の表面に貫通していない孔隙にも分布している。より具体的には、二次粒子を構成する多数の一次粒子の間に均一に介在していると考えられる。このような炭素含有のチタン酸リチウムは、一次粒子間に良好な導電パスが形成されるため、同量の炭素を、チタン酸リチウムの二次粒子表面に処理する場合や、電極作成時に導電材として添加する場合に比べて、導電性が向上する。このように、導電性が向上することにより、後述する大電流下においても容量維持率の低下が軽減されると考えられる。
【0016】
前記チタン酸リチウムは、以下に説明する本発明の製造方法によって得られる。
【0017】
本発明は、少なくともリチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤及び炭素材料を含むスラリーを乾燥した後、不活性雰囲気下において焼成することを特徴とする。
【0018】
具体的には、先ず、少なくともチタン化合物、リチウム化合物等の出発物質と、界面活性剤と、炭素材料とを媒液に添加し、これらを含むスラリーを調製する。媒液に、それぞれの出発物質を添加する順序に制限は無いが、予め媒液にリチウム化合物を添加し、チタン化合物を添加してチタン酸リチウム前駆体のスラリーを調製した後、次いで、界面活性剤と、炭素材料とを添加すると、スラリーの増粘やゲル化が生じ難いので好ましい。なお、本願で言う「チタン酸リチウム前駆体」とは、チタン酸リチウムが生成する前の段階の物質のことを指し、例えば、上記のチタン化合物及びリチウム化合物を含むスラリーは、チタン酸リチウム前駆体のスラリーである。
【0019】
スラリー中のチタン成分の濃度は、TiO換算で50〜300g/Lの範囲であると工業的に有利で好ましく、80〜250g/Lの範囲であれば更に好ましい。リチウム成分の濃度はチタン成分の濃度を基準として所望の組成式を有するチタン酸リチウムを提供する濃度とすることができる。
【0020】
媒液としては、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはそれらの混合物を用いることができ、工業的には水又は水を主成分とする水性媒液を用いるのが好ましい。リチウム化合物を含む媒液の温度は、室温〜100℃の温度の範囲であると、スラリーの調製段階でチタン化合物とリチウム化合物の反応が進み、焼成時にチタン酸リチウムが得られ易いので好ましい。
【0021】
リチウム化合物としては、反応を水又は水を主成分とする水性媒液中で行なう場合は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム等の水溶性リチウム化合物を用いるのが好ましい。中でも、反応性の高い水酸化リチウムが好ましい。
【0022】
チタン化合物としては、TiO(OH)又はTiO・HOで表されるメタチタン酸、Ti(OH)またはTiO・2HOで表されるオルトチタン酸などのチタン酸化合物、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、ブロンズ型など)、好ましくは、ルチル型、アナターゼ型またはブルッカイト型の結晶性酸化チタン、あるいはそれらの混合物などを用いることができる。結晶性酸化チタンはX線回折パターンが、単一の結晶構造からの回折ピークのみを有する結晶性酸化チタンのほか、例えば、アナターゼ型の回折ピークとルチル型の回折ピークを有するもの等、複数の結晶構造からの回折ピークを有するものであってもよい。また、チタン化合物として、無機系のもの以外に、チタンアルコキシドのような有機系のものも用いても良い。
【0023】
炭素材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素等を挙げることができ、これらの複合材を用いることもできる。上記炭素材料としては、カーボンブラックが好ましく、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックやアセチレンブラックが更に好ましく、アセチレンブラックが特に好ましい。アセチレンブラックは、二次凝集体(アグロメレート)が鎖状に長く形成されるため、チタン酸リチウムの二次粒子内において、導電ネットワークを形成し易いと考えられる。
【0024】
チタン酸リチウム前駆体とともに炭素材料及び界面活性剤を含んだスラリーを乾燥することにより、炭素材料の持つ高い嵩容量を抑えることができる。このように製造された前駆体を焼成して得られる炭素含有のチタン酸リチウムを電極活物質として用いた場合は、電極中の電極活物質の密度を上げることができるため、リチウム二次電池の高容量化が期待できる。
【0025】
界面活性剤を添加したスラリーにおいては、界面活性剤を添加していないスラリーに比べて炭素材料の分散が進み易く、ビーズミル等を用いた機械的粉砕の工程を省略できる等、作業効率の点で好ましい。また、界面活性剤を用いて炭素材料を分散させたスラリーを用いて得られるチタン酸リチウムは、界面活性剤を用いずに炭素材料を分散させたスラリーを用いて得られるチタン酸リチウムに比べて、炭素材料を容易に分散させることができ、二次粒子を構成する多数の一次粒子間に炭素が介在し易い。
【0026】
界面活性剤としては、公知の(1)アニオン系界面活性剤、(2)カチオン系界面活性剤、(3)両性界面活性剤、(4)ノニオン系(非イオン系)界面活性剤等を用いることができる。
【0027】
(1)アニオン系界面活性剤としては、(A)カルボン酸塩:例えば、(a)高級カルボン酸塩(RCOOM)、(b)アルキルエーテルカルボン酸エステル塩(RO(EtO)COOM)、(c)高級カルボン酸とアミノ酸との縮重合物の塩(N−アシル−N−メチルグリシン、N−アシル−N−メチル−β−アラニン、N−アシルグルタミン酸等)等)、(d)アクリル酸系及びマレイン酸系ポリマーの塩(ポリアクリル酸塩([−CHCH(COOM)−])、アクリル酸塩−アクリルアミドコポリマー([CHCH(COOM)]−[CHCH(CONH)])、アクリル酸−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(COOH)]−[CHCH(COOM)CH(COOM)])、エチレン−マレイン酸塩コポリマー([Et]−[CH(COOM)CH(COOM)])、オレフィン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(R)]−[CH(COOM)CH(COOM)])、スチレン−マレイン酸塩コポリマー([Et(C)]−[CH(COOM)CH(COOM)]等)等、(B)硫酸エステル塩:例えば、(a)アルキル硫酸塩(ROSOM)、(b)アルキルエーテル硫酸エステル塩(RO(EtO)SOM)、(c)アリルエーテル硫酸エステル塩(ArO(EtO)SOM)、(d)硫酸化油(ロート油、硫酸化オリーブ油等)、(e)硫酸化オレフィン(R(CH)CHOSOM)、(f)アルキルアミド硫酸塩(RCONH−R’−OSOM、RCONR’−R’’−OSOM等)等、(C)スルホン酸塩:例えば、(a)アルキルスルホン酸塩(RSOM))、(b)アリルスルホン酸塩(アルキルベンゼンスルホン酸塩(R(C)SOM)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(R(C10)SOM)等)、(c)スルホカルボン酸エステル塩(ROOC−R’−SOM、ROOC−CH(CHCOOR’)−SOM等)、(d)α−オレフィンスルホン酸塩(R−C=C−R’−SOM、R−CHCHOH−R’−SOM等)、(e)アルキルアミドスルホン酸塩(RCONH−R’−SOM、RCONR’−R’’−SOM等)、(f)ポリスチレンスルホン酸塩([CHCH((C)SOM)])(g)ナフタレンスルホン酸塩−ホルマリン重縮合物([CH−(C10)])等、(D)リン酸エステル塩:例えば、(a)アルキルリン酸塩(ROPO、(RO)POM等)、(b)アルキルエーテルリン酸エステル塩(RO(EtO)PO、(RO(EtO)POM等)、(c)アリルエーテルリン酸塩(ArO(EtO)PO、(ArO(EtO)POM等)等が挙げられる。
【0028】
(2)カチオン系界面活性剤としては、(A)アミン塩:例えば、アルキルアミン塩(RHNX、RR’HNX、RR’R’’NX)等、(B)4級アンモニウム塩:例えば、(a)アルキルアミンの4級アンモニウム塩([RN(CH、[RR’N(CH等)、(b)芳香族4級アンモニウム塩([RN(CHAr)]、[RR’N(CHAr)等)、(c)複素環4級アンモニウム塩(ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、ポリビニルイミダゾリン等)、が挙げられる。
【0029】
(3)両性界面活性剤としては、(A)ベタイン型:例えば、(a)カルボン酸塩型ベタイン((RR’R’’N)R’’’COO)、(b)スルホン酸塩型ベタイン((RR’R’’N)R’’’SO)、(c)硫酸エステル塩型ベタイン((RR’R’’N)R’’’OSO)等、(B)アミノ酸型:例えば、RNH−R’−COOH、(C)アルキルアミンオキシド:例えば、RR’R’’N、(D)含窒素複素環型:例えば、イミダゾリウムベタイン等、が挙げられる。
【0030】
(4)ノニオン系界面活性剤としては、(A)エーテル型:例えば、(a)ポリオキシエチレンアルキルエーテル(RO(CHCHO)H)、(b)ポリオキシエチレンアリルエーテル(ArO(CHCHO)H)、(c)アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル(ArO[EtO]−[CH−ArO(EtO)−H)、(d)ポリオキシエチレンポリオキシエチレンブロックコポリマー(HO−[EtO]−[CH(CH)CHO]−[EtO]−H)、(e)ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル(RO−[CH(CH)CHO]−[EtO]−H)等、(B)エーテルエステル型:例えば、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル([CHCOOR]−[CHO(EtO)H]−[CHO(EtO)H])、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル等、(C)エステル型:例えば、(a)ポリエチレングリコールカルボン酸エステル(RCOO(EtO)H)、(b)グリセリンエステル((CHCOOR)−(CHOH)−(CHOH))、(c)ポリグリセリンエステル(CH(OR)CH(OR)−O−[CHCH(OR)CH−O−(OR)CH(OR)CH)、(d)ソルビタンエステル、(e)プロピレングリコールエステル(RCOOCHCH(CH)OH)、(f)ショ糖エステル等、(D)含窒素型:例えば、(a)カルボン酸アルカノールアミド(RCONHR’OH、RCON(R’OH))、(b)ポリオキシエチレンカルボン酸アミド(RCON−(EtO)H−(EtO)H)、(e)ポリオキシエチレンアルキルアミン(RNH(EtO)R−(EtO)H−(EtO)H、(f)ポリアルキレンポリアミン([−R−N(R’)−])、(g)ポリアクリルアミド([−CHCH(CONH)−])等、が挙げられる。
【0031】
上記化学式中のR、R’、R’’、R’’’は同種または異種のアルキル基を、MはNa、K、Ca、H、トリエタノールアミン等を、XはCl、Br、I等を表す。界面活性剤としては、ノニオン系が好ましく、ノニオン系の中でも、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が、より好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(n=10〜15、HLB=13〜14)が、特に好ましい。ここで、HLBとは界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値である。
【0032】
なお、本願発明で用いる界面活性剤とは、炭素材料を媒液に分散させる機能を有する化合物を指し、通称として分散剤や湿潤剤と呼ばれるものも含む。具体的な製品としては、DISPERBYK−183、DISPERBYK−184、DISPERBYK−185、DISPERBYK−190、DISPERBYK−191、DISPERBYK−192、DISPERBYK−193、DISPERBYK−194、DISPERBYK−2010、DISPERBYK−2015、DISPERBYK−2090、DISPERBYK−2091、DISPERBYK−2096等(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社 DISPERBYKは登録商標)、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン210P、エマルゲン220、エマルゲン306P、エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン408、エマルゲン409PV、エマルゲン420、エマルゲン430、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709等(以上、花王株式会社)が挙げられる。
【0033】
界面活性剤の添加量は、スラリーの固形分に対して、0.25重量%以上であることが好ましい。界面活性剤の添加量が、スラリーの固形分に対して0.25重量%より少ない場合は、スラリー中に炭素材料の分散が不充分になり易い。界面活性剤の添加量が不充分である場合は、白と黒が混ざったマーブル状のスラリーとなるので、目視により確認できる。攪拌条件及び分散状態の判断は下記のとおりである。また、界面活性剤の添加量は、0.25重量%〜4.0重量%が好ましく、0.50重量%〜2.0重量%がより好ましく、0.50重量%〜1.0重量%が更に好ましい。炭素材料の分散に必要な最小限度の量を添加するよりも、分散に充分な量(例えば、1.0重量%程度)を添加する方が、分散にかかる時間を短縮できる点や、焼成して得られるチタン酸リチウムのレート特性の点で、好ましい。また、界面活性剤の添加量が4重量%より多い場合は、乾燥造粒後の前駆体粉末に界面活性剤が残留する量が多くなり、焼成後の粉末における炭素含有量を調整できなくなるおそれがあるため、好ましくない。
(攪拌条件)
スリーワンモーターBL600攪拌機(新東科学株式会社製)にテフロン(登録商標)製2枚羽(40mm)攪拌棒を装着し、スラリーを200rpmで5分間攪拌する。
(分散状態の判断)
攪拌後、5分間放置したものにつき、分散が十分かどうか、判断する。
界面活性剤の添加量が不十分である場合は、スラリーに馴染まない一部の炭素材料がスラリー表面に滞留し、白と黒の混ざったマーブル状のスラリーとなるので、目視により確認できる。
【0034】
炭素材料を添加する方法としては、例えば、粉末のままリチウムチタン前駆体のスラリーに添加する方法や、予め炭素材料と界面活性剤を含んだスラリーを作成し、リチウムチタン前駆体のスラリーに添加する方法が挙げられる。上記方法のうち、リチウムチタン前駆体スラリーに粉末の炭素材料を添加する方法が、製造工程を簡略化することができる等、工業的に有利で好ましい。
【0035】
炭素材料としてチタン酸リチウム前駆体のスラリーに含ませる炭素量は、スラリーの固形分に対してC換算で0.05〜30重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ないと所望の導電性が得られず、多いと電極内の非活物質成分が増えることで、電池容量が低下し好ましくない。より好ましい炭素量は、0.1〜15重量%の範囲である。尚、炭素量は、CHN分析法、高周波燃焼法等により分析できる。
【0036】
スラリーの分散状態は、分光色彩計を用い、色差(L、a、b)により測定される。具体的には、分光色彩計として日本電色工業社製SD5000を用い、光源C、射度を2°、反射光、SCE(正反射光抜き)、測定径28mmとし、スラリーを丸セル(径28mm、高さ14mm)に入れ、測定する。
【0037】
リチウム化合物とチタン化合物が分散したスラリーは、白色である。これに対し、リチウム化合物、チタン化合物、界面活性剤、炭素材料を含む本発明のスラリーは、黒色である炭素材料が界面活性剤が存在することによって良好に分散しており、灰色である。このため、L値は、炭素材料を添加していない白色のスラリーと比べて低く、L値は80以下となる。L値は、炭素材料の添加量もその分散状態も一層良好である75以下であると好ましく、70以下であるとより好ましく、65以下であるとより一層好ましい。
【0038】
なお、リチウム化合物とチタン化合物が分散した白色のスラリーに、界面活性剤を用いずに炭素材料を添加し攪拌すると、スラリーは白と黒が混ざったマーブル状となる。このスラリーは、暫く静置すると上下に分離し、上部が黒色となり、下部が白色となる。このスラリーを上記分光彩色計の測定セルに入れた場合、セルの下部が白色となる。上記測定条件では、セル下部側から光が入射するため、白色部分のL値が測定される。このため、灰色の本発明のスラリーよりもL値が大きくなる。
【0039】
以上のとおり、L値が80より大きい場合は、炭素材料を含まないか、その濃度が低く、または、炭素材料がスラリーと分離しており、その分散が不十分であることを示す。
【0040】
前記スラリーを乾燥した後、焼成して炭素を含有するチタン酸リチウムを得る。乾燥の方法には公知の方法を用いることができ、例えば、スラリーを噴霧乾燥する方法、スラリー中に含まれる固形分を固液分離、乾燥する方法等が挙げられる。
【0041】
乾燥に際しては、乾燥造粒することが好ましい。乾燥造粒としては、例えば、(A)スラリーを噴霧乾燥し、二次粒子に造粒する方法、(B)スラリー中に含まれる固形分を固液分離、乾燥後、粉砕して、所望の大きさの二次粒子に造粒する方法等が挙げられる。特に、(A)の方法は、粒子径の制御が容易であり、球状二次粒子が得られ易く、また、二次粒子を構成する多数の一次粒子間に炭素を介在させ易いので好ましい。噴霧乾燥に用いる噴霧乾燥機は、ディスク式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式等、スラリーの性状や処理能力に応じて、適宜選択することができる。二次粒子径の制御は、例えば、スラリー中の固形分濃度を調整したり、あるいは、上記のディスク式ならディスクの回転数を、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式等ならば、噴霧圧やノズル径、各流体の流量を調整する等して、噴霧される液滴の大きさを制御することにより行える。スラリーの濃度、粘度等の性状は、噴霧乾燥機の能力に応じて適宜設定する。
【0042】
スラリーの粘度が低く、造粒し難い場合や、粒子径の制御を更に容易にするために、有機系バインダーを用いても良い。用いる有機系バインダーとしては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、焼成により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0043】
焼成温度としては、焼成雰囲気などにより異なるが、チタン酸リチウムを生成するためには、概ね550℃以上でよく、二次粒子間の焼結を防ぐため、1000℃以下とするのが好ましい。より好ましい焼成温度は、550〜850℃の範囲であり、650〜850℃の範囲であれば更に好ましい。焼成雰囲気としては、窒素雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。焼成後、得られたチタン酸リチウム二次粒子同士が焼結、凝集していれば、必要に応じてフレーククラッシャ、ハンマミル、ピンミル、バンタムミル、ジェットミルなどを用いて粉砕しても良い。
【0044】
次に、本発明は電極活物質であって、上述した本発明のチタン酸リチウムを含むことを特徴とする。また、本発明は、リチウム二次電池であって、前記の電極活物質を含む電極を用いたことを特徴とする。このリチウム二次電池は、電極、対極及びセパレータと電解液とからなり、電極は、前記電極活物質に導電材とバインダーを加え、適宜成形または塗布して得られる。導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電助剤が、バインダーとしては、例えば、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等のフッ素樹脂や、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸等の水溶性樹脂が挙げられる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、または黒鉛等の炭素含有物質を用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極にリチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等を用いることができる。セパレータには、いずれにも、多孔性ポリプロピレンフィルムなどが用いられ、電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタンなどの溶媒にLiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiBF等のリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0046】
実施例1
(チタン酸リチウム前躯体のスラリー調製)
4.5mol/lの水酸化リチウム水溶液340mlに、結晶性二酸化チタン粒子100gを添加し、分散させ、スラリーを得た。次に、チタン酸化合物(オルトチタン酸)の水分散体、TiO換算で50g分、を撹拝しながら液温を80℃に保った上記スラリーに分散させた。このスラリーに、水650mlを添加して、結晶性酸化チタン、チタン酸化合物及びリチウム化合物(以下、チタン酸リチウム前駆体という)を含むスラリーAを得た。
【0047】
(アセチレンブラック混合スラリー調製)
チタン酸リチウム前駆体をチタン酸リチウムとして98g含むスラリーAに、非イオン性(ノニオン性)界面活性剤ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン109P、花王社製、HLB=13.6)1gを添加した。このスラリーを攪拌しながら、アセチレンブラック粉末(デンカブラック、電気化学工業社製)2gを徐々に添加し、その後1〜2時間攪拌した。これにより、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーBを得た。スラリーBに添加された界面活性剤は、スラリーBの固形分に対し、1重量%である。このスラリーBは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0048】
(焼成)
スプレードライヤー(大川原化工機社製)の入口温度を190℃、出口温度を90℃に調整し、スラリーBを噴霧乾燥した。噴霧乾燥により得られた造粒体を、720℃窒素雰囲気下で3時間焼成し、粉末の試料Aを得た。試料Aを測定試料用ホルダーに載せ、それを株式会社リガク社製X線回折装置「RINT2200」にセットし、Cu/Kα線、スキャンスピード3.0°/分の条件で測定を行った。これにより、試料Aが、組成式LiTi12で表されるチタン酸リチウムと、炭素を含んでいることが確認された。また、試料AをCHN法で分析したところ、試料Aは、C換算で炭素を2重量%含んでいることが確認された。
【0049】
実施例2
(アセチレンブラックスラリーの調製)
非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン109P、花王社製、ノニオン系、HLB=13.6)1gを添加した純水100mlに、アセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)2gを加え、充分に攪拌し、スラリーCを得た。
【0050】
(アセチレンブラック混合スラリーの調製)
チタン酸リチウム前駆体をチタン酸リチウムとして98g含むスラリーAを攪拌しながら、界面活性剤を1gとアセチレンブラックを2g含むスラリーCを徐々に添加し、その後1〜2時間攪拌した。これにより、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーDを得た。スラリーDに添加された界面活性剤は、スラリーDの固形分に対し、1重量%である。このスラリーDは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0051】
(焼成)
スラリーBの代わりにスラリーDを用いた以外は実施例1と同様に噴霧乾燥後、焼成し、粉末(試料B)を得た。実施例1と同様の測定方法により、試料Bは、組成式LiTi12で表されるチタン酸リチウムと、C換算で炭素を2重量%含んでいることが確認された。
【0052】
比較例1
チタン酸リチウム前駆体をチタン酸リチウムとして98g含むスラリーAを攪拌しながら、アセチレンブラック粉末(デンカブラック、電気化学工業社製)2gを徐々に添加し、その後1〜2時間攪拌した。次に、得られた混合物を、ビーズミルを用いて更に混合し、アセチレンブラックとチタン酸リチウム前駆体を混合したスラリーEを得た。
【0053】
(焼成)
スラリーBの代わりにスラリーEを用いた以外は実施例1と同様に噴霧乾燥後、焼成し、アセチレンブラック2重量%を含むチタン酸リチウム粉末(試料C)を得た。実施例1と同様の測定方法により、試料Cは、組成式LiTi12で表されるチタン酸リチウムと、C換算で炭素を2重量%含んでいることが確認された。
【0054】
比較例2
(焼成)
スプレードライヤー(大川原化工機社製)の入口温度を190℃、出口温度を90℃に調整し、スラリーAを噴霧乾燥した。噴霧乾燥により得られた造粒体を、720℃窒素雰囲気下で3時間焼成し、チタン酸リチウム粉末(試料D)を得た。実施例1と同様の測定方法により、試料Dは、組成式LiTi12で表されるチタン酸リチウムであり、炭素を含んでいないことが確認された。
【0055】
実施例3〜4
実施例1〜2で得られた試料A〜Bと、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂を、重量比102:1:10(チタン酸リチウム:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量比100:3:10(となる)で配合し混練した。この混合物をアルミニウム箔集電体へ塗布した電極材料を120℃で10分間乾燥した。この電極材料を直径12mmの円形に切り出し、17MPaでプレスして正極を得た。この正極の活物質重量は3mgであった。
【0056】
上記正極それぞれを150℃で3時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型の試験用セルに組み込んだ。評価用のセルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。上記の正極を評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレータとして多孔性ポリプロピレンフィルム(セルガード#2400、宝泉社)を置き、更にその上に負極として12mm径で打抜いた0.5mm厚の金属リチウム箔に銅箔集電体を圧着したもの、及び厚み調整用の0.5mm厚スペーサとスプリング(ともにSUS316製)をのせ、その上から非水電解液として1mol/lとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を溢れるほど滴下し、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、評価用コインセル(試料E〜F)を作成した。
【0057】
比較例3
試料A〜Bの代わりに試料Cを用いた以外は、実施例3〜4と同様に、評価用コインセル(試料G)を作成した。
【0058】
比較例4
試料A〜Bの代わりに試料Dを用い、試料Dと、導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂を、重量比100:3:10で混練した以外は、実施例3〜4と同様に、評価用コインセル(試料H)を作成した。
【0059】
(レート特性の評価1)
実施例3〜4と比較例3〜4で得られた評価用コインセル(試料E〜H)について、種々の電流量で放電容量を測定して容量維持率(%)を算出した。測定は、測定環境の温度を25度に保ち、電圧範囲を1〜3Vに、充電電流は0.25Cに、放電電流は0.25C〜30Cの範囲に設定して行った。容量維持率は、0.25Cでの放電容量の測定値をX0.25、0.5C〜30Cの範囲での測定値をXとし、(X/X0.25)×100の式で算出した。なお、1Cとは、1時間で満充電から完全放電できる電流値を言い、本評価では、0.48mAが1Cに相当する。
【0060】
上記条件で算出した試料E〜Hの容量維持率を、表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
図1に示すように、10C以上の大きな電流を放電する際に、界面活性剤を使用して得られた正極を用いた試料E〜Fの容量維持率は、界面活性剤を使用していない正極を用いた試料Gよりも大きくなっている。また、放電電流が大きくなるにつれて、試料E〜Fの容量維持率と、試料Gの容量維持率の差は、拡大する傾向にある。
【0063】
表1に示すように、界面活性剤を使用して得られた試料E〜Fは、30Cにおける容量維持率の値が80%以上である。一方、界面活性剤を使用していない試料Gの30Cにおける容量維持率は75%に及ばない。これにより、界面活性剤を使用して得られた炭素含有のチタン酸リチウムを用いることで、大電流放電時の容量の低下が軽減されることが確認された。
【0064】
界面活性剤を使用していない試料Gと試料Hにおいて、焼成前に炭素を含ませた試料Gは、焼成前に炭素を含ませていない試料Hよりも、優れたレート特性を有しているが、試料E〜Fには及ばない。
【0065】
実施例5
実施例1で得られた試料Aと、導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂を、重量比102:8:10(チタン酸リチウム:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量比100:10:10)で配合し混練した。この混合物をアルミニウム箔集電体へ塗布した電極材料を、120℃で10分間乾燥を行った。この電極材料を直径12mmの円形に切り出し、17MPaでプレスして負極を得た。この直径12mmに切り出した負極の活物質重量は3mgであった。
【0066】
次に、マンガン酸リチウム(三井金属社製M01Y01)と、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂を、マンガン酸リチウム:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量比100:10:10で配合し、混練した。この混合物をアルミニウム箔集電体へ塗布した電極材料を、120℃で10分間乾燥を行った。この電極材料を直径12mmの円形に切り出し、17MPaでプレスして正極を得た。この正極の活物質重量は6mgであった。
【0067】
上記正極および負極を、150℃で3時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型の試験用セルに組み込んだ。評価用のセルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。上記の正極を評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレータとして多孔性ポリプロピレンフィルム(セルガード#2400、宝泉社)を置き、更にその上に上記の負極、厚み調整用の0.5mm厚スペーサ、スプリング(ともにSUS316製)をのせ、その上から非水電解液として1mol/Lとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を溢れるほど滴下し、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、評価用コインセル(試料I)を作成した。
【0068】
比較例5
試料Aの代わりに試料Dを用い、試料Dと、導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン樹脂を、重量比100:10:10で混練した以外は、実施例5と同様に、評価用コインセル(試料J)を作成した。
【0069】
(レート特性の評価2)
実施例5と比較例5で得られた評価用コインセル(試料I〜J)について、種々の電流量で充電容量を測定して容量維持率(%)を算出した。測定は、電圧範囲を1.5〜2.8Vに、放電電流は0.25Cの範囲に設定して行った。容量維持率は、0.25Cでの充電容量の測定値をX0.25、0.5C〜20Cの範囲での測定値をXとし、(X/X0.25)×100の式で算出した。なお、1Cとは、1時間で満充電から完全放電できる電流値を言い、本評価では、0.48mAが1Cに相当する。
【0070】
上記条件で算出した試料I〜Jの容量維持率を、表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、界面活性剤を使用して焼成前に炭素を含ませた負極を用いた試料Iの容量維持率は、焼成前に炭素を含ませていない負極を用いた試料Gよりも大きくなっている。
【0073】
(前駆体スラリーの調製)
実施例6
実施例1で用いたスラリーBを、実施例6とする。
【0074】
実施例7
界面活性剤(分散剤)として、顔料に親和性のあるブロック共重合物(DIPERBYK−190、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーBと同様にして、アセチレンブラックとチタン化合物とリチウム化合物を混合したスラリーFを得た。スラリーFに添加された界面活性剤は、スラリーFの固形分に対し、1重量%である。このスラリーFは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0075】
実施例8
界面活性剤(分散剤)として、コントロール重合のアクリル系共重合物(DIPERBYK−2010、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーBと同様にして、アセチレンブラックとチタン化合物とリチウム化合物を混合したスラリーGを得た。スラリーGに添加された界面活性剤は、スラリーGの固形分に対し、1重量%である。このスラリーGは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0076】
実施例9
界面活性剤(分散剤)として、コントロール重合のアクリル系共重合物(DIPERBYK−2015、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーBと同様にして、アセチレンブラックとチタン化合物とリチウム化合物を混合したスラリーHを得た。スラリーHに添加された分散剤は、スラリーHの固形分に対し、1重量%である。このスラリーHは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0077】
実施例10
スラリーAの分量をチタン酸リチウム前駆体をチタン酸リチウムとして95g含むように調製し、アセチレンブラック粉末(デンカブラック、電気化学工業社製)の分量を5gとした以外は、スラリーBと同様にして、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーIを得た。スラリーIに添加された界面活性剤は、スラリーIの固形分に対し、1重量%である。このスラリーIは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0078】
実施例11
スラリーAの分量をチタン酸リチウム前駆体をチタン酸リチウムとして99g含むように調製し、アセチレンブラック粉末(デンカブラック、電気化学工業社製)の分量を1gとした以外は、スラリーBと同様にして、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーJを得た。スラリーJに添加された界面活性剤は、スラリーJの固形分に対し、1重量%である。このスラリーJは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0079】
実施例12
界面活性剤(分散剤)として、顔料に親和性のあるブロック共重合物DIPERBYK−190、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーJと同様にして、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーKを得た。スラリーKに添加された分散剤は、スラリーKの固形分に対し、1重量%である。このスラリーKは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0080】
実施例13
界面活性剤(分散剤)として、コントロール重合のアクリル系共重合物(DIPERBYK−2010、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーJと同様にして、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーLを得た。スラリーLに添加された分散剤は、スラリーLの固形分に対し、1重量%である。このスラリーLは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0081】
実施例14
界面活性剤(分散剤)として、コントロール重合のアクリル系共重合物(DIPERBYK−2015、主成分40%、ビッグケミー社製)2.5gを用いた以外はスラリーJと同様にして、アセチレンブラック、界面活性剤及びチタン酸リチウム前駆体を含むスラリーMを得た。スラリーMに添加された分散剤は、スラリーMの固形分に対し、1重量%である。このスラリーMは、白と黒が完全に混ざり合った灰色であった。
【0082】
比較例6
比較例1で用いたスラリーEを、比較例6とする。
【0083】
比較例7
実施例1で用いたスラリーAを、比較例7とする。
【0084】
比較例8
実施例2で得られたスラリーCを、比較例8とする。
【0085】
(L値の評価)
アセチレンブラック粉末がスラリー中に分散していることの指標として、分光色彩計(SD5000、日本電色工業社製)を用いて色差(L、a、b)を測定した。測定条件は、光源C、射度2°、反射光、SCE(正反射光抜き)、測定径28mmとし、実施例6〜9、比較例6〜8で得た各スラリーを、それぞれ装置付属の丸セル(径28mm、高さ14mm)に入れ、5分間静置した後測定した。
【0086】
上記条件で測定した各スラリーのL値を、表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すように、界面活性剤を用いたスラリーBおよびスラリーF〜MのL値は80以下であり、界面活性剤を用いないスラリーEのL値は80より大きい。界面活性剤(分散剤)として、BYK−190、BYK−2010、BYK−2015を用いたスラリー(F〜H、K〜M)では、L値は80以下となった。なお、表3中の実施例で用いたスラリーのチタン化合物濃度は87〜113g/Lであった。
【0089】
スラリーF〜H、K〜Mで用いた界面活性剤(分散剤)の代わりに界面活性剤エマルゲン109Pを用いた場合、他の条件は変更していないにも関わらず、L値は65以下となった。これは、ノニオン系の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを界面活性剤として用いた場合、分散性が更に好ましいことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明で得られたチタン酸リチウムは電池特性、特にレート特性に優れたリチウム二次電池の活物質として有用である。
図1