特許第5927097号(P5927097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5927097
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20160516BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20160516BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   B62D25/20 G
   B62D21/00 A
   B62D21/15 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-218532(P2012-218532)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69748(P2014-69748A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 純也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】松田 博
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−182134(JP,A)
【文献】 特開2005−199788(JP,A)
【文献】 特開2008−265387(JP,A)
【文献】 特開平01−127742(JP,A)
【文献】 特開2005−262951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中に走行状態に応じた外力が作用する車体に取り付けられて、前記車体に張力を加えるワイヤと、
走行状態に応じて前記ワイヤの張力を調整して、前記車体の剛性を変化させるアクチュエータと、
を有し、
前記ワイヤは、
少なくとも一端が、前記車体を構成する複数の骨格部材の間の前記車体に取り付けられた状態で、前記複数の骨格部材の間で架け渡されて、走行中に前記複数の骨格部材の間に生じ得る、走行状態に応じた前記車体の歪みを制御する、
車両。
【請求項2】
前記ワイヤは、
両端が、前記複数の骨格部材の間の前記車体に取り付けられ、前記複数の骨格部材の間隔の変動を制御する、
請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記複数の骨格部材は、床下において左右方向に並べて配置され、前記車両の前後方向に延在するものであり、
前記複数の骨格部材の間には、前記複数の骨格部材に沿って延びるトンネル形状に湾曲した板金が設けられ、
ワイヤの両端は、
前記トンネル形状に湾曲した板金の両縁部に取り付けられ、前記両縁部の間隔の変動を制御する、
請求項2記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車体には、たとえば、組み上げた複数の骨格部材に外板を溶接したモノコック構造のもの、シャーシ台に骨格部材を取り付けたシャーシ構造のもの、がある。そして、車体には、衝突安全性、走行性能などが要求され、一般的に高剛性に形成することが望まれる。
たとえば特許文献1にあるように、車体の複数の骨格部材の間に板金などを取り付け、車体の剛性を向上させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−262951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車体の骨格部材の間に板金などを取り付けたとしても、車体の剛性の向上を期待できない場合がある。また、車体の骨格部材の間に板金などを取り付けることが難しい場合もある。
たとえば車体の床下には、エンジンおよびトランスミッションと、後輪とを連結するドライブシャフトが配置される。このため、乗車室の床下の一対のフロアーメンバ13の間に取り付ける板金は、トンネル形状に湾曲させる必要がある。この場合、一対のフロアーメンバ13の間に板金を取り付けたとしても、その板金がトンネル形状に湾曲されているため、車体の剛性の向上を期待できない。板金による補剛効果を期待できない。
その結果、一対のフロアーメンバ13の間が、コーナリング中の荷重により撓んだり、捩れたりする可能性がある。この車体の歪みは、操作応答性や操舵安定性などの走行性能に影響を与える。
このような車体の剛性の制限は、一対のフロアーメンバ13の間に限られない。車体を構成する複数の骨格部材の間には、エンジンなどの部品を搭載する必要があるために、板金による補剛効果を得ることができない場所がある。
その結果、車体は、走行中に歪む可能性がある。
【0005】
このように、車両は、複数の骨格部材の間を補剛して、車体に望まれる高い走行性能、たとえばスポーツ車両に求められる高い操作応答性や操舵安定性などを実現することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両は、走行中に走行状態に応じた外力が作用する車体に取り付けられて、車体に張力を加えるワイヤと、走行状態に応じてワイヤの張力を調整して、車体の剛性を変化させるアクチュエータと、を有し、ワイヤは、少なくとも一端が、車体を構成する複数の骨格部材の間の車体に取り付けられた状態で、複数の骨格部材の間で架け渡されて、走行中に複数の骨格部材の間に生じ得る、走行状態に応じた車体の歪みを制御する。
【0007】
好適には、ワイヤは、両端が、複数の骨格部材の間の車体に取り付けられ、複数の骨格部材の間隔の変動を制御する、とよい。
【0008】
好適には、複数の骨格部材は、床下において左右方向に並べて配置され、車両の前後方向に延在する骨格部材であり、複数の骨格部材の間には、複数の骨格部材に沿って延びるトンネル形状に湾曲した板金が設けられ、ワイヤの両端は、トンネル形状に湾曲した板金の両縁部に取り付けられ、両縁部の間隔の変動を制御する、とよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、車体に取り付けられるワイヤは、車体を構成する複数の骨格部材の間で架け渡される。アクチュエータは、ワイヤの張力を走行状態に応じて調整し、車体の剛性を走行状態に応じて変化させる。該複数の骨格部材の間の剛性を高めて、該複数の骨格部材の間での歪みを抑えることができる。車体は全体的に歪み難くなる。車体の剛性を走行状態に応じて高めて、車体に望まれる高い走行性能を実現できる。たとえばスポーツ車両に求められる高い操作応答性や操舵安定性などを実現できる。
特に、該複数の骨格部材の間に架け渡されるワイヤは、少なくとも一端が、該複数の骨格部材の間の車体に取り付けられる。該複数の骨格部材にワイヤの両端を直結させることなく、該複数の骨格部材の間のワイヤの張力を作用させて剛性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る自動車の車体を斜め上方から見た斜視図である。
図2図1の車体を斜め下方から見た斜視図である。
図3】車体の剛性制御装置の一例を示すブロック図である。
図4】車体の骨格部材と、車体に対する外力の入力部とを模式的に示した図である。
図5図3の剛性制御装置による、車体の剛性制御のフローチャートである。
図6】ワイヤの架け渡し方の説明図である。
図7】ワイヤの他の架け渡し方の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面を参酌して説明する。
【0012】
図1および図2は、本発明の実施形態に係る自動車の車体1を示す斜視図である。
図1は、車体1の上斜視図である。図2は、車体1の下斜視図である。
本実施形態の車体1は、複数の骨格部材を組み合わせ、さらに組み上げた複数の骨格部材に鋼板を溶接したモノコック構造のものである。
【0013】
図1および図2のモノコック構造の車体1は、具体的にはたとえば以下の骨格部材を有する。
車体1の乗車室のフロアパネル11の下には、フロアパネル11の左右両端縁とセンタートンネル12との間で前後方向へ延びる一対のフロアーメンバ13が設けられる。フロアパネル11の上には、フロアパネル11の左右両端縁に渡るフロアクロスメンバ14が設けられる。フロアーメンバ13とフロアクロスメンバ14とは、フロアパネル11を介して連結される。
フロアパネル11の前縁上には、ダッシュボード15が立設される。ダッシュボード15は、乗車室とエンジン室とを仕切る。ダッシュボード15の前面には、一対のフロントサイドメンバ16が前側へ突出させて取り付けられる。一対のフロントサイドメンバ16の先端部にラジエターパネル17、フロントバンパービーム18が取り付けられる。一対のフロントサイドメンバ16の後端は、一対のフロアーメンバ13の前端と連結される。
ダッシュボード15の左右両端縁には、一対のAピラー19が取り付けられる。一対のAピラー19には、一対のフロントアッパメンバ20がAピラー19から前方へ突出させて設けられる。Aピラー19には、図示外のフロントドアが開閉可能に取り付けられる。フロントドア内には、フロントドアビーム、フロントドアクロスメンバが設けられる。
フロアパネル11の左右両端縁には、一対のサイドシル21が設けられる。一対のサイドシル21の前端は、トルクボックス構造の鋼板22により、一対のフロントサイドメンバ16または一対のフロアーメンバ13と結合される。一対のサイドシル21は、フロアクロスメンバ14により連結される。
フロアパネル11の後端縁上には、乗車室と荷物室とを仕切るリアバルクヘッド23が立設される。リアバルクヘッド23の左右両端縁に、一対のCピラー24が取り付けられる。
一対のAピラー19の上端と一対のCピラー24の上端との間に、一対のルーフサイドレール25が取り付けられる。一対のルーフサイドレール25の間には、ルーフクロスメンバ26が左右方向に延在して設けられる。一対のルーフサイドレール25は、ルーフクロスメンバ26により連結される。サイドシル21の中央部とルーフサイドレール25の中央部との間に、Bピラー27が設けられる。サイドシル21とルーフサイドレール25とは、Bピラー27により連結される。一対のBピラー27には、図示外の一対のリアドアが取り付けられる。リアドア内には、リアドアビーム、リアドアクロスメンバが設けられる。
一対のサイドシル21の後端には、一対のリアサイドメンバ28の前端が連結される。一対のリアサイドメンバ28は、リアバルクヘッド23から後方へ向かって突出し、後端部にリアバンパービーム29が取り付けられる。
このような複数の骨格部材には、鋼板が溶接される。たとえば、Aピラー19とフロントアッパメンバ20との間に、リインフォースメント用の鋼板が取り付けられる。また、車体1には、外板として、たとえばボンネットフード板、左右のフェンダー板、トランクリッド板、ルーフ板などが取り付けられる。これにより、車体1が完成する。なお、複数の骨格部材は、溶接またはねじ止めにより連結できる。
【0014】
ところで、モノコック構造の車体1には、シャーシ台に骨格部材を取り付けたシャーシ構造の車体1と同様に、エンジン、モータなどの駆動源が取り付けられる。車体1の前部には、図示外のフロントサスペンションクロスメンバおよび一対のフロントサスペンションにより、左右一対の前輪が取り付けられる。車体1の後部には、図示外のリアサスペンションクロスメンバおよび一対のリアサスペンションにより、左右一対の後輪が取り付けられる。
一般的な車両では、エンジン、モータ、フロントサスペンションクロスメンバは、一対のフロントサイドメンバ16に取り付けられる。一対のフロントサスペンションの上端部は、一対のフロントサイドメンバ16と一対のフロントアッパメンバ20との間の板金に設けた鋼板の貫通孔30に挿入して取り付けられる。リアサスペンションクロスメンバは、一対のリアサイドメンバ28に取り付けられる。一対のリアサスペンションの上端部は、一対のリアサイドメンバ28に取り付けたリアバルクヘッド23の貫通孔に挿入して取り付けられる。車体1は、一対のフロントサスペンションおよび一対のリアサスペンションを通じて、前輪および後輪上に保持される。
【0015】
そして、車体1には、走行中の走行状態に応じた外力が作用する。走行中の外力は、フロントサスペンションの取付位置、フロントサスペンションクロスメンバの取付位置、リアサスペンションの取付位置、リアサスペンションクロスメンバの取付位置から、車体1に入力される。車体1は、これらの外力により変形し難いように形成する必要がある。また、車体1には、衝突安全性、走行性能、乗車感などの複数の性能が要求される。このため、車体1は、一般的に高剛性に形成する必要がある。
たとえば、車体の複数の骨格部材の間に板金などを取り付け、車体の剛性を向上させることが考えられる。
【0016】
しかしながら、車体1の骨格部材の間に板金などを取り付けたとしても、車体1の剛性の向上を期待できない場合がある。また、車体1の骨格部材の間に板金などを取り付けることが難しい場合もある。
たとえば車体1の床下には、エンジンおよびトランスミッションと、後輪とを連結するドライブシャフトが配置される。このため、乗車室の床下の一対のフロアーメンバ13の間に取り付ける板金は、トンネル形状に湾曲させる必要がある。このセンタートンネル12に、ドライブシャフトを配置する。
この場合、一対のフロアーメンバ13の間に板金を取り付けたとしても、その板金がトンネル形状に湾曲されているため、車体1の剛性の向上を期待できない。板金による補剛効果を期待できない。
その結果、一対のフロアーメンバ13の間が、コーナリング中の荷重により撓んだり、捩れたりする可能性がある。この車体1の歪みは、操作応答性や操舵安定性などの走行性能に影響を与える。
なお、このような車体1の剛性の制限は、一対のフロアーメンバ13の間に限られない。たとえば、一対のフロントサイドメンバ16の間には、エンジンなどの部品を搭載する必要があるために、板金による補剛効果を得ることができない。
その結果、車体1は、走行中に歪む可能性がある。
【0017】
走行中の各種の走行状態に応じた剛性不足を補うために、本実施形態では、ワイヤ42を用いて車体1の剛性を補強する。特に、走行状態に応じてワイヤ42の張力を調整することにより、走行中の車体1の剛性を走行状態に対して適応的に変化できる。車体1の剛性を走行中に走行状態に対して可変させることにより、車体1自体の剛性バランスによる高い衝突安全性能を維持しながら、走行状態に応じて必要とされる車体1の剛性を得ることができる。走行中に車体1が歪み難くなる。
これに対し、単に板金や金属ロッドのような剛体により補剛した単一剛性の車体1では、衝突安全性能よりも走行性能や乗車感を優先しなければ、スポーツ走行に適した高い走行性能や乗車感を得ることが難しい。
【0018】
図3は、図1の車体1に搭載される車体1の剛性制御装置41の一例を示すブロック図である。
図3の車体1の剛性制御装置41は、車体1に連結されるワイヤ42、動滑車45、補助ワイヤ46、アクチュエータ47、張力を走行状態に応じて調整するための制御信号をアクチュエータ47へ出力するコントローラ48、ワイヤ42の実際の張力を検出する張力検出部49、を有する。また、コントローラ48は、走行状態を判断するための情報を取得するために、車両に搭載される情報源機器50、たとえば走行制御装置51、ナビゲーション装置52、運転支援装置53、通信装置54に接続される。
なお、ワイヤ42を直線的に配置できない場合、ワイヤ42が架けられる滑車、リブなどのガイド部材を使用してもよい。
【0019】
ワイヤ42は、車体1に連結されて、走行中の車体1に張力を作用させる。車体1の衝突安全性能は、基本的に車体1の骨格部材および骨格構造により確保される。よって、ワイヤ42は、車体1に与える張力に耐え得るものであればよい。ワイヤ42は、たとえばピアノ線を縒り合せた金属線でよい。
ワイヤ42は、車体1の補剛に用いられる板金や金属ロッドと異なり、可撓性を有する。ワイヤ42は、両端の間隔を広げる引っ張り方向において張力を発揮するが、両端の間隔を狭める短縮方向においては張力を発揮しない。車体1が座屈する場合に緩むようにワイヤ42を取り付けることで、車体1の変形を阻害し難い。ワイヤ42は、基本的に、車体1自体の衝突安全性能を損なわない。車体1は前後方向または左右方向から衝突する。ワイヤ42は、たとえば車体1の前後方向または左右方向に沿って設ければよい。
図3のワイヤ42の両端は、車体1に取り付けられる。ここでは、センタートンネル12の板金の左右一対の両縁部の間に、ワイヤ42が架け渡されている。車体1の乗車空間を捩る力などが作用した場合において、センタートンネル12を変形させる力が作用する。ワイヤ42の両端を、センタートンネル12の板金の左右一対の両縁部の間に連結することにより、このような力に抗し、車体1の乗車空間の形状を維持させることができる。ワイヤ42の端部は、ねじ止め、溶接などにより、車体1に直接的に取り付けてよい。
【0020】
なお、車体1に対するワイヤ42の取り付け方は、図3に限られない。ワイヤ42は、たとえばその一端が骨格部材に取り付けられ、他端がアクチュエータ47に取り付けられてよい。
図4は、車体1の骨格部材と、車体1に対する外力の入力部とを模式的に示した図である。
図4では、4本の骨格部材61が四角形の枠形状に組まれている。枠の外側に、外力の入力部62が存在する。外力の入力部62は、たとえばフロントサスペンションの取付位置である。図1の車体1の場合、骨格部材61としてのフロントサイドメンバ16とフロントアッパメンバ20との間に取り付けた板金の貫通孔30である。また、骨格部材61の内側には、骨格部材61に取り付けられた板金によるリブ66が形成される。
ワイヤ42は、たとえばリブ66、外力の入力部62、骨格部材61の端部63、骨格部材61同士の結合部64、骨格部材の中央部65などに連結する。ワイヤ42は、少なくとも一端が車体1のリブ66などに直接的に取り付けられる。ワイヤ42の両端は、直接的にまたは間接的に車体1に取り付けられる。ワイヤ42は、車体1の複数の骨格部材61の間に架け渡される。ワイヤ42は、たとえば対向する又は連結される一対の骨格部材61の中央部65の間に架け渡せばよい。
【0021】
アクチュエータ47は、ワイヤ42に対して直接的にまたは間接的に張力を与える。アクチュエータ47は、走行中にワイヤ42の張力を調整する。これにより、車体1の剛性および剛性バランスは、走行中に変化する。
アクチュエータ47は、たとえばワイヤ42を巻き取るリール57が取り付けられた電動モータ58でよい。電動モータ58の駆動力によりワイヤ42がリール57に巻き取られる。電動モータ58の駆動力に応じた張力が、ワイヤ42およびその取付位置に作用する。電動モータ58の替わりに、オイルモータ、燃料を燃焼するエンジンを用いてよい。なお、電動モータ58、オイルモータまたはエンジンとともに、ワイヤ42の巻取状態を一定状態に維持するラチェット機構を用いてもよい。
ワイヤ42の張力をアクチュエータ47により調整することにより、走行中の車体1に対して走行状態に応じた張力を作用させることができる。これに対し、ワイヤ42の張力を固定した場合、ワイヤ42は常に一定の張力を車体1に与える。走行中の車体1に対して、走行状態に応じた適切な張力を作用させることができない。また、車体1は、元来、所定の剛性が得られるように形成されている。ワイヤ42の張力が外力に対応したものでない場合、車体1は、車体自体で予定していた本来の変形とは異なる変形となる可能性がある。自動車の操作性や乗車感は、車体1の剛性または剛性バランスが微妙に変化しただけでも、大きく変化することがある。ワイヤ42の張力を走行中に調整できるように構成することにより、走行状態の変化に応じて走行中の車体1の剛性を変化させ、走行状態に応じた良好な操作性や乗車感を得ることができる。
図3において、アクチュエータ47は、補助ワイヤ46により動滑車45に連結される。動滑車45は、ワイヤ42に架けられる。アクチュエータ47は、直接的には動滑車45を駆動し、車体1に張力を作用させるワイヤ42に対して間接的に張力を与える。アクチュエータ47は、ワイヤ42の両端に対して、同じ張力を作用させることができる。
なお、車体1に張力を作用させるワイヤ42と、アクチュエータ47との連結は、図3に限られない。たとえばアクチュエータ47にワイヤ42の一端が直接に連結されてよい。この場合、アクチュエータ47は、車体1の骨格部材などに対して、ワイヤ42の張力に耐え得る強度で取り付ける必要がある。
【0022】
張力検出部49は、ワイヤ42が車体1に作用させる張力を直接的にまたは間接的に検出する。張力検出部49は、たとえば歪みゲージでよい。歪みゲージは、ワイヤ42の表面に張り付けることができる。歪みゲージは、ワイヤ42の張力に応じた伸縮により変形し、その変形による抵抗値の変化により、ワイヤ42の張力を検出する。なお、ワイヤ42の一端は、張力検出部49を介して、車体1に取り付けられてもよい。この場合、張力検出部49は、車体1に対し、ワイヤ42の張力に耐え得る強度で取り付ける必要がある。
張力検出部49は、ワイヤ42が車体1に作用させる張力を示す検出信号をアクチュエータ47へ出力する。アクチュエータ47は、張力検出部49により検出される実際のワイヤ42の検出張力が、コントローラ48により指示される目標張力に収束するように、ワイヤ42に与える張力を調整する。
図3において、張力検出部49は、車体1に張力を作用させるワイヤ42に取り付けられ、このワイヤ42の張力を直接的に検出する。
なお、張力検出部49は、ワイヤ42の張力を間接的に検出してよい。たとえば動滑車45とアクチュエータ47とを連結する補助ワイヤ46に取り付けてもよい。
【0023】
コントローラ48は、走行状態に応じて張力を調整するための制御信号をアクチュエータ47へ出力する。コントローラ48は、たとえば車両に搭載されるECU(Engine Control Unit)、その他のマイクロコンピュータでよい。
マイクロコンピュータは、たとえばCPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポート、およびこれらを接続するシステムバスを有する。入出力ポートは、アクチュエータ47に接続される。CPUは、メモリに記憶されるプログラムを読み込んで実行する。これにより、コントローラ48が実現される。
コントローラ48は、走行中に、走行状態を繰り返し判断する。走行中の車両の走行状態には、たとえば加速、減速、停止、右旋回、左旋回、速度域などがある。コントローラ48は、判断した走行状態に対応するワイヤ42の張力を特定し、制御信号を生成し、生成した制御信号を入出力ポートからアクチュエータ47へ出力する。
【0024】
図5は、図3の剛性制御装置41による、車体1の剛性を走行状態に応じて制御するフローチャートである。
コントローラ48は、図5の制御を、車両の走行中に繰り返し実行する。
コントローラ48は、ドライバによるアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作入力タイミングにおいて、図5の剛性制御を実行する。
【0025】
走行状態に応じた車体1の剛性制御において、コントローラ48は、まず、車両の走行状態に応じて車体1に作用する外力を判断するための情報(制御利用パラメータ)を取得する(ステップST1)。
コントローラ48は、たとえば車両の走行制御装置51から情報を取得する。走行制御装置51は、VDC(Vehicle Dynamics Control)により、前輪または後輪の横滑りを検出した場合に各車輪のブレーキおよびエンジン出力を制御し、車両の走行を安定させる。走行制御装置51は、走行状態に応じてフロントサスペンションまたはリアサスペンションに用いられているマグネティックライドサスペンションのダンパーの減衰力を調整する。走行制御装置51は、ドライバによるアクセル開度、ブレーキ操作量、ステアリングの舵角を検出する。コントローラ48は、走行制御装置51から、これらの検出情報、操作情報、制御情報を、車両挙動データとして取得する。
また、コントローラ48は、たとえばナビゲーション装置52から情報を取得する。ナビゲーション装置52は、目的地設定に応じて現在地からの案内経路を探索し、誘導する。経路探索には、地図データに含まれる道路を示すリンクデータ、地形データなどが用いられる。コントローラ48は、ナビゲーション装置52から、ナビゲーション情報として、たとえば案内経路、地形、道路の情報を取得する。
また、コントローラ48は、たとえば運転支援装置53から情報を取得する。運転支援装置53は、車体1に取り付けられたカメラにより車両の周囲または前方を撮像し、その撮像画像中の物体との衝突可能性を予測し、警報を発する。また、警報後も危険状態が継続している場合、車両を停止させるなどの衝突回避制御を実行する。コントローラ48は、運転支援装置53から、たとえば車両の周囲または前方の撮像画像、危険対象物の情報、危険予測情報を取得する。
また、コントローラ48は、たとえば通信装置54から、交通情報などを取得する。通信装置54は、たとえばITS(Intelligent Transport System)、VICS(Vehicle Information and Communication System)などでの交通情報を受信する。交通情報には、走行予定の道路の渋滞情報が含まれる。コントローラ48は、通信装置54から、たとえば交通情報を取得する。
【0026】
走行状態を判断するための情報を取得した後、コントローラ48は、取得した情報に基づく走行状態および外力の判断に先立って、衝突可能性を判断する(ステップST2)。
コントローラ48は、運転支援装置53から取得した、たとえば車両の前方の撮像画像または危険予測情報に基づいて、衝突する可能性が高い危険対象物の有無を判断する。
たとえば、危険予測情報が衝突を予測している場合、コントローラ48は、衝突可能性ありと判断する。危険予測情報が衝突を予測していない場合、コントローラ48は、衝突可能性なしと判断する。
【0027】
衝突可能性があると判断した場合、コントローラ48は、後述する通常の張力制御に替えて、衝突用の張力制御を実行する(ステップST3)。
コントローラ48は、通常の走行状態に応じた制御信号に替えて、衝突予測時の制御信号を出力する。コントローラ48は、ワイヤ42の張力をたとえば解放する制御信号を、アクチュエータ47へ出力する。ワイヤ42の張力を解放する制御信号が入力されると、アクチュエータ47は、ワイヤ42の張力が0となるようにモータの駆動を停止する。ワイヤ42の張力は解放される。
このように衝突可能性を判断し、ワイヤ42の張力を解放する制御を実行することにより、車両が実際に衝突する前に、車体1にワイヤ42の張力が作用しないようにできる。車体1は、ワイヤ42の張力が作用していない状態で衝突できるので、それに作り込まれた衝突性能の下で衝突できる。ワイヤ42の張力により、車体1の衝突安全性能が低下してしまう可能性を無くすことができる。
また、走行状態に応じて車体1の剛性を制御する処理ルーチン内で、走行状態を判断するための情報を取得した直後に、かつ、実際に車体1の剛性を制御する前に、衝突可能性を判断し、ワイヤ42の張力を解放する。ワイヤ42の張力変動を起こさせないまま解放できる。
これに対し、仮にたとえば、剛性の制御ルーチン外で衝突判断をして張力を解放する制御を実行した場合、ワイヤ42の張力を解放するタイミングによっては、まず、剛性の制御ルーチンによりワイヤ42の張力が変化し、その後に、ワイヤ42の張力が解放される可能性がある。衝突を回避する期間中にワイヤ42の張力が変動し、衝突直前に車体1に不要な挙動が起こる可能性がある。
【0028】
これに対し、衝突可能性がないと判断した場合、コントローラ48は、通常の張力制御を継続する。
コントローラ48は、取得した情報に基づいて、車両の走行状態および車体1に作用する外力を判断する(ステップST4)。コントローラ48は、判断した外力による車体1の歪みを抑制する張力を取得する(ステップST5)。コントローラ48は、取得した張力を指示する制御信号をアクチュエータ47へ出力する(ステップST6)。アクチュエータ47は、制御信号が更新されると、ワイヤ42の検出張力が、新たに指示された目標張力となるように、ワイヤ42の張力を調整する。アクチュエータ47は、動滑車45をワイヤ42に押し付けるように補助ワイヤ46を引き、ワイヤ42に張力を与える。
これにより、ワイヤ42の両端が取り付けられた一対の取付位置の間には、それらの間が狭まらないように張力が加えられる。走行中の車体1には、走行状態に応じた張力が作用する。車体1の剛性が、走行中に走行状態に応じて変化する。車体1の剛性は、走行状態に応じて車体1に作用する外力による車体1の歪みを抑制するように変化できる。
【0029】
次に、ステップST4からST6の制御について、具体例を説明する。
コントローラ48は、車体の挙動情報として、ビークルダイナミクスコントロールの動作状態またはマグネティックライドサスペンションのダンパ制御情報を取得する。また、車体への操作入力情報として、アクセル開度、ブレーキ操作、またはステアリング舵角の情報を取得する。また、走行経路の予測情報として、車外の撮像画像、ナビ情報、または交通情報を取得する。
【0030】
コントローラ48は、取得した情報に基づいて、車両の走行状態を判断する。
走行状態には、たとえば加速状態、減速状態、停止状態、旋回状態または速度域がある。
コントローラ48は、車両自体の走行状態がいずれの状態であるか否かを判断する。コントローラ48は、取得したビークルダイナミクスコントロールの動作状態、マグネティックライドサスペンションのダンパ制御情報、アクセル開度情報、ブレーキ操作情報、またはステアリング舵角情報に基づいて、加速状態、減速状態、停止状態、旋回状態または速度域を判断する。
【0031】
また、コントローラ48は、取得した車外の撮像画像、ナビ情報、または交通情報に基づいて、走行する道路の状態を判断する。
最後に、コントローラ48は、判断した車体自体の走行状態と、判断した走行する道路の状態とに基づいて、車体1に作用する外力に対応する張力を演算して取得する。
このように、コントローラ48は、単に車体自体の走行状態だけでなく、走行する道路の状態を勘案して、最終的な走行状態を判断する。最終的な走行状態は、走行する道路の状態に応じて異なる。
【0032】
そして、判断した走行状態が前回のものから変化している場合、コントローラ48は、制御信号を更新する。これにより、ワイヤ42の張力は変化する。
また、判断した走行状態が前回と同じである場合、コントローラ48は、制御信号を更新しない。コントローラ48は、前回の制御信号を出力し続ける。ワイヤ42の張力は、前回のままに維持される。
【0033】
以上のように、本実施形態では、車体1に取り付けられるワイヤ42は、車体1を構成する複数の骨格部材の間に架け渡される。アクチュエータ47は、ワイヤ42の張力を走行状態に応じて調整し、車体1の剛性を走行状態に応じて変化させる。該複数の骨格部材の間の剛性を高め、車体1の歪みを抑えることができる。複数の骨格部材の間での歪みが抑えられるため、車体1も全体的に歪み難くなる。車体1の剛性を走行状態に応じて高めて、車体1に望まれる高い走行性能を実現できる。たとえばスポーツ車両に求められる高い操作応答性や操舵安定性などを実現できる。
特に、該複数の骨格部材の間で架け渡されるワイヤ42は、少なくとも一端が、該複数の骨格部材の間の車体1に取り付けられる。複数の骨格部材の間にワイヤ42の張力を与えるために、該複数の骨格部材自体にワイヤ42を直結する必要がない。仮にたとえばワイヤ42の両端を複数の骨格部材に直結しようとする場合、該複数の骨格部材の間には、張力が作用するワイヤ42を通すことができる空間が必須となる。車体1における骨格部材の配置の制限により、ワイヤ42を通すことができないことがある。本実施形態では、このような制限ある配置の骨格部材について、他の骨格部材の間でワイヤ42を架け渡し、ワイヤ42の張力を作用させることができる。
【0034】
また、本実施形態では、ワイヤ42の両端が複数の骨格部材の間の車体に取り付けられる。ワイヤ42は、これらの間に走行状態に応じた張力を与える。これにより、ワイヤ42の両端が複数の骨格部材に直結されていないにもかかわらず、該複数の骨格部材の間にワイヤ42の張力を作用させて剛性を向上させ、車体の歪みを抑えることができる。
具体的には、たとえば、車体1の床においてトンネル形状に湾曲した板金の両縁部に、ワイヤ42の両端を取り付ける。ワイヤ42の張力により、複数の骨格部材の間における、トンネル形状に湾曲した板金の強度を補って撓みを抑制し、複数の骨格部材の間の剛性を高めることができる。
車体1の床下の複数の骨格部材は、車体1の前後方向に延在する複数の骨格部材と車体1の左右方向に沿って延在する複数の骨格部材とを井桁状に組んだ骨格構造が一般的である。この井桁状の骨格構造は、斜め方向からの力に弱い。特に、車体1の床において複数の骨格部材の間に、トンネル形状に湾曲した板金を設けた場合、複数の骨格部材の間を板金で強固に補強できないため、斜め方向からの力に弱くなる。本実施形態は、このような課題を解決する。
【0035】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0036】
たとえば上記実施形態では、ワイヤ42は、一対のフロアーメンバ13の間に設けられるセンタートンネル12の板金の左右一対の両縁部の間に、架け渡されている。ワイヤ42の取付位置は、これに限られない。ワイヤ42の両端は、車体1についての、他の部分の板金に取り付けられて、複数の骨格部材の間に架け渡されてよい。
図5および図6は、センタートンネル12の板金に対するワイヤ42の取り付け方のバリエーションを示す図である。図5および図6には、車体1の下面が図示されている。
図5において、複数のワイヤ42の両端は、センタートンネル12用の板金の両縁部に取り付けられる。複数のワイヤ42は、車体1の左右方向に沿って架け渡されている。アクチュエータ47は、これらの骨格部材の間に走行状態に応じた張力を与える。これにより、センタートンネル12が開き難くなる。一対のフロアーメンバ13の間での車体1の歪みを抑えることができる。
図6において、複数のワイヤ42の両端は、センタートンネル12用の板金の両縁部に取り付けられる。複数のワイヤ42は、2本ずつの組で、交差して架け渡されている。アクチュエータ47は、これらの骨格部材の間に走行状態に応じた張力を与える。これにより、センタートンネル12が開き難くなる。また、車体1に斜め方向への力が作用した場合でも、一対のフロアーメンバ13の間隔が開き難くなる。
このように車体1についての複数の骨格部材の間にワイヤ42を架け渡すことにより、これら複数の骨格部材の間の剛性を向上できる。複数の骨格部材の間に設ける板金の形状、板金の有無にかかわらず、複数の骨格部材の間の剛性を向上できる。車体1の剛性が向上し、車体1が歪み難くなる。
【0037】
上記実施形態は、本発明を自動車の車体1に適用した例である。この他にもたとえば、本発明は、他の形状のたとえばバス、清掃車などの自動車、電車、バイク、自転車などに適用できる。これらの車体1でも、走行状態に応じた外力が作用する。また、本発明は、シャーシ構造の車体1にも適用できる。本発明が適用される車体1において、骨格部材は、車体1の板金やシャーシ台と一体化されてよい。車体1は、板金などの剛体を用いて補剛されていてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 車体
41 剛性制御装置
42 ワイヤ
47 アクチュエータ
48 コントローラ(制御部)
49 張力検出部
50 情報源機器
51 走行制御装置
52 ナビゲーション装置
53 運転支援装置
54 通信装置
64 結合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7