【文献】
J. Phycol., 2005, Vol. 41, pp. 311-321
【文献】
Phytochemistry, 2005, Vol. 66, pp. 2557-2570
【文献】
Phycologia, 2009, Vol. 48, No. 2, pp. 101-104
【文献】
Phytochemistry, 1995, Vol. 39, No. 2, pp. 351-356
【文献】
Biotechnol. Bioeng., 2010, Vol. 107, No. 2, pp. 245-257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、藻類を用いた、ラウリン酸を構成脂肪酸として含有する油脂の供給方法、及び当該油脂を用いたラウリン酸又はそのエステルの供給方法を提供することに関する。
【0008】
本発明者らは、ラウリン酸供給生物について検討したところ、光合成をするタイプの藻類のうち、単細胞藻類であるクロララクニオン藻綱(
Chlorarachniophyceae)の藻類、並びにクリプト藻綱(
Cryptophyceae)の藻類のうち、
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類、又は
Rhodomonas属藻類がラウリン酸を高濃度で含有し、これを用いることにより、構成脂肪酸としてラウリン酸を高含有する油脂、更にはラウリン酸又はそのエステルを効率良く製造できることを見出した。
【0009】
本発明の方法によれば、容易に増殖可能な藻類を用いることから、ヤシやパーム核の如く栽培地域が限定されたり、食料用途等の競合が発生することなく、効率良くラウリン酸を構成脂肪酸として高含有する油脂を製造することができる。また、本発明の方法によれば、熱帯雨林の破壊も回避可能である。
【0010】
本発明のラウリン酸含有油脂の製造方法は、
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類並びに
Rhodomonas属藻類よりなる群から選ばれるクリプト藻綱藻類の一種以上を培地中で培養し、培養物から脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上である油脂を採取するものである。
また、本発明のラウリン酸又はそのエステルの製造方法は、クロララクニオン藻綱(
Chlorarachniophyceae)の藻類、並びに
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類、及び
Rhodomonas属藻類からなるクリプト藻綱の藻類よりなる群から選ばれる一種以上を培地中で培養し、培養物から脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上である油脂を採取し、所望により採取された油脂中のラウリン酸をエステル化した後、ラウリン酸又はそのエステルを分離、取得するものである。
ここで、脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上である油脂としては、油脂中の全構成脂肪酸中のラウリン酸の含有割合が3質量%以上、好ましくは3〜60質量%、より好ましくは5〜60質量%、更に好ましくは6〜60質量%、更に好ましくは7〜60質量%、更に好ましくは8〜60質量%、更に好ましくは9〜60質量%、更に好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは11〜50質量%、更に好ましくは12〜40質量%の油脂が挙げられる。
【0011】
本発明において用いられるクロララクニオン藻綱(
Chlorarachniophyceae)に属する藻類は、脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上の油脂生産能を有するものであれば何れの株でもよい。
本発明において用いられるクリプト藻綱藻類は、
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類又は
Rhodomonas属藻類であり、より好ましくは
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、及び
Chroomonas nordstedtiiから選ばれる
Chroomonas属藻類であり、脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上の油脂生産能を有するものであれば何れの株でもよい。
【0012】
本発明の藻類は、例えば、次のようなスクリーニング法に従って選択することができる。
i)培養容器に滅菌した培地(淡水用としてWA培地(表2参照)、海水用としてダイゴIMK培地(表3参照))を分注する。
ii)藻類株を培地に接種し、室温(22℃〜24℃)、照度約3000ルクス、12時間明暗条件下で静置培養する。
iii)藻体を回収し、油脂を抽出し、脂肪酸をメチルエステル化し、その組成を分析して、ラウリン酸含有油脂を産生している藻類株を選択する。
iv)油脂中に全脂肪酸あたり、ラウリン酸を3質量%以上含有する藻類株を選択する。
【0013】
クロララクニオン藻綱に属する藻類としては、例えば、
Chlorarachnion属、
Lotharella属、
Gymnochlora属、
Cryptochlora属、
Bigelowiella属の藻類が挙げられ、好ましくは
Lotharella属、
Gymnochlora属、
Bigelowiella属である。
更に好適なクロララクニオン藻綱藻類としては、例えば、
Lotharella属では、
Lotharella globosa、
Lotharella amoeboformis、
Lotharella vacuolata等が挙げられ、
Gymnochlora属では、
Gymnochlora stellata等が挙げられる。
Bigelowiella属では、
Bigelowiella natans等が挙げられる。このうち、
Lotharella globosaとしては、より好ましくは
Lotharella globosa CCMP1729株、
Lotharella amoebiformisとしては、より好ましくは
Lotharella amoebiformis CCMP2058株、
Lotharella vacuolataとしては、より好ましくは
Lotharella vacuolata CCMP240株、
Gymnochlora stellataとしては、より好ましくは
Gymnochlora stellata CCMP2057株、
Bigelowiella natansとしては、より好ましくは
Bigelowiella natans CCMP621株、CCMP2757株(これらは、The Provasoli-Guillard National Center for Culture of Marine Phytoplankton(CCMP)等より入手可能)、又は当該藻類株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株を挙げることができる。例えば、
Lotharella amoebiformisは、近年
Amorphochlora amoebiformisという新属に属することが提唱されているが、これらは同一の藻類学的性質を有する株とみなすことができる。これらのうち、
Lotharella globosa がより好ましく、
Lotharella globosa CCMP1729株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株が更に好ましい。
【0014】
Lotharella amoebiformis CCMP2058株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Lotharella amoebiformis Ryukyu株等が挙げられ、
Lotharella vacuolata CCMP240株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Lotharella vacuolata FK18G株等が挙げられ、
Gymnochlora stellata CCMP2057株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Gymnochlora stellata Guam-1株等が挙げられ、
Bigelowiella natans CCMP621株、CCMP2757株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば
Bigelowiella natans A11株、490株、VA3株などが挙げられる。
【0015】
斯かる藻類株の藻類学的性質は、以下のとおりである。これらの各藻類株と同一の種に属する菌株、各藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株は、斯かる性質に基づいて同定することができる。
<クロララクニオン藻綱に属する藻類の藻類学的性質>
i)クロロフィルa、bを有する
ii)葉緑体包膜は4枚である
iii)ヌクレオモルフを有する
iv)デンプンを蓄積しない
v)アメーバ相と細胞壁を持つ相が存在する
vi) 眼点を持たない
<
Chlorarachnion属に属する藻類の藻類学的性質>
i)栄養細胞はアメーバ様細胞である
ii)ヌクレオモルフはピレノイド内部に位置する
<
Cryptochlora属に属する藻類の藻類学的性質>
i)栄養細胞は球状細胞である
ii) ピレノイド構造は不明
<
Lotharella属に属する藻類の藻類学的性質>
i)深裂型のピレノイドを有する
ii)ヌクレオモルフはピレノイド基部近くにある葉緑体周縁区画内に位置する
<
Gymnochlora属に属する藻類の藻類学的性質>
i)葉緑体包膜の最内膜が管状にピレノイドマトリックス内に陥入している
ii)ヌクレオモルフはピレノイド基部近くにある葉緑体周縁区画内に位置する
<
Bigelowiella属に属する藻類の藻類学的性質>
i)遊泳細胞が無性的に増殖できる
ii) ピレノイドは浅裂型である
iii) ヌクレオモルフはピレノイドの基部にある
<
Lotharella globosa CCMP1729株の藻類学的性質>
i)栄養細胞は球状であり、増殖時にアメーバ様細胞は出現しない
<
Lotharella amoebiformis CCMP2058株の藻類学的性質>
i)栄養細胞はアメーバ様細胞である
<
Lotharella vacuolata CCMP240株の藻類学的性質>
i) 生活環の主要ステージは球状であるが、培養令初期から中期にかけて糸状仮足を有するアメーバ状細胞が認められる
ii)他の
Lotharella属の藻類より、大きな液胞を有する
iii)栄養増殖はアメーバ様細胞の二分裂によって行われる
<
Gymnochlora stellata CCMP2057株の藻類学的性質>
i)星型アメーバ状生物であり、多数の糸状仮足を有するが網状ネットワークを形成しない
ii) 生活環を通じて細胞壁を持つ細胞や遊泳細胞を生じない
<
Bigelowiella natans CCMP621株、CCMP2757株の藻類学的性質>
i) 栄養ステージが遊泳細胞であり、アメーバ様細胞ではない
ii)長いものと短いものの2本の鞭毛を有する
iii)線条体を持たない
【0016】
本発明の
Chroomonas属藻類のうち、
Chroomonas diplococcaとしては、好ましくは例えば
Chroomonas diplococca UTEXLB2422株、
Chroomonas mesostigmaticaとしては、好ましくは例えば
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株、
Chroomonas nordstedtiiとしては、好ましくは例えば
Chroomonas nordstedtii NIES707株、NIES710株、
Chroomonas placoideaとしては、好ましくは例えば
Chroomonas placoidea NIES705株(これらは、The culture collection of algae at University of Texas at Austin (UTEX)、国立環境研究所(NIES)等より入手可能)、又は当該藻類株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株を挙げることができる。
Rhodomonas属藻類としては、例えば
Rhodomonas salinaが好ましく、
Rhodomonas salina UTEX1375、
Rhodomonas salina CCMP272又は当該藻類株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株がより好ましく、
Rhodomonas salina UTEX1375株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株が更に好ましい。これらはUTEX、The Provasoli-Guillard National Center for Culture of Marine Phytoplankton(CCMP)より入手可能である。
【0017】
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Chroomonas mesostigmatica TKB-112株等が挙げられ、
Chroomonas nordstedtii NIES707株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Chroomonas nordstedtii #00173株等が挙げられ、
Chroomonas nordstedtii NIES710株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Chroomonas nordstedtii #00331株等が挙げられ、
Chroomonas placoidea NIES705株と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Chroomonas placoidea CCAP 978/8株等が挙げられる。
Rhodomonas salina CCMP272と実質的に同一の藻類学的性質を有する株としては、例えば、
Rhodomonas salina Mel-023株等が挙げられる。
【0018】
斯かる藻類株の藻類学的性質は、以下のとおりである。これらの各藻類株と同一の種に属する菌株、各藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株は、斯かる性質に基づいて同定することができる。
<クリプト藻網の藻類学的性質>
i)フィコビリン、クロロフィルcを有する
ii)葉緑体包膜は4枚である
iii)ヌクレオモルフを有する
iv)管状羽型と管状片羽型の鞭毛を有する
v)α-1,4デンプンを蓄積する
<
Chroomonas属の藻類学的性質>
i) 細胞は樽状で、側溝が認められない
ii) 2つの連なった射出装置を有する
iii) 葉緑体の色は青から緑である
iv) 通常、細胞中心に眼点が認められる
<Rhodomonas属の藻類学的性質>
i) 細胞は卵形で、短い側溝を有する
ii) 葉緑体の色は赤から赤褐色であり、目立つピレノイドを有する
iv) 通常、細胞中心に眼点が認められる
<
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株の藻類学的性質>
i)クロロプラスト内に多量のラメラ構造を有する
ii) 葉緑体に付随して大きなピレノイドを一つ有する
<
Chroomonas nordstedtii NIES707、NIES710株の藻類学的性質>
i)眼点を持たない
ii) 450nmから650nmの波長の光に対し、走光性を有する
<
Chroomonas placoidea NIES705株の藻類学的性質>
i)鞭毛軸受け部位に葉舌を有する
<
Rhodomonas salina UTEX1375、
Rhodomonas salina CCMP272の藻類学的性質>
i)細胞亜頂端から細胞長より短い鞭毛が2本生じている。
ii) 縦溝は短く、咽頭部は2列ほどの射出装置が付随して細胞中程まで達する。
iii)赤褐色〜黄橙色の葉緑体を1個もち、背側に明瞭なデンプン鞘で囲まれたピレノイドが1個存在する。
【0019】
また、上述した藻類株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株の変異株も本発明の藻類に包含される。
例えば、ラウリン酸を野性株より高含量で含む油脂を産生するように設計された変異株が包含される。
さらに本発明のクロララクニオン藻綱藻類由来の遺伝子及びクリプト藻綱藻類由来の遺伝子は、ラウリン酸高含有油脂を産生するために利用することができる。
【0020】
本発明のクロララクニオン藻綱藻類及びクリプト藻綱藻類の培養は、天然海水又は人工海水で調製した適当な培地中で、光照射下、微細藻類に用いられる一般的培養手段を用いることにより行うことができる。
【0021】
培地としては、天然海水又は人工海水をベースに、窒素源、リン源、金属塩、ビタミン類等を添加した公知のものを使用できる。
ここで、例えば、窒素源としてNaNO
3、KNO
3、Ca(NO
3)
2、NH
4NO
3、(NH
4)
2SO
4等、リン源としてK
2HPO
4、KH
2PO
4、Na
2HPO
4、NaH
2PO
4、グリセロリン酸ナトリウム等、金属塩としてNaCl、KCl、CaCl
2、MgCl
2、Na
2SO
4、K
2SO
4、MgSO
4、Na
2CO
3、NaHCO
3、Na
2SiO
3、H
3BO
3、MnCl
2、MnSO
4、FeCl
3、FeSO
4、CoCl
2、ZnSO
4、CuSO
4、Na
2MoO
4等、ビタミン類としてBiotin、Vitamin B12、Thiamine−HCl、ニコチン酸、イノシトール、葉酸、チミン等を挙げることができる。
また、上記培地にはラウリン酸含有油脂の産生を促進するため、炭素源、微量金属等を適宜添加することができる。
【0022】
好ましい培地としては、例えば、ダイゴIMK培地、f/2培地、ESM培地、L1培地、MNK培地等が挙げられる。
【0023】
上記の培地は、調製後、適当な酸又は塩基を加えることによりpHを7.0〜8.0の範囲内に調整した後、オートクレーブにより殺菌して使用することが好ましい。
【0024】
培養は、培地に接種する藻類の量は特に限定されないが、好ましくは培養培地当り1.0〜10.0%(vol/vol)が好ましく、1.0〜5.0%(vol/vol)がより好ましい。
【0025】
培養温度は、本発明藻類の増殖に悪影響を与えない範囲であれば特に制限されないが、一般的には10〜30℃で行うのが好ましく、15〜25℃がより好ましい。
【0026】
光照射は、光合成が可能な条件であれば良く、人工光又は太陽光の何れでもよい。
照度は、100〜50000ルクスの範囲が好ましく、300〜10000ルクスがより好ましい。
【0027】
培養時のpHは、一般的には6.5〜8.5であり、好ましくはpH7.0〜8.0 である。
【0028】
培養期間は、ラウリン酸含有油脂を高濃度に蓄積する藻体が高い濃度で増殖するよう行えばよく、例えば7〜120日間、好ましくは7〜30日間、通気攪拌培養、振とう培養又は静置培養すればよい。
【0029】
培養終了後、遠心分離法や濾過などの常法により、藻体を分離し、分離藻体をそのままもしくは超音波やダイノミル等によって破砕した後、例えば、クロロホルム、ヘキサン、ブタノール、メタノール、酢酸エチル等の有機溶剤による溶剤抽出を行うことにより、ラウリン酸含有油脂を採取することができる。
【0030】
Gymnochlora stellata CCMP2057株、乾燥藻体100g当たりのラウリン酸含有油脂の含有量は、5〜10g程度であり、培地1リットル当たりのラウリン酸含有油脂の生産量は、0.02〜0.05g程度に達する。
またこの場合、油脂の脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合は、4.0〜8.5質量%と高濃度である。従って、培地1リットル当たりのラウリン酸の生産量としては、0.0008〜0.0043g程度と高い。
【0031】
Chroomonas diplococca UTEXLB2422株を用いた場合、乾燥藻体100g当たりのラウリン酸含有油脂の含有量は、3〜4g程度であり、培地1リットル当たりのラウリン酸含有油脂の生産量は、0.007〜0.016g程度に達する。
またこの場合、油脂の脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合は、5.0〜17.0質量%と高濃度である。従って、培地1リットル当たりのラウリン酸の生産量としては、0.0004〜0.0027g程度と高い。
【0032】
ラウリン酸含有油脂からラウリン酸の分離及び取得は、常法により混合脂肪酸あるいは脂肪酸エステルの状態とした後、尿素付加法、冷却分離法、高速液体クロマトグラフィー法あるいは超臨界クロマトグラフィー法などにより濃縮採取することにより行うことができる。
また、ラウリン酸含有油脂について、当該油脂中のラウリン酸をエステル化することにより、ラウリン酸エステルを分離、取得することができる。
例えば、ラウリン酸含有油脂とメタノール等のアルコールとをアルカリ触媒の存在下で反応させ、反応生成物よりラウリン酸エステルを分離、取得することができる。
ここで、ラウリン酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル等の低級アルキルエステルが挙げられ、メチルエステルが好ましい。
また、ラウリン酸含有油脂について、当該油脂中のラウリン酸を還元することにより、ラウリルアルコールを分離、取得することもできる。
例えば、ラウリン酸含有油脂を水素化触媒の存在下で水素化し、反応生成物よりラウリルアルコールを分離、取得することができる。
【0033】
上述した実施形態に応じ、本発明は、下記[1]のラウリン酸又はそのエステルの製造方法、及び下記[12]のラウリン酸を構成脂肪酸として含有する油脂の製造方法を開示するものであり、更に好適には、[2]〜[11]のラウリン酸又はそのエステルの製造方法、及び[12]〜[14]のラウリン酸を構成脂肪酸として含有する油脂の製造方法を開示するものである。
[1]クロララクニオン藻綱の藻類、並びに
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類、及び
Rhodomonas属藻類からなるクリプト藻綱の藻類よりなる群から選ばれる一種以上を培地中で培養し、培養物から脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上である油脂を採取し、所望により採取された油脂中のラウリン酸をエステル化した後、ラウリン酸又はそのエステルを分離、取得することを特徴とする、ラウリン酸又はそのエステルの製造方法。
[2]クロララクニオン藻綱(
Chlorarachniophyceae)の藻類が、
Lotharella属、
Gymnochlora属又は
Bigelowiella属の藻類である、[1]の方法。
[3]
Lotharella属藻類が、
Lotharella globosa、
Lotharella amoebiformis又は
Lotharella vacuolataであり、
Gymnochlora属藻類が、
Gymnochlora stellataであり、Bigelowiella属藻類が、
Bigelowiella natansである、[1]又は[2]の方法。
[4]
Lotharella属藻類が、
Lotharella globosa CCMP1729株、
Lotharella amoebiformis CCMP2058株、
Lotharella vacuolata CCMP240株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[3]の方法。
[5]
Gymnochlora属藻類が、
Gymnochlora stellata CCMP2057株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[3]の方法。
[6]
Bigelowiella 属藻類が、
Bigelowiella natans CCMP621株、CCMP2757株又は当該藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[3]の方法。
[7]
Chroomonas属藻類が、Chroomonas
diplococca UTEXLB2422株、
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株、
Chroomonas nordstedtii NIES707株、
Chroomonas nordstedtii NIES710株、
Chroomonas placoidea NIES705株、又はこれらの藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[1]の方法。
[8]
Rhodomonas属藻類が
Rhodomonas salinaである、[1]の方法。
[9]
Rhodomonas salina が
Rhodomonas salina UTEX1375、
Rhodomonas salina CCMP272又はこれらの藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[8]の方法。
[10]照度300〜10000ルクスの光照射下で、7〜120日間培養する[1]〜[9]の方法。
[11]ラウリン酸エステルがラウリン酸メチルである、[1]〜[10]の方法。
[12]
Chroomonas diplococca、
Chroomonas mesostigmatica、
Chroomonas nordstedtii及び
Chroomonas placoideaから選ばれる
Chroomonas属藻類の一種以上を培地中で培養し、培養物から脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有割合が3質量%以上である油脂を採取することを含む、ラウリン酸を構成脂肪酸として含有する油脂の製造方法。
[13]
Chroomonas属藻類が、Chroomonas
diplococca UTEXLB2422株、
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株、
Chroomonas nordstedtii NIES707株、
Chroomonas nordstedtii NIES710株、
Chroomonas placoidea NIES705株、又はこれらの藻類株と実質的に同一の菌学的性質を有する藻類株である、[12]の方法。
[14]照度300〜10000ルクスの光照射下で、7〜120日間培養する[12]又は[13]の方法。
【実施例】
【0034】
実施例1 クロララクニオン藻綱藻類の培養と脂肪酸組成分析
実験に用いた藻類株として、The Provasoli-Guillard National Center for Culture of Marine Phytoplankton(CCMP)より以下の6株を入手した。
【0035】
【表1】
【0036】
藻類の培養は、以下のように行った。海水用として、市販培地であるダイゴIMK培地(日本製薬製、組成は表2参照)を用いた。
【0037】
【表2】
【0038】
培養容器として滅菌した16mm×150mmのカルチャーチューブ(VWR製)とスポンジ栓(60882−167:VWR製)を使用し、滅菌した培地を10mL分注した。藻類株は液体培地からは100μL、固体培地からは1白金耳相当新しい培地に接種し、室温(22℃〜24℃)、蛍光灯下、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で静置培養した。
藻類の培養液から3000rpm、30分にて遠心分離した沈殿画分を得た。沈殿画分を80℃にて約3時間から16時間乾燥させ、乾燥藻体とした。乾燥藻体の重量を測定後、0.5mLの1%食塩水にて懸濁し、内部標準として5mg/mLの7−ペンタデカノンを10μL添加後、0.5mLのクロロホルムおよび1mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後30分間放置し、その後さらに0.5mLのクロロホルムおよび0.5mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3000rpm、15分遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。
【0039】
調製した脂質画分約500μLを窒素にて乾固後、0.5N 水酸化カリウム/メタノール溶液700μLを添加し、80℃で30分恒温した。続いて1mLの14%三フッ化ホウ素溶液(SIGMA製)を添加し80℃にて20分恒温し、その後ヘキサン、飽和食塩水を各1mL添加し室温にて30分放置後、上層であるヘキサン層を回収した後、GCにて分析した。
【0040】
装置はHP 7890A GC−FID(Agilent製)、カラムはDB−1 ms 30m×200μm×0.25μm(J&W scientific製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/分、昇温プログラムは、100℃(1分)、5℃/分、280℃(20分)で行った。飽和脂肪酸のコントロールとして、ラウリン酸メチル(C12)、ミリスチン酸メチル(C14)、パルミチン酸メチル(C16)、ステアリン酸メチル(C18)を、不飽和脂肪酸はパルミトレイン酸メチル(C16:1)、オレイン酸メチル(C18:1)、リノール酸メチル(C18:2)、リノレン酸メチル(C18:3)、エイコサペンタエン酸メチル(C20:5)、ドコサヘキサエン酸メチル(C22:6)を購入し(全てSIGMA製)、分析した。脂肪酸の同定は、これら標準物質とのリテンションタイムと同一かどうかにより判断した。また、ラウリン酸に関してはGC−MSによる同定も行った。鎖長数16の多価不飽和脂肪酸に関しては、GC−MSによる解析結果から推定した。表記はC16:x(x=2または3)とし、xは不飽和結合数を示した。装置はHP 7890A GC及び5975C MS(Agilent製)、カラムはDB−1 ms 30m×200μm×0.25μm(J&W scientific製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/分、昇温プログラムは、100℃(1分)、5℃/分、280℃(20分)で行った。GC分析にて検出した脂肪酸エステル量を、内部標準を基準に算出し、その総量を総脂肪酸量とした。また総脂肪酸量を乾燥藻体量で除し100を乗じた値を脂肪酸含量(%)とした。
各種藻類の脂肪酸組成データを表3に示した。
【0041】
【表3】
【0042】
Lotharella globosa CCMP1729株、
Lotharella amoebiformis CCMP2058株、
Lotharella vacuolata CCMP240株、
Gymnochlora stellata CCMP2057株、
Bigelowiella natans CCMP621株、CCMP2757株において、総脂肪酸中3%以上のラウリン酸の蓄積が認められた。特に
Gymnochlora stellata CCMP2057において、高い脂肪酸生産性、及び総脂肪酸中約8.5%と高いラウリン酸の蓄積が認められた。
【0043】
実施例2 クロララクニオン藻綱藻類を用いたラウリン酸の生産
Gymnochlora stellata CCMP2057を、16mm×150mmのカルチャーチューブ(IMK培地10mL仕込み)にて室温(22℃〜24℃)、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で4週間静置培養した種培養液を、200mL容三角フラスコ(IMK培地100mL仕込み)に2%(v/v)植菌し、室温(22〜24℃)、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で31日間静置培養した。培養液を3000rpmで30分間遠心して集菌し、1%(w/v)塩化ナトリウム水溶液で1回洗菌を行った。
【0044】
100mLの培養液から回収した藻体を、80℃にて約16時間乾燥させた。乾燥藻体に2mLのクロロホルムおよび4mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後30分間放置し、その後さらに2mLのクロロホルムおよび2mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3000rpm、15分遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。回収したクロロホルム層より100μLを窒素ガス噴霧により乾固させ10μLのクロロホルムに溶解させた後、うち1μLをイアトロスキャン(三菱化学ヤトロン社製)に供し中性脂質量を測定したところ、培養液100mLから1.2mgの中性脂質を得た。
【0045】
先に回収したクロロホルム層のうち500μLを実施例1記載と同様にメチルエステル化し分析したところ、培養液100mLから得た総脂肪酸は6.2mg、総脂肪酸中のラウリン酸の割合は4.9%であった。これにより100mLの培養液より、ラウリン酸0.3mgを得た。
【0046】
実施例3
Chromonas属藻類の培養と脂肪酸組成分析
実験に用いた
Chromonas属の藻類株として、The culture collection of algae at University of Texas at Austin (UTEX)、及び国立環境研究所(NIES)より以下の9株を入手した。
【0047】
【表4】
【0048】
藻類の培養は、以下のように行った。淡水用としてC(組成は表5参照)、またはWA培地(組成は表6参照)を、海水用として、f/2(組成は表7参照)または市販培地であるダイゴIMK培地(日本製薬製、組成は表8参照)を用いた。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
培養容器として滅菌した16mm×150mmのカルチャーチューブ(VWR製)とスポンジ栓(60882−167:VWR製)を使用し、滅菌した培地を10mL分注した。藻類株は液体培地からは100μL、固体培地からは1白金耳相当新しい培地に接種し、室温(22℃〜24℃)、蛍光灯下、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で静置培養した。
藻類の培養液から3000rpm、30分にて遠心分離した沈殿画分を得た。沈殿画分を80℃にて約3時間から16時間乾燥させ、乾燥藻体とした。乾燥藻体の重量を測定後、0.5mLの1%食塩水にて懸濁し、内部標準として5mg/mLの7−ペンタデカノンを10μL添加後、0.5mLのクロロホルムおよび1mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後30分間放置し、その後さらに0.5mLのクロロホルムおよび0.5mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3000rpm、15分遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。
【0054】
調製した脂質画分約500μLを窒素にて乾固後、0.5N 水酸化カリウム/メタノール溶液700μLを添加し、80℃で30分恒温した。続いて1mLの14%三フッ化ホウ素溶液(SIGMA製)を添加し80℃にて20分恒温し、その後ヘキサン、飽和食塩水を各1mL添加し室温にて30分放置後、上層であるヘキサン層を回収した後、GCにて分析した。
【0055】
装置はHP 7890A GC−FID(Agilent製)、カラムはDB−1 ms 30m×200μm×0.25μm(J&W scientific製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/分、昇温プログラムは、100℃(1分)、5℃/分、280℃(20分)で行った。飽和脂肪酸のコントロールとして、ラウリン酸メチル(C12)、ミリスチン酸メチル(C14)、パルミチン酸メチル(C16)、ステアリン酸メチル(C18)を、不飽和脂肪酸はパルミトレイン酸メチル(C16:1)、オレイン酸メチル(C18:1)、リノール酸メチル(C18:2)、リノレン酸メチル(C18:3)、エイコサペンタエン酸メチル(C20:5)、ドコサヘキサエン酸メチル(C22:6)を購入し(全てSIGMA製)、分析した。脂肪酸の同定は、これら標準物質とのリテンションタイムと同一かどうかにより判断した。また、ラウリン酸に関してはGC−MSによる同定も行った。鎖長数16の多価不飽和脂肪酸に関しては、GC−MSによる解析結果から推定した。表記はC16:x(x=2または3)とし、xは不飽和結合数を示した。装置はHP 7890A GC及び5975C MS(Agilent製)、カラムはDB−1 ms 30m×200μm×0.25μm(J&W scientific製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/分、昇温プログラムは、100℃(1分)、5℃/分、280℃(20分)で行った。GC分析にて検出した脂肪酸エステル量を、内部標準を基準に算出し、その総量を総脂肪酸量(g)とした。総脂肪酸量を培養液量(L)で除した値を生産性(g/L,又はmg/L)とした。また各脂肪酸量を総脂肪酸量で除し100を乗じた値を脂肪酸含量(%)とした。
各種藻類の脂肪酸組成データを表9に示した。
【0056】
【表9】
【0057】
Chroomonas diplococca UTEXLB2422株、
Chroomonas mesostigmatica NIES1370株、
Chroomonas nordstedtii NIES707株、
Chroomonas nordstedtii NIES 710株、
Chroomonas placoidea NIES705株において、総脂肪酸中5%以上のラウリン酸の蓄積が認められた。特に
Chroomonas diplococca LB2422株において、総脂肪酸中約17%と非常に高いラウリン酸の蓄積が認められた。
【0058】
実施例4
Chromonas属藻類を用いたラウリン酸の生産
Chroomonas diplococca(LB2422株)を、16mm×150mmのカルチャーチューブ(IMK培地10mL仕込み)にて、室温(22℃〜24℃)、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で4週間静置培養した種培養液を、200mL容三角フラスコ(IMK培地100mL仕込み)に2%(v/v)植菌し、室温(22〜24℃)、照度約3000 lux、12時間明暗条件下で31日間静置培養した。培養液を3000rpmで30分間遠心して集菌し、1%(w/v)塩化ナトリウム水溶液で1回洗菌を行った。
【0059】
100mLの培養液から回収した藻体を、80℃にて約16時間乾燥させた。乾燥藻体に2mLのクロロホルムおよび4mLのメタノールを培養液に添加して激しく攪拌後30分間放置し、その後さらに2mLのクロロホルムおよび2mLの1.5%KClを添加して攪拌後、3000rpm、15分遠心分離を行い、パスツールピペットにてクロロホルム層(下層)を回収した。回収したクロロホルム層より100μLを窒素ガス噴霧により乾固させ10μLのクロロホルムに溶解させた後、うち1μLをイアトロスキャン(三菱化学ヤトロン社製)に供し中性脂質量を測定したところ、培養液100mLから0.64mgの中性脂質を得た。
【0060】
先に回収したクロロホルム層のうち500μLを実施例3記載と同様にメチルエステル化し分析したところ、培養液100mLから得た総脂肪酸は3.5mg、総脂肪酸中のラウリン酸の割合は5.7%であった。これにより100mLの培養液より、ラウリン酸0.2mgを得た。
【0061】
実施例5
Rhodomonas属藻類の培養と脂肪酸組成分析
Rhodomonas属の藻類として、The culture collection of algae at University of Texas at Austin (UTEX)、及びThe Provasoli-Guillard National Center for Culture of Marine Phytoplankton(CCMP)より、
Rhodomonas salina UTEX1375、
Rhodomonas salina CCMP272を購入し、IMK培地にて実施例3と同様の試験を行った。表9記載の培養時間にて、培養時間以外は実施例3と同じ条件で試験を行い、総脂肪酸の生産性及び各脂肪酸の割合を測定した。その結果、両藻類とも3%以上のラウリン酸の割合を示し、それぞれ9.4%及び8.8%であった。
【0062】
【表10】