(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5927629
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-36349(P2012-36349)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-170425(P2013-170425A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】平河 智博
(72)【発明者】
【氏名】頭島 周
【審査官】
七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−140948(JP,A)
【文献】
特開2001−026971(JP,A)
【文献】
特開平08−232330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00− 7/00
E03D 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水により便器を洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物受け面及び上縁部に位置するリム部を備えるボウル部と、前記リム部に洗浄水を吐水して前記汚物受け面を洗浄する吐水部と、前記汚物受け面と接続し上昇する上昇管路及びこの上昇管路に連続し下降する下降管路を備える排水トラップ管路であって、汚物を洗浄水とともに排出する前記排水トラップ管路と、を有して、
前記汚物受け面から前記上昇管路の終端に至るまでの流路における最下点が、前記汚物受け面の前記排水トラップ管路側の壁面の下端から鉛直下方に下ろした前記排水トラップ管路の入口の位置よりも、下流側に位置し、
前記汚物受け面の下方には、前記排水トラップ管路の前記入口の位置よりも上流側において略同一の断面積にて連続して形成され、前記排水トラップ管路の前記入口の位置で前記排水トラップ管路と接続し、前記排水トラップ管路へと汚物及び洗浄水を導く導入管路が設けられていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記導入管路の入口における断面積が、前記導入管路及び前記排水トラップ管路におけ
るいかなる流路の断面積よりも小さく形成される請求項1に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水洗大便器において、ボウル部内の溜水に略水平方向の旋回流を付与して汚物受け面を洗いながら汚物を中央付近に集め、サイホン作用等により排水トラップ管路から外部へ排出するという洗浄形態が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−174363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような水洗大便器においては、使用者が排泄した汚物が溜水中に沈み溜まる位置については何ら配慮されていない。しかし、汚物が溜まる位置によって、例えば、汚物が溜まる位置が排水トラップ管路の上昇管と離れた位置である場合には、汚物が排水トラップ管路の上昇管を上昇し水洗大便器の外部へと排出されるのに時間及び洗浄水量を要することとなる。また、便器洗浄に使用する洗浄水量を少なく設定した場合、その溜まる位置によっては汚物が排出しきれずに便器本体に残されてしまうおそれもある。従って、上述したような水洗大便器においては、近年の水洗大便器における節水化のニーズに対して、洗浄水量を少なくして節水化を果たすことが十分にはできないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、より早期に汚物を排出することにより洗浄水量を少なくし、節水化を果たすことが可能な水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、洗浄水により便器を洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、汚物受け面及び上縁部に位置するリム部を備えるボウル部と、リム部に洗浄水を吐水して汚物受け面を洗浄する吐水部と、汚物受け面と接続し上昇する上昇管路及びこの上昇管路に連続し下降する下降管路を備える排水トラップ管路であって、汚物を洗浄水とともに排出する排水トラップ管路と、を有して、汚物受け面から上昇管路の終端に至るまでの流路における最下点が、汚物受け面の排水トラップ管路側の壁面の下端から鉛直下方に下ろした排水トラップ管路の入口の位置よりも、下流側に位置し、汚物受け面の下方には、
排水トラップ管路の入口の位置よりも上流側において略同一の断面積にて連続して形成され、排水トラップ管路の入口の位置で排水トラップ管路と接続し、排水トラップ管路へと汚物及び洗浄水を導く導入管路が設けられていることを特徴とする水洗大便器。
【0007】
このように構成された本発明においては、汚物受け面から上昇管路の終端に至るまでの流路における最下点が、汚物受け面の排水トラップ管路側の壁面の下端から鉛直下方に下ろした排水トラップ管路の入口の位置よりも下流側に位置しているため、使用者が排泄した汚物はより下降管路側、即ちより水洗大便器の外部側に溜まりやすくなる。そのため、水洗大便器の洗浄を行う際、より早期に汚物を水洗大便器の外部へと排出することができる。
また、
排水トラップ管路の入口の位置よりも上流側において導入管路を略同一の断面積で連続して形成したため、洗浄水が導入管路内を通過する際に流速が大きく変化することがなく、洗浄水の圧力損失を抑えることができる。さらに、洗浄水の流れが整流され乱流が起きにくい。そのため、よりスムーズに洗浄水を排水トラップ管路へ導けるため、より早期に汚物を水洗大便器の外部へと排出することができる。
従って、洗浄水量を減らしたとしても汚物を十分に排出することができ、節水化が可能となる。
【0010】
本発明は、さらに好ましくは、導入管路の入口における断面積が、導入管路及び排水トラップ管路におけるいかなる流路の断面積よりも小さく形成される。
【0011】
このように構成された本発明においては、導入管路の入口が最小の断面積となるため、汚物が詰まる際は導入管路の入口付近で詰まる。入口付近ならば、汚物の詰まりを使用者が汚物受け面側から視認することができる。洗浄水量を少なく設定した場合には水勢が弱くなることでより汚物が詰まりやすくなるが、視認できることから容易に汚物の除去作業ができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水洗大便器によれば、より早期に汚物を水洗大便器の外部へと排出することができる。従って、洗浄水量を減らしたとしても汚物を十分に排出することができ、節水化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器を示す側面断面図。
【
図2】
図1に示す洗い落とし式大便器のロータンクを外した状態の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器について説明する。
図1は本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器を示す側面断面図であり、
図2は
図1に示す洗い落とし式大便器の平面図である。
図1及び
図2に示すように、本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器1は、後述する排水トラップ管路内の水位上昇による落差を利用して汚物を排出する洗い落とし式の水洗大便器である。
【0015】
洗い落とし式大便器1は、床面FLに設置される便器本体2と、便器本体2の前方上部に形成されるボウル部4と、便器本体2の後方上部に形成され洗浄水をボウル部4へ吐水する導水路6(吐水部)と、ボウル部4の下方から延出し汚物を洗浄水とともに排出する排水トラップ管路8と、を有する。また、便器本体2の後部には、洗浄水を貯留するロータンク10が取り付けられている。ロータンク10には図示しない排水弁が設けられており、この排水弁の開弁により、設定された量の洗浄水を導水路6へ供給する。
【0016】
ボウル部4は、上方に向けて開口したボウル形状の汚物受け面12と、このボウル部4の上縁部に位置するリム部14を備えている。ボウル部4の下方には、溜水により溜水面Wが形成されている。なお、溜水面Wにおける水位は、初期溜水水位高さW0から、洗浄水の吐水により上昇し、洗浄時には最大で溜水水位高さW1となる。
【0017】
リム部14は、その内周面が、洗浄水が外に飛び出さないようにオーバーハングした形状に形成される。また、リム部14は導水路6と連通するリム導水路26aを備え、リム導水路26aは導水路6から供給される洗浄水をリム部14に吐水するリム吐水口28aが少なくとも1つは形成されている。
【0018】
リム吐水口28aは、リム部14に洗浄水を吐水してボウル部4内に略水平方向に旋回する旋回流を形成し、洗浄水が旋回しながら下方へと流下して汚物受け面12を洗浄できるようになっている。また、ボウル部4の前方から見て左側の側壁22の溜水面Wより上方であって、溜水面Wの中心より前方側には、導水路6からゼット導水路26bを介して洗浄水が供給されるゼット吐水口28bが形成されている。このゼット吐水口28bから洗浄水が溜水に上下方向の旋回流を生じさせるようになっている。なお、本実施形態では、リム吐水口28aに加え、ゼット吐水口28bを形成しているが、このような実施形態に限定されるものではなく、リム吐水口28aのみを形成しても良い。また、旋回流を形成せずにボウル部4の前方から排水トラップ管路8の入口8aに向けて洗浄水の主流を形成して汚物等を排水トラップ管路8内に押し込む便器洗浄方式のもの適用しても良い。
【0019】
汚物受け面12は、後方側、即ち排水トラップ管路8側でリム部14から排水トラップ管路8へ連続して形成される後壁18と、前方側でリム部14から排水トラップ管路8へ連続して形成される前壁20と、両側方で後壁18から前壁20へ連続して形成される側壁22とからなる。
【0020】
汚物受け面12の前壁20は、溜水面Wの初期溜水水位W0よりも下方にて凸状に形成される段部20bを備える。この段部20b及び後壁18における初期溜水水位高さW0の位置より下方には、後壁18及び前壁20ならびに側壁22の下端部により構成され、排水トラップ管路8と接続する導入管路23が形成されている。
【0021】
導入管路23は、その入口23aから後述する排水トラップ管路8の入口8aへと洗浄水及び汚物を導く。また、導入管路23は、入口23aから排水トラップ管路8の入口8aに至るまで断面積が略同一になるように形成されている。さらに、導入管路23の入口23aは、それ以降の流路、即ち導入管路23及び排水トラップ管路8における断面積の中で、最も断面積が小さく設定されている。
【0022】
導入管路23の後方かつ下方には、洗浄水とともに汚物を水洗大便器1の外部へと排出する排水トラップ管路8が延出している。排水トラップ管路8の入口8aからは、上昇する上昇管路8bが後方に延びおり、この上昇管路8bには頂部8cを経て下降する下降管路8dが連続している。下降管路8dの下端は排水ソケット29を介して床面FLに引き出された図示しない床下の排出管に接続されている。また、排水トラップ管路8の頂部8cにより、溜水面Wの初期溜水水位高さW0が規定される。
【0023】
なお、導入管路23と接続する排水トラップ管路8の入口8aは、汚物受け面12の後壁18の下端18bから垂直方向に下ろした断面にて形成される開口である。この排水トラップ管路8の入口8aよりも下流側には、汚物受け面12から排水トラップ管路8の上昇管路8bの終端である頂部8cに至る流路において最も下方であり、汚物が溜まる汚物溜め部30(最下点)が形成されている。
【0024】
以下、本実施形態の洗い落とし式大便器の動作について説明する。
上述した洗い落とし式大便器1の待機状態においては、溜水面Wの水位は初期溜水水位高さW0である。使用者が排泄を行うと、汚物がボウル部4内の溜水中にて導入管路23に導かれて、排水トラップ管路8の入口8aよりも下流側の汚物溜め部30に溜まる。その後、使用者が図示しないレバー等により洗浄開始の操作を行うと、ロータンク10の排水弁(図示なし)が開弁し、ロータンク10内に貯留されていた洗浄水が導水路6へ供給される。導水路6に供給された洗浄水は、リム導水路26a及びゼット導水路26bに流入し、リム吐水口28a及びゼット吐水口28bからそれぞれ吐水される。
【0025】
リム吐水口28aから吐水される洗浄水は、リム吐水口28aからリム部14と汚物受け面12の間の内周面上に、便器本体2の前方方向へ向けて吐水される。吐水された洗浄水は、水平方向の流れとなって旋回流を形成しつつ溜水面Wへ向かい、汚物受け面12を洗浄する。溜水面Wに到達した洗浄水は、ボウル部2内の全ての溜水とともに旋回しつつ流下していき、導入管路23により導かれ排水トラップ管路8の入口8aへと勢いよく流れ込んでいく。
【0026】
一方、ゼット吐水口28bから吐水される洗浄水は、汚物受け面12の前壁20の段部20bの上面及び側壁22に衝突することで上下方向に旋回する旋回流を形成する。この上下方向に旋回する旋回流は、ボウル部2内の溜水を上下方向に撹拌することで溜水面W付近に浮かぶ浮遊系汚物をその流れに引き込み、排水トラップ管路8の入口8aへと流れ込んでいく。この際、ゼット吐水口28bが溜水面Wの中心より前側に形成されているとともに、溜水面Wの前方では段部20bが形成されることで水深が浅くなっているため、溜水を上下方向に撹拌し易くなっている。
【0027】
リム吐水口28a及びゼット吐水口28bから吐水される洗浄水により溜水水面Wが最大高さである溜水水位上昇高さW1にまで上昇していく。溜水面Wの上昇に伴って排水トラップ管路8の上昇管路8bを経て頂部8cを越えて排出される洗浄量は増大していく。この際、汚物溜め部30に溜まっていた汚物及び旋回流によって溜水中に沈められた浮遊系汚物は、洗浄水と共に排水トラップ管路8の頂部8cを越えて排水ソケット29を経て、図示しない床下の排出管へと排出される。
【0028】
上述した本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器1によれば、使用者の排泄において、汚物受け面12から排水トラップ管路8の頂部8cに至る流路において最も下方である汚物溜め部30が、排水トラップ管路8の入口8aよりも下流側に形成されているため、汚物がより排水管(図示なし)に近い位置に溜まる。そのため、より早期に汚物を排水トラップ管路8の頂部8bを越えて排水管(図示なし)へと排出することができる。従って、洗浄水量を減らしたとしても汚物を十分に排出することができるため、節水化が可能となる。
【0029】
さらに、上述した本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器によれば、使用者の排泄において、汚物を汚物溜め部30へ導く導入管路23が形成されているため、汚物溜め部30により確実に汚物が溜められる。また、洗浄時において、導入管路23を略同一の断面積で連続して形成しているため、洗浄水が導入管路23内を通過する際に流速が大きく変化することがない。そのため、洗浄水の圧力損失を抑えることができる。さらに、洗浄水の流れが整流され乱流が起きにくい。従って、よりスムーズに洗浄水を排水トラップ管路8内の汚物へ向けて導けるため、より少ない洗浄水量で汚物を排出することができ、節水化が可能となる。
【0030】
また、上述した本発明の一実施形態による洗い落とし式大便器によれば、洗浄時において、導入管路23の入口23aの断面積をそれ以降の流路における断面積の内で最も小さく設定しているため、万一、汚物が詰まる際は導入管路23の入口23a付近で詰まる。入口23a付近ならば、汚物の詰まりを使用者が汚物受け面12側から視認することができる。洗浄水量を少なく設定した場合には水勢が弱くなることでより汚物が詰まりやすくなるが、視認できることから容易に汚物の除去作業が可能となる。
【0031】
なお、上述した本実施形態においては、例として、洗い落とし式の水洗大便器に適用した形態について説明しているが、このような形態に限定されるものではなく、他の水洗大便器の形態についても適用可能である。例えば、排水トラップ管路によるサイホン作用により汚物を押し流す、いわゆる、サイホン式の水洗大便器等、洗い落とし式の水洗大便器以外の便器形態についても適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…洗い落とし式大便器
2…便器本体
4…ボウル部
6…導水路
8…排水トラップ管路
8a…入口
8b…上昇管路
8c…頂部
8d…下降管路
10…ロータンク
12…汚物受け面
14…リム部
16…溜水部
18…後壁
18b…下端
20…前壁
20b…段部
22…側壁
23…導入管路
23a…入口
26a…リム導水路
26b…ゼット導水路
28a…リム吐水口
28b…ゼット吐水口
29…排水ソケット
30…汚物溜め部
W…溜水面
W0…初期溜水水位高さ
W1…溜水水位上昇高さ