特許第5927634号(P5927634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5927634多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを検出するためのキットおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5927634
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを検出するためのキットおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20160519BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160519BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20160519BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20160519BHJP
   C07K 14/805 20060101ALI20160519BHJP
   C07K 14/765 20060101ALI20160519BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/53 D
   G01N33/536 E
   C07K16/18ZNA
   C07K14/805
   C07K14/765
   C07K14/47
【請求項の数】27
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2012-557355(P2012-557355)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(65)【公表番号】特表2013-522604(P2013-522604A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】AU2011000303
(87)【国際公開番号】WO2011113107
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】2010901171
(32)【優先日】2010年3月19日
(33)【優先権主張国】AU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516100229
【氏名又は名称】インサイシヴ テクノロジーズ プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ハバード マイケル ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マンガム ジョナサン エドワード
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−510089(JP,A)
【文献】 米国特許第04175326(US,A)
【文献】 国際公開第2007/038683(WO,A2)
【文献】 特公昭56−048490(JP,B2)
【文献】 米国特許第04347233(US,A)
【文献】 特開平08−196272(JP,A)
【文献】 特開2005−095185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに特異的に結合し、かつ着色されたレポーターに共有結合したタンパク質を含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトの検出に使用される、プローブであって、
前記タンパク質は、以下の群:血清アルブミン;補体C3 β鎖;α1-アンチトリプシン;プロテインS100-A9;ラクトトランスフェリン;白血球エラスターゼインヒビター;アンチトロンビンIII;ヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδ;プロラクチン誘導タンパク質;αアミラーゼ1;Igκ鎖V-III領域SIE; Igα-2鎖C領域;未同定タンパク質c6orf58;セルピンB3;およびアメロゲニンから選択される、前記プローブ
【請求項2】
請求項1のプローブであって、前記タンパク質がヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδである、プローブ。
【請求項3】
請求項1又は2のプローブであって、前記着色されたレポーターがアミドブラックである、プローブ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項のプローブであって、前記プローブが、タンパク質をレポーターに連結するリンカーをさらに含む、プローブ。
【請求項5】
請求項4のプローブであって、前記リンカーが架橋剤である、プローブ。
【請求項6】
請求項5のプローブであって、前記架橋剤がヘテロ二官能性架橋剤である、プローブ。
【請求項7】
請求項6のプローブであって、前記ヘテロ二官能性架橋剤が、スクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサンカルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)である、プローブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項のプローブを含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトの検出に使用される、キット。
【請求項9】
透過化剤をさらに含む、請求項8のキット。
【請求項10】
(a)1以上の洗浄液、又は(b) 水と混合して1以上の洗浄液を調製する、1以上の乾燥成分をさらに含む、請求項8又は9のキット。
【請求項11】
前記1以上の洗浄液がマグネシウムイオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオンまたは次亜塩素酸イオンを含む、請求項10のキット。
【請求項12】
前記1以上の洗浄液が塩化マグネシウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムを含む、請求項11のキット。
【請求項13】
前記1以上の洗浄液が1Mの塩化マグネシウムおよび/または0.4Mのリン酸二水素ナトリウムを含む、請求項12のキット。
【請求項14】
再石灰化剤または治療的石灰化剤をさらに含む、請求項8〜13のいずれか一項のキット。
【請求項15】
前記再石灰化剤または治療的石灰化剤がフッ素、可溶性リン酸カルシウムまたは非晶質リン酸カルシウムを含む、請求項14のキット。
【請求項16】
被験者の歯または歯のサンプルと請求項1〜7のいずれか一項のプローブとを接触させること、及び多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに特異的に結合しているタンパク質を検出することを含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに関連する症状を検出する方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、検出が、目視、撮影、免疫検出、クロマトグラフィー、電気泳動または質量分析を含む、方法。
【請求項18】
請求項16〜17のいずれか一項の方法であって、前記被験者がヒトである、方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、前記ヒトがあらゆる年齢であるか、12歳未満であるか、2〜12歳、4〜10歳、または6〜10歳である、方法。
【請求項20】
歯または歯のサンプルをプローブに接触させる前に、歯または歯のサンプルを透過化することをさらに含む、請求項16〜19のいずれか一項の方法。
【請求項21】
請求項16〜20のいずれか一項の方法であって、前記症状が、初期う蝕、う蝕、臼歯/切歯低石灰化(MIH)、エナメル質形成不全症、歯のフッ素症または他の歯の発育障害(DDD)である、方法。
【請求項22】
請求項16〜21のいずれか一項の方法であって、歯または歯のサンプルを1以上の洗浄液で洗浄することを含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質を除去することをさらに含む方法。
【請求項23】
請求項22の方法であって、前記1以上の洗浄液がマグネシウムイオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオンまたは次亜塩素酸イオンを含む、方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、前記1以上の洗浄液が塩化マグネシウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムを含む、方法。
【請求項25】
請求項24の方法であって、前記1以上の洗浄液が1Mの塩化マグネシウムおよび/または0.4Mのリン酸二水素ナトリウムを含む、方法。
【請求項26】
請求項16〜25のいずれか一項の方法であって、再石灰化剤または治療的石灰化剤を用いて歯を再石灰化または治療的石灰化させることをさらに含む、方法。
【請求項27】
請求項26の方法であって、前記再石灰化剤または治療的石灰化剤がフッ素、可溶性リン酸カルシウムまたは非晶質リン酸カルシウムを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを検出するためのキットおよびプローブ、並びに多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに関連する症状を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の復元力は、ミネラル(ハイドロキシアパタイトと呼ばれる)と有機成分(タンパク質、細胞および組織)との間の複雑な相互作用によって決まる。正常な状態では、エナメル質および象牙質のハイドロキシアパタイトは、歯の完全性の維持に必要な硬度および靭性を与える極めて高密度の構造中に組織される。エナメル質および象牙質中のミネラル濃度の損失により、異常な多孔質ハイドロキシアパタイトがもたらされ、これは歯の物理的復元力を危うくし、構造上の問題を生じ得る。多孔質ハイドロキシアパタイトは、う蝕および歯の発育障害(DDD)等のいくつかの一般的な疾患によって引き起こされる。
【0003】
う蝕(虫歯)は、酸を分泌する細菌によって引き起こされる疾病である。う蝕原性細菌によって産生される酸は、脱灰と呼ばれる過程でハイドロキシアパタイトを溶解し得る。脱灰の初期の過程(初期う蝕と呼ばれる)により、白斑病変と呼ばれる多孔質ハイドロキシアパタイトの不連続領域を生じる。時間が経つと、白斑病変は虫歯(即ち、歯のミネラルの損失)に進行するか、停滞し(不活性う蝕と呼ばれる)、再石灰化と呼ばれる過程において高密度のハイドロキシアパタイトの外郭構造を再形成する可能性がある。虫歯が形成される前は、この過程は可逆的である(即ち、再石灰化)が、一度エナメル質が損なわれると、エナメル質を再生することはできない。
【0004】
う蝕は、目視検査、物理的挑戦(例えば歯科用深針でのスクラッチ)、およびX線撮影(歯間または歯肉線の下のう蝕を検出する)の組み合わせによって診察する。困ったことに、これらの診断方法は、初期う蝕のおよそ半数を見逃し、これらの方法でう蝕と診断された歯の最大13%は実際にはう蝕が無い。診断を改良するための最近の方策としては、電気インピーダンス、定量的光誘起蛍光(QLF)および赤外レーザー蛍光(DIAGNOdentR)を測定する装置の使用が挙げられるが、装置の費用およびサイズ、および個体差の問題により、広範に使用されるものは見つかっていない。別の方法は、象牙質のう蝕を検出する色素の使用である。しかし、これらの色素は多孔質ハイドロキシアパタイトに選択的ではなく、タンパク質(象牙質の感染菌に関連すると推測される)に結合するか、間質腔を占拠するため、特異性および感度が低下する。さらに、これらの色素は口腔を変色し、健康な歯に結合し、または、照射器による視覚化を要する。
【0005】
う蝕に対しては主要な治療法が2つあり、その選択は疾患の広がりによって決定する。白斑病変は再石灰化法(例えば、フッ化物療法または生物活性分子で安定化された非晶質リン酸カルシウム)で処置してもよい。虫歯の穴は、通常の修復歯科学(即ち充填法)を要する。
【0006】
DDDは、多孔質ハイドロキシアパタイトのもう一つの一般的な原因である。DDDは憂慮すべき程に蔓延しており、費用がかかり、人口の50%以上が、歯痛や、外観が損われ、う蝕リスクを高めるなどの多大な負担に潜在的に悩まされている。2つの最も一般的なDDDは、歯のフッ素症(広範性混濁を特徴とする)および臼歯/切歯の低石灰化(MIH;境界の明瞭な混濁を特徴とする)であり、両者は環境要因によって起こる(即ち後天性の異常)。多孔質ハイドロキシアパタイトを引き起こし得る、もう一つの重篤であるが稀なDDDは、遺伝的疾患であるエナメル質形成不全症である。
【0007】
MIHは典型的には小児の10〜20%を侵し、う蝕の主な危険因子であり、歯列矯正の危険因子であり、社会負担となっている。MIHは、エナメル質形成細胞の多因子の全身的障害により生じると考えられている。しかし、フッ化物から解離していることと幼児期の疾病に関係することの他に、MIHの原因は未だ謎のままである。
【0008】
現在のところ、MIHまたは他のDDDを診断し修復するために設計された製品は得られていない。う蝕および種々のDDDの鑑別診断は困難なことがあり、個々の歯科医療従事者の経験および技能に大きく依存する。う蝕の再石灰化のために開発された最近の手法および/または製品は、MIHに対しては上手く働かない。MIHのエナメル質は軟らかく、多孔質で、正常の歯の組織と線引きしにくいことから、修復治療はしばしば障害が起きる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、う蝕およびDDDによって引き起こされた多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを診断し、線引きし、修復するための新たなツールが必要とされている。本書において、我々は、多孔質ハイドロキシアパタイトに関連する症状の病原性メカニズムについての我々の最近の発見に基づいて、新たな技術を詳細に練り上げることによって、この必要性に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の側面は、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトの検出に使用される場合に、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合する能力があるタンパク質;または多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合した該タンパク質を検出するディテクタを含むキットを提供する。
【0011】
第二の側面は、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトの検出に使用される場合に、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合する能力があるタンパク質;およびレポーターを含むプローブを提供する。
【0012】
第三の側面は、(i)多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合する能力があるタンパク質と、(ii)レポーターとを連結することを含む、第二の側面のプローブを製造する方法を提供する。
【0013】
第四の側面は、被験者の歯または歯のサンプル中または歯または歯のサンプル上で、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合しているタンパク質を検出することを含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに関連する症状を検出する方法を提供する。
【0014】
第五の側面は、歯または歯のサンプルの試験ハイドロキシアパタイトに結合した濃度が、対照の歯または歯の対照のサンプルの対照ハイドロキシアパタイトに結合した濃度と比較して上昇しているタンパク質を検出すること、および、試験ハイドロキシアパタイトに結合した濃度が、対照ハイドロキシアパタイトに結合した濃度に近いアメロゲニンを検出することを含む、低石灰化DDDを検出する方法を提供する。
【0015】
第六の側面は、MIHハイドロキシアパタイトに結合したアルブミンおよびヘモグロビンを検出することを含む、無傷および/または破壊されたMIHエナメル質の検出方法であって、アルブミンの検出かつヘモグロビンの不検出が無傷MIHエナメル質を示し、ヘモグロビンの検出が破壊されたMIHエナメル質を示す方法を提供する。
【0016】
第七の側面は、(a)(i)1以上の洗浄液または(ii)水との混合に際して1以上の洗浄液を調製するための乾燥成分であって、前記1以上の洗浄液が多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質を除去するように構成されるもの;および(b)再石灰化剤または治療的石灰化剤を含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質を除去するためのキットを提供する。
【0017】
第八の側面は、歯または歯のサンプルを1以上の洗浄液で洗浄することを含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質を除去する方法を提供する。
【0018】
第九の側面は、1以上の洗浄液;または水との混合に際して1以上の洗浄液を調製するための前記1以上の乾燥成分を含む、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質を除去するためのキットであって、第四の側面の方法によって多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを有することが検出された、歯または歯のサンプル中または歯または歯のサンプル上のタンパク質を除去するように、1以上の洗浄液が構成される、キットを提供する。
【0019】
第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、その場での検出またはその場外での診断を可能にする。
【0020】
第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、う蝕および/またはMIH/DDDの検出および、歯の復元標本においてう蝕および/またはMIH/DDDの境界を線引きするために有用である。その後、臨床医は明らかにされたう蝕またはMIH組織を特異的に除去してもよく、明白な境界の標本が確保され、復元成功の可能性が向上する。
【0021】
第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブは、鍵となるツールを提供し、第四の側面の方法により、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトの日常的なスクリーニングが可能になる。さらに、第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、露出した歯科ハイドロキシアパタイトの早期の検出に使用してもよい。この方法において、第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、最終的にはう蝕となり得る歯の変化(う蝕の前兆)を、検出せずに、日常的にスクリーニングするために使用してもよく、これにより復元および/または再石灰化の正確で適時の標的化が可能になり、う蝕の進行が抑えられ、および/または、再石灰化が促進される。いくつかの態様では、第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、第一永久歯の萌出後の小児の日常的なスクリーニングに特に適している。また、第一〜第六の側面のキット、プローブまたは方法は、多孔質ハイドロキシアパタイトの早期検出のための、歯の日常的スクリーニングにも適している。日常的な定期的スクリーニングは、う蝕となり得る歯の変化を、最も早期の実用的段階で検出する優れた機会を提供する。
【0022】
さらに、第一〜第六の側面のキット、プローブおよび方法は、フッ化物または、生物活性分子によって安定化されてもよい非晶質リン酸カルシウムを含む、知られている再石灰化療法等の、実施し得るあらゆる治療のモニタリングも可能にする。
【0023】
第八の側面の方法および第七および第九の側面のキットにより、例えばMIH病変において、多孔質ハイドロキシアパタイト上に強力に保持される過剰なタンパク質の穏やかな(gentle)および/または特異的な除去が可能になり、再石灰化の前または再石灰化中に使用される。
【0024】
第一〜第五または第七〜第九の側面のいずれか一つのタンパク質は、以下の群:血清アルブミン;補体C3 β鎖;α1-アンチトリプシン;プロテインS100-A9;ラクトトランスフェリン;白血球エラスターゼインヒビター;アンチトロンビンIII;ヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδ;プロラクチン誘導タンパク質;αアミラーゼ1;Igκ鎖V-III領域SIE;Igα-2鎖C領域;未同定タンパク質c6orf58;およびセルピンB3から選択してもよい。さらに、第一〜第四または第七〜第九の側面のいずれか一つのタンパク質は、アメロゲニンであってもよい。
【0025】
第一、第七および第九の側面のキット、または第二の側面のプローブは、代替の形態であってもよい。一つの形態は、特定用途のための適合性または制限を示し、「ための(for)」という用語で示される。別の形態は、特定用途のみに制限され、「に使用される場合」という用語で示される。
【0026】
第三〜第六または第八の側面の方法は、例えば欧州の形態(「使用のための薬剤」)または第二の医薬用途(スイス)の形態(「医薬品の製造における薬剤の使用」)等の、代替の形態で表されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、MIHのエナメル質のタンパク質含量をプロットするが、正常のエナメル質と比較して異常に高い。酸不溶性タンパク質は、正常のエナメル質(正常)および萌出後崩壊を示す重症病変の群から抽出し(試料7〜11)、その後デンシトメトリードットブロット分析により定量した。平均値(±SD)は、二重分析について示し、それぞれは異なる負荷で行って、定量的直線性(r2 > 0.95)を保証する。示したとおり、スチューデントt-検定でペアワイズに比較した場合(等分散、両側検定)、全てのMIH試料は正常と有意に異なっていた。アルブミン標品を使用して、これらのデータよりタンパク質の絶対値を得た。
図2図2は、無傷および破壊されたMIH病変のタンパク質プロファイルが明確に異なることを示す。MIH病変および正常エナメル質(正常)由来の酸不溶性タンパク質をSDS-PAGEに付し、示した通り、クマシー・ブルーで染色するか、アメロゲニン抗体(抗AMG)で免疫ブロットした。(A)無傷表面および破壊表面の病変の比較(それぞれ試料1〜6および7〜11)であって、主要なタンパク質のバンドについて明確に異なるパターンを示す。アルブミンおよびヘモグロビンの位置を示す(Alb、Hb)。(B)ラットのMIH試料と分泌相エナメル質基質との比較であって、エナメル質基質は大部分が無傷のアメロゲニン(AMG)についての対照となる。試料7および11は、それぞれ、少量または相当量のアメロゲニン断片を有する病変を代表する。定量のため、ラットおよびヒトアメロゲニンの間の交差免疫反応性を、ヒトアメロゲニン標準物質(アブノヴァ(Abnova)、台湾、台北市)を使用して標準化した。(C)2つの無傷病変のプロファイルであって、新鮮な抽出物を使用した第一のゲルの泳動と、同一のSDS抽出物を-20℃で16週間保管した後の第二の泳動を比較する。66 kDaの主要なバンド(アルブミン)の消失に注目のこと。
図3図3は、無傷および破壊されたMIH病変のプロテオーム解析の結果を示し、これにより、MIHのエナメル質における、多数の体液タンパク質が明らかになる。無傷および破壊病変(図2A、試料1〜11)由来の示された主要なゲルのバンドは、表1に、より完全に報告した通り、プロテオーム同定に付した。図は、それぞれのバンドで同定されたタンパク質、およびこれらの同定が実施された試料(カッコ内の試料番号)を示す。試料6および7についてのゲルのレーンは、図2Aから複製したものであり、それぞれ無傷および破壊病変を示す。
図4図4は、表面完全性がMIHのエナメル質のタンパク質組成を制御することを明らかにする、石灰化アッセイを示す。(A)MIHのエナメル質と体液との比較プロファイリングであって、無傷病変と血清、および破壊病変と唾液および赤血球との類似性を示す。(B)ハイドキシアパタイト結合(HAp親和性)アッセイであって、擬似口腔液(O液)由来のタンパク質のサブセットが優先的に保持されたこと(即ち、負荷、結合および非結合分画の間の差)を示す。結合のプロファイルとパネルAの破壊病変(試料7)との間の、強い類似性に注目のこと。(C)Bと同等のミネラル結合アッセイであるが、ハイドロキシアパタイトの代わりに粉末化したMIHエナメル質を用いた。プロファイルは、擬似口腔液にさらす前後(+/- O液)の、無傷病変由来のエナメル質を示す。タンパク質に結合したプロファイル(+)と、パネルAおよびBにおける破壊病変およびハイドロキシアパタイトのプロファイルとの類似性に注目のこと。この結果は、全体構造(無傷表面を含む)の損失が、無傷病変のタンパク質結合能に著しい変化をもたらすことを示唆する。これらの比較を正当化するため、両者の親和性基質(微粒子ハイドロキシアパタイト、MIHエナメル質)を乳鉢ですり潰して、アッセイ前に同等の濃度(粗粉末)とした。
図5図5は、擬似口腔液由来のヘモグロビンおよびアルブミンがハイドロキシアパタイトによって結合することを示す、ハイドロキシアパタイト結合アッセイ(クマシー染色SDS-PAGE)を表す。5 mMのMgCl2、1 MのMgCl2、および0.4 MのNaH2PO4の順でそれぞれ5分間洗浄することを含む、3工程の洗浄方法によって、ハイドロキシアパタイトから>90%のタンパク質が除去された。
図6図6は、ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を提供する(配列番号1;スイスプロット・アクセッション番号P02768)。
図7図7は、ヒト補体C3のアミノ酸配列を提供する(配列番号2;スイスプロット・アクセッション番号P01024)。
図8図8は、ヒトα1-アンチトリプシンのアミノ酸配列を提供する(配列番号3;スイスプロット・アクセッション番号P01009)。
図9図9は、ヒトプロテインS100-A9のアミノ酸配列を提供する(配列番号4;スイスプロット・アクセッション番号P06702)。
図10図10は、ヒトラクトトランスフェリンのアミノ酸配列を提供する(配列番号5;スイスプロット・アクセッション番号P02788)。
図11図11は、ヒト白血球エラスターゼインヒビターのアミノ酸配列を提供する(配列番号6;スイスプロット・アクセッション番号P30740)。
図12図12は、ヒトアンチトロンビンIIIのアミノ酸配列を提供する(配列番号7;スイスプロット・アクセッション番号P01008)。
図13図13は、ヒトヘモグロビンサブユニットαのアミノ酸配列を提供する(配列番号8;スイスプロット・アクセッション番号P69905)。
図14図14は、ヒトヘモグロビンサブユニットβのアミノ酸配列を提供する(配列番号9;スイスプロット・アクセッション番号P68871)。
図15図15は、ヒトヘモグロビンサブユニットδのアミノ酸配列を提供する(配列番号10;スイスプロット・アクセッション番号P02042)。
図16図16は、ヒトプロラクチン誘導タンパク質のアミノ酸配列を提供する(配列番号11;スイスプロット・アクセッション番号P12273)。
図17図17は、ヒトαアミラーゼ1のアミノ酸配列を提供する(配列番号12;スイスプロット・アクセッション番号P04745)。
図18図18は、ヒトIgκ鎖V-III領域SIEのアミノ酸配列を提供する(配列番号13;スイスプロット・アクセッション番号P01620)。
図19図19は、ヒトIgα-2鎖C領域のアミノ酸配列を提供する(配列番号14;スイスプロット・アクセッション番号P01877)。
図20図20は、ヒト未同定タンパク質C6orf58のアミノ酸配列を提供する(配列番号15;スイスプロット・アクセッション番号Q6P5S2)。
図21図21は、ヒトセルピンB3のアミノ酸配列を提供する(配列番号16;スイスプロット・アクセッション番号P29508)。
図22図22は、ヒトアメロゲニン、Xアイソフォームのアミノ酸配列を提供する(配列番号17;スイスプロット・アクセッション番号Q99217)。
図23図23は、ヒトアメロゲニン、Yアイソフォームのアミノ酸配列を提供する(配列番号18;スイスプロット・アクセッション番号Q99218)。
図24図24は、マウスアメロゲニンのアミノ酸配列を提供する(配列番号19;スイスプロット・アクセッション番号P63277)が、これは組み換えマウスアメロゲニンにも対応している。
図25図25は、ウシヘモグロビンサブユニットαのアミノ酸配列を提供する(配列番号20;スイスプロット・アクセッション番号P01966)。
図26図26は、ウシヘモグロビンサブユニットβのアミノ酸配列を提供する(配列番号21;スイスプロット・アクセッション番号P02070)。
図27図27は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)のアミドブラック(一級アミン)との反応による、マレイミド活性化着色レポーターを製造するための化学反応を表す。マレイミド活性化着色レポーターは、スルフヒドリル反応性であり、ヘモグロビンβサブユニットのシステイン-チオールと結合可能な状態である。
図28図28は、図28によるマレイミド活性化着色レポーターとヘモグロビンβサブユニットのシステインチオール基(SH)との反応による、この例では着色レポーター結合タンパク質であるプローブを製造するための化学反応を表す。ヘモグロビンテトラマーはそれぞれ、2つの着色レポーター分子と結合し、2つのサブユニットは修飾されないままであり、このことはヘモグロビンのハイドロキシアパタイト結合機能を保持するために重要であると思われる。
図29図29は、図27および28および実施例2によって製造されたプローブの、ハイドロキシアパタイトに対するインビトロでの結合を表す。プローブは、ヘモグロビン(Hb)、黒-青色の着色レポーター(アミドブラック)およびリンカーを含んでいた。プローブを適用して5分以内に、ハイドロキシアパタイトは暗青色に変化した。プローブは水洗に耐え、一方、着色レポーターのみ(即ち、Hbに連結しないもの)が水洗によって除去された。プローブは、5mMのMgCl2、1MのMgCl2および0.4MのNaH2PO4の順でそれぞれ5分間洗浄することを含む3工程の洗浄方法によって、ハイドロキシアパタイトから除去された。
図30図30は、実施例2によって製造されたプローブの、多孔質歯科エナメル質に対する特異的結合を実証する、実施例3の結果を表す。
図31図31は、実施例2によって製造されたプローブが、表面エナメル質の初期の脱灰(初期う蝕のモデル)を特異的に検出し得ることを実証する、実施例4の結果を表す。
図32図32は、実施例2によって製造されたプローブの作用メカニズムがハイドロキシアパタイト親和性であることを実証する、実施例5の結果を表す。
図33図33は、実施例2によって製造されたプローブが低石灰化エナメル質および異常な象牙質を特異的に標識することを実証する、実施例6の結果を表す。正常なエナメル質および象牙質は、標識されなかった。低石灰化エナメル質は、濃い紫色に特異的かつ均一に標識された。異常な象牙質は、深い緑色に特異的および均一に標識された。
図34図34は、実施例2によって製造されたプローブが、低石灰化エナメル質の除去の指針として使用され得ることを実証する、実施例7の結果を表す。
図35図35は、実施例2によって製造されたプローブが、異常な象牙質の除去の指針として使用され得ることを実証する、実施例8の結果を表す。
図36図36は、実施例8による異常な象牙質の検出が、漂白洗浄により向上し得ることを実証する、実施例9の結果を表す。
図37図37は、プローブがX線不透過性であり得ることを実証する、実施例10の結果を表すが、このことは、実施例2の青色の発色団(アミドブラック)をアミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(3I)で置換することによって達成され得る。
図38図38は、純粋なハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質の除去において、Mg2+またはPO4を含む洗浄液の相対的有効性を実証する、実施例11の結果を表す。
図39図39は、純粋なハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質の除去において、Mg2+またはPO4を含む洗浄液の個別または連続的適用の相対的有効性を実証する、実施例12の結果を表す。
図40図40は、純粋なハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質の除去において、Mg2+およびPO4を含む洗浄液の組み合わせの適用の相対的有効性を実証する、実施例13の結果を表す。
図41図41は、Mg2+またはPO4を含む洗浄液の適用により、実施例11〜13のハイドロキシアパタイトモデルと比較した効力は劣るが、低石灰化エナメル質からタンパク質が除去されることを実証する、実施例14の結果を表す。
図42図42は、低石灰化エナメル質からのタンパク質の除去において、Mg2+またはPO4を含む洗浄液の効力が、適用時間を延長することによって、実施例14と比較して改善され得、タンパク質が定量的に除去され得ることを実証する、実施例15の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本書では、多孔質ハイドロキシアパタイトに結合する能力のあるタンパク質を検出するための、キット、プローブおよび方法が開示される。ハイドロキシアパタイトは、エナメル質または象牙質に含まれることがある。さらに、象牙質を染色する(が多孔質歯科ハイドロキシアパタイトは検出しない)製品は存在するが、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを検出することによって、特異的にエナメル質の異常を検出する製品は、本書において初めて開示される。
【0029】
多孔質ハイドロキシアパタイトに結合する能力のあるタンパク質は、ヒトタンパク質であってもよい。例えば、該タンパク質は、以下の群:血清アルブミン(P02768);補体C3 β鎖(P01024);α1-アンチトリプシン(P01009);プロテインS100-A9(P06702);ラクトトランスフェリン(P02788);白血球エラスターゼインヒビター(P30740);アンチトロンビンIII(P01008);ヘモグロビンサブユニットα(P69905);ヘモグロビンサブユニットβ(P68871);ヘモグロビンサブユニットδ(P02042);プロラクチン誘導タンパク質(P12273);αアミラーゼ1(P04745);Igκ鎖V-III領域SIE(P01620);Igα-2鎖C領域(P01877);未同定タンパク質c6orf58(Q6P5S2);セルピンB3(P29508)から選択してもよく、ここでカッコ内の用語は、固有のスイスプロット・アクセッション識別番号(表1に列挙の通り、それぞれ、配列番号1〜16および図6〜21)を示す。いくつかの態様では、該タンパク質はアメロゲニンであってもよい。アメロゲニンはヒト由来であってもよい。例えば、アメロゲニンは、ヒトアメロゲニンのXアイソフォーム(配列番号17、図22;スイスプロット・アクセッション番号Q99217)であってもよく、または、アメロゲニンは、ヒトアメロゲニンのYアイソフォーム(配列番号18、図23;スイスプロット・アクセッション番号Q99218)であってもよい。或いは、該タンパク質は、ヒト以外の対象、例えば、霊長類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌまたはネコ等の動物に由来してもよい。
【0030】
第一〜第四および第七〜第九の側面のいくつかの態様では、該タンパク質は、アルブミン、ヘモグロビンまたはそのサブユニット、またはアメロゲニンであってもよい。
【0031】
第四の側面の一つの態様では、該方法は、アメロゲニン以外のタンパク質を検出すること、およびアメロゲニンを検出することを含み、ここで該タンパク質の存在およびアメロゲニンの非存在はMIHを示唆し、アメロゲニンの存在は、エナメル質形成不全症または歯のフッ素症のタイプを含む、低成熟型の異常を示す。「アメロゲニン以外の」タンパク質は、以下から選択されるいずれかである:血清アルブミン;補体C3 β鎖;α1-アンチトリプシン;プロテインS100-A9;ラクトトランスフェリン;白血球エラスターゼインヒビター;アンチトロンビンIII;ヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδ;プロラクチン誘導タンパク質;αアミラーゼ1;Igκ鎖V-III領域SIE;Igα-2鎖C領域;未同定タンパク質c6orf58;およびセルピンB3。
【0032】
本書で使用される場合、「多孔質」または「多孔性」とは、低石灰化または脱灰された歯科ハイドロキシアパタイトを言う。「多孔性」の上昇は、ミネラル濃度の程度の減少によるものであり、それによってミネラル結晶間の空間が増加する。
【0033】
本書で使用される場合、「低石灰化」とは、歯のエナメル質の不完全な発育を言い、それによってミネラル濃度が減少し(エナメル質の多孔性が増加し)、機械的強度が低下する。「低石灰化」は、歯の発育の遺伝的中断(例えばエナメル質形成不全症)または後天的中断(例えばMIH、フッ素症)によって起こる。「低石灰化」は「脱灰」とは異なり、例えばう蝕において起こる。う蝕において、発育的に正常(または異常)なエナメル質は、その後脱灰される。「脱灰」は「低石灰化」とは異なり、発育が中断されたため、正常のミネラル濃度に達しなかったエナメル質を言う。
【0034】
本書で使用される場合、「再石灰化」とは、ミネラルが歯の分子構造に戻ることを言う。歯の主要なミネラルはハイドロキシアパタイトである。いくつかの再石灰化過程において、ヒドロキシル基はフルオロ基と置換してフルオロアパタイトを生成し、これはハイドロキシアパタイトよりも耐酸性が高い。
【0035】
本書で使用される場合、「治療的石灰化」とは、DDD(即ち、不完全な石灰化によって起こる多孔質ハイドロキシアパタイト)に対する再石灰化療法の使用を言う。「再石灰化」という用語の使用は、DDDに関しては、多孔質ハイドロキシアパタイトが脱灰によって起こったものではないため、不適当である。
【0036】
本書で使用される場合、「う蝕」または「虫歯」とは、酸、特に感染菌によって産生される酸による、歯のエナメル質および象牙質の減少または欠損を言う。「う蝕」は、脱灰の過程によって規定され、早期発見された場合、再石灰化法で治る可能性がある。
【0037】
本書で使用される場合、「多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに関連する症状」としては、歯科う蝕、臼歯/切歯低石灰化(MIH)、エナメル質形成不全症、歯のフッ素症および、低石灰化エナメル質(即ち広範性混濁または境界の明瞭な混濁)として現れる他のDDDが挙げられる。
【0038】
本書で使用される場合、「臼歯/切歯低石灰化」または「MIH」とは、通常第一臼歯および切歯の、それぞれ咬合または切縁部で、不完全に硬化(低石灰化)したエナメル質となる、DDDを言う。
【0039】
MIHおよびフッ素症は両者とも、表面下の多孔性を特徴とし、一方、活性う蝕は多孔質表面を有し得る(不活性う蝕は、再石灰化によるシールド表面を形成し得る)。
【0040】
本書で使用される場合、「さらされた」エナメル質とは、その保護表面層の欠損のため、露出された表面下の組織を言う。「さらされた」エナメル質は、正常または多孔質であってもよく;MIHに罹っていない歯の表面破壊の多数の例、またはその問題のあらゆる他の症状がある(例として、それ以外では、正常の歯が、硬いものを噛んだ際に破砕し得る)。
【0041】
本書で使用される場合、「結合する」「結合している」または「結合した」とは、ハイドロキシアパタイトに関連するタンパク質を拘束する、タンパク質とハイドロキシアパタイトとの間の化学的相互作用を言う。この相互作用は、イオン性、共有結合性、非共有結合性、極性または非極性であってもよい。
【0042】
本書で使用される場合、「ディテクタ」という用語は、本書に開示されたタンパク質と特異的に相互作用し、相互作用に応答する作用を産生する、あらゆる化学的、生化学的または生物学的物質を言う。例えば、応答は着色したレポーターの視覚化、従ってタンパク質の視覚化であってもよい。「ディテクタ」は「レポーター」または抗体を含んでもよい。
【0043】
「検出する」または「検出している」という用語は、ディテクタからの応答を同定することを言う。
【0044】
第一の側面のキットの一つの態様では、ディテクタは着色したレポーターを含む。第二の側面のプローブにおいて、ディテクタはレポーターである。プローブの一つの態様では、レポーターは着色したレポーターを含む。ディテクタが着色したレポーターを含む場合、着色したレポーターを検出することは、着色したレポーター、従って関心のあるタンパク質を可視化することを含むであろう。或いは、レポーターは、放射線不透過性であってもよい。
【0045】
本書で使用される場合、「プローブ」という用語は、本書に開示されたタンパク質等の、多孔質エナメル質に浸透し得、ハイドロキシアパタイトに特異的かつ堅く結合し得、結合に際して、そのような結合を検出することができる、作用物質を言う。換言すれば、プローブは、特異的な「ハイドロキシアパタイトを標的とする」分子を含む。「プローブ」は、本書で開示された通りのタンパク質およびレポーターを含む。本開示によれば、「プローブ」は抗体でなくともよい。
【0046】
同様に、「特異的」または「特異的に」という用語は、一つの物質が特定の第二の物質に結合し、いずれの他の物質にも実質的に結合しない、結合を言う。このような結合は、非特異的相互作用との違いが測定可能である。特異的結合は、例えば、対照分子の結合と比較して分子の結合を定量することによって測定され得るが、対照分子は、一般に、結合活性を有しない類似構造の分子である。例えば、特異的結合は、標的に類似した対照分子との競合によって定量し得、対照分子は、例えば過剰量の非標識化標的である。この場合、標識化標的のプローブに対する結合が、過剰の非標識化標的によって競合的に阻害される場合に、特異的結合が示唆される。本書で使用される場合、「特異的」または「特異的に」結合することは、(i)タンパク質の、ハイドロキシアパタイトへの特異的な結合、(ii)ディテクタの、タンパク質への特異的な結合、または(iii)レポーターの、ディテクタまたはタンパク質への特異的な結合を言うことがある。
【0047】
特に、特異的結合は、Kdが非特異的標的のKdより、少なくとも2倍少ない物質を言い、例えば、Kdが非特異的標的のKdより少なくとも4倍、6倍、8倍、10倍、または10倍を超えて少ない物質を言う。或いは、特異的結合は、標的に対するKdが最大約10-4Mである分子として表し得、例えば約10-5M、約10-6M、約10-7M、約10-8M、約10-9M、約10-10M、約10-11M、約10-12M、またはより少ない分子として表し得る。
【0048】
第一の側面のキットの一つの態様では、ディテクタはレポーターを含む。
【0049】
その場で使用する場合、ディテクタまたはプローブは、対象に対して非毒性である。
【0050】
本書で使用される場合、「レポーター」とは、検出可能な効果を産生する、あらゆる化学的、生化学的または生物学的物質を言う。「レポーター」は、ディテクタまたはタンパク質に、特異的に結合するか、連結してもよい。レポーターは、高親和性で非共有結合のビオチン−ストレプトアビジン結合に使用されるため、ビオチンまたはストレプトアビジンを含んでもよい。レポーターは、別の高親和性の非共有結合を利用してもよい。
【0051】
第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブの一つの態様では、レポーターは着色したレポーターであってもよい。第一または第二の側面の他の態様では、レポーターは、色素、または発光性(蛍光性またはりん光性を含む)、放射性、化学発光性物質、酵素、またはX線造影分子であってもよい。X線造影分子(例えば5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸;3I)を含むレポーターは、従来の臨床X線撮影装置を使用して、初期段階の隣接歯間う蝕の高感度の検出(現行法の大きな課題)に有用である。
【0052】
本書で使用される場合、「着色したレポーター」という用語は、可視光のある波長を選択的に吸収する、あらゆる着色した物質を言う。
【0053】
従って、レポーターが着色したレポーターである場合、検出可能な効果は色の可視化である。
【0054】
着色したレポーターは、タンパク質への連結、カップリングまたは結合の影響を受け易く、同時に、着色したレポーターとして、その特性を維持する、あらゆる着色した物質であってもよい。第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブの一つの態様において、着色したレポーターはアミドブラックである。一例では、プローブは、着色したレポーターに連結またはカップリングしたタンパク質(即ちヒドロキシアパタイト結合タンパク質)を含む。表1のいずれのタンパク質も、着色したレポーターに連結またはカップリングしてもよく、着色したレポーターが多孔質ハイドロキシアパタイトを標的にするように機能してもよい。一例では、タンパク質はヘモグロビンである。従って、一例では、プローブは、アミドブラックに連結したヘモグロビンを含む。
【0055】
本書で開示したように、例えばヘモグロビンであるタンパク質を含むプローブは、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに累積的に吸着する。プローブは、他のタンパク質の存在下で、ハイドロキシアパタイトに競合的に結合するであろうが、これは、より低い親和性を有するあらゆる種をハイドロキシアパタイトに置換することが可能であるからである。このようなプローブは、アミドブラックまたは3Iを含んでもよい。
【0056】
着色したレポーターは、当業者が知っているであろう所望の特性に基づいて、以下の群から選択してもよい:アセチルイエロー(ファーストイエロー);アシッドブラック1(アミドブラック10B);アシッドブルー22(ウォーターブルーI);アシッドブルー93(メチルブルー);アシッドフクシン(酸性フクシン);アシッドグリーン(ライトグリーンSF黄味);アシッドグリーン1(ナフトールグリーンB);アシッドグリーン5(ライトグリーンSF黄味);アシッドマゼンタ(酸性フクシン);アシッドオレンジ10(オレンジG);アシッドレッド4(アゾエオシン);アシッドレッド26(キシリジンポンソー);アシッドレッド29(クロモトロープ2R);アシッドレッド44(ポンソー6R);アシッドレッド51(エリスロシンB);アシッドレッド52(リッサミンローダミンB);アシッドレッド66(ビエブリッチスカーレット);アシッドレッド73(ウッドステインスカーレット);アシッドレッド87(エオシンY ws);アシッドレッド91(エオシンB);アシッドレッド92(フロキシンB);アシッドレッド94(ローズベンガル);アシッドレッド101(アゾカーミンG);アシッドレッド103(アゾカーミンB);アシッドロゼイン(酸性フクシン);アシッドルビン(酸性フクシン);アシッドバイオレット19(酸性フクシン);アシッドイレロー1(ナフトールイエローS);アシッドイエロー7(リッサミン・フラビンFF);アシッドイエロー9(ファーストイエロー);アシッドイエロー23(タルトラジン);アシッドイエロー24(マルティウス(Martius)イエロー);アシッドイエロー36(メタニルイエロー);アシッドイエロー73(フルオレセイン);アシッドイエロー85(クマシーファーストイエローG);アシッドイエローS(ナフトールイエローS);アシッドイエローT(タルトラジン);アクリジンオレンジ(アクリジンオレンジ);アクリジンレッド(アクリジンレッド);アクリフラビン(アクリフラビン);アルシアンブルー(アルシアンブルー8GX);アルシアンイエロー(アルシアンイエロー);アルコール可溶性エオシン(エチルエオシン);アリザリン(アリザリン);アリザリンブルー(アリザリンブルー);アリザリンブルー2RC(アントラセンブルーSWR);アリザリンカーマイン(アリザリンレッドS);アリザリンシアニンBBS(アリザリンシアニンBBS);アリザロールシアニンR(クロモキサンシアニンR);アリザリンレッドS(アリザリンレッドS);アリザリンプルプリン(プルプリン);アルカリブルー4B、5B(アルカリブルー5B);アルミノン(クロムバイオレットCG);アミドブラック10B(アミドブラク10B);アミドナフトールレッド(アゾフロキシン);アミドシュワルツ(アミドブラック10B);アニリンブルーWS(アニリンブルーWS);アニリンパープル(モーベイン);アントラセンブルーSWR(アントラセンブルーSWR);アントラセンブルーSWX(アリザリンシアニンBBS);オーラミンO(オーラミンO);アゾエオシン(アゾエオシン);アゾカーマインB(アゾカーマインB);アゾカーマインG(アゾカーマインB);アゾエオシンG(アゾエオシン);アゾイックジアゾ5(ファーストレッドB);アゾイックジアゾ48(ファーストブルーB);アゾフロキシン(アゾフロキシン);アゾバンブルー(エバンスブルー);アズールA(アズールA);アズールB(アズールB);アズールC(アズールC);ベーシックブルー8(ビクトリアブルー4R);ベーシックブルー9(メチレンブルー);ベーシックブルー12(ナイルブルーA);ベーシックブルー15(ナイトブルー);ベーシックブルー17(トルイジンブルーO);ベーシックブルー20(メチルグリーン);ベーシックブルー26(ビクトリアブルーB);ベーシックブラウン1(ビスマルクブラウンY);ベーシックフクシン(塩基性フクシン);ベーシックグリーン4(マラカイトグリーン);ベーシックグリーン5(メチレングリーン);ベーシックオレンジ14(アクリジンオレンジ);ベーシックレッド2(サフラニンO);ベーシックレッド5(ニュートラルレッド);ベーシックレッド9(パラローザニリン);ベーシックバイオレット2(ニューフクシン);ベーシックバイオレット3(クリスタルバイオレット);ベーシックバイオレット4(エチルバイオレット);ベーシックバイオレット10(ローダミンB);ベーシックバイオレット14(ローザニリン);ベーシックイエロー1(チオフラビンT);ベーシックイエロー2(オーラミンO);ビーブリッヒスカーレット(ビーブリッヒスカーレット);ビーブリッヒスカーレットR(スーダンIV);ビスマルクブラウンY(ビスマルクブラウンY);ブラウシュワルツ(ナフタレンブルーブラックCS);ブラジレイン(ブラジレイン);ブラジリン(ブラジリン);ブリリアントクロセイン(ウッドステインスカーレット);ブリリアントクリスタルスカーレット6R(ポンソー6R);ブリリアントグリーン(ブリリアントグリーン);カルシウムレッド(ヌクレアファーストレッド);カーマイン(カーマイン);カルミン酸(カーマイン);カルモイシン6R(クロモトロープ2R);セレスチンブルーB(セレスチンブルーB);チャイナブルー(アニリンブルー);クロラチンファートレッド5B(シリウスレッド4B);シカゴブルー4B(ポンタミンスカイブルー5B);クロムファーストイエロー8GL(クロムファーストイエロー8GL);クロムルキシン(luxine)イエロー8G(クロムファーストイエロー8GL);クロムバイオレットCG(クロムバイオレットCG);クロモトロープ2R(クロモトロープ2R);クロモキサン(Chromoxane)シアニンR(クロモキサンシアニンR);コチニール(カーマイン);コエレスチン(Coelestine)ブルー(セレスチンブルーB);コンゴコリント(corinth)(コンゴコリント);コンゴレッド(コンゴレッド);クマシーファーストイエローG(クマシーファーストイエローG);コットンブルー(メチルブルー);コットンレッド(コンゴレッド);クロセインスカーレット(ビーブリッヒスカーレット);クロセインスカーレット3B(ウッドステインスカーレット);クロセインスカーレットMOO(ウッドステインスカーレット);クロシン(サフラン);クリスタルポンソー6R(ポンソー6R);クリスタルスカーレット(ポンソー6R);クリスタルバイオレット(クリスタルバイオレット);ダリア(ホフマンズバイオレット);ダイアモンドグリーンB(マラカイトグリーン);ダイレクトブルー14(トリパンブルー);ダイレクトブルー58(エバンスブルー);ダイレクトレッド(コンゴレッド);ダイレクトレッド10(コンゴコリント);ダイレクトレッド28(コンゴレッド);ダイレクトレッド80(シリウスレッドF3B);ダイレクトレッド81(シリウスレッド4B);ダイレクトイエロー7(チオフラビンS);ダイレクトイエロー11(サンイエロー);デュラゾールブルー4R(デュラゾールブルー4R);デュラゾールブルー8G(デュラゾールブルー8G);エオシンB(エオシンB);エオシンブルー(エオシンB);エオシン(エオシンY ws);エオシンY(エオシンY ws);エオシンイエロー(エオシンY ws);エオシノール(Eosinol)(エオシノール);エリー(Erie)ガーネットB(コンゴコリント);エリオクロムシアニンR(クロモキサンシアニンR);エリスロシンB(エリスロシンB);エチルエオシン(エチルエオシン);エチルグリーン(エチルグリーン);エチルバイオレット(エチルバイオレット);エバンスブルー(エバンスブルー);ファーストブルーB(ファーストブルーB);ファーストグリーンFCF(ファーストグリーンFCF);ファーストレッドB(ファーストレッドB);ファーストイエロー(ファーストイエロー);ファーストイエローエクストラ(ファーストイエロー);ファーストイエローG(ファーストイエロー);ファーストブラックHB(スーダンブラックB);フルオレセイン(フルオレセイン);食用緑色3号(ファーストグリーンFCF);ガレイン(ガレイン);ガラミンブルー(ガラミンブルー);ガロシアニン(ガロシアニン);ゲンチアナバイオレット(メチルバイオレット2B);ギニアグリーン(ギニアグリーンB);ヘマテイン(Haematein)(ヘマテイン);ヘマチン(Haematine)(ヘマテイン);ヘマトキシリン(Haematoxylin)(ヘマトキシリン);ヘリオファーストルビンBBL(ヌクレアファーストレッド);ヘルベチアブルー(メチルブルー);ヘマテイン(Hematein);ヘマチン(Hematine)(ヘマテイン);ヘマトキシリン(Hematoxylin)(ヘマトキシリン);ホフマンズバイオレット(ホフマンズバイオレット);ヒドラジンイエロー(タルトラジン);インディゴカーマイン(インディゴカーマイン);インペリアルレッド(エオシンB);イングレインブルー1(アルシアンブルー8GX);イングレインイエロー1(アルシアンイエロー);INT(ヨードニトロテトラゾリウム);イオジングリーン(イオジングリーン);ケルメス(ケルメス);ケルメス酸(ケルメス);ケルネヒトロート(ヌクレアファーストレッド);キトンローダミンB(リッサミンローダミンB);Lac(ラッカイン酸);ラッカイン酸(ラッカイン酸);ラウスバイオレット(チオニン);ライトグリーン(ライトグリーンSF黄味);リッサミンファーストイエロー(リッサミンファーストイエロー);リッサミンフラビンFF(リッサミンフラビンFF);リッサミングリーンSF(ライトグリーンSF黄味);リッサミンローダミンB(リッサミンローダミンB);ルキシン(Luxine)ピュアイエロー6G(クロムファーストイエロー8GL);ルクソールファーストブルー(ルクソールファーストブルーMBS);マゼンタ0(パラローザニリン);マゼンタI(ローザニリン);マゼンタII(マゼンタII);マゼンタIII(ニューフクシン);マラカイトグリーン(マラカイトグリーン);マンチェスターブラウン(ビスマルクブラウンY);マルチウスイエロー(マルチウスイエロー);モーブ(モーベイン);モーベイン(モーベイン);メルブロミン(マーキュロクロム220);マーキュロクロム(マーキュロクロム220);メタニルイエロー(メタニルイエロー);メチルブルー(メチルブルー);メチルグリーン(メチルグリーン);メチルバイオレット(メチルバイオレット2B);メチルバイオレット2B(メチルバイオレット2B);メチルバイオレット10B(クリスタルバイオレット);メチレンアズールA(アズールA);メチレンアズールB(アズールB);メチレンアズールC(アズールC);メチレンブルー(メチレンブルー);メチレングリーン(メチレングリーン);ミリングイエロー3G(ミリングイエロー3G);モルダントブルー3(クロモキサンシアニンR);モルダントブルー10(ガロシアニン);モルダントブルー14(セレスチンブルーB);モルダントブルー23(アリザリンシアニンBBS);モルダントブルー32(アントラセンブルーSWR);モルダントブルー45(ガラミンブルー);モルダントレッド3(アリザリンレッドS);モルダントレッド11(アリザリン);モルダントバイオレット25(ガレイン);モルダントバイオレット39(クロムバイオレットCG);モルダントイエロー33(クロムファーストイエロー8GL);ナフタレンブルーブラック(ナフタレンブルーブラックCS);ナフトールブルーブラック(アミドブラック10B);ナフトールグリーンB(ナフトールグリーンB);ナフトールイエローS(ナフトールイエローS);ナチュラルブラック1(ヘマテイン);ナチュラルレッド(プルプリン);ナチュラルレッド3(ケルメス);ナチュラルレッド4(カーマイン);ナチュラルレッド8(プルプリン);ナチュラルレッド16(プルプリン);ナチュラルレッド24(ブラジリン);ナチュラルレッド25(ラッカイン酸);ナチュラルレッド28(オルセイン);ナチュラルイエロー6(サフラン);NBT(ニトロブルーテトラゾリウム);ニュートラルレッド(ニュートラルレッド);ニューフクシン(ニューフクシン);ナイアガラブルー3B(トリパンブルー);ナイトブルー(ナイトブルー);ナイルブルー(ナイルブルーA);ナイルブルーA(ナイルブルーA);硫酸ナイルブルー(ナイルブルーA);ナイルレッド(ナイルレッド);ニトロBT(ニトロブルーテトラゾリウム);ニトロブルーテトラゾリウム(ニトロブルーテトラゾリウム);ヌク



レアファーストレッド(ヌクレアファーストレッド);オイルレッドO(オイルレッドO);オレンジG(オレンジG);オルセイン(オルセイン);パラローザニリン(パラローザニリン);パーキンスバイオレット(モーベイン);フロキシンB(フロキシンB);ピクリン酸(ピクリン酸);ポンソー2R(キシリジンポンソー);ポンソー6R(ポンソー6R);ポンソーB(ビーブリッヒスカーレット);ポンソー・デ・キシリジン(キシリジンポンソー);ポンソーS(ポンソーS);ポンタミンスカイブルー5B(ポンタミンスカイブルー5B);プリムラ(ホフマンズバイオレット);プリムリン(プリムリン);プルプリン(プルプリン);ピロニンB(ピロニンB);ピロニンG(ピロニンY);ピロニンY(ピロニンY);ローダミンB(ローダミンB);ローザニリン(ローザニリン);ローズベンガル(ローズベンガル);サフラン(サフラン);サフラニンO(サフラニンO);スカーレットR(スーダンIV);スカーレットレッド(スーダンIV);シャールラッハ(Scharlach)R(スーダンIV);シェラック(ラッカイン酸);シリウスレッドF3B(シリウスレッドF3B);シリウスレッド4B(シリウスレッド4B);シリウススープラブルーF3R(デュラゾールブルー4R);ソロクロムシアニンR(クロモキサンシアニンR);ソリュブルブルー(アニリンブルー);ソルベントブラック3(スーダンブラックB);ソルベントブルー38(ルクソールファーストブルーMBS);ソルベントレッド23(スーダンIII);ソルベントレッド24(スーダンIV);ソルベントレッド27(オイルレッドO);ソルベントレッド45(エチルエオシン);ソルベントイエロー94(フルオレセイン);スピリットソリュブルエオシン(エチルエオシン);スーダンIII(スーダンIII);スーダンIV(スーダンIV);スーダンブラックB(スーダンブラックB);スーダンレッドBK(スーダンIII);サルファーイエローS(ナフトールイエローS);スルホローダミンB(リッサミンローダミンB);サンイエロー(サンイエロー);スイスブルー(メチレンブルー);タルトラジン(タルトラジン);チオフラビンS(チオフラビンS);チオフラビンT(チオフラビンT);チオニン(チオニン);トルイジンブルー(トルイジンブルーO);トルイリン(Toluyline)レッド(ニュートラルレッド);トロペオリンG(メタニルイエロー);トリパフラビン(アクリフラビン);トリパンブルー(トリパンブルー);ウラニン(フルオレセイン);ビクトリアブルー4R(ビクトリアブルー4R);ビクトリアブルーB(ビクトリアブルーB);ビクトリアブルーR(ビクトリアブルーR);ビクトリアグリーンB(マラカイトグリーン);ウォーターブルーI(ウォーターブルーI);水溶性エオシン(エオシンY ws);ウッドステインスカーレット(ウッドステインスカーレット);キシレンレッドB(リッサミンローダミンB);キシリジンポンソー(キシリジンポンソー);および黄味エオシン(エオシンY ws)。当業者が考える所望の特徴としては、例えば、本開示で使用されるタンパク質および/またはリンカーとの適合性、非毒性、および多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合するタンパク質の維持管理が挙げられる。
【0057】
第一〜第五または第七〜第九の側面の代わりの態様では、タンパク質は、表1の例に列挙されないが、当業者にはハイドロキシアパタイトに結合することが知られており、例えばオステオカルシンまたはデコリンである。デコリンに由来するロイシンリッチの繰り返しドメイン4-5を使用することにより、象牙質の多孔質ハイドロキシアパタイトに対する特異的な標的化メカニズムが提供される。
【0058】
或いは、第一〜第五または第七〜第九の側面の態様では、タンパク質は、ペプチドまたはタンパク質断片が多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合する能力を保持する場合、ペプチドまたはタンパク質断片であってもよい。
【0059】
或いは、当業者は、ハイドロキシアパタイトに結合し得る低分子(またはそのポリマー)、例えばテトラサイクリンまたはアミノビスホスホネートであって、微小多孔質領域に浸透する能力および安定性(例えば製品の品質保持期間)に関して、より有用である可能性があるものを知っているであろう。アミノビスホスホネートは、う蝕を検出および線引きするのに好適な品質を有する化合物(多孔質エナメル質表面に浸透し、脱灰したエナメル質に強く結合する、小さく、高親和性のプローブ)を生産するかもしれない。
【0060】
第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブのいくつかの態様において、ディテクタまたはプローブは、レポーターに連結するリンカーおよびディテクタまたはタンパク質をさらに含む。リンカーは、ヘテロ二官能性架橋剤あってもよい。例えば、ヘテロ二官能性リンカーは、スクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサンカルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)であってもよい。本開示に関連して使用してもよい、連結剤の他の例としては、スクシンイミジル-6-[β-マレイミドプロピオンアミド]ヘキサノエート(SMPH)、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸(NHS-ASA)、およびN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)が挙げられる。
【0061】
他のタイプの分子をリンカーとして使用してもよい。例えば、ビオチン−ストレプトアビジン等の高親和性の非共有結合もまた、本書で検討される。
【0062】
当業者は、このアプローチの順応性をさらに上げる、様々な反応性化学およびスペーサーアームの長さが利用可能な、多数の架橋剤を知っているであろう。
【0063】
第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブの一つの態様では、レポーターおよびタンパク質は、既に連結して提供されてもよい。或いは、レポーターおよびタンパク質は、その後の連結のために別々に提供されてもよい。キットまたはプローブは、リンカーを含んでもよい。キットまたはプローブのタンパク質、レポーターおよびリンカーは、あらゆる可能な組み合わせで示されてもよい。例えば、レポーターおよびタンパク質がリンカーで連結している場合、プローブは「レディ・トゥ・ユース」であってもよく、即ち、3つの要素が連結していてもよい。或いは、タンパク質およびリンカーは、連結し、レポーターに別々に提供されてもよい。或いは、リンカーおよびレポーターは、連結し、タンパク質に別々に提供されてもよい。或いは、タンパク質、レポーターおよびリンカーは、別々の成分として提供されてもよい。第一の側面の一つの態様では、キットはレポーターとリンカーを含むが、タンパク質を含まないであろう。
【0064】
第一の側面のキットのある態様では、ディテクタは、タンパク質に特異的に結合する抗体を含む。別の態様では、ディテクタは、高親和性で非共有結合のビオチン−ストレプトアビジン結合に使用するため、ビオチンまたはストレプトアビジンを含んでもよい。ディテクタは、別の高親和性で非共有結合を利用してもよい。例えば、ディテクタは、ペプチド系タンパク質リガンド等の、抗体代替物を含んでもよい。当業界で知られているペプチド系タンパク質リガンドは、シンボディである。
【0065】
「抗体」という用語は最も広範な意味に使用され、具体的には、所望の生物学的または免疫学的活性を示す場合、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(アンタゴニストおよび中和抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、単鎖抗体、および抗体断片に及ぶ。抗体は、結合抗体、または当業者に知られているあらゆる他のタイプの抗体であってもよい。
【0066】
抗体は、当業者に知られているあらゆる方法で検出してもよい。一次抗体はレポーターを含んでもよい。或いは、一次抗体を標的とする二次抗体がレポーターを含んでもよい。
【0067】
抗体は、以下の群から選択されるタンパク質に特異的に結合する、当業者に知られているあらゆる抗体であってもよい:血清アルブミン;補体C3 β鎖;α1-アンチトリプシン;プロテインS100-A9;ラクトトランスフェリン;白血球エラスターゼインヒビター;アンチトロンビンIII;ヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδ;プロラクチン誘導タンパク質;αアミラーゼ1;Igκ鎖V-III領域SIE;Igα-2鎖C領域;未同定タンパク質c6orf58;およびセルピンB3。一つの態様では、抗体はアメロゲニンに特異的に結合してもよい。
【0068】
第一の側面のキットの一つの態様では、抗血清アルブミンモノクローナル抗体は、以下の群から選択されてもよい:AL-01;1.B.731;1A9;6B11;OCH1E5;1C8;1G2;2B2;2B3;2B6;14E7;15C7;Alb1;および、製品コードがsc-70340であるマウスモノクローナルIgG1抗体(サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotechnology Inc.))。一つの態様では、抗補体C3 β鎖モノクローナル抗体は、クローン755であってもよい。別の態様では、補体C3 β鎖と交差反応する抗ヒトC3モノクローナル抗体を使用してもよく、これはクローン11H9であってもよい。一つの態様では、抗α1-アンチトリプシンモノクローナル抗体は、以下の群:5B12;703;704;8A0;B9;およびG11から選択されてもよい。一つの態様では、抗プロテインS100-A9モノクローナル抗体は、以下の群:0.N.390A;47-8D3;NO.134;NO.19;およびS32.2から選択されてもよい。一つの態様では、抗ラクトトランスフェリンモノクローナル抗体は、以下の群:1C6;2B8;B97;CLB-13.17;および1A1から選択されてもよい。一つの態様では、抗アンチトロンビンIIIモノクローナル抗体は、4B3またはBDI205であってもよい。一つの態様では、抗ヘモグロビンサブユニットα抗体は、製品コードがsc-70340(サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー社)であるヤギモノクローナルIgG抗体であってもよい。一つの態様では、抗ヘモグロビンサブユニットβ抗体は、製品コードがsc-21757(サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー社)であるマウスモノクローナルIgG1抗体であってもよい。一つの態様では、抗Igα-2鎖C領域モノクローナル抗体は、クローン14AS(また抗ヒトIgA2とも言う)であってもよい。一つの態様では、抗アメロゲニンX抗体は、製品コードがsc-32892(サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー社)であるウサギポリクローナルIgG抗体であってもよい。当業者は、他の好適な抗体が入手可能であることを理解するであろう。
【0069】
第一、第二または第四の側面の、キット、プローブまたは方法の一つの態様では、第一のタンパク質は、以下の群:血清アルブミン;補体C3 β鎖;α1-アンチトリプシン;プロテインS100-A9;ラクトトランスフェリン;白血球エラスターゼインヒビター;アンチトロンビンIII;ヘモグロビンサブユニットα;ヘモグロビンサブユニットβ;ヘモグロビンサブユニットδ;プロラクチン誘導タンパク質;αアミラーゼ1;Igκ鎖V-III領域SIE;Igα-2鎖C領域;未同定タンパク質c6orf58;およびセルピンB3から選択され、検出されてもよく、かつ、第二のタンパク質が検出されてもよく、ここで第二のタンパク質はアメロゲニンである。従って、第一の側面のキットも、アメロゲニンを検出する第二のディテクタを含んでもよい。第二のディテクタは抗アメロゲニン抗体であってもよい。
【0070】
或いは、検出は、免疫検出、クロマトグラフィー、電気泳動、質量分析、または顕微鏡法を含んでもよい。免疫検出は、例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、ウエスタンブロット、ドットブロット、スロットブロット、またはフローサイトメトリーを含んでもよい。顕微鏡法は、例えば、共焦点レーザー、蛍光または電子顕微鏡法を含んでもよい。
【0071】
ディテクタまたはプローブは、例えば、液体、ゲル、カプセル、錠剤、水溶液、水性または油性懸濁液、ドロップ、トローチ、粉、顆粒、乳液、シロップまたはエリキシル中など、種々の方法で適用してもよい。
【0072】
第一の側面のキットまたは第二の側面のプローブの一つの態様では、ディテクタまたはプローブは、ディテクタまたはプローブが溶解、懸濁または乳化される、溶媒を含む。溶媒は、医薬品または産業等に一般に使用されるものであってもよい。例としては、水、エタノール、n-プロパノール、2-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチエルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、アセトン、およびジメトキシエタンが挙げられる。
【0073】
いくつかの態様において、溶媒は、水、エタノール、グリセリン、イソブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、アセトン、またはプロピレングリコールを含み、これらはヒトに適合する。
【0074】
一つの溶媒を単独で使用してもよく、2以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0075】
ディテクタは、増粘剤を配合して、その粘度を約50〜約2,000 mPa・sに高めてもよく、例えば100、200、300、400、500、750、1000、1250、1500、または1750 mPa・s(25℃)に高めてもよく、それによりゲルを形成する。ゲル形態では、歯ブラシでディテクタを適用することにより、歯の清浄とディテクタの適用が同時に可能になる。
【0076】
使用してもよい増粘剤の例としては:アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、リン酸スターチナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびポリビニルピロリドン等の合成添加剤;グアーガム、イナゴマメガム、タラガム、タマリンドシードガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、カラヤゴム、アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、キチン、キトサン、およびキトサミン等の天然増粘剤;および炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、シリカパウダー、非晶質含水ケイ酸塩、および疎水性シリカ等の無機増粘剤が挙げられる。
【0077】
約50〜約2,000 mPa・sの範囲内の粘度を得るために、増粘剤の種類によって、増粘剤の配合量は変化する。例えば、増粘効果が大きいカルボキシメチルセルロースナトリウムの場合、配合量は約0.5〜4重量%であってもよく、メチルセルロースの場合は、配合量は約10〜30重量%であってもよい。
【0078】
さらに、ディテクタまたはプローブは、甘味料、香味料、および保存料等の添加剤を含んでもよい。好適な甘味料としては、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが挙げられる。好適な香味料としては、ペパーミント油、ウィンターグリーン油、チェリー、オレンジまたはラズベリー香味料が挙げられる。好適な保存料としては、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。好適な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが挙げられる。好適な崩壊剤としては、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天が挙げられる。錠剤は、ディテクタを、錠剤の製造に好適な非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に含有してもよい。
【0079】
別の態様では、第一の側面のキットは、1以上の洗浄液をさらに含む。
【0080】
第七または第九の側面のキットは、1以上の洗浄液を含む。
【0081】
第一、第七または第九の側面のキットの洗浄液は、多孔質ハイドロキシアパタイトに特異的に結合していない、即ち脱着しない、あらゆるタンパク質を除去するための溶液を含んでもよい。例えば、ハイドロキシアパタイトに結合しているタンパク質を脱着しない洗浄液は、水、生理食塩水、トリス緩衝液、またはマイルドな洗浄剤等であってもよい。口腔は、ハイドロキシアパタイトに結合する多くのタンパク質を含む、大量のタンパク質を含有するため、洗浄液は、ディテクタの適用の前に、ハイドロキシアパタイトに非特異的に結合するタンパク質を、歯またはそのサンプルから除去することが可能である。
【0082】
第一、第七または第九の側面のキットの他の態様では、洗浄液は、マグネシウムイオン(Mg2+)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、リン酸水素イオン(HPO42-)、またはリン酸イオン(PO43-)(総称して「PO4」)を含むか、または、それぞれがマグネシウムイオン(Mg2+)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、リン酸水素イオン(HPO42-)、またはリン酸イオン(PO43-)を含んでもよい、連続的に投与可能な複数の洗浄液を含んでもよい。その場で適用された場合に非毒性であるならば、あらゆる溶解性マグネシウム塩を使用してもよく、あらゆる溶解性リン酸二水素塩、リン酸水素イオン(HPO42-)、またはリン酸塩を使用してもよい。一つの態様では、洗浄液は、塩化マグネシウムまたはリン酸二水素ナトリウムを含む。当業者は、ハイドロキシアパタイトからタンパク質を脱着する能力のある他の洗浄液が利用可能であることを理解するであろう。
【0083】
洗浄液は、次亜塩素酸(HOCl)、次亜塩素酸塩(NaOCl)または次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)(総称として「漂白剤」)を含んでもよい。
【0084】
洗浄液は、すぐに使用できるように提供されてもよい。或いは、洗浄液は、水で希釈して洗浄液を調製する濃縮物として提供されてもよい。或いは、洗浄液は、水と混合して洗浄液を調製する、1以上の乾燥成分として提供されてもよい。
【0085】
洗浄液は、1mM未満、約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mMまたは10mMを超えるマグネシウムイオンを含んでもよい。洗浄液は、0.1M未満、約0.1M、約0.5M、約0.6M、約0.7M、約0.8M、約0.9M、約1M、約1.1M、約1.2M、約1.3M、約1.4M、約1.5M、約2M、約10Mまたは10Mを超えるマグネシウムイオンを含んでもよい。洗浄液は、0.04M未満、約0.04M、約0.08M、約0.09M、約0.1M、約0.2M、約0.3M、約0.4M、約0.5M、約0.6M、約0.7M、約0.8M、約0.9M、約1M、約1.5M、約2M、約4M、または4Mを超えるリン酸二水素イオン、リン酸水素イオンまたはリン酸イオンを含んでもよい。
【0086】
洗浄液は、約10%の漂白剤(約0.4%の-OCl)、ストレートまたは非希釈の漂白剤(約4%の-OCl)を含んでもよく、または、約20%(約0.8%の-OCl)、約30%(約1.2%の-OCl)、約40%(約1.6%の-OCl)、約50%(約2.0%の-OCl)、約60%(約2.4%の-OCl)、約70%(約2.8%の-OCl)、約80%(約3.2%の-OCl)、約90%(約3.6%の-OCl)または約95%の漂白剤(約3.8%の-OCl)を含んでもよい。
【0087】
あらゆる特定の理論に拘束されることを望まないが、マグネシウムおよび/またはリン酸の段階的な濃度勾配を有する複数の洗浄液を提供することにより、単一濃度のマグネシウム溶液よりも多くのタンパク質が除去されると考えられる。漂白剤(-OCl)は、ハイドロキシアパタイトから結合しているタンパク質を非特異的に剥ぎ取ると考えられる。
【0088】
従って、第一、第七または第九の側面のキットの一つの態様では、1以上の洗浄液、または複数の洗浄液は、約5mMの塩化マグネシウム液、約1Mの塩化マグネシウム、および/または約0.4Mのリン酸二水素ナトリウムの溶液を含んでもよい。
【0089】
1以上(複数)の洗浄液を適用する場合、洗浄液はあらゆる順番で適用してもよい。或いは、1以上(複数)の洗浄液を適用する場合、洗浄液は、低マグネシウム濃度(例えば5mM)、高マグネシウム濃度(例えば1M)、リン酸二水素塩(例えば0.4M;またはリン酸水素塩またはリン酸塩)の順で連続して適用してもよい。或いは、洗浄液は、マグネシウムとリン酸塩を組み合わせて含んでもよく、例えば、約1Mのマグネシウム濃度と0.4Mのリン酸二水素塩、リン酸水素塩またはリン酸塩を組み合わせて含んでもよい。
【0090】
洗浄は、検出前、または検出後、または検出の前後に行ってもよい。
【0091】
本書で使用される場合、「除去する」または「除去」とは、ハイドロキシアパタイトに結合したタンパク質の濃度の減少を言う。
【0092】
本書で使用される場合、「サンプル」とは、多孔質ハイドロキシアパタイトの検出または診断に使用される歯の一部または部分である。「対照サンプル」は、健康で、多孔質ハイドロキシアパタイトがないことが判っている歯の一部または部分であり、試験ハイドロキシアパタイトにおいて多孔性を検出または診断する際の参照の目的で使用される。「サンプル」は、ワイプ法、スワブ法、剥離、チップ化、穿孔等によって得てもよい。サンプル採取装置は、スワブ法、ワイプ法または当業者に知られているあらゆる他の採取方法によってサンプルを得るのに適していてもよい。
【0093】
第四〜第六の側面の方法の一つの態様では、歯は、最初にブラッシングや他の手段で清浄される。歯は乾燥してもよい。
【0094】
第一の側面のキット、第二の側面のプローブ、または第四〜第六の側面の方法の、一つの態様では、ディテクタは、ブラシ、歯ブラシ、綿棒、綿ボールを用いるか、ノズルを備えた容器から滴下することによって適用される。
【0095】
本書で使用される場合、「適用される」、「適用する」または「適用」とは、ディテクタまたはプローブまたは洗浄液と歯またはそのサンプルとを接触させるか、または、レポーターとディテクタまたはタンパク質を接触させる、通常の意味を有する。
【0096】
ディテクタまたはプローブの適用後、ディテクタまたはプローブは歯に接触して、ディテクタがタンパク質に結合するため、またはプローブがハイドロキシアパタイトに結合するために充分な時間、インキュベートする。インキュベート時間は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55または60秒であってもよい。或いは、インキュベーション時間は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5分であってもよい。或いは、インキュベーション時間は、10、15または20分等、5分より長くともよい。インキュベート後、過剰なディテクタまたはプローブは、水または洗浄液を使用して洗浄するか、洗浄せず、口から吐き出してもよい。
【0097】
方法または使用は、被験者において、歯内または歯上のその場で実施してもよい。或いは、方法または使用は、被験者から取り出した後、歯または歯のサンプル内または歯または歯のサンプル上で実施してもよい。
【0098】
被験者としては哺乳類が挙げられる。哺乳類はヒトであってもよい。ヒトはいずれの年齢であってもよい。ヒトは、約12歳未満であってもよい。ヒトは、約2〜約12歳であってもよく、約4〜約10歳、または約6〜約10歳であってもよい。或いは、被験者は、12〜20、20〜30、30〜40、40〜50、50〜60、60〜70、70〜80、80〜90、または90〜100歳であってもよい。
【0099】
被験者は、正常のハイドロキシアパタイトおよび正常のエナメル質が成長した後に、多孔質ハイドロキシアパタイトを発症してもよく、または、被験者は、成長の間に多孔質ハイドロキシアパタイトを有してもよい。
【0100】
或いは、被験者は、家畜、動物園の動物、またはコンパニオン・アニマルであってもよい。本書における方法および使用は、ヒトに好適であることが特に期待される一方、霊長類、イヌおよびネコ等のコンパニオン・アニマル、ウマ、ウシ、ヒツジおよびヤギ等の家畜、猫科動物、イヌ科動物、ウシ科動物および有蹄動物等の動物園の動物、またはウサギ目動物およびげっ歯動物等の実験動物にも適応可能である。
【0101】
本書で開示されるキットまたは方法の診断力は、識別可能なタンパク質プロファイル(例えば、MIH:表1の多量のタンパク質;アメロゲニンが殆ど無いか皆無;成熟フッ素化:痕跡量のアルブミンおよびアメロゲニン;低成熟エナメル質形成不全症:多量のアメロゲニン)を有する、多孔質ハイドロキシアパタイト(DDDおよびう蝕)の状態に基づく。種々の異常により、治療的石灰化の前に種々の洗浄工程を要してもよく、または種々の復元法および材料を要しても(またはそれらの選択に影響しても)よい。歯またはそのサンプルの試験エナメル質のタンパク質濃度は、様々な手段で評価されてもよく、多孔質ハイドロキシアパタイト等の症状は、対象と比較して増量したタンパク質の同一性に基づいて診断し得る。
【0102】
本開示のさらなる適用は、MIH病変のサブタイプ(例えば、無傷または破壊されたもの)を分類することであり、このことは、必要な治療のタイプに影響を与えるかもしれない(例えば、種々のタンパク質組成物は治療的石灰化の前に種々の洗浄工程を要してもよい)。
【0103】
本書で使用される場合、「無傷」とは、破壊されない、損傷の無いまたは変わらないことの、普通の意味を有し、歯のエナメル質表面に関して使用される。「無傷」はここでは、歯の表面で、より硬いエナメル質の殻で覆われた病変を言い、かつ、表面下の病変を言い、これは成層構造を示唆するものである。
【0104】
対照的に、本書では、「破壊された」とは、硬いエナメル質の殻が、機械的な力によって破壊されているか、当初は存在しなかった(おそらく、歯の崩壊の間に損なわれるか、成長の間に産生されなかった)MIH病変を言う。
【0105】
本書で使用される場合、「浸透性表面」とは、口腔液またはあらゆる他の溶液(およびタンパク質を含む関連成分)が表面下の領域に接近可能な、無傷または破壊されたエナメル質を言う。反対に、「非浸透性表面」とは、このような接近を阻止する、無傷または破壊されたエナメル質を言う。
【0106】
無傷のエナメル質を含むMIH病変は、多孔質ハイドロキシアパタイトを含むにもかかわらず、検出に適した多孔質歯科ハイドロキシアパタイトを示しても、示さなくともよい(即ち、浸透性または非浸透性表面を有していてもよい)。従って、第一、第七または第九の側面のいくつかの態様では、キットは透過化剤を含んでもよく、または、第四〜第六の側面の方法(例えば、機械的透過化)は、歯または歯のサンプルを透過化することを含む。このような薬剤または方法は、非浸透性表面を有する病変の前処置に使用されるであろう。或いは、このような薬剤は、再石灰化または治療的石灰化を予め受けた病変に接近するために使用してもよい。
【0107】
本書で使用される場合、「透過化する」または「透過化」とは、充分な範囲の不透過性エナメル質に孔を開けて、ディテクタおよび/または洗浄液を多孔質ハイドロキシアパタイトに接近可能にし、および/または、タンパク質除去を可能にすることを言う。
【0108】
透過化剤は、エナメル質の表面層を透過化する能力のある製剤である(例えば、エナメル質を透過化することが当業者に知られている、酸またはある他の薬剤を含んでもよい)。透過化剤は、例えば、溶液またはゲルの形態であってもよい。
【0109】
第一、第七または第九の側面のいくつかの態様では、キットは再石灰化剤を含んでもよく、または、方法は歯またはそのサンプルを再石灰化することを含んでもよい。再石灰化剤は、フッ素、可溶性リン酸カルシウムまたは非晶質リン酸カルシウムを含んでもよく、これらは生物活性分子で安定化されてもよい。
【実施例】
【0110】
実施例1−MIHエナメル質のタンパク質組成は表面完全性に依存する
材料および方法
試料
適宜の倫理的認可を得て、ヒトおよびSDラットの試料を得、-80℃で保存した。標準的基準(ウィールハイム(Weerheijm)、2003年)に従って、MIHを診断した。抽出後、MIHの歯を水ですすいで、目に見える血液を除去した後、拭いて乾燥させ、迅速に凍結して保存した。ワックスを咀嚼することによって刺激した全唾液を、遠心分離(20,000 g、5分間)によって清澄化した後、保存した。6日齢のラットの血液から、通常の方法で血清および赤血球を調製した。分泌性エナメル質基質を、5日齢の第一大臼歯を使用することを除いて従来通り(ハバード(Hubbard)、1996年)、成長中のラットの歯から単離した。
【0111】
エナメル質タンパク質のプロファイリング
新たに解凍した試料を、う蝕エナメル質および象牙質を避けることに注意しながら、外科用メスで解体して、明らかなMIH病変を回収した。低速回転の歯科用バー(No.6)を用いて、正常のエナメル質をサンプル採取した。直後に、エナメル質のサンプル(2〜5μl充填容積)を10%トリフルオロ酢酸中に懸濁し(10容量、室温で10分間、ボルテックスおよび浴中超音波処理による)、その後、遠心分離(20,000 g、4℃、5分間)して、酸不溶性タンパク質を沈殿させた。ペレットを、2%SDSおよび100 mmol/Lのジチオスレイトールを含有するゲル負荷緩衝液(ハバード(Hubbard)、1996年)中に溶解し、示した場合には、さらにプロテアーゼインヒビター(1 mmol/Lフッ化フェニルメチルスルホニル、1 mmol/Lベンズアミジン、5μg/mLペプスタチン、5μg/mLロイペプチン)を使用した。SDS抽出物を、アミドブラックを用いたドットブロッティングによって定量し、クマシーブルー染色または免疫ブロットを用いた小型SDS-PAGEに付した(ハバード、1995年)。免疫原として組み換えマウスアメロゲニン(配列番号19)を用いて、ウサギにおいて従来の方法でアメロゲニン抗血清を惹起した。
【0112】
プロテオミクス分析
ゲルのバンドを、マイクロチップを用いたナノスプレーを有するイオントラップ装置(Chip-LC/MSD XCT、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)、米国カリフォルニア州サンタクララ)を使用することを除いて、以前の通り(マンガム(Mangum)ら、2006年)、トリプシン分解およびタンデム質量分析に付した。MASCOTサーチエンジンおよび判定基準の厳しいスイスプロット・ヒトデータベース(最低2つの配列タグ(マンガムら、2006年))を用いて、タンパク質を同定した。
【0113】
ミネラル結合アッセイ
血清および赤血球溶解物で唾液を実験的にスパイクすることにより、擬似口腔液を調製し、その結果、3つの要素すべてからの主要なタンパク質は同様に多量であった(図4B)。タンパク質結合を分析するため、口腔液を、0.1倍容量のハイドロキシアパタイト(シグマ、米国ミズーリ州セントルイス)またはMIHエナメル質と共に20℃で60分間インキュベートし、その後、遠心分離(2,000 g、2分間)した。3倍容量の20 mM Tris-HCl(pH 8.0)で洗浄した後、エナメル質について上述した通り、ペレットをトリフルオロ酢酸およびSDSで抽出した。
【0114】
結果
MIHエナメル質は非アメロゲニンタンパク質で強化される
エナメル質タンパク質のプロファイリングは、特にアメロゲニンレベルを臨床的特性とリンクさせることにより、フッ素症およびエナメル質形成不全症の発症機序に対する有用な見識を提供している。従って、固定化されないMIHエナメル質試料は、SDS-PAGEアプローチを用いて検討した。正常のエナメル質と異なり、MIHエナメル質は、酸に溶解した場合に、目に見える沈殿を生じ、このことから相対的にタンパク質含量が多いことが示唆された。図1に示す通り、5例の重篤病変由来の酸不溶性タンパク質の定量により、正常(0.3〜1.5%タンパク質w/w)より3〜15倍高い値が得られた。同様に、クマシー染色を用いたSDS-PAGEにより、正常のエナメル質では検出可能なバンドがほとんどない(図2A)のとは対照的に、MIHエナメル質において大多数のタンパク質のバンドが明らかになった。アメロゲニンが検出されなかったことから(図2A、20-25 kDa領域)、感度をより高くするため、免疫ブロット法を用いた。抗アメロゲニンも、MIHエナメル質中の無傷のアメロゲニンを検出できなかったが、いくつかの試料中で分解的断片が観察された(図2B、試料11)。これらの条件下で、正常のエナメル質中にアメロゲニンは検出できなかった(示さず)。分泌相のエナメル質基質との定量的比較により、MIHエナメル質には、全ての検出可能なアメロゲニン量の0.12%±0.06%(±SE、n = 6)しか含有されないことが示された(図2B、8-25 kDa領域)。結論として、MIHエナメル質はタンパク質が強化されており、これはアメロゲニン保持以外の病原性の理由による。
【0115】
体液タンパク質は、MIHエナメル質において優勢である
MIHエナメル質の主要なタンパク質の構成成分を同定するため、SDS-PAGEのバンドをプロテオーム解析に付した。図3および表1に示す通り、様々なタンパク質が同定され(16の特徴のある遺伝子産物)、そのうちの13は唾液および歯肉溝滲出液中に見られる。他の3つ(ヘモグロビン、アルブミン、補体C3)は、血液の主要成分である。結果として、MIHエナメル質において同定される主要なタンパク質は全て、通常は、口腔内で見られる体液と関連する。
【0116】
【表1】
【0117】
無傷および破壊されたMIH病変は、特徴的なタンパク質プロファイルを有する
MIH病変の臨床的多様性(色調、堅さ、サイズ、表面完全性)が得られたことから、提示の違いによりタンパク質組成物を区別できるかどうかを調べた。タンパク質プロファイル(図2A)の評価により、エナメル質表面の完全性が主要な影響力を有するという仮説が得られた。特に、病変が「無傷」および「破壊された」として分類された場合、タンパク質のバンドパターンは、各群の中では定量的に類似するように見えるが、群間では2つの著しい差異が明らかであった(図2A、12 kDaおよび66 kDa領域)。12 kDaのバンドは、破壊病変で明らかであり、無傷病変では明らかでないが、常に主要成分としてヘモグロビンを含有していた(図3)。逆に無傷病変では、66 kDaのバンドは常にアルブミンのみを含有し、アルブミンが稀により低いレベルで見られた破壊病変とは異なっていた。
【0118】
タンパク質プロファイルの安定性も疑われ、タンパク質分解の証拠(図3:アルブミン、補体C3)およびエナメル質の成熟においてタンパク質分解が主要な役割であることが指摘された。実際に、図2AのSDSで溶解したサンプルを冷凍保存の後、再度分析した場合、アルブミンのバンドは、無傷の試料からは完全に消失していた(図2C)。しかし、破壊された試料は大きくは影響されなかった(示さず)。プロテアーゼインヒビターは、最初のSDS溶解化工程の間に添加された場合、新鮮なMIHサンプルのプロファイルに殆ど影響しなかった(示さず)。これらの結果から、人為的なタンパク質分解のリスクが強調されたため、初回のサンプルのみを報告する(図1〜3)。無傷および破壊された病変は一貫して他と区別できるタンパク質プロファイルを有すると結論されたが、このことは、表面完全性がMIHエナメル質のタンパク質組成に影響するという仮説を支持する。
【0119】
MIHエナメル質のタンパク質組成は表面完全性と共に変化する
MIH病変は表面下の多孔性を呈し、アルブミンおよびヘモグロビンがハイドロキシアパタイトに好んで結合することが知られている。従って、口腔液のタンパク質がMIHのエナメル質に浸透し、無傷の表面層が欠如したハイドロキシアパタイトの結晶に選択的に結合すると推測された。破壊された病変を唾液、血清および赤血球と比較した場合、タンパク質結合パターンにおいて集合的類似性が見られた(図4A)。対照的に、無傷の病変は、血清単独に対して興味深い類似性を有した。これらの結果は、無傷の病変から排除される口腔液タンパク質と一致し、破壊された病変からのものとは一致しなかった。次に、破壊された病変は、ハイドロキシアパタイト粉を擬似口腔液(唾液、血清および赤血球抽出物の混合物)にさらすことによってモデル化した。ハイドロキシアパタイト結合画分のプロファイリング(図4B)により、破壊病変する顕著な類似性が明らかになった(図2A、4A)。ハイドロキシアパタイトを、無傷の病変から調製した粉末エナメル質で置換した(即ち、表面層の破壊をモデル化した)場合、プロファイルは再度破壊された病変と類似した(図4C)。これらの結果から、MIHのエナメル質のタンパク質組成は、エナメル質表面の完全性に大きく影響されることが示唆された。
【0120】
アルブミンおよびヘモグロビンを含む擬似口腔液をハイドロキシアパタイトに適用した場合、アルブミンおよびヘモグロビンはハイドロキシアパタイトに結合した(図5)。5 mMのMgCl2、1 MのMgCl2および0.4 MのNaH2PO4のそれぞれで、各5分間、順に洗浄することによって、ハイドロキシアパタイトから>90%のタンパク質が除去された(図5)。
【0121】
考察
MIHは世界的に関心が高まっており、低石灰化エナメル質のタンパク質組成を早急に解明する必要がある。本書において、MIHのエナメル質は、正常よりタンパク質含有量が実質的に高いが、残存アメロゲニンは正常に近いレベルであることが開示される。この特徴により、MIHは、多量の残存アメロゲニンを含有する低成熟の異常(エナメル質形成不全症、フッ素症)と識別され、また、この特徴は低石灰化の異常としてMIHを象徴する。第二に、MIHエナメル質は、口腔液および血液由来の様々なタンパク質が蓄積していることが分かっており、エナメル質表面の完全性によって取り込みが異なる。病因論的に、これらの結果から、アルブミンが関係する石灰化の萌出前の混乱が提示され、萌出後の崩壊の場合は、さらされたハイドロキシアパタイト基質へのその後のタンパク質の吸着が提示される。MIHエナメル質の発症機序および特性についてのこれらの見識は、MIHの予防、診断および治療に意味を持つ。
【0122】
本実験の結果は、MIHエナメル質の臨床的および生物物理学的特性の説明に役立つ。タンパク質含量の3倍〜15倍の上昇が観察されたが、これはエナメル質形成不全症およびフッ素症についての報告(2.5倍〜30倍)に類似し、MIHのエナメル質の特徴的な機械的脆弱性を説明するのに充分であると思われる。残余のアメロゲニン含量が少ないことから、MIHのエナメル質は低石灰化型のエナメル質形成不全症の例とされる。後者の疾患に罹患するエナメル質は、臨床的に正常より著しく柔らかくて脆く、またはチーズ様であると記載されており、これは、MIHのエナメル質の記載と一致する。タンパク質レベルにおいて、MIHのエナメル質は、特にアルブミン含量が比類なく高いことから、低石灰化型のエナメル質形成不全症およびフッ素症と区別可能であると思われる。しかし、全ての症状は多孔質ハイドロキシアパタイトによって特徴付けられる。
【0123】
これらの結果により、MIHの発症機序も解明され、機械的に他のものと区別できる萌出前後の工程が提示される。萌出前には、MIHのエナメル質の厚さは正常であり、アメロゲニン含量は低い(<0.2%の分泌相レベル)ことから、アメロゲニンが分泌され、その後効率的に除去されることが示唆される。その結果として、MIHは、主として成熟の異常ではない。従って、低石灰化エナメル質形成不全症との類似性によって、石灰化の不完全な開始に注目が向けられる。タンパク質のプロファイリングによって、アメロゲニンがほぼ完全に除去されても、アルブミンがMIHエナメル質に蓄積することが示唆された。
【0124】
換言すれば、低石灰化は、低石灰化(低鉱化)のサブタイプであり、他のサブタイプは低成熟化である。本書で示した通り、MIHおよびある型のエナメル質形成不全症、およびおそらくある型のフッ素症も、アメロゲニン量が少ない、低石灰化の異常として識別される。つまり、アメロゲニン除去(エナメル質成熟)の通常の過程が起こったが、石灰化は起こらなかった。しかし、低成熟の異常において(未成熟型のエナメル質形成不全症およびフッ素症)、アメロゲニン除去(エナメル質成熟)が深刻な程度まで起こらず、石灰化を妨げるアメロゲニンが継続して存在する。
【0125】
アメロゲニンレベルは、低石灰化型のDDD/低石灰化(低鉱化)において相対的に低いが、低成熟型のDDD/低石灰化(低鉱化)(ある型のエナメル質形成不全症および歯科フッ素症等)においては正常レベルにより近い。従って、アメロゲニンおよび、多孔質歯科ハイドロキシアパタイトに結合した本書において開示された残余のタンパク質の、両レベルの変化は、個々に、または例えばある比率での組み合わせにおいて、有益(例えば診断的)であるかもしれない。
【0126】
これらの結果から、奇形のヒトエナメル質に蓄積されている浸出アルブミンが初めて実証される。特に、無傷病変はアルブミンを含有するが、ハイドロキシアパタイトへの結合可能性が実証された多数の口腔液タンパク質は含有しないことが分かった。ヘモグロビンではなくアルブミンが顕著であったことは、全血よりも血清の少量の血管漏出に起因するか、またはエナメル質成熟の間、ヘモグロビンおよび他の血液タンパク質に比べてアルブミンのタンパク質溶解安定性が高いことに起因するかもしれない。実際、アルブミンは、アメロゲニン除去に関与する主要なプロテアーゼである、カリクレイン系ペプチダーゼ4に抵抗性がある。
【0127】
これらの結果は、別の発症機序工程が萌出後のエナメル質表面の崩壊に続くことも暗示する。この第二の工程は、口腔液タンパク質がさらされたハイドロキシアパタイト基質に相対的に無差別に結合することを含む。
【0128】
本書で同定されたタンパク質は、MIH病変を臨床的に特徴付けするためのバイオマーカーとして利用される可能性がある。
【0129】
実施例2−多孔質ハイドロキシアパタイトのためのプローブの製造および試験
材料および方法
SMCC(スクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサンカルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル;CAS#:64987-85-5)は、8.3Aのスペーサーアームによって分離されたアミンおよびスルフヒドリル反応性を有する、開裂不可能なヘテロ二官能性架橋剤である。アミドブラック(CAS#:1064-48-8)は、第一級アミン基を含有し、本書では着色レポーターとして使用される、一般的な青/黒染料である。ウシ由来のヘモグロビン(CAS#:9008-02-0)は、2対のポリペプチド鎖(αおよびβ;それぞれ配列番号20および21)よりなる、ヘテロテトラマーである。β鎖は単一溶媒にさらされたスルフヒドリル含有システイン残基を有するが、α鎖はシステインを有しない。
【0130】
SMCC(ジメチルスルホキシド中、75mM)を9容量倍のアミドブラック(リン酸緩衝生理食塩水(PBS、137mM NaCl、2.7mM KCl、10mMリン酸水素二ナトリウム、pH 7.4)中、37.5mM)に加え、21℃で30分間インキュベートした。5倍モル過剰のアミドブラックで、SMCCを確実に最大限に標識化(マレイミド活性化着色レポーターを創出、図27)した。結合後、溶液を真空遠心分離で乾燥し、-80℃で保管した。
【0131】
10mM TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン、シスチン−スルフヒドリル状態を維持するために使用される非チオール還元剤)および5mM EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸、酸化/ラジカル触媒の可能性およびその後のチオール酸化を低減するために使用される、金属キレート剤)を含有するPBS中に溶解することによって、ヘモグロビン(20mg/ml;0.65μmoleシステイン−チオール/ml)を調製した。21℃で30分間インキュベートした後、還元されたヘモグロビンを1000容量倍のPBSに対して2時間透析して、TCEPおよびEDTAを枯渇させた(この工程は任意でもよい)。ヘモグロビンを迅速に次の工程に移し、システイン−チオール酸化を最小限にした。
【0132】
乾燥したマレイミド活性化アミドブラックを、アミドブラック:チオールのモル比を10:1としてヘモグロビン中に溶解し、ヘモグロビンを確実に最大限に標識化した。21℃で2時間インキュベートした後、アミドブラックに結合したヘモグロビンを、PBSに対して充分に透析して(透析液が着色しないようになるまで、1ml当り24〜28時間)、非共有結合したアミドブラックを除去した。透析後、プローブはすぐに使える状態であった。
【0133】
結果
プローブを適用して5分以内に、ハイドロキシアパタイトは色が白色から暗青色に変色した(図29)。プローブは水洗に耐えたが、一方アミドブラック単独では(即ちHbに連結していない)水洗により除去された。プローブはハイドロキシアパタイトから、5 mMのMgCl2、1 MのMgCl2および0.4 MのNaH2PO4の順でそれぞれ5分間洗浄することを含む、3工程の洗浄方法で除去された(図29)。
【0134】
考察
鍵となる設計の必要条件は、着色したレポーターに結合した後、ヘモグロビンのハイドロキシアパタイト結合機能が保持されることである。ヘモグロビンのシステイン−チオールが標的とされるが、これは、4つのタンパク質サブユニットのうちの2つが、一つのシステインを持っており(結合接触面においてではない);その他の2つのサブユニットではシステインが欠如しているためである。従って、得られたテトラマープローブは、2つの修飾されないタンパク質サブユニットを含有し、それにより、機能ユニット当り、少なくとも半分の自然のハイドロキシアパタイト結合部位を維持する。2工程法を例示した:第一に、着色レポーター−SMCC複合体を製造する(図27);第二に、着色レポーター−SMCC複合体を使用して、ヘモグロビンを標識する(図28)。本書では、多孔質ハイドロキシアパタイトを検出する新規なプローブの、設計、製造および試験について、原理証明が確立された。
【0135】
実施例3−プローブは多孔質歯科エナメル質に特異的に結合する(図30
方法
実施例2のプローブが多孔質エナメル質に特異的に結合するかどうかを試験するため、複合う蝕病変をプローブでコートし、その後充分に洗浄した。
【0136】
大きなう蝕領域(多孔質エナメル質、白色不透明領域)を有する、ヒト第一大臼歯を、プローブの適用前後に撮影した(図30)。プローブを、ブラシを用いて1分間、クラウン領域全体に適用した。プローブの適用後、歯を流水で10秒間すすぎ、撮影し、その後、歯を再度さらに2分間洗浄して撮影した。
【0137】
結果
正常なエナメル質は標識されなかった。
【0138】
顕性う蝕領域は強く特異的に標識されたが、標識はいくつかの場所では斑点状であった。非標識う蝕領域は引っかき傷に抵抗性のある光沢表面を呈した一方、標識化領域は、簡単に引っかき傷ができるような艶消し面であった。このことから、斑点状で標識されないう蝕領域は、表面層の再石灰化による可能性が示唆される。従って、プローブは、活性および不活性う蝕を判別し得る。
【0139】
歯の抽出中に破壊されたエナメル質領域(鉗子跡)も標識化され、このことは、プローブが、破壊された表面を有するエナメル質領域を検出し得ることを示唆する。
【0140】
プローブにより、水洗時間に依存せず、安定したレベルの標識化が提供された。
【0141】
実施例4−プローブは、エナメル質表面の早期の脱灰(初期う蝕のモデル)を特異的に検出し得る(図31
方法
実施例2のプローブが早期のう蝕を特異的に検出し得るかどうかを試験するため、正常な表面のエナメル質上に強酸をスポットして(プローブの適用前)、人工的なう蝕領域を作った。
【0142】
酸処理の前に、ヒト第一大臼歯について、う蝕が無いことを、プローブの適用前後に写真で示した(図31)。次に、エナメル質の3領域を酸(0.5μlの85%H3PO4)に1、3または10分間さらして、人工的なう蝕病変を導入し、その後100 mlのTBS(25mM Tris pH 7.2、160mM NaCl)で2分間洗浄し、次に流水でさらに2分間洗浄した。歯を空気乾燥し、プローブを、ブラシを使用して領域全体に3分間適用した。適用後、結合していないプローブを、先ず吸い取り紙で拭き、次に流水で10秒間すすぐことによって除去した。結合したプローブを除去するため、10%の漂白剤(0.4% NaClO)をブラシで10秒間適用した。
【0143】
結果
プローブは、う蝕のないエナメル質にはいずれの領域にも結合しなかった。
【0144】
酸によるエッチング処理により、エナメル質の3領域がわずかに不透明/艶消しになったが、これらは用量依存性の重篤度プロファイルであった(10>3>1分)。3つのエッチング領域は全てプローブによって重篤度に依存して検出され、エッチングされないエナメル質は標識されなかった。
【0145】
プローブの結合は水洗に耐えたが、シグナル強度はわずかに減少した。プローブは、10%の漂白剤を10秒間適用することによって、定量的に除去することができた。
【0146】
実施例5−プローブの作用機序はハイドロキシアパタイト親和性である(図32
実施例4によるエナメル質(図31)を、実施例2のプローブで再処理して、ハイドロキシアパタイトの結合機序を検証した。
【0147】
方法(A)
タンパク質染色メカニズムを排除するために、プローブを、漂白剤処理し(即ち、タンパク質を剥ぎ取り)、エッチングしたエナメル質に適用した。
【0148】
結果(A)
漂白したエナメル質は、プローブによって、非漂白のものと同等に標識された(図32、パネルA2とA4を比較)。この発見は、エッチングしたエナメル質のプローブ標識について、タンパク質染色メカニズムを排除する。
【0149】
方法(B)
プローブの作用機序がハイドロキシアパタイト結合である場合、BSAでの前処理はプローブ結合を遮断する(競合的阻害)ことが提案された。
【0150】
パネルAのエナメル質は、知られているハイドロキシアパタイト結合タンパク質(10%ウシ血清アルブミン、BSA)に、ブラシで1分間適用することによってさらし、その後、水で1分間すすいだ。BSA処理の後、プローブを前記の通り適応した。BSAは漂白剤処理によって剥ぎ取られ、プローブを再度適用した。
【0151】
結果(B)
BSAの適用は、エナメル質の外観を変化させなかった(図32、パネルB2)。BSAはプローブの結合を遮断した(図32、パネルB3)。プローブの結合は、BSAを剥ぎ取った後に回復した(図32、パネルB6)。併せて、これらの結果は、プローブの作用機序がハイドロキシアパタイトへの結合であり、タンパク質結合ではないことを実証する。他のハイドロキシアパタイト結合タンパク質による競合阻害の可能性があるため、タンパク質を剥ぎ取る前処理によりプローブの感度が向上し、偽陰性の結果を最小限にすることができた。
【0152】
実施例6−プローブは、低石灰化エナメル質および異常な象牙質を特異的に標識する(図33
方法
実施例2のプローブが異常な歯科組織の線引きに使用し得るかどうかを試験するため、正常および異常なエナメル質および象牙質を含有する歯の一部をプローブで処理した。
【0153】
表面下の低石灰化領域を呈する破折歯を選択し、病変の境界線が不明瞭かつ複雑である、臨床的に難しいケースを再現した。プローブに短時間、予めさらすことにより、エナメル質−象牙質の境界線が得られた。次に、試料にプローブをブラシで30秒間適用する前(左)と後(右)に、試料を撮影した(図33)。適用後、結合していないプローブを、30秒間水洗して除去した。
【0154】
結果
プローブの適用前に、いくつかの構造を同定することができた:(1)重ねられた正常なエナメル質、(2)低石灰化エナメル質(ある領域では赤色の境界線を有するピンク色)、(3)明らかに正常な象牙質(堅い)および(4)異常な象牙質(柔らかい/皮革様)。プローブの適用後、4タイプの組織は全て容易に識別することができた。
【0155】
正常なエナメル質および象牙質は標識されなかった。低石灰化エナメル質は、均一かつ特異的に、濃い紫色に標識されたが、これは非常に複雑な境界線を、表面下の領域全体にわたって解明したと考えられた。異常な象牙質(おそらくう蝕および/または発育障害のため)は、特異的かつ均一に深緑色に標識されたが、これは正常な象牙質に対する複雑な境界線を解明したと考えられた。併せて、これらのデータから、プローブが低石灰化エナメル質および異常な象牙質を特異的に標識し得ることが確認される。
【0156】
実施例7−プローブは低石灰化エナメル質の除去を誘導するために使用し得る(図34
方法
実施例6からの低石灰化エナメル質(図33)を、外科用メスの刃を用いて除去し、実施例2のプローブを繰り返し適用して、進行をモニターした。エナメル質の物理的特徴を各工程で記録した(図34、パネル下の記述を参照)。
【0157】
結果
図34の上側のパネルは、低石灰化エナメル質を除去した後の試料を示し、下側のパネルは、プローブを適用した後の同一の試料を示す。パネル1〜3は、低石灰化エナメル質の小さな領域を徐々に除去したことを示す。パネル4〜6は、領域全体、および不完全な除去領域の計画的除去を示す(上下のパネルを比較のこと)。低石灰化エナメル質が除去されるのに伴い、物理的特徴が標識化の程度と並行して著しく変化し、終点では、残存するエナメル質が物理的に均一であり、プローブによって染色されなかった(パネル6)ことに注目。
【0158】
異常な象牙質は、この実施例では扱わなかった。
【0159】
実施例8−プローブは異常な象牙質の除去を誘導するために使用し得る(図35
方法
実施例6からの異常な象牙質(図33)を、外科用メスの刃を用いて除去し、実施例2のプローブを繰り返し適用して、除去の進行をモニターした。象牙質の物理的特徴を各工程で記録した(図35、パネル下の記述を参照)。
【0160】
結果
図35の上側のパネルは、異常な象牙質を除去した後の試料を示し、下側のパネルは、プローブを適用した後の同一の試料を示す。パネル1は、異常な象牙質が濃く染色されたことを示し、これは除去およびプローブの再適用で急減する(例えば、下側のパネル1および2を比較のこと)。プローブによる標識化レベルの低下は、象牙質の物理的特徴の改善と相関する(例えば、パネル4において、象牙質の硬度は、物理的評価によって均一に正常であり、プローブの適用後、ほぼ染色されない)。異常な象牙質を完全に除去した後であっても、低レベルの背景染色が現れることに注意(おそらく象牙質の多孔性がエナメル質に比べて高いため)。
【0161】
実施例9−プローブによる異常な象牙質の検出は、漂白剤洗浄により向上し得る(図36
方法
図8に示す通り、プローブの象牙質に対する特異性が改善され得るかどうかを試験するため、漂白剤洗浄を用いて正常な象牙質の染色を低下させた。
【0162】
さらされた正常および異常な象牙質を有するヒト臼歯を実施例2のプローブにさらし(1分間のブラシ適用の後、1分間水ですすぐ)、その後漂白剤洗浄した(ブラシで10秒間適用した後、1分間水ですすぐ)。プローブ/漂白剤を適用した後、標識された領域を外科用メスの刃で除去し、その後、再度プローブ適用/漂白して、進行をモニターした(図36)。
【0163】
結果
プローブによって異常な象牙質が優先的に検出されたが、正常な象牙質の背景染色により、境界設定の信頼性が低下した。10%の漂白剤(0.4% NaOCl)を10秒間適用し、正常の象牙質の標識化を低下させ、異常な象牙質では低下しないことで、分解能が向上した。希釈しない漂白剤(4% NaOCl)を10秒間適用することにより、異常な象牙質の標識化に影響を与えずに、正常な象牙質から標識を完全に除去し、これにより異常な象牙質の線引きがより明確になった。
【0164】
希釈しない漂白剤を適用した後、異常な象牙質を除去し(パネル4)、その後再度プローブ適用/漂白したところ(パネル5)、全てではないが殆どの異常な象牙質が除去されたことが示された。さらなる除去/再プローブ適用/漂白工程により、異常な象牙質が完全に除去されたことが示された。残存する象牙質は、正常な象牙質と物理的に区別できなかった。
【0165】
併せて、これらの結果から、プローブ適用後のタンパク質を剥ぎ取る工程は、正常の象牙質の背景標識の低減に役立ち、潜在的な偽陽性の表示を減じることが提案される。
【0166】
実施例10−プローブはX線不透過性であり得る(図37
方法
実施例2の青色発色団(アミドブラック)を、医療用放射線撮影(例えば脳血管造影)に使用される前駆体化合物である5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(3I)で置換することにより、放射線を通さないプローブを製造した。この化合物は単一の第一級アミンの可用性により選択され、青色のプローブに使用される同一の架橋剤と結合させるために使用し得た。
【0167】
3Iをヘモグロビンと結合させるため、以下の方法を用いた:
1. 1.25 mgのSMCC(架橋剤)を50μlのDMSOに溶解した(75mM SMCC)。
2. 3Iを以下の通り調製した:30 mgを、1 mlの0.1M NaOHに溶解し(50mM 3I)、250μlの0.1M HEPES pH7.0を加えた後、1μlの5M NaOHを加えてpHを7に調節したが、最終的な溶液は、40mM 3I、20mM HEPE pH7であった。
3. 400μlの3I溶液を、50μlの75mM SMCCのDMSO溶液に加え、室温で30分インキュベートして、3I活性化SMCCを製造した。
4. 次に、3I-SMCCを真空遠心分離によって凍結乾燥した。
5. 得られたペレットを、20μlのDMSO中に取り、100μlの20 mg/mlのヘモグロビンを加えた後、溶液を室温で60分インキュベートして、3Iをヘモグロビン中のシステインチオールに結合させた。
6. 次に、得られた3I-Hbを遠心分離し(20,000 x g、5分間)、その後、25mM Tris pH 7.2、160mM NaClに対して一晩透析した(10-kDa MWCO)。
7. 得られた透析液を回収し、-20℃で保管した。
【0168】
プローブ上にできた、放射線不透過性の程度を評価するため、放射線不透過性標準物質(1および10mM 3I)と同時に、X線撮影した(65 kV、8 mA、0.5秒の暴露)。
【0169】
結果
X線プローブの放射線不透過性は、1mM 3Iと10mM 3Iの間の程度であった(図37)。濃度分析により、X線不透過性は、1.5〜2.5 mMの3I溶液と同等であることが提示された。これらの結果は、プローブがX線に不透過に製造され得ることを確認する。
【0170】
実施例11−純粋なハイドロキシアパタイトを用いた洗浄液の分析(図38
方法
各洗浄液の相対的有効性を調べるため、インビトロのモデルシステムを用いて個々に試験した(図38)。
【0171】
純粋なハイドロキシアパタイト(5 mg)に、ラット血液由来のタンパク質(10μlのHb抽出物および2μlの希釈しない血清を含有する、100μlの10mM Tris pH7.2)を、常に振とうしながら室温で10分間負荷した。タンパク質を負荷したハイドロキシアパタイトは、2,000 x gで30秒間遠心分離することにより沈渣し、上澄を捨てた後、ペレットを300μlの10mM Tris pH 7.2で30秒間洗浄して、結合していない間質性成分を除去した。
【0172】
その後、タンパク質−ハイドロキシアパタイトは、100μlの様々な洗浄成分(水、5mMのMgCl2、1MのMgCl2または0.4MのNaH2PO4)に室温で2分間、混合しながらさらした後、遠心分離した。洗浄液を回収し、タンパク質−ハイドロキシアパタイトを、同じ洗浄液でさらに2回洗浄した。3回の洗浄工程の後、タンパク質−ハイドロキシアパタイトを100μlの10%トリフルオロ酢酸(TFA)に溶解し、沈殿したタンパク質を遠心分離(2,000 x g、2分間)で回収し、ペレットを100μlの2X SoB(0.125M Tris-HCl pH 6.8、4% SDS、20%グリセロール)に溶解した。全ての分画のタンパク質含量を、アミドブラックで染色したドットブロットの濃度測定によって評価した。
【0173】
結果
ハイドロキシアパタイトからタンパク質を除去する、洗浄液の相対的能力は、以下の通りであった:
0.4M PO4>1M Mg2+>5mM Mg2+(水と同程度の効果)
【0174】
PO4によるタンパク質除去が最良と思われたが、ハイドロキシアパタイトは、3回の洗浄の後もピンク色が残り、一方1M Mg2+で処理したハイドロキシアパタイトは、一回の洗浄後に白くなった。この状況では、1MのMgCl2および0.4MのNaH2PO4がタンパク質の除去に最も有効であり、相補的活性を有する(おそらく異なる分類のタンパク質を除去する)と考えられる。
【0175】
実施例12−純粋なハイドロキシアパタイトを用いた、Mg2+およびPO4の単独または連続での分析(図39
方法
純粋なハイドロキシアパタイトにタンパク質を負荷した後、実施例11と同様に100μlの様々な洗浄成分(水、1MのMgCl2または0.4MのNaH2PO4)にさらしたが、2回の洗浄(3回の代わりに)とし、5mMのMgCl2を省略した。管に1M Mg2+を入れ、その後0.4 MのPO4を入れた。洗浄後、ハイドロキシアパタイトのペレットを撮影し、色を記録し(挿入図参照)、その後タンパク質含量を実施例11と同様に評価した。
【0176】
結果
3つの洗浄液は全て同様に機能し、水とは異なり、2回の洗浄後、タンパク質の大部分は除去された(図39)。
【0177】
Mg2+とその後のPO4を用いた連続洗浄により、タンパク質除去および色の除去で評価した場合、最良の結果が得られた(挿入図:矢印は洗浄後のハイドロキシアパタイトのペレットを指す)。Mg2+とPO4による連続洗浄は、このヒドロキシアパタイトモデルにおいて、最適のタンパク質除去を提供すると結論してもよい。
【0178】
実施例13−純粋なハイドロキシアパタイトを用いたMg2+およびPO4の組み合わせ洗浄の分析(図40
方法
純粋なハイドロキシアパタイトにタンパク質に負荷した後、実施例11と同様に3回の、100μlの組み合わせ洗浄(1MのMgCl2、0.4MのNaH2PO4)を行った。タンパク質含量を実施例11と同様に評価した。実施例13の結果(図40)は、比較のため、実施例12のデータと一緒に表していることに注意。
【0179】
結果
組み合わせ洗浄は、PO4単独と同様に機能したが、ハイドロキシアパタイトは最初の洗浄後に白くなり(1M MgCl2単独と同様)、このことは、各洗浄成分の活性が維持されたことを示唆する。組み合わせ洗浄は、タンパク質除去を達成するのに必要な時間に関して、より効果的であると結論してもよい。
【0180】
実施例14−洗浄液は低石灰化エナメル質に作用するが、ハイドロキシアパタイトモデルと比較して効果は低下する(図41
方法
無傷および破壊された病変由来の低石灰化エナメル質を別々に回収し、病変の各タイプについて、5 mgの粉末を3本の管に準備した。エナメル質を、100μlの、5mM Mg2+、1M Mg2+、その後0.4M PO4にそれぞれ5分間さらした。次に、試料を、実施例11〜13の純粋なハイドロキシアパタイトと同様に処理した。
【0181】
結果
低石灰化エナメル質を洗浄液で処理することにより、相当量のタンパク質(〜1/4-1/3)が除去され、一方、水は殆ど効果がなかった(図41)。タンパク質の除去量は、おそらく解離速度がより遅いため、ハイドロキシアパタイトモデルで観察された量よりも少なかった。
【0182】
実施例15−洗浄液は低石灰化エナメル質からタンパク質を定量的に除去し得る(図42
方法
無傷の病変から低石灰化エナメル質を回収し、5 mgを3本の管に準備した。エナメル質を1 mlの1M Mg2+に7時間さらし、その後1 mlの0.4M PO4にさらに16時間さらした。次に、試料を、実施例11〜13の純粋なハイドロキシアパタイトと同様に処理した。
【0183】
結果
タンパク質は、洗浄液での2回の長時間の洗浄後、低石灰化エナメル質から定量的に除去された(図42B)が、同一時間の水処理では殆ど効果がなかった。PO4による洗浄は効果が非常に大きく、これはこの特別な病変のタンパク質プロファイルのためと思われる(主にアルブミン、図42A)。時間が所望より長いかもしれないが、洗浄液は臨床試料から全てのタンパク質を除去する能力がある。
【0184】
引用文献
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ハバード(Hubbard) MJ (1996年). ラット歯科エナメル細胞における豊富なカルシウムの恒常性機構。エナメル質石灰化の間のカルシウム貯蔵タンパク質のアップレギュレーションは、カルシウムトランスサイトーシスにおける小胞体と関連する。 Eur J Biochem 239巻:611-623頁.
マンガム(Mangum) JE、ヴェイス(Veith) PD、レイノルズ(Reynolds) EC、ハバード(Hubbard) MJ (2006年). マウスエナメル形成細胞の第二世代プロテオーム解析に向けて。Eur J Oral Sci 114巻 補遺1:259-265頁.
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]