【実施例】
【0021】
(1)ガス検知素子の作製
白金線のコイル状ヒータの部分を酸化スズ中に埋設させて球状に成形する。そして、およそ800℃で2時間焼成してガス感応部を形成した。
図2〜
図4は、ガス感応部の表面の状態を示している。
【0022】
無定形の酸化アルミニウムを含むアルミナゾルとして、以下の表1に示す組成及び性質を備えるものを使用した。尚、このアルミナゾルは、粘土変化が著しく、その粘性はチクソトロピックな性質を有する。
【0023】
【表1】
【0024】
上記アルミナゾルを、水で0.3重量%〜20重量%(酸化アルミニウム含量として0.03重量%〜2重量%)に希釈し、この希釈液の液滴を上述のガス感応部の表面に滴下して乾燥させた。最後に650℃付近で焼成して被覆層5を形成した。
【0025】
本実施例におけるガス検知素子として、被覆層の膜厚が30nm及び900nmのものをそれぞれ作製した。
図5〜
図7は、被覆層の膜厚がおよそ30nmであるガス検知素子を示しており、
図8〜
図10は、被覆層の膜厚がおよそ900nmであるガス検知素子を示している。
【0026】
図5〜
図7、
図11、及び
図12に示すように、ガス検知素子の被覆層5の表面において、無定形の酸化アルミニウムの粒子が重合してできた糸状体が、三次元的に互いに絡み合うようにして羽毛状態を形成している。
【0027】
(2)有機シリコーンガス(ヘキサメチルジシロキサン)における暴露試験
本発明のガス検知素子の有機シリコーンガスに対する耐被毒性能を確認するために暴露試験を実施した。試験を実施した試料を以下の表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
実施例1及び2は、上述の(1)ガス検知素子の作製の欄と同様の作製方法で作製したものであるが、実施例3は、無定形の酸化アルミニウムを含む被覆層にさらにパラジウム(Pd)触媒を含有させたものである。
【0030】
比較例1は、被覆層を設けていない試料である。
比較例2及び3は、α−酸化アルミニウムを含むアルミナゾル材料を用いて被覆層を形成した試料である。
比較例4及び5は、γ−酸化アルミニウムを含むアルミナゾル材料を用いて被覆層を形成した試料である。
比較例6は、粉体状の酸化アルミニウムを用いて被覆層を形成した試料である。
上記試料(実施例1〜3、及び比較例1〜6)における被覆層以外の構成(ガス感応部及び金属電極線等)はいずれも、上述の(1)ガス検知素子の作製の欄で作製したものと同様である。
【0031】
上記実施例1〜3、及び比較例1〜6に係るガス検知素子を備えるガスセンサを、空気、1000ppmのメタンガス雰囲気下、3000ppmのメタンガス雰囲気下、1%のメタンガス雰囲気下、100ppmの水素ガス雰囲気下、及び100ppmのエタノールガス雰囲気下において、10ppmのヘキサメチルジシロキサンに所定時間(10時間、20時間、30時間、及び50時間)暴露させ、各所定時間における出力値(mV)を測定した。
【0032】
図13〜
図21の太線部分に示される、3000ppmのメタンガス雰囲気下における初期の出力値、即ちヘキサメチルジシロキサンの暴露時間が0時間のときの出力値を警報レベルとした場合、
図13及び
図15に示すように、実施例1及び実施例3のガス検知素子を備えるガスセンサは、10ppmのヘキサメチルジシロキサンに50時間暴露しても、被検知ガス(メタンガス、水素ガス、エタノールガス)が存在しない空気中では警報を発しない。
【0033】
これに対して
図16〜
図21に示すように、比較例1〜6では、暴露後30時間以内に、被検知ガスが存在しない空気中で警報を発するようになる。特に、被覆層の厚みが実施例1及び3と同等の厚みを有する比較例4は、暴露後25時間程度で空気中において警報を発するようになる。
【0034】
また、
図13に示すように、実施例1では空気中の50時間暴露後の出力値が約100mVであるのに対して、
図15に示すように、実施例3では空気中の50時間暴露後の出力値が約30mVであったため、パラジウム触媒を含有させることによってさらに有機シリコーンガスに対する耐被毒性能が向上することが分かる。
【0035】
また、
図14、
図17、
図18、
図20、
図21に示すように、本発明の実施例2に係るガス検知素子、並びに、比較例2、3、5、6に係る従来のガス検知素子はいずれも、暴露後10時間程度で被検知ガスが存在しない空気中で警報を発するようになる。
【0036】
即ち、実施例2に係るガス検知素子は、その被覆層の厚みが約30nmであり、従来のガス検知素子の被覆層の厚み(約5μm及び約50μm)と比べて極端に薄いものであるにもかかわらず、有機シリコーンガスに対して従来のガス検知素子と同等の耐被毒性能を有することが分かる。
【0037】
以上より、本発明のガス検知素子は、その被覆層の厚みが従来のガス検知素子の被覆層の厚みと比べて極端に薄いものであるにもかかわらず、有機シリコーンガスに対して比較例のガス検知素子と同等以上の耐被毒性能を有することが分かる。
【0038】
(3)無通電放置における出力及び感度の変動
上記実施例1、比較例1、及び比較例3に係るガス検知素子を備えるガスセンサについて、無通電放置における出力及び感度の変動について試験を実施した。試験方法については以下の通りである。
所定の気温及び湿度において、空気に対する出力値を測定して、初期値(試験初日の測定値)を得る。その後、初期値を得たときと同じ気温及び湿度の条件下で無通電放置を行って、7日おきに空気に対する出力値を再測定する。この再測定を6回繰り返して、初期値に対する変化量(%)をプロットした。
また、メタンガス、フロンガス、及び水素ガスについても上記空気の場合と同様の試験を実施して、初期値に対する出力値の比を感度比(%)としてプロットした。
【0039】
図22〜
図25は、気温35℃、湿度65%という高温高湿の条件下で実施されたときの結果を示すものであり、
図26〜
図29は、気温20℃、湿度60%という標準条件下で実施されたときの結果を示すものである。
【0040】
図22及び
図26に示すように、高温高湿条件下、及び標準条件下のいずれの条件下においても、本発明に係る実施例1は、試験期間全体(49日間)に亘って、被覆層を有しない比較例1と略同等の空気に対する出力変動を示し、従来のガス検知素子に相当する比較例3と比べて、出力値の減少が著しく抑えられている。
【0041】
図23に示すように、高温高湿条件下におけるメタンガスに対する感度変動については、実施例1は、被覆層を有しない比較例1と比べて感度が多少低下してくるものの、従来のガス検知素子に相当する比較例3と比べて感度の低下が抑えられている。また、
図27に示すように、標準条件下におけるメタンガスに対する感度変動については、実施例1は、被覆層を有しない比較例1と比べて感度が多少低下してくるものの、従来のガス検知素子に相当する比較例3とは略同等の感度を維持していた。
【0042】
図24、
図25、
図28、
図29に示すように、高温高湿条件下、及び標準条件下のいずれの条件下においても、実施例1は、メタンガス及びフロンガスに対して、試験期間全体(49日間)に亘って、被覆層を有しない比較例1と略同等の感度を示すと共に、従来のガス検知素子に相当する比較例3と比べて感度の低下が著しく抑えられている。即ち、本発明のガス検知素子は、従来のガス検知素子と比べて被覆層が薄く被検知ガスが被覆層から抜け易いため、無通電時におけるガス吸着が少なく、感度低下が抑えられていると考えられる。
【0043】
(4)種々の被検知ガスに放置した後の初期安定時間の測定
上記実施例1、比較例1、及び比較例3に係るガス検知素子を備えるガスセンサについて、1000ppmの種々の被検知ガス(メチルエチルケトン、エタノール、トルエン、1,2−ジクロロエタン)中に15時間放置した直後に検出を始めてから出力値が安定するまでの時間(初期安定時間)を測定した。
尚、
図30において、初期値とは、上記被検知ガス中に放置する前のガスセンサの初期安定時間を意味する。また、試験後とは、上記被検知ガスに放置する試験を終えた後のガスセンサの初期安定時間を意味する。
【0044】
図30に示すように、比較例1では、種々の被検知ガス(メチルエチルケトン、エタノール、トルエン、1,2−ジクロロエタン)に放置した場合の初期安定時間は、初期値及び試験後における初期安定時間とほとんど変わらず、検出感度の回復に時間がかからない。比較例1は被覆層を有しないため、被検知ガスが被覆層内に留まるということがなく検出感度が短時間で回復する。
【0045】
比較例3では、種々の被検知ガス(メチルエチルケトン、エタノール、トルエン、1,2−ジクロロエタン)に放置した場合の初期安定時間が、初期値及び試験後における初期安定時間に比べて極端に大きくなり、検出感度の回復に時間がかかる。これは、比較例3のガス検知素子における被覆層の厚みが大きく、被検知ガスが被覆層から抜け難く留まり易いためと考えられる。
【0046】
一方、本発明に係る実施例1では、種々の被検知ガス(メチルエチルケトン、エタノール、トルエン、1,2−ジクロロエタン)に放置した場合の初期安定時間は、初期値及び試験後における初期安定時間とほとんど変わらず、検出感度の回復に時間がかからない。即ち、本発明のガス検知素子は、従来のガス検知素子と比べて被覆層が薄く被検知ガスが被覆層から抜け易いため、無通電時におけるガス吸着が少なく、検出感度が短時間で回復するものと考えられる。