【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1の空気調和装置の冷凍サイクル構成図を示す図である。本実施例の空気調和装置は、室外機筐体6、室内機筐体7からなり、各筐体の液阻止弁18間、ガス阻止弁19間を配管により連結させている。そして圧縮機1、凝縮器2、膨張弁4、蒸発器5を順次冷媒配管で接続して冷房運転を行う圧縮サイクル運転と、凝縮器2、強制冷媒循環ポンプ3、膨張弁4、蒸発器5を順次冷媒配管で接続して冷房運転するポンプサイクル運転との双方を行う。なお、両サイクルで凝縮器2、膨張弁4、蒸発器5を共有する。圧縮機1出口には、液冷媒が逆流することを避ける為、逆止弁20が接続されている。この逆止弁は、開止弁とし圧縮機運転に応じた開閉制御としても良い。
【0016】
強制冷媒循環ポンプ3は室外機筐体6内、もしくは別ユニット内に単体で設置され、凝縮器2との間に、余剰冷媒調整装置9を配し、強制冷媒循環ポンプ3入口側には、冷媒の過冷却度をモニタするための圧力センサ10、温度センサ11を配し、過冷却度に応じ、室外送風機8の周波数を制御する。
【0017】
室内機7側には、室内送風機17、膨張弁4、蒸発器5、圧縮機1が搭載される。膨張弁4、蒸発器5、圧縮機1は配管により順次接続されている。蒸発器5の出口側配管は圧縮機1の入口側配管と接続され、圧縮機サイクル運転の場合はこの配管を冷媒が流れることによりサイクルを形成する。蒸発器5の出口側配管から圧縮機1の入口側配管の間には圧縮機1をバイパスするための配管が接続されており、ポンプサイクル運転の場合にはこの配管を冷媒が流れることによりポンプサイクル運転が行われる。なお、圧縮機1をバイパスする配管には逆止弁12が接続されており、圧縮機サイクル運転時に圧縮機1から吐出された冷媒が蒸発器5の出口側配管に流れることを防止している。
【0018】
圧縮機サイクル運転とポンプサイクル運転とは外気温度や運転状況により切り替わる。圧縮機サイクル運転中、室内温度と比較して室外温度が十分に低い場合に、冷房負荷がポンプサイクル運転により発揮可能な能力を下回った状態が継続した場合には、ポンプサイクル運転に切り替わる。ポンプサイクル運転中に冷房負荷が賄えなくなった場合や室外温度が高くなった状態が継続した場合には、圧縮機サイクル運転に切り替える。
【0019】
ポンプサイクル運転時における冷媒循環量は、蒸発器5出口部の過熱度が設定値となるように強制冷媒循環ポンプ3の周波数または膨張弁4の開度にて調節する。過熱度は、蒸発器5出口部に配された圧力センサ14により得られた圧力の値からその圧力における冷媒の飽和温度を算出し、温度センサ13により得られた冷媒の温度との差により算出する。強制冷媒循環ポンプ3の入口・出口には、圧縮機サイクル運転時、強制冷媒循環ポンプ3をバイパスするよう逆止弁21を介したバイパス配管で接続される。
【0020】
ここで蒸発器5の出口側過熱度には上限値SH2と下限値SH1が設定されており、この設定値と算出した蒸発器出口側過熱度SHeとを比較することで、冷媒循環量の調整を行う。
【0021】
まず蒸発器出口側過熱度SHeが下限値SH1より低い場合について説明すると、この場合には冷媒循環量を下げる必要があるが、本実施例においては、このとき膨張弁4の開度を絞るのではなく、強制冷媒循環ポンプ3の周波数を段階的に下げることを行う。このように膨張弁4より先に強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下げることにより、冷媒循環量を減らして所望の蒸発器出口側過熱度としつつ、なおかつ、強制冷媒循環ポンプ3による消費電力を低減することが可能である。また、強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下げていき、下限周波数に達した場合に、それでも蒸発器出口側過熱度SHeが下限値SH1より低い場合には、さらに冷媒循環量を下げる必要があることから、膨張弁4の開度を絞るように徐々に制御して冷媒循環量を減らす。蒸発器出口側過熱度SHeが下限値SH1より低い状態が継続すれば、膨張弁4の開度が下限に達するまで開度制御を行う。
【0022】
次に蒸発器出口側過熱度SHeが上限値SH2より高い場合について説明すると、この場合には冷媒循環量を上げる必要があるが、本実施例においては、このとき強制冷媒循環ポンプ3の周波数を上げるのではなく、まず膨張弁4の開度を大きくする開度制御を行う。なお、当然のことながら上限値SH2>下限値SH1の関係となっている。これにより冷媒循環量が増加するので、所望の蒸発器出口側過熱度としつつ、ポンプ3を駆動する必要がないことから、省電力にてこれを行うことが可能となる。また膨張弁4の開度が上限に達してもなお蒸発器出口側過熱度SHeが上限値SH2より高い状態が継続すると、このとき強制冷媒循環ポンプ3の周波数を下限周波数より徐々に高くしていき冷媒循環量を増やす。蒸発器出口側過熱度SHeが上限値SH2より高い状態が継続すれば、強制冷媒循環ポンプ3の周波数が上限に達するまで制御を行う。
【0023】
ここで上記した制御により、ポンプサイクルに切り替えた後に強制冷媒循環ポンプ3の回転数と膨張弁4の開度を制御すると、その間、過渡的に負荷の温度変化が生じてしまうことがある。またこれにより、冷房負荷が賄えなくなることで圧縮機サイクル運転に切り替わってしまい、サイクル運転が安定しないことがある。
【0024】
そのため、本実施例においては、圧縮機サイクル運転からポンプサイクル運転に切り替わる前に、蒸発器出口側過熱度SHeを所望の過熱度となるような強制冷媒循環ポンプ3の回転数と膨張弁4の開度を算出するものである。すなわち、本実施例の空気調和装置の制御部は圧縮機サイクル運転からポンプサイクル運転に切り替わる前に、蒸発器5の出口側過熱度を設定過熱度とするための膨張弁4の開度及び強制冷媒循環ポンプ3の回転数を算出する算出手段を備えている。これによりポンプサイクル運転切り換え後に目標能力へ移行するリードタイムがなくサイクルを安定させることが可能となる。
【0025】
図2はこの算出手段によるポンプサイクル運転に切り替わる前の膨張弁4の開度及び強制冷媒循環ポンプ3の回転数の算出フローチャートを示している。上記した通り、蒸発器5の出口側過熱度には上限値SH2と下限値SH1が設定されている。
【0026】
まず算出手段は、強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下限回転数とすることができるか否か算出する。つまり、強制冷媒循環ポンプ3の回転数は可能な限り下限回転数として消費電力を下げるようにするものである。蒸発器5の出口側過熱度が第1設定値(上限値SH2)以上の場合には、強制冷媒循環ポンプ3の回転数を大きくすることで蒸発器5の出口側過熱度を下げることが可能であるが、その前に膨張弁4の開度の適正な開度を算出する。すなわち、強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下限回転数としつつ、膨脹弁4の下限開度とすることにより蒸発器5の出口側過熱度を第1設定値(上限値SH2)とすることができるか、または適切な開度とすることで、あるいは上限開度とすることで蒸発器5の出口側過熱度を第1設定値(上限値SH2)とすることができるか否かを判定する。
【0027】
つまり、算出手段は蒸発器5の出口側過熱度SHeが第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合に膨張弁4の開度を所定開度とすることで蒸発器5の出口側過熱度を第1設定過熱度(上限値SH2)とすることができる場合には、強制冷媒循環ポンプ3の回転数は下限回転数として算出する。
【0028】
そして膨張弁4の開度を上限開度として算出しても出口側過熱度SHeが第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合に強制冷媒循環ポンプ3の回転数として適切な回転数を算出する。すなわち、算出手段は蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合に膨張弁4の開度を上限開度としても蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合には、強制冷媒循環ポンプ3の回転数は下限回転数よりも大きい所定回転数となるように算出する。そしてこのように算出手段により膨張弁4の開度及び強制冷媒循環ポンプ3の回転数を算出した後に圧縮機サイクル運転からポンプサイクル運転に切り替わる。これにより、所望の蒸発器出口側加熱度としつつ、なおかつ、強制冷媒循環ポンプ3による消費電力を低減することが可能である。そしてポンプサイクル運転切り換え後に目標能力へ移行するリードタイムがなくしサイクルを安定させることができる。
【0029】
また、蒸発器出口側過熱度SHeと上限値SH2と下限値SH1を比較し、膨張弁4の開度と強制冷媒循環ポンプ3の回転数を制御し、所望の蒸発器出口側過熱度SHeとする制御を行うことに比べ、上記したように切り替える前にそれぞれの開度及び回転数を算出することで、過渡温度変化を抑制でき、サイクル運転の信頼性を確保できる。さらに、所望の蒸発器出口側過熱度(上限値SH2、下限値SH1)となるまでの過渡温度変化により所望の蒸発器出口側過熱度SHeが変化し、圧縮機サイクル運転に戻ってしまうことを抑制でき、ポンプ運転を持続することで省電力を向上することが可能である。
【0030】
また、算出手段は、蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)よりも低い第2設定過熱度(下限値SH1)以下の場合に強制冷媒循環ポンプ3の回転数を所定回転数とすることで蒸発器5の出口側過熱度を第2設定過熱度(下限値SH1)とすることができる場合には、膨脹弁4の開度は上限開度として算出する。つまり、算出手段は、蒸発器5の出口側過熱度を上げる必要がある場合に、膨脹弁4の開度は上限開度としつつ、まずは強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下げるようにして算出するようにするものである。
【0031】
そして、蒸発器5の出口側過熱度が第2設定過熱度(下限値SH1)以下の場合に強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下限回転数としても蒸発器5の出口側過熱度が第2設定過熱度(下限値SH1)以下の場合には、膨脹弁4の開度は上限開度よりも小さい所定開度となるように算出する。つまり、算出手段は、蒸発器5の出口側過熱度を上げる必要がある場合に、強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下限回転数としてもなお、上げる必要があった場合に膨脹弁4の開度を適正開度として算出するようにするものである。そしてこのように算出手段により膨張弁4の開度及び強制冷媒循環ポンプ3の回転数を算出した後に圧縮機サイクル運転からポンプサイクル運転に切り替わることで、上記したのと同様の効果を奏することが可能となる。
【実施例2】
【0032】
図3は、実施例2の空気調和装置の冷凍サイクル構成図を示す図である。本実施例の空気調和装置は、圧縮機サイクル運転とポンプサイクル運転を切り替えて制御されるものであり、ポンプサイクル運転時に蒸発器5において冷媒量の循環量が過多となると、圧縮機1付近に液冷媒が溜まり、必要十分な冷媒が強制冷媒循環ポンプ3に流れず冷凍サイクル効率が悪くなる虞がある。
【0033】
たとえば実施例1のように膨張弁4一つのみの開度制御により冷媒流量制御するのであれば、膨張弁4の開度を絞った際、少ない冷媒流量条件であった場合に蒸発器5の入口のパス配管に入る冷媒量が必ずしも均一でないので、蒸発器5内に流れる冷媒に偏った流量分布ができてしまう可能性がある。蒸発器5内部を通る冷媒に偏りのある流量分布が生じれば適切な熱交換量能力が得られない場合があるため過熱度のオーダーに信頼性がもてなくなる。また、圧縮機1に液冷媒が溜まれば圧縮機サイクル運転に切り替わった場合に、圧縮機吸入側に液冷媒が流れ、液圧縮が起こることで圧縮機の故障原因ともなり得る。
【0034】
そこで
図3においては、
図1と異なり、蒸発器5を複数の室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)により構成し、冷媒循環量をより精度良く調整できるようにしたものである。またそれぞれの室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)には、それぞれの冷媒循環量を制御するための膨張弁(4−1、4−2、4−3)を設置し、さらに各室内熱交換器毎に出口側の冷媒過熱度を算出するための温度センサ15、及び圧力センサ16をそれぞれの室内熱交換器毎に設けている。
【0035】
さらに全体の蒸発器5としての出口側過熱度を算出するために
図1と同様に出口側に温度センサ13、圧力センサ14を設けている。それぞれの室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)には目標出口側過熱度が設定され、この目標出口側過熱度は、これらが合わせて蒸発器全体としての目標出口側過熱度となるように決められる。なお、この目標出口過熱度は実施例1と同様に上限値と下限値とから決められる一定の範囲で設定され、その範囲内に出口側過熱度が収まるように制御を行うものである。
【0036】
次に具体的なそれぞれの室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)の冷媒循環量制御について説明する。
本実施例では実施例1と同様に強制冷媒循環ポンプ3の回転速度が下限の場合に膨張弁(4−1、4−2、4−3)を制御し、膨張弁(4−1、4−2、4−3)の開度が上限の場合に強制冷媒循環ポンプ3の回転速度を制御してポンプサイクル運転に切り替える。
【0037】
ここで、それぞれの室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)には上記したように目標出口側過熱度が設定されており、それぞれに設置された温度センサ15、及び圧力センサ16から出口側過熱度が算出できることから、出口側過熱度が設定された下限値より低くなっている室内熱交換器(たとえば5−1)の膨張弁(4−1)を絞る制御を行う。このように複数の室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)で蒸発器5が構成され、それぞれの膨張弁(4−1、4−2、4−3)により制御を行うため、蒸発器内の能力むらを抑制でき、より精度良く冷媒循環量の調整を行うことができる。
【0038】
以上に説明したように、本実施例の冷媒循環量制御では、蒸発器5を複数の室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)で構成し、さらにそれぞれの膨張弁(4−1、4−2、4−3)の開度制御を行うことで能力むらを抑制でき、より精度良く冷媒循環量の調整を行うことができる。これにより、ポンプサイクル運転時に圧縮機1付近に液冷媒が溜ることを防止し、必要十分な冷媒が強制冷媒循環ポンプ3に流すことができるため、冷凍サイクル効率が悪くなることを防止することができる。また、圧縮機1に液冷媒が溜まることで液圧縮が起こることがないようにし、圧縮機の信頼性向上を図ることができる。
【0039】
ここで、
図4は蒸発器5の全体としての出口側過熱度、すなわち温度センサ13及び圧力センサ14により算出される出口側過熱度SHeを目標過熱度とするためにポンプサイクルに切り替わる前の強制冷媒循環ポンプ3の回転速度とそれぞれの膨張弁(4−1、4−2、4−3)開度の算出方法を説明したものである。ここで得られる効果は実施例1で説明したものと同様である。
【0040】
つまり、本実施例の空気調和装置の制御部が備える算出手段は、蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合に複数の膨張弁(4−1、4−2、4−3)のうち、室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)の出口側過熱度が該熱交換器の設定過熱度以上となっているものの開度を所定開度とすることで蒸発器5の出口側過熱度を第1設定過熱度(上限値SH2)とすることができる場合には、強制冷媒循環ポンプ3の回転数は前記下限回転数として算出する。
【0041】
また、蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合に複数の膨張弁(4−1、4−2、4−3)の開度を上限開度としても蒸発器5の出口側過熱度が第1設定過熱度(上限値SH2)以上の場合には、強制冷媒循環ポンプ3の回転数は下限回転数よりも大きい所定回転数となるように算出する。
【0042】
また算出手段は、蒸発器5の出口側過熱度が第2設定過熱度以下の場合に強制冷媒循環ポンプ3の回転数を所定回転数とすることで蒸発器5の出口側過熱度を前記第2設定過熱度(下限値SH1)とすることができる場合には、複数の膨張弁(4−1、4−2、4−3)の開度を前記上限開度として算出する。
【0043】
また強制冷媒循環ポンプ3の回転数を下限回転数としても蒸発器5の出口側過熱度が第2設定過熱度(下限値SH1)以下の場合には、複数の膨張弁(4−1、4−2、4−3)のうち、室内熱交換器(5−1、5−2、5−3)の出口側過熱度が該熱交換器の設定過熱度以下となっているものの開度を所定開度となるように算出する。
【0044】
そしてこのように算出手段により膨張弁4の開度及び強制冷媒循環ポンプ3の回転数を算出した後に圧縮機サイクル運転からポンプサイクル運転に切り替わることで、実施例1と同様の効果を奏することが可能となる。