(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
ポリエステル樹脂(B)が、そのジカルボン酸単位中に芳香族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むポリエステル樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(以下「PC」ということがある。)は熱変形温度が高く優れた耐熱性を有し、更に耐衝撃性、透明性に優れている特長を有し、エクステリア、電子電気用途、光ディスク基板、自動車用途等の幅広い分野で使用されている。しかしながらPC単独では、溶融状態での粘度が他の熱可塑性樹脂と比べて高いために成形加工性に劣り、更に耐薬品性、印刷性等の性質に対しては不十分であるという問題があった。
【0003】
PCの耐薬品性を向上させるために、改質剤として飽和ポリエステル樹脂を溶融混合することが試みられている。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)をPCの改質剤とすることが提案されているが、PETはPCと相溶化せず、PETを添加することでPCの透明性が著しく損なわれることが知られている。
【0004】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT」ということがある。)をPCの改質剤とした場合、比較的透明性が得られているものの、透明性が十分とは言えず、加えて、耐熱性も著しく低下するという問題があった。
【0005】
また、ジオール単位の40モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノール単位とした変性PETとPCとの熱可塑性樹脂組成物が提案されているが(特許文献1参照)、この樹脂組成物は、透明性は良好であるものの、耐熱性が低下し、耐薬品性も十分ではないという問題があった。
【0006】
更に、樹脂中のジカルボン酸単位に特定割合のナフタレンジカルボン酸単位を含む共重合ポリエステルをPCの改質剤とする方法が提案されているが(特許文献2参照)、ジカルボン酸単位中に耐薬品性の改善に必要な割合のナフタレンジカルボン酸単位を含ませると、透明性が不十分となるという問題点があった。
【0007】
一方、ポリエステル樹脂、例えば、PET、PBT、ポリエチレンナフタレート等は、一般にPCに比べ、耐薬品性、成形性、及び印刷性等に優れるが、耐熱性、機械的強度(特に耐衝撃性)及び透明性に劣っており、これらの物性の改善が求められている。
【0008】
ポリエステル樹脂の耐熱性及び耐衝撃性等を改善する方法として、ポリエステル樹脂にPCを溶融混合した熱可塑性樹脂組成物が提案されているが、前記したようにこの樹脂組成物は透明性が著しく劣る問題があるため、PCとポリエステル樹脂とから構成された、透明性、耐熱性、耐薬品性及び機械的強度(特に耐衝撃性)、更に成形性、印刷性等を兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物は知られていなかった。
【0009】
これに対して、特許文献3では、PCと、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂を配合することで上記したような性質を補強し、透明性、耐熱性、耐薬品性、および機械的強度、更に成形性、印刷性等に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることが開示されている。
【0010】
しかしながら、PCとポリエステル樹脂は溶融混練することにより交換反応し、エステル交換触媒の添加によりその交換反応の進行が加速されることが知られている(非特許文献1参照)。そのため、ポリエステル樹脂を製造する際の重合触媒の活性が残っている場合には、該樹脂組成物の成形中に発泡が生じ成形性を低下させたり、得られる樹脂組成物の色調を低下させたり、外観を損ないやすい問題があった。
【0011】
このような問題を解決するために、特許文献4ではチタン系触媒を約1〜30ppm使用して製造したポリエステル樹脂およびポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物は色調、熱安定性、溶融安定性が改善することが開示されている。しかしながら、ポリエステル樹脂量が多くなるにつれて色調、熱安定性、溶融安定性は低下する傾向にあり、更なる改善が求められている。
【0012】
特許文献5では、ポリエステル樹脂にリン化合物を配合することで、ポリエステル樹脂とPCのエステル交換反応を適度に抑制し、発泡を防止できることが開示されている。しかしながら、使用するリン化合物自体の熱安定性や耐加水分解性、揮発性等についての記述はない。例えばトリフェニルホスフェートに代表されるモノホスフェートは耐熱性に劣り、揮発性が高く、樹脂に配合して成形した場合、発煙や金型汚染を生じやすい、ブリードアウトが発生しやすいなどの問題があった。また、特許文献6、7では、触媒抑制剤としてホスファイトの使用が開示されているが、一般的にホスファイト系リン化合物は耐加水分解性に劣り、倉庫等で保管されている間に吸湿し加水分解され、機能が低下してしまう問題があった。
【0013】
つまり、透明性、耐熱性、耐薬品性及び機械的強度、成形性、印刷性等を兼ね備え、かつ、使用時に発泡や着色、金型汚染、ブリードアウト等が発生し難い熱可塑性樹脂組成物が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、熱可塑性樹脂組成物(D)と呼ぶ)は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)と、リン化合物(C)からなり、熱可塑性樹脂組成物(D)中のリン化合物(C)の重量含有率が0.0005〜1重量%であり、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が2〜99.5重量%である。
【0022】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物等をホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させることによって得ることのできる、分岐構造を有していてもよいポリカーボネート重合体または共重合体である。
【0023】
芳香族ジヒドロキシ化合物から得られるポリカーボネートとしては、下記一般式(2)及び/又は(3)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートである。
【化2】
【化3】
(ただし、一般式(2)、(3)において、Yは炭素数1〜15の2価の炭化水素基、または−O−,−S−,−S2−,−SO2−,−SO−,及び−CO−から選ばれる2価の基を示す。R5及びR6は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数1〜10のオキシアルキル基、炭素数6〜18のオキシアリール基から選ばれる。m1及びm2はそれぞれ独立に、0〜4であり、jは0又は1であり、kは0〜5である。lは4又は5である。)
【0024】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)を構成する芳香族ヒドロキシ化合物としては特に制限はないが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別名ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別名テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アリールアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂組成物(D)の耐熱性、機械的性能、経済性等の面から、ビスフェノールAが特に好ましく、すなわちポリカーボネート樹脂(A)がビスフェノールAのポリ炭酸エステルであることが特に好ましい。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、分岐構造を有していてもよく、このような分岐構造を有した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾール、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、α,α',α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等で例示されるポリヒドロキシ化合物、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(別名1,3ビスフェノール)、5−クロル−1,3ビスフェノール、5,7−ジクロル−1,3ビスフェノール、5−ブロム−1,3−ビスフェノール等を使用すればよい。
【0026】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、その粘度平均分子量が10,000以上であることが機械的強度を維持する上で好ましく、30,000以下であることが成形性の点から好ましいが、12,000以上28,000以下であることがより好ましい。粘度平均分子量を上記範囲とすることで、熱可塑性樹脂(D)の機械的強度及び成形性は優れたものとなる。
【0027】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することが出来る。例えば芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られる。
【0028】
本発明に用いられるポリエステル樹脂(B)は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である。環状アセタール骨格を有するジオール単位は下記の一般式(4)または(5)で表される化合物に由来する単位が好ましい。
【化4】
【化5】
R9、R10、及びR11はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。一般式(4)及び(5)の化合物としては3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
【0029】
また、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(別名ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(別名ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(別名ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。例示したジオール単位は単独で使用する事もできるし、複数を併用する事もできる。
【0030】
また、本発明で用いられるポリエステル樹脂(B)のジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。例示したジカルボン酸は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0031】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(B)は、環状アセタール骨格を有するジオール単位を20〜60モル%、好ましくは25〜55モル%、特に好ましくは30〜50モル%の割合で有する。環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が20モル%未満の場合には、熱可塑性樹脂組成物(D)の透明性及び耐熱性の改良が不十分となり、60モル%を超える場合には透明性及び機械的強度の改良が不十分なる。前記ポリエステル樹脂(B)を使用した熱可塑性樹脂組成物(D)は、透明性、耐熱性及び機械的強度が特に優れたものとなる。
【0032】
ポリエステル樹脂(B)におけるジカルボン酸単位中の芳香族ジカルボン酸単位の割合は、通常70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。ポリエステル樹脂(B)におけるジカルボン酸単位中の芳香族ジカルボン酸単位の割合を上記範囲とすることにより、熱可塑性樹脂組成物(D)は、耐熱性、機械的強度及び耐薬品性がより優れたものとなる。
【0033】
上記ジカルボン酸単位中の芳香族ジカルボン酸単位が70モル%以上であるポリエステル樹脂(B)において、更に芳香族ジカルボン酸単位中にテレフタル酸単位を含む場合は、当該ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、経済性の面から好ましくは20〜100モル%であり、より好ましくは80〜100モル%、特に好ましくは100モル%である。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂(B)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することが出来る。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。
【0035】
ポリエステル樹脂(B)は、公知の触媒の存在下で製造される。公知の触媒としては、例えば金属マグネシウム、ナトリウム、マグネシウムのアルコキサイド、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタニウム、錫、ゲルマニウム、アンチモンなどの脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物などが挙げられ、これらを単独で使用して製造してもよく、複数のものを併用して製造することもできる。
【0036】
上記の触媒の中でも、ポリエステル樹脂(B)の製造時に使用される好ましい触媒として、チタン含有化合物(オルトチタン酸エステル、チタンのカルボン酸塩、アルカリ金属のチタン酸塩、ハロゲン化チタン、二酸化チタン)が挙げられる。熱可塑性樹脂組成物(D)において、上記の好ましい触媒の存在下で製造されたポリエステル樹脂(B)に対して、リン化合物(C)を配合することによってもたらされる発泡、発煙、金型汚染、ブリードアウトの抑制効果が顕著である。
【0037】
本発明に用いられるリン化合物(C)とは、下記式(1)で表される。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を同時に用いることもできる。
【0039】
前記一般式(1)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立してアリール基を表す。アリール基としては、例えば、フェニル、クレジル、キシレニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、p−クミルフェニル、ジノニルフェニル、α‐ナフチル、β‐ナフチル等が挙げられる。中でもフェニル、クレジル、キシレニルが好ましく、キシレニルが特に好ましい。
【0040】
前記一般式(1)中、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。上記Xの基としては、例えば、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール由来の基が挙げられる。中でも、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA由来の基が好ましく、レゾルシン由来の基が特に好ましい。nは1〜5の数を表し、好ましくは1〜3、特に好ましくは1である。
【0041】
リン化合物(C)は熱安定性に優れたものが好ましく、窒素流量50ml/min、昇温速度10℃/minで40℃から500℃まで昇温し、初期の重量に対する減量率が10%となる温度が300℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましい。
【0042】
リン化合物(C)の融点は50℃以上150℃以下が好ましい。上記範囲内の場合、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)と混合、またはポリエステル樹脂(B)と混合する際、取り扱いが容易となり、かつ成形時に溶融し、樹脂との混ざりが良くなり、成形体の外観不良が発生しにくくなる。
【0043】
リン化合物(C)中のリン元素含有率は6重量%以上が好ましく、8.5重量%以上がより好ましい。燐分が上記未満の場合、熱可塑性樹脂組成物(D)の成形加工時の発泡や着色の抑制効果が低下する傾向がある。
【0044】
前記一般式(1)で示されるリン化合物の具体例としては、例えば、1,3−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,4−フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(フェニルクレジルフォスフェート)、1,4−フェニレンビス(フェニルクレジルフォスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、1,4−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジクレジルホスフェート)、1,4−フェニレンビス(ジクレジルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)等を挙げることができる。熱安定性及び耐加水分解性に優れ、低揮発性であり、樹脂の透明性を阻害し難く、更に粉末で取り扱いが容易であることから、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)が特に好ましい。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(D)中のリン化合物(C)の重量含有率は、0.0005〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.5重量%、さらに好ましくは0.005〜0.2重量%である。0.0005重量%未満の場合はポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の溶融混練時に発泡や着色を生じやすくなり、1重量%を超える場合は得られる熱可塑性樹脂組成物(D)の機械的強度が低下する場合がある。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物(D)を製造する際、リン化合物(C)はポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)と同時に混合してもよく、あらかじめポリエステル樹脂(B)とリン化合物(C)を混合した後、これらの混合物に対してポリカーボネート樹脂(A)を混合してもよいが、あらかじめポリエステル樹脂(B)とリン化合物(C)を混合しておくことで、発泡等の問題を防ぎやすくなるため、後者が好ましい。
【0047】
ポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)に対してリン化合物(C)を混合する方法は特に限定されないが、ペレット状のポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)にドライブレンドする方法、更にそのドライブレンドしたものを押出機等で溶融混練する方法が採用される。
【0048】
ポリエステル樹脂(B)とリン化合物(C)をあらかじめ混合する方法は特に限定されないが、ポリエステル樹脂(B)をペレット化した後にドライブレンドする方法、更にそのドライブレンドしたものを押出機等で溶融混練する方法、押出機等を用いて溶融したポリエステル樹脂(B)に添加する方法が採用される。
【0049】
また、リン化合物及び/又は樹脂を混合する際には公知の装置を用いることができ、例えばタンブラー、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ミキシングロール、ニーダー、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機などの混合、混練装置を挙げることができる。また、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサーなどの液体混合装置を用いることもできる。
【0050】
ポリエステル樹脂(B)は、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する際、樹脂中の水分率を300ppm以下、好ましくは100ppm以下に乾燥させることが望ましい。水分率を上記範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂(A)と溶融混練する際のポリエステル樹脂(B)の劣化を防ぐ事が出来る。
【0051】
本発明に用いるポリエステル樹脂(B)の溶融粘度は、測定温度240℃、剪断速度100s
-1で測定した際に500〜2000Pa・sの範囲であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲にあると、ポリカーボネート樹脂(A)との溶融混練する際の混じりがよく、透明性、機械的強度、および成形性に優れた熱可塑性樹脂組成物(D)を得ることができる。
【0052】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)の極限粘度(フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの質量比が6/4である混合溶媒中で、25℃で測定した値)には、特に制限はないが、通常0.3〜2.0d1/g、好ましくは0.4〜1.8d1/gであることが望ましい。極限粘度が0.3以上であるとポリエステル樹脂(B)の分子量が充分に高いために、これを使用して得られる熱可塑性樹脂組成物(D)からなる成形物が特に優れた機械的強度を有する。
【0053】
ポリエステル樹脂(B)の分子量分布は2.5〜12.0であることが好ましく、更に好ましくは2.5〜8.0である。分子量分布が上記の場合においてフィルム、シート、及び薄肉中空容器などの成形性に特に優れる。ここで、分子量分布とは、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の割合(Mw/Mn)をいう。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(D)において、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比は2〜99.5重量%であり、5〜99.0重量%であることが好ましく、5〜95.0重量%であることがより好ましく、10〜95重量%であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(D)において、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が99.5重量%以下、ポリエステル樹脂(B)の重量比が0.5重量%以上である場合、ポリカーボネート樹脂に対して耐薬品性は大幅に改善され、更に成形性及び印刷性も改善される。尚、熱可塑性樹脂組成物(D)中にポリエステル樹脂(B)を0.3重量%以上含む場合においてもポリカーボネート樹脂に対する耐薬品性の改善効果は発現する。熱可塑性樹脂組成物(D)においてポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が2重量%以上である場合、ポリエステル樹脂(B)に対し、機械的強度(特に耐衝撃性)及び耐熱性が改善される。
【0056】
熱可塑性樹脂組成物(D)の厚さ3.2mm射出成形体の全光線透過率は、透明性の点から、87%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、89%以上が特に好ましく、一方、曇価は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0057】
熱可塑性樹脂組成物(D)の示差走査型熱量計で測定されるガラス転移温度は90℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、130℃以上が特に好ましい。熱可塑性樹脂組成物(D)のガラス転移温度が上記範囲であることで耐熱性が特に良好となる。
【0058】
熱可塑性樹脂組成物(D)の厚さ3.2mm射出成形体のノッチ付きアイゾット衝撃試験における衝撃強度は、耐衝撃性の点から30J/m以上が好ましく、50J/m以上がより好ましく、100J/m以上が特に好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂組成物(D)の厚さ3.2mmの射出成形体に変形率1%の歪をかけた状態で四塩化炭素75重量部/n−ブタノール25重量部からなる溶液(溶液温度:25℃)に浸漬した際にクラックが発生するまでの時間は、耐薬品性の点から、5秒以上が好ましく、7秒以上がより好ましく、10秒以上が特に好ましい。
【0060】
熱可塑性樹脂組成物(D)の厚さ1.0mmの押出し成形シートにインキ(帝国インキ製造(株)製、13−00215 ホワイト 遅乾D3N25−P)と溶剤(帝国インキ製造(株)製 Z−603)からなる組成物(インキ/溶剤の重量比:100/30)を厚さ60μmに塗布し、10分間風乾後更に80℃で10分間乾燥させた際にインキ部分にクラックが入る割合は、印刷性の点から、20%以下が好ましく、0%がより好ましい。
【0061】
熱可塑性樹脂組成物(D)の溶融粘度は、温度240℃、及びせん断速度100s-1で測定した場合に、300〜5000Pa・sの範囲が好ましく、500〜2000Pa・sの範囲がより好ましい。熱可塑性樹脂組成物(D)の溶融粘度が上記範囲であると、成形性、特に射出成形性、押出し成形性、発泡成形性が良好となる。また、熱可塑性樹脂組成物(D)から得られた成形体は、真空圧空成形での賦形性、深絞り性が良好である他、冷間曲げ、ドリル穴あけ、打ち抜き性等二次加工性が良好となる。
【0062】
熱可塑性樹脂組成物(D)は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との構成割合により、以下の(I)〜(III)に記載する特徴を有する。
【0063】
(I)熱可塑性樹脂組成物(D)中の樹脂組成物が多量のポリカーボネート樹脂(A)と少量のポリエステル樹脂(B)とから構成される場合
すなわち、好ましくはポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が60〜99.5重量%、より好ましくは70〜95重量%である場合、上記樹脂組成物中にポリエステル樹脂(B)を含まない場合(上記樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(A)単独である場合)に対して透明性、機械的強度及び耐熱性を損なうことなく、耐薬品性、成形性及び印刷性の改良が顕著となる。
【0064】
従って、上記組成の熱可塑性樹脂組成物(D)は、耐熱性、透明性、耐薬品性及び機械的強度に特に優れ、更に成形性及び印刷性にも優れるものである。
【0065】
上記組成の熱可塑性樹脂組成物(D)は具体的には、下記(1)〜(4)の物性を有する。
(1)耐熱性:示差走査型熱量計で測定したガラス転移温度が130℃以上。
(2)耐衝撃性:ノッチ付きアイゾット衝撃試験で衝撃強度が100J/m以上。
(3)耐薬品性:1%の歪みを加えた射出成形体を四塩化炭素75重量部/n−ブタノール25重量部からなる混合溶液に浸漬した際に射出成形体にクラックが入るまでの時間が5秒以上。
(4)透明性:3.2mm厚の射出成形体の全光線透過率が87%以上、かつ曇価が4%以下。
【0066】
(II)熱可塑性樹脂組成物(D)中の樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(A)と同程度量のポリエステル樹脂(B)とから構成される場合
すなわち、好ましくはポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%である場合、上記樹脂組成物中にポリエステル樹脂(B)を含まない場合(上記樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(A)単独である場合)に対しては、特に耐薬品性、成形性、印刷性が優れ、上記樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂(A)を含まない場合(上記樹脂組成物がポリエステル樹脂(B)単独である場合)に対しては特に耐熱性、機械的強度、中でも耐衝撃性が優れたものとなる。
【0067】
従って、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)のそれぞれの透明性を損なうことなく、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、成形性、印刷性の優れた熱可塑性樹脂組成物(D)を得ることが出来る。上記組成の熱可塑性樹脂組成物(D)は具体的には、下記(1)〜(4)の物性を有する。
(1)耐熱性:示差走査型熱量計で測定したガラス転移温度が100℃以上。
(2)耐衝撃性:50μm厚のフィルムの衝撃穴あけ試験での衝撃強度が50kgf・cm/cm以上。
(3)耐薬品性:1%の歪みを加えた射出成形体を四塩化炭素75重量部/n−ブタノール25重量部からなる溶液に浸漬した際に射出成形体にクラックが入るまでの時間が7秒以上。
(4)透明性:3.2mm厚の射出成形体の全光線透過率が87%以上、かつ曇価が4%以下。
【0068】
(III)熱可塑性樹脂組成物(D)中の樹脂組成物が少量のポリカーボネート樹脂(A)と多量のポリエステル樹脂(B)とから構成される場合
すなわち、好ましくはポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対するポリカーボネート樹脂(A)の重量比が0.5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である場合、上記樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂(A)を含まない場合(上記樹脂組成物がポリエステル樹脂(B)単独である場合)に対して、特に耐熱性、機械的強度、中でも耐衝撃性が改良されたものとなる。
【0069】
従って、ポリエステル樹脂(B)の透明性を損なうことなく、耐熱性、機械的強度を改善し、耐薬品性、成形性、印刷性の優れた熱可塑性樹脂組成物(D)を得ることが出来る。上記組成の熱可塑性樹脂組成物(D)は具体的には、下記(1)〜(4)の物性を有する。
(1)耐熱性:示差走査型熱量計で測定したガラス転移温度が90℃以上。
(2)耐衝撃性:ノッチ付きアイゾット衝撃試験での衝撃強度が30J/m以上。
(3)耐薬品性:1%の歪みを加えた射出成形体を四塩化炭素75重量部/n−ブタノール25重量部からなる溶液に浸漬した際に射出成形体にクラックが入るまでの時間が10秒以上。
(4)透明性:3.2mm厚の射出成形体の全光線透過率が87%以上、かつ曇価が4%以下。
【0070】
本発明の目的を阻害しない範囲内で上記A、B、C成分以外に他の樹脂や各種添加剤を含有してもよい。これらは単独で加えてもよいし、2種以上を併用して加えてもよい。
【0071】
他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0072】
また、各種添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、染顔料、無機フィラーなどが挙げられる。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形する際には、従来公知の成形方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形、押出し発泡成形、押出しブロー成形、インジェクションブロー成形等を挙げることができる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は射出成形体、押出成形体、シート、シート成形品、未延伸フィルム、延伸フィルム、インジェクションブローボトル、ダイレクトブローボトル、発泡体など種々の用途に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0076】
本実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
〔ポリカーボネート樹脂〕
(A−1)商品名:ユーピロンE−2000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
(A−2)商品名:ユーピロンS−3000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
〔リン化合物〕
(C−1)商品名:PX−200(大八化学工業(株)製)
(C−2)トリフェニルホスフェート(商品名:TPP(大八化学工業(株)製))
(C−3)トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:IRGAFOS168(BASFジャパン(株)製))
【0077】
〔ポリエステル樹脂(B−1)、(B−2)の製造〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、攪拌機、過熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル樹脂製造装置に表1に記載量のテレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法にてエステル化反応を行った。得られたエステルに表1に記載量の解重合用エチレングリコールと、二酸化ゲルマニウムを加え、225℃、窒素気流下で解重合を行なった。生成する水を留去しつつ3時間反応を行った後、215℃、13.3kPaでエチレングリコールを留去した。得られたエステルに表1に記載量のテトラ−n−ブチルチタネート、酢酸カリウム、リン酸トリエチル、SPGを添加し、225℃13.3kPaで3時間反応を行った。得られたエステルを昇温、減圧し、最終的に270℃、高真空化(300Pa以下)で重縮合反応を行い、所定の溶融粘度となったところで反応を終了しポリエステル樹脂(B)を得た。
尚、表中の略記の意味は下記の通りである。
・PTA:テレフタル酸
・SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエテチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
・EG:エチレングリコール
・GeO
2:二酸化ゲルマニウム
・TBT:テトラ−n−ブチルチタネート
・AcOK:酢酸カリウム
・TEP:リン酸トリエチル
【0078】
【表1】
【0079】
ポリエステル樹脂(B−1)、(B−2)の評価方法は以下の通りである。
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は、ポリエスエル樹脂20mgを1gの重クロロホルムに溶解し、
1H−NMR測定、ピーク面積比から算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(3)分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgを20gのクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMn、Mw/Mnとした。GPCは東ソー株式会社製TOSOH 8020に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。
(4)溶融粘度
測定装置は東洋精機製 Capirograph1C(キャピログラフ)を用い、温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)で測定を行った。
【0080】
〔実施例1〜8、比較例1〜7〕
(1)熱可塑性樹脂組成物(D)の作製
下記の表2〜5に示した割合でポリエステル樹脂(B)、リン化合物(C)をタンブラーにより乾式混合し、二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM37BS)によりシリンダー温度210〜240℃、ダイ温度240℃、スクリュー回転数100rpmの条件で溶融混練を行い、リン化合物(C)を含む、ペレット状のポリエステル樹脂(B)を得た。このペレット状樹脂とポリカーボネート樹脂(A)をタンブラーにより乾式混合し、二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM37BS)によりシリンダー温度210〜280℃、ダイ温度240〜275℃、スクリュー回転数100rpmの条件で溶融混練を行い、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(D)を得た。
(2)射出成形体の作製
熱可塑性樹脂組成物(D)をスクリュー式射出成形機(スクリュー径:32mm、型締力:9.8kN)により、シリンダー温度260〜280℃、金型温度35℃の条件で3.2mm厚の各種試験片を成形した。
(3)シートの作製
熱可塑性樹脂組成物(D)を二軸押出機によりTダイ法にてシリンダー温度240〜280℃、Tダイ温度240〜275℃、スクリュー回転数50rpmの条件で1.0mm厚のシートを作製した。
(4)フィルムの作製
熱可塑性樹脂組成物(D)を単軸押出機によりTダイ法にてシリンダー温度240〜280℃、Tダイ温度240〜275℃、スクリュー回転数50rpmの条件で50μm厚のフィルムを作製した。
【0081】
〔評価方法〕
・ ガラス転移温度
熱可塑性樹脂組成物(D)のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
・ 溶融粘度
測定装置は東洋精機製 Capirograph1C(キャピログラフ)を用い、温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)で測定を行った。
・ 全光線透過率、曇価
50μm厚のフィルムを使用し、JIS K7105、ASTM D1003に準じて行った。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
・ 耐衝撃性
厚み50μm厚のフィルムを使用し、測定装置は東測精密工業社製フィルムインパクト試験機IFT−60を用い、試料クランプ径Φ50mm、ハンマー持ち上げ角度90℃で衝撃穴あけ強度を測定した。
・ 耐薬品性1
厚み3.2mmの曲げ試験片(射出成形体)に変形率0.5%の歪をかけた状態で試験薬品を塗布し、温度25℃において表面にクラックが発生するまでの時間を測定した。
試験薬品としては、ジオクチルフタレート(東京化成工業(株)製)を使用した。
・ 耐薬品性2
厚み3.2mmの曲げ試験片(射出成形体)に変形率1%の歪をかけた状態で四塩化炭素75重量部/n−ブタノール25重量部からなる混合溶液(溶液温度:25℃)に浸漬しクラックが発生するまでの時間を計測した(試験数:5)。
・ 印刷性
厚み1.0mmのシートにインキ(帝国インキ製造(株)製、13−00215 ホワイト 遅乾D3N25−P)と溶剤(帝国インキ製造(株)製 Z−603)を100:30(重量比)で混合したものをアプリケーターで厚さ60μmに塗布し、10分間風乾後更に80℃で10分間乾燥させた際に試料のインキ部分のクラック発生割合を測定した(試験数5)。
・ 押出安定性
厚み50μm厚のフィルムを成形した際の発泡、金型汚染、発煙等の有無を目視にて評価した。
【0082】
〔実施例1〜8、比較例1〜7〕
評価結果を表2〜5に示す。
【0083】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】