【文献】
倉田 祐輔,鈴木 教和,社本 英二,エンドミル加工における実験結果を利用した伝達関数の逆同定,2008年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,日本,精密工学会,2008年 9月 3日,第69-70ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周側に周方向に1以上の刃部を備える回転工具を用いて、当該回転工具を軸回りに回転しながら被加工物に対して相対移動して断続的な切削加工を行う工作機械の動特性を算出する装置であって、
断続的な切削加工により前記回転工具が加振された場合に、振動している状態の前記回転工具の変位量を検出する工具変位量検出手段と、
前記回転工具の切削抵抗を算出する切削抵抗算出手段と、
前記工具変位量検出手段が検出した振動している状態の前記回転工具の前記変位量、及び、前記切削抵抗算出手段によって算出された前記回転工具の前記切削抵抗に基づいて、前記回転工具の動特性である質量係数、弾性係数、及び粘性減衰係数の少なくとも1つを算出する動特性算出手段と、
を備える工作機械の動特性算出装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.対象工作機械の構成)
本実施形態の動特性算出装置を適用する工作機械100の構成について説明する。工作機械100は、被加工物Wを回転工具により切削加工する工作機械である。その工作機械100の一例として、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、工作機械100は、ベッド1と、回転工具5を保持する回転主軸4と、ベッド1上にて被加工物Wを載置するテーブル6、回転工具5を撮像する高速度カメラ9、工作機械100の統括制御を行う制御部50とを備える。
【0014】
ここで、回転工具5は、外周側に周方向に1以上の刃部5a,5bを備える。回転工具5は、例えば、ボールエンドミル、スクエアエンドミル、フライスなどを含む。回転主軸4は、図示しないアクチュエータによって、X軸、Y軸、Z軸方向に移動可能となっている。工作機械100は、回転工具5を軸回りに回転しながら、被加工物Wに対して相対移動することにより、断続的な切削加工を行う。
【0015】
制御部50は、各種プログラムが実行されるCPU50a、及び、CPU50aで実行されるプログラムや各種設定値が記憶される記憶部50bを有している。記憶部50bに記憶されCPU50aで実行されるプログラムは、後述の
図6に示す各算出部、処理部、制御部に相当する。記憶部50bは、後述の
図6に示す各記憶部に相当する。なお、後述の
図6に示す各算出部、処理部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成しても差し支え無い。
【0016】
高速度カメラ9は、CCDやCMOS等の撮像素子と、この撮像素子に被写像を結像するレンズを有していて、回転工具5の側方に配置されている。高速度カメラ9は、回転工具5を側方から連続的に(例えば5000フレーム/秒)撮像する。高速度カメラ9で撮像された回転工具5を含む画像は、制御部50に出力される。
図2に示した実施形態では高速度カメラ9は、回転工具5に対して送り方向Xに配設され、回転工具5の反切込方向Yの変形が撮像できるようになっている。なお、制御部50、及び、高速度カメラ9が、回転工具5の動特性を算出する動特性算出装置に相当する。図示しないが、工作機械100は、クーラントを供給するクーラントノズル、クーラントポンプなどを備える。
【0017】
(2.加工中の回転工具に作用する切削抵抗及び変位の説明)
以下に、
図3を参照して、加工中の回転工具5に作用する切削抵抗及び変位を説明する。被加工物Wを切削中の回転工具5には、反切込方向Yの切削抵抗Fy及び反送り方向の切削抵抗Fxが生じる。つまり、回転工具5の先端側の回転中心Cは、各方向の切削抵抗Fx,Fyの合成抵抗Fxyの方向に変位Tする(
図2示)。そして、切削抵抗Fyによって、回転工具5の先端側(刃部5a,5bの部位)の回転中心Cが反切込方向Yの変位Tyすることにより、被加工物Wの加工後形状が変化する。なお、
図3には、スクエアエンドミルを図示しているが、ボールエンドミルの場合も同様である。
【0018】
ここで、回転工具5に生じる切削抵抗Fyが一定であれば、回転工具5の先端側の撓み量は一定となる。しかし、回転工具5による断続的な切削加工においては、回転工具5に生じる切削抵抗Fyは逐次変化する。そのため、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量は、主としてY方向に逐次変化するこのときの回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量と切削抵抗Fyとは、回転工具5の動特性に依存する。工具の動特性とは、入力された力に対する変形の挙動を示すものであり、伝達関数(コンプライアンスおよび位相遅れ)もしくはそれから算出される質量係数M、粘性減衰係数C、弾性係数(バネ乗数)K、固有振動数fd、減衰率ζなどにより表される。
図2に示すように、本実施形態では、上面視した場合に、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyが、高速度カメラ9によって撮像されて検出される。
【0019】
次に、回転工具5を回転しかつ送りながら被加工物Wの断続的な切削加工を行う際において、回転工具5に作用する切削抵抗Fy及び回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Tyの経過時間tに対する挙動について、
図4及び
図5を参照して説明する。ここでは、反切込方向(Y方向)における切削抵抗Fy及び先端側の回転中心Cの変位量Tyについて取り上げて説明する。
【0020】
図4の実線と
図5(a)〜(e)を参照して、切削抵抗Fyの経過時間tに対する挙動について説明する。
図4の実線に示すように、切削抵抗Fyは、ゼロ付近から時刻t1にて大きな値に変化し、時刻t2に再びゼロ付近に変化している。
図5(a)(b)が、それぞれ
図4の時刻t1,t2に対応する。
図5(a)に示すように、時刻t1は、一方の刃部5aが被加工物Wに接触開始した瞬間である。つまり、時刻t1は、一方の刃部5aにより切削加工を開始した瞬間である。一方、
図5(b)に示すように、時刻t2は、一方の刃部5aによる被加工物Wの切削加工を終了した瞬間である。このように、t1〜t2の間において、一方の刃部5aが切削加工している。
【0021】
その後、
図4に示すように、t2〜t4の間は、切削抵抗Fyがゼロとなっている。この間は、時刻t3に対応する
図5(c)に示すように、両方の刃部5a,5bが被加工物Wに接触していない。つまり、回転工具5は空転している。
【0022】
その後、
図4に示すように、切削抵抗Fyが時刻t4に再び大きな値に変化し、時刻t5に再びゼロ付近に変化している。
図4の時刻t4には、対応する
図5(d)に示すように、他方の刃部5bが被加工物Wに接触開始している。つまり、他方の刃部5bにより切削加工を開始している。また、
図4の時刻t5には、対応する
図5(e)に示すように、他方の刃部5bによる切削加工を終了している。このように、t4〜t5の間において、他方の刃部5bが切削加工している。
【0023】
ここで、
図5における今回の切削領域より、t1〜t2、t4〜t5の各瞬間において、実切込量h(瞬間的な切込量)が異なることが分かる。つまり、実切込量hは、切削開始から一気に多くなり、ピークに達した後に徐々に少なくなっている。より詳細には、前回切削されていない部位と前回切削された部位との境界の前後で変化している。そして、
図4の切削抵抗Fyのうち急激に大きくなっている部分に示すように、切削加工中の切削抵抗Fyは、略三角形状になっており、実切込量hに応じて変化していることが分かる。
【0024】
また、回転工具5は、時刻t1,t4において切削加工を開始するということは、換言すると、時刻t1,t4において被加工物Wに衝突するということになる。つまり、回転工具5が空転状態から切削加工を開始する瞬間には、回転工具5には、被加工物Wとの衝突による断続的な切削抵抗Fyが発生する。
【0025】
つまり、回転工具5の先端側の回転中心Cは、切削加工している間の切削抵抗Fyの変動によって、少なくとも反切込方向(Y方向)への加速度を生じる。さらに、断続切削であることによって、回転工具5の先端側の回転中心Cは、切削加工している間の切削抵抗Fy(衝撃力のような力)に起因して、少なくとも反切込方向(Y方向)に振動する(加振される)。
【0026】
従って、回転工具5の先端側の回転中心Cの変位量Tyは、
図4の破線に示すように、回転工具5の固有値に応じて振動している。特に、切削加工中に変動する切削抵抗Fyが加振源となり振動を起こし、回転工具5が空転している間に、減衰している。そして、再び、切削抵抗Fyにより変位量Tyが大きくなり、繰り返す。
【0027】
(3.工作機械の機能構成)
次に、工作機械100の機能構成についての詳細を
図6〜
図10を参照して説明する。工作機械100は、
図6の機能ブロック図に示すように構成される。以下に、
図6に示す工作機械100の機能構成について説明する。
【0028】
切削抵抗検出センサ71は、切削加工中において回転工具5に作用する反切込方向Yの切削抵抗Fyを検出し、検出信号を切削抵抗算出部32に出力する。例えば、切削抵抗検出センサ71は、荷重センサ、変位センサ、送り軸の駆動モータの消費電力検出器、供給電流センサなどを適用できる。つまり、荷重センサにより切削抵抗Fyそのものを直接検出することもできるし、変位センサやその他により間接的に切削抵抗Fyを検出することもできる。
【0029】
切削抵抗算出部32は、切削抵抗検出センサ71から出力された検出信号に基づいて、切削加工中において回転工具5に作用する反切込方向Yの切削抵抗Fyを算出する。なお、切削抵抗算出部32は、回転工具5の情報や加工条件から、シミュレーションにより、切削加工中において回転工具5に作用する反切込方向Yの切削抵抗Fyを算出しても差し支え無い。
【0030】
工具変位量算出部35は、高速度カメラ9で撮像された回転工具5の回転中心Cの反切込方向Yの変位Tyを算出する。具体的には、工具変位量算出部35は、撮像された回転工具5を含む画像データから、その明暗差等により回転工具5の画像とそれ以外(例えば背景)の部分の画像の境界(エッジ)を検出することにより、回転工具5の外縁を検出する。そして、工具変位量算出部35は、1フレーム毎に、回転工具5の軸方向所定位置において、回転工具5の外縁が反切込方向Yに何ピクセル移動したかを検出することにより、回転工具5の回転中心Cの反切込方向Yの変位Tyを算出する。このようにして、断続的な切削加工により加振され振動している状態の回転工具5の変位量(
図7示)が連続的に算出される。なお、刃部5a,5bの有無によって、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyが影響しないように、回転工具5の外縁の検出は、回転工具5の刃部5a,5bが形成されていない基部の外周面において行われる。
【0031】
工具変位量記憶部36には、
図7に示すように、断続的な切削加工により加振され振動している状態の回転工具5の反切込方向Yの変位Tyの経時変化が連続的に記憶される。
図7に示すように、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyは、回転工具15の刃部5a、刃部5bのいずれかが最初に被加工物Wに当接した後に、最大の変位Ty1となり、その後、徐々に減衰しながら一定の周期Tで振動する。
【0032】
動特性算出部37は、工具変位量記憶部36に記憶されている回転工具5の反切込方向Yの連続的な変位Ty、及び、切削抵抗算出部32で算出された切削抵抗Fyに基づいて、回転工具5の動特性を算出する。動特性算出部37による回転工具5の動特性(固有振動数fd、角固有振動数ωd、減衰率ζ、質量係数M、粘性減衰係数C、弾性係数K)の算出について、
図8に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0033】
まず、動特性算出部37は、工具変位量記憶部36の記憶されている回転工具5の反切込方向Yの連続的な変位Tyに基づき、変位Tyの角固有振動数ωdを算出する(S21)。具体的には、まず、式(1)に示すように、動特性算出部37は、回転工具15の最大変位Ty1、Ty2の時刻t1、t2の間隔を検出して、変位Tyの周期T[s](
図7示)を検出する。
【0034】
(数1)
T[s]=t2−t1・・・(1)
【0035】
次に、動特性算出部37は、式(2)に示すように、変位Tyの周期Tの逆数から、変位Tyの固有振動数fd[Hz]を算出する。
【0036】
(数2)
fd=1/T・・・(2)
fd:固有振動数
【0037】
次に、動特性算出部37は、式(3)に示すように、変位Tyの角固有振動数ωd[rad/s]を算出する(S21)。
【0038】
(数3)
ωd=2πfd・・・(3)
ωd:角固有振動数
【0039】
次に、動特性算出部37は、工具変位量記憶部36の記憶されている回転工具5の反切込方向Yの連続的な変位Tyに基づき、式(4)に示すように、回転工具15の最大変位Ty1、Ty2(
図7示)から、回転工具5の振動の減衰率ζを算出する(S22)。
【0041】
次に、動特性算出部37は、工具変位量記憶部36の記憶されている回転工具5の反切込方向Yの連続的な変位Tyに基づき、一方の刃部5aが被加工物Wに接触開始した瞬間の時刻t0(
図9示)から一方の刃部5aによる被加工物Wの切削加工を終了した瞬間の時刻t1(
図9示)までの変位Tyの積分値Ak(
図9示)を算出する(S23)。
【0042】
次に、動特性算出部37は、工具変位量記憶部36の記憶されている回転工具5の反切込方向Yの連続的な変位Tyを時間微分することにより、回転工具5の変形速度Vy(
図9示)を算出するとともに、変形速度Vyを上記時刻t0から時刻t1まで時間積分し、回転工具5の変形速度Vyの積分値Ac(
図9示)を算出する(S24)。
【0043】
次に、動特性算出部37は、切削抵抗算出部32により算出された切削抵抗Fyを上述した時刻t0から時刻t1まで時間積分し、回転工具5の切削抵抗Fyの積分値At(
図9示)を算出する(S25)。
【0044】
次に、動特性算出部37は、質量係数Mを算出する(S26)。以下に、質量係数M算出手法を説明する。
被加工物Wを切削加工中の回転工具5に作用する力Fは、回転工具5に作用する反切込方向Yの切削抵抗Fy、回転工具5の弾性による力Fk、及び、回転工具5の粘性減衰による力Fcの合力であるので、下式(5)で表される。
【0045】
(数5)
F=Fy+Fk+Fc・・・(5)
F:回転工具5に作用する反切込方向Yの力
Fy:回転工具5に作用する反切込方向Yの切削抵抗
Fk:回転工具5の弾性による力
Fc:回転工具5の粘性減衰による力
【0046】
ここで、Fkは下式(6)で表される。
【0047】
(数6)
Fk=−KTy・・・(6)
Fk:回転工具5の弾性による力
K:回転工具5の弾性係数
Ty:回転工具5の反切込方向Yの変位Ty
【0049】
(数7)
Fc=−CVy・・・(7)
Fc:回転工具5の粘性減衰による力
C:回転工具5の粘性減衰係数
Vy:回転工具5の反切込方向Yの変形速度Vy
【0050】
次に、回転工具5の質量係数Mとし、回転工具5の加速度をaとすると、上式(5)及び下式(8)から式(9)が導かれる。
【0051】
(数8)
F=Ma・・・(8)
F:回転工具5に作用する反切込方向Yの力
M:回転工具5の質量係数
a:回転工具5の加速度
【0052】
(数9)
a=(Fy+Fk+Fc)/M・・・(9)
【0053】
ここで、上記時刻t0での回転工具5の変形速度をV0(
図9示)、上記時刻t1での回転工具5の変形速度をV1(
図9示)とすると、その間の回転工具5の速度変化量ΔVy=(V1−V0)は、回転工具5の加速度aを上記時刻t0から時刻t1まで時間積分した値であるので、上式(9)に上式(6)、(7)を代入し、上記時刻t0から時刻t1まで時間積分すると、下式(10)が導かれる。
【0055】
上式(10)に、S25において算出した切削抵抗Fyの積分値At、S23において算出した変位Tyの積分値Ak、及び、S24において算出した変形速度Vyの積分値Acを代入すると、下式(11)が導かれる。
【0056】
(数11)
MΔVy=At−KAk-CAc…(11)
【0057】
ここで、減衰率ζが十分に小さいとすると、減衰振動の運動方程式から、角固有振動数ωdは、下式(12)で表される。
【0058】
(数12)
ωd=√(K/M)…(12)
ωd:角固有振動数
K:弾性係数
C:粘性減衰係数
【0059】
上式(12)を変形させると、弾性係数Kは下式(13)で表される。
【0061】
一方で、減衰振動の運動方程式から、減衰率ζは、下式(14)で表される。
【0062】
(数14)
ζ=C/2√(K・M)…(14)
ζ:減衰率
K:弾性係数
C:粘性減衰係数
【0063】
上式(14)を変形し、上式(12)を代入すると、粘性減衰係数Cは、下式(15)で表される。
【0064】
(数15)
C=2ζ√(K・M)=2ζωdM…(15)
【0065】
次に、上式(11)に、上式(13)及び上式(15)を代入すると、下式(16)が導き出される。
【0066】
(数16)
At=MΔVy+Mωd
2Ak+2MζωdAc…(16)
【0067】
そして、上式(16)を変形すると、下式(17)が導きだされる。
(数17)
M=At/(ΔVy+ωd
2Ak+2ζωdAc)…(17)
【0068】
次に、上式(17)に、S21で算出した角固有振動数ωd、S22で算出した減衰率ζを代入すると、回転工具5の質量係数Mが算出される。
【0069】
次に、動特性算出部37は、上式(13)に、S21で算出した角固有振動数ωd、及び、S26で算出した質量係数Mを代入することにより、回転工具5の弾性係数Kを算出する(S27)。
【0070】
最後に、動特性算出部37は、上式(15)に、S21で算出した角固有振動数ωd、S22で算出した減衰率ζ、S26で算出した質量係数Mを代入することにより、回転工具5の粘性減衰係数Cを算出する(S28)。
【0071】
工具動特性記憶部38は、動特性算出部37によって算出された回転工具5の固有振動数fd、角固有振動数ωd、減衰率ζ、質量係数M、粘性減衰係数C、弾性係数(バネ乗数)Kからなる回転工具5の動特性を記憶する。
【0072】
加工条件決定処理部39は、工具動特性記憶部38に記憶されている動特性に基づいて、切削加工の加工条件を決定する。例えば、加工条件決定処理部39は、回転工具5の固有振動数fd(共振周波数)に基づいて、回転工具5の固有振動数fdを避けるように、回転工具5の回転速度S(回転主軸4の回転速度)を決定する。なお、加工条件決定処理部39は、切削加工の加工条件を決定して、NCデータそのものを変更することもできるし、切削加工中に切削加工の加工条件を補正することもできる。
【0073】
機械制御部41は、NCデータ、及び、加工条件決定処理部39にて決定された切削加工の加工条件に基づいて、各駆動部61を制御する。駆動部61には、回転主軸4を回転させるモータ、回転主軸4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動するアクチュエータが含まれる。
【0074】
(4.動特性算出・加工処理の説明)
次に、
図6及び
図10のフローチャートを参照して、
図1や
図6に示す制御部50の各算出部、加工条件決定処理部39、及び、機械制御部41が実行する動特性算出・加工処理について説明する。まず、機械制御部41は、駆動部61に制御信号を出力することにより、試し加工を実行する(S101)。この試し加工は、製品の品質に影響しない箇所の加工や仕上げ加工前の粗加工、或いは、テストピースによる切削が含まれる。次に、工具変位量算出部35は、上述した処理によって、高速度カメラ9が撮像した回転工具15を含む撮像データに基づいて、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyを算出して、試し加工中において加振され振動している回転工具5の変位Tyを検出する(S102)。
【0075】
次に、切削抵抗算出部32は、上述した処理によって、試し加工中の切削抵抗Fyを算出する(S103)。次に、動特性算出部37は、上述した処理によって、S102で検出した試し加工中の回転工具5の反切込方向Yの変位Ty、及び、S103で算出した試し加工中の切削抵抗Fyに基づいて、回転工具5の固有振動数fd、角固有振動数ωd、減衰率ζ、質量係数M、粘性減衰係数C、及び、弾性係数Kからなる回転工具5の動特性を算出する(S103)。
【0076】
次に、加工条件決定処理部39は、S103で算出された動特性に基づいて、加工条件を決定する(S105)。次に、機械制御部41は、NCデータ、及び、S105で決定された加工条件に基づいて、駆動部61に制御信号を出力することにより、本加工を実行し(S106)、製品を完成させる。このように、S101において、最終製品の品質に影響しない箇所の被加工物Wを切削加工することにより、S102において試し加工中の回転工具5の変位量Tyを検出し、S104において回転工具5の動特性を算出し、S105において、算出された動特性によって加工条件を決定し、S106において、加工条件が最適化された状態で、本加工を行うので、最終製品の品質に影響することなく、より精度高く切削加工を行うことができる。
【0077】
上述した動特性算出装置によれば、以下のような効果を奏する。
図6に示す動特性算出部37(動特性算出手段)は、工具変位量算出部35が算出した切削加工中の回転工具5の反切込方向Yの変位量Ty、切削抵抗算出部32によって算出された回転工具5の反切込方向Yの切削抵抗Fyに基づいて、回転工具5の動特性を算出する。これにより、回転主軸4が回転中の回転工具5の動特性が算出される。このため、回転主軸4が停止している状態で動特性を算出する場合と比較して、正確に動特性を算出して取得することが可能となる。また、高速度カメラ9(工具変位量検出手段)は、断続的な切削加工により加振された回転工具5の反切込方向Yの変位量Tyを検出し、当該検出された回転工具5の変位量Tyに基づいて、動特性を算出する。このため、従来のように、回転工具5に加速度計を取り付ける必要もなく、ハンマーの叩き方にも経験を要さないことから、手間をかけずに動特性を取得することができる。
【0078】
また、被加工物Wの試し加工中において、高速度カメラ9(工具変位量検出手段)によって検出された振動している状態の回転工具5の変位量に基づいて、動特性算出部37(動特性算出手段)は、回転工具5の動特性を算出する。これにより、最終製品の品質に影響すること無く、回転工具5の動特性を算出することができる。
【0079】
また、本実施形態では、高速度カメラ9(撮像装置)によって、切削加工中の回転工具5の変位量を検出している。そして、高速度カメラ9によって撮像された回転工具5を含む画像データから、回転工具5の外縁を検出し、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyを検出する。このため、従来のように、加速度センサ等によって回転工具5の変位を検出する方法と比較して、回転主軸4の回転に伴う振動等のノイズの影響を受けず、より高精度に回転工具5の反切込方向Yの変位を検出することができ、微少な回転工具5の変位も検出することができる。また、加速度センサを取り付けることができない小径の回転工具5であっても、回転工具5の動特性を取得することができる。
【0080】
以上説明した実施形態では、被加工物Wを切削加工中の回転工具5の反切込方向Yの変位量Tyを検出する工具変位量検出手段として、高速度カメラ9を用いている。しかし、前記工具変位量検出手段として、レーザ発光素子とレーザ受光素子からなり、レーザ発光素子が切削加工中の回転工具5にレーザを照射し、回転工具5によって反射されレーザ受光素子によって受光したレーザにより、切削加工中の回転工具5の反切込方向Yの変位量Tyを検出するレーザ式変位センサであっても差し支え無い。或いは、前記工具変位量検出手段として、回転主軸4内に設けられ、回転主軸4の変位量を検出する主軸内部変位センサと、回転主軸4の変位量より切削加工中の回転工具5の反切込方向Yの変位量Tyを算出する工具変位量算出部とからなる主軸内部変位センサシステムであっても差し支え無い。
【0081】
なお、回転工具5の共振点が複数ある場合には、回転工具5の反切込方向Yの変位Tyのうち、回転工具5の回転周期の整数倍分だけ切り出して、拡散フーリエ展開(DFT)によって回転工具5の動特性を算出することが好ましい。