(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の位相差フィルムは、平均アセチル基置換度が2.2〜2.5の範囲内であるセルロースアセテートを含有する位相差フィルムであって、該位相差フィルムの製造の最後の乾燥工程を終了してから0.5時間以内に、23℃・55%RH環境下、光波長590nmで測定した厚さ方向のリターデーション値Rt(0.5)と、該最後の乾燥工程を終了してから23℃・55%RH環境下24時間静置された後に、23℃・55%RH環境下、光波長590nmで測定した厚さ方向のリターデーション値のRt(24)との差の絶対値|Rt(0.5)−Rt(24)|が、2nm以下であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項8までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0028】
本発明の実施態様としては、前記|Rt(0.5)−Rt(24)|が2nm以下の位相差フィルムを得る観点から、23℃・55%RH環境下の引っ張り弾性率が、3500〜6000MPaの範囲内であることが好ましい。また、水素結合性化合物を、1〜10質量%の範囲内で含有することが、前記|Rt(0.5)−Rt(24)|を2nm以下にする効果が得られることから、好ましい。
【0029】
さらに、本発明においては、位相差フィルムの幅を700〜3000mmとすることが好ましい。これにより、生産効率が高く、生産時の搬送や巻取りにおけるキシミや折れが発生しないといった効果が得られる。
【0030】
本発明の位相差フィルムを製造する位相差フィルムの製造方法としては、ハロゲン系有機溶剤を90質量%以上含有する有機溶剤に平均アセチル基置換度2.2〜2.5の範囲内であるセルロースアセテートを溶解してドープを調整する第1の工程、該ドープを金属支持体上に流延する第2の工程、流延したドープを乾燥し膜状物を形成する第3の工程、該膜状物を該金属ベルトから引き剥がす第4の工程、引き剥がされた該膜状物を延伸する第5の工程、及び延伸された該膜状物を乾燥して膜状物中の前記有機溶剤を揮発させる第6の工程を有する位相差フィルムの製造方法であって、該膜状物が延伸される直前における、該膜状物の有機溶剤の平均揮発速度が1.5×10
−3〜3.0×10
−3g/(sec・cm
2)の範囲内である態様を有する製造方法であることが、前記|Rt(0.5)−Rt(24)|を2nm以下にできることから好ましい。
【0031】
本発明の位相差フィルムは、偏光板及び液晶表示装置に好適に具備され得る。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
(位相差フィルム)
本発明の位相差フィルム(以下、本発明のフィルムともいう。)は、平均アセチル基置換度が2.2〜2.5の範囲内であるセルロースアセテートを含有する位相差フィルムであって、該位相差フィルムの製造の最後の乾燥工程を終了してから0.5時間以内に、23℃・55%RH環境下、光波長590nmで測定した厚さ方向のリターデーション値Rt(0.5)と、該最後の乾燥工程を終了してから23℃・55%RH環境下24時間静置された後に、23℃・55%RH環境下、光波長590nmで測定した厚さ方向のリターデーション値のRt(24)との差の絶対値|Rt(0.5)−Rt(24)|が、2nm以下であることを特徴とする。
【0034】
本発明の位相差フィルムを用いた偏光板は光漏れ量の変化が抑制され、該偏光板を用いた液晶表示装置は正面コントラストが向上し、視野角による色相変動が改善される。
【0035】
(セルロースアセテート)
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアセテートについて詳細に記載する。
【0036】
本発明に係るセルロースアセテートの原料セルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などが挙げられるが、何れの原料セルロースから得られるセルロースアセテートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。
【0037】
特に本発明に好ましいセルロースアセテートは、木材パルプから得られたものであることが偏光子との貼合性の観点から好ましい。
【0038】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離のヒドロキシ基(水酸基)を有している。セルロースアセテートは、これらのヒドロキシ基(水酸基)の一部又は全部をアセチル基によりアセチル化した重合体(ポリマー)である。アセチル基置換度は、2位、3位及び6位に位置するセルロースのヒドロキシ基(水酸基)がアセチル化している割合(100%のアセチル化は置換度3)を意味する。
【0039】
本発明に用いられるセルロースアセテートは、平均アセチル基置換度が2.2〜2.5の範囲内であれば特に定めるものではない。アセチル基置換度の異なるセルロースアセテートを混合して用いる場合、各セルロースアセテートのアセチル基置換度と質量分率の積の和を平均アセチル基置換度と呼ぶ。常法により高速液体クロマトグラフィによって置換度分布を示すチャートの面積比から平均置換度を測定することができる。
【0040】
本発明における、セルロースのアセチル化において、アセチル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0041】
触媒としては、アセチル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アセチル化剤が酸クロライド(例えば、CH
3COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0042】
最も一般的なセルロ−スの脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基及び他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)又はそれらの酸無水物を含有する混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0043】
本発明に用いるセルロースアセテートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0044】
(ハロゲン系有機溶剤)
本発明に係るハロゲン系有機溶剤としては、炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が、セルロースアセテートを良く溶解することから好ましい。特に好ましいハロゲン系有機溶剤としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどが挙げられる。
【0045】
(有機溶剤)
本発明に係るセルロースアセテートは、ハロゲン系有機溶剤を90質量%以上含有する有機溶剤に溶解してドープを調整する。ハロゲン系有機溶剤以外の有機溶剤としては、炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれ、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。
【0046】
アルコールは、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールのヒドロキシ基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。
【0047】
また、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0048】
(厚さ方向のリターデーション値Rt)
Rt(λ)は、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたリターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。本願明細書においてRtは、特に記載がないときは、波長λは、590nmとし、23℃・55%RH環境下で測定した値である。
【0049】
前記位相差フィルムの厚さ方向のリターデーション値は下記式により求められる。
【0050】
Rt=[(n
x+n
y)/2−n
z]×d
[式中、Rtは光波長590nmで測定したときの位相差フィルムの厚さ方向のリターデーション値である。(n
xは該フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、n
yは該フィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、n
zは該フィルムの厚み方向の屈折率であり、dは該フィルムの厚さである。
【0051】
(弾性率)
本発明のフィルムは、弾性率が3000MPa以上であることが好ましく、3000〜7000MPaであることがより好ましく、3500〜6000MPaであることが特に好ましい。なお「弾性率」は、サンプルを
23℃・55%RHの環境下で24h調湿し、JIS K7127に記載の方法に従って弾性率を測定した値である。引っ張り試験機は(株)オリエンテック製テンシロンを用いる。
【0052】
(位相差フィルムの製造方法)
本発明の位相差フィルムの溶液流延法での製造は、セルロースアセテートおよび添加剤
を溶剤に溶解させてドープを調製する第1の工程、該ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する第2の工程、流延したドープを乾燥し膜状物を形成する第3の工程、金属支持体から剥離する第4の工程、延伸または幅保持する第5の工程、更に加熱・乾燥して膜状物中の有機溶剤を揮発させる第6の工程により行われることが好ましい。
【0053】
(第1の工程)
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースアセテートの濃度は、濃
い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースアセテー
トの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃
度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0054】
ドープに用いられる溶剤は、良溶剤であるハロゲン系有機溶剤を90質量%以上含有する。溶剤は単独で用いても2種以上を併用してもよいが、ハロゲン系有機溶剤とセルロースアセテートの貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましい。
【0055】
良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースアセテートを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0056】
そのため、セルロースアセテートの平均酢化度(アセチル基置換度)によって良溶剤、
貧溶剤が変わる。
【0057】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲ
ン系溶剤である。
【0058】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノ
ール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。ま
た、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。
【0059】
また、セルロースアセテートの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によ
りフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0060】
回収溶剤中に、セルロースアセテートに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線
吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含ま
れていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することも
できる。
【0061】
本発明に係るセルロースアセテートを溶解したドープには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程の何れにおいても添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0062】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースアセテートの溶解方法としては、一般的
な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱
できる。
【0063】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪
拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0064】
また、セルロースアセテートを貧溶剤と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、更に良溶
剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0065】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇さ
せる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケット
タイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0066】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースアセテートの溶解性の観点から好ま
しいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0067】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜
105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0068】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロ
ースアセテートを溶解させることができる。
【0069】
次に、このセルロースアセテート溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過
材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過
精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0070】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008
mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0071】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン
、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製
の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0072】
濾過により、原料のセルロースアセテートに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去
、低減することが好ましい。
【0073】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に位相差フィルム
等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側
からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が
200個/cm
2以下であることが好ましい。
【0074】
より好ましくは100個/cm
2以下であり、更に好ましくは50個/m
2以下であり
、更に好ましくは0〜10個/cm
2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少な
い方が好ましい。
【0075】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加
圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差
(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0076】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃で
あることが更に好ましい。
【0077】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2M
Pa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0078】
(第2の工程)
ここで、ドープの流延について説明する。
【0079】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、
金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げし
たドラムが好ましく用いられる。
【0080】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0081】
好ましい支持体温度は0〜55℃であり、25〜50℃が更に好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0082】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0083】
(第3の工程)
金属支持体上で膜状物を乾燥させる工程について説明する。
【0084】
上記のように金属支持体の温度をコントロールし、温度調節した乾燥風を当てることにより金属支持体上で、第4の工程に好適な残留溶媒量まで乾燥させる。
【0085】
支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には支持体(ドラム或いはベルト)の表面側、つまり支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側の裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはベルトを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。
【0086】
(第4の工程)
金属支持体から膜状物を引き剥がす第4の工程について説明する。第4の工程はフィルムを金属支持体から剥がした後、必要に応じて、膜状物中の溶剤を延伸に好適な状態にまで乾燥する操作も含まれる。
【0087】
位相差フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0088】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0089】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0090】
ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行いながら、剥離張力300N/m以下で剥離することが好ましい。
【0091】
第4の工程中、支持体から剥離後、膜状物を乾燥することが好ましい。この乾燥では、溶媒の蒸発によってフィルムは巾方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程或いは一部の工程を幅方向にクリップでウェブの巾両端を巾保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
【0092】
(第5の工程)
目標とするリタデーション値Rtを得るには、位相差フィルムが更に搬送張力の制御、延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。以下、延伸工程について説明する。
【0093】
例えば、長手方向の張力を低くまたは高くすることでリタデーション値を調整するこ
とが可能となる。
【0094】
また、フィルムの長手方向(製膜方向)およびそれとフィルム面内で直交する方向、即
ち幅手方向に対して、逐次または同時に2軸延伸もしくは1軸延伸することができる。
【0095】
互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に0〜1.5
倍、幅方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に0〜1.0
倍、幅方向に1.2〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
【0096】
延伸する直前の温度は140〜170℃が好ましい。延伸温度は120℃〜200℃が好ましく、さらに好ましくは150℃〜200℃であ
り、さらに好ましくは150℃を超えて190℃以下で延伸するのが好ましい。
【0097】
フィルム中の残留溶媒は20〜0%が好ましく、さらに好ましくは15〜0%で延伸す
ることが好ましい。
【0098】
具体的には155℃で残留溶媒が11%で延伸する、あるいは155℃で残留溶媒が2
%で延伸するのが好ましい。もしくは160℃で残留溶媒が11%で延伸するのが好まし
く、あるいは160℃で残留溶媒が1%未満で延伸するのが好ましい。
【0099】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、そ
の間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで
固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向
に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法な
どが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0100】
また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らか
な延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0101】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好まし
く、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0102】
(第6の工程)
延伸後、巻き取られるまでに乾燥工程を通過することにより、その後の偏光板の製造工程及び液晶表示装置の製造の工程に適した残留溶媒量に調整することができる。
【0103】
前記膜状物の乾燥工程における乾燥温度は40〜250℃、特に70〜180℃が好ましい。さらに残留溶剤を除去するために、50〜160℃で乾燥され、その場合逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることが好ましく用いられている。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。最終仕上がりフィルムの残留溶剤量は2質量%以下、更に0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0104】
本発明において、位相差フィルムの製造の最後の乾燥工程を終了するとは、巻き取り直前の状態をいう。巻き取られることにより乾燥の影響を受けなくなるからである。
【0105】
本発明の位相差フィルムの製造に係わる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。本発明のでき上がり(乾燥後)のセルロースアセテートフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常10から500μmの範囲であり、更に20〜200μmの範囲が好ましく、特に30〜80μmの範囲が最も好ましい。フィルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、支持体速度等を調節すればよい。
【0106】
(平均揮発速度)
延伸される直前の膜状物から、幅手方向の左、中央、右から30cm4方のサンプルを合計3枚切り出し、直ぐに、それぞれ、送風機能を有しない密閉容器内に置いたホットプレート上に置き、20秒後の質量減少量(Ag)と40秒後の質量減少量(Bg)を測定して、「(Ag−Bg)/20sec・900cm
2」の式から揮発速度を、(g/sec・cm
2)を単位として求める。
なお、ホットプレートは、膜状物が延伸される直前の温度に調整し、前記密閉容器の容量は0.1m
3とした。また、前記延伸される直前の温度は、好ましくは、140〜170℃の範囲内である。
【0107】
ここで、延伸される直前とは、第5の工程で、実際に延伸が開始するまでに、時間があれば、第5の工程の実際に延伸が開始される前の状態をいう。また、第5の工程に入ると同時に延伸が開始する場合は、第4の工程の最後の状態が延伸される直前となる。前記平均揮発速度は、上記3枚のサンプルの揮発速度の平均であり、g/(sec・cm
2)の単位(単位面積あたりの質量の減少速度)で表される。
特に、ハロゲン系有機溶剤を90質量%以上含有する有機溶剤に平均アセチル基置換度2.2〜2.5の範囲内であるセルロースアセテートを溶解して調製したドープを用い、ドープから形成した膜状物を延伸する直前の平均揮発速度を1.5×10
−3〜3.0×10
−3g/(sec・cm
2)の範囲内として作製した光学フィルムは、それを用いた液晶表示装置の色相変動が小さく、正面コントラストが高いことから、好ましい。
【0108】
(水素結合性化合物)
本発明者らの検討の結果、位相差フィルムにおいて、製造直後から24時間までのリターデーション値の変化を小さくすることが、液晶表示装置の視野角による色相の変化を防止し、正面コントラストを向上する上で重要であることが分かった。
【0109】
リターデーション値変動を抑制するためには、セルロースアセテート分子の配向の変動を抑制することが必要であり、そのためにセルロースアセテートの分子間水素結合を高くすることが必要であると考えた。水素結合を高くするには、アセチル基置換度を低くすればよいが、所望のリターデーション値を得ることができない。所望のリターデーション値の発現を得るために、アセチル基置換度を高くすることが必要であるが、リターデーション値変動を所望の領域にするには、水素結合が特定の範囲にある必要がある。本発明者は、水素結合を特定の範囲にするために、水素結合性化合物を添加することが有効であることを発見し、水素結合性化合物を添加することにより、リターデーション値の変動を抑制できることを発見した。
【0110】
水素結合とは、J.N.イスラエルアチビリ著、「分子間力と表面力」(近藤保、大島広行訳、マグロウヒル出版、1991年)に記載されるように、電気的に陰性な原子と共有結合した水素原子が、電気的に陰性な原子(酸素、窒素、フッ素、塩素)やπ電子系等の孤立電子対と作る非共有結合性の引力的相互作用であり、水素結合性化合物とは、前記電気的に陰性な原子と共有結合した水素原子を有する化合物である。例えば、O−H(酸素水素結合)、N−H(窒素水素結合)、等を含むことで近接した孤立電子対と水素結合を生じて配列できる化合物をいう。
【0111】
本発明に係る水素結合性化合物としては、下記一般式(I)〜(V)で表される化合物が好ましい。
【0112】
〔一般式(I)の水素結合性化合物〕
【化6】
前記一般式(I)において、
R
11及びR
11′は各々独立に置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましい。
【0113】
R
11及びR
11′として更に好ましくは炭素数1〜15の1級、2級又は3級のアルキル基であり、具体的にはメチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、t−アミル基、t−オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、及び1−メチルシクロプロピル基などが挙げられる。R
11及びR
11′としてより好ましくは炭素数1〜8のアルキル基で、その中でもメチル基、t−ブチル基、t−アミル基、又は1−メチルシクロヘキシル基が更に好ましく、メチル基、t−ブチル基が最も好ましい。
【0114】
前記アルキル基の置換基は特に限定されることはないが、好ましくは、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、ホスホリル基、アシル基、カルバモイル基、エステル基、ウレイド基、ウレタン基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0115】
R
12及びR
12′は各々独立に水素原子又はベンゼン環に置換可能な基を表し、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、t−アミル基、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基、ベンジル基、メトキシメチル基、及びメトキシエチル基などが挙げられる。より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、又はt−ブチル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基である。
【0116】
X
11及びX
11′は各々独立に水素原子又はベンゼン環に置換可能な基を表し、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基で、より好ましくは水素原子である。
【0117】
該ベンゼン環に置換可能な基としては、好ましくはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアシルアミノ基が挙げられる。
【0118】
Lは−S−又は−CHR
13−を表し、好ましくは−CHR
13−を表す。
【0119】
R
13は好ましくは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、更に好ましくは水素原子又は炭素数1〜15のアルキル基を表す。
【0120】
該アルキル基としては鎖状のアルキル基の他、環状のアルキル基も好ましく用いられる。また、これらのアルキル基の中にC=C結合を有しているものも好ましく用いることができる。アルキル基としては例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、シクロヘキシル基、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニル基、又は3,5−ジメチル−3−シクロヘキセニル基等が好ましい。R13として特に好ましいのは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、又は2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニル基である。
【0121】
前記アルキル基は置換基を有していてもよい。前記アルキル基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ウンデシル基、イソプロピル基、1−エチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、シクロヘキシル基、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニル基、及び3,5−ジメチル−3−シクロヘキセニル基などが挙げられる。アルキル基の置換基の例はR
11の置換基と同様で、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、及びスルファモイル基などが挙げられる。
【0122】
また、R
11及びR
11′が3級のアルキル基でR
12及びR
12′がメチル基の場合、R
13は炭素数1〜8の1級又は2級のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、又は2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニル基等)が好ましい。
【0123】
R
11及びR
11′が3級のアルキル基でR
12及びR
12′がメチル基以外のアルキル基の場合、R
13は水素原子が好ましい。
【0124】
R
11及びR
11′が3級のアルキル基でない場合、R
13は水素原子又は2級のアルキル基であることが好ましく、2級のアルキル基であることが特に好ましい。R
13の2級アルキル基として好ましい基はイソプロピル基、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニル基である。
【0125】
Xは、C−R(Rは水素結合性の置換基を表す。)、を表す。Xとしては、好ましくは、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基である。
【0126】
以下に前記一般式(I)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0127】
【表1】
【化7】
〔一般式(II)の水素結合性化合物〕
【化8】
前記一般式(II)において、
R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
31、R
32、R
33、R
34及びR
35は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
【0128】
R
11、R
12、R
13、R
14、R
15、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
31、R
32、R
33、R
34及びR
35として、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換又は未置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリルなどが挙げられる。)、シリル基であり、より好ましくはアルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、更に好ましくはアルキル基、アリール基、アルコキシ基である。
【0129】
これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0130】
以下に前記一般式(II)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0131】
【化9】
〔一般式(III)の水素結合性化合物〕
【化10】
前記一般式(III)において、
A、B及びCは芳香族環又は芳香族ヘテロ環を表し、L
1、L
2及びL
3は、−NH−、−NHCO−及び−CONH−から選ばれる2価の連結基を表し、X
1及びX
2は炭素原子又は窒素原子を表し、R
1は置換基を表す。
【0132】
A、B及びCが表す芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、芳香族ヘテロ環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環等が挙げられる。
【0133】
R
1としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、イミダゾリル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、スチリル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、カルバメート基(例えば、メチルカルバメート基、フェニルカルバメート基)、アルキルオキシフェニル基(例えば、メトキシフェニル基等)、アシルオキシフェニル基(例えば、アセチルオキシフェニル基等)、チオウレイド基、カルボキシ基、カルボン酸の塩、ヒドロキシ基、メルカプト基、ニトロ基の各基を表す。これらの置換基はさらに同様の基でさらに複数置換されていても良く、隣り合う置換基同士が結合して環を形成しても良い。
【0134】
前記一般式(III)におけるR
1としては、アルキル基、炭素数4以下のアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバメート基、カーボネート基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基が好ましく、炭素数4以下のアルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバメート基、アミノ基がさらに好ましく、炭素数4以下のアルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバメート基、カーボネート基が特に好ましい。これらの置換基を有することでリターデーション発現性、溶解性が向上する。
【0135】
前記一般式(III)におけるR
1の置換位置としては特に制限は無いが、リターデーション発現性の観点から、A及びB及びCが6員環の場合はL
1、L
2及びL
3に対してパラ位及びメタ位が好ましい。
【0136】
前記一般式(III)におけるR
1は複数置換していても良く、それらは互いに同一でも異なっていても良い。好ましい置換基の数としては1〜3である。
【0137】
前記一般式(III)におけるX
1及びX
2は炭素原子もしくは窒素原子を表し、互いに異なっていても同一でも良い。
【0138】
以下に前記一般式(III)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0139】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
〔一般式(IV)の水素結合性化合物〕
【化32】
前記一般式(IV)において、Aは芳香族環もしくはシクロヘキシル環を表し、芳香族環としてはベンゼン環、ナフタレン環、等が挙げられる。
【0140】
R
1は水素原子又はアルキル基を表し、R
2は水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す。R
1又はR
2がアルキル基の場合、該アルキル基としては、メチル基、エチル基又はプロピル基が好ましい。R
2がアルコキシ基の場合、該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基が好ましく、1つの環Aに複数のR
2が置換することができ、1つの環Aに置換するR
2の数は1〜3が好ましい。nは1〜4を表す。
【0141】
以下に前記一般式(IV)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0142】
【表2】
〔一般式(V)の水素結合性化合物〕
【化33】
前記一般式(V)において、R
1、R
2及びR
3は水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0143】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、前記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、ヘテロアリール基としては、ピリジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基等が挙げられる。
【0144】
中でも、好ましくは、R
1、R
2及びR
3がフェニル基を表し、更に好ましくはNH基の結合位置のオルト位又はメタ位に置換基を有するフェニル基を表す。
【0145】
前記置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アルキルチオ基等が挙げられ、好ましくはアルキル基である。
【0146】
以下に前記一般式(V)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は下記具体例に何ら限定されるものではない。
【0147】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
(可塑剤)
本発明の位相差フィルムは、可塑剤を有することが好ましい。好ましく添加される可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートが含まれる。
【0148】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、が含まれる。
【0149】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好ましく利用される。
【0150】
中でもトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。特にトリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースアセテートに対して1〜30質量%、特に3〜16質量%が好ましい。
【0151】
(他の添加剤)
本発明では、必要に応じ、劣化防止剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、マット剤、滑剤、前述の可塑剤等を適宜用いることができる。
【0152】
(劣化防止剤)
本発明においてはセルロースアセテート溶液に公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤を添加することができる。劣化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加することが好ましい。
【0153】
(紫外線吸収剤)
本発明においては前記ドープに、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、位相差フィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0154】
(マット剤)
特に本発明のフィルムには、フィルム面の摩擦係数低減による耐擦傷性の向上、幅広幅フィルムを長尺で巻いたときに発生するキシミの防止、フィルム折れの防止の観点から、微粒子を添加することが一般に行われる。それらは、マット剤、ブロッキング防止剤あるいはキシミ防止剤と称されて、従来から利用されている。それらは、前述の機能を呈する素材であれば特に限定されず、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
【0155】
記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。
【0156】
前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
【0157】
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0158】
本発明の位相差フィルムの幅は、広いほど生産効率を向上することができるが、キシミや折れの発生を防止する観点から3000mm以下が好ましく、生産効率の観点から、700mm以上であることが好ましい。
【0159】
(偏光板)
本発明の位相差フィルムは、光学発現性が高いため、位相差フィルムとして偏光板用に好ましく用いられる。偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如き親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースアシレートフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
【0160】
本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の位相差フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の位相差フィルム/液晶セル/本発明の位相差フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、視野角による色相変動に優れ、コントラストが高く視認性に優れた表示装置を提供することができる。特に本発明の偏光板用保護フィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0161】
上記高温高湿条件下での偏光板の劣化は、高温高湿条件で保存する前後の光漏れ量の変化により評価することができる。ここで、光漏れ量の変化が大きいほど、この偏光板を備えた液晶表示装置を高温高湿で保存したときに、黒表示時の遮光性が低下してコントラストが低下する。
【0162】
(液晶表示装置)
本発明の位相差フィルム、該位相差フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0163】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
【0164】
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明の位相差フィルムは、液晶セルと一方の偏光板の偏光子との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板の偏光子との間に二枚配置する。
一方の偏光板のみに前記位相差フィルムを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースアセテートフィルムでも良く、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UA(コニカミノルタオプト株式会社製40μm)、KC6UA(コニカミノルタオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0165】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0166】
<セルロースアセテートA〜Fの合成>
木材パルプから得られたセルロースを用い、常法により、表3に示したアセチル基置換度及び重量平均分子量を有するセルロースアセテートA〜Fを合成した。
【表3】
【0167】
<位相差フィルム101の作製>
[第1の工程]
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R812V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0168】
〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0169】
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部。
【0170】
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートA、クエン酸の部分エステル化合物、化合物A、化合物D及び微粒子添加液1を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。
【0171】
〈主ドープの組成〉
メチレンクロライド 420質量部
エタノール 36質量部
セルロースアセテートA 100質量部
水素結合性化合物 I−4 5.0質量部
化合物A(可塑剤) 3.0質量部
化合物D(可塑剤) 2.0質量部
微粒子添加液1 1質量部。
【0172】
(可塑剤)
化合物A:ジオクチルフタレート
化合物B:トリフェニルフォスフェート
化合物C:ビスフェニルビフェニルフォスフェート
化合物D:エチルフタリルエチルグリコレート
以上の各材料を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープを調製した。
【0173】
[第2の工程]
それぞれのドープの温度を33℃として、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度33℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0174】
[第3、第4の工程]
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75質量%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力150N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。その後、150℃の乾燥ゾーンを通過させた。
【0175】
[第5の工程]
剥離したセルロースアセテートフィルムを、150℃の乾燥ゾーンを通過させた直後に155℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に37%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は10%であった。
【0176】
上記より、延伸直前の温度は、150℃であったので、平均揮発速度は、前記(平均揮発速度)の項で記載した方法に従い、150℃で測定した。平均揮発速度の測定値を表4に記した。
【0177】
[第6の工程]
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は140℃で、搬送張力は100N/mとした。
以上のようにして、乾燥膜厚40μmの位相差フィルム101を得た。
【0178】
<位相差フィルム102〜122の作製>
位相差フィルム101の作製において、セルロースアセテート、可塑剤、水素結合性化合物の種類と添加量及び延伸直前の温度を下記表4に示すように変更した以外は同様にして位相差フィルム102〜122を作製した。なお、表4に記載のセルロースアセテートのアセチル基置換度及び重量平均分子量を前記表3に示す。
【0179】
(第6の工程を終了した直後のRtと、23℃・55%RHに24時間置かれた後のRtの変化の測定)
位相差フィルム101〜122が第6工程を終了した直後から30分までの間と、23℃・55%RHに24時間置かれた後に、前記(Rt)の項に記載した方法で、それぞれRtを測定した。第6工程を終了した直後から30分までの間のRtと、23℃・55%RHに24時間置かれた後のRtとの差の絶対値を、|Rt(0.5)−Rt(24)|として、表4に示した。
[Rtの測定]
上記作製した位相差フィルム101〜123のRt(0.5)とRt(24)を下記のように測定した。第6の工程(乾燥工程)後、0.5時間以内に厚さ方向のリターデーション値を測定しRt(0.5)とした。また、試料を23℃55%RHに24時間保存後、暑さ方向のリターデーション値を測定しRt(24)とした。上記厚さ方向のリターデーション値は、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃55%RH環境下、光波長590nmで測定した。得られた結果を表4に示した。
【0180】
上記測定した位相差フィルム101〜122の、製造後0.5時間以内の複屈折位相差Rt(0.5)と製造後24時間の複屈折位相差Rt(24)の差の絶対値を|Rt(0.5)−Rt(24)|として表4に記した。
【0181】
【表4】
表4より、アセチル基置換度が2.2〜2.5の範囲内のセルロースアセテートを有するドープにより、膜状物を形成し、延伸直前の平均揮発速度が1.5×10
−3〜3.0×10
−3g/(sec・cm
2)であると、|Rt(0.5)−Rt(24)|が、2nm以下となることが分かる。
【0182】
<ハードコートフィルム1の作製>
位相差フィルム101の作製において、主ドープを下記の組成に変更した他は同様にして、セルロースアセテートフィルムFを作製した。
【0183】
(主ドープの組成)
メチレンクロライド 420質量部
エタノール 36質量部
セルロースアセテートF 100質量部
化合物A(可塑剤) 5.0質量部
化合物D(可塑剤) 5.0質量部
微粒子添加液1 1質量部。
【0184】
(ハードコート層の形成)
下記のハードコート層塗布組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層塗布液を調製し、マイクログラビアコーターを用いて、上記作製したセルロースアセテートフィルムFに塗布し、80℃で乾燥の後、紫外線ランプを用いて、照射部の照度が80mW/cm
2、照射量を80mJ/cm
2として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚9μmのハードコート層1を形成し、巻き取り、ロール状のハードコートフィルム1を作製した。
【0185】
(ハードコート層塗布組成物)
下記材料を攪拌、混合しハードコート層塗布組成物とした。
【0186】
バイロンUR1350(ポリエステルウレタン樹脂、東洋紡績(株)製、固形分濃度33%(トルエン/メチルエチルケトン:65/35)) 6.0質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 30質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 30質量部
イルガキュア184(BASFジャパン社製、光重合開始剤) 3.0質量部
イルガキュア907(BASF社製、光重合開始剤) 1.0質量部
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(BYK−UV3510、ビックケミージャパン社製) 2.0質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 150質量部
メチルエチルケトン 150質量部。
【0187】
<偏光板201の作製>
(アルカリ鹸化処理)
ハードコートフィルム1と位相差フィルム101の各々1枚を偏光板の保護フィルムとして用いて、下記の工程により偏光板201を作製した。
【0188】
(a)偏光子の作製
けん化度99.95モル%、重合度2400のポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)100質量部に、グリセリン10質量部、及び水170質量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロール上に溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理して、PVAフィルムを得た。
【0189】
得られたPVAフィルムは、平均厚さが25μm、水分率が4.4%、フィルム幅が3mであった。次に、得られたPVAフィルムを予備膨潤、染色、湿式法による一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で、連続的に処理して、偏光子を作製した。すなわち、PVAフィルムを温度30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの温度35℃の水溶液中に3分間浸して膨潤した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中でフィルムにかかる張力が700N/mの条件下で、6倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの温度30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、PVAフィルムを取り出し、温度40℃で熱風乾燥し、更に温度100℃で5分間熱処理を行った。得られた偏光子は、平均厚さが13μm、偏光性能については透過率が43.0%、偏光度が99.5%、2色性比が40.1であった。
【0190】
(貼合)
下記工程1〜4に従って、偏光子と、位相差フィルム101とハードコートフィルム1を貼り合わせた。
【0191】
工程1:前述の偏光子を、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤溶液の貯留槽中に1〜2秒間浸漬した。
【0192】
工程2:位相差フィルム101とハードコートフィルム1に下記条件でアルカリ鹸化処理し、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで100℃で乾燥した。次いで、工程1でポリビニルアルコール接着剤溶液に浸漬した偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、この偏光子に位相差フィルム101と、ハードコートフィルム1とを
図1のように挟み込んで、積層配置した。
【0193】
(アルカリ鹸化処理)
ケン化工程 1.5M−KOH 50℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 60秒
中和工程 10質量部HCl 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 60秒。
【0194】
工程3:積層物を、二つの回転するローラにて20〜30N/cm
2の圧力で約2m/minの速度で貼り合わせた。このとき、気泡が入らないように注意して実施した。
【0195】
工程4:工程3で作製した試料を、温度80℃の乾燥機中にて5分間乾燥処理し偏光板201を作製した。
【0196】
工程5:工程4で作製した偏光板201の位相差フィルム101側に市販のアクリル系粘着剤を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布し、110℃のオーブンで5分間乾燥して粘着層を形成し、粘着層に剥離性の保護フィルムを張り付けた。この偏光を576×324mmサイズに裁断(打ち抜き)し、偏光板201と粘着層の積層体を作製した。なお、偏光板201は視認側の偏光板として用いられる。
【0197】
<偏光板202〜222の作製>
偏光板201の作製において、下記表5に記載のように、位相差フィルム101を位相差フィルム102〜122に変更した以外は同様にして偏光板202〜222を作製した。なお、偏光板202〜222は偏光板201と同様に視認側の偏光板として用いられる。
【0198】
<偏光板223の作製>
偏光板201の作製において、ハードコートフィルム1に代えて、セルロースアセテートフィルムFを用いた他は同様にして偏光板223を作製した。なお、偏光板223はバックライト側の偏光板として用いられる。
【0199】
<偏光板224〜244の作製>
偏光板223の作製において、位相差フィルム101に代えて、下記表6の様に位相差フィルム102〜122を用いた他は同様にして、偏光板224〜244を作製した。なお、偏光板224〜244は偏光板223と同様にバックライト側の偏光板として用いられる。
[光漏れ量の変化の評価]
作製した偏光板201〜244をそれぞれ2枚用意し、同種の偏光板2枚をクロスニコルに配置して、(株)日立製作所製の分光光度計U3100を用いて590nmの透過率(T1)を測定した。更に、偏光板を2枚とも80℃90%の条件で100時間処理した後、上記と同様にしてクロスニコルに配置した時の透過率(T2)を測定して、サーモ処理前後の透過率の変化を調べ、次式に従って光漏れ量の変化を測定した。
【0200】
光漏れ量の変化(%)=T2(%)−T1(%)
光漏れ量の変化は0〜5%であれば実用上問題ないが、0〜4(%)であることが好ましく、更に好ましくは0〜3(%)であり、0〜1(%)であることが特に好ましい。
以上の評価結果を表5及び6に示した。
【0201】
【表5】
【表6】
表5,6より、本発明の偏光板は、耐熱耐湿試験後の光漏れ量の変化が小さく、耐久性に優れていることが分かる。
<液晶表示装置401の作製>
SONY製40型ディスプレイKDL−40V5 の液晶パネルの偏光板を剥がし、視認側の偏光板として上記作製した偏光板201を、ハードコート層が視認側となるようにして、粘着剤層と液晶セルの視認側ガラスとを接して貼合した。また、バックライト側には、偏光板223を、粘着剤と液晶セルガラスとが接するように貼合して、液晶パネル301を作製した。次に液晶パネル301を液晶テレビにセットし、液晶表示装置401を作製した。
【0202】
<液晶表示装置402〜422の作製>
液晶表示装置401の作製において、表7に示したように、視認側偏光板201を202〜222に、バックライト側偏光板223を224〜244にそれぞれ変更した以外は同様にして液晶表示装置402〜422を作製した。
【0203】
《評価》
[色相変動]
上記作製した各液晶表示装置401〜422について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて色相変動を測定した。CIE1976、UCS座標において、上下方向(表示法線から上80°〜下80°)に角度2°間隔で色相を測定し、下記式に示す色相変動幅の内、測定した角度間で最大となる色相変動幅を色相変動とし、表7に記した。
【0204】
色相変動幅=[(Δu
*)
2+(Δv
*)
2]
1/2
(式中、Δu
*は測定した2角度間のu
*の差であり、Δv
*は測定した2角度間のv
*の差である。)
[正面コントラスト]
23℃55%RHの環境で、各々の液晶表示装置のバックライトを1週間連続点灯した後、測定を行った。測定にはELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、液晶表示装置で白表示と黒表示の表示画面の法線方向からの輝度を測定し、その比を正面コントラストとした。
【0205】
正面コントラスト=(表示装置の法線方向から測定した白表示の輝度)/(表示装置の法線方向から測定した黒表示の輝度)
正面コントラストを表7に記した。
【0206】
【表7】
表7より、本発明の液晶表示装置は、色相変動が小さく、正面コントラストが高いことが分かる。