(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5927975
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール用封止材
(51)【国際特許分類】
H01L 31/048 20140101AFI20160519BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20160519BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
H01L31/04 560
C08K5/14
C08L23/08
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-33910(P2012-33910)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-171915(P2013-171915A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森保 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】椙江 政博
(72)【発明者】
【氏名】西川 徹
【審査官】
清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−026791(JP,A)
【文献】
特開2007−281135(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/116928(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/042 − 31/056
C08K 5/14
C08L 23/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、有機過酸化物とを含有する太陽電池モジュール用封止材であって、
前記有機過酸化物として、下記一般式で示される有機過酸化物(1)と有機過酸化物(2)の重量比が、(1)/(2)=100/10〜100/100であり、
前記有機過酸化物の含有量が、前記EVA100重量部に対して0.3〜3.0重量部であることを特徴とする、太陽電池モジュール用封止材。
【化1】
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策や化石燃料に代わる代替エネルギーの利用など、各種分野において環境問題に対する意識が高まっている。例えば発電分野においては、原子力発電は放射能汚染の危険性が常につきまとい、石油を使用する火力発電ではCO
2排出に伴う地球温暖化の問題がある。そこで、このような問題のないクリーンエネルギーとして太陽光発電が注目されており、実用化も確実に進められている。太陽光発電に利用される太陽電池モジュールには種々の形態があり、代表的なものとしては、結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、銅インジウムセレナイド太陽電池、及び化合物半導体太陽電池等が挙げられる。中でも、結晶シリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池、及びアモルファスシリコン太陽電池は、比較的低コストで大面積化が可能なため、最近ではこれらの太陽電池について活発に研究開発が進められている。
【0003】
これら各種太陽電池モジュールの基本的構成は、
図1に示すように、複数の太陽電池用セル(太陽電池素子)101が、表面(光入射側)保護用のガラス板102と耐候性を有するバックシート103とによって挟持され、ガラス板102とバックシート103との間には、これらを接着し、太陽電池用セル101を封止するためのEVAやポリビニルブチラールなどの熱可塑性透明樹脂から成る封止材104が介装されている。
【0004】
ところで、太陽電池モジュールに用いられる封止材には、耐候性、接着性、耐熱性などの物性が要求される。そこで、これらの物性を担保するため、従来からEVAを有機過酸化物によって架橋している。
【0005】
EVAに加えられた有機過酸化物により分解してEVAを架橋させると、架橋度の指標となるゲル分率が向上する。EVAのゲル分率を向上することにより太陽電池用封止材の耐熱性及び強度を向上することができ、屋外等の環境下で使用される太陽電池にはゲル分率が80%以上であるEVAが必要である。したがって、屋外等で使用される太陽電池を提供するためには、有機過酸化物をEVA中に含有させてEVAを架橋することが必要となっている。
【0006】
したがって、有機過酸化物による架橋においては、加熱により有機過酸化物を分解させる工程が必要となる。そのため、有機過酸化物の中でも1時間半減期温度が130〜160℃であるジアルキルパーオキサイド型のものを用いた場合、分解及び架橋反応をするための時間を要するために、封止工程における生産性が低いという問題があった。なお、半減期温度とは有機過酸化物の半分が分解する温度のことである。
【0007】
しかしながら、半減期温度が100〜130℃と低いパーオキシエステル型やパーオキシケタール型のような有機過酸化物を使用すると、短時間での架橋が可能になるものの、封止材に有機過酸化物の分解物に起因すると思われる発泡(膨れ)現象が起こる問題が生じる。発泡は、EVA封止材の密着性を低下させる要因となり、封止性能が低下、太陽電池の寿命と発電効率が低下するという問題が生じる。
【0008】
さらに、半減期温度が低い有機過酸化物を使用した場合、EVAに有機過酸化物を混練させた際にスコーチ(早期架橋)を起こし、作業性を著しく低下させるという問題も生じる。
【0009】
そこで特許文献1には、ジアルキルパーオキサイド型の有機過酸化物とパーオキシモノカーボネート型もしくは、パーオキシケタール型の有機過酸化物を任意の割合で配合することにより、架橋時間の短縮と発泡の問題を解決する方法が示されている。しかしながら、太陽電池市場の拡大に伴い、更なる架橋時間の短縮が望まれるようになり、半減期温度の高いジアルキルパーオキサイド型を含まずに、さらに短時間で架橋することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−26791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のような有機過酸化物の配合では、確実に発泡(膨れ)を防止できないことが知見された。そこで、本発明者が鋭意検討の結果、ある特定の有機過酸化物のみを配合することによって、太陽電池モジュールにおける膨れを確実に防止できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的とするところは、有機過酸化物に起因する膨れを確実に防止できる、太陽電池モジュール用封止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのための手段として、本発明は、EVAと、有機過酸化物とを含有する太陽電池モジュール用封止材であって、前記有機過酸化物として、下記一般式で示される有機過酸化物(1)と有機過酸化物(2)の重量比が(1)/(2)=100/10〜100/100であることを特徴とする。
【化1】
【化2】
【0014】
このとき、前記有機過酸化物の含有量は、前記EVA100重量部に対して、0.1〜3.0重量部とする。また、EVA中の酢酸ビニルより形成される構造単位は、25〜35重量%であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、その下限(○○)と上限(××)とを含む概念である。したがって、正確に表せば「○○以上××以下」となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の封止材によれば、EVAに対して特定の有機過酸化物のみを配合していることによって、封止材の良好な耐候性、接着性、耐熱性などを担保しながら、EVAを短時間で架橋できると共に、さらに太陽電池モジュールの各界面における発泡(膨れ)を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一般的な太陽電池モジュールの基本的構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の封止材は、太陽電池モジュールにおいて、光入射側表面に配されるガラス板と基板側に配されるバックシートとを接着し、その間に配された太陽電池用セル(素子)を封止するためのものであって、EVAと、所定の有機過酸化物のみとを含有する。適用対象となる太陽電池モジュールは、上記基本的構成となるものであれば特に限定されず、例えば結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、銅インジウムセレナイド太陽電池、及び化合物半導体太陽電池等が挙げられる。
【0019】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、封止材の主体を成す成分である。EVA中における酢酸ビニルの含有率、すなわち酢酸ビニルより形成される構造単位は、25〜35重量%が好ましい。酢酸ビニルの含有率が35重量%を超えると、粘着性が増大して取り扱いが困難になる。一方、酢酸ビニルの含有率が25重量%未満になると、封止材が硬くなるため加工性が低下し、また、封止材は硬化に伴い緩衝材としての機能が低下するため、封止材で保護されている太陽電池用セルが衝撃により割れやすくなるので好ましくない。
【0020】
(有機過酸化物)
本発明の封止材には、有機過酸化物として、下記一般式(1)で示されるt−ブチル−(2−エチルヘキシル)モノパーオキシカーボネートと下記一般式(2)で示される1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサンが、(1)/(2)の重量比が100/10〜100/100の割合で配合される。有機過酸化物(1)と有機過酸化物(2)を100/10〜100/100の割合で配合することで、封止材の良好な耐候性、接着性、耐熱性などを担保しながら、EVAを短時間で架橋できると共に、さらに太陽電池モジュールの各界面における発泡(膨れ)を抑制できる。
【0022】
封止材中における有機過酸化物の含有量は、EVA100重量部に対して0.1〜3.0重量部とし、より好ましくは0.3〜2.5重量部とする。EVA100重量部に対して有機過酸化物の含有量が0.1重量部未満では、架橋反応後のEVAのゲル分率(架橋度)が低くかったり、架橋時間が長くなるため、実用に適さない。一方、EVA100重量部に対して有機過酸化物の含有量が5.0重量部を超えると、EVAの架橋が速く、太陽電池モジュール製造時の使い勝手が著しく悪くなり、さらには混合有機過酸化物の残存を引き起こす。この混合有機過酸化物の残存は封止材の着色等を引き起こし、封止材の光透過性を低下させるため、封止材の間に配置される太陽電池用セルの受光量が低減し、結果的に太陽電池モジュールにおける光電変換効率が低下する。
【0023】
(その他の添加剤)
本発明の封止材には、必要に応じてその他種々の添加剤を配合することができる。例えば、接着性を高めるためにカップリング剤を配合することができる。カップリング剤としては、例えば有機珪素化合物や有機チタン化合物を挙げることができる。有機珪素化合物としては、ビニル基、メタクリロキシアルキル基、アクリロキシアルキル基、エポキシ基のような反応性有機基と、ハロゲン、アルコキシ基、アセトキシ基のような加水分解性基とを有する化合物を例示できる。具体的には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランのような不飽和基を有する化合物の1種または2種以上を使用できる。カップリング剤は、EVA100重量部に対して、0.1〜10重量部程度、好ましくは0.5〜5重量部程度配合すればよい。
【0024】
また、架橋速度や架橋効率を高めるために、架橋助剤を配合することができる。架橋助剤としては、例えばポリアリル化合物やポリ(メタ)アクリロキシ化合物のような多不飽和化合物等を挙げることができる。具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエートのようなポリアリル化合物、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートのようなポリ(メタ)アクリロキシ化合物の1種または2種以上を使用できる。
【0025】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを配合することもできる。酸化防止剤としては、例えばフェノール系安定剤、硫黄系安定剤、燐酸系安定剤などが挙げられる。光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等が挙げられる。着色剤としては、例えば酸化チタン等が挙げられる。添加剤として高分子化合物を添加する場合は、比較的分子量の大きい低揮発性のものが好ましい。
【0026】
(製造方法)
封止材は、EVA、所定の有機過酸化物、及び必要に応じて適宜配合されるその他の添加剤を含む組成物を、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどの汎用の混練装置を使用して、実質的に有機過酸化物が分解しない温度、具体的には50〜110℃程度で混練し、一般的には押出成形やカレンダー成形等によりシート状にされる。シート状とする場合は、その厚みは0.1〜1.0mm程度とすればよい。なお、封止材の形状は、太陽電池モジュールの形状などに合わせて適宜変更可能であり、シート状に限定されるものではない。
【0027】
その後は、従来から公知の方法にて太陽電池モジュールを製造すればよい。すなわち、太陽電池用セルを少なくとも2枚の封止材で挟み、その両外側にガラス板及びバックシートを重ね合わせた状態で、有機過酸化物の分解温度以上、具体的には115℃以上、好ましくは120℃以上の温度で加熱・加圧することにより接着・封止することで、太陽電池モジュールを製造できる。なお、より接着性を高めるため、ガラス板やバックシートは予めプライマー処理しておくと好ましい。また、封止材は太陽電池用セルにラミネートしておくこともできる。
【0028】
加熱は、有機過酸化物がほぼ完全に分解するまで行うことが好ましい。この加熱処理により、EVAが架橋され、封止材とその他の構成要素とが強固に接着される。加熱処理は、二段階で行うこともできる。例えば、真空条件下において1〜5分程度加熱して仮接着を行い、次いで常圧下にてさらに5〜30分程度加熱して完全に接着することもできる。このようにして製造される太陽電池モジュールの封止材においては、EVAの架橋密度の指標となるゲル分率が80%以上、好ましくは90%以上となっていることが好ましい。
【実施例】
【0029】
EVA(酢酸ビニル含有量28重量%)100重量部に対して、表1,2に示す有機過酸化物を表1,2に示す割合で配合した各種封止材組成物を、80℃で押出成形により加熱圧延することにより0.5mm厚のシート状封止材を形成した。
【0030】
なお、比較例として使用した有機過酸化物は、下記一般式(3)・(4)で表される。
1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン:
【化5】
n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート:
【化6】
【0031】
得られた各実施例及び比較例の封止材に対して、発泡試験(膨れ性の判定)と、架橋度の指標となるゲル分率の測定を行った。その結果も表1,2に示す。発泡試験及びゲル分率の測定は、以下のようにして行った。
【0032】
<発泡試験>
各実施例および比較例の封止材を、縦3cm×横6cmに切り出し、MSパウチフィルム(株式会社明光商会製)に挟み、加熱してラミネート加工したものを135℃で4分間加熱し、その際に発生するガスによるフィルムの膨れを目視で観察し、評価した。
比較例2と同レベル以下の発泡の場合○、比較例2よりも発泡が顕著な場合を×として評価した。
【0033】
<ゲル分率の測定>
各実施例および比較例の封止材を用いて、JSRトレーディング(株)製キュラストメーターV型により、135℃で4分架橋を行った。架橋後のEVA封止材を秤量し(Xg)、これを110℃のキシレン中に12時間浸漬して、110℃のキシレン中で洗浄・乾燥させた200メッシュの金網で不溶解分をろ過し、金網上の残渣を真空乾燥して乾燥残渣の重量を測定し(Yg)、ゲル分率を算出した(ゲル分率(重量%)=(Y/X)×100)。
【0034】
<スコーチ時間>
JIS K 6300−2:2001に準じて、各実施例および比較例の封止材を用いて、JSRトレーディング(株)製キュラストメーターV型により、上型及び下型の温度を設定し、±1°の振幅角度でトルク測定を行った。100℃で架橋した場合の最小トルク値から0.1N・mに達するまでの時間をスコーチ時間として求めた。スコーチ時間が45分以上の場合を○、45分未満の場合を×として評価した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1の結果から明らかなように、EVAに対して一般式(1)および(2)で示される所定の有機過酸化物を(1)/(2)の重量比が100/10〜100/100で配合した封止材であれば、スコーチや発泡を抑制することができ、ゲル分率が80%以上となる太陽電池用封止材が得られた。一方、比較例1においては、有機過酸化物が5.0重量部含まれているため、熱分解によるガスの発生量が多く発泡が生じた。比較例2および3においては、有機過酸化物(2)単体もしくは重量比が高いためスコーチが生じた。比較例4および5においては、有機過酸化物の熱分解によりガスが発生し発泡が生じ、有機過酸化物(2)が含まれていないため、架橋時間の短縮が困難であった。比較例6および7においては、有機過酸化物の熱分解によりガスが生じ発泡が生じた。
【符号の説明】
【0038】
101 太陽電池用セル
102 ガラス板
103 バックシート
104 封止材