(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載されているようなセラミックフィルタや機械式サイクロンは、排ガスを通気する際の抵抗が大きいため、除塵に伴う圧力損失が大きい。高速の排ガス、すなわち流速が比較的大きい排ガスの場合、圧力損失はさらに大きくなる。それゆえ、上記のような従来の除塵手段は、高速の排ガスに適用することが容易ではない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、より少ない圧力損失で、高速の排ガスに含まれる粉塵を効果的に除去することが可能な、新規かつ改良された高速排ガス処理用フィルタおよび高速排ガス除塵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、高速の排ガスが通過する複数のセル通路を有し、各セル通路の内壁面には液体が散布され、該液体によって排ガスに含まれる粉塵を捕集することを特徴とする、高速排ガス処理用フィルタが提供される。
【0008】
かかる構成によれば、排ガスの流路がセル通路として確保されるため、フィルタに排ガスを通気する際の抵抗を抑えることができる。従って、排ガスが高速の場合でも、除塵に伴って生じる圧力損失を抑制することができる。また、セル通路の内壁面に液体を散布することによって、乱流や慣性衝突を利用して効率よく粉塵を捕集することができる。
【0009】
上記の高速排ガス処理用フィルタにおいて、複数のセル通路は、ハニカム構造をなしていてもよい。さらに、各セル通路の断面形状は、六角形であってもよい。このように、フィルタをハニカム構造(断面においてセル通路が平面充填されている構造)にすることによって、セル通路、すなわち排ガスの流路をより広く確保することができ、抵抗をさらに抑えることができる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記の高速排ガス処理用フィルタと、液体を散布する散布手段とを有することを特徴とする高速排ガス除塵装置が提供される。この高速排ガス除塵装置において、排ガスは例えば上向きに通気される。このとき、液体の液滴落下速度が排ガスの流速よりも小さい場合には、散布手段が高速排ガス処理用フィルタの下方に設置されてもよい。また、液体の液滴落下速度が排ガスの流速よりも大きい場合には、散布手段が高速排ガス処理用フィルタの上方に設置されてもよい。このように、フィルタと散布手段との配置を、排ガスの流速や液滴の粒径などに応じて調整することで、セル通路の内壁面に確実に液体を散布し、効率よく粉塵を捕集することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、より少ない圧力損失で、高速の排ガスに含まれる粉塵を効果的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(1.フィルタの構成)
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る排ガス処理用フィルタの構造について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハニカムフィルタの斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカムフィルタのA−A矢視図である。
【0015】
図1および
図2を参照すると、ハニカムフィルタ1には、排ガスが通過する多数のセル通路2が形成されている。セル通路2は、例えば鋼板などの板材によって形成されるセル隔壁3によって区画される通路である。セル通路2は、六角形の断面形状を有し、排ガスの通気方向に直線状に延びている。なお、セル通路2の数は、例えばハニカムフィルタ1が配置されるダクトの断面積に応じて、図示された例よりも多くてもよいし、また少なくてもよい。
【0016】
ここで、セル通路2は、ハニカム構造をなしている。つまり、ハニカムフィルタ1の断面方向(A−A矢視方向)で見ると、セル通路2の断面は平面充填されている。このようにして、排ガスの流路であるセル通路2を広く確保すると、抵抗をさらに抑えることができる。
【0017】
ハニカム構造をなすセル通路2の断面形状は、図示された例のような六角形には限られず、例えば三角形や四角形など、平面充填が可能な他の形状であってもよい。なお、断面形状が六角形の場合、例えば折板材をセル隔壁3に用いることで容易にハニカムフィルタ1を製造できるという利点がある。
【0018】
以上から明らかなように、本明細書において、「ハニカムフィルタ」という用語は、断面においてセル通路が平面充填されている構造のフィルタを意味するのであって、必ずしもセル通路の断面形状が六角形であることを意味しない。
【0019】
一方、セル通路2の内壁面2iには、後述する散水ノズルによって水が散布されている。つまり、ハニカムフィルタ1に排ガスが通気される際、内壁面2iは水に濡れた状態である。それゆえ、排ガスに含まれる粉塵が乱流や慣性衝突によって内壁面2iに衝突すると、その粉塵は内壁面2iに捕集される。このようにして、ハニカムフィルタ1は、排ガスを除塵する。
【0020】
ハニカムフィルタ1では、上記のように内壁面2iで粉塵を捕集するため、目詰まりが発生する可能性がほとんどない。それゆえ、目詰まりによって生じる排ガス中の腐食物質による腐食劣化も生じにくい。従って、ハニカムフィルタ1は、例えば従来用いられてきた金属製の網状フィルタと比べると、より長期間にわたって使用することが可能である。なお、ハニカムフィルタ1の耐久性をさらに向上させるためには、セル隔壁3を、例えば亜鉛めっき鋼板やステンレス鋼板などの耐食性のある金属板で形成することが望ましい。
【0021】
上記のように、ハニカムフィルタ1では、排ガスの流路がセル通路2として確保されており、またセル通路2は直線状に延びているため、ハニカムフィルタ1に排ガスを通気する際の抵抗は小さい。それゆえ、排ガスが高速の場合でも、ハニカムフィルタ1が設置されることによって生じる圧力損失は小さい。従って、ハニカムフィルタ1を用いることによって、大量の排ガスを通気しながら除塵することが容易になる。
【0022】
本実施形態において、排ガスの流速は5m/s〜15m/s程度である。この場合、
図2に示すセル通路2の寸法は、例えばW,Dともに50mm〜150mm程度であることが望ましい。W,Dが50mm未満になると散水を内壁面2iに到達させることが難しくなり、W,Dが150mmを超えると内壁面2iに衝突する粉塵が少なくなるためである。
【0023】
また、この場合、ハニカムフィルタ1の長さLは、0.5m〜1.5m程度であることが望ましい。この長さLは、例えば、排ガスがセル通路2を通過する際の所要時間が0.1秒程度になることを目安にして設定されてもよい。
【0024】
なお、排ガスの流速が5m/s〜15m/sの範囲にない場合にも、ハニカムフィルタ1を用いて排ガスを除塵することは可能である。ただし、流速が5m/sを下回る場合、例えば他の方式のフィルタでも圧力損失がさほど問題にならない場合があるため、ハニカムフィルタ1を使用する有利性は、流速が5m/s以上の場合に比べて小さくなる。また、流速が15m/sを上回る場合、内壁面2iに衝突して捕集される粉塵は、流速が15m/s以下の場合に比べて少なくなる。
【0025】
(2.排ガス除塵装置の構成)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る排ガス除塵装置の構成について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る排ガス除塵装置の構成を示す図である。
【0026】
図3に示すように、上記で説明した高速排ガス処理用のハニカムフィルタ1は、内壁面2iに水を散布する散布手段である散水ノズル4と組み合わせられて、排ガス除塵装置5として提供されてもよい。図示された例において、排ガス除塵装置5は、排ガスが上向きに通気される略鉛直方向のダクトDに設置されている。
【0027】
この場合、散水ノズル4の設置位置は、散水ノズル4から噴射される水滴の落下速度V
Wと排ガスの流速V
Gとの大小関係に応じて異なる。なお、水滴の落下速度V
Wは、水滴が静止した排ガス中を落下すると仮定した場合の終端速度であり、水滴の粒径が大きいほど大きくなる。V
W<V
Gである場合、噴射後の水滴は上昇するため、(a)に示すように、散水ノズル4aがハニカムフィルタ1の下方に設置される。一方、V
W>V
Gである場合、噴射後の水滴は下降するため、(b)に示すように、散水ノズル4bがハニカムフィルタ1の上方に設置される。なお、排ガスの流速が変動し、V
WとV
Gとの大小関係が変化するような場合には、散水ノズル4aと散水ノズル4bとが両方設置されてもよい。
【0028】
いずれの場合も、散水ノズル4の配置は、散水ノズル4の噴角と、散水ノズル4からハニカムフィルタ1までの距離とに基づいて、内壁面2iの全体に散布された水が行き渡るように決定される。図示されているように、ハニカムフィルタ1の断面積が広い場合、複数の散水ノズル4がハニカムフィルタ1に沿って配列されてもよい。なお、散水ノズル4から散布される液体は、必ずしも水でなくてもよく、例えば他の不揮発性の液体であってもよい。
【0029】
かかる排ガス除塵装置5は、必ずしも図示されているように排ガスが上向きに通気されるダクトDに設置されなくてもよい。例えば、排ガスは下向きに通気されてもよい。この場合、散水ノズル4は、排ガスの流速に関わらずハニカムフィルタ1の上方に設置される。また、排ガス除塵装置5は、水平方向や斜め方向のダクトに設置されてもよい。
【実施例】
【0030】
続いて、本発明の実施例について説明する。本実施例では、以下の表1に示すように、上記の実施形態に係るハニカムフィルタ1と同様のハニカムフィルタが設置される実施例と、フィルタが設置されない比較例と、金属製の網状フィルタが設置される比較例とについて、排ガスの流速、散水量、およびハニカムフィルタの長さを変化させて、粉塵捕集率および圧力損失を測定する試験を実施した。
【0031】
上記試験では、粉塵として、JIS Z8901に定める試験用粉体1の1種および2種(けい砂)を1:1の比率で混合したものを使用した。かかる粉塵の主な粒径は、30μm〜200μmであり、真密度は2.6g/cm
3である。試験では、この粉塵を発塵濃度0.43g/m
3で気流中に供給し、この気流を60cm四方の角形のダクトに上向きに通気した。気流の流速は、5m/s、8m/s、および10m/sの3段階で変動させた。
【0032】
また、ハニカムフィルタとしては、
図2に示すセル通路の寸法がW=115mm、D=70mmのものを設置した。なお、セル隔壁には、亜鉛めっき鋼板の折板を使用した。ハニカムフィルタの長さLは、0.5mおよび1.0mの2段階で変動させた。
【0033】
さらに、試験では、実施例、比較例ともに、フィルタ設置部分の下方に散水ノズルを設置し、フィルタ設置部分に向けて散水した。フィルタが設置される場合のフィルタと散水ノズルとの間の距離は115mm、散水ノズルの水圧は0.3kN/cm
2である。各実施例および比較例での粉塵捕集率は、散水ノズルによって散水された水とともに流れ落ちた粉塵を回収し、回収された粉塵と供給された粉塵との質量比を求めることによって算出した。
【0034】
なお、散水ノズルの散水量は、12.89l/minおよび6.67l/minの2段階で変動する。散水量が12.89l/minの場合、散水ノズルの噴角は70°、水滴の平均粒径は260μm、水滴の平均落下速度は2m/sである。散水量が6.67l/minの場合、散水ノズルの噴角は80°、水滴の平均粒径は220μm、水滴の平均落下速度は1.4m/sである。
【0035】
【表1】
【0036】
(フィルタ種類の比較)
以下、上記の結果について検討する。まず、気流の流速が5m/sの場合(比較例3、実施例2)と、10m/sの場合(比較例4、実施例7)とについて、フィルタの種類による粉塵捕集率および圧力損失の変化について検討する。なお、上記の試験では、フィルタが設置されない場合(比較例1,2)も、ダクトの壁面に付着した粉塵が回収されるため、粉塵捕集率は0%にはならない。
【0037】
流速が5m/sの場合、実施例2(ハニカムフィルタ)と比較例3(網状フィルタ)との間では、粉塵捕集率はほぼ同じである(実施例2では86.9%、比較例3では85.2%)。一方で、実施例2の方が、比較例3よりも圧力損失がやや少ない(実施例2では20.5kPa、比較例3では23.5kPa)。
【0038】
流速が10m/sの場合、実施例7(ハニカムフィルタ)の方が、比較例4(網状フィルタ)よりも粉塵捕集率が高い(実施例7では68.5%、比較例4では55%)。加えて、実施例7の方が、比較例4よりも圧力損失が大幅に少ない(実施例7では37.2kPa、比較例4では53.9kPa)。
【0039】
以上の結果から、本発明の実施形態に係るハニカムフィルタは、網状フィルタ以上の粉塵捕集率を実現しつつ、圧力損失を網状フィルタよりも少なく抑える効果を奏することが実証された。また、流速がより大きい場合、上記の効果がより顕著になることも実証された。
【0040】
(ハニカムフィルタの長さの影響)
次に、ハニカムフィルタ1の長さLの影響について検討する。上記の試験では、流速が5m/sの場合(実施例1,2)と流速が10m/sの場合(実施例5,7)とについて、L=0.5mとL=1.0mとの2通りで測定を実施した。
【0041】
流速が5m/sの場合、実施例2(L=1.0m)の方が、実施例1(L=0.5m)よりも粉塵捕集率が高い(実施例2では86.9%、実施例1では55.3%)。一方で、実施例2と実施例1との間では、圧力損失にはほとんど差がない(実施例1、実施例2ともに20.5kPa)。
【0042】
流速が10m/sの場合、実施例7(L=1.0m)の方が、実施例5(L=0.5m)よりも粉塵捕集率が高い(実施例7では68.5%、実施例5では54.1%)。一方で、実施例7の方が、実施例5よりも圧力損失が大きくなるが、その差は粉塵捕集率の差に比べると小さい(実施例7では37.2kPa、実施例5では35.3kPa)。
【0043】
以上の結果から、本発明の実施形態に係るハニカムフィルタの長さは、粉塵捕集率には大きく影響するが、圧力損失にはさほど影響しないことがわかった。従って、例えば実施形態で説明したような所定の長さの範囲内であれば、ハニカムフィルタの長さを調整することによって、圧力損失の増加を抑えつつ粉塵捕集率を向上させることが可能であるといえる。
【0044】
(散水量の影響)
次に、散水量の影響について検討する。ハニカムフィルタの試験では、流速が8m/sの場合(実施例3,4)と流速が10m/sの場合(実施例6,7)とについて、散水量が6.67l/minと12.89l/minとの2通りで測定を実施した。一方、網状フィルタの試験では、散水量は12.89l/minで測定を実施した。
【0045】
上記の試験において、ハニカムフィルタで散水量が6.67l/minの場合(実施例6)と、網状フィルタで散水量が12.89l/minの場合(比較例4)とを比較すると、ハニカムフィルタの場合、散水量が網状フィルタの場合の約半分であるにもかかわらず、粉塵捕集率は網状フィルタの場合よりも向上していることがわかる(実施例6では63.8%、比較例4では55%)。
【0046】
一方、ハニカムフィルタで散水量が異なるケースを比較すると、ハニカムフィルタでは、散水量の増加が必ずしも粉塵捕集率の際立った向上をもたらすとは限らないことがわかる。具体的には、流速が8m/sの場合、実施例4(散水量12.89l/min)の方が、実施例3(散水量6.67l/min)よりも、粉塵捕集率が高く(実施例4では68.7%、実施例3では65.2%)、圧力損失も大きい(実施例4では31.3kPa、実施例3では26.4kPa)。しかしながら、ここでの粉塵捕集率および圧力損失の差は、他の実施例の間での差に比べると小さい。
【0047】
また、流速が10m/sの場合、実施例7(散水量12.89l/min)の方が、実施例6(散水量が6.67l/min)の方が、粉塵捕集率が高く(実施例7では68.5%、実施例6では63.8%)、圧力損失も大きい(実施例7では37.2kPa、実施例6では36.2kPa)。しかしながら、ここでの粉塵捕集率および圧力損失の差も、他の実施例の間での差に比べると小さい。
【0048】
以上の結果から、本発明の実施形態に係るハニカムフィルタでは、網状フィルタよりも少ない水量で十分な除塵効果が発揮され、また内壁面の全体に行き渡る程度に散水がされていれば、それ以上の散水は必ずしも必要ではないことがわかった。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。