特許第5928023号(P5928023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928023
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】非水系白色インクジェットインク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20160519BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20160519BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160519BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   C09D11/322
   C09D11/36
   B41J2/01 501
   B41M5/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-57507(P2012-57507)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189566(P2013-189566A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大輔
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−081517(JP,A)
【文献】 特開2008−081578(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/102214(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)、バインダー樹脂からなり、
前記バインダー樹脂がアクリル系樹脂であり、
前記酸化チタン顔料(A)の表面がアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理されていることを特徴とする、非水系白色インクジェットインク組成物。
【請求項2】
記有機溶剤(C)として、少なくともアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤を含有することを特徴とする、請求項記載の非水系白色インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記酸化チタン顔料(A)を、インク組成物全量に対し8〜20重量%含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の非水系白色インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤(C)として、さらに乳酸エステル系溶剤を含有することを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載の非水系白色インクジェットインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系の白色インクジェットインク組成物であって、白色顔料として使用される酸化チタン顔料の沈降を抑制し、かつ、保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れたインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷に用いられるインク組成物は、その組成によって溶剤型・油性型・水性型・活性エネルギー線硬化型等に分類される。このうち溶剤型のインクジェットインク組成物は、他のインク組成物と比較して、保存安定性に優れる、耐擦過性や耐候性といった印刷物の塗膜耐性が良好である、等の特徴があり、屋外広告用途をはじめ様々な用途で用いられている。
【0003】
溶剤型インクジェット印刷の主な使用用途である屋外広告では従来、コスト・耐久性・延伸性等の点から、白色の軟質塩ビ基材が選択されることがほとんどであった。しかしながら最近では、意匠性向上を目的として透明な塩ビ基材の使用量が増加している。また近年では、塩ビ基材に限らず種々の基材に対する密着性や印字特性に優れた溶剤型インクジェットインク組成物が開発されており、PET・ABS・ポリスチレン・ポリプロピレン・ガラス等様々な基材に対して印刷が行われている(特許文献1、2参照)
【0004】
前記の透明基材、あるいは有色基材に対してカラーインクのみで印刷した場合、基材の色味の影響を受けてしまい、発色性の劣る画像が得られてしまう。そこで、印刷物の発色性や意匠性を高める目的で、通常のカラーインクに加え白色インクを併用することが知られている。例えば、白色インクを印字したのち通常の印刷を行うことで、基材の色の影響を遮断し印刷物の発色性を高めることができる(特許文献3参照)。
【0005】
以上のような背景のもと現在は、溶剤型の白色インクジェットインク組成物の開発が進められている。その際、汎用性が高い点や低コストである点から、白色顔料として酸化チタンが選択されることが多い。
【0006】
その一方で酸化チタンには、インク組成物中で沈降・分離を引き起こしやすいという問題点が存在する。そこでこれまでに、溶剤型白色インクジェットインク組成物に関して、酸化チタン顔料の沈降をできるだけ抑制しようとする種々の検討がなされている。例えば特許文献4および特許文献5では、酸化チタンの表面をシリカ・アルミナ・ポリシロキサンで被覆処理するとともに、併用する材料種を規定することで、顔料の沈降を抑制しようとするものである。しかしながら、前記処理によって顔料の沈降を抑制したインク組成物に対し、さらに多基材密着性を付与させるために基材浸食性の強い溶剤や極性基を有する溶剤を添加すると、顔料と前記溶剤との間に何らかの相互作用が発生し、結果として顔料の沈降を抑制できなくなってしまう。以上のように、酸化チタン顔料の沈降抑制能、隠蔽性・密着性等の印刷物特性、さらには溶剤型インクジェットインク組成物の特徴である保存安定性といったインク特性の全てを有するような溶剤型インクジェットインク組成物は、いまだ得られていない現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2009−114301号公報
【特許文献2】特開2011−144288号公報
【特許文献3】特開2004−018546号公報
【特許文献4】特開2009−191221号公報
【特許文献5】特許第4672270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、非水系の白色インクジェットインク組成物であって、白色顔料として使用される酸化チタン顔料の沈降を抑制し、かつ、保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れたインク組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、非水系の白色インクジェットインク組成物であって、白色顔料として使用される酸化チタン顔料の沈降を抑制し、かつ、保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れたインク組成物を提供するべく鋭意検討を行った結果、インク組成物中に酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)を含有させ、かつ前記酸化チタン顔料(A)の表面をアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理することにより前記問題点が解決されることを見出して本発明を成したものである。
【0010】
すなわち本発明とは、以下の(1)〜()の発明に関するものである。
(1)少なくとも酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)、バインダー樹脂からなり、
前記バインダー樹脂がアクリル系樹脂であり、
前記酸化チタン顔料(A)の表面がアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理されていることを特徴とする、非水系白色インクジェットインク組成物。
(2)前記有機溶剤(C)として、少なくともアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤を含有することを特徴とする、(1)に記載の非水系白色インクジェットインク組成物。
(3)前記酸化チタン顔料(A)を、インク組成物全量に対し8〜20%含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の非水系白色インクジェットインク組成物。
(4)前記有機溶剤(C)として、さらに乳酸エステル系溶剤を含有することを特徴とする、(1)〜(3)いずれかに記載の非水系白色インクジェットインク組成物。


【発明の効果】
【0011】
インク組成物中に酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)を含有させ、かつ前記酸化チタン顔料(A)の表面をアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理することにより、非水系の白色インクジェットインク組成物であって、白色顔料として使用される酸化チタン顔料の沈降を抑制し、かつ、保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れたインク組成物を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)を含有する非水系白色インクジェットインク組成物において、前記酸化チタン顔料(A)の表面をアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理することで、インク組成物中の顔料の沈降を抑制するとともに、前記インク組成物を使用することで保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れた印刷物を得ることができる、というものである。
【0013】
なお本明細書において「非水系」とは、インク組成物に意図的に水や重合性モノマーを含有させないことを意味するものであり、各配合成分中に含まれる微量の水分や重合性モノマー分を除外するものではない。
【0014】
一般に、白色インク組成物において印刷物の隠蔽性を向上させるためには着色成分である酸化チタン顔料(A)の配合量を増やす必要が、また顔料の分散性を向上させることで沈降を抑制し保存安定性を良化させるためには、インク組成物中に適量の分散剤(B)を配合する必要がある。しかしながら顔料成分を増加させたり、分散剤(B)を併用したりすることで、インク組成物の粘度もまた上昇することになる。インクジェット印刷に使用するためにはインク組成物の粘度を低く抑える必要があるため、前記の所作を施す場合には、印刷物の基材密着性や塗膜耐性等に寄与するバインダー樹脂等の配合量を減らさなければならない。
【0015】
したがって、印刷物の隠蔽性を保持しインク組成物の粘度を抑えながら、顔料の沈降を抑制し保存安定性や基材密着性を維持・向上させるためには、顔料の選択が特に重要となる。
【0016】
本発明においては、顔料の分散性を向上させることで沈降を抑制し保存安定性を良化させるため、酸化チタン顔料(A)の表面をアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理している。アルミナには表面の疎水性を高め分散剤を吸着しやすくする効果が、またジルコニアには顔料の耐候性や機械的強度を向上させる効果があることが知られている。その一方で、アルミナやジルコニアのような無機材料により顔料の表面を被覆することで、有機物である分散剤(B)との親和性が低くなってしまい、結果として分散剤の顔料に対する吸着率が低下してしまうことになる。
【0017】
そこで本発明では、アルミナ・ジルコニアに加えて有機物による処理を行っている。顔料表面を有機物で処理することで、分散剤(B)との親和性を高め分散剤の吸着率を向上させることができるようになる。
【0018】
すなわち、酸化チタン顔料(A)表面の処理にアルミナ・ジルコニア・有機物を併用することで、分散剤(B)との吸着率を向上でき、結果として分散剤(B)の配合量を減らすことができる。またその結果、バインダー樹脂等の配合量を増やすことができ、印刷物の密着性や塗膜耐性を向上させることができる。なお塗膜耐性についてはさらに、顔料の表面処理に使用したジルコニアによっても改善が期待できる。
【0019】
以上のように、分散性(上述のように顔料の沈降抑制および保存安定性に影響を及ぼす)・隠蔽性・基材密着性のすべてを確保するためには本発明の要件が不可欠であるが、これらの品質を有効に引き出すためには、酸化チタン顔料(A)や分散剤(B)の配合量のコントロールが重要となる。酸化チタン顔料(A)に対し分散剤(B)を配合する割合としては、酸化チタン顔料(A)の配合重量を100とした場合、2.5〜20であることが好ましく、5〜15であることがより好ましい。この比率が2.5よりも小さい場合は、酸化チタン顔料(A)に対する分散剤(B)の絶対量が不足してしまい、前記の表面処理を施したとしても十分な分散性が得られず、沈降を抑制することができなくなる。逆に20よりも多い場合は、分散剤(B)の量が過剰となるため、バインダー樹脂等の配合量が不足し、印刷物の密着性や塗膜強度を向上させることができなくなる。
【0020】
本発明のインク組成物中に含有される、表面がアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理された酸化チタン顔料(A)は、従来より公知の材料および技術によって得ることができる。アルミナ・ジルコニア・有機物により表面が処理された酸化チタンの市販品としては、例えば石原産業社製のタイペークCR−57、タイペークCR−SUPER70、タイペークPF−699、タイペークPF−739、タイペークPF−740、タイペークUT−771等を挙げることができる。
【0021】
また酸化チタン顔料(A)は、アルミナ・ジルコニア・有機物のうち一部の成分で処理された酸化チタン、または表面が処理されていない酸化チタンに対し、公知の材料および技術によって残りの成分を処理することによっても得ることができる。例えば、アルミナおよびジルコニアで処理された酸化チタンの市販品として例示される、石原産業社製タイペークCR−97やテイカ社製JR−603等に対して有機物処理を施すことで、本発明の酸化チタン顔料(A)を得ることができる。
【0022】
本発明の酸化チタン顔料(A)の表面処理に利用される有機物は、一般的に酸化チタンに適用されるものであれば制限はない。例示すると、シロキサン系化合物、シランカップリング剤等の有機シリコン系化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、ステアリン酸等の高級脂肪酸等を挙げることができる。以上の有機物は単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0023】
本発明の酸化チタン顔料(A)では、ルチル型、アナターゼ型、ブルーカイト型といった結晶形態のものをいずれも好適に用いることができるが、光透過性が低く隠蔽性が高いルチル型がより好適に用いられる。
【0024】
本発明の酸化チタン顔料(A)をインク組成物中に分散させたときの平均粒径としては100〜500nmであることが好ましく、150〜350nmであることがより好ましく、200〜300nmであることが特に好ましい。ここで酸化チタン顔料(A)の平均粒径が100nmを下回ると、印刷物の隠蔽性が不十分になるうえ、顔料の表面積が大きくなりすぎるため、表面処理を施したとしても分散安定性が悪化してしまい好ましくない。逆に平均粒径が500nmを上回ると、インクジェット吐出性が悪化してしまうため好ましくない。
【0025】
なお、インク組成物中の酸化チタン顔料(A)の平均粒径の測定にはマイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を使用した。
【0026】
本発明の白色顔料(A)の含有量は、インク組成物全量に対し8〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜18重量%である。ここで含有量が8重量%に満たない場合は、印刷物の隠蔽性が不十分となり、含有量が20重量%を越えると、インク組成物の粘度を好適な範囲内に収めることができず、結果として吐出ができなくなる。
【0027】
上述の通り、本発明では酸化チタン顔料(A)の沈降を抑制するため、分散剤(B)が使用される。分散剤は主に、顔料吸着サイトとして酸性基をもつ酸性分散剤と、塩基性基をもつ塩基性分散剤とに分類されるが、本発明においては、有機溶剤(C)に対する親和性や、インク組成物の保存安定性の点で、分散剤(B)として塩基性分散剤を選択することが好ましい。
【0028】
本発明において使用される分散剤(B)は、公知の材料から選択することができる。具体的には、塩基性分散剤としてルーブリゾール社製のソルスパーズ11200、ソルスパーズ13240、ソルスパーズ13650、ソルスパーズ13940、ソルスパーズ16000、ソルスパーズ17000、ソルスパーズ18000、ソルスパーズ20000、ソルスパーズ24000SG、ソルスパーズ24000GR、ソルスパーズ28000、ソルスパーズ31845、ソルスパーズ32000、ソルスパーズ32500、ソルスパーズ32550、ソルスパーズ32600、ソルスパーズ33000、ソルスパーズ34750、ソルスパーズ35100、ソルスパーズ35200、ソルスパーズ37500、ソルスパーズ38500、ソルスパーズ39000、ソルスパーズ56000、ソルスパーズ71000、ソルスパーズ76400、ソルスパーズ76500、ソルスパーズX300、ソルスパーズ9000、ソルスパーズJ200、ビックケミー社製のDISPERBYK−108、DISPERBYK−109、DISPERBYK−112、DISPERBYK−116、DISPERBYK−130、DISPERBYK−161、DISPERBYK−162、DISPERBYK−163、DISPERBYK−164、DISPERBYK−166、DISPERBYK−167、DISPERBYK−168、DISPERBYK−182、DISPERBYK−183、DISPERBYK−184、DISPERBYK−185、DISPERBYK−2000、DISPERBYK−2008、DISPERBYK−2009、DISPERBYK−2022、DISPERBYK−2050、DISPERBYK−2150、DISPERBYK−2155、DISPERBYK−2163、DISPERBYK−2164、BYK−9077、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPB821、PB822、PB823、PB824、PB827等が挙げられる。また酸性分散剤として、ルーブリゾール社製のソルスパーズ3000、ソルスパーズ21000、ソルスパーズ26000、ソルスパーズ36600、ソルスパーズ36600、ソルスパーズ41000、ソルスパーズ41090、ソルスパーズ43000、ソルスパーズ44000、ソルスパーズ46000、ソルスパーズ47000、ソルスパーズ55000、ビックケミー社製のDISPERBYK−102、DISPERBYK−111、DISPERBYK−170、DISPERBYK−171、DISPERBYK−174、DISPERBYK−2096、BYK−P104、BYK−P104S、BYK−P105、BYK−220Sが挙げられる。さらに、分子中に酸性基、塩基性基のどちらも含有する分散剤として、ルーブリゾール社製のソルスパーズ26000、ソルスパーズ53095、ビックケミー社製のDISPERBYK−101、DISPERBYK−106、DISPERBYK−140、DISPERBYK−142、DISPERBYK−180、DISPERBYK−2001、DISPERBYK−2025、DISPERBYK−2070、BYK−9076が挙げられる。
【0029】
以上の分散剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上併用されてもよいが、配合量については上述の通り、酸化チタン顔料(A)の配合量をもとに設定しなければならない。
【0030】
本発明においては、印刷物の耐擦過性・薬品性・耐候性といった塗膜耐性や、延伸性、基材に対する密着性を向上させるため、分散剤(B)の分子構造としてポリエステル系のもの、および/またはポリアクリル系のものを選択することが好ましい。
【0031】
本発明における有機溶剤(C)は、任意のものを使用することができるが、インク組成物の乾燥性や安全性の観点から、下記一般式(1)で示されるアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤を選択することが好ましい。
【0032】
一般式(1):R−CO(−OR−OR
(一般式(1)中、R〜Rはアルキル基を表す)
【0033】
本発明では、バインダー樹脂の溶解性やインク組成物の乾燥性の点から、一般式(1)中のRがC1〜C2のアルキル基、RがC2〜C3のアルキル基、RがC1〜C4のアルキル基であり、Zが1〜2であることが特に好ましい。
【0034】
本発明において好適に選択されるアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート等を挙げることができる。
【0035】
本発明においては、インク組成物の乾燥性制御、極性基による基材密着性向上、人体に対する安全性等の点から、前記アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤に加え、乳酸エステル系溶剤を併用することが好ましい。乳酸エステル系溶剤としては、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル、乳酸エチルヘキシル、乳酸アミル、乳酸イソアミル等が挙げられるが、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチルが特に好適に用いられる。
【0036】
また乳酸エステル系溶剤には、植物由来の乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤と、合成した乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤の2種が存在する。どちらの乳酸エステル系溶剤でも本発明は成立するが、環境への負荷が小さい点から、植物由来の乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤を選択するほうがより好ましい。
【0037】
本発明においてアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤と乳酸エステル系溶剤を併用する場合、インク組成物の乾燥性の点で、両者の配合重量比を1:4〜4:1とすることが好ましい。
【0038】
上述の通り、本発明では上記以外の溶剤を有機溶剤(C)として使用することができ、例えばテルペン系溶剤エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、アミド系溶剤、ラクトン系溶剤、環状イミド等を挙げることができる。
以上の有機溶剤(C)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明においては、印刷物の基材密着性や塗膜耐性等を向上させる目的で、バインダー樹脂を併用することが好ましい。使用されるバインダー樹脂としては公知のものを利用することができ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、塩酢ビ系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エチレン−酢ビ系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等を挙げることができる。具体的には、三菱レイヨン社製のBR−50、BR−52、MB−2539、BR−60、BR−64、BR−73、BR−75、MB−2389、BR−80、BR−82、BR−83、BR−84、BR−85、BR−87、BR−88、BR−90、BR−95、BR−96、BR−100、BR−101、BR−102、BR−105、BR−106、BR−107、BR−108、BR−110、BR−113、MB−2660、MB−2952、MB−3012、MB−3015、MB−7033、BR−115、MB−2478、BR−116、BR−117、BR−118、BR−122、ER−502、ウィルバー・エリス社製のA−11、A−12、A−14、A−21、B−38、B−60、B−64、B−66、B−72、B−82、B−44、B−48N、B−67、B−99N、DM−55、BASF社製のJONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL JDX−C3000、JONCRYL JDX−C3080、日信化学工業製のソルバイン樹脂CL、CNL、C5R、TA3、TA5R、ワッカー社製のビニル樹脂E15/45、H14/36、H40/43、E15/45M、E15/40M、荒川化学社製のスーパーエステル75、エステルガムHP、マルキッド 33、安原社製のYSポリスター T80、三井化学社製のHiretts HRT200X、サートマー社製SMA2625Pが挙げられる。以上のバインダー樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上併用されてもよい。
【0040】
前記のバインダー樹脂のうち、基材に対する密着性や、印刷物の耐擦過性・薬品性・耐候性といった塗膜耐性に優れている点から、アクリル系樹脂が特に好適に選択される。
【0041】
本発明においてバインダー樹脂を併用する場合、その配合量は、同じく高粘度成分である分散剤(B)の配合量を鑑みたうえで決定する必要がある。分散剤(B)に対するバインダー樹脂の配合量としては、分散剤(B)の配合重量を1とした場合、1〜30であることが好ましく、1.5〜25であることがより好ましい。ここで、分散剤(B)に対するバインダー樹脂の配合量が1よりも小さい場合は、バインダー樹脂の配合量が少なすぎるため、印刷物の密着性や塗膜強度が不足してしまう。逆に30よりも多い場合は、分散剤(B)の配合量が少なすぎるために、十分な顔料分散性が得られなくなる。
【0042】
インクジェットヘッドからインク組成物を安定に吐出させるため、本発明においてバインダー樹脂を使用する場合、その重量平均分子量Mwは70000以下であることが好ましく、10000〜50000であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量Mwはゲルパーミッションクロマトグラフィーによりスチレン換算分子量として求めることができる。
【0043】
本発明のインク組成物については、印刷適性や印刷物耐性を高めるため、表面調整剤、レベリング剤、酸化防止剤といった添加剤を必要に応じて使用することができる。
【0044】
本発明では、印刷物の画質やインク組成物の表面張力を制御・向上させる点から、添加剤としてレベリング剤を併用することが好ましい。中でもシリコン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、フッ素系レベリング剤を選択することが特に好ましい。
【0045】
本発明のインク組成物は、酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)、有機溶剤(C)の一部をサンドミル等の通常の分散機を用いてよく分散することで、あらかじめ顔料を高濃度に含有する濃縮液を作成したのち、残りの有機溶剤(C)で希釈するとともに、必要に応じてバインダー樹脂や添加剤を混合・溶解させて製造することが好ましい。この方法により通常の分散機による分散においても十分な分散が可能となり、過剰な分散エネルギーを必要とせず、また多大な分散時間を必要としないため、分散時の材料の変質を招きにくく、結果として安定性に優れたインク組成物を作成することができる。
【0046】
本発明のインク組成物は、ヘッドでの詰まりを防止するため、分散後および/またはバインダー樹脂の溶解後に、孔径3μm以下、好ましくは孔径1μ以下のフィルターにて濾過することが好ましい。
【0047】
本発明のインク組成物は、25℃での粘度を3〜20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、特に通常の4〜10KHzの周波数を有するヘッドから10〜50KHzの高周波数のヘッドにおいても安定した吐出特性を示す。
粘度が3mPa・s未満の場合は、高周波数のインクジェットヘッドにおいて、吐出の追随性の低下が認められ、20mPa・sを越える場合は、吐出量の低下を生じることで吐出の安定性が不良となり、最終的に全く吐出ができなくなることから好ましくない。
【0048】
本発明で用いられる印刷基材については特に限定はないが、軟質塩ビ、硬質塩ビ、ポリスチレン、発泡スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET、ポリカーボネート等のプラスチック基材やこれらの混合品または変性品、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の紙基材、ガラス、ステンレス等の金属基材等が挙げられる。
【0049】
[実施例]
以下実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の態様がこれらの例に限定されるものではない。なお以下については、部数は全て重量部を表す。また下記の実施例、比較例の詳細な条件を以下の表1〜2に、結果を表3に示す。
【0050】
なお、表1〜2に記載した略称は、それぞれ以下の材料を表すものである。
PF740:石原産業社製「タイペークPF−740」(酸化チタン顔料、アルミナ・ジルコニア・有機物処理品)
CR70:石原産業社製「タイペークCR−SUPER70」(酸化チタン顔料、アルミナ・ジルコニア・有機物処理品)
CR57:石原産業社製「タイペークCR−57」(酸化チタン顔料、アルミナ・ジルコニア・有機物処理品)
CR90:石原産業社製「タイペークCR−90」(酸化チタン顔料、シリカ・アルミナ処理品)
CR50:石原産業社製「タイペークCR−90」(酸化チタン顔料、アルミナ処理品)
PB821:味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB−821」(塩基性分散剤)
SP24000:ルーブリゾール社製「ソルスパース24000」(塩基性分散剤)
SP32000:ルーブリゾール社製「ソルスパース32000」(塩基性分散剤)
BYK111:ビックケミー社製「BYK−111」(酸性分散剤)
BR113、BR87、BR83、MB2389、ER502:三菱レーヨン社製アクリル系樹脂
J819、J586:BASF社製アクリル系樹脂
BGAc:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
DPMAc:ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
【0051】
[実施例1]
(酸化チタン分散体1の作成)
表1に記載した材料をハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約30分間分散して作製した。
【0052】
(インク組成物の作成)
表2に記載した材料を順次撹拌しながら添加・混合し、樹脂が溶解するまで穏やかに混合させた後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、粗大粒子を除去することでインクジェットインク組成物を得た。
【0053】
[実施例2〜実施例13]
実施例1と同様に、表1記載の通りに酸化チタン分散体1〜10を作製したのち、表2記載の通りにインク組成物を作製した。
【0054】
[比較例1〜比較例2]
実施例1と同様に、表1記載の通りに酸化チタン分散体11〜12を作製したのち、表2記載の通りにインク組成物を作製した。
【0055】
上記で作製したインク組成物の評価方法は以下の通りである。
【0056】
(顔料沈降性試験)
実施例1〜13、比較例1〜2で作成した各インク組成物を、側面が透明であるスクリュー管瓶(容量約20mL)に20mL取り分けたのち、25℃環境下に1日間静置した後のインク組成物を目視観察することで、顔料沈降性の評価を行った。このときの評価基準は以下の通りであり、△以上を顔料沈降性良好とする。
○:スクリュー管瓶内のインク組成物において、顔料が容器下部に沈降している様子が観察されない
△:スクリュー管瓶内のインク組成物において、顔料が容器下部に沈降している様子が観察されるものの、スクリュー管瓶を3回振ると、沈降していない状態に戻る
×:スクリュー管瓶内のインク組成物において、顔料が容器下部に沈降している様子が観察され、スクリュー管瓶を3回以上振っても、沈降していない状態に戻らない
【0057】
(保存安定性試験)
上記インク組成物をスクリュー管瓶(容量約20mL)に20mL取り分け密栓したのち、70℃環境下に1カ月間静置した後に測定した粘度を、作製直後の初期粘度と比較することで、経時安定性の評価を行った。粘度の測定には東機産業社製TVE25L型粘度計を使用した。またこのときの評価基準は以下の通りであり、△以上を経時安定性良好とする。
◎:経時試験後の粘度上昇が、初期粘度と比較して5%未満
○:経時試験後の粘度上昇が、初期粘度と比較して5%以上10%未満
△:経時試験後の粘度上昇が、初期粘度と比較して10%以上15%未満
×:経時試験後の粘度上昇が、初期粘度と比較して15%以上
【0058】
(密着性試験)
上記インク組成物について、バーコーターを用い膜厚12μmになるように、表面無処理かつ透明であるポリ塩化ビニル樹脂板、PET板、およびガラス板に塗工し、45℃環境下で乾燥させた。これらの塗膜にセロハン密着テープを貼り付け、上面から消しゴムでこすり、セロハン密着テープの塗工面への密着を充分に行った後、90°で剥離させることで、密着性の評価を行った。評価基準は以下の通りであり、評価を行った全ての基材で△以上である場合を密着性良好と判断する。
○:セロハン密着テープを剥離した後でも、塗膜の剥離が見られない
△:セロハン密着テープを剥離した後、塗膜の一部に剥離が見られる
×:セロハン密着テープを剥離した後、塗膜の全てが剥離する
【0059】
(隠蔽性試験)
上記で作製したポリ塩化ビニル樹脂板に対する塗膜を用い、マクベス社製TR−924濃度計で透過濃度を測定することで、隠蔽性の評価を行った。このときの評価基準は以下の通りであり、△以上を隠蔽性良好とする。
◎:透過濃度が0.6以上
○:透過濃度が0.45以上0.6未満
△:透過濃度が0.3以上0.45未満
×:透過濃度が0.3未満
【0060】
実施例1〜13、比較例1〜2で作成した各インク組成物についての評価結果を表3に示す。このうち実施例1〜7は、アルミナ、ジルコニア、および有機物により処理された酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)として塩基性分散剤、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂、アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤、および乳酸エステル系溶剤を併用した系であり、顔料沈降性が△以上、隠蔽性が○以上、保存安定性が○以上、評価を行った全ての基材で密着性が○と、非常に良好な評価結果が得られている。
【0061】
これに対し、実施例8〜13は有機溶剤(C)として乳酸エステル系溶剤、および/またはアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤を使用していない系であり、いずれの結果も良好であったものの、一部の基材に対する密着性が△となり、実施例1〜7と比較してやや劣る結果となった。この結果は、分子中に存在する極性基によって、乳酸エステル系溶剤が密着性向上に寄与することを示唆するものである。
【0062】
また実施例10〜13は、インク組成物全量に対する酸化チタン顔料(A)の配合率が8%未満となっている系であり、いずれの評価結果も良好であったものの、実施例1〜9に対し隠蔽性が△とやや劣る結果になった。この結果は、特に優れた隠蔽性を発現させるためには、酸化チタン顔料(A)をインク組成物中に8%以上含有させる必要があることを示すものである。
【0063】
さらに実施例11は有機溶剤(C)として乳酸エステル系溶剤のみを使用した系、また実施例12〜13は有機溶剤(C)としてアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤や乳酸エステル系溶剤ではない溶剤を使用した系である。評価の結果保存安定性が△となり、実施例1〜10と比較してやや劣る結果となった。上述の通り、インク組成物の乾燥性の観点でアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤を使用することが好ましいが、この結果から、保存安定性の維持・向上の点でもアルキレングリコールアルキルエーテルアセテート系溶剤が好ましい材料であるといえる。
【0064】
実施例13は、分散剤(B)として酸性分散剤を使用した系であるが、顔料の配合量がほぼ同等である実施例10〜12に対し顔料沈降性が△とやや劣る結果となった。詳細な理由は不明であるものの、上述の溶剤に対する親和性だけでなく、顔料沈降性を良化させる点でも分散剤(B)として塩基性分散剤が好ましいことを示唆する結果となっている。
【0065】
一方、比較例1〜2は酸化チタン顔料(A)の処理剤としてアルミナ、ジルコニア、および有機物を使用していない系であるが、評価の結果、どちらも顔料沈降性が×と不十分なものであった。この結果から、インク組成物中の顔料の沈降を抑制するとともに、前記インク組成物を使用することで保存安定性等のインク特性や隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れたインク組成物を得るためには、少なくともアルミナ、ジルコニア、および有機物により処理された酸化チタン顔料(A)、分散剤(B)が必須不可欠であることが確認された。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の非水系白色インクジェットインク組成物は、隠蔽性・密着性等の印刷物特性に優れていることから、例えば工業用途や産業用途でのインクジェット印刷、特に透明基材や有色基材に対する印刷に好適に利用することができる。