(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素繊維複合材料で構成された壁面が取付部材を介してアルミニウム合金の車体フレームに固定され、前記取付部材と前記炭素繊維複合材料との電位差が、前記炭素繊維複合材料と前記車体フレームとの電位差より小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自動二輪車用エアクリーナ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エアクリーナボックスの壁面に階段面や補強リブを設けると、エアクリーナボックス内の容量を十分に確保できない場合や、階段面や補強リブによりエアクリーナボックス内の気流が乱される場合がある。このため、吸気騒音を低減できる反面、エンジンの出力低下や走行フィーリングへ悪影響を及ぼす問題がある。
【0008】
また、エアクリーナボックスに階段面や補強リブを設けた場合、壁面の構成が複雑になり生産コストが増大する問題や、エアクリーナボックスの壁面の厚みの増加に伴う車両用エアクリーナの重量増大の問題もある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、エンジンの出力低下及び走行フィーリングへの悪影響を低減しつつ、吸気騒音を低減できる
自動二輪車用エアクリーナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の
自動二輪車用エアクリーナは、複数の壁面を有するエアクリーナボックスを備え、エンジンに供給する空気を浄化する
自動二輪車用エアクリーナにおいて、前記エアクリーナボックス
の車両後方側の壁面だけが炭素繊維を含む炭素繊維複合材料によって構成され
、前記エアクリーナボックスが前記エンジンと後輪との間に配置され、前記エアクリーナボックスの車両後方側の壁面が前記後輪と対向する壁面であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、エアクリーナボックスの少なくとも一つの壁面の剛性が
炭素繊維複合材料により向上し、エンジンの吸気脈動やエンジン振動に基づくエアクリーナボックスの壁面の振動が低減される。これにより、エアクリーナボックスにおける吸気音の透過を抑えて吸気騒音が低減され、吸気抵抗を増大することなくエンジンの出力低下及び走行フィーリングへの悪影響を低減できる。また、エアクリーナボックスの壁面を
炭素繊維複合材料で構成するだけで吸気騒音を低減できるので、壁面にリブを設ける必要がなく、エアクリーナボックスの形状が複雑化することもない。これにより、壁面の構造の複雑化に伴う壁面への走行中の泥の付着や、エアクリーナボックス内の清掃やエレメント交換などの作業性の悪化を防ぐことができる。また、エアクリーナボックスの壁面の厚みを増大させことなく、汎用樹脂材料から
炭素繊維複合材料に代えるだけで吸気騒音を低減できるので、重量増分は汎用樹脂材料と
炭素繊維複合材料との比重分のみとなり、
自動二輪車用エアクリーナの重量増分を低く抑えることができる。
また、一般的に車両後方側の壁面が他の壁面に対して大面積に形成されているため、この構成により、面積が大きく振動し易い当該壁面の剛性を向上させることで吸気騒音をより一層低減できる。また、自動二輪車用エアクリーナの重量増分を低く抑えつつ壁面の剛性を向上できる。
【0012】
また本発明の上記
自動二輪車用エアクリーナにおいては、
前記エアクリーナボックスの車両後方側の壁面が前記後輪のタイヤハウスを兼ねると共に、前記後輪との接触を避けるために湾曲した曲面部を有する。
【0013】
また本発明の上記
自動二輪車用エアクリーナにおいては、
前記エアクリーナボックスの車両後方側の壁面がダーティサイド側に設けられる。
【0014】
また本発明の上記
自動二輪車用エアクリーナにおいては、前記炭素繊維複合材料で構成された壁面が取付部材を介してアルミニウム合金の車体フレームに固定され、前記取付部材と前記炭素繊維複合材料との電位差が、前記炭素繊維複合材料と前記車体フレームとの電位差より小さい。この構成により、炭素繊維複合材料とアルミニウム合金との間の電位差に基づく電解腐食を防止できる。
【0015】
また本発明の上記
自動二輪車用エアクリーナにおいては、前記
炭素繊維複合材料によって構成された壁面に当該壁面を補強するリブが設けられる。この構成により、エアクリーナボックスの当該壁面の剛性を更に高めて、エンジンの吸気脈動やエンジン振動に起因するエアクリーナボックスの壁面振動を抑制して、吸気騒音をさらに低減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エンジンの出力低下及び走行フィーリングへの悪影響を低減しつつ、吸気騒音を低減できる車両用エアクリーナを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る燃料供給装置をオフロード型の自動二輪車に適用した例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、本発明は、オンロード型やスクータ型などの他のタイプの自動二輪車にも適用可能である。
【0019】
図1から
図3を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車1全体の概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車1の左側面図である。
図2は、本実施の形態に係る自動二輪車1の上面図である。
図3は、本実施の形態に係る自動二輪車1の背面図である。なお、以下の説明においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印RE、車体左側をL、車体右側をRでそれぞれ示す。
【0020】
図1から
図3に示すように、自動二輪車1は、パワーユニット、電装系等の各部を搭載する鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム11を備えている。車体フレーム11のメインフレーム12は、前端に位置するヘッドパイプ13から後方に向けて左右に分岐し、斜め下方に延在している。メインフレーム12の後端部からは、スイングアームブラケット14が下方に向って延在している。また、車体フレーム11のダウンチューブ15は、ヘッドパイプ13から略下方に向って延在している。ダウンチューブ15の下端からは、左右に分岐したロアチューブ16が後方に向って略水平に延在し、スイングアームブラケット14の下端部に連結されている。
【0021】
車体フレーム11に囲まれる空間には、駆動源となる水冷式のエンジン21が搭載されている。エンジン21の前方には、エンジン21内の冷却水を放熱させるラジエータ22が配置されている。また、エンジン21の上方には燃料が格納される燃料タンク23が配置されており、燃料タンク23の後方にはシート31が配置されている。シート31は、メインフレーム12の後部から後上方に延在するシートレール17によって支持されている。シートレール17の後端部とスイングアームブラケット14との間には、シートレール17を補助的に支持するサブフレーム18が接続されている。
【0022】
シートレール17とサブフレーム18とによって囲まれる空間には、大気中の空気を濾過する車両用エアクリーナ24が配置されている(
図6参照)。車両用エアクリーナ24の両側面は、左右一対のサイドカバー35によって部分的に覆われている。サイドカバー35は、シートレール17およびサブフレーム18に固定される。シート31の下方にはフットレスト55が設けられている。車体左側のフットレスト55の前方にはシフトペダル56が設けられており、車体右側のフットレスト55の前方には後輪61用のブレーキペダル57が設けられている。
【0023】
車体フレーム11の前部上側には、ヘッドパイプ13に設けられたステアリングシャフトを介してフロントフォーク72が操舵可能に支持されている。フロントフォーク72には前輪緩衝用のサスペンションが内装されている。ステアリングシャフトの上端にはハンドルバー73が設けられており、ハンドルバー73の両端にはグリップ74が装着されている。車体左側のハンドルバー73にはクラッチレバー75が設けられ、車体右側のハンドルバー73には前輪71用のブレーキレバー76が配置されている。フロントフォーク72の下部には、前輪71が回転可能に支持される。前輪71には、ブレーキを構成するブレーキディスク77及びキャリパー78が設けられている。前輪71の上方は、フロントフォーク72に設けられたフロントフェンダ79によって覆われている。
【0024】
車体フレーム11のスイングアームブラケット14には、スイングアーム62が上下方向に揺動可能に連結されており、車体フレーム11とスイングアーム62との間には後輪緩衝用のサスペンション63が取り付けられている。スイングアーム62の後部には、後輪61が回転可能に支持されている。後輪61の左側には、ドリブンスプロケット64が設けられており、ドリブンスプロケット64とエンジン21側のドライブスプロケット65との間にはドライブチェーン66が架け渡されている。後輪61には、ブレーキを構成するブレーキディスク(不図示)及びキャリパー67が設けられている。後輪61の上方は、シート31の後方に配置されたリヤフェンダ68により覆われる。
【0025】
エンジン21は、横置きクランク式の4サイクル単気筒エンジン(例えば、450cc)とトランスミッションとからなる。エンジン21には、スロットルボディ(不図示)を通じて空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて噴射された燃料と空気とが混合されて燃焼室に供給される。燃焼後の排気ガスは、エンジン21の右側面において後方に延出されたエキゾーストパイプ26を経てマフラー27から排出される。
【0026】
次に、
図4から
図6を参照して自動二輪車1の車両用エアクリーナ24周辺の構成について説明する。
図4は、本実施の形態に係る自動二輪車1において燃料タンク23やシート31並びにサイドカバー35等の艤装部品を取り外した状態車両用エアクリーナを示す上面図であり、
図5は、
図4の部分拡大図である。
図6は、自動二輪車1の右側後方から見たときの車両用エアクリーナ24周辺の斜視図である。なお、
図4及び
図5においては、説明の便宜上、燃料タンク23及びシート31など一部の部品を省略した状態を示している(
図1参照)。また、
図6においては、リヤフェンダ68及びサイドカバー35など一部の部品を省略した状態を示している。
【0027】
図4から
図6に示すように、車両用エアクリーナ24は、上面視にてエンジン21と後輪61との間に配置され、側面視にてシート31の真下に配置されている(
図1参照)。車両用エアクリーナ24は、側面視にて略三角形状のエアクリーナボックス241を有している。エアクリーナボックス241は、側面視において略三角形の頂点を下に向けてシートレール17及びサブフレーム18に取り付けられている。エアクリーナボックス241の上面は開放されており、このエアクリーナボックス241の上面はシート31によって覆われている。
【0028】
エアクリーナボックス241の車両前方側の壁面は、略円形の開口243aを有するフロントパネル243により構成される。このフロントパネル243は、空気吸入経路の上流側のダーティサイドと下流側のクリーンサイドとに車両用エアクリーナ24内を仕切っている。フロントパネル243には、開口243aを覆うように、エアクリーナボックス241内に吸入した空気を濾過するエレメント242(
図7から
図9参照)が取り付けられる。車両用エアクリーナ24は、エアクリーナボックス241の上面側から取り入れた空気をエレメント242で濾過してスロットルボディ(不図示)を介してスロットルボディ(不図示)に供給する。
【0029】
エアクリーナボックス241の車幅方向における両側方の壁面は、側面視にて略三角形形状のサイドパネル244により構成される。サイドパネル244の上部は、シートレール17との間に開口部Xを形成するように切り欠かれている。この開口部Xは、車両用エアクリーナ24の空気吸入口となる。
【0030】
車両用エアクリーナ24の車両後方側の壁面は、後輪61のタイヤハウスの一部を兼ねたリヤパネル245により構成される。このリヤパネル245は、後輪61との接触を避けるように湾曲した曲面部245aを有する。この曲面部245aを設けることにより、スイングアーム62が搖動して後輪61と車両用エアクリーナ24とが接近した場合においても、後輪61とリヤパネル245との接触を回避できる。このように、車両用エアクリーナ24は、このリヤパネル245の曲面部245aにより、後輪61との衝突を回避しつつ容量を最大限に確保している。リヤパネル245は、左右一対のサブフレーム18にそれぞれ設けられた固定部18aにネジ部材で固定される。
【0031】
ところで、一般的なモトクロッサーにおいては、エンジンに対する吸気抵抗を低減するべく、エンジンの後方においてエンジンの近傍に車両用エアクリーナが配置される。このようなモトクロッサーにおいては、比較的大排気量の単気筒型エンジンが用いられるので、エンジンからの吸気音は、エアクリーナボックスを透過しやすい低周波領域の音圧が高くなる。このため、車両用エアクリーナのリヤパネルを汎用樹脂材料(例えば、ポリプロピレン)で構成した場合には、エンジンからの吸気音がリヤパネルを透過して車両用エアクリーナ外部に放射され易い。
【0032】
特に、リヤパネルの面積が大きい場合には、リヤパネルがエンジンの吸気脈動やエンジン振動によって振動し、リヤパネルがスピーカのように機能して吸気音が拡大されて吸気騒音として放射される。このため、エアクリーナボックスの壁面にタルク材を添加して剛性を向上した場合においても、壁面の板厚を増大しない限りは車両用エアクリーナを透過する吸気音を十分に低減することが難しい。また、リヤパネルが後輪のタイヤハウスを兼ねる場合、リヤパネルの表面にリブなどを設けて壁面の剛性を確保することが困難である。
【0033】
そこで、本実施の形態においては、車両用エアクリーナ24においてフロントパネル243及びサイドパネル244に対して大面積のリヤパネル245を高剛性材料で構成する。この構成により、エンジン21の吸気脈動等に基づくリヤパネル245の振動を防ぐことができ、車両用エアクリーナ24を透過して外部に放射される吸気音を低減できる。以下、車両用エアクリーナ24の構成について詳細に説明する。
【0034】
次に、
図7から
図9を参照して、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24の構成について詳細に説明する。
図7は、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24の上面図及び背面図である。
図8は、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24の側面図であり、
図9は、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24を後方側から見た斜視図である。
【0035】
図7から
図9に示すように、車両用エアクリーナ24は、上面が開放されたエアクリーナボックス241内にエレメント242が配置されて構成される。エアクリーナボックス241とアウトレットチューブ246との間は、フロントパネル243により仕切られている。エアクリーナボックス241は、空気吸入経路の上流側のダーティサイドとなり、アウトレットチューブ246は、空気吸入経路の下流側のクリーンサイドとなる。
【0036】
フロントパネル243は、略矩形板状を有しており、中央部にエアクリーナボックス241とアウトレットチューブ246を連通する略円形の開口243a(
図4及び
図5参照)を有する。フロントパネル243には、開口243aを跨ぐように、固定具(不図示)が設けられる。この固定具にエレメント242の固定部(不図示)を固定することにより、開口243aを覆うようにエレメント242が取り付けられる。車両用エアクリーナ24は、エレメント242を介してダーティサイド側となるエアクリーナボックス241から空気を吸入し、吸入した空気をエレメント242で濾過してクリーンサイド側となるアウトレットチューブ246に排出する。
【0037】
エアクリーナボックス241は、フロントパネル243と、一対のサイドパネル244と、リヤパネル245とを有する。各サイドパネル244は、汎用樹脂材料で成形され、上記したように側面視にて略三角形状を有する。各サイドパネル244の前側の斜辺部244aは、フロントパネル243の側辺部にリベットにより締結されている。
【0038】
リヤパネル245は、高剛性材料で成形され、下方から上方に向けてフロントパネル243から離れるように湾曲して形成されている。リヤパネル245の下辺部は、フロントパネル243の下辺部にリベット244bにより締結される。リヤパネル245の両側辺部は、一対のサイドパネル244の後方側の斜辺部にリベット244bにより締結されている。リヤパネル245の左右の両端側には、車両用エアクリーナ24をサブフレーム18に固定するためのインサートナット19(
図10参照)を収容する取付凹部245cが形成され、この取付凹部245cには貫通孔245bが設けられている。
【0039】
アウトレットチューブ246は、ゴム或いは汎用樹脂材料等で成形されており、空気吸入経路の通路抵抗を低減するように管状に形成されている。アウトレットチューブ246の一端側は、フロントパネル243の開口243aに合わせて大径に形成され、アウトレットチューブ246の他端側の開口部246aは、スロットルボディスロットルボディ(不図示)に合わせて小径に形成されている。アウトレットチューブ246は、一端側から他端側に向って径を絞るようにしてエアクリーナボックス241とスロットルボディとを接続している。
【0040】
リヤパネル245に用いられる高剛性材料としては、リヤパネル245の剛性を向上できるものであれば、特に制限はない。高剛性材料としては、車両用エアクリーナ24の重量増大を防ぐ観点から、軽量な樹脂や樹脂ベース材料を用いた炭素繊維複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いることが好ましい。炭素繊維複合材料としては、カーボンシートに樹脂を含浸させて成形したものや、炭素繊維を樹脂ペレットに混ぜ込み射出成型したものなどを用いることができる。これらの炭素繊維複合材料は、汎用樹脂材料と比較して剛性が高いので、十分な騒音低減効果が得られる。これらの中でも、車両用エアクリーナ24の生産性や生産コストの観点から、汎用樹脂材料と同じ射出成型法で生産可能なペレットタイプのものが好ましい。
【0041】
高剛性材料として炭素繊維複合材料を用いる場合には、曲げ弾性率が8GPa以上のものを用いることが好ましい。炭素繊維複合材料の曲げ弾性率が8GPa以上であれば、エンジン21の吸気脈動等に基づくリヤパネル245の振動(吸気音の透過)を防ぐことができ、吸気騒音を低減することができる。曲げ弾性率が8GPa以上の炭素繊維複合材料としては、例えば、炭素繊維の含有量が10重量%以上のものが挙げられる。
【0042】
樹脂ペレットとしては、ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU樹脂)及びポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)などが挙げられる。
【0043】
なお、炭素繊維複合材料の具体例としては、長繊維強化樹脂(商品名:プラストロン(登録商標)PP−CF30%、PA−CF20%、PA−CF30%、ダイセルポリマー社製)などが挙げられる。また、樹脂ペレットに炭素繊維を混ぜたものに代えて樹脂ペレットにガラス繊維を混ぜたものを用いてもよい。
【0044】
ところで、自動二輪車1の車両用エアクリーナ24のリヤパネル245を炭素繊維複合材料で構成した場合、導電性を示す炭素繊維とアルミニウムなどの金属との電位差により電解腐食(ガルバニック腐食)が生じる。以下、電解腐食を抑制できる車両用エアクリーナ24の構成例について説明する。
【0045】
図10は、
図6のA−A線に沿う断面図である。
図10に示す例では、リヤパネル245は、固定部18aの貫通孔18bに対応する位置に取付凹部245cの貫通孔245bが設けられている。この取付凹部245cには、鉄製のインサートナット19(取付部材)が収容される。リヤパネル245は、インサートナット19を介してアルミニウム合金製の固定部18aに固定される。このように固定することにより、リヤパネル245と固定部18aとの間のクリアランスが確保される。
【0046】
また、インサートナット19を構成する鉄とリヤパネル245を構成する炭素繊維複合材料との電位差は、炭素繊維複合材料とサブフレーム18を構成するアルミニウム合金との電位差より小さい。このため、リヤパネル245とサブフレーム18との電位差に基づくリヤパネル245の電解腐食が防止される。なお、本実施の形態では取付部材として鉄製のインサートナット19を用いたが、この構成に限定されない。取付部材は、炭素繊維との電位差が、炭素繊維とアルミニウム合金との電位差よりも小さい材料で形成されればよい。
【0047】
次に、
図11を参照して、比較例に係る車両用エアクリーナと本実施の形態に係る車両用エアクリーナとを対比して、リヤパネルの構成と吸気騒音との関係について詳細に説明する。
図11Aは、比較例に係る車両用エアクリーナ500の模式図であり、
図11Bは、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24の模式図である。なお、
図11A,
図11Bにおいては、同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0048】
図11Aに示すように、比較例に係る車両用エアクリーナ500は、リヤパネル501が汎用樹脂材料により構成される。このため、エンジン21からの吸気音がスロットルボディ、インテークパイプ(不図示)及びアウトレットチューブ246を介して大面積のリヤパネル501に作用する。リヤパネル501は、エンジン21の吸気脈動によって振動し、吸気音をスピーカのように拡大して吸気騒音を放射する。
【0049】
これに対して、
図11Bに示すように、本実施の形態に係る車両用エアクリーナ24は、リヤパネル245が高剛性材料により構成される。このため、エンジン21の吸気脈動によるリヤパネル245の振動を低減できる。これにより、吸気音がリヤパネル245によって遮蔽されるので、車両用エアクリーナ24から放射される吸気騒音が低減される。
【0050】
以上説明したように、上記実施の形態に係る車両用エアクリーナ24によれば、エアクリーナボックス241のリヤパネル245の剛性が高剛性材料により向上するので、エンジン21の吸気脈動やエンジン振動に基づくリヤパネル245の振動を低減できる。これにより、エアクリーナボックス241における吸気音の透過を抑えて吸気騒音が低減され、吸気抵抗を増大することなくエンジン21の出力低下及び走行フィーリングへの悪影響を低減できる。
【0051】
特に、上記実施の形態においては、車両用エアクリーナ24への吸気騒音による負荷が集中するリヤパネル245を高剛性材料で構成するだけで十分な騒音低減効果を得ることが可能となる。また、リヤパネル245を高剛性材料で構成するだけで吸気騒音を低減できるので、リヤパネル245にリブなどを設ける必要がなく、エアクリーナボックスの形状が複雑化することもない。これにより、リヤパネル245の構造の複雑化に伴う壁面への走行中の泥の付着や、エアクリーナボックス241内の清掃やエレメント242交換などの作業性の悪化を防ぐことができる。また、エンジン21に供給される空気の気流を乱すこともないので、エンジン21の出力への影響を最小限に抑えることができる。
【0052】
また、上記実施の形態においては、エアクリーナボックス241のリヤパネル245を汎用樹脂材料から高剛性材料に代えるだけで吸気騒音を低減できるので、重量増分は汎用樹脂材料と高剛性樹脂材料との比重分のみとなり、車両用エアクリーナ24の重量増分を低く抑えることができる。また、高価な高剛性材料を広範な領域に亘って用いる必要がないので、費用対効果に優れる。さらに、従来のリヤパネル245の製造装置をそのまま転用することも可能となるので、容易にリヤパネル245を製造することも可能となる。
【0053】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0054】
例えば、上記実施の形態においては、車両用エアクリーナ24のリヤパネル245に高剛性材料を用いて構成した例について説明したが、この構成に限定されない。高剛性材料は、車両用エアクリーナ24の少なくとも一つの壁面に用いればよい。例えば、フロントパネル243やサイドパネル244を高剛性材料で構成してもよい。
【0055】
また、上記実施の形態においては、エアクリーナボックス241が4つの壁面(フロントパネル243、サイドパネル244及びリヤパネル245)を有する例について説明したが、この構成に限定されない。エアクリーナボックス241は、外部から空気を取り込むボックス形状であればよい。
【0056】
また、上記実施の形態においては、車両用エアクリーナ24に補強リブを設けない構成について説明したが、この構成に限定されない。リヤパネル245に補強リブを設けて、剛性を向上させてもよい。この場合、補強リブの形状、補強リブの設置場所などは特に制限されない。特に、本実施の形態においては、リヤパネル245に高剛性材料によってリヤパネル245の剛性が高められているので、車両用エアクリーナ5の性能に影響を及ぼさない程度に補強リブの設置範囲を抑えることもできる。補強リブとしては、例えば、リヤパネル245の外縁部から中央部に向けて高さが低くなるように設けてもよい。これにより、エレメントの脱着性を確保しつつ、リヤパネル245の剛性を更に向上できるので、吸気騒音をさらに低減できる。
【0057】
また、リヤパネル245を炭素繊維複合材料で構成する場合、リヤパネル245の表面にシボ加工などの表面処理を施してもよい。これにより、炭素繊維材の部品表面からの浮き出しを目立たなくさせることもできる。
【0058】
また、上記実施の形態においては、鉄製のインサートナット19を介して車両用エアクリーナ24をサブフレーム18の固定部18aに固定する構成について説明したが、インサートナット19を構成する材質は、鉄に限定されない。インサートナット19の材質は、炭素繊維の腐食を防止できるものであればよい。