特許第5928044号(P5928044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928044
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】薄膜サーミスタ素子
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/04 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
   H01C7/04
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-63719(P2012-63719)
(22)【出願日】2012年3月21日
(65)【公開番号】特開2013-197367(P2013-197367A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒木 康二
(72)【発明者】
【氏名】平林 潤
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 和海
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 康永
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−348905(JP,A)
【文献】 特開2001−307907(JP,A)
【文献】 特開平04−291902(JP,A)
【文献】 特開昭60−208803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタ薄膜と、上記サーミスタ薄膜に設けられた1対の電極とを有する薄膜サーミスタ素子であって、
前記サーミスタ薄膜は、Mn−Co−Ni酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶の結晶構造を有し、
前記スピネル結晶構造の結晶面方位(400)のX線回折強度に対するNaCl構造の結晶面方位(200)のX線回折強度で定義される混晶比率Zが、0.1<Z≦1.0の範囲にあることを特徴とする薄膜サーミスタ素子。
【請求項2】
前記NiOは、前記サーミスタ薄膜の表面に析出せず、前記スピネル結晶構造と前記NaCl構造の混晶は膜中で形成することを特徴とする請求項に記載の薄膜サーミスタ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検知や、人感センサなどに利用され、赤外線センサに用いられている薄膜サーミスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より温度センサや人感センサなど、赤外線を検知しその変化を信号として取り出す赤外線センサとして大きな負の温度係数をもつ遷移金属酸化物が用いられている。例えばMn―Co−Ni系の酸化物は一般的にNTCサーミスタと呼ばれ温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用して多くの温度センサや赤外線センサに使用されている。
【0003】
近年においては、微量な赤外線を検知してそれをセンシングするために、熱設計上素子の熱容量を極小化する必要があり、薄膜技術やMEMS技術にて熱容量を極小化した薄膜型の赤外線センサが使用されている。赤外線を熱検知として使用するセンサとしてはNTCサーミスタや金属の温度による抵抗変化を信号として取り出す方式、サーモパイルのようにゼーベック効果による熱起電力を取り出す方式が用いられている。
【0004】
サーモパイル方式、金属抵抗変化方式、及びNTCサーミスタ方式のいずれも薄膜化されたセンサとして使用実績はあるが、NTCサーミスタに関しては酸化物材料という材料の性質上、抵抗値の経時変化が大きいことが課題とされている。経時変化抑制の課題は焼結体においても古くから研究されており、NTCサーミスタの経時変化の要因の一つとして、成形された材料の不均一性に主要因をもつことが知られている。この不均一性の改善手法として、結晶構造を単一相に形成することが公知技術となっている。NTCサーミスタにおいては、スピネル型結晶構造の立方晶単一構造に形成することが望ましいとされている。
【0005】
Mn−Co−Ni系材料を使用したNTCサーミスタにおいては、薄膜化すると薄膜と基板との線膨張率の違いにより、熱処理過程における膨張、収縮時に焼結体とは異なる内部歪が発生するため、焼結体のNTCサーミスタと同じ材料を用い、スピネル型結晶構造の立方晶単一相にて形成しても、特に抵抗値の経時変化が大きくなり安定性にかける事や、高温プロセスによる膜剥がれ、素子破壊での歩留低下など信頼性に欠ける。
【0006】
特許文献1では、安定したMn−Co−Ni系サーミスタ薄膜を形成する為、スピネル型結晶構造で形成され、焼結体と同等の立方晶単一相を得る為に、アルミナ(Al2O3)上に形成する事及び、焼結体と同等の1000℃前後の温度でアニールすることにより抵抗値の経時変化の安定した薄膜サーミスタを得る方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では、スピネル型結晶構造を有するMn−Co−Ni系サーミスタをビックスバイト型結晶構造を持つ薄膜で形成する事で、経時変化を抑制する事を特徴としており、このビックスバイト型結晶構造を得る為に、スパッタリング法による膜形成と、アニールを交互に行う事及び、薄膜形成後に1100℃以下でアニールすることにより経時変化の安定した薄膜サーミスタを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−208803公報
【特許文献2】特開2000−348904公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の技術には以下の課題が残されている。特許文献1では、焼結体と同等の結晶構造、すなわち、スピネル結晶構造の立方晶単一層を得る為に、薄膜形成後に焼結体のアニール温度に近い1000℃付近のアニールが必要となるが、薄膜工程においては1000℃のアニールは薄膜と基板の線膨張率の違いにより、素子を破壊する要因の一つとなってしまい、その結果素子の歩留りが低下するという問題がある。また高温でアニールするために、使用できる基板がNTCサーミスタの線膨張の値に近いAl等比較的線膨張率が大きい基板に限定されてしまう。ちなみに、線膨張率Al : 7〜8×10−6〔1/K〕 、 単結晶Si : 2.5〜4.3×10−6〔1/K〕、NTCサーミスタ: 12〜16×10−6〔1/K〕である。
【0010】
特許文献2ではビックスバイト構造を得る製造方法としてスパッタリング法による薄
膜形成とアニール工程を交互に行う方法が開示されているが、この方法を実施する為の特殊な成膜装置が必要になることと、本来、この材料がとるべきスピネル結晶構造とは異なる結晶構造を形成しなければならない為、薄膜形成の結晶安定性に課題が残る。さらにアニール温度も高温プロセスのため、薄膜プロセスにおける量産性に関しても課題が残る。
【0011】
上記の問題点を解決する為、本発明では、Mn−Co−Ni系を用いた、薄膜サーミスタ素子の抵抗値の経時変化を抑制し、焼結体と比べて、低温でのプロセスが可能にする薄膜サーミスタ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、サーミスタ薄膜と、上記サーミスタ薄膜に設けられた1対の電極とを有する薄膜サーミスタ素子であって、前記サーミスタ薄膜は、Mn−Co−Ni酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶の結晶構造を有し、前記スピネル結晶構造の結晶面方位(400)のX線回折強度に対するNaCl構造の結晶面方位(200)のX線回折強度で定義される混晶比率Zが、0.1<Z≦1.0の範囲にあることを特徴とする薄膜サーミスタ素子である。
【0013】
サーミスタ薄膜において、スピネル結晶構造の結晶面方位(400)のX線回折強度に対するNaCl構造の結晶面方位(200)のX線回折強度で定義される混晶比率Zが0.1<Z≦1.0の範囲にあるようにすることにより、薄膜サーミスタ素子の抵抗値が変化してしまうという経時変化や、薄膜サーミスタ素子に悪影響を与えるアニールの温度を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
Mn−Co−Ni系を用いた、薄膜サーミスタ素子の抵抗値の経時変化を抑制し、焼結体と比べて、低温でのプロセスが可能である薄膜サーミスタ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の薄膜サーミスタ素子の平面図。
図2】実施形態の薄膜サーミスタ素子の断面図。
図3】実施形態のサーミスタ薄膜ターゲットのXRD関係図。
図4】実施形態のサーミスタ薄膜のXRD関係図。
図5】実施形態のNiOの混晶比率と抵抗値経時変化の関係図。
図6】実施形態のアニール温度と抵抗値経時変化の関係図。
図7】実施形態のアニール回数と抵抗値経時変化の関係図。
図8】実施形態のアニール温度と素子抵抗値、NiOの析出頻度の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0017】
図1は、本実施形態の薄膜サーミスタ素子10の基本構成を示す平面図である。図2は、図1に示す薄膜サーミスタ素子10をA−A線に沿って切断した断面図である。
【0018】
薄膜サーミスタ素子10は、基板1、絶縁膜2、一対の取出し電極3、サーミスタ薄膜4、保護膜6、一対の出力端子電極5から構成され、所定の間隔をおいて形成される一対の取出し電極3と、これらの取出し電極3間に成膜されるサーミスタ薄膜4とで構成されている。
【0019】
基板1は、第1の主面1A及び、その裏面である第2の主面1Bを有しており、少なくとも第1の主面には絶縁膜2が形成されている。基板1の材質としては、適度な機械的強度を有し、且つエッチング等の微細加工に適した材質であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、シリコン(Si)単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミックス基板、石英基板、ガラス基板等が好適である。絶縁膜2としては、適度な機械的強度を有し、且つ公知の薄膜プロセスで容易に成膜できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、Si酸化膜、Si窒化膜等が好適である。
【0020】
また、基板1には、薄膜サーミスタ素子10が配置される位置に、より具体的には、サーミスタ薄膜4が配置される位置に対応してキャビティ7が形成される。キャビティ7は、第2の主面1B側から第1の主面1A側に向けて基板内部に凹部を有している。凹部は絶縁膜2が完全に露出していることが好ましいが熱容量が大きく増加することがなければ除去残りがあってもよい。言い換えれば、薄膜サーミスタ素子10は基板1のキャビティ部分7に形成されたメンブレン構造を有している。本実施形態では、キャビティ7を設けたが、熱容量を小さくする必要がない場合は、キャビティ7を設ける必要はない。
【0021】
絶縁膜2の上に一対の取り出し電極3が形成され、取り出し電極3上にサーミスタ薄膜4が形成される。また、サーミスタ薄膜4を被覆して外気から遮蔽するための保護膜6が形成されている。取出し電極3の材質としては、サーミスタ薄膜4の成膜工程や熱処理工程等に耐え得る耐熱性を有し、且つ適度な伝導性を有する比較的高融点の材質が好ましく、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、又はこれらの金属を2種類以上含む合金等が好適である。また電気信号を取り出すためには取出し電極3に接続された出力端子電極5が各々の取出し電極3に接続されるように形成される。出力端子電極5の材質としては、ワイヤーボンドやフリップチップボンディング等の電気的接続が容易な材質、例えば、アルミニウム(Al)、Au等が好適である。
【0022】
図3はスパッタリングターゲットの結晶状態を示したX線回折、すなわち、XRDのデータであり、横軸は回折角度〔°〕、縦軸はX線強度〔counts〕を示している。本実施形態によるサーミスタ薄膜4は、図3に示す通り、Mn−Co−Ni系酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶となっているスパッタリングターゲットを用いて成膜される。
【0023】
実施形態のターゲットは焼成炉により成型されるが、このターゲットはMn、CO、NiOの3種類を用いて焼成され、高温状態で3種類の材料が固溶して目的のMnCoNi酸化物のスピネル結晶が形成される。この時Mnと固溶せず、余剰となったNiOがNaCl構造をとり、混晶状態が生成される。
【0024】
スピネル結晶構造とは、一般にAB2Y4で表される化合物(A、Bは金属Yが酸素)で、サーミスタ薄膜4もこの結晶構造に属する酸化物である。NaCl結晶構造とは単純立方格子の最隣接原子を別種の原子で置き換えた結晶構造である。
【0025】
サーミスタ薄膜4の成膜におけるターゲットにおいて、上記のMn−Co−Ni系酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶状態は、XRDにより確認され、混晶比率Zは、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の面方位(400)の回折強度、に対するNiOのNaCl構造(200)の面方位の回折強度、で定義される混晶比率Zが、0<Z≦0.6の範囲でターゲット成型することが好ましい。
【0026】
上記のスパッタリングターゲットにおいて、混晶比率Zが0の場合では、結晶構造はスピネル結晶構造の単一相となり、このターゲットによって成膜されたサーミスタ薄膜4に対して、積層された薄膜サーミスタ素子10としては抵抗値の経時変化は抑制できない。Zが0より大きいということは、すなわち混晶となっているということであり、経時変化はZが大きくなると、つまりサーミスタ薄膜4が混晶状態になれば、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化の抑制効果が始まるが、Zが0.6を超えるとサーミスタとして所望の抵抗値を得ることができない。
【0027】
一般的に、サーミスタを温度センサとして使用する場合、その測定許容値はJISC1611にも記載されている階級0.3で使用することが望ましい。すなわち、階級0.3とは、温度の測定の精度を±0.3℃以内で制御できることを示す規格である。この精度を実現するためには、サーミスタの抵抗値の経時変化は小さければ小さいほど良いが、本実施形態の薄膜サーミスタ素子10を用いた場合、抵抗値の経時変化は、1.2%以下に抑制する必要がある。すなわち抵抗値の経時変化とは、薄膜サーミスタ素子10ができあがった直後の抵抗値が、高温状況下で長時間放置された後にどれだけ変化するかを示した信頼性結果である。
【0028】
また、本実施形態のサーミスタ薄膜4は、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化をより安定させるために、途中工程に、第1および第2のアニールを行う。第1のアニールは、サーミスタ薄膜4を成膜した直後、又は所望のサイズにパターニングした後に行う。薄膜形成したサーミスタ薄膜4は、焼結体と比較して形成温度が低い為、酸素欠乏膜となるので、大気中にてアニールすることで、酸素を補充する。酸素欠乏膜ではスピネル構造の結晶は確認できるが、NiOのNaCl構造の結晶は確認できない。
【0029】
第2のアニールは、NiOのNaCl構造が、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の応力歪による価数の変動を抑制する働きを持たせる為、形成されたサーミスタ薄膜4に応力が寄与する全ての薄膜工程が全て終了した時点で行う。薄膜プロセスにより、第1のアニール工程と、第2のアニール工程の間に、他のアニール工程が含まれても構わない。
【0030】
アニール温度は、いずれのアニールも、500〜700℃の範囲が望ましい。温度が500℃より低いと、第1のアニールにおいては、酸素が十分に膜中に補充されず、所望の薄膜サーミスタ素子10の抵抗値を得ることが出来ず、第2のアニールにおいては、応力歪を十分に緩和することが出来ない。
【0031】
また、いずれのアニールも、アニール温度が700℃より高いと、膜剥がれによる薄膜サーミスタ素子10の破壊が起こったり、または、NiOがサーミスタ薄膜4の膜中に留まることができず、薄膜表面に析出してしまい、薄膜サーミスタ素子10の経時変化抑制の効果を得ることが出来ない。NiOの表面への析出は高温領域で顕著になる。考えられる要因としては、700℃以上の高温領域では結晶変化がおこり、混晶状態である両結晶の応力バランスからNiOが余剰となり、結晶粒界を通って表面に析出するものと思われる。
【0032】
すなわち、本実施形態のサーミスタ薄膜4は、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造とNiOのNaCl構造の混晶であり、NiOが表面に析出せず、膜中に存在することが極めて重要となる。膜中でNaCl構造にて結晶化したNiOが、サーミスタ薄膜4の応力歪を緩和し、価数変動を抑制し、この価数変動の抑制が薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化を抑制する。
【0033】
サーミスタ薄膜4は、成膜直後に混晶状態が安定して得られることが望ましいが、成膜直後のサーミスタ薄膜4は、抵抗率が高く、結晶状態も不安定であり、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の単一相となっていたり、完全な混晶状態になっていない場合も多い。その要因としては薄膜形成時の酸素欠乏であったり、膜の内部歪であったりという要因が考えられるが、この状態だと最適な経時変化の抑制は得られない。しかし、第1のアニールを施してやることにより、酸素結合状態が安定した酸化物となる。さらに、第1のアニール後にも必ずしも混晶となっていなくても、第2のアニールを行うことで十分な混晶状態にすることは可能である。
【0034】
図4は、第1のアニール後のサーミスタ薄膜のXRDデータであり、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造とNiOのNaCl構造の混晶状態となっている。図3のXRDデータはスパッタリングターゲットのXRDデータの為、薄膜に比べ強い測定強度が表示されているが、混晶状態である、Mn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の面方位(400)の回折強度、に対するNiOのNaCl構造(200)の面方位の回折強度が確認でき、図3に示すターゲットと同等の混晶薄膜が形成できていることを示している。
【実施例】
【0035】
実施形態に基づく実施例の、薄膜サーミスタ素子10の製造方法について説明する。図1図2に示すように、基板1として、基板表面の面方位が(100)である(100)Si基板を用意し、基板1の第1の主面1A及び第2の主面1Bに絶縁膜2としてSi酸化膜を成膜する。Si酸化膜を成膜するには、例えば、熱酸化法等を適用すればよい。絶縁膜2の膜厚は、基板1との絶縁性が確保される程度に調整すればよく、例えば、0.1μm〜0.5μm程度が好適である。本実施例では絶縁膜として、SiO膜を0.5μm形成した。
【0036】
次に、第1の主面1A上の絶縁膜2に、取出し電極3を形成する。取出し電極3を形成するには、例えば、スパッタ法等を用いて絶縁膜2上に150nm〜600nm程度の取出し電極3となる金属薄膜3を堆積し、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成し、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングでこの金属薄膜3を所定の電極形状に加工して、取出し電極3を形成する。金属薄膜3と絶縁膜2との間の密着性を高めるには、チタン(Ti)等の密着層を介在させるのが好ましい。本実施例では電極としてPt/Ti膜を使用した。Ptはスパッタ法にて0.1μm形成し、密着層として、SiOと相性の良い、Tiを選択した。この後、ドライエッチングを用いて、電極形状を形成した。
【0037】
次に、サーミスタ薄膜4としての複合金属酸化膜4を、スパッタ法により取出し電極3上に堆積し、ウェットエッチングにより複合金属酸化膜4を所定形状にパターニングする。本実施例では、基板温度600℃、成膜圧力1.0Pa、RFパワー200Wのスパッタ条件でArガスを用い、Mn−Co−Ni系酸化物を取り出し電極3上に0.4μm堆積した。この時に用いたターゲットは混晶比率Z=0.6のものを使用して、作製した。
次に、塩化第二鉄水溶液を用いたウェットエッチングで所定形状に加工し、その後、第1のアニールすなわち、焼成炉を用いてMn−Co−Ni系酸化物膜に大気雰囲気で600℃で2時間の熱処理を施し、本実施例におけるサーミスタ薄膜4を有した、目標抵抗値が120kΩである薄膜サーミスタ素子10を形成した。なお、実施形態および、実施例、比較例の抵抗値とは、薄膜サーミスタ素子10の出力端子電極5における抵抗値である。
【0038】
保護膜6としてSiO膜を形成する。保護膜としてはSiOやSiN等、絶縁性、耐湿性を有する膜であれば良い。本実施例では、テトラエトキシシランという有機金属材料を用いたTEOS−CVD法により、0.4μmの膜厚でSiOを基板全面に成膜した。本実施例では保護膜6形成後に第2のアニールを600℃で2時間行った。本実施例においては取り出し電極5の材料にAlを使用しており、600℃の第2のアニールにAlが耐えられない事を考慮した為であり、使用材料によっては最終の工程で第2のアニールを施しても問題は無い。次に、フォトリソグラフィによりエッチングマスクを形成した後、SiO膜をウェットエッチングにより選択的に除去し、出力端子電極5が形成されるべき箇所を露出させる。そして、出力端子電極5としてAl電極を蒸着法により1μm程度形成し、リフトオフ法によりAl電極5の不要部分を除去する。
【0039】
次に、基板1の第2の主面1B側に、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成した後、フッ化物系ガスを用いたD−RIE法等の反応性イオンエッチングによって、基板1を第2の主面1Bに対して垂直に深堀し、キャビティ7を開口する。いわゆる、メンブレン構造とした。D−RIE法とは、C48ガスを用いてフルオロカーボン系ポリマーからなる反応抑止膜をキャビティ7の側壁に堆積させることにより、主としてFラジカルによる化学的なサイドエッチングを抑制するためのプラズマデポジション工程と、SF6ガスを用いてFラジカルによる基板1の化学的エッチングとFイオンによる反応抑止膜の物理的エッチングとにより、基板1を略垂直に異方性エッチングするためのプラズマエッチング工程とを交互に繰り返して基板1を深堀する方法である。
【0040】
(評価)
本実施例の薄膜サーミスタ素子10の製作に使用したスパッタリングターゲットの結晶性評価結果を、図3に示す。結晶評価は、X線回折装置、すなわち、XRDにて評価した。さらにこのターゲットを用いて、本実施例の通りに成膜し、アニール後にXRDにて薄膜の結晶性を評価した結果を、図4に示す。成膜直後は酸素欠乏膜のため、NiOのピークは観察されなかったが、図4に示すように、アニール後に確認された。
【0041】
次に、本実施例の薄膜サーミスタ素子10について、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化を調べた結果を図5に示す。図5は、サーミスタ薄膜4中のNiOの混晶比率Zに対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化の結果である。図5は、n=32個の平均値である。NiOの混晶比率はスパッタリングターゲット中のNiOの含有量を調整することで変化させた。スパッタリングターゲット中のNiOの含有量を0.6以下で調整し、Z=0.6のサンプルを作製したときと同じ工程で、Zの異なるサンプルを複数種作製して、それぞれのサンプルをXRDにて測定したところ、結果として、サーミスタ薄膜4の混晶比率Zは0.1から1.0の範囲であった。つまり、一部のNiOはスピネル結晶構造の一部となり、他の余剰のNiOが単独でNaCl構造をとるため混晶状態となる。薄膜形成直後、特に本実施例のような1μm以下の薄い膜では、薄膜形成時の内部歪や、膜中の酸素欠陥などに起因して、混晶状態とならない場合もあり、混晶としては不安定だが、第1のアニールや、第2のアニールを施してやることにより、安定した混晶状態とすることが可能である。
【0042】
一般的に、サーミスタを温度センサとして使用する場合、その測定許容値はJISC1611にも記載されている階級0.3で使用することが望ましい。すなわち、階級0.3とは、温度の測定の精度を±0.3℃以内で制御できることを示す規格である。この精度を実現するためにはサーミスタの抵抗値の経時変化は小さければ小さいほど良いが、本実施形態の薄膜サーミスタ素子10を用いた場合、抵抗値の経時変化は、1.2%以下に抑制する必要がある。すなわち抵抗値の経時変化とは薄膜サーミスタ素子10ができあがった直後の抵抗値が、高温状況下で長時間放置された後にどれだけ変化するかを示した信頼性結果である。図5で示す、本実施例では125℃にて1000時間放置した結果を意味し、結果より0.1<Z≦1.0の範囲で抵抗値の経時変化は1.2%以下であったので良好な経時変化の結果であることが確認できた。
【0043】
混晶比率Zとは、上述したMn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の面方位の回折強度(400)に対するNiOのNaCl構造(200)の面方位の回折強度で定義されるサーミスタ薄膜4の混晶比率Zであり、Zが大きくなると薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化の抑制の効果も大きくなることがわかった。
【0044】
(比較例1)
実施例の効果を比較するために、NiOを過剰添加せずに、本来の材料の結晶構造であるスピネル結晶構造の、単一相からなるターゲットを使用し、アニールは成膜直後の酸素補充のための第1の600℃のアニールのみとした薄膜サーミスタ素子10を製作して評価した。製作プロセスは上記以外は同じとした。図5のA点は、比較例1のサンプルであり、図5に示すとおり、A点の抵抗値経時変化は1.2%より大きいから好ましくない、すなわち、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化は抑制されていない。
【0045】
(比較例2)
実施例の効果を比較するために、比較例2として、実施形態と同じターゲットを使用し、成膜直後の第1のアニールを実施形態の600℃で行った後、薄膜工程の最後に700以上、すなわち、800℃の第2のアニールを行って、NiOを表面に析出させた薄膜サーミスタ素子10を製作し評価した。図5のB点は、比較例2を示している。比較例2のサンプルは、図8からわかるように、高温アニールによる薄膜サーミスタ素子10のNiOの薄膜表面への析出のために、図5のB点に示すように、実施例の、Z=0.6で、600℃で第2のアニールを行った薄膜サーミスタ素子10と比較して、抵抗値経時変化が好ましくないことがわかる。
【0046】
図8は、第2のアニール温度に対する、製作した薄膜サーミスタ素子10の抵抗値とNiOが表面に析出した個数の結果である。図8中の、○印はNiOが表面に析出した個数〔個〕であり、×印は薄膜サーミスタ素子10の抵抗値〔kΩ〕である。図8においては、第2のアニールで700℃より高い温度にてアニールすると、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出量が多くなり、500℃より低い温度にてアニールすると素子の抵抗値がばらつき、所望の抵抗値を得られないという結果を示している。500℃以下のアニールにおいて抵抗値がばらつくのはサーミスタ薄膜4の応力歪が十分に緩和されていないためと予想される。又、700℃より高い温度でのアニールは、各薄膜材料の線膨張差による破壊も引き起こすが、図8におけるデータは抵抗値が変化していない、すなわち、破壊が起きていない素子を抽出し示したデータである。
【0047】
図5のB点は比較例2として、第2のアニールを800℃で処理したサンプルで、素子が破壊されていない、すなわち、図8に示すとおり所望の抵抗値を得られている素子の抵抗値経時変化の結果である。このデータが示すとおり、抵抗値の経時変化は1.2%より大きく、前述した階級0.3で使用するには好ましくないという結果となり、NiOが薄膜表面に析出すると抵抗値の経時変化は悪化することがわかる。
【0048】
サーミスタ薄膜4のNiOの薄膜表面への析出を定量的にとらえるのは技術的に難しい為、走査型電子顕微鏡、すなわち、SEMの1000倍〜1500倍での観察にて、100μm×100μmのエリアに析出物が何個観察できるかで評価した。その結果を、図8で示した。700℃を越える温度からサーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が見られ、1000℃付近で顕著に見られた。SEMでの個数が多いということはすなわち、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が多いということであり、NiOの表面析出はサーミスタ薄膜4の組成が安定しなかったり、絶縁耐圧が低下するといった不具合があるといえる。この結果最適な第2のアニール温度は、500℃から700℃付近である。
【0049】
図6は、第2のアニール温度に対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化の結果である。第2のアニール温度が700℃を超えると剥離による薄膜サーミスタ素子10の破壊も見られたが、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化は500℃以上の第2のアニール温度において効果が見られる。
【0050】
図7は、第2のアニール回数に対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化の結果である。第2のアニール回数は、第1のアニールの他に、少なくとも1回行えば薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化は抑制されることがわかり、第2のアニール回数を多くしても効果は変化しないことがわかる。
【0051】
その結果、700℃を越える温度からサーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が見られ、1000℃付近で顕著に見られた。SEMでの個数が多いということはすなわち、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が多いということであり、NiOの表面析出はサーミスタ薄膜4の組成が安定しなかったり、絶縁耐圧が低下するといった不具合があるといえる。この結果最適な第2のアニール温度は、500℃から700℃付近である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用して多くの温度センサや赤外線センサに使用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 基板
1A 第1の主面
1B 第2の主面
2 絶縁膜
3 取出し電極
4 サーミスタ薄膜
5 出力端子電極
6 保護膜
7 キャビティ
10 薄膜サーミスタ素子


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8