【実施例】
【0035】
実施形態に基づく実施例の、薄膜サーミスタ素子10の製造方法について説明する。
図1と
図2に示すように、基板1として、基板表面の面方位が(100)である(100)Si基板を用意し、基板1の第1の主面1A及び第2の主面1Bに絶縁膜2としてSi酸化膜を成膜する。Si酸化膜を成膜するには、例えば、熱酸化法等を適用すればよい。絶縁膜2の膜厚は、基板1との絶縁性が確保される程度に調整すればよく、例えば、0.1μm〜0.5μm程度が好適である。本実施例では絶縁膜として、SiO
2膜を0.5μm形成した。
【0036】
次に、第1の主面1A上の絶縁膜2に、取出し電極3を形成する。取出し電極3を形成するには、例えば、スパッタ法等を用いて絶縁膜2上に150nm〜600nm程度の取出し電極3となる金属薄膜3を堆積し、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成し、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングでこの金属薄膜3を所定の電極形状に加工して、取出し電極3を形成する。金属薄膜3と絶縁膜2との間の密着性を高めるには、チタン(Ti)等の密着層を介在させるのが好ましい。本実施例では電極としてPt/Ti膜を使用した。Ptはスパッタ法にて0.1μm形成し、密着層として、SiO
2と相性の良い、Tiを選択した。この後、ドライエッチングを用いて、電極形状を形成した。
【0037】
次に、サーミスタ薄膜4としての複合金属酸化膜4を、スパッタ法により取出し電極3上に堆積し、ウェットエッチングにより複合金属酸化膜4を所定形状にパターニングする。本実施例では、基板温度600℃、成膜圧力1.0Pa、RFパワー200Wのスパッタ条件でArガスを用い、Mn−Co−Ni系酸化物を取り出し電極3上に0.4μm堆積した。この時に用いたターゲットは混晶比率Z=0.6のものを使用して、作製した。
次に、塩化第二鉄水溶液を用いたウェットエッチングで所定形状に加工し、その後、第1のアニールすなわち、焼成炉を用いてMn−Co−Ni系酸化物膜に大気雰囲気で600℃で2時間の熱処理を施し、本実施例におけるサーミスタ薄膜4を有した、目標抵抗値が120kΩである薄膜サーミスタ素子10を形成した。なお、実施形態および、実施例、比較例の抵抗値とは、薄膜サーミスタ素子10の出力端子電極5における抵抗値である。
【0038】
保護膜6としてSiO
2膜を形成する。保護膜としてはSiO
2やSiN等、絶縁性、耐湿性を有する膜であれば良い。本実施例では、テトラエトキシシランという有機金属材料を用いたTEOS−CVD法により、0.4μmの膜厚でSiO
2を基板全面に成膜した。本実施例では保護膜6形成後に第2のアニールを600℃で2時間行った。本実施例においては取り出し電極5の材料にAlを使用しており、600℃の第2のアニールにAlが耐えられない事を考慮した為であり、使用材料によっては最終の工程で第2のアニールを施しても問題は無い。次に、フォトリソグラフィによりエッチングマスクを形成した後、SiO
2膜をウェットエッチングにより選択的に除去し、出力端子電極5が形成されるべき箇所を露出させる。そして、出力端子電極5としてAl電極を蒸着法により1μm程度形成し、リフトオフ法によりAl電極5の不要部分を除去する。
【0039】
次に、基板1の第2の主面1B側に、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成した後、フッ化物系ガスを用いたD−RIE法等の反応性イオンエッチングによって、基板1を第2の主面1Bに対して垂直に深堀し、キャビティ7を開口する。いわゆる、メンブレン構造とした。D−RIE法とは、C
4F
8ガスを用いてフルオロカーボン系ポリマーからなる反応抑止膜をキャビティ7の側壁に堆積させることにより、主としてFラジカルによる化学的なサイドエッチングを抑制するためのプラズマデポジション工程と、SF
6ガスを用いてFラジカルによる基板1の化学的エッチングとFイオンによる反応抑止膜の物理的エッチングとにより、基板1を略垂直に異方性エッチングするためのプラズマエッチング工程とを交互に繰り返して基板1を深堀する方法である。
【0040】
(評価)
本実施例の薄膜サーミスタ素子10の製作に使用したスパッタリングターゲットの結晶性評価結果を、
図3に示す。結晶評価は、X線回折装置、すなわち、XRDにて評価した。さらにこのターゲットを用いて、本実施例の通りに成膜し、アニール後にXRDにて薄膜の結晶性を評価した結果を、
図4に示す。成膜直後は酸素欠乏膜のため、NiOのピークは観察されなかったが、
図4に示すように、アニール後に確認された。
【0041】
次に、本実施例の薄膜サーミスタ素子10について、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化を調べた結果を
図5に示す。
図5は、サーミスタ薄膜4中のNiOの混晶比率Zに対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化の結果である。
図5は、n=32個の平均値である。NiOの混晶比率はスパッタリングターゲット中のNiOの含有量を調整することで変化させた。スパッタリングターゲット中のNiOの含有量を0.6以下で調整し、Z=0.6のサンプルを作製したときと同じ工程で、Zの異なるサンプルを複数種作製して、それぞれのサンプルをXRDにて測定したところ、結果として、サーミスタ薄膜4の混晶比率Zは0.1から1.0の範囲であった。つまり、一部のNiOはスピネル結晶構造の一部となり、他の余剰のNiOが単独でNaCl構造をとるため混晶状態となる。薄膜形成直後、特に本実施例のような1μm以下の薄い膜では、薄膜形成時の内部歪や、膜中の酸素欠陥などに起因して、混晶状態とならない場合もあり、混晶としては不安定だが、第1のアニールや、第2のアニールを施してやることにより、安定した混晶状態とすることが可能である。
【0042】
一般的に、サーミスタを温度センサとして使用する場合、その測定許容値はJISC1611にも記載されている階級0.3で使用することが望ましい。すなわち、階級0.3とは、温度の測定の精度を±0.3℃以内で制御できることを示す規格である。この精度を実現するためにはサーミスタの抵抗値の経時変化は小さければ小さいほど良いが、本実施形態の薄膜サーミスタ素子10を用いた場合、抵抗値の経時変化は、1.2%以下に抑制する必要がある。すなわち抵抗値の経時変化とは薄膜サーミスタ素子10ができあがった直後の抵抗値が、高温状況下で長時間放置された後にどれだけ変化するかを示した信頼性結果である。
図5で示す、本実施例では125℃にて1000時間放置した結果を意味し、結果より0.1<Z≦1.0の範囲で抵抗値の経時変化は1.2%以下であったので良好な経時変化の結果であることが確認できた。
【0043】
混晶比率Zとは、上述したMn−Co−Ni酸化物スピネル結晶構造の面方位の回折強度(400)に対するNiOのNaCl構造(200)の面方位の回折強度で定義されるサーミスタ薄膜4の混晶比率Zであり、Zが大きくなると薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化の抑制の効果も大きくなることがわかった。
【0044】
(比較例1)
実施例の効果を比較するために、NiOを過剰添加せずに、本来の材料の結晶構造であるスピネル結晶構造の、単一相からなるターゲットを使用し、アニールは成膜直後の酸素補充のための第1の600℃のアニールのみとした薄膜サーミスタ素子10を製作して評価した。製作プロセスは上記以外は同じとした。
図5のA点は、比較例1のサンプルであり、
図5に示すとおり、A点の抵抗値経時変化は1.2%より大きいから好ましくない、すなわち、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化は抑制されていない。
【0045】
(比較例2)
実施例の効果を比較するために、比較例2として、実施形態と同じターゲットを使用し、成膜直後の第1のアニールを実施形態の600℃で行った後、薄膜工程の最後に700以上、すなわち、800℃の第2のアニールを行って、NiOを表面に析出させた薄膜サーミスタ素子10を製作し評価した。
図5のB点は、比較例2を示している。比較例2のサンプルは、
図8からわかるように、高温アニールによる薄膜サーミスタ素子10のNiOの薄膜表面への析出のために、
図5のB点に示すように、実施例の、Z=0.6で、600℃で第2のアニールを行った薄膜サーミスタ素子10と比較して、抵抗値経時変化が好ましくないことがわかる。
【0046】
図8は、第2のアニール温度に対する、製作した薄膜サーミスタ素子10の抵抗値とNiOが表面に析出した個数の結果である。
図8中の、○印はNiOが表面に析出した個数〔個〕であり、×印は薄膜サーミスタ素子10の抵抗値〔kΩ〕である。
図8においては、第2のアニールで700℃より高い温度にてアニールすると、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出量が多くなり、500℃より低い温度にてアニールすると素子の抵抗値がばらつき、所望の抵抗値を得られないという結果を示している。500℃以下のアニールにおいて抵抗値がばらつくのはサーミスタ薄膜4の応力歪が十分に緩和されていないためと予想される。又、700℃より高い温度でのアニールは、各薄膜材料の線膨張差による破壊も引き起こすが、
図8におけるデータは抵抗値が変化していない、すなわち、破壊が起きていない素子を抽出し示したデータである。
【0047】
図5のB点は比較例2として、第2のアニールを800℃で処理したサンプルで、素子が破壊されていない、すなわち、
図8に示すとおり所望の抵抗値を得られている素子の抵抗値経時変化の結果である。このデータが示すとおり、抵抗値の経時変化は1.2%より大きく、前述した階級0.3で使用するには好ましくないという結果となり、NiOが薄膜表面に析出すると抵抗値の経時変化は悪化することがわかる。
【0048】
サーミスタ薄膜4のNiOの薄膜表面への析出を定量的にとらえるのは技術的に難しい為、走査型電子顕微鏡、すなわち、SEMの1000倍〜1500倍での観察にて、100μm×100μmのエリアに析出物が何個観察できるかで評価した。その結果を、
図8で示した。700℃を越える温度からサーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が見られ、1000℃付近で顕著に見られた。SEMでの個数が多いということはすなわち、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が多いということであり、NiOの表面析出はサーミスタ薄膜4の組成が安定しなかったり、絶縁耐圧が低下するといった不具合があるといえる。この結果最適な第2のアニール温度は、500℃から700℃付近である。
【0049】
図6は、第2のアニール温度に対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化の結果である。第2のアニール温度が700℃を超えると剥離による薄膜サーミスタ素子10の破壊も見られたが、薄膜サーミスタ素子10の抵抗値の経時変化は500℃以上の
第2のアニール温度において効果が見られる。
【0050】
図7は、第2のアニール回数に対する薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化の結果である。第2のアニール回数は、第1のアニールの他に、少なくとも1回行えば薄膜サーミスタ素子10の抵抗値経時変化は抑制されることがわかり、第2のアニール回数を多くしても効果は変化しないことがわかる。
【0051】
その結果、700℃を越える温度からサーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が見られ、1000℃付近で顕著に見られた。SEMでの個数が多いということはすなわち、サーミスタ薄膜4のNiOの表面析出が多いということであり、NiOの表面析出はサーミスタ薄膜4の組成が安定しなかったり、絶縁耐圧が低下するといった不具合があるといえる。この結果最適な第2のアニール温度は、500℃から700℃付近である。