特許第5928064号(P5928064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928064医療機器用弁体、医療機器、および医療機器用弁体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928064
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】医療機器用弁体、医療機器、および医療機器用弁体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 39/06 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
   A61M39/06 122
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-70787(P2012-70787)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-202068(P2013-202068A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 雄太
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤志
【審査官】 小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−139077(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0771574(EP,A1)
【文献】 米国特許第5409464(US,A)
【文献】 米国特許第5520655(US,A)
【文献】 特開平03−114475(JP,A)
【文献】 特開2001−149487(JP,A)
【文献】 米国特許第5273546(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0312190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器における流体通路に配置される医療機器用弁体にあって、
上記弁体は、挿入物が挿入される挿入部を含み、
上記挿入部は、遠位側から近位側へと伸びる自身の全長に亘って、上記挿入物の挿入中心から半径方向の外側へ延びる幅を有する切込部を含み、
上記切込部では、その切込部の内面の少なくとも一部の面が、下記条件式(1)を満たすとともに、上記切込部は、全長における少なくとも一部を、上記挿入部の全長における近位側から遠位側に向かって、上記挿入部に対する上記切込部の進入角が、上記切込部の全長において部分的に異なるように、非直線状に変化させる医療機器用弁体。
0°<θ<90°・・・・・(1)
ただし、
θ:上記内面の少なくとも一部の面は、上記挿入物が挿入される軸における遠位側からみて、近位側に向かって角度を有しており、その一部の面に接する平面と、上記挿入中心の軸方向との交差する最小角である。
【請求項2】
上記挿入中心の軸方向に対する交差断面での、上記切込部の形状は、上記軸方向における複数箇所において、変化する請求項1に記載の医療機器用弁体。
【請求項3】
上記変化とは、上記軸方向における複数箇所での上記切込部の形状が、上記軸方向を中心に回転すること、または、上記軸方向からの乖離距離変わること、である請求項2に記載の医療機器用弁体。
【請求項4】
上記切込部は、上記幅を、上記挿入物の挿入中心から外側に向けて湾曲状、または直線状、に延びる請求項1〜のいずれか1項に記載の医療機器用弁体。
【請求項5】
上記切込部は、上記挿入物の挿入中心を中心として、周方向に間隔をあけて複数本形成したものである請求項1〜のいずれか1項に記載の医療機器用弁体。
【請求項6】
上記切込部としての幅の異なる複数種類の切込部を形成した請求項に記載の医療機器用弁体。
【請求項7】
前記医療機器の流体通路が、その途中部に形成した環状の段差部と、該段差部よりも遠位側に形成した小径部と、該段差部よりも近位側に形成した大径部とを有しており、前記弁体の近位側に大径部に内嵌される筒部を形成し、前記弁体の遠位側に遠位側へ行くにしたがって縮径するテーパ部を形成し、前記切込部をテーパ部の遠位部に該テーパ部の中心線を挿入中心として形成し、前記テーパ部の外周部に段差部に圧接可能な環状のシール部を遠位側へ向けて突出状に形成した請求項1〜のいずれか1項記載の医療機器用弁体。
【請求項8】
前記シール部の内周面を遠位側へ行くにしたがって拡径するテーパ面で構成した請求項に記載の医療機器用弁体。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項記載の医療機器用弁体を流体通路に内嵌して、該流体通路を閉鎖してなる医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Yアダプタ、カテーテル、シースイントロデューサ等の医療機器に組み込まれる医療機器用弁体、医療機器、および医療機器用弁体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、血管内病変に対する侵襲の少ない診断・治療法としてカテーテル等を使用する方法が知られている。この血管内治療法において使用されるYコネクタ、カテーテル、シースイントロデューサ等には血液が体外に失われるのを防ぐために血液逆流防止用の弁体が組み込まれている。
【0003】
前記弁体を有する医療機器の1つとしてYコネクタが知られており、例えば特許文献1に記載されているような、Y字の筒状本体部材、カテーテル接続部、シリンジまたは三方活栓用接続部、筒状本体部材の基端側(近位側)に設けたキャップ部材、筒状本体部材内に組み付けた弁体を備えたものが提案されている。
【0004】
前記弁体の中央部には、ガイドワイヤのような長尺部材を液密状に挿入したり抜き取ったりできるようにするためのスリットが形成され、Yコネクタに接続したシリンジからの注入液、Yコネクタ内の造影剤・生理食塩水あるいは血液等の流体が、弁体とガイドワイヤ間の隙間からYコネクタ外に流出しないように構成されている。
【0005】
前記スリットとしては、弁体の中心線に対する直交断面が一文字や十文字やY字状で、弁体の中心線に沿って直線状に延びるように形成したスリットが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、特許文献1には、弁体の中心線から半径方向に延びる幅を有し、弁体の一方の面側から弁体の内部へ延びる円弧状の第1スリットと、弁体の中心線から半径方向に延びる幅を有し、弁体の他方の面側から弁体の内部へ延びる円弧状の第2スリットとを備え、両スリットが弁体内において交差するように、弁体の中心線の周方向に対して両スリットを相互に角度を付けて配置させた弁体が提案されている。
【0006】
一方、前記筒状本体部材として、途中部に遠位側へ向けて縮径するテーパ面を有する環状の段差部を形成し、該段差部よりも遠位側に小径部を、また近位側に大径部を形成したものを用い、前記弁体として、遠位側と近位側とにテーパ部を形成し、中央部にガイドワイヤの外径よりも大径の貫通孔を形成したものを用いてなる、Yコネクタが実用化されている。このYコネクタでは、筒状本体部材にキャップ部材が螺合されており、キャップ部材を締め付けることで、キャップ部材の先端部で弁体を段差部に圧接させて、弁体を縮径方向に弾性変形させ、弁体の貫通孔を閉鎖し、キャップ部材を緩めることで、弁体を拡径方向に弾性復帰させて、弁体の貫通孔を開口できるように構成されている。
【0007】
しかし、このYコネクタでは、キャップ部材によって弁体が縮径方向に弾性変形されていないときには、造影剤・生理食塩水あるいは血液等の流体が弁体の外周部からYコネクタ外に流出するという問題があった。例えば、単一管腔バルーンカテーテルに前記Yコネクタを適用すると、次のような問題が発生する。即ち、単一管腔バルーンカテーテルでは、ガイドワイヤのような長尺部材をカテーテル内腔に挿入し先端部をシールした上で造影剤を混合したバルーン拡張液を注入することでバルーンが拡張し、同時にX線下における視認性も得ることができるように構成されている。しかし、この単一管腔バルーンカテーテルに前記Yコネクタを適用すると、Yコネクタの弁体を開放したまま、バルーンカテーテル先端のシールを解除したときに、血圧によってカテーテル内腔に血液が流入する。そして、そのまま再度バルーンカテーテル先端をシールしバルーンを拡張すると、カテーテル内腔に流入した血液がバルーン内に流入し、血液が流入した分バルーンの視認性が低下するため、血管を損傷するリスクが大きくなるという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/091018号パンフレット
【特許文献2】特開2005−87574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記特許文献1、2記載の弁体では、ガイドワイヤなどの挿入物をスリットに挿入していない状態では、スリットの内面同士が隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持され、また挿入物をスリットに挿入した状態では、スリットの内面が挿入物の外面に隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持されるので、ガイドワイヤの挿入の有無に関係なく弁体を常時液密状に保持できるという利点を有している。
【0010】
しかし、本件発明者は、前記特許文献1、2記載の弁体においても、挿入物の挿入中心の軸方向に沿って前記スリットを形成しているので、弁体よりも遠位側において筒状本体部材内に充填される造影剤・生理食塩水あるいは血液等の流体の液圧によって、弁体のうちのスリットからの挿入物の出口側端部に、スリット内面を挿入物から離間させる方向への力が作用して、スリット内面と挿入物間における液密性が低下することを見出した。そして、この液密性低下による液漏れを防止するため、スリット長さがどうしても長くなり、その分ガイドワイヤなどの挿入物に対する弁体の摺動抵抗が増えて、挿入物の操作性が低下するという問題があることを見出した。
【0011】
本発明の目的は、造影剤・生理食塩水あるいは血液等の流体に対する液密性を常に有し、しかも該液密性を高めて、ガイドワイヤのような挿入物との摺動抵抗を小さく設定可能な医療機器用弁体、医療機器、および医療機器用弁体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る医療機器用弁体は、医療機器における流体通路に配置される医療機器用弁体にあって、上記弁体は、挿入物が挿入される挿入部を含み、上記挿入部は、遠位側から近位側へと伸びる自身の全長に亘って、上記挿入物の挿入中心から半径方向の外側へ延びる幅を有する切込部を含み、上記切込部では、その切込部の内面の少なくとも一部の面が、下記条件式(1)を満たすものである。
0°<θ<90°・・・・・(1)
ただし、θ:上記内面の少なくとも一部の面は、上記挿入物が挿入される軸における遠位側からみて、近位側に向かって角度を有しており、その一部の面に接する平面と、上記挿入中心の軸方向との交差する最小角である。なお、本明細書において、挿入物とは、切込部に挿入可能なものを意味し、ガイドワイヤなどの長尺部材は云うまでもなく、注射針などの短尺部材をも含むものとする。
【0013】
この弁体では、ガイドワイヤなどの挿入物を切込部に挿入していない状態では、切込部の内面同士が隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持され、また挿入物を切込部に挿入した状態では、切込部の内面が挿入物の外面に隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持されるので、挿入物の有無に関係なく弁体を常時液密状に保持できる。しかも、切込部の内面の少なくとも一部を、挿入中心の軸方向に対して0°〜90°の角度θで交差するように配置しているので、弁体よりも遠位側の流体通路内の液圧によって、弁体における切込部の遠位側部分が挿入物に圧接される方向に押されて、単に挿入中心の軸方向、即ち角度θが0°の切込を形成した従来の弁体と比較して、挿入物と弁体間における液密性が高められることになる。また、このように液密性が高められるので、弁体における挿入部の長さを短く設定して、挿入物に対する弁体の摺動抵抗を小さくでき、挿入物の操作性を向上できる。
【0014】
ここで、上記挿入中心の軸方向に対する交差断面での、上記切込部の形状は、上記軸方向における複数箇所において、変化することが好ましく、上記変化とは、上記軸方向における複数箇所での上記切込部の形状が、上記軸方向を中心に回転すること、または、上記軸方向からの乖離距離変わることであることが好ましい実施の形態である。なお、軸方向を中心に回転する断面形状の切込部とは、例えば前記挿入物の挿入中心から半径方向外方側へ延びる幅を有し、該挿入中心の中心線に沿って螺旋状に周回する帯状の切込部のことを意味する。そして、このような切込部を形成すると、切込部により形成される挿入部の切片が挿入物の外形に沿って拡縮するので、挿入物と切込部の内面間における隙間を小さくして、液密性を一層向上することができる。
【0015】
また、上記切込部は、全長における少なくとも一部を、非直線状に変化させることが好ましく、上記非直線状とは、上記挿入部の全長における近位側から遠位側に向かって、上記挿入部に対する上記切込部の進入角が、上記切込部の全長において部分的に異なることを意味する。
【0016】
更に、上記切込部は、上記幅を、上記挿入物の挿入中心から外側に向けて湾曲状、または直線状、に延びること、上記切込部は、上記挿入物の挿入中心を中心として、周方向に間隔をあけて複数本形成したものであること、上記切込部としての幅の異なる複数種類の切込部を形成すること、などが好ましい実施の形態である。
【0017】
更にまた、前記医療機器の流体通路が、その途中部に形成した環状の段差部と、該段差部よりも遠位側に形成した小径部と、該段差部よりも近位側に形成した大径部とを有しており、前記弁体の近位側に大径部に内嵌される筒部を形成し、前記弁体の遠位側に遠位側へ行くにしたがって縮径するテーパ部を形成し、前記切込部をテーパ部の遠位部に該テーパ部の中心線を挿入中心として形成し、前記テーパ部の外周部に段差部に圧接可能な環状のシール部を遠位側へ向けて突出状に形成することが好ましい。この場合には、弁体のシール部を流体通路の段差部に圧接させることで、シール部と段差部とを確実に液密状にシールすることができ、しかも弁体を縮径方向へ弾性変形させて切込部を確実に液密状にシールすることができる。
【0018】
ここで、前記シール部の内周面を遠位側へ行くにしたがって拡径するテーパ面で構成することが好ましい実施の形態である。この場合には、シール部が段差部に圧接されて内側へ変形して突っ張ることにより、弁体が段差部を乗り越えて小径部側へ移動することを効果的に阻止できる。
【0019】
本発明に係る医療機器は、前記医療機器用弁体を流体通路に内嵌して、該流体通路を閉鎖してなるものである。この医療機器では、弁体により流体通路を常時液密状に閉鎖でき、しかも切込部における液密性が高められるので、液密性を確保しつつ、切込部の長さを短くして、挿入物の摺動抵抗を少なくでき、挿入物の操作性を向上できる。
【0020】
本発明に係る医療機器用弁体の製造方法は、医療機器の流体通路に配置される医療機器用弁体の製造方法であって、弾性材料にて成形された弁体のうちの挿入物が挿入される挿入部に、加工ツールを用いて切込部を形成する切込工程を備え、前記切込工程において、前記加工ツールとして、回転中心軸から半径方向外方側へ延びる幅を有し、回転中心軸に沿って螺旋状に周回する帯状の切刃を備えた加工ツールを用い、前記加工ツールを回転させながら送り操作して、前記弁体の挿入部にその全長にわたって切込部を形成するものである。この製造方法では、切込部として、前記挿入物の挿入中心から半径方向外方側へ延びる幅を有し、該挿入中心に沿って螺旋状に周回する帯状の切込部を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る医療機器用弁体によれば、ガイドワイヤなどの挿入物を切込部に挿入していない状態では、切込部の内面同士が隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持され、また挿入物を切込部に挿入した状態では、切込部の内面が挿入物の外面に隙間なく密着することで、弁体が液密状に保持されるので、挿入物の有無に関係なく弁体を常時液密状に保持できる。しかも、切込部の内面の少なくとも一部を、挿入中心の軸方向に対して0°〜90°の角度θで交差するように配置しているので、弁体よりも遠位側の流体通路内の液圧によって、弁体における切込部の遠位側部分が挿入物に圧接される方向に押されて、単に挿入中心の軸方向、即ち角度θが0°の切込を形成した従来の弁体と比較して、挿入物と弁体間における液密性が高められることになる。また、このように液密性が高められるので、弁体における挿入部の長さを短く設定して、挿入物に対する弁体の摺動抵抗を小さくでき、挿入物の操作性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の弁体をYコネクタの縦断面図である。
図2図2は、本発明の弁体の斜視図である。
図3図3(a)は、本発明の弁体の左側面図、図3(b)は、本発明の弁体の面図、図3(c)は本発明の弁体の右側面図である。
図4図4は、本発明の弁体の縦断面図である。
図5図5(a)は、図4のa‐a線断面図、図5(b)は、図4のb‐b線断面図、図5(c)は、図4のc‐c線断面図
図6図6(a)は、本発明の弁体の切込部の正面図、図6(b)は、本発明の弁体の切込部の平面図である。
図7図7(a)は、本発明の弁体の切込部を加工するための加工ツールの正面図、図7(b)は同加工ツールの平面図である。
図8図8は、本発明の他の構成の弁体のスリットの斜視図である。
図9】、図9(a)は、本発明の他の構成の弁体のスリットの斜視図、図9(b)は、同スリットの平面図である。
図10図10(a)は、本発明の他の構成の弁体のスリットの斜視図、図10(b)は、同スリットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係る弁体30を組み込んだYコネクタ1の断面図である。本実施の形態では、図1に示すYコネクタ1を基準に、図1の左側を「先端側」、右側を「基端側」と定義して説明する。
【0024】
図1に示すように、Yコネクタ1は、例えば、カテーテル2のハブ等とカテーテル接続部4を接続して使用される。これにより、Yコネクタ1を通じてカテーテル2内に、ガイドワイヤのような長尺部材からなる挿入物3を挿入できるように構成されている。
【0025】
Yコネクタ1は、Y字状の筒状本体部材10と、筒状本体部材10の先端部(遠位側)に設けたカテーテル接続部4と、筒状本体部材10の基端側(近位側)に設けたキャップ部材20と、筒状本体部材10内に組み込んだ弁体30とを有している。以下、各部の構成について説明する。
【0026】
図1に示すように、Y字状の筒状本体部材10は、先端から基端にわたって貫通するチューブ状の本体部11と、本体部11の途中部から斜めに分岐するチューブ状の分岐部12とを有し、分岐部12の外端部にはシリンジまたは三方活栓を接続するための接続部13が形成され、本体部11の基端部の外周部にはキャップ部材20を取付けるための雄ネジ14が形成されている。
【0027】
本体部11内には本体内腔部15が形成され、分岐部12内には本体内腔部15に連通する分岐内腔部16が形成され、シリンジまたは三方活栓により分岐内腔部16に供給した造影剤や生理食塩水は、分岐内腔部16及び弁体30よりも先端側の本体内腔部15を経て、Yコネクタ1に接続したカテーテル2に注入されるように構成されている。なお、Yコネクタ1が医療機器に相当し、本体内腔部15が医療機器の流体通路に相当する。
【0028】
本体内腔部15は、分岐内腔部16の連通部よりも基端側の途中部に形成した、先端側へ向けて縮径するテーパ面からなる環状の段差部15aと、段差部15aよりも先端側(遠位側)に形成した小径部15bと、段差部15aよりも基端側(近位側)に形成した大径部15cとを有している。
【0029】
キャップ部材20は、本体部11の雄ネジ14に螺合する雌ネジ21を形成したキャップ本体22と、キャップ本体22の中央部から先端側へ突出する円筒状の操作筒部23とを有し、操作筒部23を本体内腔部15の大径部15cに内嵌させて、筒状本体部材10の雄ネジ14に雌ネジ21を螺合させることによって、筒状本体部材10に組み付けられている。
【0030】
弁体30は、操作筒部23の先端側において本体内腔部15の大径部15cに液密状に内嵌され、本体部11の雄ネジ14に対するキャップ部材20の雌ネジ21のねじ込み量に応じて、操作筒部23の先端部で大径部15cの先端側へ押し操作されるように構成されている。また、弁体30の先端側への移動は段差部15aにより規制され、これにより小径部15b内に弁体30が押し出されないように構成されている。更に、弁体30が段差部15aに圧接されることで、弁体30の外周部と本体内腔部15とが液密状に保持されるとともに、段差部15aのテーパ面により弁体30が縮径方向に圧縮変形するように構成されている。
【0031】
ガイドワイヤなどの挿入物3は、操作筒部23の貫通孔24に挿入されて、Yコネクタ1内に導入され、弁体30の切込部35及び本体内腔部15の小径部15bを通って、Yコネクタ1に接続されたカテーテル2内に挿入されている。そして、挿入物3が弁体30の切込部35に常時液密状に挿入されることで、キャップ部材20の螺合を緩めた状態においても、弁体30に挿入物3を挿入した状態で、本体内腔部15の先端側と基端側とが弁体30を介して液密状に常時仕切られるように構成されている。ただし、キャップ部材20を締め付けると、弁体30の外周部が段差部15aに圧接されるとともに、弁体30が縮径方向に圧縮変形して、弁体30の内面が挿入物3に強く圧接されるので、挿入物3の移動が規制されるとともに、本体内腔部15の先端側に大きな流体圧が作用した場合でも、弁体30の外周部と本体内部15間が液密状に保持されるとともに、挿入物3と弁体30間が液密状に保持される。なお、本体内腔部15の先端側に作用する流体圧としては、Yコネクタ1先端側からうける血圧やYコネクタ1に接続されたシリンジからの流体の注入圧などがある。
【0032】
なお、筒状本体部材10及びキャップ部材20の素材としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアミドのような各種合成樹脂を好適に採用できるが、これに限定されるものではない。
【0033】
次に、弁体30の具体的構成について説明する。
図1図6に示すように、弁体30は、本体内腔部15の大径部15cに液密状に内嵌する円筒状の筒部31と、筒部31の先端部に連なって弁体30の先端側部分に本体内腔部15の先端側へ突出状に形成した先端へ行くにしたがって縮径するテーパ部32と、筒部31及びテーパ部32の内側に形成したガイドワイヤなどの挿入物3よりも大径のガイド孔33と、挿入物3が挿入されるテーパ部32の先端部の挿入部34に形成した切込部35と、テーパ部32の外周部に先端側へ突出状に形成した環状のシール部36とを備えている。ただし、弁体30の構成は、適用するYコネクタ1の構成などに応じて適宜に変更することが可能で、例えば円板状の弁体を採用することも可能である。
【0034】
弁体30を構成する素材としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種剛性ゴム、天然ゴム、またはポリアミド系、ポリエステル系等の各種熱可塑性エラストマーのような弾性材料を採用できる。
【0035】
弁体30の外径は本体内腔部15の大径部15cよりも大きい寸法に形成され、弁体30を縮径方向に圧縮しながら大径部15cに内嵌することで、弁体30と大径部15c間における液密性が得られるように構成されている。
【0036】
テーパ部32の先端側には第1テーパ面32aが形成され、テーパ部32の基端側には第1テーパ面32aよりも中心線とのなす角度の大きい第2テーパ面32bが形成されている。テーパ部32の先端部の挿入部34には挿入物3を挿入可能とする切込部35が形成され、第1テーパ面32aにより本体内腔部15の先端側に作用する流体圧によって弁体30は中心方向に押し込まれる。これらの圧力によっても弁体30内に設けられる切込部35が閉鎖されて、Yコネクタ1の液密性が保たれる。
【0037】
弁体30の基端側に形成される第2テーパ面32bは、中心線に対する角度が本体内腔部15の段差部15aのテーパ面と同じになるように形成され、キャップ部材20を締め込んだときに、弁体30が本体内腔部15の先端側へ押し出されることを防止できるように構成されている。
【0038】
シール部36の内周面には先端側へ行くにしたがって拡径するテーパ面が形成され、これによりシール部36が本体内腔部15の先端側に作用する流体圧で大径部15cの内面に押し付けられるため、弁体30の外周面からの造影剤や生理食塩水のような流体の流出を防止できるように構成されている。
【0039】
図4図6に示すように、弁体30の先端部の挿入部34には、挿入部34の先端側から基端側への全長に亘って、挿入物3の挿入中心から半径方向の外側へ延びる幅Wを有する切込部35が形成され、切込部35の内面の少なくとも一部の面は、その一部の面に接する平面と、挿入中心の中心線CLの方向(弁体30の中心線の方向)との交差する最小角θが、0°<θ<90°になるように構成されている。
【0040】
具体的には、図6に示すように、挿入物3の挿入中心から半径方向外方側へ延びる幅Wを有し、該挿入中心の中心線CLに沿って螺旋状に周回する帯状の2個の切込部35を、挿入中心を挟んで半径方向両側に設けることができる。図5は、図のa-a線、b-b線、c-c線での断面図で、切込部35の内面は自然状態で常に閉塞しており、その断面は一文字状に形成されている。
【0041】
切込部35の幅Wの寸法は特に限定されないが、挿入物3の外径に応じて設定することが好ましく、例えば、挿入物3としてガイドワイヤをYコネクタ1内に導入するために用いるガイドワイヤインサータを用いる場合には、最大外径が0.9mmであれば、幅Wを0.45mm以上に設定することで、挿入物3による切込部35の損傷を抑制できる。なお、幅Wは、大きく設定するほど摺動性は向上する。
【0042】
図6に示すような形状の切込部35は、例えばドリル状の加工ツール40を用いて加工できる。具体的には、図7に示すように、加工ツール40として、回転中心RCから半径方向外方側へ延びる幅を有し、回転中心RCに沿って螺旋状に周回する2枚の帯状の切刃41を備えたものを用いることになる。加工ツール40及び弁体30を同軸上に配置して、加工ツール40を回転させながら送り操作して、弁体30の挿入部34全長にわたって切込部35を形成し、その後加工ツール40を逆回転させながら、弁体30の挿入部34から加工ツール40を引き抜くことで、切込部35を形成することになる。加工ツールではなく弁体を回転させて同様に形成してもよい。より具体的には、加工ツール40を挿入部34に挿入することで、弾性材料で形成されている弁体30は加工ツール40の挿入とともに延伸される。そして、徐々に加工ツール40を推し進めると弁体30は加工ツール40の形状に密着しながら引き裂かれ、これにより切込部35が形成されることになる。また、延伸された状態で形成された切込部35は、加工ツール40を引き戻すと弾性によって弁体30の中心方向に収縮するため、図6に示すように、自然状態では閉塞された切込部35が形成される。
【0043】
なお、弁体30の切込部35を加工する際にシリコーンオイルを添加することで切込部35の内面にシリコーン層を形成してもよい。この場合には、切込部35の内面に摩擦係数が小さいシリコーン層が形成されることによって、切込部35に対する挿入物3の摺動性が向上する。またシリコーン層によって切込部35の内面同士の隙間が密になるため、切込部35における液密性を向上させることができる。また、加工ツール40の先端部に先鋭部を突出状に形成し、弾性材料からなる挿入部34を圧縮変形させながら、切込みを入れるように構成することも好ましい。更に、図8のような4個の切込部35を十文字状に配置したものや、3個の切込部35をY字状に配置したものなどは、切込部35に適合する形状及び大きさの切刃を有する加工ツールを用いて上記と同様に加工することができる。
【0044】
また、弁体30が組み込まれる医療機器に挿入される長尺部材の材質・外径・硬度によって摺動性は異なるため、加工ツール40の外径や切込部35の挿通中心の軸方向の長さを調整することで実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0045】
なお、挿入中心の中心線CLに直交する断面での切込部35の形状は、直線状だけでなく、湾曲状などの非直線状に形成することもできる。また、切込部35の個数は任意に設定することが可能で、1個だけ形成することもできるし、挿入中心の中心線CLを中心に周方向に間隔をあけて3個以上設けることもできる。例えば、図8に示すように、4個の切込部35を周方向に90°の間隔をあけて形成し、挿入中心の中心線に直交する断面での切込部35の形状を十文字状に形成することができる。更に、複数の切込部35を形成する場合には、切込部35の幅Wを同じに設定することもできるが、異なる幅の切込部35を設け、中心線CLからの乖離距離が変化するように構成することも可能である。更にまた、切込部35の内面の少なくとも一部の面が、その一部の面に接する平面と、挿入中心の中心線CLの方向との交差する最小角θが、0°<θ<90°になるように構成されていれば、任意の形状の切込部を形成することが可能であり、弁体30の挿入部34における切込部35を形成した位置に、切込部35に代えて、例えば図9図10に示すような、三角波状の切込部35Aや、正弦波状の切込部35Bを形成することも可能である。また、この切込部35A、35Bにおいては、中心線CLからの乖離距離ELが変化するとともに、中心線CLに対する進入角が変化することになる。なお、「乖離距離ELが変化する」とは、図9(b)、図10(b)に示すように、挿入中心の中心線CLに対する交差断面での切込部35A、35Bの形状が、中心線CL方向の複数箇所において、中心線CLからの乖離距離ELを変えることを意味する。また、「進入角が変化する」とは、図9図10に示すように、切込部35A、35Bが、中心線CL方向に沿うことなく(0°ではなく)、進入角度を有しており、その進入角度を切込部35A、35Bにおける中心線CL方向の複数箇所において変えることを意味する。例えば、図9に示す切込部35Aのように、進入角度を交互に変化させたり、図10に示す切込部35Bのように、進入角度を連続的に変化させることになる。
【0046】
このような構成の切込部35を形成した弁体30では、切込部35の内面が自然状態で常に閉塞されており、しかも切込部35の形状が複雑なので、造影剤・生理食塩水または血液等の流体が切込部35を通ってYコネクタ1外へ流出しにくくなる。また、切込部35に挿入物3を挿入した状態で、切込部35の内面が、弁体30を構成する素材の弾性により、挿入物3の外面に圧接されるので、弁体30と挿入物3間における液密性が保たれる。しかも、最小角θを0°<θ<90°に設定しているので、弁体30よりも先端側の本体内腔部15の流体圧によって、弁体30における切込部35の先端側部分が挿入物3に圧接される方向に押されて、単に挿入中心の軸方向、即ち最小角θが0°の切込みを形成した従来の弁体30と比較して、挿入物3と弁体30間における液密性が高められることになる。また、このように液密性が高められるので、切込部35の中心線方向の長さを短く設定して、挿入物3に対する弁体30の摺動抵抗を小さくでき、挿入物3の操作性を向上できる。しかも、図6に示す切込部35のように、挿入中心の中心線CLに沿って螺旋状に周回するように形成すると、切込部35により形成される挿入部34の切片が、切込部35に挿入される挿入物3の外形に沿って拡縮するので、挿入物3と切込部35の内面間における隙間を小さくして、液密性を一層向上することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、Yコネクタ1に本発明の弁体30を適用した場合について説明したが、これに限定されず、シースイントロデューサ、マイクロカテーテルおよびバルーンカテーテル等の各カテーテル等の医療機器に対しても本発明の弁体30を適用することができる。例えばガイドワイヤルーメンと造影剤を含むバルーン拡張用流体が通過する内腔が併用される単一管腔バルーンカテーテルに組み入れた場合、弁体30によってカテーテル内腔には生体内からの血液の流入が抑制されるため、X線下におけるバルーンの視認性低下が抑制される。
【0048】
また、挿入物3としては、適用する医療機器に応じて、ガイドワイヤのような長尺部材以外に、注射針などの短尺物や、薬液などの流体を挿入することもできる。
【0049】
次に、弁体30の作用効果を確認するために行った評価試験について説明する。
【0050】
<評価試験1>
切込部の挿入中心の軸方向の長さに関する評価試験を下記の通り行った。
【0051】
1.弁体
弁体として、切込部の挿入中心の軸方向の長さが、0.5mm、1.0mm、1.5mmの3種の弁体をシリコーンゴムで作製した。そして、弁体の先端部に、外径0.9mmの加工ツール40で切込部を加工した。
【0052】
2.弁性能評価
作製した3種の弁体をYコネクタ1に組み込み、Yコネクタ1内に水を満たした上で200mmH2Oの内圧を付与した。水圧下でYコネクタ1内からの水の流出を確認するとともに、外径0.25mmのガイドワイヤを挿入したときの水漏れの有無を確認した。その結果を表1に示す。ただし、水漏れの発生しなかった弁体は「○」で示し、水漏れの発生した弁体は「×」で示した。
【0053】
3.摺動性評価
作製した3種の弁体をYコネクタ1に配置し、Yコネクタ1内に外径0.25mmのガイドワイヤ(ポリテトラフルオロエチレンコーティング)を挿入して、摺動性を触感にて評価した。その結果を表1に示す。ただし、摺動抵抗の大きな弁体は「×」で示し、摺動抵抗の小さい弁体は「○」で示した。
【0054】
【表1】
【0055】
<評価試験例2>
切込部の加工径に関する評価試験を下記の通り行った。
【0056】
1.弁体
弁体として、外径が0.9mm、1.1mmの2種類の加工ツールを用いて切込部35を形成した2種の弁体と、外径が1.1mmの加工ツールを用いて、シリコーンオイル付与して切込部を形成した弁体の計3種の弁体をシリコーンゴムで作製した。
【0057】
2.弁性能評価
作製した3種の弁体をYコネクタ1に配置し、Yコネクタ1内に水を満たした上で200mmH2Oの内圧を付与した。水圧下でYコネクタ1内からの水の流出を確認するとともに、外径0.25mmのガイドワイヤを挿入したときの水漏れの有無を確認した。その結果を表2に示す。ただし、水漏れの発生しなかった弁体は「○」で示した。
【0058】
3.摺動性評価
作製した2種の弁体が配置されたYコネクタ1内に生理食塩水と造影剤の混合液(体積比1:1)を満たし、外径0.35mmのガイドワイヤを挿入して摺動させて摺動荷重をフォースゲージ(日本電産シンポ社製)で測定した。ガイドワイヤは速度10mm/sec、ストローク20mmで5往復摺動し、押込み時と引き戻し時のそれぞれのピーク荷重の平均値を測定した。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表1と表2から、Yコネクタ1に挿入されるカテーテルの外径によって切込部の挿入中心の軸方向の長さと加工方法を設定することで、弁性能と摺動性を両立できることを確認した。
【符号の説明】
【0061】
1 Yコネクタ 2 カテーテル
3 挿入物 4 カテーテル接続部
10 筒状本体部材 11 本体部
12 分岐部 13 接続部
14 雄ネジ 15 本体内腔部
15a 段差部 15b 小径部
15c 大径部 16 分岐内腔部
20 キャップ部材 21 雌ネジ
22 キャップ本体 23 操作筒部
24 貫通孔
30 弁体 31 筒部
32 テーパ部 32a 第1テーパ面
32b 第2テーパ面 33 ガイド孔
34 挿入部 35 切込部
36 シール部
35A 切込部 35B 切込部
40 加工ツール 41 切刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10