(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928066
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】アルミニウム押出し形材及びその表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/36 20060101AFI20160519BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20160519BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20160519BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20160519BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20160519BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20160519BHJP
【FI】
C23F1/36
C22C21/10
C22F1/053
C22C21/02
C22C21/06
!C22F1/00 612
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-71847(P2012-71847)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-204062(P2013-204062A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山崎 弘之
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴弘
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−152469(JP,A)
【文献】
国際公開第1992/12276(WO,A1)
【文献】
米国特許第05091046(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00 − 4/04
C22C 5/00 − 25/00
C22C 27/00 − 28/00
C22C 30/00 − 30/06
C22C 35/00 − 45/10
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を0.02〜1.0重量%含有し、表面がエッチング面よりなるアルミニウム押出し形材において、
該アルミニウム押出し形材の表面においては、アルミニウムの結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差の平均値が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム押出し形材。
【請求項2】
請求項1において、前記高低差の平均値が0.5μm以下であることを特徴とするアルミニウム押出し形材。
【請求項3】
押出成形されたアルミニウム押出し形材の表面をアルカリエッチング液でエッチング処理することにより請求項1又は2に記載のアルミニウム押出し形材を製造するアルミニウム押出し形材の表面処理方法であって、
該アルミニウム押出し形材は亜鉛を0.02〜1.0重量%含んでおり、
前記アルカリエッチング液は、亜鉛よりも酸化還元電位が高い酸化剤を含有することを特徴とするアルミニウム押出し形材の表面処理方法。
【請求項4】
請求項3において、前記酸化剤が硝酸塩及び/又は亜硝酸塩であることを特徴とするアルミニウム押出し形材の表面処理方法。
【請求項5】
請求項4において、アルカリエッチング液のNaOH濃度が3〜80g/Lであり、硝酸塩及び/又は亜硝酸塩の濃度が3〜30g/Lであることを特徴とするアルミニウム押出し形材の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム押出し形材に係り、特に微量の亜鉛を含有したアルミニウム押出し形材に関する。また、本発明は、アルミニウム押出し形材の表面性状を良好とするための表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム押出し形材の製品を製造する場合、押出成形された押出成形品を酸浴に浸漬して油脂成分を除去した後、アルカリエッチング処理して残留油脂の除去、自然酸化被膜の除去、軽微なキズの除去及び金属光沢の付与を行い、その後必要に応じ硫酸浴に浸漬してFe、Si等の付着物を除去した後、陽極酸化して陽極酸化被膜を形成し、その後、電着塗装を施すことが多い(例えば特許文献1)。
【0003】
なお、特許文献1には、アルミニウム押出し形材表面を十分に酸脱脂処理することにより、アルカリエッチング後の表面光沢度の等方性を高くすることが記載されている。特許文献2には、Zn1.0%以下のリサイクル材使用アルミニウム合金板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−121277
【特許文献2】特開2003−89839
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミサッシ、アルミ製自動車部品などの廃材をリサイクルしてアルミニウム押出し形材を製造する場合、廃材に付随した亜鉛合金部材に由来した亜鉛がアルミニウム合金中に混入し、アルミニウム押出し形材のアルミニウム合金中の亜鉛濃度が高くなることがある。
【0006】
このように亜鉛を含んだアルミニウム押出し形材をエッチング処理した場合、表面が荒れ、表面性状に劣ったものとなることが認められた。
【0007】
本発明は、亜鉛を0.02重量%以上含んだアルミニウム合金よりなるアルミニウム押出し形材であって、表面性状が良好なエッチング面を有したアルミニウム押出し形材と、そのための表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルミニウム押出し形材は、亜鉛を0.02〜0.1重量%含有し、表面がエッチング面よりなるアルミニウム押出し形材において、該アルミニウム押出し形材の表面においては、アルミニウムの結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差の平均値が1μm以下であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のアルミニウム押出し形材の表面処理方法は、押出成形されたアルミニウム押出し形材の表面をアルカリエッチング液でエッチング処理する
ことにより本発明のアルミニウム押出し形材を製造するアルミニウム押出し形材の表面処理方法であって、該アルミニウム押出し形材は亜鉛を0.02〜1.0重量%含んでおり、前記アルカリエッチング液は、亜鉛よりも酸化還元電位が高い酸化剤を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウム押出し形材は、亜鉛を0.02重量%以上含有していても、表面の結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差が1μm以下と小さいため、表面性状が良好である。
【0011】
本発明者らが種々研究を重ねたところ、亜鉛を0.02重量%以上含有したアルミニウム押出し形材を通常のアルカリエッチング液でエッチング処理した場合、エッチング処理後の表面が荒れたものとなるが、アルカリエッチング液に亜鉛よりも酸化還元電位が高い貴なる化合物を含有させると、アルカリエッチング処理後の表面性状が良好になることが認められた。これは、アルカリエッチング液中に上記の貴化合物が存在すると、アルカリエッチング液中に溶け出した亜鉛イオンのアルミニウム押出し形材表面への再析出が抑制されるためであると考えられる。
【0012】
即ち、亜鉛を0.02重量%以上含有するアルミニウム押出し形材をアルカリエッチング処理すると、アルミニウム押出し形材表面からはアルミニウムイオンと共に亜鉛イオンが溶出し、このうち亜鉛イオンは亜鉛よりも酸化還元電位が低い卑なアルミニウムイオンを溶解させつつ再度アルミニウム押出し形材表面に析出する。形材表面の電子顕微鏡観察の結果、この析出現象は、形材表面全体に均一に生じるのではなく、分布をもった偏析現象となること、この亜鉛偏析が生じた部分は亜鉛非析出部分に比べてエッチング速度が大きくなること、及びこれに起因して、アルミニウム押出し形材表面に深くエッチングされた凹所(低所)と、エッチング量が少ない凸所(高所)とが生じ、荒れた表面性状となることが認められた。
【0013】
本発明では、アルカリエッチング液中に亜鉛よりも貴なる化合物を含有させることにより、亜鉛の再析出が防止(抑制を含む)され、亜鉛偏析に起因した凹凸の発生が防止され、アルミニウム押出し形材の表面性状が良好となる。
【0014】
本発明方法によると、形材表面におけるアルミニウムの結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差が小さい、良好な表面性状を有したアルミニウム押出し形材を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のアルミニウム押出し形材の表面の模式的断面図である。
【
図2】比較例のアルミニウム押出し形材の表面の模式的断面図である。
【
図3】実施例に係るアルミニウム押出し形材の表面の顕微鏡写真である。
【
図4】比較例に係るアルミニウム押出し形材の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明のアルミニウム押出し形材は、亜鉛を0.02〜1.0重量%好ましくは0.02〜0.08重量%含有するアルミニウム合金よりなり、表面がエッチング処理されている。本発明のアルミニウム押出し形材では、その表面(エッチング面)においてアルミニウムの結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差の平均値が1μm以下、好ましくは0.5μm以下である。
【0018】
図1はかかる表面10の断面図である。結晶粒界GBはエッチングにより筋状に延在した凹条となっている。結晶粒界GBはエッチングされ易いので、周囲の結晶粒の表面よりも凹んだ凹条となる。この凹条の深さは0.5〜1.5μm程度である。
【0019】
この結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面11,12同士、12,13同士、13,14同士、14,15同士の高低差の平均値は、1μm以下、特に0.5μm以下となっており、このエッチング面よりなる表面10は実質的に平坦である。なお、平面11〜15などの1つの平面を構成する平均結晶粒径は30〜100μm程度である。
【0020】
図2は、結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差hの平均値が1μmを超えている比較例に係るアルミニウム押出し形材の表面20の模式的な断面図である。この場合、結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面21,22、同23,24、同25,26、同26,27では高低差hが1μmを超えている。一部の結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面22,23、同24,25では高低差は小さく1μm以下となっている。
図2において、周囲よりも凹んだ平面(低所)21,24,25,27は亜鉛が析出し、エッチングが進行した部分であり、高い平面22,23,26は亜鉛が全く又は殆ど析出せず、エッチングが少ない部分である。
【0021】
図2のように、結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面は必ず高低差が生じるものではなく、一部の隣接2平面は略同一高さ又は高低差の小さいものとなり、一部の隣接2平面は大きな高低差を有したものとなる。そこで、本発明では、アルミニウム押出し形材を長さ1mm以上例えば1〜5mmにわたって直線的に切断した切断面について顕微鏡撮影し、
図1,2に示されるような断面の撮像を得る。この撮像に表われるすべての結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面の高低差hを測定し、その平均値を求めることとする。
【0022】
本発明では、この高低差の平均値が1μm以下、好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下となるようにエッチング処理を行う。
【0023】
このように結晶粒界GBを挟んで隣接する2平面の高低差の平均値が1μm以下と小さいアルミニウム押出し形材にあっては、表面の外観が滑らかで良好である。
【0024】
本発明のアルミニウム押出し形材を構成するアルミニウム合金としては、JIS A6061合金、A6063合金等のJIS6000系合金のほか、主要成分としてZnを添加しない1000系、3000系、5000系等が挙げられるが、これに限定されない。このアルミニウム合金は、亜鉛を0.02〜1.0重量%含有する。亜鉛含有量が0.02重量%よりも少ないときには、貴酸化剤を添加しないアルカリエッチング処理によっても外観性状が良好なアルミニウム押出し形材が得られる。亜鉛含有量が1.0重量%を超えると、アルミニウム押出し形材の耐食性が低下や、貴酸化剤の添加量が多量必要となり、エッチング面が荒れ、外観が悪化する。
【0025】
図1に示すような表面性状とするためには、押出成形されたアルミニウム押出し形材をまず酸によって脱脂洗浄した後、前記貴なる酸化剤を含有したアルカリエッチング液を用いてエッチング処理する。脱脂のための酸としては、濃度50〜300g/Lの硫酸水溶液、50〜300g/Lの硝酸水溶液、30〜200g/Lの硝酸及び30〜200g/Lの硫酸を含む混酸水溶液などを用いることができるが、これに限定されない。
【0026】
かかる酸を用いて脱脂した後、水洗し、アルカリエッチング処理する場合、濃度3〜80g/L特に5〜50g/Lの水酸化アルカリを含み、さらに亜鉛よりも酸化還元電位が高い貴なる酸化剤を含むアルカリエッチング液が用いられる。なお、水酸化アルカリ濃度が過度に低いとエッチングが不十分となり、過度に高いとエッチングが過剰となり、表面の金属光沢が損なわれる。
【0027】
この貴酸化剤としては、硝酸塩、亜硝酸塩、過酸化水素、過マンガン酸塩、二クロム酸塩などが例示され、特に硝酸ナトリウムが好適である。なお、硝酸塩、亜硝酸塩の酸化還元電位とは硝酸イオン又は亜硝酸イオンの酸化還元電位を表わす。アルカリエッチング液中の硝酸ナトリウム濃度は3〜30g/L特に4〜25g/L程度が好適である。この硝酸ナトリウム濃度が過度に低いと効果が不十分であり、硝酸ナトリウム濃度が過度に高いと、エッチング面が荒れるようになる。
【0028】
前述の通り、アルカリエッチング液に貴酸化剤を含有させると、エッチング処理時に、アルミニウム押出し形材から溶出した亜鉛イオンがアルミニウム押出し形材表面に不均一に再析出することが防止され、亜鉛の不均一再析出に起因した不均一なエッチングが防止され、
図1に示した全体として平坦度の高い表面を有したアルミニウム押出し形材が得られる。
【0029】
このアルカリエッチング処理時の液の温度は40〜90℃程度が好適であり、処理時間(液中への浸漬時間)は1〜10分特に2〜6分程度が好適である。
【0030】
なお、アルカリエッチング液中の亜鉛濃度が低い場合(アルカリエッチング液が新鮮であるとき)よりも、アルカリエッチング液を使用し続けて液中の亜鉛濃度が2ppmより高くなってきたときの方が上記の不均一なエッチングが発生し易くなる。
【0031】
アルカリエッチングされたアルミニウム押出し形材は、水洗後、常法に従って陽極酸化処理、電解着色処理、クリア塗装、焼付け処理工程等を経て製品となる。この製品としては、アルミサッシ、玄関ドア、カーポート、自動車用長尺部材等が例示されるが、これらに限定されない。なお、アルミニウム形材が押出成形されたものであるか否かについては、表面に押出成形時に生じる筋状模様が存在するか否かによって識別することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0033】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
表1に示す亜鉛含有量のアルミニウム合金JIS A6063合金製で幅20mm、長さ50mm、厚み2mmの押出し形材を供試材として使用した。
【0034】
この供試材を濃度10重量%の硫酸水溶液に5分浸漬して脱脂した後、水洗した。この供試材をNaOHを50g/L、硝酸ナトリウムを表1に示す濃度にて含有するアルカリエッチング液(50℃)に5分間浸漬し、アルカリエッチング処理した。この供試材を水洗後、直線的に切断し、長さ3mmの範囲にわたって、結晶粒界を挟んで隣接する2平面の高低差hを測定し、その平均値を算出した。その結果を表1に示す。
【0035】
なお、実施例3の処理後のエッチング面の顕微鏡写真を
図3に示し、比較例1の処理後のエッチング面の顕微鏡写真を
図4に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の実施例に示すとおり、本発明における範囲内においてはZnを含むにも関らず、エッチング面の荒れが無い事が確認できる。また、Znより貴な酸化剤として硝酸ナトリウム以外を用いても同様の効果が得られることが分かる。これに対して、Znを1重量%より多く含むと、本発明範囲内の硝酸ナトリウムを添加しても効果は得られず、結晶粒間の段差が大きくなり、外観が悪化する。また、比較例3に示すように硝酸ナナトリウムの添加量が少ないと効果が得られず、比較例4に示すように、添加量が多いと平均段差は小さくなるが、光沢値が小さくなり所望する金属光沢が得られなくなる。また、減耗量から分かる通り多くのアルミを溶解させるため、コスト面の悪化や排水工程にて発生する汚泥量が増加し、環境面への悪影響も懸念される。
【符号の説明】
【0038】
10,20 表面
11〜15,21〜27 平面
GB 結晶粒界