(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928088
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置およびこれを用いた磁気記録装置
(51)【国際特許分類】
F16C 27/06 20060101AFI20160519BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20160519BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20160519BHJP
F16C 33/62 20060101ALI20160519BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20160519BHJP
G11B 21/02 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
F16C27/06 B
F16C35/077
F16C33/32
F16C33/62
F16C19/06
G11B21/02 630A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-78227(P2012-78227)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204811(P2013-204811A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】柳川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】西澤 宏
(72)【発明者】
【氏名】下川 隆志
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−106554(JP,A)
【文献】
特開2001−327118(JP,A)
【文献】
特開2011−256967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 21/00−27/08
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16C 35/00−39/06
F16C 43/00−43/08
G11B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、該軸に対して軸方向に並んで配置され、外輪と内輪を備え、前記内輪が前記軸に固定される複数の玉軸受けと、前記外輪の外周面を押圧するトレランスリングと、を備え、スイングアームの固定穴に前記トレランスリングを介して、前記玉軸受けの外輪が固定され、前記軸周りに揺動する磁気記憶装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置であって、前記玉軸受けの玉数と、前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数がお互いに素の関係であることを特徴とする磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項2】
前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山は円周方向に等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項3】
前記玉軸受けの前記内輪、外輪、玉はマルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項4】
前記玉軸受けの玉数は11、13のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項5】
前記玉軸受けの玉数が前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数より多いことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項6】
前記ピボット軸受け装置の揺動範囲は、機械角度で45度以下であり、前記玉軸受けの玉数を8個以上としたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項7】
前記外輪が固定されるスリーブをさらに備え、
前記トレランスリングは、前記スリーブを介して前記外輪の外周面を押圧し、
前記玉軸受けの外輪は、前記スイングアームの固定穴に前記トレランスリング及び前記スリーブを介して固定されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置。
【請求項8】
軸と、該軸に対して軸方向に並んで配置され、外輪と内輪を備え、前記内輪が前記軸に固定される複数の玉軸受けと、前記外輪の外周面を押圧するトレランスリングと、を備えた磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置を用い、先端部に磁気ヘッドが搭載されるスイングアームの固定穴に前記トレランスリングを介して、前記玉軸受けの外輪が固定され、軸周りに揺動することにより、前記磁気ヘッドがトラック移動する磁気記録装置であって、前記玉軸受けの玉数と、前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数がお互いに素の関係であることを特徴とする磁気記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低トルク、低トルク変動で精度良く揺動するピボット軸受け装置および、これを用いた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のピボット軸受け装置は複数の玉軸受けを、その内輪に対応させた軸に対して軸方向(タンデム)に配置させ、軸を中心として高精度で低トルクでの揺動を可能にできていた。一方、ピボット軸受け装置は、磁気記録装置、特にハードディスク装置(以下HDDと略す)においては、スイングアーム(揺動)型のヘッドアクセス機構の軸受けとして多用されている。HDDにおいては面記録密度の向上が継続的に進められており、線記録密度とトラック密度との向上により、面記録密度は1Tbpsi(1Tera Bit Per Square Inch)に届こうとしている。このために、微小位置決めに対する精度要求も高まり、ピボット軸受けに対する精度向上がますます求められてきている。
【0003】
特許文献1には、ピボット軸受けを構成する2組の軸受けの一方の内輪をピボットの軸に構成することで、部品点数の削減が可能で、しかもトルク変動が抑えられるとされている。また、HDDのアームとピボット軸受けが、トレランスリングを介して固定されることが開示されている。トレランスリングはアームの穴とピボット軸受けの隙間に配置されることで、圧縮されて反力によりアームの穴に対して、ピボット軸受けを弾性的に支持できることが開示されている。また、特許文献2にはトレランスリングによりピボット軸受けをアームの穴に固定する際に、トレランスリングの突起部分(Projection)が塑性変形することにより、ピボット軸受けの外輪への応力を低減し、外輪の変形に伴う影響を低減するとともに、抜去力の向上が得られることが開示してある。更には、アームの穴とピボット軸受けの外径との隙間のバラツキに対して、許容範囲が拡大でき、ピボット軸受けが実装された状態でトルクの上昇を防止できることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−106554号公報(第4頁、[0024]−[0026]、
図5、
図7)
【特許文献2】US公開2008/0199254号公報(第1頁、[0012]−[0014]、
図2、
図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されているピボット軸受けにおいては、軸の一部にボールが走行する転動溝を構成する必要があり、軸受け特性の観点から材質の選択に自由度がなく加工が通常の玉軸受けの工程と異なるために、生産性が低下や価格の上昇を生じさせると考えられる。
【0006】
一方、特許文献2に開示されているトレランスリングによるピボット軸受けの組み立てにおいては、アームの穴とピボット軸受けの締結を強固にするには、トレランスリングとピボット軸受けの外輪との間でより高い面圧を与えることが必要である。これによりピボット軸受けの外輪の変形が大きくなり、ボールの転動溝の変形が生じて、トルクの上昇や、回転精度の低下が発生する。これによって、HDDなどの記録再生装置のアクセス速度や停止位置精度の低下を引き起こし、記録再生装置としてのパフォーマンスを低下させる要因となっていた。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、簡単な構成で精度が良く、信頼性の高いピボット軸受け装置を安価に実現でき、これによって信頼性の高い高密度磁気記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、軸と、該軸に対して軸方向に並んで配置され、
外輪と内輪を備え、前記内輪が前記軸に固定される複数の玉軸受けと、
前記外輪の外周面を押圧するトレランスリングと、を備え、アームの固定穴に
前記トレランスリングを介して、前記玉軸受けの外輪が固定され、前記軸周りに揺動する
磁気記録装置のスイングアーム用ピボット軸受け装置であって、前記玉軸受けの玉数と、前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数がお互いに素の関係であることを特徴とする。この構成により、外輪が単純なリングであれば、トレランスリングの応力により変形するので、トレランスリングの山数と同じ数の多角形に変形しようとする。玉軸受けは予圧が与えられ、内輪軌道面と外輪軌道面とがボールと接触して、内輪内径部は、挿入固定されている軸により、その剛性が高くなっている。このために、外輪は円周方向に対して、ボールの存在する位置と、存在しない位置とによって、半径方向の剛性が大きく変化すると考えられる。つまり外輪は、円周方向に対してボールの個数分に対応した剛性が繰り返し変化する特性を有することとなる。これらのことから外輪の変形は外部応力の数つまり、トレランスリングの山数に対応した多角形となり、剛性はボールの数による繰り返し変化となる。トレランスリングの山数をm、ボールの数をnとすれば、外輪の軌道溝の変形は、外輪の変形自身と考えられ、mとnの最小公倍数つまり、L.C.M.(m、n)の多角形に変形するものと考えられる。
【0009】
さてm、nはお互いに素の関係であるので、L.C.M.(m、n)=m×n角形となり、見かけ上真円に近くすることができ、外輪の軌道溝の変形を少なくすることが可能となり、ピボット軸受け装置の特性が劣化するのを防止できる。
【0010】
また、前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山は円周方向に等間隔に配置されていることを特徴とする。この構成により前述したように、外輪が変形した場合の多角形を正多角形とすることができる。これによって、変形のバラツキが低減できピボット軸受け装置の特性を向上できる。
【0011】
また、前記玉軸受けの内輪、外輪、玉はマルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。この構成によりSUJ2などの高炭素クロム鋼と比べて防錆能力が高いので、防錆油の塗布を不要とすることができ、防錆油の蒸発に伴うコンタミの低減が可能となる。
【0012】
また、前記玉軸受けの玉数は11、13のいずれかであることを特徴とする。この構成により玉数が既に素数であるために、トレランスリングの山数が同数の場合を除いて、ボールの数との関係を常にお互いに素の関係とすることができ、トレランスリングの山数の設計自由度を向上することができる。
【0013】
また、前記玉軸受けの玉数が前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数より多いことを特徴とする。この構成により、一般的にトレランスリングはプレスワークにより作成され、この精度と玉軸受における玉の配置される精度を比較すると後者の精度のほうが一般的に良い。これにより、スプリングバックによる精度劣化や山毎のバラツキを吸収しやすい山数や形状等の最適化がより容易にできるような設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0014】
また、前記ピボット軸受け装置の揺動範囲は、機械角度で45度以下であり、前記玉軸受けの玉数を8個以上としたことを特徴とする。玉軸受けの回転方向の配置に対して、部品毎のバラツキを低減するためには、玉軸受けのボールピッチが機械角度以下となるように配置することで可能となる。玉軸受けのボールピッチが45度以下、つまり、玉数が8個以上の玉軸受けを用いることによって揺動範囲で玉の円周上の相互配置が変わることがないので、より安定した精度が実現できる。
また、前記外輪が固定されるスリーブをさらに備え、前記トレランスリングは、前記スリーブを介して前記外輪の外周面を押圧し、前記玉軸受けの外輪は、前記スイングアームの固定穴に前記トレランスリング及び前記スリーブを介して固定される構成であってもよい。
【0015】
また、軸と、該軸に対して軸方向に並んで配置され、
外輪と内輪を備え、前記内輪が前記軸に固定される複数の玉軸受けと、
前記外輪の外周面を押圧するトレランスリングと、を備えたピボット軸受け装置を用い、先端部に磁気ヘッドが搭載される
スイングアームの固定穴に
前記トレランスリングを介して、前記玉軸受けの外輪が固定され、軸周りに揺動することでトラック移動する磁気記録装置であって、前記玉軸受けの玉数と、前記トレランスリングの前記外輪を押圧する山数がお互いに素の関係であることを特徴とする。この構成により前述のようにトレランスリングの山数をm、ボールの数をnとすれば、m、nはお互いに素の関係であるので、L.C.M.(m、n)=m×n角形となり、見かけ上真円に近くすることができ、外輪の軌道溝の変形が少なくすることが可能となり、ピボット軸受けの特性が劣化を防止できる。これによって、磁気記録装置における磁気ヘッドのアクセスに対してピボット軸受け装置の回転精度を高く保てるので、トラック密度が高くなる高密度記録装置のトラック位置決め精度を向上でき、高密度記録が有利な磁気記録装置が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明はトレランスリングにより、外輪が固定される揺動型のピボット軸受け装置において玉軸受けの玉数と、トレランスリングの山数とがお互いに素の関係とすることにより外輪の軌道溝の変形を少なくすることが可能で、これによって低トルク、低トルク変動で精度良く揺動できるピボット軸受け装置が実現できる。更にはこのピボット軸受け装置を用いることで、トラック密度の高い高密度記録が可能な磁気記録装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るHDDの概略の平面図
【
図3】本実施形態のピボット軸受け装置とアームを示す斜視図
【
図4】本実施形態のピボット軸受け装置とトレランスリングを示す断面図
【
図5】(a)はトレランスリングの正面図、(b)はその断面図
【
図7】本発明の一実施形態に係るピボット軸受け装置とトレランスリングの関係を示す平面図
【
図8】本発明におけるピボット軸受けの揺動トルクを示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るHDDの概略の平面図、
図2は本実施形態のHDDのHSAの平面図、
図3は本実施形態のピボット軸受け装置とアームを示す斜視図、
図4は本実施形態のピボット軸受け装置とトレランスリングを示す断面図、
図5(a)はトレランスリングの正面図、
図5(b)はその断面図、
図6は他のトレランスリングの斜視図、
図7は本実施形態に係る軸受けとトレランスリングの関係を説明する概念図、
図8は本発明におけるピボット軸受けの揺動トルクを示す特性図である。
【0019】
本実施形態におけるHDDの概要は2.5型(インチ)の垂直磁気記録方式で面記録密度は、およそ750Gbpsi(Giga bit per square inch)であり、2Diskを搭載して1TB(Tera Byte)の記憶容量を有している。そこで、まず
図1および
図2によりHDDの構成について説明する。
アルミ製のシャーシ2には、磁気記録媒体としての磁気ディスク3がスピンドルモータ4に設けられた図示しないスピンドルとハブにより固定され、回転可能に支持されている。磁気ディスク3には、ガラスの基材(Substrate)の上に下地、軟磁性裏打ち層(SUL)、Ruによる中間層、記録層、DLC層などがスパッタにより製膜されている。更にその上部表面にはフッ素系オイルとして、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を主成分とする潤滑剤が塗布されている。記録層としては、Co−Cr−Ptのグラニュラ膜を用いて、粒界をSiO2により分離してある。
【0020】
HSA(Head Stack Assembly)10は、磁気ヘッド11が一端に設けられ、他端に磁気ディスク3のトラック方向(磁気ディスク3の半径方向)に移動するためのVCM(Voice Coil Motor)を構成するコイル7が設けられている。HSA10の磁気ヘッド11側には、HGA(Head Gimbal Assembly)と呼ばれる磁気ヘッド11とこれを保持するジンバルバネ組立て体がアーム16に対してスウェージにより固定されている。磁気ヘッド11の更に先端には、タブ15と呼ばれる部分があって、シャーシ2の取り付けられた、ランプ5と協働して磁気ヘッド11を磁気ディスク3に対してLoad/Unloadさせる。磁気ヘッド11はフェムトスライダーに搭載され、高剛性のサスペンションにより支持されるとともに、熱膨張を用いた浮上量コントロールが行われる形態のものを用いている。
【0021】
HSA10は、その中央部に設けられたピボット軸受け装置13を回動中心として揺動するように構成されている。VCMのコイル7の下側にはマグネット8が配置されており、図示しないヨークにより磁気回路が構成され、コイル7に供給される電流により、フレミングの左手の法則によって推力を発生しピボット軸受け装置13を回動中心として揺動し、トラック移動をすることができる。
【0022】
図3に示すように、HSA10においてピボット軸受け装置13は、HSA10の基台となるアルミ合金で作られたアーム16(E−ブロックとも呼ばれる)の固定穴18に、トレランスリング12を介して固定されている。トレランスリング12による固定では、磁気ヘッド11がESD(Electro Static Discharge)などにより障害があった場合に、HSA10をHDA(Head Disk Assembly)より取り外して交換や修正などのリワークを行うために好適である。
【0023】
近年、HDDの高密度化が進み、これに伴って磁気ヘッド11の高性能化が進んでいるが、より高いMR比を実現するための膜構成が複雑になり、ESD耐量が低下する傾向にある。また、部品の単価も上昇してきているので、HGAのリワークは作業性が良い方が好適で、このためにも従来のような接着や圧入などと比較してトレランスリング12による固定は作業性の向上が期待される。
【0024】
図3及び
図4に示すように、ピボット軸受け装置13は、軸21と、スペーサ30を介して軸21に対して軸方向に並んで配置される複数(実施形態では、一対)の玉軸受け20と、を備える。軸21には、ピボット軸受け装置13をシャーシ2に固定するためのネジ22が設けられている。玉軸受け20は、軸21に固定される内輪27と、トレランスリング12を介してアーム16の固定穴18に固定される外輪25と、内輪27と外輪25との間に配置される複数の玉26と、玉26を保持する保持器28と、シール部材29と、を備え、グリースにより潤滑されている。
なお、本実施形態では、内輪27、外輪25、玉26はそれぞれ、マルテンサイト系ステンレス鋼からなる。これにより、SUJ2などの高炭素クロム鋼を使用した場合と比べて、防錆能力が高いので、防錆油の塗布を不要とすることができ、防錆油の蒸発に伴うコンタミの低減が可能となる。
【0025】
また、
図5に示すように、トレランスリング12は、SUS304CSP等のバネ材からなる鋼板を筒状に巻いたものであり、軸方向中間部には、径方向外側に突出する複数の突出部12aが円周方向に等間隔に配置されている。従って、複数の突出部12a間には、外輪25を押圧する複数の山12bが円周方向に等間隔に配置されることになる。
なお、トレランスリング12は、
図6に示すように、突出部12aが軸方向に分割されていて、分割された突出部12a間の各山12bが各玉軸受け20の外輪25を押圧するように構成されてもよい。
また、本実施形態では、隣接する突出部12a間の外輪25を押圧する山とは、外輪25に当接する接触面を意図し、トレランスリング12がピボット軸受け装置13とアーム16との間で各突出部12aを変形することで、両側の突出部12aから該接触面に押圧力が付与される。従って、本実施形態では、山数(接触面の数)と突出部12aの数は実質的に等しい数となっている。
【0026】
ここで、本実施形態では、玉軸受け20の玉数と、トレランスリング12の外輪25を押圧する山数がお互いに素の関係となるように設定している。外輪25が単純なリングであれば、トレランスリング12の応力により変形するので、トレランスリング12の山数と同じ数の多角形に変形しようとする。玉軸受け20は予圧が与えられており、内輪軌道面と外輪軌道面とが玉26と接触しており、また、内輪内径部は、挿入固定されている軸21により、その剛性が高くなっている。このために、外輪25は円周方向に対して、玉26の存在する位置と、存在しない位置とによって、半径方向の剛性が大きく変化すると考えられる。つまり外輪25は、円周方向に対して玉26の個数分に対応した剛性が繰り返し変化する特性を有することとなる。これらのことから外輪25の変形は外部応力の数つまり、トレランスリング12の山数に対応した多角形となり、剛性は玉26の数による繰り返し変化となる。トレランスリング12の山数をm、玉26の数をnとすれば、外輪25の軌道溝の変形は、外輪25の変形自身と考えられ、mとnの最小公倍数つまり、L.C.M.(m、n)の多角形に変形するものと考えられる。
【0027】
さて、m、nはお互いに素の関係であるので、L.C.M.(m、n)=m×n角形となり、見かけ上真円に近くすることができ、外輪25の軌道溝の変形を少なくすることが可能となり、ピボット軸受け装置13の低トルク化を実現することができる。
【0028】
例えば、
図7に示すように、トレランスリング12の山の位置に玉26が存在すれば、トレランスリング12の山、外輪25、玉26、内輪27、軸21がほぼ同じ半径上に配置される関係となるので、見かけ上の外輪の剛性が最も大きくなり、真円度の劣化が低減できる。一方、トレランスリング12の山の位置が玉26と玉26の中間となる場合には、逆に外輪の剛性が最も小さくなる。
図7に示すように、お互いに素の関係となる、m=8、n=9とした場合、外輪25の変形は、L.C.M.=72で与えられる多角形となり、見かけ上の真円度を向上することができる。
【0029】
特に、トレランスリング12の山12bは円周方向に等間隔に配置されているので、外輪25が変形した場合の多角形を正多角形とすることができ、変形のバラツキが低減される。
【0030】
なお、玉軸受け20の玉数は、上記関係を満たすものであれば任意に設定可能であるが、実際、HDDに適用される玉軸受け20の玉数としては、例えば、8個以上13個以下のものが使用される。また、トレランスリング12の山数も任意に設定可能であるが、実際、HDDに適用されるトレランスリング12の山数としては7個以上15個以下のものが適用される。
【0031】
従って、上記関係を満たすものとして、例えば、玉数nを8個とした場合には、トレランスリング12の山数mは、7、9、11、13、15などが適用される。また、玉数nを11、13個のいずれかとした場合には、玉数が既に素数であるために、トレランスリング12の山数が同数の場合を除いて、玉数との関係を常にお互いに素の関係とすることができ、トレランスリング12の山数の設計自由度を向上することができる。即ち、玉数nを11とした場合には、山数mは、7、8、9、10、12、13、14、15などが適用される。また、玉数nを13とした場合には、山数mは、7、8、9、10、11、12、14、15などが適用される。
【0032】
また、一般的に、トレランスリング12はプレスワークにより作成されることから、玉軸受け20における玉26の配置される精度を比較すると、後者の精度のほうが一般的に良い。このため、スプリングバックによる精度劣化や山毎のバラツキを吸収しやすい、最適な山数や形状等に設計できるよう、玉数nをトレランスリング12の山数mよりも多くすることがより好ましい。
【0033】
また、ピボット軸受け装置13の揺動範囲は、本実施形態では、機械角度で45度以下としており、玉軸受け20の回転方向の配置に対して、部品毎のバラツキを低減するためには、玉軸受け20のボールピッチが機械角度以下となるように配置される。つまり、玉数が8個以上の玉軸受を用いることによって、揺動範囲で玉26の円周上の相互配置が変わることがないのでより安定した、精度が実現でき磁気記録装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【0034】
(トルク試験)
次に、
図7及び
図8を参照して、本発明の効果を確認するための試験について説明する。本試験では、実施例として、
図7に示すような、玉数nを8個、トレランスリング12の山数mを9個とした場合のものを使用し、一方、従来例として、玉数nを8個、トレランスリング12の山数mを8個とした場合のものを使用して、アームを同一条件で揺動させた際のトルクを測定した。また、トレランスリング12が装着される前の、実施例のピボット軸受け装置13を単体で使用し、ピボット軸受け装置13を同一条件で揺動させた際のトルクの測定結果を
図8(a)に示している。
【0035】
図8(b)に示すように、実施例の場合には、ピボット軸受け装置13を単体で使用した
図8(a)に比べて、トルクは増加しているものの大きなばらつきはない。一方、
図8(c)に示すように、従来例の場合には、トルクの変動が大きくなっていることがわかる。この結果、玉軸受け20の玉数とトレランスリング12の山数とが互いに素であることで、トルク変動が抑制されることが確認された。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良などが可能である。
例えば、本実施形態では、トレランスリング12が各玉軸受けの外輪25を直接押圧する構成としたが、トレランスリング12の押圧力が外輪25に作用する程度に薄肉のスリーブを用いるのであれば、本発明は、外輪25がスリーブに固定されるタイプのものにも適用することができる。
また、本実施形態では、トレランスリング12の突出部12aは、組付け性の観点から、径方向外側に突出しているが、径方向内側に突出させて、各突出部の頂部をトレランスリング12の山12bとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 HDD
2 シャーシ
3 ディスク
4 スピンドルモータ
5 ランプ
12 トレランスリング
12a 突出部
12b 山
13 ピボット軸受け装置
16 アーム
18 固定穴
20 玉軸受け
21 軸
25 外輪
26 玉
27 内輪