【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1(グルコアミラーゼによる分解)
市販グルコアミラーゼ(合同酒精株式会社:GODO−ANGH)の1/100あるいは1/1000水溶液を15μL及び、0.1M酢酸緩衝液pH6の5μLを、2%マルトースもしくは2%イソマルトース水溶液に混合し、30℃で18時間作用させた。5分間沸騰水中で反応を止め、反応液を真空濃縮後、シリカゲルTLCに供した。展開溶媒はイソプロパノール/n−ブタノール/水(10/5/4)で、展開後、風乾し、アンスロン硫酸液を噴霧し、105℃で加熱して発色させた。
【0028】
図1(市販グルコアミラーゼ1/100水溶液の結果)及び
図2(市販グルコアミラーゼ1/1000水溶液の結果)に示したように、市販グルコアミラーゼは、マルトースによく作用したが、イソマルトースも分解することができた。また、マルトースやイソマルトースを分解するとともに、マルトースからは、イソマルトースが、イソマルトースからはマルトースが、転移あるいはグルコースの再結合により生じることがわかった。
【0029】
実施例2(データベースからのagl1遺伝子発見)
Saccharomyces cerevisiaeのイソマルターゼと相同位置にバリンを持ち、他種のイソマルターゼと高い相同性を示した推定α−アミラーゼ様遺伝子を麹菌(Aspergillus oryzae)ゲノムデータベース(DOGAN)上で見出し、agl1と名づけた(DOGAN ID:Ao090020000176)。agl1はα−アミラーゼではなく、イソマルターゼをコードしていると推測した。今日まで糸状菌からのイソマルターゼの報告は知られていない。
また、同様の検索によりFusarium oxysporumのagl1遺伝子(foagl1)を見出した。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例3(Aspergillus oryzaeイソマルターゼ遺伝子による大腸菌の形質転換)
大腸菌発現用ベクターとして、pET−14b (Novagen)を用いた。
agl1遺伝子増幅のためのPCRに使用したプライマーの配列は以下の通りである。
【0032】
glupha1.6F
5’−acgggatcccatggccacacc−3’(配列番号10)
glupha1.6R
5’−ctggggatcctaatcaggcctc−3’(配列番号11)
【0033】
麹菌より調製したcDNAライブラリーを鋳型としてプライマーglupha1.6F及びプライマーglupha1.6Rを用いてPCRを行い、agl1遺伝子を含む断片を得た。取得したDNA断片はエタノール沈殿等を行い、回収した。agl1遺伝子を含むDNA断片をBamH I処理し、エタノール沈殿等にてDNAを回収した。BamH I処理及び脱リン酸化処理を行ったpET−14b とライゲーション反応させ、大腸菌の形質転換を行った。得られたコロニーからプラスミドを調製し、agl1遺伝子を含むプラスミドpET−14b−agl1を得た。agl1遺伝子の塩基配列を配列番号2に、また該遺伝子がコードするイソマルターゼのアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0034】
実施例4(大腸菌でのAspergillus oryzaeイソマルターゼの発現)
E.coli BL21(DE3)、E.coli AD494(DE3)、E.coli Origami(DE3)pLysS及びE.coli Rosetta−gami(DE3)をプラスミドpET−14b−agl1により形質転換し、形質転換株を取得した。また、ネガティブコントロールとしてagl1を持たないpET−14bベクターを用いて形質転換株を取得した。各形質転換株のコロニーをLB培地に植菌し、前培養を行った。40mLのLB培地に前培養液を接種し、20℃で9時間培養した。その後、最終濃度0.1mMとなるようにIPTGを添加し、20℃で12時間誘導培養を行った。発現誘導後、菌体を7,000rpm、20分間の遠心分離で回収し、1mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に縣濁した。菌体は、超音波破砕機にて破砕した。破砕した菌体溶液を12,000rpmで20分間遠心分離し、上清を粗酵素溶液として回収した。各菌株由来の粗酵素について、アクリルアミドゲル濃度12%にてSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングを行い、発現したAGL1の評価を行った。検出はHis−Tag Monoclonal Antibody及びGoat Anti−Mouse HRP conjugateにより行った。各形質転換株で発現されたAGL1の活性についてTLCを用いて評価したところ、イソマルトース分解活性はE.coli Origami(DE3)pLysS及びE.coli Rosetta−gami(DE3)を宿主とした形質転換体で強く見られたが、マルトース分解活性がすべての形質転換株で見られた。このことから、観察されたマルトース分解活性は宿主である大腸菌由来のものである、もしくはAGL1のマルトース分解活性に大腸菌由来のマルトース分解活性が加算されたものではないかと推測した。大腸菌由来のマルターゼについては報告されている。よって、最適宿主であるE.coli Origami(DE3)pLysSを宿主とした形質転換株(+agl1)とE.coli Origami(DE3)pLysS(−agl1,ネガティブコントロール)との比較実験を行った。AGL1タンパク質の発現状況について、SDS−PAGE及びWestern blottingにて形質転換株とネガティブコントロール株とを比較した(
図3、
図4)。形質転換株ではAGL1と推定できるバンドを確認できたが、ネガティブコントロールでは確認できなかった。即ち宿主大腸菌はAGL1を産生せず、形質転換によってAGL1を産生するようになった事を確認した。
【0035】
実施例5(大腸菌で発現したAspergillus oryzaeイソマルターゼの性質:AGL1の精製)
TOYOPEARL AF−Chelate−650Mカラム(φ10×45mm)に4mLの200mM NiSO
4を注入した後、40mLの蒸留水及び40mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化を行った。4mLのAGL1粗酵素溶液をニッケルキレートTOYOPEARL AF−Chelate−650Mカラム(φ10×45mm)にアプライし、0.3M NaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で非吸着画分を溶出し、0.3M NaCl、20mM イミダゾールを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で吸着画分を溶出した。SDS−PAGEにて単一バンドを確認できた画分を回収し、10 mM酢酸緩衝液(pH6.0)に対して透析を行った。
タンパク質の定量にはブラッドフォード法を用いた。
【0036】
調製したE.coli Origami(DE3)pLysSを宿主とした形質転換体由来の粗酵素4mLをニッケルキレート TOYOPEARL AF−Chalate−650Mカラム(φ10×45mm)に供し、20mMイミダゾールで吸着タンパク質の溶出を行った。非吸着画分と吸着画分についてSDS−PAGEを行ったところ、Fraction No.11にAGL1と思われるタンパク質が確認された。20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に対して、最終濃度が0.041%GOD、0.01%POD、0.5%O−ジアニシジンとなるように添加・混合し、GOD試薬とした。20mg/mLイソマルトース10μl、200mM リン酸緩衝液(pH7.0)5μlの混合液に、精製酵素溶液5μlを加え反応液とした(全量20μl)。また、精製酵素溶液を蒸留水にした溶液をコントロールとした。酵素反応液を30℃で3時間インキュベートした。酵素反応液を100℃で3分間処理した後、GOD試薬200μl加えて30℃で10分インキュベートした。4N HClを4μl加えた後、400nmにおける吸光度を測定した。GOD法の原理については以下の通りである。
【0037】
【化1】
【0038】
α−グルコシダーゼ活性の1Uは、本条件において、1分間に1μmolのグルコースを生成させる活性と定義し、以下の式より酵素活性を算出した。
【0039】
【数1】
【0040】
AGL1はNiキレートカラムクロマトグラフィーにより27.6倍に精製され、収率は76.6%となった。精製酵素はSDS−PAGEにて単一なバンドを示した。
【0041】
実施例6(大腸菌で発現したAspergillus oryzaeイソマルターゼの性質:最適温度)
20mg/mLイソマルトース10μl、200mM リン酸緩衝液(pH7.0)5μlの混合液に、精製酵素溶液5μlを加え反応液とした(全量20μl)。反応液を20〜60℃の温度で3時間インキュベートし、GOD法によって活性を測定した。
精製酵素を用いて、GOD法により最適温度について評価した(
図5)。最適温度は30℃であった。
【0042】
実施例7(大腸菌で発現したAspergillus oryzaeイソマルターゼの性質:至適pH)
20mg/mLのイソマルトース10μl、200mMの各種緩衝液の混合液に、精製酵素溶液5μlを加え反応液とした(全量20μl)。反応液を30℃で3時間インキュベートし、GOD法によって活性を測定した。
精製酵素を用いて、GOD法により最適pHについて評価した(
図6)。最適pHは7.0であった。
【0043】
実施例8(大腸菌で発現したAspergillus oryzaeイソマルターゼの性質:特異性)
5mg/mLの各基質10μl、200mMリン酸緩衝液(pH7.0)5μlの混合液に、精製酵素溶液5μlを加え反応液とした(全量20μl)。酵素反応液を30℃で3時間インキュベートし、GOD法によって活性を測定した。
精製酵素を用いて、GOD法により基質特異性について評価した(表2)。AGL1はイソマルトースに特異的に作用したが、コウジビオースに対してもわずかに活性を示した。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例9(糸状菌イソマルターゼによる分解)
実施例5で得られた糸状菌由来イソマルターゼ粗酵素16μLに、10mg/mLとなるように、グルコース、マルトース、イソマルトースの0.1M酢酸緩衝液pH6溶液を4μLをそれぞれ加えた。30℃にて、8、24時間反応し、反応液を実施例1と同様にTLC分析に供した。
図7に示したように、グルコースやマルトースを基質とした場合に、分解や転移物は検出されなかった。一方、イソマルトースは分解し、グルコースのスポットが増加した。また、イソマルトースから他の転移物は生じなかった。
【0046】
実施例10(Fusarium oxysporumイソマルターゼ遺伝子のクローニング)
実施例3と同様にしてFusarium oxysporum由来のイソマルターゼ遺伝子をクローニングした。その遺伝子の塩基配列を配列番号4に、また該遺伝子がコードするイソマルターゼのアミノ酸配列を配列番号5に示す。
Fusarium oxysporumより調製したcDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行い、foagl1配列を含むDNA断片を得た。得られた断片を大腸菌の発現用プラスミドpET-14bへ組み込み、発現プラスミドpET−14b−foagl1を調製した。
【0047】
実施例11(Fusarium oxysporumイソマルターゼ遺伝子から取得した酵素の性質:最適温度、至適pH、基質特異性)
実施例4と同様にして、発現プラスミドpET−14b−foagl1により形質転換された大腸菌を培養後、菌体を回収して、超音波破砕を行った結果、イソマルトース分解活性を確認した。この菌体破砕抽出物を実施例5の精製方法により精製して得られた、Fusarium oxysporumイソマルターゼ酵素(FOAGL1)を以下の試験に供した。
得られたFusarium oxysporumイソマルターゼについて、実施例6と同様の方法で最適温度、実施例7と同様の方法で至適pHを調べた結果、Fusarium oxysporumイソマルターゼの最適温度は30℃(
図8)、最適pHはpH6.5(
図9)であった。
また、実施例8と同様の方法であるGOD法により、基質特異性について評価した(表3)。FOAGL1はイソマルトースに特異的に作用した。マルトースやトレハロースには作用せず、コウジビオースやパノースに対してわずかに活性を示した。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例12 (Fusarium oxysporumイソマルターゼの分解特性)
実施例11で得られたFusarium oxysporumイソマルターゼ酵素(FOAGL1)のグルコース、マルトース、イソマルトースの分解について調べた。
Fusarium oxysporum由来イソマルターゼ(FOAGL1)粗酵素16μLに、10mg/mLとなるように、グルコース、マルトース、イソマルトースの0.1M酢酸緩衝液pH6溶液を4μLをそれぞれ加えた。30℃にて、8、24時間反応し、反応液を実施例1と同様にTLC分析に供した。
図10に示したように、グルコースやマルトースを基質とした場合に、分解や転移物は検出されなかった。一方、イソマルトースは分解し、グルコースのスポットが増加した。また、イソマルトースから他の転移物は生じなかった。
【0050】
実施例13(本発明酵素と市販糖化用酵素との併用)
溶性デンプンを濃度30%(w/w)となるように、0.1M 酢酸緩衝液(pH4.2)に加熱溶解した。溶性デンプン液50mLに対して、市販糖化用酵素OPTIMAX 4060(グルコアミラーゼ・プルラナーゼ混合酵素)を40μL加え、60℃にて16時間酵素反応を行った。反応後、試料を100℃加熱し、酵素反応を停止させた(デンプン分解物)。
デンプン分解物を0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)にて10倍希釈した後、実施例4または実施例5により得られたAspergillus oryzaeイソマルターゼイソマルターゼ(AGL1)、あるいは実施例10によりFusarium oxysporum由来イソマルターゼ(FOAGL1)を加え、30℃で5時間反応させた。反応後、5分間沸騰水中で反応を止め、シリカゲルTLCに供した。展開溶媒はイソプロパノール/n−ブタノール/水(10/5/4)で、展開後、風乾し、アンスロン硫酸液を噴霧し、105℃で加熱して発色させた。
【0051】
OPTIMAX4060のみを作用させた
図11と
図12の各第2レーンでは、イソマルトースのスポットが確認された。それに対して、イソマルターゼを作用させた
図11と
図12の各第3レーンでは、そのスポットが薄くなり、イソマルトースが分解されていることがわかった。
この結果から、本酵素を使用することにより糖化工程におけるグルコースの収率を向上させることができることがわかった。