特許第5928115号(P5928115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928115
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】研削盤の加圧力適正判定装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/00 20060101AFI20160519BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20160519BHJP
【FI】
   B24B5/00 A
   B24B41/06 J
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-92791(P2012-92791)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-220498(P2013-220498A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】納谷 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 紀久利
(72)【発明者】
【氏名】松葉 謙治
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−277932(JP,A)
【文献】 特開2008−188742(JP,A)
【文献】 特開2011−025328(JP,A)
【文献】 特開平06−246630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/00 − 5/16
B24B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタにより工作物の両端部を軸方向に挟み込んで支持する一対の主軸と、センタ加圧力を付与して前記工作物を加圧するセンタ加圧装置と、を備える研削盤に適用される加圧力適正判定装置であって、
前記センタ加圧装置は、前記一対の主軸の各前記センタのうち少なくとも一方から他方に対して弾性体の伸縮量に応じたセンタ加圧力で前記工作物を加圧し、
前記加圧力適正判定装置は、
加工条件により研削時に発生する研削抵抗を算出し、当該研削抵抗に対抗するために少なくとも必要とされる基準センタ加圧力を算出する加圧力算出部と、
前記基準センタ加圧力および現在の前記弾性体の伸縮量に基づいて、前記センタ加圧装置が付与する前記伸縮量に応じた前記センタ加圧力の前記加工条件に対する適否を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を通知する通知部と、
を備え
前記加工条件には切込速度が含まれ、
前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記基準センタ加圧力に応じた前記弾性体の伸縮量、または現在の前記弾性体の伸縮量に応じた前記センタ加圧力により対抗可能な研削抵抗となる前記切込速度を併せて通知する、研削盤の加圧力適正判定装置。
【請求項2】
前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記基準センタ加圧力に応じた前記弾性体の伸縮量を優先して通知する、請求項1の研削盤の加圧力適正判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記基準センタ加圧力に基づいて適正な前記弾性体の伸縮量の許容範囲を算出し、当該許容範囲に現在の前記弾性体の伸縮量が含まれているか否かによって判定し、
前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記許容範囲を併せて通知する、請求項1または2の研削盤の加圧力適正判定装置。
【請求項4】
センタにより工作物の両端部を軸方向に挟み込んで支持する一対の主軸と、センタ加圧力を付与して前記工作物を加圧するセンタ加圧装置と、を備える研削盤に適用される加圧力適正判定装置であって、
前記センタ加圧装置は、前記一対の主軸の各前記センタのうち少なくとも一方から他方に対して弾性体の伸縮量に応じたセンタ加圧力で前記工作物を加圧し、
前記加圧力適正判定装置は、
加工条件により研削時に発生する研削抵抗を算出し、当該研削抵抗に対抗するために少なくとも必要とされる基準センタ加圧力を算出する加圧力算出部と、
前記基準センタ加圧力および現在の前記弾性体の伸縮量に基づいて、前記センタ加圧装置が付与する前記伸縮量に応じた前記センタ加圧力の前記加工条件に対する適否を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果を通知する通知部と、
を備え、
前記判定部は、前記基準センタ加圧力に基づいて適正な前記弾性体の伸縮量の許容範囲を算出し、当該許容範囲に現在の前記弾性体の伸縮量が含まれているか否かによって判定し、
前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記許容範囲を併せて通知する、研削盤の加圧力適正判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタにより加圧して支持する工作物を研削加工する研削盤の加圧力適正判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削盤には、センタによって工作物を支持し、センタの加圧力に伴う摩擦力により工作物を回転駆動させた状態で研削加工を行う両センタ駆動方式がある。工作物の端部をチャックしたり、駆動金具を取付けたりする必要がない。よって、例えば、円筒状の工作物を支持し直すことなくその全長に亘って研削加工が可能になるとともに、形状の異なる各種工作物に応じた駆動金具等を不要にできる。そのため、多種類の工作物をセンタの加圧力制御によって回転駆動することが可能となっている。
【0003】
また、両センタ駆動方式の研削盤では、センタの摩擦力によって工作物に駆動力を伝達するので、研削抵抗によって工作物がスリップしない摩擦力を得るためには、センタ加圧力を十分に大きくする必要がある。一方で、センタ加圧力を過大にすると工作物が撓んで研削精度の低下を招来するおそれがあるため、センタ加圧力をむやみに大きくできないという技術的制約がある。
【0004】
研削加工におけるセンタ加圧力は、加工条件によって変動する研削抵抗に対抗可能な摩擦力を発生させる必要がある。そのため、特許文献1には、砥石軸に加えられる負荷に基づいて算出された研削抵抗と工作物の剛性に応じて、センタ加圧力を制御する方法が開示されている。また、特許文献2には、研削加工の工程ごとに異なる研削抵抗にセンタ加圧力を自動的に制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−277932号公報
【特許文献2】特開2011−25327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2におけるセンタ加圧力の制御では、研削加工に必要とされるセンタ加圧力を基準として制御を行っている。より具体的には、特許文献1では段落[0023]に記載の「規定値(研削加工する工作物の重量や剛性によって異なる)」を、特許文献2では段落[0032]に記載の「研削抵抗に応じたセンタ加圧力F1」をそれぞれ基準としている。このような制御対象となる基準センタ加圧力は、加工条件に基づいて算出される研削抵抗、および機械構成などを勘案して設定される。そのため、適正な基準センタ加圧力を設定するには、専門的な技術や経験が必要となる。
【0007】
また、両センタ駆動方式の研削盤においては、例えばセンタ加圧装置におけるスプリングの伸縮量(バネ長)に応じたセンタ加圧力を発生させる構成となっているが、操作者は調整したバネ長によって実際にどの程度の加圧力が発生し、その加圧力で工作物がスリップせずに加工できるかどうかを把握することが難しい。従って、両センタ駆動方式の研削盤による研削加工において、指定する加工条件に対して、センタ加圧装置における現在のバネ長が適正であるか判断することは困難であった。
【0008】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、加工条件に対するセンタ加圧力の適否に係る判定結果を通知することにより、適正なセンタ加圧力の設定を促すことが可能な研削盤の加圧力適正判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1)本発明に係る研削盤の加圧力適正判定装置は、センタにより工作物の両端部を軸方向に挟み込んで支持する一対の主軸と、センタ加圧力を付与して前記工作物を加圧するセンタ加圧装置と、を備える研削盤に適用される。前記センタ加圧装置は、前記一対の主軸の各前記センタのうち少なくとも一方から他方に対して弾性体の伸縮量に応じたセンタ加圧力で前記工作物を加圧する。前記加圧力適正判定装置は、加工条件により研削時に発生する研削抵抗を算出し、当該研削抵抗に対抗するために少なくとも必要とされる基準センタ加圧力を算出する加圧力算出部と、前記基準センタ加圧力および現在の前記弾性体の伸縮量に基づいて、前記センタ加圧装置が付与する前記伸縮量に応じた前記センタ加圧力の前記加工条件に対する適否を判定する判定部と、前記判定部による判定結果を通知する通知部と、を備え、前記加工条件には切込速度が含まれ、前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記基準センタ加圧力に応じた前記弾性体の伸縮量、または現在の前記弾性体の伸縮量に応じた前記センタ加圧力により対抗可能な研削抵抗となる前記切込速度を併せて通知する。
【0011】
(請求項)また、前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記基準センタ加圧力に応じた前記弾性体の伸縮量を優先して通知するようにしてもよい。
(請求項)また、前記判定部は、前記基準センタ加圧力に基づいて適正な前記弾性体の伸縮量の許容範囲を算出し、当該許容範囲に現在の前記弾性体の伸縮量が含まれているか否かによって判定し、前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記許容範囲を併せて通知するようにしてもよい。
(請求項4)本発明に係る研削盤の加圧力適正判定装置は、センタにより工作物の両端部を軸方向に挟み込んで支持する一対の主軸と、センタ加圧力を付与して前記工作物を加圧するセンタ加圧装置と、を備える研削盤に適用される。前記センタ加圧装置は、前記一対の主軸の各前記センタのうち少なくとも一方から他方に対して弾性体の伸縮量に応じたセンタ加圧力で前記工作物を加圧する。前記加圧力適正判定装置は、加工条件により研削時に発生する研削抵抗を算出し、当該研削抵抗に対抗するために少なくとも必要とされる基準センタ加圧力を算出する加圧力算出部と、前記基準センタ加圧力および現在の前記弾性体の伸縮量に基づいて、前記センタ加圧装置が付与する前記伸縮量に応じた前記センタ加圧力の前記加工条件に対する適否を判定する判定部と、前記判定部による判定結果を通知する通知部と、を備え、前記判定部は、前記基準センタ加圧力に基づいて適正な前記弾性体の伸縮量の許容範囲を算出し、当該許容範囲に現在の前記弾性体の伸縮量が含まれているか否かによって判定し、前記通知部は、前記判定結果を通知する際に、前記許容範囲を併せて通知する。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)本発明によれば、判定部によりセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定し、通知部により判定結果を通知するようにしている。これにより、操作者は、センタ加圧装置におけるセンタ加圧力が適正に設定されているか否かを事前に把握することができる。このように、操作者に適正なセンタ加圧力の設定を促すことができるので、例えば、操作者は加工条件などを適宜設定することで、当該加工に必要となる基準センタ加圧力を意識することなく好適な加工を行うことができる。よって、研削加工においては工作物のスリップを防止しつつ、工作物の撓みなどによる研削精度の低下を抑制することができる。
【0013】
また、判定部により弾性体の伸縮量に応じたセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定するようにしている。これにより、操作者は、例えばセンタ加圧装置が弾性体であるスプリングによりセンタ加圧力を付与している場合には、スプリングの伸縮量(バネ長)が適正に設定されているか否かを事前に把握することができる。よって、加工条件などをより適切に設定することができる。
【0014】
また、通知部は、判定結果に併せて適正な弾性体の伸縮量または切込速度を通知するようにしている。ここで、「適正な弾性体の伸縮量」とは、入力された加工条件下での加工に最低限必要な基準センタ加圧力以上に設定される適正なセンタ加圧力に対応するものである。よって、操作者は、現在設定されている弾性体の伸縮量が不適である場合には、この伸縮量をどの程度に修正すればよいのかを通知されるので、センタ加圧装置における弾性体の伸縮量の設定を容易にすることができる。一方で、加工条件における切込速度を低下させると、加工時の研削抵抗が低減するため現在の弾性体の伸縮量に対応するセンタ加圧力で足りる場合もある。そこで、通知部が適正な切込速度を通知するようにして、操作者がこれを目安に加工条件における切込速度の修正を容易にすることができる。
【0015】
(請求項)本発明によれば、通知部は、基準センタ加圧力に応じた弾性体の伸縮量を優先して通知するようにしている。ここで、加工条件に対して現在設定されている弾性体の伸縮量が不適である場合には、上述したように、センタ加圧装置における弾性体の伸縮量または切込速度を修正することで対処できる。しかし、切込速度を低下させる場合には、その分だけ単位時間あたりの研削量(加工における工作物の除去量)も低下することになり、結果として研削加工に要する時間が延びてしまうことになる。そこで、弾性体の伸縮量を優先して通知して、適正なセンタ加圧力となるように促すことで加工時間を延ばすことなく、好適に研削加工を行うことができる。但し、加工条件に対する適正な弾性体の伸縮量が、研削盤の機械構成上、設定可能な範囲外にある場合には、弾性体の伸縮量に代えて適正な切込速度を通知するようにしてもよい。
【0016】
(請求項3,4)本発明によれば、通知部は、判定結果に併せて適正な弾性体の伸縮量の許容範囲を通知するようにしている。適正な弾性体の伸縮量は、上述したように適正なセンタ加圧力に対応するものである。そして、適正なセンタ加圧力は、例えば、基準センタ加圧力に所定の安全率を乗じて算出されたセンタ加圧力を下限とし、工作物の剛性などを加味して研削精度を確保することが可能なセンタ加圧力を上限とすることができる。そのため、適正な弾性体の伸縮量には一定の許容範囲があるので、判定部は現在の弾性体の伸縮量がこの許容範囲内にあるか否かによって加工条件に対する適否を判定することができる。そして、例えば、現在の弾性体の伸縮量が許容範囲を超える場合には、センタ加圧力を低減するように弾性体の伸縮量を設定することにより、工作物のスリップを防止しつつ、工作物の撓みなどによる研削精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態における研削盤を示す全体図である。
図2図1におけるセンタ加圧装置を示す概略図である。
図3】センタ加圧装置におけるバネ長の調整処理を示すフローチャートである。
図4】センタ加圧力の適正判定処理を示すフローチャートである。
図5】センタ加圧力の適正判定処理を示すフローチャートである。
図6】現在のバネ長と許容範囲Rsとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
(研削盤1の構成)
以下、本発明に係る研削盤の加圧力適正判定装置を具体化した実施形態について図1および図2を参照して説明する。研削盤1は、支持された工作物Wに対して砥石車11を相対移動させて研削加工を行う工作機械である。この研削盤1は、砥石台10と、工作物支持装置20と、制御装置60を備えて構成される。
【0019】
砥石台10は、工作物Wを研削する砥石車11と、砥石車11を支持する砥石軸12を有する。砥石車11は、例えば、円盤状の金属コアの外周に硬質の砥粒を結合させて構成される。砥石軸12は、砥石台10にZ軸方向(図1の左右方向)と平行な軸線回りに回転可能に支持され、図示しない砥石軸駆動モータによって回転駆動される。また、砥石台10は、ベッド2の上面に配置され、Z軸方向と直交するX軸方向(図1の上下方向)に延びる図示しないガイドレール上に配置される。そして、砥石台10は、X軸サーボモータ13の回転駆動によって、砥石車11をX軸方向に移動可能としている。砥石台10は、制御装置60により砥石車11のX軸方向への移動および砥石軸12の回転数などを制御される。
【0020】
工作物支持装置20は、工作物WがZ軸回りに回転可能となるように、センタにより工作物Wの両端部を軸方向に挟み込んで支持する。この工作物支持装置20は、ベッド2の上面においてZ軸方向に延びる図示しないガイドレール上に配置されたテーブル21の上面に設置され、Z軸サーボモータ22の回転駆動によって、工作物WをZ軸方向に移動可能としている。この工作物支持装置20は、工作物Wの一端部を支持する第一主軸台30と、工作物Wの他端部を支持する第二主軸台40と、センタを加圧するセンタ加圧装置50を備える。
【0021】
第一主軸台30は、テーブル21上に設置され、第一主軸31を回転可能に支持している。第一主軸31の先端には、工作物Wの一端部を支持する第一センタ32が取り付けられている。また、第一主軸31は、サーボモータ33によって回転駆動されるようになっている。第二主軸台40は、テーブル21上において第一主軸31とZ軸方向に対向して設置され、第二主軸41を回転可能に支持している。第二主軸41の先端には、工作物Wの他端部を支持する第二センタ42が取り付けられている。また、第二主軸41は、サーボモータ43によって回転駆動されるようになっている。そして、第一主軸台30および第二主軸台40は、制御装置60により主軸の回転数や回転位相などを制御される。
【0022】
また、第二主軸台40は、図2に示すように、ベアリング44を介して第二主軸41を回転可能に支持したラム45が、第二主軸41の軸線方向に摺動可能に支持されている。第二主軸41の後端には、サーボモータ43のモータシャフト431が連結されている。これにより、第二主軸41は、サーボモータ43によって第一主軸31と同期して回転駆動されるようになっている。また、ラム45の後端には、連結板46が固定されている。この連結板46は、ラム45の径方向に延伸する第一スプリング受部461が形成されている。
【0023】
センタ加圧装置50は、第二主軸台40に設けられ、第二センタ42に対して第一センタ32側のZ軸方向に加圧力を付与して、両センタ32,42に支持される工作物Wを加圧する装置である。このセンタ加圧装置50は、図2に示すように、センタ加圧力制御用の油圧装置51のシリンダ内に、駆動軸52の一端が軸方向に移動可能に連結されている。駆動軸52は、第二主軸台40のラム45と径方向に所定の間隔をあけて、ラム45と平行に配置されている。この駆動軸52は、Z軸と平行な軸線回りの回転を規制されて支持されている。
【0024】
また、駆動軸52の他端に形成された雄ねじ部には、ナット部材53が螺合されている。ナット部材53は、操作者により手動または工具などを用いて回転されることにより、駆動軸52に対して軸方向に移動可能となっている。その他に、ナット部材53にハンドルが連結されている構成の場合には、当該ハンドルを操作者により回転されることにより、ナット部材53を駆動軸52に対して軸方向に移動可能としてもよい。また、ナット部材53には、連結板46の第一スプリング受部461に対向する第二スプリング受部531が形成されている。
【0025】
連結板46の第一スプリング受部461とナット部材53の第二スプリング受部531との間には、加圧スプリング54(本発明の「弾性体」に相当する)が駆動軸52と同軸となるように介在している。この加圧スプリング54の伸縮量(バネ長)に応じた弾性力によって、ラム45を第一センタ32側に付勢している。そして、操作者によりナット部材53が回転されると、この回転に伴って駆動軸52に螺合したナット部材53が駆動軸52の軸線方向、即ち加圧スプリング54を圧縮または伸張する方向に移動され、加圧スプリング54のバネ長が設定される。
【0026】
また、センタ加圧装置50には、ナット部材53による加圧スプリング54のバネ長を検出する渦電流センサを設ける構成としてもよい。この場合、渦電流センサは、取付けブラケットを介して第二主軸台40の連結板46に固定され、ナット部材53に固定された鉄板部材との距離を検出して制御装置60に検出信号を送出する。
【0027】
上述したように、工作物支持装置20は、一対をなす第一主軸31および第二主軸41により工作物Wを軸方向に挟み込み、センタ加圧装置50により所定のセンタ加圧力をもって工作物Wを加圧する構成としている。また、工作物支持装置20は、工作物Wを軸方向に挟み込む際に、両センタ32,42と工作物Wが接触した状態から、所定のセンタ押込量だけさらに駆動軸52をZ軸方向に移動させる。これにより、連結板46の端面と駆動軸52の段部の端面が離間することになり、連結板46を介してバネ長に応じたセンタ加圧力が第二センタ42に付与される。このセンタ加圧力は、加圧スプリング54のバネ長が短いほど大きくなる。このように、本実施形態の研削盤1は、このセンタ加圧力に伴う摩擦力により工作物Wを支持して回転駆動させる両センタ駆動方式となっている。
【0028】
制御装置60は、研削加工においては、砥石車11および工作物Wを回転させた状態で、砥石台10のX軸位置および工作物支持装置20のZ軸方向位置をNC制御する。この制御装置60は、中央処理装置、種々の制御値やプログラムを記憶するメモリなどから構成されている。より詳細には、制御装置60のメモリには、図示しない入力装置から入力された切込速度などの加工条件と研削加工を実行するためのNCプログラムが記憶されている。この制御装置60は、加圧スプリング54の現在のバネ長として、操作者が実際に測定した値を入力装置から入力される。また、上記のように渦電流センサを有する場合には、渦電流センサから入力する検出信号に基づいて加圧スプリング54の現在のバネ長を算出してもよい。このように、制御装置60は、加圧スプリング54が目標のバネ長に設定されているかを確認できるようにしている。
【0029】
また、制御装置60は、図1に示すように、加圧力算出部61と、判定部62と、通知部63を備える。加圧力算出部61は、制御装置60に入力された切込速度を含む加工条件により研削時に発生する研削抵抗を算出し、この研削抵抗に対抗するために少なくとも必要とされる基準センタ加圧力を算出する。この基準センタ加圧力は、入力された加工条件による研削加工において最低限必要なセンタ加圧力である。そのため、一般には、この基準センタ加圧力に所定の安全率を乗じて算出したセンタ加圧力を適正値として設定される。
【0030】
判定部62は、基準センタ加圧力およびセンタ加圧装置50における現在のバネ長に基づいて、バネ長に応じたセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定する。ここで、センタ加圧装置50における安全率には、基準センタ加圧力の算出誤差などを加味した下限値と、工作物Wの剛性などを加味して研削精度を確保するための上限値とが設定されている。そのため、適正なバネ長には一定の許容範囲がある。
【0031】
そこで、本実施形態において、判定部62は、基準センタ加圧力に基づいて適正なバネ長の許容範囲を算出し、当該許容範囲に現在のバネ長が含まれているか否かによって適否を判定するものとしている。より具体的には、判定部62は、先ず、制御装置60のメモリに記憶されている安全率を、基準センタ加圧力に乗じてセンタ加圧力の適正範囲を定める。そして、この適正範囲における最小センタ加圧力および最大センタ加圧力にそれぞれ対応する加圧スプリング54のバネ長を算出し、これを適正なバネ長の許容範囲として算出している。
【0032】
通知部63は、判定部62による判定結果を操作者に通知する表示装置である。この通知部63は、判定結果を通知する際に、基準センタ加圧力に応じた加圧スプリング54のバネ長、または現在のバネ長に応じたセンタ加圧力により対抗可能な研削抵抗となる切込速度を併せて通知する。ここで、例えば入力された加工条件に対して現在設定されているバネ長が不適である場合には、加圧スプリング54のバネ長を修正するか、加工条件における切込速度を修正することにより対処が可能である。
【0033】
そこで、制御装置60は、操作者に対してバネ長または切込速度の修正を促すように通知部63に表示するようにしている。本実施形態においては、通知部63は、判定部62により算出された許容範囲を適正なバネ長として通知する。そして、バネ長の修正のみでは適正な設定が得られない場合には、適正なバネ長に換えて、または加えて、当該バネ長が適正値となる切込速度を通知するようにしている。このように、制御装置60は、入力された加工条件に対するセンタ加圧力の適否に係る判定し、その判定結果を通知し、本発明の加圧力適正判定装置に相当する。
【0034】
(加工条件の確認処理)
研削盤1における加工条件の入力から研削加工の開始までの流れについて、図3を参照して説明する。先ず、図3に示すように、制御装置60に加工条件などの諸元が入力される(S1)。この加工条件には、切込速度などの工程データの他に、工作物Wに係る工作物データが含まれている。より詳細には、工程データには工作物の除去量が異なる粗研削、精研削および微研削の各研削ステップに対して、研削幅、仕上げ径、工作物Wの回転速度、切込速度などが含まれている。また、工作物データには、工作物Wの両端部に形成されたセンタ穴径およびセンタ穴角度などが含まれている。
【0035】
次に、制御装置60において加工サイクルが起動されると(S2)、S1において操作者が入力した実測値を現在のバネ長Lsとして取得する。センタ加圧装置50がバネ長を検出するセンサを有する場合には、センサによる検出信号に基づいて現在のバネ長Lsを取得してもよい。そして、制御装置60は、センタ加圧力の適正判定処理を実行する(S3)。この適正判定処理により警告がない場合には(S4:No)、現在の設定で指定された加工条件の研削加工が可能なので、研削加工が実施される(S5)。そして、全ての研削ステップが実施されると、加工サイクルを終了する(S6)。
【0036】
一方で、適正判定処理により警告がある場合には(S4:Yes)、通知部63によって適正なバネ長の許容範囲Rs、または適正な切込速度が通知される(S7)。そこで、加工サイクルを一旦終了し(S8)、通知部63による通知内容に基づいて加工条件またはバネ長が修正される(S9)。この時、ナット部材53を操作してバネ長を修正した場合には、操作者は、バネ長の実測値を制御装置60に再び入力する(S9)。その後に、再び制御装置60において加工サイクルが起動される(S2)。そうすると、研削加工の加工条件やバネ長が更新され、制御装置60は、改めてセンタ加圧力の適正判定処理を実行する(S3)。このように、S2〜S9を繰り返すことにより、操作者は適正な加工条件またはバネ長を設定するようになっている。
【0037】
ここで、センタ加圧力の適正判定処理について、図4図6を参照して説明する。制御装置60は、先ず、加圧スプリング54の現在のバネ長Lsが、センタ加圧装置50の構成上適正な範囲にあるかを判定する(S10)。つまり、現在のバネ長Lsが、センタ押込量を勘案した加圧スプリング54の可動範囲である、最小バネ長Lminから最大バネ長Lmaxの間にあるかを判定している。より詳細には、最小バネ長Lminは加圧スプリング54を最も圧縮した長さにセンタ押込量を付加したバネ長であり、最大バネ長Lmaxは加圧スプリング54の自然長にセンタ押込量を付加したバネ長に相当する。
【0038】
現在のバネ長Lsが不適の場合には(S10:No)、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリにバネ長を適正範囲(Lmin〜Lmax)に修正する旨のメッセージを記憶し(S11)、適正判定処理を終了する。これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S6)。
【0039】
現在のバネ長Lsがセンタ加圧装置50の構成上適正な範囲である場合には(S10:Yes)、制御装置60は、S1において入力された諸元に基づいて粗研削における研削抵抗、負荷トルクなどを算出する(S12)。粗研削を対象とするのは、各研削ステップにおいて単位時間あたりの除去量が最も多く、これに伴う研削抵抗および負荷トルクも加工サイクルの中で最大となるためである。
【0040】
S12において、加圧力算出部61は、先ず、制御装置60のメモリに記憶されている砥石台10や工作物支持装置20に係る機械定数、および工程データを読み出し、これらに基づいて粗研削における研削抵抗を算出する。次に、加圧力算出部61は、算出された研削抵抗、および工作物Wの仕上げ径に基づいて研削トルク(粗研削に必要な最大トルク)を算出する。そして、加圧力算出部61は、研削トルクと、研削加工において振れ防止のためのレストを使用する場合にはレストによる摩擦抵抗を加味したレスト摩擦トルクと、に基づいて負荷トルクを算出する。
【0041】
続いて、制御装置60は、算出された負荷トルクが、工作物支持装置20の構成上適正な範囲にあるかを判定する(S13)。つまり、加工サイクルにおいて必要とされる最大の負荷トルクが、工作物支持装置20の各主軸台30,40のサーボモータ33,43により出力できるかを判定している。負荷トルクが不適の場合には(S13:No)、センタ加圧力を最大に設定したとしてもサーボモータ33,43による出力トルクが不足して研削加工を行うことができない切込速度が設定されていることになる。
【0042】
そのため、制御装置60は、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリに切込速度を許容切込速度よりも小さく修正する旨のメッセージを記憶し(S14)、適正判定処理を終了する。これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S7)。また、上記の許容切込速度とは、入力された諸元の研削加工において許容される最大の切込速度であって、工作物支持装置20が出力可能な最大トルクおよび切込速度を除く加工条件に基づいて逆算される。
【0043】
一方で、S12で算出された負荷トルクが工作物支持装置20の構成上適正な範囲にある場合には(S13:Yes)、加圧力算出部61により基準センタ加圧力Fstが算出される(S15)。この基準センタ加圧力Fstは、上述したように研削加工に最低限必要なセンタ加圧力であって、S12において研削抵抗に基づいて算出された負荷トルクと工作物Wの仕上げ径により算出することができる。
【0044】
判定部62は、基準センタ加圧力に基づいて適正なバネ長の許容範囲Rsを算出する(S16)。より詳細には、許容範囲Rsの最大値Vuは、基準センタ加圧力Fstに所定の安全率を乗じて算出された最小センタ加圧力を付与する最長のバネ長である。また、許容範囲Rsの最小値Vbは、基準センタ加圧力Fstに安全率よりも大きな値の定数を乗じて算出された最大センタ加圧力に対応する最短のバネ長である。上記の定数は、工作物Wの剛性などに応じて設定されるものである。また、それぞれのバネ長は、算出された最小最大センタ加圧力と、工作物Wを支持した際の加圧スプリング54のバネ長と、加圧スプリング54のバネ定数とに基づいて算出することができる。
【0045】
続いて、判定部62は、S1またはS9において操作者が入力した実測値を加圧スプリング54の現在のバネ長Lsとして取得する(S17)。そして、取得したバネ長Lsが、S16において算出された許容範囲Rsに含まれているか否かを判定する(S18)。この判定によって、判定部62は、現在のバネ長Lsに応じたセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定している。このバネ長Lsが適正である場合には(S18:Yes)、通知フラグおよびメッセージ用メモリをリセットして(S19)、適正判定処理を終了する。これにより、S4において通知フラグに基づいて警告がないものとされ(S4:No)、研削加工の実施に移行する(S5)。
【0046】
一方で、現在のバネ長Lsが適正でない場合には(S18:No)、通知部63が判定結果と併せて適正なバネ長または切込速度を通知するために必要な処理を実行する。先ず、許容範囲Rsの最大値Vuと現在のバネ長Lsとを比較する(S20)。最大値Vuよりもバネ長Lsが小さい(Vu>Ls)場合には(S20:Yes)、現在の設定ではセンタ加圧力が不足する状態にあるため、バネ長Lsを小さくしてセンタ加圧力を大きくする必要がある。
【0047】
そこで、制御装置60は、次に、許容範囲Rsの最大値Vuと最小バネ長Lminを比較する(S21)。最大値Vuが最小バネ長Lminよりも大きいまたは等しい(Vu≧Lmin)場合には(S21:Yes)、図6の(a)(b)に示すように、加圧スプリング54の可動範囲(Lmin〜Lmax)と許容範囲Rsに少なくとも重複する範囲(斜線部分)がある。そこで、この重複範囲をバネ長の許容範囲Rs1として更新してメモリに記憶する(S22)。そして、制御装置60は、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリにバネ長Lsを更新された許容範囲Rs1内となるように修正する旨のメッセージを記憶し(S23)、適正判定処理を終了する。
【0048】
これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S7)。このように、加圧スプリング54の可動範囲と許容範囲Rsに重複する範囲がある場合には、操作者は、バネ長Lsが更新された許容範囲Rs1に含まれるように修正するのみで切込速度を低下させることなく対処することが可能である。
【0049】
また、最大値Vuが最小バネ長Lminよりも小さい(Vb<Lmin)場合には(S21:No)、図6の(c)に示すように、加圧スプリング54の最小バネ長Lminによって付与される最大センタ加圧力よりも大きなセンタ加圧力を要していることになる。これでは、工作物支持装置20の構成上、入力された加工条件での加工を実行できないため、加工条件を修正する必要がある。そこで、先ず、最小バネ長Lminによって付与される最大センタ加圧力で足りる最大切込速度fs1を算出しメモリに記憶する(S24)。そして、制御装置60は、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリに切込速度fsを最大切込速度fs1以下に修正し、且つバネ長Lsを最小バネ長Lminに修正する旨のメッセージを記憶し(S25)、適正判定処理を終了する。
【0050】
これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S7)。このように、加工条件などに基づいて算出されたバネ長の許容範囲Rsが、加圧スプリング54の可動範囲を超過している場合には、操作者は、バネ長Lsの修正に加えて切込速度fsを低下させるように修正して対処する必要がある。
【0051】
また、S20において、最大値Vuよりもバネ長Lsが大きいまたは等しい(Vu≦Ls)場合には(S20:No)、S10およびS18の判定結果と併せて、現在のバネ長Lsは許容範囲Rsの最小値Vbよりも小さいことになる。即ち、現在の設定ではセンタ加圧力が過大な状態にある。このような状態においては、研削加工時に研削抵抗によって工作物Wがスリップすることはないので、スリップ防止の観点からは警告を要しない。但し、本実施形態では、過大なセンタ加圧力により工作物Wが撓んで研削精度の低下が生じないように、現在のバネ長Lsが不適であるものとして警告するようにしている。
【0052】
そこで、制御装置60は、先ず、許容範囲Rsの最小値Vbと最大バネ長Lmaxを比較する(S31)。最小値Vbが最大バネ長Lmaxよりも小さいまたは等しい(Vb≦Lmax)場合には(S31:Yes)、図6の(d)(e)に示すように、加圧スプリング54の可動範囲(Lmin〜Lmax)と許容範囲Rsに少なくとも重複する範囲(斜線部分)がある。そこで、この重複範囲をバネ長の許容範囲Rs2として更新してメモリに記憶する(S32)。そして、制御装置60は、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリにバネ長Lsを更新された許容範囲Rs2内となるように修正する旨のメッセージを記憶し(S33)、適正判定処理を終了する。
【0053】
これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S7)。このように、加圧スプリング54の可動範囲と許容範囲Rsに重複する範囲がある場合には、操作者は、バネ長Lsが更新された許容範囲Rs1に含まれるように修正するのみで切込速度を低下させることなく対処し、研削精度の向上を図ることができる。
【0054】
また、最小値Vbが最大バネ長Lmaxよりも大きい(Vb>Lmax)場合には(S31:No)、図6の(f)に示すように、加圧スプリング54の最大バネ長Lmaxによって付与される最小センタ加圧力よりも小さなセンタ加圧力で足りるため、例えば切込速度を増加させるように加工条件を修正して加工時間の短縮を図ることが可能である。そこで、先ず、最大バネ長Lmaxによって付与される最小センタ加圧力で足りる最小切込速度fs2を算出しメモリに記憶する(S34)。そして、制御装置60は、通知フラグを立てるとともに、メッセージ用メモリに切込速度を最小切込速度fs2に増加可能であり、且つバネ長Lsを最大バネ長Lmaxに修正する旨のメッセージを記憶し(S35)、適正判定処理を終了する。
【0055】
これにより、S4において通知フラグに基づいて警告があるものとされ(S4:Yes)、通知部63によりメモリに記憶されたメッセージが判定結果と併せて通知される(S7)。このように、加工条件などに基づいて算出されたバネ長の許容範囲Rsが、加圧スプリング54の可動範囲を下回っている場合には、操作者は、バネ長Lsの修正に加えて、切込速度fsを増加させるように修正し、研削精度の向上および加工時間の短縮を図ることができる。
【0056】
(実施形態による効果)
上述した研削盤1の加圧力適正判定装置(制御装置60)によれば、判定部62によりセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定し(S18)、通知部63により判定結果を通知するようにしている(S7)。これにより、操作者は、センタ加圧装置50におけるセンタ加圧力が適正に設定されているか否かを事前に把握することができる。よって、加工条件を適宜設定することができるので、研削加工においては工作物Wのスリップを防止しつつ、工作物Wの撓みなどによる研削精度の低下を抑制することができる。
【0057】
また、制御装置60は、判定部62により加圧スプリング54のバネ長Lsに応じたセンタ加圧力の加工条件に対する適否を判定するようにしている(S18)。これにより、操作者は、センタ加圧装置50における加圧スプリング54の現在のバネ長Lsが適正に設定されているか否かを事前に把握することができる。よって、加工条件などをより適切に設定することができる。
【0058】
また、通知部63は、判定結果に併せて適正なバネ長または切込速度を通知するようにしている(S7)。これにより、操作者は、現在設定されているバネ長Lsが不適である場合には、バネ長Lsをどの程度に修正すればよいのかを通知されるので、センタ加圧装置50におけるバネ長Lsの設定を容易にすることができる。一方で、加工条件における切込速度を低下させると、加工時の研削抵抗が低減するため現在のバネ長Lsに対応するセンタ加圧力で足りる場合もある。そこで、通知部63が適正な切込速度を通知するようにして、操作者がこれを目安に加工条件における切込速度の修正を容易にすることができる。
【0059】
ここで、現在のバネ長Lsが不適である場合には(S18:No)、S21またはS31において加圧スプリング54の可動範囲(Lmin〜Lmax)と許容範囲Rsに重複する範囲の有無を判定するものとした。そして、重複範囲がある場合には(S21:Yes、S31:Yes)、この重複範囲により新たな許容範囲Rs1,2として更新するものとした。つまり、制御装置60は、切込速度を修正することなくバネ長Lsの修正のみで対処できる場合には、基準センタ加圧力Fstに応じた適正なバネ長Lsを優先して通知し、修正を促すようにしている。これにより、切込速度を低下させる修正を回避できるので、加工時間を延ばすことなく適正なバネ長Lsを設定することができる。
【0060】
また、通知部63は、判定結果に併せて適正なバネ長の許容範囲Rsを通知するようにしている。このように、ある程度の範囲をもって操作者に対してバネ長Lsの修正を促すことにより、工作物Wのスリップを防止しつつ、工作物Wの撓みなどによる研削精度の低下を抑制することができる。また、操作者は、この許容範囲Rsに基づいて、入力した加工条件による研削加工が研削盤1において余裕のあるものか否かを判断することできる。
【0061】
例えば、許容範囲Rsが最小バネ長Lminの付近にある場合には、研削盤1には比較的高い負荷が加えられているものと判断することができる。また、許容範囲Rsが最大バネ長Lmaxの付近にある場合には、研削加工に余裕があるため研削抵抗が大きくなるように切込速度を増加可能であると判断することができる。よって、加工条件を変更して加工時間の短縮を図ることもできる。その他には、許容範囲Rsの大きさによっても、工作物Wの剛性との関係から十分に撓みを防止できる加工条件となっているかを評価することができる。よって、操作者は、例えば、許容範囲Rsの大きさ基づいて、センタ穴径などの改善を検討することができる。
【0062】
<実施形態の変形態様>
本実施形態において、研削盤1の制御装置60が加圧力適正判定装置に相当するものとした。これに対して、加圧力適正判定装置は、制御装置60と同様に加工条件などの諸元を入力してセンタ加圧力の適正判定処理を実行可能なコンピュータに相当するものとしてもよい。このような構成においても同様に、バネ長Lsや切込速度を含む加工条件が適正であるか否かを予めシミュレーションすることができるので、速やかな段取りが可能となり、また好適な研削加工を実行できる。
【0063】
その他に、本実施形態においてセンタ加圧装置50は、コイル状の圧縮バネである加圧スプリング54を弾性体として適用するものとした。これに対して、センタ加圧装置50は、種々のバネや弾性流体などを用いてセンタ加圧力を付与する構成としてもよい。このような場合において、「弾性体の伸縮量」とは、本実施形態と同様にセンタ加圧力を付与する方向(Z軸方向)の変化量に相当する。
【符号の説明】
【0064】
1:研削盤、 10:砥石台、 11:砥石車、 20:工作物支持装置、 30:第一主軸台、 31:第一主軸、 32:第一センタ 40:第二主軸台、 41:第二主軸、 42:第二センタ、 50:センタ加圧装置、54:加圧スプリング(弾性体)、 60:制御装置(加圧力適正判定装置)、 61:加圧力算出部、 62:判定部、 63:通知部、 Ls:バネ長(伸縮量)
図1
図2
図3
図4
図5
図6