(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
衛生用紙や雑種紙などを除く紙製品は、印刷されることを前提とした工業製品であるので、印刷に対する適性が高いことが要求される。近年の印刷方法は、効率の面で優れていることから、オフセット輪転印刷が主流になりつつある。オフセット輪転印刷には、一般的な印刷適性に加え、紙層が火ぶくれ状になり難いことが特に重要である。紙層が火ぶくれ状になるこの現象は、ブリスターと呼ばれ、印刷時に熱を使用するオフセット輪転印刷時に起きやすい現象である。ブリスターが発生する理由は、印刷後の乾燥時に紙内部の水が急激に気化するときの力により紙内部の強さである内部結合力が低下し、紙層の内部結合が耐えられなくなるためである。印刷時にブリスターが発生すると、印刷の仕上がり品位が大きく低下し、印刷物として出荷することは困難である。
【0003】
一方、紙の容量を向上させる薬剤は、パルプ繊維間の水素結合を阻害することで機能を発揮しているので、必然的に内部結合力を低下させる。内部結合力の低下は上記のブリスターや断紙を引き起こすので、紙層の内部結合力(紙力)を極力低下させずに紙の容量を向上させる薬剤が望まれている。
【0004】
紙力低下を抑制しつつ、紙の容量を向上させる薬剤として、多価アルコールと、不飽和結合を2つ以上有する特定炭素数の脂肪酸を所定の割合で含む脂肪酸混合物との部分置換エステル化物の混合物(特許文献1)、ポリアルキレンポリアミン類とモノカルボン酸類との反応で得られるアミド系化合物と、エピハロヒドリンとの反応物、炭素数4〜20のアルキル基及び/又はアルケニル基を有する乳化剤、及び水とを所定質量比で含有する紙用柔軟剤(特許文献2)などが挙げられる。しかしながら、良好な紙容量の向上と、紙力低下の抑制とを両立させる薬剤は未だ得られていない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の紙用添加剤は、特定のポリオキシプロピレンポリアミン(A)と、特定のアミドアミン化合物(B)とを特定の質量比で含有し、特定の全アミン価を有する。以下、ポリオキシプロピレンポリアミン(A)、アミドアミン化合物(B)について説明する。
【0015】
〔ポリオキシプロピレンポリアミン(A)〕
本発明に用いるポリオキシプロピレンポリアミン(A)は、上記の式(1)で表される化合物であり、2または3価のアルコールの脱水酸基残基(Z)にアミノ基を有するオキシプロピレン基が付加した脂肪族エーテルアミン化合物である。2または3価のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの2価のアルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコールが挙げられ、好ましくはプロピレングリコール、グリセリンであり、さらに好ましくはプロピレングリコールである。
【0016】
式(1)中のOPはオキシプロピレン基である。オキシプロピレンの平均付加モル数aは1〜40であり、好ましくは1〜35、さらに好ましくは1〜10である。オキシプロピレン基は、セルロース分子中の水素と相互作用するのでパルプ繊維への定着に対して有利であると考えられるが、平均付加モル数aが大きくなると疎水性が高くなりすぎ、パルプ繊維へ効果的に定着させるのが困難となる。すなわち、オキシプロピレン基の平均付加モル数aが上記の範囲を外れる場合は、紙力低下の抑制が十分にできなくなるおそれがある。
【0017】
式(1)中のbはアミノ基数であり、Zにおける脱水酸基の数と一致する。アルコールは2または3価であるので、bは2または3であり、好ましくは2である。
【0018】
また、本発明に用いるポリオキシプロピレンポリアミン(A)の全アミン価は、オキシプロピレンの平均付加モル数aやアミノ基数bを変えることにより調整することができる。例えば平均付加モル数aが小さく、アミノ基数bが大きいポリオキシプロピレンポリアミン(A)を用いることにより、アミン価を上昇させることができる。本発明においては、式(1)中の脱水酸基残基(Z)、平均付加モル数a、アミノ基数bが異なる2種以上のポリオキシプロピレンポリアミン(A)を用いても良い。
【0019】
ポリオキシプロピレンポリアミン(A)の一例であるポリオキシプロピレンジアミンの市販品としては、ハンツマン社によるジェファーミンD−230、ジェファーミンD−400、ジェファーミンD−2000、ジェファーミンT−403、ジェファーミンT−3000、ジェファーミンT−5000を例示することができる。
【0020】
〔アミドアミン化合物(B)〕
本発明に用いるアミドアミン化合物(B)は、上記の式(2)で表されるポリアミン1モルに対し、炭素数12〜24の脂肪族モノカルボン酸1〜5モルを縮合させて得られるアミドアミン化合物である。
【0021】
(ポリアミン)
式(2)で表されるポリアミンは、末端に1級アミノ基を有しており、2級アミノ基がエチレン鎖で直鎖状に結合した脂肪族ポリアミンである。本ポリアミンは全てのアミノ基がカルボキシル基と縮合可能である。式(2)中、cは2〜5の整数であり、2が好ましい。ポリアミンはそれぞれ特定の沸点を有するので、蒸留操作により分離可能である。本発明においては、式(2)で表される1種又は2種以上のポリアミンを用いることができる。
【0022】
(脂肪族モノカルボン酸)
上記アミンと縮合させるために、本発明においては脂肪族モノカルボン酸が用いられる。本発明に用いる脂肪族モノカルボン酸は炭素数が12〜24の脂肪酸である。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。これらの中で炭素数が14〜20の脂肪酸が好ましい。これら脂肪族モノカルボン酸は単独または混合物を用いてもよい。
【0023】
脂肪族モノカルボン酸の炭素数が12を下回る場合は、紙容量を向上させる能力が小さくなり、かつ親水性の向上によりパルプへの定着が低下すると考えられる。一方、脂肪族モノカルボン酸の炭素数が24を上回る場合は、アルキル鎖の凝集エネルギーに由来する薬剤同士の集合が起こって不水溶性の凝集物となり易く、抄紙工程でのパルプ繊維への定着が低下すると考えられる。
【0024】
本発明に用いるアミドアミン化合物(B)は、上記ポリアミン1モルに対して、上記脂肪族モノカルボン酸1〜5モルを縮合反応させて得られる。例えば、ポリアミンと脂肪族モノカルボン酸を無溶媒で混合し、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で攪拌しながら160〜230℃に昇温し、反応と共に副生する生成水を反応系外へ除去しながら反応させることにより製造することができる。ポリアミン1モルに対して縮合させる脂肪族モノカルボン酸のモル数が1より小さい場合、紙容量を向上させる能力が小さくなり、かつ親水性向上によりパルプへの定着が低下すると考えられる。一方、ポリアミン1モルに対して縮合させる脂肪族モノカルボン酸のモル数が5より大きい場合、アルキル鎖の凝集エネルギーに由来する薬剤同士の集合が起こって不水溶性の凝集物となり易く、抄紙工程でのパルプ繊維への定着が低下すると考えられる。なお、ポリアミン化合物1モルと反応させる脂肪族モノカルボン酸のモル数を、以下「反応モル比」ともいう。
【0025】
なお、本発明に用いるアミドアミン化合物(B)の全アミン価は、上記ポリアミンの1モル当たりのアミノ基数、脂肪族カルボン酸の反応モル比や脂肪族モノカルボン酸の炭素数を変えることにより調整することができる。例えば、1モルあたりのアミノ基が多いポリアミンを用いたり、反応モル比を下げたり、炭素数が小さい脂肪族モノカルボン酸を用いたりすることにより、全アミン価を上昇させることができる。
【0026】
〔紙用添加剤〕
本発明の紙用添加剤は、ポリオキシプロピレンポリアミン(A)とアミドアミン化合物(B)との質量比(A/B)が1/99〜30/70、好ましくは5/95〜15/85で構成される。
【0027】
また、紙用添加剤の全アミン価は60〜230mgKOH/gであり、好ましくは100〜180mgKOH/gである。全アミン価の上記範囲は、紙用添加剤が良好な効果を奏するために適切な疎水性を有することを示している。すなわち、紙容量を向上させる効果が高い化合物は、パルプ繊維に定着できる疎水性と、抄紙工程中で均一に分散できる親水性とのバランスが重要である。全アミン価が60mgKOH/g未満では、疎水性が高すぎて薬剤同士の集合が起こって不水溶性の凝集物となり易く、抄紙工程でのパルプ繊維への定着が低下するおそれがある。一方、全アミン価が230mgKOH/gを超える場合は、親水性が高すぎるので、パルプ繊維に定着し難く抄紙工程においてパルプ繊維への定着が不十分になるおそれがある。上記理由により、規定する全アミン価の範囲を超える場合、十分な紙容量向上効果が得られないおそれがある。
【0028】
なお、全アミン価は公知の手法、例えばAmerican Oil Chemists' Society(AOCS)のTf 1b-64 (indicator method) に従って測定することができる。また、紙用添加剤の全アミン価の調整は、使用するポリオキシプロピレンポリアミン(A)やアミドアミン化合物(B)の全アミン価、質量比(A/B)を適宜調整することにより行なうことができる。
【0029】
本発明の紙用添加剤は、典型的には、上記混合物を分散媒中に分散させ、分散液として使用できる。分散媒としては水が好ましい。分散性を向上させるために、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコールを配合してもよい。本発明の紙用添加剤を分散液として使用する場合、分散液の調製を容易にするために、酸で中和して塩とすることが好ましい。この際に使用する酸としては、種々の無機酸あるいは有機酸が挙げられ、具体的には、塩酸、硫酸、炭酸、硝酸、リン酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸、サリチル酸、ヒドロキシ吉草酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、タウリン、スルファミン酸等が挙げられる。好ましくは蟻酸、酢酸である。これら酸の使用量は、紙用添加剤を使用する条件によって適宜設定され得るが、紙用添加剤の全アミン価に対して1当量に相当する量が好ましい。
【0030】
本発明の紙用添加剤は、良好な紙容量向上を達成しつつ、それに伴う紙力低下を抑制することができるので、製本用紙、新聞用紙、印刷・情報用紙、ダンボール用紙、板紙、ティシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンタオル等の各種紙に広く利用することができる。特に、オフセット輪転印刷時に起きやすいブリスターの発生を抑えることができるので、オフセット輪転印刷用の用紙に好適に使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0032】
〔アミドアミン化合物(B)の合成〕
表1および表2記載のポリアミン(1〜3)と、表2記載の脂肪族モノカルボン酸を表2記載の反応モル比で縮合反応させ(合成例1〜3、比較合成例1〜2)、アミドアミン化合物(B−1〜B−3、B’−1〜B’−2)を得た。なお、表1中のcは式(2)中のcを表わす。
【0033】
〔全アミン価の測定〕
表2記載のアミドアミン化合物(B−1〜B−3、B’−1〜B’−2)のそれぞれについて、AOCSのTf 1b-64(indicator method)に従って全アミン価を測定し、表2に記載した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
〔実施例1〜5および比較例2〜6〕
表3記載のポリオキシプロピレンポリアミン(A−1、A−2)と表2記載のアミドアミン化合物(B−1〜B−3、B’−1〜B’−2)を表4記載の割合で混合して紙用添加剤を得た。また、ポリオキシプロピレンポリアミンを含まないアミドアミン化合物の紙用添加剤と、ポリオキシプロピレンポリアミンの代わりにヘキサメチレンジアミンを含有する紙用添加剤も得た。得られた紙用添加剤の全アミン価をAOCSのTf 1b-64(indicator method)に従って測定し、表4に記載した。なお、表3中のZ、a、bは式(1)中のZ、a、bcをそれぞれ表わす。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
以下の要領で紙用添加剤の分散液(1〜10)をそれぞれ調製し、順次、実施例1〜5および比較例2〜6とした。分散液の調製は、各紙用添加剤の全アミン価に対して1当量に相当する量の酢酸をイオン交換水に加え、酢酸塩として1.0質量%となるように分散させて行なった。
【0040】
〔紙用添加剤の評価〕
上記で得られた紙用添加剤の分散液(1〜10)を用いて、以下のようにして手すきシート(実施例1〜5および比較例2〜6)を調製した。比較例1の手すきシートは、紙用添加剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で調製したシートである。得られた手すきシートについて、紙の容量、内部結合力(紙力)を評価した。
【0041】
(1)手すきシートの調製
フリーネスが420mLであるLBKP(広葉樹晒パルプ)を1質量%含有するパルプスラリーを調製した。 このパルプスラリーをビーカーに400g(パルプ量4g)とり、上記分散液を有効分として対パルプ0.5質量%添加して、タービン羽根にて1分間攪拌した。その後、TAPPIスタンダードシートマシン((株)安田精機製作所製)により抄紙し、油圧プレス機((株)安田精機製作所製)で0.35MPa、5分間プレス後、ドラム式ドライヤー((株)安田精機製作所製)により105℃、2分の乾燥を行い、坪量が約60g/m
2の手すきシートを3枚調製した。この手すきシートを恒温恒湿室(温度23℃、湿度50%)にて17時間調湿させた。
【0042】
(2)紙容量向上効果の評価
手すきシートの坪量をJIS P8124に準じて測定した。さらに厚みをJIS式紙圧測定機MEI−10(シチズン時計(株)製)を用いて、手すきシート1枚につき10点ずつ測定し、10点の厚みの平均を手すきシートの厚みとした。得られた坪量および厚みの測定値を用いて下記式(3)から手すきシート容量を求めた。次いで、紙用添加剤未添加の手すきシート(比較例1)のシート容量を同様の手順で求めた。下記式(4)から比容量を計算し、3枚の平均値を求めて、以下の基準で評価した。結果を表5に示す。
【0043】
手すきシート容量(cm
3/g)=厚み(μm)/坪量(g/m
2)・・・(3)
比容量(%)=V/V
0×100・・・(4)
V:紙用添加剤を添加したときの手すきシート容量
V
0:紙用添加剤が未添加時の手すきシート容量
【0044】
(評価基準)
比容量が110%以上:非常に良好である(◎)
比容量が105%以上110%未満:良好である(○)
比容量が105%未満:不十分である(×)
【0045】
(3)紙力低下の抑制効果の評価
手すきシートの内部結合力(紙力)をインターナルボンドテスター(熊谷理機工業(株)製、TAPPI−T569準拠)にて測定した。各例で6回の測定を行い、内部結合力の平均値を求めた。次いで、紙用添加剤が未添加である手すきシート(比較例1)のシート内部結合力を同様の手順で求めた。下記式(5)から対ブランク内部結合力を計算し、3枚の平均値を求めて、以下の基準で評価した。結果を表5に示す。
【0046】
対ブランク内部結合力(%)=S/S
0×100・・・(5)
S:紙用添加剤が添加されたときの手すきシートの内部結合力
S
0:紙用添加剤が未添加のときの手すきシートの内部結合力
【0047】
(評価基準)
対ブランク内部結合力が70%以上:紙力低下が抑制されている(○)
対ブランク内部結合力が70%未満:紙力低下の抑制が不十分である(×)
【0048】
【表5】
【0049】
〔評価結果〕
本発明の紙用添加剤を使用した実施例1〜5は、いずれも比容量が105%以上、かつ対ブランク内部結合力が70%以上であり、良好な紙容量向上と紙力低下の抑制が両立されていた。
【0050】
一方、比較例2は、本発明の規定を満たさないポリアミンから製造されたアミドアミン化合物(B’−1)を使用しているので、紙容量向上が不十分であった。比較例3は、分散液(7)に使用する紙用添加剤の全アミン価が本発明の規定上限値を上回るので、紙容量向上が小さかった。これは紙用添加剤の親水性が高くなり過ぎ、パルプ繊維へ定着量が低下したためと考えられる。比較例4は、アミドアミン化合物(B’−2)を調製する際に、本発明規定の下限値を下回る炭素数8の脂肪族モノカルボン酸であるカプリル酸を用いているので、紙容量向上が小さかった。比較例5は、ポリオキシプロピレンポリアミンを含まないので、内部結合力の低下が大きく、良好な紙容量向上効果と紙力低下の抑制が両立できなかった。比較例6は、ポリオキシプロピレンポリアミンとは異なるヘキサメチレンジアミンを配合しているので、内部結合力の低下が大きく、良好な紙容量向上効果と紙力低下の抑制が両立できなかった。