(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
(車輪用軸受装置の全体構成)
図1は車輪用軸受装置の全体を示す。
図2は車輪用軸受装置の要部を示す。
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、例えば駆動輪用軸受装置からなる。車輪用軸受装置1は、内方部材2,外方部材3及び複列の転動体4,5を備えている。車輪用軸受装置1は、車体(図示せず)と車輪(図示せず)との間に配置されている。車輪用軸受装置1は、転がり軸受(円すいころ軸受)を介して車体側(車両インナ側:
図1の左側)にハブ輪6(後述)を回転可能に支持する。円すいころ軸受は、内輪7(後述),外方部材3及び転動体4,5を有する。円すいころ軸受は、車輪用軸受装置1の組立時におけるかしめ変形前には軸受中間体(未完成品)として用いられ、後述するかしめ部62bの形成によって完成する。円すいころ軸受の軸受中間体は、後述するパルサーリング9,ABSセンサ10,ころ保持器11・13及びシール部材12・14等と共に軸受組立体A(
図3に示す)を構成する。
【0013】
(内方部材2の構成)
内方部材2は、ハブ輪6及び内輪7からなる。内方部材2は、中心軸線O上に回転可能に配置されている。
【0014】
ハブ輪6は、各外径が互いに異なる大小2つの胴部6a,6b(大径の胴部6a,小径の胴部6b)を有する。ハブ輪6は、ドライブシャフト(図示せず)に等速自在継手(図示せず)等を介してトルク伝達可能に連結されている。ハブ輪6は、等速自在継手にナット止めされている。ハブ輪6は、例えば中炭素鋼からなる円筒状の成形体によって形成されている。ハブ輪6には、中心軸線Oに沿って両方向に開口する貫通孔6cが設けられている。貫通孔6cの内周部には、等速自在継手のステム(図示せず)を連結するためのセレーション(図示せず)が形成されている。
【0015】
大径の胴部6aは、ハブ輪6の車輪側(車両アウタ側:
図1の右側)に配置されている。大径の胴部6aには、その外周面に車輪側で突出して車輪(図示せず)を取り付けるための円環状の車輪取付用フランジ60aが一体に設けられている。車輪取付用フランジ60aには、円周方向に並列してハブボルト8を挿通させる複数のボルト挿通孔600a(1個のみ図示)が設けられている。
【0016】
小径の胴部6bは、径方向外側に開口する円環状の凹部60bを外周面に有する。小径の胴部6bは、内輪7を挿通してハブ輪6の車体側(
図1の左側)に配置されている。小径の胴部6bは、ハブ輪6となるハブ輪用素材6A(
図2に二点鎖線で示す)の軸線方向両端部(車体側端部と車輪側端部)のうち車体側端部を内輪7(第2の内輪部材71)となる内輪用素材71A(
図2に二点鎖線で示す)における大鍔部16の車体側端面161aへかしめて(塑性変形させて)かしめ部62bを形成することにより、凹部60bに内輪7を取り付ける。ハブ輪6の形成は、ハブ輪用素材6Aに対するかしめ部62bの形成によって行われる。内輪7の形成は、内輪用素材71Aに対するかしめ部62bの形成によって行われる。
【0017】
一方、内輪7は、第1の内輪部材70及び第2の内輪部材71からなる。内輪7は、ハブ輪6の凹部60b内に取り付けられている。内輪7は、例えば冷間圧延鋼板からなる円筒状の成形体によって形成されている。第1の内輪部材70及び第2の内輪部材71は、中心軸線O方向に互いに並列して配置されている。
【0018】
第1の内輪部材70は、複列の転動体4,5の車輪側列の転動体4を転動させる第1の内側軌道面70a、及びこの第1の内側軌道面70aに仕切部70bを介して並列するリング取付面70cを有する。第1の内輪部材70は、内輪7の車輪側に中心軸線Oに沿って配置されている。
【0019】
第1の内側軌道面70aは、第1の内輪部材70の車輪側に配置されている。第1の内側軌道面70aは、第1の内輪部材70の外周部に円環状の凹溝70dを形成することにより、その溝底に設けられている。第1の内側軌道面70aの外径は、車体側から車輪側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0020】
仕切部70bは、第1の内輪部材70の軸線方向略中央部に配置されている。仕切部70bは、第1の内側軌道面70aの最小外径及びリング取付面70cの外径よりも大きい外径をもつ略均一な円筒状の胴部によって形成されている。
【0021】
リング取付面70cは、第1の内輪部材70の車体側に配置されている。リング取付面70cには、円周方向に沿って凹部及び凸部(共に図示せず)が交互に形成された回転速度検出用リングとしてのパルサーリング9が圧入して取り付けられている。パルサーリング9としては、例えばフェライト系のステンレス鋼粉を用いた焼結金属が用いられる。
【0022】
第2の内輪部材71は、内輪7の車体側に中心軸線Oに沿って配置されている。第2の内輪部材71は、本体部72及び大鍔部73を有する。
【0023】
本体部72は、軌道部72a及び凸部72bからなる。軌道部72aは、複列の転動体4,5のうち車体側列の転動体5を転動させる第2の内側軌道面72cを有する。
【0024】
第2の内側軌道面72cは、第1の内側軌道面70aにリング取付面70c等を介して中心軸線O方向に並列して配置されている。第2の内側軌道面72cは、第2の内輪部材71の外周部に円環状の凹溝72dを形成することにより、その溝底に設けられている。第2の内側軌道面72cの外径は、車輪側から車体側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0025】
第2の内輪部材71の形成は、
図2に示すように、内輪用素材71Aの本体部15(二点鎖線で示す)にハブ輪用素材6Aを挿通させてかしめ部62bを形成することにより行われる。
【0026】
内輪用素材71Aは本体部15及び大鍔部16を有する。本体部15及び大鍔部16は、互いに別の部材によって形成されている。
【0027】
本体部15は、内輪用素材71Aの軸線方向一方側(
図1では右側)に配置されている。本体部15は、第2の内輪部材71(本体部72)の軌道部72aとなる小鍔部付き軌道部15a、及び小鍔部付き軌道部15aの車体側端面150aの内周縁から突出する凸部15b(
図2に二点鎖線で示す)からなる。本体部15は、ハブ輪用素材6Aを挿通させる円環部材によって形成されている。
【0028】
小鍔部付き軌道部15aには、車輪側で径方向に突出する小鍔部151aが設けられている。小鍔部付き軌道部15aには、車体側で大鍔部16(第1の円環部160)の内周面160aに適合する外周面152aが設けられている。
【0029】
凸部15bは、小鍔部付き軌道部15aの車体側端面150aに一体に設けられている。凸部15bの内径は、小鍔部付き軌道部15aの内径と略同一の寸法に設定されている。凸部15bの外径は、小鍔部付き軌道部15aの外径よりも小さい寸法に設定されている。凸部15bは、かしめ部62bの形成時に変形して第2の内輪部材71(本体部72)の凸部72bとなる。
【0030】
大鍔部16は、内輪用素材71Aの軸線方向他方側(
図1では左側)に配置されている。大鍔部16は、第1の円環部160及び第2の円環部161を有し、全体が凸部15bの外周囲で小鍔部付き軌道部15aの車体側端部に嵌合する円環部材によって形成されている。大鍔部16は、小鍔部付き軌道部15aの車体側端部に嵌合してかしめ部62bの形成によって小鍔部付き軌道部15aの車体側端部に密着する。大鍔部16は、小鍔部付き軌道部15aの車体側端部への密着後に第2の内輪部材71の大鍔部73となる。
【0031】
第1の円環部160は、第2の円環部161の車輪側に並列して配置されている。第1の円環部160は、小鍔部付き軌道部15aの外周面152aに適合する内周面160aを有する。
【0032】
第2の円環部161は、小鍔部付き軌道部15aの車体側端面150aに当接する車輪側端面161bを有する。第2の円環部161の内周面161cと凸部15bの外周面150bとの間には、大鍔部16と小鍔部付き軌道部15aとの嵌合状態においてかしめ部62bの形成に伴い発生する凸部15bの変形を許容する円環状の空隙17が形成されている。かしめ部62bの形成後には、空隙17において凸部15bの変形によって得られる凸部72bを有する第2の内輪部材71が形成される。
【0033】
空隙17は、かしめ部62bの形成によって径方向寸法が狭くなり、この状態において閉塞されている。かしめ部62bは、大鍔部16(第2の円環部161)の車体側端面161aにハブ輪用素材6Aの車体側端部を密着させて形成される。これにより、変形後の空隙17に対する雨水等の浸入を阻止することができ、内輪7(第2の内輪部材71)の腐食発生を抑制することができる。空隙17の径方向寸法D(2r)がD≧0.05mmに設定されている。
【0034】
(外方部材3の構成)
外方部材3は、
図1に示すように、複列の転動体4,5をそれぞれ転動させる外側軌道面3a,3bを有する。外方部材3は、内方部材2の外周囲に配置されている。外方部材3は、車体側に懸架装置(図示せず)の構成部品としてのナックル(図示せず)を介して取り付けられている。外方部材3は、中心軸線Oの両方向に開口する例えば中炭素鋼からなる円筒状の成形体によって形成されている。外方部材3は、車輪用軸受装置1の外輪として機能するように構成されている。
【0035】
外方部材3には、その内外周面に開口してABS(Anti-Lock Brake System)センサ10を取り付けるためのセンサ取付孔3cが設けられている。ABSセンサ10は、パルサーリング9と共に車軸の回転速度を検出する。ABSセンサ10の検出部は、パルサーリング9の外周面に対応する位置に配置されている。ABSセンサ10としては、例えばホール素子や磁気抵抗素子など磁気検出素子が用いられる。
【0036】
(複列の転動体4,5の構成)
車輪側列の転動体4は、円すいころからなる。車輪側列の転動体4は、第1の内輪部材70における第1の内側軌道面70aと外方部材3の外側軌道面3aとの間に介在して配置されている。車輪側列の転動体4は、ころ保持器11によって転動可能に保持されている。転動体4の車輪側には、第1の内輪部材70の外周面と外方部材3の内周面との間に介在する車輪側のシール部材12が配置されている。
【0037】
車体側列の転動体5は、車輪側列の転動体4と同様に円すいころからなる。車体側列の転動体5は、本体部72(第2の内輪部材71)の第2の内側軌道面72cと外方部材3の外側軌道面3bとの間に介在して配置されている。車体側列の転動体5は、ころ保持器13(図示せず)によって転動可能に保持されている。転動体5の車体側には、第2の内輪部材71(大鍔部73)の外周面と外方部材3の内周面との間に介在する車体側のシール部材14が配置されている。
【0038】
(車輪用軸受装置1の動作)
本実施の形態に示す車輪用軸受装置1の動作は、次に示すようにして行われる。すなわち、車両のエンジン側からトルクが等速自在継手等を介してハブ輪6に伝達されると、ハブ輪6が内輪7と共に回転する。ハブ輪6には車輪が取り付けられているため、エンジン側からのトルクが車輪にも伝達され、車輪がハブ輪6と共に回転する。
【0039】
(車輪用軸受装置1における内輪7の取付方法)
次に、本実施の形態に示す車輪用軸受装置1における内輪7の取付方法につき、
図3(a)〜(d)を参照して説明する。
図3(a)〜(d)は車輪用軸受装置における内輪の取付方法を示す。
【0040】
本実施の形態に示す内輪の取付方法は、「軸受組立体の組み立て」,「軸受組立体とハブ輪との芯合わせ」,「軸受組立体の組み付け」及び「かしめ部の形成」の各工程が順次実施されるため、これら各工程を順次説明する。
【0041】
「軸受組立体の組み立て」
図3(a)に示すように、予め形成された本体部15と大鍔部16とを嵌合させてなる内輪用素材71Aを含む円すいころ軸受の軸受中間体に対し、パルサーリング9,ABSセンサ10,ころ保持器11,13及びシール部材12,14等を配置して軸受組立体Aを組み立てる。
【0042】
「軸受組立体とハブ輪との芯合わせ」
図3(b)に示すように、軸受組立体Aをハブ輪用素材6Aの中心軸線O上に配置する。この場合、軸受組立体Aがハブ輪用素材6Aの中心軸線O上に配置されると、軸受組立体Aとハブ輪用素材6Aとの芯合わせが行われる。
【0043】
「軸受組立体の組み付け」
図3(c)に示すように、軸受組立体Aを中心軸線Oに沿ってハブ輪用素材6A側に移動させてハブ輪用素材6Aを軸受組立体Aの内輪用素材71A及び第1の内輪部材70に挿通させる。この場合、軸受組立体Aの内輪用素材71A及び第1の内輪部材70にハブ輪用素材6Aが挿通されると、ハブ輪用素材6Aに軸受組立体Aが組み付けられる。なお、ハブ輪用素材6Aに対する軸受組立体Aの組み付けは、ハブ輪用素材6Aを軸受組立体A側に移動させて軸受組立体Aの内輪用素材71A及び第1の内輪部材70に挿通させても行うことができる。
【0044】
「かしめ部の形成」
図3(d)に示すように、拘束リング(図示せず)を用いて大鍔部16(
図3(c)に示す)の径方向外側への変形を規制しつつ、専用の治具(図示せず)を用いてハブ輪用素材6A(
図3(c)に示す)の車体側端部を大鍔部16の車体側端面161a(
図3(c)に示す)にかしめることによりかしめ部62bを形成する。この場合、かしめ部62bが形成されると、大鍔部73の内周面を軌道部72aの外周面に密着させるとともに、大鍔部73の車輪側端面を軌道部72aの車体側端面に密着させた状態で大鍔部73が本体部72に対して取り付けられる。
【0045】
このようにして、かしめ部62bを有するハブ輪6に対して内輪7(第1の内輪部材70及び第2の内輪部材71)が取り付けられる。
【0046】
本実施の形態において、ハブ輪6に対する内輪7(第2の内輪部材71)の取付時(ハブ輪用素材6Aのかしめ時)にハブ輪用素材6Aから内輪用素材71Aに作用するかしめ力は、小鍔部付き軌道部15aの車体側端面150aに対して軸線方向に付与されるとともに、本体部15の凸部15bに対して径方向外側に付与される。このため、大鍔部16が軸線方向に圧縮するとともに、本体部15の凸部15bが径方向外側へ変形(
図2において、最大変形量δ≒0.1mm程度)して膨張する。凸部15bの膨張変形は、大鍔部16の内周面161cに及ぶことなく空隙17で行われる。これにより、内輪用素材71Aに作用する径方向への膨張が抑制される。
【0047】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0048】
ハブ輪用素材6Aのかしめ時に凸部15bがかしめ力を受けて径方向に変形し、一方大鍔部16にはかしめ力が径方向に及ぶことが回避される。これにより、内輪用素材71Aに作用する径方向のかしめ力が緩和され、内輪用素材71Aの径方向への膨張が抑制された内輪7(第2の内輪部材71)をハブ輪6に取り付けることができる。この場合、ハブ輪用素材6Aのかしめ後には、ハブ輪6に取り付けられた内輪7に発生するフープ応力が大きくならず、このため車輪用軸受装置1の腐食環境下での使用によって内輪7がその延性又は靭性を低下させず、いわゆる応力腐食割れが生じる虞を解消することができる。
【0049】
以上、本発明の車輪用軸受装置における内輪の取付構造及びその方法並びに車輪用軸受装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0050】
上記実施の形態では、駆動輪用軸受装置に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、従動輪用軸受装置にも上記実施の形態と同様に適用可能である。