特許第5928158号(P5928158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000002
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000003
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000004
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000005
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000006
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000007
  • 特許5928158-弁開閉時期制御装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928158
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20160519BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-119958(P2012-119958)
(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2013-245613(P2013-245613A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】安達 一成
【審査官】 山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−196698(JP,A)
【文献】 実公昭49−26018(JP,Y1)
【文献】 特開2007−278470(JP,A)
【文献】 実開昭58−175262(JP,U)
【文献】 実開平7−20457(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34−1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、
前記駆動側回転部材に対して同一の回転軸芯の周りで相対回転可能に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、
前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間に形成された流体圧室と、
前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材の少なくとも一方に設けられた仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室及び遅角室と、
前記進角室又は前記遅角室に加圧流体を供給することにより、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の回転位相を制御する位相制御部と、
前記回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の中間位相にロックするロック状態とそのロック状態を解除するロック解除状態とに切換可能なロック部材、及び、当該ロック部材を前記ロック状態と前記ロック解除状態とに流体圧で切換作動させるロック流路を有する中間ロック機構と、を備え、
前記従動側回転部材が、前記進角室に連通する進角流路、前記遅角室に連通する遅角流路及び前記ロック流路を有し、
前記従動側回転部材の回転周面に対して静止した状態で同芯状に対向する固定周面を形成してある固定部材が、前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々に加圧流体を各別に供給する複数の流体流路を前記固定周面に開口するように有し、
前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々は、前記回転周面と前記固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部を介して対応する流体流路に連通され、
前記シールリングのうちの、前記回転軸芯の方向において前記進角用連通部、前記遅角用連通部及び前記ロック用連通部のうちの2つに挟まれるシールリングには、前記回転位相の制御が可能な前記加圧流体の温度領域において前記回転軸芯の方向の両側に亘って常に連通する連通路を設けてある弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記シールリングを周方向の一ヵ所で互いに対向する端面を有するC字状に構成し、
前記連通路は、前記端面どうしの隙間によって形成してある請求項1記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記連通路として、前記回転軸芯の方向の両側に亘って開口する凹溝を前記シールリングの外周側又は内周側に形成してある請求項1記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記連通路として、前記回転軸芯の方向の両側に亘って貫通する貫通孔を前記シールリングに形成してある請求項1記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材に対して同一の回転軸芯の周りで相対回転可能に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間に形成された流体圧室と、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材の少なくとも一方に設けられた仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室及び遅角室と、前記進角室又は前記遅角室に加圧流体を供給することにより、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の回転位相を制御する位相制御部と、前記回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の中間位相にロックするロック状態とそのロック状態を解除するロック解除状態とに切換可能なロック部材、及び、当該ロック部材を前記ロック状態と前記ロック解除状態とに流体圧で切換作動させるロック流路を有する中間ロック機構と、を備え、前記従動側回転部材が、前記進角室に連通する進角流路、前記遅角室に連通する遅角流路及び前記ロック流路を有し、前記従動側回転部材の回転周面に対して静止した状態で同芯状に対向する固定周面を形成してある固定部材が、前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々に加圧流体を各別に供給する複数の流体流路を前記固定周面に開口するように有している弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記弁開閉時期制御装置は、進角流路に供給した加圧流体で進角室の容積を増大させながら遅角室の流体を排出することにより、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の回転位相を進角側に変更し、遅角流路に供給した加圧流体で遅角室の容積を増大させながら進角室の流体を排出することにより、回転位相を遅角側に変更することができる。
また、例えば、吸気弁又は排気弁の開閉時期がエンジンの始動に最適な時期になるように、駆動側回転部材に対する従動側回転部材の回転位相を、最遅角位相と最進角位相との間の中間位相にロックしておくことができる。
【0003】
引用文献1には、上記弁開閉時期制御装置の従来例として、従動側回転部材が有する進角流路、遅角流路及びロック流路の夫々に加圧流体を各別に供給する三つの流体流路が、従動側回転部材の回転周面に対して相対摺動する固定部材の固定周面に開口している弁開閉時期制御装置が記載されている。
このため、流体流路から供給した加圧流体が回転周面と固定周面との摺動面を通して漏れ出すと、弁開閉時期の変更やロック部材の切換作動をタイミング良く行えないおそれがある。
したがって、摺動面を通した流体の漏れ出しが生じないように、回転周面及び固定周面を高い精度で加工する必要があり、製造コストの増大を招き易い。
【0004】
引用文献2には、中間ロック機構を備えるものではないが、従動側回転部材が有する進角流路及び遅角流路と、それらの流路の夫々に加圧流体を各別に供給する二つの流体流路とが、従動側回転部材の回転周面と固定部材の固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部及び遅角用連通部を介して互いに連通している弁開閉時期制御装置が記載されている。
したがって、回転周面及び固定周面を高い精度で加工することなく、つまり、製造コストの増大を招きにくい構造を採用しながら、回転周面と固定周面との間からの流体の漏れ出しをシールリングで防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−223172号公報
【特許文献2】特許第3986331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1記載の弁開閉時期制御装置において、製造コストの増大を招きにくい構造を採用しながら、弁開閉時期の変更やロック部材の切換作動をタイミング良く行えるようにするために、進角流路、遅角流路及びロック流路と、それらの流路の夫々に加圧流体を各別に供給する三つの流体流路とを、回転周面と固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部を介して互いに連通させることが考えられる。
【0007】
しかしながら、例えば、ロック用連通部を進角用連通部と遅角用連通部との間に配置すると、ロック用連通部と進角用連通部とを区画するシールリング及びロック用連通部と遅角用連通部とを区画するシールリングの夫々が変形して破損し易いおそれがある。
【0008】
すなわち、ロック流路に加圧流体を供給していない状態で、進角流路又は遅角流路に加圧流体を供給すると、シールリングが進角用連通部又は遅角用連通部の流体圧でロック用連通部の側に変位しようとする。
また、進角流路及び遅角流路に加圧流体を供給していない状態で、ロック流路に加圧流体を供給すると、シールリングがロック用連通部の流体圧で進角用連通部又は遅角用連通部の側に変位しようとする。
さらに、進角流路又は遅角流路と、ロック流路とに加圧流体を共通の流体ポンプで同時に供給したときでも、進角用連通部又は遅角用連通部の流体圧と、ロック用連通部の流体圧とが、流路の圧力損失の違いに起因して微妙に異なる場合があり、シールリングがそれらの圧力差によって進角用連通部又は遅角用連通部の側、或いは、ロック用連通部の側に変位しようとする。
【0009】
シールリングの回転軸芯方向の曲げ剛性は、シールリングの周方向に沿う加工精度や寸法精度の微妙なバラツキに起因して必ずしも一様ではないので、シールリングの変位が周方向で一様とはならず、周方向の特定範囲において大きくなるおそれがある。
そして、進角流路又は遅角流路への加圧流体の供給及びロック流路への加圧流体の供給は必要に応じて繰り返されるので、シールリングが変形疲労によって最終的に破損するおそれがある。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、進角流路、遅角流路及びロック流路と、それらの流路の夫々に加圧流体を各別に供給する三つの流体流路とを、従動側回転部材の回転周面と固定部材の固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部を介して互いに連通させるにあたって、シールリングのうちの、進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部のうちの2つに挟まれるシールリングの変形疲労が生じ難い弁開閉時期制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による弁開閉時期制御装置の第1特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材に対して同一の回転軸芯の周りで相対回転可能に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間に形成された流体圧室と、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材の少なくとも一方に設けられた仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室及び遅角室と、前記進角室又は前記遅角室に加圧流体を供給することにより、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の回転位相を制御する位相制御部と、前記回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の中間位相にロックするロック状態とそのロック状態を解除するロック解除状態とに切換可能なロック部材、及び、当該ロック部材を前記ロック状態と前記ロック解除状態とに流体圧で切換作動させるロック流路を有する中間ロック機構と、を備え、前記従動側回転部材が、前記進角室に連通する進角流路、前記遅角室に連通する遅角流路及び前記ロック流路を有し、前記従動側回転部材の回転周面に対して静止した状態で同芯状に対向する固定周面を形成してある固定部材が、前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々に加圧流体を各別に供給する複数の流体流路を前記固定周面に開口するように有し、前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々は、前記回転周面と前記固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部を介して対応する流体流路に連通され、前記シールリングのうちの、前記回転軸芯の方向において前記進角用連通部、前記遅角用連通部及び前記ロック用連通部のうちの2つに挟まれるシールリングには、前記回転位相の制御が可能な前記加圧流体の温度領域において前記回転軸芯の方向の両側に亘って常に連通する連通路を設けてある点にある。
【0012】
本構成の弁開閉時期制御装置は、前記進角流路、前記遅角流路及び前記ロック流路の夫々は、前記回転周面と前記固定周面との間をシールリングで環状に区画して形成してある進角用連通部、遅角用連通部及びロック用連通部を介して対応する流体流路に連通され、前記シールリングのうちの、前記回転軸芯の方向において前記進角用連通部、前記遅角用連通部及び前記ロック用連通部のうちの2つに挟まれるシールリングには、前記回転位相の制御が可能な前記加圧流体の温度領域において前記回転軸芯の方向の両側に亘って常に連通する連通路を設けてある。
【0013】
このため、回転位相の制御が可能な加圧流体の温度領域、つまり、進角流路又は遅角流路或いはロック流路に対して必要に応じて供給される加圧流体の温度領域において、シールリングを挟む2つの連通部どうしの圧力差が少なくなるように、回転軸芯の方向の両側に亘って常に連通する連通路を介して、一方の連通部から他方の連通部に加圧流体を逃がすことができる。
したがって、本構成の弁開閉時期制御装置であれば、シールリングを挟んで隣り合う連通部の側への当該シールリングの変位を緩和することができるので、軸芯方向の両側から流体圧が作用するシールリングの変形疲労が生じ難い。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、前記シールリングを周方向の一ヵ所で互いに対向する端面を有するC字状に構成し、前記連通路は、前記端面どうしの隙間によって形成してある点にある。
【0015】
本構成であれば、シールリングを拡径側又は縮径側に変形させて回転周面と固定周面との間に容易に装着することができながら、連通路を端面どうしの隙間で容易に設けることができる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、前記連通路として、前記回転軸芯の方向の両側に亘って開口する凹溝を前記シールリングの外周側又は内周側に形成してある点にある。
【0017】
本構成であれば、シールリングの外周側又は内周側に連通路を設けることができる。
【0018】
本発明の第4特徴構成は、前記連通路として、前記回転軸芯の方向の両側に亘って貫通する貫通孔を前記シールリングに形成してある点にある。
【0019】
本構成であれば、回転軸芯の方向の両側に亘ってシールリングを貫通する貫通孔で連通路を設けて、シールリングの回転周面又は固定周面に対するシール性を確保し易い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】流体制御弁側における弁開閉時期制御装置の回転軸方向の断面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3図1のIII −III 線断面図である。
図4】シールリングの装着状態を示す断面図である。
図5】シールリングの斜視図である。
図6】第2実施形態におけるシールリングの斜視図である。
図7】第3実施形態におけるシールリングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る弁開閉時期制御装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
〔全体構成〕
弁開閉時期制御装置1は、図1図3に示すように、自動車用ガソリンエンジン(内燃機関)EのクランクシャフトE1に対して同期回転する「駆動側回転部材」としての外部ロータ3及びフロントプレート4と、外部ロータ3に対して同一の回転軸芯Xの周りで相対回転可能に配置され、エンジンの弁開閉用のカムシャフト8と同期回転する「従動側回転部材」としての内部ロータ5とを備えている。
【0022】
内部ロータ5は、エンジンの吸気弁又は排気弁の開閉を制御するカム(図示せず)を備えたカムシャフト8の先端部に一体的に組付けられている。
内部ロータ5には回転軸芯Xと同芯の円筒形状の内周面14aを備えた凹部14を設けてある。内部ロータ5とカムシャフト8は、凹部14の底面に形成した雌ネジ穴12にボルト13をねじ込んで一体に固定してある。カムシャフト8は、エンジンのシリンダヘッド(図示せず)に回転自在に組み付けられている。
【0023】
外部ロータ3は、フロントプレート4と一体に組み付けて、内部ロータ5に対して所定の角度範囲内で相対回転可能に外装されている。
外部ロータ3の外周側にはスプロケット部11を同芯状に一体に設けてある。スプロケット部11とクランクシャフトE1に取り付けたギア(図示せず)とに亘って、タイミングチェーンやタイミングベルト等の動力伝達部材E2を巻き掛けてある。
【0024】
クランクシャフトE1が回転駆動されると、動力伝達部材E2を介してスプロケット部11に回転動力が伝達されて、外部ロータ3が回転駆動される。外部ロータ3の回転駆動に伴う内部ロータ5の従動回転でカムシャフト8が回転すると、カムシャフト8が備えるカムがエンジンの吸気弁又は排気弁を押し下げて開弁させる。
【0025】
図3図4に示すように、外部ロータ3の内側には、径方向内方側に突出する複数個の突出部3aが周方向で互いに離間する位置に一体形成されている。周方向で隣り合う突出部3aどうしの間であって外部ロータ3と内部ロータ5との間に四つの流体圧室6が形成されている。
【0026】
内部ロータ5の外周部のうちの各流体圧室6に対面する箇所の夫々には溝が形成され、これらの溝の夫々に、「仕切部」としてのベーン7が挿入されている。流体圧室6は、このベーン7によって周方向(図2図3における矢印S1、S2方向)の前後に位置する進角室6aと遅角室6bとに仕切られる。
【0027】
内部ロータ5には、凹部14と進角室6aとを連通する進角流路17、及び、凹部14と遅角室6bとを連通する遅角流路18を形成してある。
【0028】
ポンプPから吐出される「加圧流体」としての作動油を、進角室6a又は遅角室6bに対して供給することにより、外部ロータ3に対する内部ロータ5の相対回転位相を、進角方向S1又は遅角方向S2の方向に変位させる。進角方向S1の方向とは、図3図4において矢印S1で示される方向を示し、遅角方向S2とは、矢印S2で示される方向を示す。
【0029】
進角室6aに作動油を供給すると、進角室6aの容積が増大しながら遅角室6bの作動油が排出されて相対回転位相が進角方向S1に変位し、遅角室6bに作動油を供給すると、遅角室6bの容積が増大しながら進角室6aの作動油が排出されて相対回転位相が遅角方向S2に変位する。
なお、相対回転位相を変位可能な角度範囲は、流体圧室6の内部でベーン7が変位可能な範囲であって、遅角室6bの容積が最大となる最遅角位相と、進角室6aの容積が最大となる最進角位相との間の角度範囲に相当する。
【0030】
〔流体制御弁機構〕
流体制御弁機構Aは、進角室6a又は遅角室6bに作動油を供給することにより、外部ロータ3に対する内部ロータ5の相対回転位相を制御する位相制御部を構成するものであり、流体制御弁部2によって進角室6a又は遅角室6bに対する作動油の供給動作又は排出動作を制御する。
【0031】
流体制御弁機構Aは、内部ロータ5の凹部14に相対回転可能に同芯状に挿入される円柱形状の固定部材23bを、流体制御弁部2が備えるハウジング23と一体に有する。
固定部材23bには、内部ロータ5の回転周面である凹部14の内周面14aに対して静止した状態で同芯状に対向する固定外周面10を形成してある。
固定部材23bは、ハウジング23を介してエンジンEのフロントカバー等に固定してある。
【0032】
流体制御弁部2は、図1に示すように、ソレノイド21、ハウジング23、及びスプール25を備えている。スプール25は中空部25aを有する有底の円筒形状に形成してある。ハウジング23は中空部24を有する第1スプール収納部23aを固定部材23bと一体に備える。スプール25は、第1スプール収納部23aの中空部24に、内部ロータ5の回転軸芯Xに対して直交するスプール軸方向に移動可能に収納してある。
【0033】
スプール25と中空部24の底面との間には、スプール25を中空部24の開口側に向けて付勢する圧縮スプリング26を装着してある。第1スプール収納部23aの開口側の端部には、スプール25をスプール軸方向に往復運動させるロッド22を備えたソレノイド21を装着してある。
【0034】
ソレノイド21に通電すると、ロッド22が突出移動してスプール25の底部を押圧し、スプール25は圧縮スプリング26の付勢力に抗して図1における下方に向けて移動する。通電を停止すると、ロッド22が引退移動して、スプール25は圧縮スプリング26の付勢力によりソレノイド21の側に移動する。ソレノイド21、ロッド22、スプール25及び圧縮スプリング26は、流体制御弁部2を構成する。
【0035】
進角流路17、遅角流路18及び後述するロック流路95の夫々は、凹部14の内周面14aに開口している。
固定部材23bは、進角流路17、遅角流路18及びロック流路95の夫々に作動油を各別に供給する複数の流体流路としての進角側流路42、遅角側流路43及び後述するロック操作用流路99を固定外周面10に開口するように有している。
【0036】
すなわち、固定外周面10には、全周に亘って環状の進角用外周溝31、遅角用外周溝32及びロック操作用外周溝96が互いに平行に形成され、ロック操作用外周溝96が進角用外周溝31と遅角用外周溝32との間に配置されている。
そして、進角側流路42が進角用外周溝31の溝底面に開口し、遅角側流路43が遅角用外周溝32の溝底面に開口し、ロック操作用流路99がロック操作用外周溝96の溝底面に開口している。
【0037】
凹部14の内周面14aと固定外周面10との間には、隣り合う外周溝31,96,32どうしを区画する樹脂製或いはゴム製の二つのシールリング16a,16b、及び、外周溝32と装置外部とを区画するシールリング16cを装着してある。各シールリング16a〜16cは、固定外周面10に形成してある環状溝10aに装着してある。
凹部14の内周面14aに開口する進角流路17、遅角流路18及びロック流路95の夫々は、三つのシールリング16a〜16cで区画してある進角用連通部19a、遅角用連通部19c、及び、進角用連通部19aと遅角用連通部19cとの間に配置してあるロック用連通部19bを介して対応する流体流路42,99,43に連通されている。
具体的には、進角流路17は進角用連通部19aを介して進角側流路42に連通され、ロック流路95はロック用連通部19bを介してロック操作用流路99に連通され、遅角流路18は遅角用連通部19cを介して遅角側流路43に連通される。
【0038】
三つのシールリング16a〜16cのうちの、回転軸芯Xの方向において進角用連通部19a、遅角用連通部19c及びロック用連通部19bのうちの2つに挟まれて、回転軸芯Xの方向の両側から油圧が作用するシールリング、つまり、進角用連通部19aとロック用連通部19bとの2つに挟まれるシールリング16a、及び、ロック用連通部19bと遅角用連通部19cとの2つに挟まれるシールリング16bの夫々には、図4図5に示すように、回転位相の制御が可能な作動油の温度領域において回転軸芯Xの方向の両側に亘って常に連通する断面形状がコの字状の連通路20を外周側及び内周側に設けてある。
【0039】
すなわち、シールリング16a,16bの夫々は、断面形状が矩形で、且つ、周方向の一ヵ所で回転軸芯Xに直交する方向から接触・離間可能に互いに対向する一対の端面33を備えた平面視でC字状に形成してある。
各端面33は、図5に示すように、リング周方向で間隔を隔ててリング外周側とリング内周側とに形成されたリング径方向に沿う二つの径方向端面33a,33bどうしを、リング厚み方向の中間位置に沿って形成されたリング周方向に沿う周方向端面33cで接続してある、回転軸芯Xに直交する方向視で階段状に形成されている。
【0040】
そして、シールリング16a,16bを、リング内周側の径方向端面33aどうしが互いに密着すると共に、リング外周側の径方向端面33bどうしが周方向で僅かに離間し、かつ、周方向端面33cどうしが密着するように環状溝10aに嵌め込んで、リング外周側の径方向端面33bどうしの隙間によって形成される連通路20を設けてある。
尚、リング外周側の径方向端面33bどうしの隙間によって形成される連通路20に加えて、リング内周側の径方向端面33aどうしが周方向で僅かに離間するように装着して、リング内周側の径方向端面33aどうしの隙間によって形成される連通路を設けてあってもよい。
【0041】
したがって、弁開閉時期制御装置の作動により回転位相の制御が可能な作動油の温度領域、例えば60〜120℃の温度領域において、進角用連通部19a又は遅角用連通部19cと、ロック用連通部19bとの圧力差が少なくなるように、進角用連通部19aと遅角用連通部19cとロック用連通部19bのいずれかの作動油を、連通路20を介して隣り合う連通部に逃がして、シールリング16a,16bの進角用連通部19a又は遅角用連通部19cの側、或いは、ロック用連通部19bの側への変位を緩和することができる。
【0042】
図1に示すように、ハウジング23には、スプール25に直交する方向に沿って、第1スプール収納部23aの中空部24に連通する供給側流路47を形成してある。供給側流路47は、ポンプPからの作動油を中空部24に供給する。進角側流路42と遅角側流路43は中空部24に連通している。
【0043】
スプール25の外周面には、全周に亘って環状の排出用外周溝53a,53b、及び、供給用外周溝54を形成してある。排出用外周溝53a,53bは、貫通孔55a、55bを介してスプール25の中空部25aに連通している。
【0044】
そして、ソレノイド21の非通電時には、図1に示すように、供給用外周溝54が供給側流路47及び進角側流路42に連通すると共に、排出用外周溝53bが遅角側流路43に連通するよう設定してある。
また、ソレノイド21の通電時には、供給用外周溝54が供給側流路47及び遅角側流路43に連通すると共に、排出用外周溝53aが進角側流路42に連通するよう設定してある。
【0045】
〔中間ロック機構〕
図2図3に示すように、外部ロータ3と内部ロータ5との間には、外部ロータ3に対する内部ロータ5の相対回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の中間位相(図3参照)にロックするロック状態とそのロック状態を解除するロック解除状態とに切換可能なロック部材としての出退部材92a,92b、及び、出退部材92a,92bをロック状態とロック解除状態とに流体圧で切換作動させるロック流路95を有する中間ロック機構9を備えている。
【0046】
中間ロック機構9は、ロック用収納部91a,91b、出退部材92a,92b、ロック流路95が連通するロック用凹部93及びスプリング94a,94bを備えている。ロック用収納部91a,91bは外部ロータ3に形成され、ロック流路95及びロック用凹部93は内部ロータ5に形成されている。
出退部材92a,92bは、ロック用凹部93に突入して相対回転をロックするロック状態とロック用凹部93からロック用収納部91a、91bに引退してロック状態を解除するロック解除状態とに変位可能である。出退部材92a、92bは、ロック用収納部91a、91bに設置したスプリング94a,84bによって、ロック用凹部93に対して突入するよう常時付勢されている。
【0047】
〔弁開閉時期制御装置の動作〕
図1に示すように、進角室6aに作動油を供給して、相対回転位相を進角方向S1へ変位させる場合には、流体制御弁部2のソレノイド21に通電しない非通電状態とする。このとき、圧縮スプリング26の付勢力により、スプール25は、ソレノイド21のロッド22と共に、ソレノイド21の側に移動する。この非通電状態において、ポンプPから供給側流路47に作動油を供給すると、図1図2に示すように、作動油は、供給側流路47から供給用外周溝54、進角側流路42、進角用連通部19a、進角流路17を介して、各進角室6aへと圧送される。このとき、ベーン7が進角方向S1に相対移動して、各遅角室6bの作動油は排出される。その作動油は、各遅角室6bから各遅角流路18、遅角用連通部19c、遅角側流路43、排出用外周溝53a、貫通孔55a、ドレン流路
(図示せず)を介して、外部へと排出される。
【0048】
一方、遅角室6bに作動油を供給して、相対回転位相を遅角方向S2へ変位させる場合には、流体制御弁部2のソレノイド21への通電を行う。このとき、スプール25は、ソレノイド21のロッド22に押されて、下方に移動した状態となる。この通電状態において、ポンプPから供給側流路47に作動油を供給すると、ポンプPから供給側流路47、供給用外周溝54、遅角側流路43、遅角用連通部19c、遅角流路18を介して、遅角室6bへと圧送される。このとき、ベーン7が遅角方向S2に相対移動して、各進角室6aの作動油は排出される。その作動油は、各進角室6aから各進角流路17、進角用連通部19a、進角側流路42、排出用外周溝53b、連通孔55b、ドレン流路(図示せず)を介して、外部に排出される。
【0049】
中間ロック機構9は、エンジンの停止時には、図3に示すように、出退部材92a,92bがロック用凹部93に突入していて、外部ロータ3に対する内部ロータ5の相対回転位相を中間位相にロックするロック状態に切り替えている。
そして、エンジンが起動されると、図外のアキュムレータなどからロック操作用流路99に作動油が供給されて出退部材92a,92bがロック用凹部93からロック用収納部91a、91bに引退し、ロック解除状態に切り替える。
【0050】
なお、本発明に係る弁開閉時期制御装置は、3気筒エンジン又はV型6気筒エンジン等、カムの変動トルクが大きいエンジンに対して特に有効である。
【0051】
〔第2実施形態〕
図6は本発明の別実施形態におけるシールリング16a,16bを示す。
各シールリング16a,16bは、周方向の一ヵ所に回転軸芯Xの方向に対して傾斜する方向の切れ目34を有するC字状に形成してある。
そして、ロック用連通部19bの両側を区画する二つの一連に環状のシールリング16a,16bの夫々に設けてある連通路20として、切れ目34から周方向に離間した箇所に、回転軸芯Xの方向の両側に亘って開口する断面矩形の凹溝を外周側に形成してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0052】
〔第3実施形態〕
図7は本発明の別実施形態におけるシールリング16a,16bを示す。
各シールリング16a,16bは、周方向の一ヵ所に回転軸芯Xの方向に対して傾斜する方向の切れ目34を有するC字状に形成してある。
そして、ロック用連通部側の二つの一連に環状のシールリング16a,16bの夫々に設けてある連通路20として、切れ目34から周方向に離間した箇所に、回転軸芯Xの方向の両側に亘って貫通する円形の貫通孔を形成してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による弁開閉時期制御装置は、ジグザグに形成された連通路20をシールリング16a,16bに設けてあってもよい。
2.本発明による弁開閉時期制御装置は、シールリング16a,16bを周方向の一ヵ所で互いにラビリンス状に対向する端面33を有するC字状に構成し、それらの端面33どうしのラビリンス状に対向している隙間で連通路20を形成してあってもよい。
3.本発明による弁開閉時期制御装置は、シールリング16a,16bに設けてある連通路20として、回転軸芯Xの方向の両側に亘って開口する凹溝を、シールリング16a,16bの外周側及び内周側の双方に形成してあっても、外周側又は内周側の一方にのみ形成してあってもよい。
4.本発明による弁開閉時期制御装置は、シールリング16a,16bに設けてある連通路20として、回転軸芯Xの方向の両側に亘って開口する複数の凹溝をリング周方向に間隔を隔てて形成してあってもよい。
5.本発明による弁開閉時期制御装置は、シールリング16a,16bに設けてある連通路20として、回転軸芯Xの方向の両側に亘って貫通する複数の貫通孔をリング周方向に間隔を隔てて形成してあってもよい。
6.本発明による弁開閉時期制御装置は、周方向で一連に連続する環状のシールリング16a,16bに、連通路20としての凹溝や貫通孔を形成してあってもよい。
7.本発明による弁開閉時期制御装置は、進角用連通部と遅角用連通部との2つに挟まれるシールリングに、回転位相の制御が可能な加圧流体の温度領域において回転軸芯の方向の両側に亘って常に連通する連通路を設けてあってもよい。
8.本発明による弁開閉時期制御装置は、従動側回転部材が、進角流路、遅角流路及びロック流路をその回転外周面に開口するように有し、従動側回転部材の回転外周面に対して静止した状態で同芯状に対向する固定内周面を形成してある固定部材が、進角流路、遅角流路及びロック流路の夫々に加圧流体を各別に供給する複数の流体流路を固定内周面に開口するように有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、自動車用以外のガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの各種内燃機関の弁開閉時期制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
3 駆動側回転部材
5 従動側回転部材
6 流体圧室
6a 進角室
6b 遅角室
7 仕切部
8 カムシャフト
9 中間ロック機構
10 固定周面
14a 回転周面
16a,16b,16c シールリング
17 進角流路
18 遅角流路
19a 進角用連通部
19b ロック用連通部
19c 遅角用連通部
20 連通路
23b 固定部材
33 端面
42,43,99 流体流路
92a,92b ロック部材
95 ロック流路
A 位相制御部
E 内燃機関
E1 クランクシャフト
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7