特許第5928159号(P5928159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928159
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20160519BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160519BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20160519BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20160519BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   A61K31/506
   A61K47/12
   A61K47/14
   A61K9/20
   A61P35/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-120507(P2012-120507)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-245202(P2013-245202A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】道家 駿佑
(72)【発明者】
【氏名】片山 直久
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/160798(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101987082(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/121593(WO,A1)
【文献】 特表2005−529126(JP,A)
【文献】 特表2009−506014(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/157450(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/023146(WO,A1)
【文献】 特表2010−540465(JP,A)
【文献】 特開2007−302658(JP,A)
【文献】 特表2006−502972(JP,A)
【文献】 特表2010−509288(JP,A)
【文献】 特表2010−513514(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101401797(CN,A)
【文献】 稲垣香那、駒城素子,タルクの構造と特性,生活工学研究,2006年,第8巻、第1号,136−137頁
【文献】 D.Ivanovic et al.,Reversed-phase liquid chromatography analysis of imatinib mesylate and impurity product in Glivec capsules,Journal of Chromatography B,2004年,Vol.800,253-258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00− 31/80
A61K 47/00− 47/48
A61K 9/00− 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イマチニブメシル酸塩を含有する造粒物と、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の滑沢剤(A)と、フマル酸ステアリルナトリウムおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の滑沢剤(B)とを含有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記滑沢剤(A)と前記滑沢剤(B)との混合比が、質量を基準として1/9から9/1である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
錠剤の形態を有する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関し、より詳細にはイマチニブメシル酸塩を含有し、かつ溶出性が担保された医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イマチニブメシル酸塩はチロシンキナーゼ阻害作用を有する抗悪性腫瘍剤として公知である(非特許文献1)。
【0003】
イマチニブメシル酸塩は、日本薬局方溶出試験第2法(pH6.8)において満足し得る溶出性を示すものではない。
【0004】
よって、このような溶出試験において、適切な溶出性を担保し得るイマチニブメシル酸塩の医薬組成物が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「グリベック(登録商標)100mg錠」添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、例えば、日本薬局方溶出試験第2法において、pHの高低に関わらず溶出性に優れたイマチニブメシル酸塩の医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、イマチニブメシル酸塩を含む医薬組成物において、pH6.8の溶出試験における溶出性が低いのは、医薬組成物中に含まれる疎水性滑沢剤によるものであることを見出した。また、医薬組成物中に親水性滑沢剤を含ませるとpH1.2の溶出試験における溶出性が低くなることも見出した。この上で、親水性滑沢剤と疎水性滑沢剤を併用することにより、溶出試験におけるpHの高低に関わらず、優れた溶出性が担保された医薬組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の医薬組成物は、イマチニブメシル酸塩、疎水性滑沢剤および親水性滑沢剤を含有する。
【0009】
1つの実施態様では、上記疎水性滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0010】
1つの実施態様では、上記親水性滑沢剤は、フマル酸ステアリルナトリウムおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0011】
1つの実施態様では、上記疎水性滑沢剤と上記親水性滑沢剤との混合比は、質量を基準として1/9から9/1である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶出性が担保されたイマチニブメシル酸塩を含有する医薬組成物を提供することができる。本発明の医薬組成物は、日本薬局方溶出試験第2法によるpH6.8およびpH1.2のそれぞれの溶出試験においてともに高い溶出性を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1〜3ならびに比較例1および2で得られた錠剤について、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によるイマチニブメシル酸塩の溶出試験(pH1.2)における溶出率(平均値)の経時変化の様子を表すグラフである。
図2図2は、実施例1〜3ならびに比較例1および2で得られた錠剤について、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によるイマチニブメシル酸塩の溶出試験(pH6.8)における溶出率(平均値)の経時変化の様子を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の医薬組成物は、イマチニブメシル酸塩を含有する。
【0015】
「イマチニブ」は、化学名を4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドと称する。本発明のイマチニブメシル酸塩は、例えば、白血病のために処方される抗悪性腫瘍剤として特に有用である。
【0016】
本発明の医薬組成物は、このイマチニブメシル酸塩を、薬学的に有効量、例えば、組成物質量の全体に対して、40質量%〜70質量%の割合で含有する。
【0017】
本発明の医薬組成物はまた、滑沢剤として疎水性滑沢剤および親水性滑沢剤の両方を含有する。
【0018】
滑沢剤は、一般に錠剤の製造にあたり、打錠機中で得られた錠剤を型から取り出し易くするために添加されるものである。ただし、これを上記イマチニブメシル酸塩と一緒に処方すると、その滑沢剤その物が有する疎水性または親水性の性質の相違により、溶出試験において充分な溶出性を達成しない恐れがある。これに対し、本発明においてはこのような疎水性滑沢剤と親水性滑沢剤とを併用することによって、一方の滑沢剤では示し得なかった高pHと低pHの両方(すなわち、日本薬局方溶出試験第2法の溶出試験に要求されるpH6.8とpH1.2の両方)における優れた溶出性を示し得る。
【0019】
本発明の疎水性滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
本発明の親水性滑沢剤の例としては、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
医薬組成物中における疎水性滑沢剤と親水性滑沢剤との混合比は、滑沢剤の種類および/または組み合わせによって変動するため、必ずしも限定されないが、質量を基準として、例えば、1/9〜9/1、好ましくは2/8〜8/2、より好ましくは3/7〜7/3である。疎水性滑沢剤と親水性滑沢剤との混合比が1/9を下回る場合(すなわち、疎水性滑沢剤に対して親水性滑沢剤がより過剰に含まれる場合)は、pH1.2での溶出試験において溶出性が劣る恐れがある。また、疎水性滑沢剤と親水性滑沢剤との混合比が9/1を上回る場合(すなわち、親水性滑沢剤に対して疎水性滑沢剤がより過剰に含まれる場合)は、pH6.8での溶出試験において溶出性が劣る恐れがある。
【0022】
また、本発明の医薬組成物は、この滑沢剤(すなわち、上記疎水性滑沢剤と親水性滑沢剤との合計)を、例えば、組成物質量の全体に対して0.5質量%〜5質量%の割合で含有する。組成物中のこの滑沢剤合計の含量が0.5質量%を下回ると、打錠の際、粉粒体の杵面および臼壁への付着を生じ、錠剤自体の破壊や欠損を招く恐れがある。また、組成物中のこの滑沢剤合計の含量が5質量%を超えると、溶出速度および錠剤硬度の低下をきたす恐れがある。
【0023】
本発明の医薬組成物は、さらに任意の添加剤を含有していてもよい。この医薬組成物に含有され得る添加剤としては、特に限定されないが、例えば、賦形剤、流動化剤および崩壊剤が挙がられる。
【0024】
賦形剤は、薬学的に許容され得る一般的な賦形剤であって、従来結合剤としても機能し得るものを除いたものであれば特に限定されず、具体的な例としては、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコール;ブドウ糖、乳糖、白糖(精製白糖を含む)、粉糖、トレハロース、デキストランなどの糖;グリセリン脂肪酸エステル;およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイトなどの無機粉体;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
流動化剤は、薬学的に許容され得る一般的な流動化剤であれば特に限定されず、具体的な例としては、軟質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
崩壊剤は、薬学的に許容され得る一般的な崩壊剤であれば特に限定されず、具体的な例としては、クロスポビドン、カルボキシスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプン、部分α化デンプン、コーンスターチ、乳糖、クエン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム結晶セルロース、低置換度ヒドロキシピロピルセルロース、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
本発明の医薬組成物において、これらの添加剤の含有量は特に限定されず、当業者が任意に設定することができる。
【0028】
本発明の医薬組成物は、例えば、100mg錠、200mg錠、400mg錠などの種々の錠剤とすることができる。さらに、患者の年齢、投与様式、吸湿性薬剤の種類等に基づいて任意の用量が設定され、患者に投与され得る。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
イマチニブメシル酸塩239mg(59.8質量%)、崩壊剤としてのカルメロースおよびクロスポピドン合計36mg(崩壊剤全体として9.0質量%)を含有する総質量400mgの錠剤を表1に記載の処方により以下の通り製造した。
【0031】
【表1】
【0032】
まず、イマチニブメシル酸塩286.8g、D−マンニトール58.8g、軽質無水ケイ酸3.0gを混合した。この混合物に90v/v%エタノール水溶液70gを添加し、攪拌造粒機(株式会社パウレック製:VG−5型)にて攪拌造粒を行った。得られた造粒物を、60℃の環境下で40分乾燥を行った後、850μmの篩により篩過することにより、非難溶性薬物としてのイマチニブメシル酸塩を含む粒子を得た。
【0033】
この粒子60gに、カルメロース4.1g、クロスポピドン3.3gおよびD−マンニトール13.9gを添加し、混合し、さらに滑沢剤として、疎水性滑沢剤であるステアリン酸マグネシウム0.62gおよび親水性滑沢剤であるフマル酸ステアリルナトリウム0.62gを添加かつ混合することにより医薬組成物を得た。この医薬組成物をロータリー打錠機(菊水製作所社製:VIRG0512SS2AZ)にて錠剤径約10mm、厚み約5.8mm、質量約400mg、硬度50N以上となるように打錠することにより、イマチニブメシル酸塩の錠剤を製造した。本実施例で得られた錠剤の1錠あたりの滑沢剤の含有量を表2に示す。
【0034】
(実施例2)
滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム0.62gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.62gに代えて、ステアリン酸マグネシウム0.87gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.37gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。本実施例で得られた錠剤の1錠あたりの滑沢剤の含有量を表2に示す。
【0035】
(実施例3)
滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム0.62gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.62gに代えて、ステアリン酸マグネシウム0.37gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.87gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。本実施例で得られた錠剤の1錠あたりの滑沢剤の含有量を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム0.62gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.62gに代えて、疎水性滑沢剤単独のステアリン酸マグネシウム1.24gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。本実施例で得られた錠剤の1錠あたりの滑沢剤の含有量を表2に示す。
【0037】
(比較例2)
滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム0.62gおよびフマル酸ステアリルナトリウム0.62gに代えて、親水性滑沢剤単独のフマル酸ステアリルナトリウム1.24gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。本実施例で得られた錠剤の1錠あたりの滑沢剤の含有量を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
(試験例:製剤の安定性評価 保存前後の溶出試験)
実施例1〜3ならびに比較例1および2で得られた錠剤について、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)によるイマチニブメシル酸塩の溶出試験を行った。試験液を900mLとし、パドル回転数50rpmにて、30分後の溶出率(%)を測定した。
【0040】
まず、実施例1〜3ならびに比較例1および2の製造直後の錠剤についてイマチニブメシル酸塩の溶出試験(pH1.2)を行った。試験では、開始時(0分)、開始後5分、10分、15分および30分での溶出率(%)を測定し、この試験を3回実施した。
【0041】
各溶出時間における溶出率(平均値)の変化の様子を図1に示す。
【0042】
同様に、実施例1〜3ならびに比較例1および2の製造直後の錠剤についてイマチニブメシル酸塩の溶出試験(pH6.8)を行った。試験では、開始時(0分)、開始後5分、10分、15分および30分での溶出率(%)を測定し、この試験を3回実施した。
【0043】
各溶出時間における溶出率(平均値)の変化の様子を図2に示す。
【0044】
図1および図2より明らかなように、実施例1〜3で得られた錠剤は、pH1.2およびpH6.8のいずれにおいても高い溶出性を示したことがわかる。しかし、比較例1で得られた錠剤は、pH6.8での溶出性が不充分であり、特に溶出時間10分での溶出性は他と比較して低かった。また、比較例2で得られた錠剤は、総じてpH1.2での溶出性が低く、特に溶出時間10〜15分の溶出性が他と比較して著しく低かった。したがって、本発明の、イマチニブメシル酸塩、疎水性滑沢剤および親水性滑沢剤を含む医薬組成物が有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の医薬組成物は、滑沢剤として疎水性滑沢剤および親水性滑沢剤を併用することにより、日本薬局方溶出試験第2法によるpH6.8およびpH1.2のそれぞれの溶出試験においてともに良好な溶出性を提供し得る。これにより、含有されるイマチニブメシル酸塩の薬効を充分に発揮することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、抗悪性腫瘍剤として有用である。
図1
図2