特許第5928168号(P5928168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928168フェロマンガンスラグ回収用取鍋およびフェロマンガンスラグ回収用取鍋の使用方法
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  • 特許5928168-フェロマンガンスラグ回収用取鍋およびフェロマンガンスラグ回収用取鍋の使用方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928168
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】フェロマンガンスラグ回収用取鍋およびフェロマンガンスラグ回収用取鍋の使用方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20160519BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20160519BHJP
   F27B 3/14 20060101ALI20160519BHJP
   C04B 35/103 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   F27D1/00 N
   C22C33/04 E
   F27B3/14
   C04B35/10 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-129538(P2012-129538)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-253736(P2013-253736A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 尚士
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】神山 啓太
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−297313(JP,A)
【文献】 特開2006−161079(JP,A)
【文献】 特開2006−206957(JP,A)
【文献】 特開昭60−092417(JP,A)
【文献】 特開昭59−003069(JP,A)
【文献】 特開昭60−042273(JP,A)
【文献】 特開平06−064962(JP,A)
【文献】 特開昭50−101210(JP,A)
【文献】 特表2011−520040(JP,A)
【文献】 特開昭63−130746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00 − 1/18
C22C 1/02
C22C 1/06
C22C 33/04
C04B 35/103
C04B 35/565
F27B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナとカーボンを主体とし、アルミナ含有量が60〜95質量%であり、カーボン含有量が5〜40質量%であるフェロマンガン製造炉用耐火物を内張り材として用いたことを特徴とするフェロマンガンスラグ回収用取鍋
【請求項2】
更に、炭化珪素を20質量%以下の量で含有する、請求項1記載のフェロマンガンスラグ回収用取鍋
【請求項3】
更に、ペリクレースを35質量%以下の量で含有する、請求項1または2記載のフェロマンガンスラグ回収用取鍋
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のフェロマンガンスラグ回収用取鍋の被処理物の粘度が、0.5ポイズ以上であることを特徴とするフェロマンガンスラグ回収用取鍋の使用方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロマンガン製造炉用耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロマンガンは、電気炉にてマンガン鉱石及びコークス等を加熱溶融し、コークスによってマンガン鉱石を還元するとともに、鉄含有量調整のために鉄鉱石等を添加することによって製造される。ところで、このフェロマンガン製造時に生成するスラグ中には一般的に酸化マンガンが20〜30%含まれている。このスラグに金属シリコンなどの還元剤を投入することにより酸化マンガンを還元し、マンガンとして回収することが行われる場合がある。特許文献1〜5には取鍋を用いた低乃至中炭素フェロマンガンスラグ還元方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、酸化吹き込みを容器中のマンガンを基礎とする合金の熔湯に施工し、該基礎合金は約52%〜70%マンガン、約15%〜37%シリコン及び3.5%迄の炭素を含み、マンガン鉱石及び石炭を該酸化吹き込み作業中熔湯の中に導入し、該酸素の導入が熔湯の攪拌と燃焼をおこし、その間に該基礎合金よりも多いマンガン含有量及びより少ないシリコン含有量をもったフェロマンガン合金が高いマンガンスラグと共に作られ、そのフェロマンガン合金と高マンガンスラグとを互に分離し、然る後に新しい番手の基礎合金をスラグと反応させるために該高マンガンスラグと容器中の新しい番手の熔融基礎合金から分離し、その後に酸化吹き込みを行い、そしてそれと同時に該熔融親番手合金にマンガン鉱石及び石炭を加えることを特徴とする低乃至中炭素フェロマンガン合金を作る方法が開示されている。
また、特許文献2には、Mn10〜40%を含有しかつFe1%以下、P0.01%以下の溶融マンガンスラグ、Si50%以上を含有しかつP0.05%以下で前記溶融マンガンスラグと反応してSi1.5%以下の低珪素フェロマンガンを生成せしめうる量の合金鉄及び造滓剤を反応容器に装入した後、該反応容器に水平偏心運動を行わせしめて前記装入物を混合攪拌することにより前記溶融マンガンスラグのマンガン酸化物を還元することを特徴とするMn90%以上を含みSi1.5%以下、C0.1%以下、P0.05%以下の高品位、高純度フェロマンガンの製造方法が開示されている。
更に、特許文献3には、塩基度1.1〜1.25とされた中炭素フェロマンガンスラグの溶湯をポーラスプラグレードルに受け、攪拌しながら冷状態のシリコンマンガンを投入し溶解させることを特徴とする中炭素フェロマンガンスラグからのMn回収方法が開示されている。
また、特許文献4には、マンガンを含有する溶融スラグと珪素を含有する合金鉄とを反応容器に装入し、この装入物中に設置されたノズルから、攪拌用ガスを300Nm/秒以上及び装入物1kg当り0.2Nリットル/分以上の速度で装入物中に吐出させて装入物を攪拌し、マンガン含有溶融スラグとけい素含有合金鉄とを還元反応させてマンガンを含有する合金鉄を製造することを特徴とするマンガン系合金鉄の製造方法が開示されている。
更に、特許文献5には、フェロマンガンの製造時に副生する溶融スラグを反応容器に貯留し、前記溶融スラグ中に、珪素を含有する合金鉄と金属アルミニウムとを含む還元材を投入して攪拌し、前記溶融スラグ中に含まれるマンガン酸化物の少なくとも一部を還元することを特徴とする副生スラグからのマンガン系合金鉄の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭44−22734号公報
【特許文献2】特公昭57−36337号公報
【特許文献3】特開昭61−157645号公報
【特許文献4】特開平3−49975号公報
【特許文献5】特開2006−161079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1ないし5に開示されているような方法において、実際には製品であるフェロマンガン溶湯を受ける取鍋とフェロマンガンスラグ還元回収用の取鍋は別のものが準備されることが多い。ここで、酸化マンガンは、一般に取鍋の内張りを構成する耐火物の骨材として使用されるシリカ、アルミナやマグネシアと反応して低融点物を作りやすく、酸化マンガンの多いスラグは耐火物を激しく損傷するため,これらの取鍋は長寿命化が困難であった。
【0005】
また、特許文献1ないし5には低乃至中炭素フェロマンガン製造時のスラグ塩基度が示されている。CaO−SiO−Al系の相図を参照すると、アルミナは当該組成のスラグへの溶解度が高く、1700℃以上の高温下では広い組成範囲で液相を生ずる。一方、CaO−SiO−MgO系の相図を参照すると、当該スラグに対しマグネシアは溶解度が低く、1700℃以上の高温下においても液相を生成する組成範囲はわずかである。このため、マンガン回収用取鍋の耐火物としては、従来から特許文献1及び3に開示されているようにマグネシア系耐火物が使用されてきた。
【0006】
また、一般にカーボンは酸化物で構成されるスラグに対して濡れにくく、且つ耐火物の熱伝導率を大幅に向上させるため、れんがの冷却効果によりれんがの耐用を向上させることが知られている。これらのことから、最近ではフェロマンガンを製造する際にはMgO−C質の耐火物が使用されてきた。しかし、耐火物の損傷は大きく、十分な耐用が得られているとは言えず、改善が必要となっていた。
【0007】
従って、本発明の目的は,侵食力の強い酸化マンガンを多く含むスラグによる耐火物の損傷を抑え、合理的且つ経済的なフェロマンガン製造炉用耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、アルミナとカーボンを主体とし、アルミナ含有量が60〜95質量%であり、カーボン含有量が5〜40質量%であるフェロマンガン製造炉用耐火物を内張り材として用いたことを特徴とするフェロマンガンスラグ回収用取鍋である。
【0009】
また、本発明のフェロマンガンスラグ回収用取鍋は、フェロマンガン製造炉用耐火物炭化珪素を20質量%以下の量で含有することを特徴とする。
【0010】
更に、本発明のフェロマンガンスラグ回収用取鍋は、フェロマンガン製造炉用耐火物ペリクレースを35質量%以下の量で含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記フェロマンガンスラグ回収用取鍋の被処理物の粘度が、0.5ポイズ以上であることを特徴とするフェロマンガンスラグ回収用取鍋の使用方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、耐火物−スラグ界面の粘性を増大させることができ、それによって優れた耐用性を提供することができ、損傷速度を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アルミナ含有量63質量%、カーボン含有量21質量%、炭化珪素含有量6質量%及びその他不可避不純物からなる耐火物の実炉使用時の縦亀裂の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、フェロマンガン製造時に発生するスラグに対し優れた耐食性を持つ耐火物を得るために種々の検討を行った。耐火物がスラグに溶解する際の物質移動速度Jは、下記の(1)式(Fickの法則)で表される:
【数1】
ここで、Cは、スラグ中の特定の耐火物成分の濃度、xは、耐火物壁面からの距離、Dは、拡散係数であり、Cは、特定の耐火物成分のスラグへの飽和濃度、Cは、スラグ中の特定の成分の濃度,δは、境膜厚さである。
【0015】
この式より耐火物の溶損を抑える、換言すれば、物質移動速度(J)を小さくするためには、耐火物構成粒子の溶解度を下げる、つまり(C−C)を小さくすることが有効であると推測され、従来の耐火物業界における一般的な対応は、これに基づく対応であった。フェロマンガン溶湯を受ける取鍋やフェロマンガンスラグからマンガンを回収するために使用される取鍋においても、従来から前述のように耐火物構成粒子の溶解度を下げることを主眼に置いた改善が行われてきており、一定の成果が得られてきた。マグネシア系の耐火物を使用してきたのはこの結果である。しかし、更に耐用性を上げようとすると技術的にこのアプローチでは限界がある。
【0016】
そこで、溶解度が多少上昇しても、それ以上に耐火物-スラグ界面の粘性を上げることによる境膜厚さ(δ)を大きくすることができれば、物質移動速度(J)を低減することができるものと考えた。この観点から鋭意検討を重ねた結果、アルミナとカーボンを主体とすることで,耐火物−スラグ界面でのスラグ粘性を増加させて境膜厚さ(δ)を大きくでき、結果的には従来から使用してきたMgO−Cれんがよりも優れた耐食性を得ることを見出した。
【0017】
一方、スラグ粘度の上昇は精錬効率を落とす可能性が懸念されたが、実機試用の結果、それも問題ならない範囲であることが解った。本発明は、かかる発見を基になされたものである。
【0018】
即ち、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、アルミナとカーボンを主体とし、アルミナ含有量が60〜95質量%であり、カーボン含有量が5〜40質量%であること特徴とする。
【0019】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、アルミナを主成分とすることで、耐火物−スラグ界面でのスラグの粘度を上げることができ、それによって耐食性を向上させることができる。本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物において、アルミナの含有量は、60質量%以上であることが好ましい。これより少ないと、耐火物−スラグ界面におけるスラグ粘度が上昇せず、耐食性を向上させることができない。より好ましくは、70質量%以上である。一方、アルミナの含有量が95質量%を超えると、過焼結による割れ、剥離が顕著となり耐用が低下するため好ましくない。より好ましくは、93質量%以下である。
【0020】
一方、アルミナを主成分とすることで、フェロマンガン製造炉用耐火物のスラグに対する溶解度は増大する。一般的な取鍋では、耐火物のスラグに対する溶解度の増大は、耐食性の低下を引き起こすが、フェロマンガン製造炉用耐火物を例えばマンガン回収用取鍋の内張り材として使用した場合、スラグに対する溶解度の上昇は、大きな問題にならない。この理由は、必ずしも明確ではないが以下のように考えられる:
即ち、その原因の最も大きい理由は、取鍋内容物の粘度である。例えば,一般的な製鋼用取鍋の場合,内容物である溶鋼の粘度は数センチポイズである。溶鋼用取鍋の場合、スラグは取鍋表面に浮いているだけではなく、溶鋼中に細かく懸濁している。懸濁したスラグが鋼浴部の耐火物表面に付着し、耐火物と反応して溶損が起こる。この際、溶鋼のように内容物の粘度が小さい場合、取鍋内容物が大きく攪拌されると、耐火物表面に付着したスラグは容易に溶鋼の流動によって界面から引きはがされ、境膜厚さ(δ)は小さくなる。このため、アルミナの溶解によってスラグの粘性が増大しても,大きな効果にはならない。また、スラグライン部では、スラグの粘度は高いものの、溶鋼の流動によってスラグが激しく攪拌されるため、この場合も境膜厚さδは小さく押さえられる。そのため、この部分でも、アルミナの溶解によってスラグの粘性が増大しても、大きな効果にはならない。
【0021】
それに対し、フェロマンガン製造炉用耐火物をマンガン回収用取鍋の内張り材として使用した場合、マンガン回収用取鍋はスラグを処理するものであり、取鍋内容物、即ち、スラグの粘度は数ポイズで溶鋼に比べて2桁大きい。還元反応の速度を上げるために、上記特許文献1〜5に開示されているような方法を適用するものの、スラグ粘度が高いために溶鋼取鍋中の溶鋼ほどには攪拌されない。このため,境膜厚さ(δ)は大きくなる。この際、耐火物−スラグ間でアルミナが溶け出し,スラグ粘度が大きくなるとそれによって境膜厚さ(δ)がさらに大きくなり,耐食性が向上すると考えられる。
【0022】
換言すれば、溶解度の上昇を容認しつつ、スラグの粘度の上昇による境膜厚さ(δ)を大きくすることで、溶解の速度を低減、つまり、耐食性を向上するという手法は、常に成立できる手法ではない。フェロマンガン製造炉における被処理物の粘度が高い場合にのみ成立できる手法である。従って、被処理物の粘度は、0.5ポイズ以上であることが好ましい。これより小さい場合、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物の耐食性の向上効果が発揮されない場合がある。より好ましくは、2〜30ポイズの範囲内である。被処理物の粘度が30ポイズを超えると、粘性が高くなり過ぎて取鍋内容物の攪拌を十分に行うことができず、操業に支障を来たすことがあるために好ましくない。
【0023】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物に用いられるアルミナ原料には、市販されているホワイト電融アルミナやブラウン電融アルミナのような電融アルミナや焼結アルミナ、仮焼アルミナに加え、焼成ボーキサイトや焼成礬土頁岩のような天然アルミナも使用可能であり、これらから選択された1種または2種以上を使用可能である。なお、これらの成分に由来する不可避的不純物は許容される。
【0024】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、カーボンを含有することにより、耐火物にスラグに対する濡れにくさを付与し、スラグ浸透を押さえ、スポーリングの発生を抑制することができる。カーボン含有量は5質量%以上が好ましい。カーボン含有量が5質量%未満であると、耐火物中へのスラグ浸潤を抑制できず,スラグ浸潤による剥離が多発し短命となることがあるために好ましくない。カーボン含有量が増加するにつれて、耐火物は高熱伝導率化するため、耐火物は冷却効果により耐火物−スラグ境界付近でのスラグの粘性の向上に寄与し、更に高耐用性を得ることができる。しかし、カーボン含有量が40質量%を超えると、冷却効果が過大となり、溶湯温度が低下し操業に支障をきたすことがあるために好ましくない。このことから、カーボン含有量は5〜40質量%が好ましく、より好ましくは7〜30質量%の範囲内である。
【0025】
カーボン源としては、耐火物で一般に使用されている鱗状黒鉛の他、球状黒鉛や人造黒鉛、粉末ピッチ、カーボンブラックなど種々のものが使用可能であり、1種または2種以上を使用することができる。
【0026】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、更に、炭化珪素を20質量%以下の量で含有することもできる。炭化珪素は、カーボンの酸化防止材として有効に働く。また、炭化珪素は熱伝導率が高いため、カーボンと同様に冷却効果を付与することができる。しかし、炭化珪素の含有量が20質量%を超えると、耐火物の耐食性が低下し、低耐用となるために好ましくない。従って、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物が炭化珪素を含有する場合、炭化珪の含有量は20質量%以下、より好ましくは15質量%以下とすることが望ましい。炭化珪素としては市販されている各種純度の炭化珪素原料の他、炭化珪素質の研磨剤や炭化珪素質の研磨剤を用いて任意の材料を研磨した後の発生粉など炭化珪素を主体としたものであれば使用可能である。
【0027】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、上述のようにアルミナとカーボンを主体とするものであるが,稀に冷却に伴う縦亀裂が認められることがある。図1は、アルミナ含有量63質量%、カーボン含有量21質量%、炭化珪素含有量6質量%、その他不可避不純物からなる耐火物を実炉使用時の縦亀裂の状態を示す写真である。これは、耐火物の残存膨張性の不足によるものと考えられる。この縦亀裂対策として、耐火物に残存膨張付与のために、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、更に、ペリクレース(MgO)を含有することができる。ペリクレースはマグネシア(MgO)の結晶であり、アルミナ(Al)と高温で反応してスピネル(MgAl)を生成することで体積膨張が起こるため、耐火物に残存膨張性を付与することができる。ペリクレースの含有量を増やすと残存膨張性も増加するが、ペリクレースの含有量が35質量%を超えると、稼働面近傍のアルミナとペリクレースによるスピネル生成反応に起因する稼働面と背面の組織ギャップにより剥離を生じることがあるために好ましくない。従って、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物において、ペリクレースの含有量は35質量%以下、より好ましくは30質量%以下とすることが望ましい。
【0028】
また、マグネシアを含有する原料、あるいはそれを含む耐火物中でのペリクレース含有量は、化学分析から推定でき、また、X線回折分析から定量できる。例えば、高純度マグネシア原料はペリクレースからなる。多少の不可避不純物を含む場合、不可避不純物とマグネシアは化合物を形成しているので、その量からペリクレース含有量をある程度の精度で定量することができる。他方、粉末X線回折法を利用することで、鉱物組成としてのペリクレースを定量可能である。
【0029】
ペリクレースの原料としては市販の電融マグネシアや焼結マグネシア、海水マグネシア、死焼マグネシア等が使用可能である。また、使用後マグネシアれんがなど、マグネシアを主体としたものであれば使用可能である。マグネシアの粒度については特に制約はないが、1mmを超える粒度で添加すると膨張挙動は緩やかであり、且つ持続的に膨張する。1mm以下の微粉として添加した場合、マグネシアとアルミナの反応が進みやすく大きい残存膨張が得られる。
【0030】
更に、本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物には、カーボンの酸化防止や耐火物の強度を付与する金属粉としては金属シリコン、金属アルミニウム、金属マグネシウム、アルミニウム−マグネシウム合金、鉄粉などが使用可能であり、これらのうちの1種または2種以上を選択して配合することができる。これらの金属粉の量は、外掛けで0.2〜5質量%、好ましくは外掛けで0.5〜3質量%の範囲内である。金属粉の量が外掛けで0.2質量%未満では、その効果が発現しないために好ましくなく、また、外掛けで5質量%を超えると、使用中の金属粉末の酸化による膨張量が大きくなりすぎるために好ましくない。
【0031】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物に使用される結合剤には、種々のものがあり、基本的には有機、無機の別を含め、特に限定されるものではない。結合剤の量は、外掛けで0.5〜6質量%、好ましくは外掛けで1.5〜4質量%の範囲内である。結合剤の量が外掛けで0.5質量%未満では、その効果が発現しないために好ましくなく、また、外掛けで6質量%を超えると、加熱後の気孔率が増大するために好ましくない。
【0032】
なお、上記のようにフェノール樹脂やパルプ廃液、糖蜜、エポキシ樹脂、液状デキストリン等の有機質バインダーは、非還元性雰囲気下で加熱すると熱分解し、その一部がカーボンとして残留することがある。このカーボンは分散性が良く、耐火物特性の向上に資することができるため好ましい。しかし、残留カーボン量は使用条件によって異なるために特定できない場合があり、上述のカーボン含有量には含めないものとする。
【0033】
また、無機質のバインダーとしては、アルミナセメントや苦汁(MgCl)、珪酸ソーダ、珪酸カリウムなどの珪酸アルカリ金属塩、アルミン酸ソーダなどが使用できる。
【0034】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、上述のようにアルミナとカーボンを主体とするものであり、また、上記炭化珪素含有量及び/またはペリクレース含有量を有するものである。本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物においてて、アルミナ含有量、カーボン含有量、炭化珪素含有量並びにペリクレース含有量が上記範囲内であれば、他の耐火性酸化物、例えばシリカ、マグネシア、カルシア、ジルコニア、クロミアなどを含有する化合物の1種または2種以上、或いはこれらとアルミナとの化合物あるいは固溶体の1種または2種以上を使用することもできる。なお、これらの成分に由来する不可避不純物は容認される。
【0035】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、れんがとしてフェロマンガン製造炉に使用することができる。れんがの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記原料を一括あるいは分割して、混合機もしくは混練機により混合及び混練する。一般的にれんがのプレス成形の前処理工程である混練には、容器固定型としてローラー式のSWPやシンプソンミキサー、ブレード式のハイスピードミキサー、加圧式ハイスピードミキサーやヘンシェルミキサー、あるいは加圧ニーダーと呼ばれる混練機や、容器駆動型としてローラー式のMKPやウェットパン、コナーミキサー、ブレード式のアイリッヒミキサー、ボルテックスミキサーなどの混練機を使用することができる。また、これら混練機や混合機に加圧もしくは減圧、温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を設置することもできる。混合もしくは混練時間は、原料の種類、配合量、結合剤の種類、混練物の温度、混合機もしくは混練機の種類や大きさによって異なるが、通常数分から数時間程度の範囲内である。
【0036】
得られた混練物は、衝撃圧プレスであるフリクションプレス、スクリュープレスあるいはハイドロスクリュープレスなど、静圧プレスである油圧プレスやトッグルプレスなどのほか、振動プレス、CIPと呼ばれている成形機によって成形することができる。これら成形機には真空脱気装置や温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を設置することもできる。プレス成形機による成形圧力や締め回数は、成形されるれんがの大きさ、原料の種類、配合量、結合剤の種類、混練はい土の温度、成形機の種類や大きさ等によって異なるが、成形圧力は通常0.2t〜3.0tであり、締め回数は1回から数十回で成形することができる。
【0037】
成形したれんがは、使用時の揮発分放出による爆裂を防ぐために、500℃以下で加熱することもできる。この加熱に際して、熱風循環式の乾燥加熱炉等を使用でき、また、500℃を超える温度での加熱が必要な場合には、電気加熱式、ガス加熱式、オイル加熱式等のバッチ式単独窯、例えばシャトルキルンやカーベルキルンや、連続式のトンネル窯などが最適である。もちろん、温度が十分に調整可能で均質加熱ができる加熱炉であればどのような形式のものでも使用できる。
【0038】
本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物は、フェロマンガンスラグ還元回収用の取鍋での耐用改善を目的とするものであるが、フェロマンガン溶湯を受ける取鍋、電気炉炉体や取鍋、出鋼口などなどの各種のフェロマンガン製造炉および装置にも有効に使用することができ、従来のMgO−C質れんがに比べて優れた耐食性を示す。従って、種々のフェロマンガン製造炉用の耐火物としても広く適用可能であり、特に、フェロマンガン溶湯を受ける取鍋は適用効果が比較的高く、適用が好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物を更に説明する。
実施例
以下の表1に記載する配合割合にて各種原料並びに結合剤を組み合わせて配合物を作成し、混練した後、フリクションプレスを用いて成形圧力1.5トン/cmにて成形し、得られた成形物を熱風循環式加熱炉で250℃、24時間加熱することにより本発明のフェロマンガン製造炉用耐火物を得た。
また、表2に記載する配合割合にて各種原料並びに結合剤を組み合わせて配合物を作成し、以下、本発明品と同様の方法にて比較品の耐火物を得た。
【0040】
本発明品及び比較品の耐火物の諸特性を表1及び表2に併記する。なお、表中、電融ホワイトアルミナの純度は、99.6質量%であり、電融マグネシアの純度は、97.2質量%であり、炭化珪素の純度は、92.5質量%であり、鱗状黒鉛のカーボン純度は、95.8質量%であった。
【0041】
また、「侵食試験」は、スラグが流動し、スラグ粘性の影響を評価しやすい回転ドラム侵食試験法で行った。試験は、1700℃に昇温後、1700℃を5時間保持し、1時間ごとにスラグを入れ替えることにより行なわれた。なお、スラグは、実炉と条件を合わせるためにフェロマンガン回収炉から採取したものを用いた。
「損傷速度指数」は、フェロマンガン製造炉に従来使用されていた比較品1のMgO−C質耐火物の損傷速度を100として指数化したものであり、数値が低いほど損傷速度が遅く、良好である。
「スラグ湿潤」は、供試体へのスラグの浸潤を評価したものであり、浸潤が全く見られなかったものを◎とし、浸潤が見られた供試体についてはその浸潤度合いに応じて良好な順に○、△、×と評価し、×のものは浸潤が著しく,受容不可能なものである。
「剥離の有無」は、供試体の稼働面の剥離を評価したものであり、剥離が全く見られなかったものを◎とし、剥離が見られた試料についてはその浸潤度合いに応じて良好な順に○、△、×と評価し、×のものは厚い剥離が繰り返し生じたため、実使用した場合耐用上問題をきたすものと考えられる。
また、「残存膨張率(%)」は、各供試体を乾式カッターで切りだし、30×30×150mmの残存膨張率測定用試料を作成し、ブリーズ中に埋設した上で、箱型電気炉を用いて5℃/分の条件で1500℃まで昇温して3時間焼成し、その後、室温まで冷却し、試料を取り出し,焼成前の寸法を基準として寸法変化率を求めた結果である。なお、残存膨張率(%)は、耐火物の残存膨張性の不足により引き起こされる縦亀裂を未然に防ぐための指標となる。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1に示すように、本発明品の損傷速度は、何れも比較品1より良好であった。また、何れも浸潤や剥離は全く見られないか軽微であり特に問題にはならなかった。更に、電融マグネシアを配合した本発明品9〜12は、良好な残存膨張性が得られることが判る。
【0045】
比較品1は、フェロマンガン製造炉に従来使用されていたMgO−C質耐火物である。
比較品2は、電融ホワイトアルミナを55質量%、鱗状黒鉛を45質量%配合したものであり、比較品3は、電融ホワイトアルミナを50質量%,鱗状黒鉛を50質量%配合したものである。これらは損傷速度が小さく、剥離も生じなかった。
比較品4は、鱗状黒鉛を3質量%配合したものであり、比較品5は、鱗状黒鉛を1質量%配合したものであるが、何れもスラグ浸潤が大きく、且つテスト中の受熱により過焼結を起こしたため,厚い剥離を繰り返し損傷大であった。
比較品6は、炭化珪素を25質量%配合したものであるが、炭化珪素量が過剰であるため耐食性が低下した。
比較品7は、マグネシアを37質量%配合したものであるが、残存膨張率が2%を超え、過大なものとなっている。また、スラグ浸潤も著しく,これらの影響により稼働中の剥離が非常に顕著であり短命であった。
【0046】
表3は、本発明品1、2、6、9及び12並びに比較品1、2及び3をフェロマンガン回収炉及び製鋼用取鍋スラグラインに適用した結果である。フェロマンガン回収炉における、スラグ組成は、SiO:34.0質量%、MnO:21.0質量%、CaO:40.0質量%、MgO:5.0質量%、塩基度CaO/SiO=1.18であり、1500℃におけるスラグ粘度は3.2ポイズであった。
また、製鋼用取鍋では普通鋼を処理し、1600℃における溶鋼の粘度は6センチポイズであった。
「損傷速度」は、比較品1の損傷速度を100とした時の指数で示した。
また、テスト時の「溶湯温度変化」についても調査し、全く問題なかったものを◎とし、溶湯温度の変化が認められた供試体については、その度合いに応じて良好な順に○、△、×と評価し、×のものは溶湯温度低下が過大となり、操業上問題をきたすものである。
【0047】
【表3】
【0048】
フェロマンガン回収炉での使用において、本発明品は何れも比較品1より損傷速度が小さく、損傷が軽微であった。また、操業中の溶湯温度の低下についても問題ない範囲であった。
比較品2および3は、本発明品よりも損傷速度が小さく、損傷は軽微であったが、使用中の溶湯温度低下が著しく、操業に支障をきたすものであった。
一方、製鋼用取鍋に本発明品を使用した場合、フェロマンガン回収炉で使用した場合と異なり,本発明品は何れも比較品1より損傷速度が大きく、損傷が大であり、十分な耐用が得られなかった。これは先に述べたように溶鋼粘度が小さいためと考えられる。
このように、フェロマンガンスラグのように被処理物の粘性が比較的高く、且つアルミナの溶解による粘性向上効果が大きいため、本発明品では、耐食性が向上し、好結果が得られたものと考えられる。
図1