(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら本発明の作業車両にかかる一実施形態としての薬液散布作業車について説明する。なお、左右一対の構成部材がある場合、符号Lは左側、符号Rは右側を指す。
【0019】
図1は、本発明にかかる薬液の散布作業車の側面図である。
図2は、本発明にかかる薬液の散布作業車の正面図である。尚、これら
図1、
図2は、後述する左右散布ブームを走行車体の左右両側面に収納した状態を示す。一方
図3は、本発明にかかる薬液の散布作業車が薬液を散布している状態を示す正面図である。
【0020】
図1、
図2に示す通り、薬液の散布作業車1の走行車体2には左右一対の前輪3L,3R、と左右一対の後輪4L,4Rが設けられていて、走行車体2の前側部には防除散布装置11が取り付けられている。
【0021】
尚、
図2に示す通り、本実施の形態1の薬液の散布作業車1では、最低地上高さHが高く、輪間距離(トレッド)Wが広く構成されている。
走行車体2の左右一対の前輪3L,3R間の上方には、ボンネット5で覆われたエンジンEが搭載されている。左右一対の前輪3L,3Rと左右一対の後輪4L,4Rの間の上方には操縦席6を設け、操縦席6の前方にハンドル7が設けられている。
【0022】
ハンドル7を左右に操舵すると、後述のように、左右一対の前輪3L,3R及び左右一対の後輪4L,4Rが同時に連動して逆位相に操舵され、小回り走行のできる四輪操舵構成としている。
【0023】
また、操縦席6の回りを取り囲むように薬液タンク9を着脱自在に設け、操縦席6の下方に防除ポンプ10が設けられている。
また、
図4に示す通り、防除散布装置11は機体前方に位置するセンター散布ブーム11Cと、センター散布ブーム11Cの左右両側に設けられた左・右サイド散布ブーム11L,11Rとで構成されている。
【0024】
そして、防除散布装置11を昇降シリンダー15(
図1参照)により昇降し、開閉レバー17L,17R(
図4参照)により左・右サイド散布ブーム11L,11Rを夫々単独で左右に突出した散布作業状態(
図5参照)と、走行車体2の両側方に沿わせた状態に収容する(
図1〜
図4参照)ように構成している。
【0025】
そして、薬液タンク9の薬液は防除ポンプ10により防除散布装置11に送られ、センター散布ブーム11C及び左・右サイド散布ブーム11L,11Rに複数設けられた散布ノズル14,14…から、薬液が散布される(
図1,5参照)。
【0026】
次に、エンジンEの動力を受けて変速動力を各部に伝達する変速伝動機構について、
図6〜
図8に基づき説明する。エンジンEのクランク軸(図示せず)と同軸に支持された出力軸20と、ミッションケース21側変速入力軸22との間に主クラッチ23を介在する。この主クラッチ23は、多板クラッチ形態の公知の構成とされ、操縦席6下部のステップ部に配設したクラッチペダル23aの踏み込みによって常時接続状態の動力を切に連動する構成としている。
【0027】
前記主クラッチ23を経由した動力は、変速入力軸22を経てミッションケース21内の伝動機構を連動するが、このミッションケース21は、前後のケース部21f,21rを接合する構成であり、ミッションケース21前後の軸受壁部に各種変速軸等を支持する構成としている。
【0028】
前記変速入力軸22は後方に延長してミッションケース21内に支持構成され変速伝動軸を構成し、複数の変速ギヤを設けている。ミッションケース部21rの後壁部に変速入力軸22と同軸芯のPTO軸24を軸支し、前端のボス状部分24aに軸受を設けて上記変速入力軸22の後端を支持する構成である。なお、PTO軸24は本実施例では後述防除ポンプ10の駆動専用に設けられ、軸端のプーリ31から操縦席6下方に設ける防除ポンプ10の入力プーリ12を後述のようにベルト伝動可能に構成している。
【0029】
前記変速入力軸22と平行に第1カウンタ軸25を設ける。そして、この第1カウンタ軸25と前記入力変速軸22との間に設ける変速ギヤ群の選択により、第1の変速装置としての3段の副変速装置26を構成し、及び、第2の変速装置として前進側高低2速とバック1速を選択できる主変速装置27を構成する。そして、変速入力軸22からの動力は第1の変速装置26(以下、副変速装置26)で変速された変速段を経由した後、第2の変速装置27(以下、主変速装置27)による前進高低2段又はバック速1段のいずれかの変速段を経て前輪3及び後輪4を駆動する構成である。
【0030】
即ち、ミッションケース21の後ケース部21rに主として収容配置される副変速装置26は、変速入力軸22に固定してギヤ径の異なる3枚の副変速ギヤ28a,28b,28cを設けるとともに、第1カウンタ軸25側にはこれら副変速ギヤ28a〜28cを選択する副変速摺動ギヤ29を設け、この摺動ギヤ29の2段ギヤのうち径大ギヤ29bが前記副変速ギヤ28bに噛合い、径小ギヤ29cが副変速ギヤ28cに噛合う構成とし、摺動ギヤ29のボス部29dに一体成形する最径小ギヤ29aは、第1カウンタ軸25に回転自由に支持され前記副変速ギヤ28aと常時噛合うカウンタギヤ30の内歯ギヤ部30aに噛合う構成である。このように構成されているから、副変速摺動ギヤ29を摺動させて、最径小ギヤ29aをカウンタギヤ30の内歯ギヤ部30aに噛合わせることにより副変速第1速を得、2段ギヤのうち径大ギヤ29bを副変速ギヤ28bに噛合わせることで副変速第2速を得、2段ギヤの径小ギヤ29cを副変速ギヤ28cに噛合わせることで副変速第3速を得る。
【0031】
前記副変速摺動ギヤ29の前記ボス部29dと2段ギヤとは別々に成形され爪クラッチ部29eを常時噛合い状態に組み付けて第1カウンタ軸25に形成したスプラインに摺動自在に嵌合させている。
【0032】
ミッションケース21の前ケース部21fに収容される部分には主変速装置27を設ける。前記第1カウンタ軸25の副変速された駆動力は、主変速高低2速及びバック速を選択されて第2カウンタ軸35に伝達される。
【0033】
すなわち、第1カウンタ軸25の前端部にバック速用中間ギヤ36を遊嵌し、前記副変速装置26側のカウンタギヤ30の前側には低速用中間ギヤ37を遊嵌する。第2カウンタ軸35のスプライン部に嵌合して摺動自在な主変速摺動ギヤ38には、高速用中間ギヤ38aを中心にバック速用内歯ギヤ38b、低速用中間内歯ギヤ38cを前後に形成している。また、前記変速用入力軸22に、正転用カウンタギヤ39をこの変速用入力軸22の回転とは無関係に回転できるように軸支する。この正転用カウンタギヤ39には大小の径の異なる低速用カウンタギヤ39aと高速用のカウンタギヤ39bを形成する。
【0034】
前記正転用カウンタギヤ39のボス部に一体的に成形された正転用カウンタギヤ39cは、第2カウンタ軸35の正転用伝動ギヤ40に常時噛合い、前記バック速用中間ギヤ36は同じく第2カウンタ軸35のバック速用伝動ギヤ41に常時噛合う構成である。
【0035】
前記主変速摺動ギヤ38の低速用中間内歯ギヤ38cを低速用中間ギヤ37に嵌合させると第1カウンタ軸25の副変速された回転動力はこの低速用中間ギヤ37、低速用カウンタギヤ39a、正転用カウンタギヤ39cを経由して正転用伝動ギヤ40を駆動し第2カウンタ軸35に低速正転動力を伝達する。主変速摺動ギヤ38の高速用中間ギヤ38aを高速用カウンタギヤ39bに噛合わせると、第1カウンタ軸25の動力は高速用中間ギヤ38a、高速用カウンタギヤ39b、正転用カウンタギヤ39cを経由して正転用伝動ギヤ40を駆動し第2カウンタ軸35に高速正転動力を伝達する。
【0036】
また、主変速摺動ギヤ38のバック速用内歯ギヤ38bをバック速用中間ギヤ36に嵌合させると第1カウンタ軸25の主変速された回転動力はこのバック速用中間ギヤ36、バック速用伝動ギヤ41を駆動し第2カウンタ軸35にバック速動力を伝達する。
【0037】
前記第2カウンタ軸35の主・副変速駆動力は、減速用中間伝動ギヤ群42,43を経て走行伝動軸44に伝達される。走行伝動軸44はミッションケース21の前後に突出し、後部側のスプライン軸部44aは後伝動軸44rを介して後輪デフ機構を連動し後車軸を経て後輪4L,4Rを駆動し、前部側のスプライン軸部44bは前伝動軸44fを介して後述する前輪デフ機構58を駆動し前輪3,3を駆動する。
【0038】
なお、前記主変速装置27の主変速レバー46,副変速装置26の副変速レバー47は操縦席6左側に併設され、前後方向の案内ガイドに沿って変速操作できる。また該操縦席6の右側には前記PTO軸24に配設したPTOクラッチ機構48を入・切に切り替えるPTOレバー49を備える。
【0039】
すなわち、PTOクラッチ機構48は、前記PTO軸24の前端の前記ボス状部分24aの前端内周に形成した内歯クラッチ24bと、前記変速入力軸22の後部に形成するスプライン部に支持されるクラッチ体48aを備え、該クラッチ体48aはシフター48bの前後動に伴ってクラッチ体48aを内歯クラッチ24bに係脱させる構成としている。シフター48bは上記PTOレバー49に連動する構成である。シフター48bを固着したシフターステー48cは、変速入力軸22と平行に往復摺動可能にミッションケース21に支持され、このシフターステー48cのミッションケース21から後方に突出する後端側に連動リンク48dを介してPTOレバー49の基端部と連携している。PTOレバー49は、その基端側49aが走行車体2を構成する左右一対の走行フレーム2L,2Rの片方側(図例では右走行フレーム2R側)に回動自在に取り付けられ、折曲する把持部側49bがこの取付け基部側49aを軸芯として前後に揺動操作可能に設けられ、前方向きへの揺動操作で前記噛合いクラッチ機構48を入りに、逆の後方への揺動操作で前記噛合いクラッチ機構48を切りとする構成である(
図7)。
【0040】
前記走行伝動軸44の後部側であって、ミッションケース21の後部壁の着脱自在に締結固定するメタル部21mに、ブレーキ手段45を設ける。該ブレーキ手段45は、多板のブレーキシューをメタル部21m壁面に押し当てて走行伝動軸44を制動する構成である。これによって、前後左右の四輪を一挙に制動作動する。
【0041】
前記のように、主クラッチ23と同軸に設けることにより、PTO軸24をミッションケース21の後方に配置し、ミッションケース21の後部壁から後方に突出する軸後端のプーリ12は、側部に接近する防除ポンプ10のプーリ31にベルト掛け伝動によって該ポンプ10を駆動する構成である。防除ポンプ10は、前記一対の走行フレーム2L,2Rの間に渡る大きさを呈して胴体部10aが左側走行フレーム2Lに立設するブラケット32,32によって固定される。
【0042】
PTOクラッチ機構48を、主クラッチ23を経由してエンジン動力を受ける変速入力軸22とPTO軸24の間に設けることにより、防除ポンプ10は、前記主クラッチ23が入りであっても、PTOレバー49操作で該PTOクラッチ機構48を入り切りに連動でき、オペレータの任意にポンプ駆動状態・非駆動状態を選択設定できる。
【0043】
PTOクラッチ機構48は、変速入力軸22と同軸に設けるPTO軸24の前端のボス状部分24aの前端内周に形成した内歯クラッチ24bと、変速入力軸22の後部に形成するスプライン部に支持されるクラッチ体48aを、シフター48bの前後動に伴って係脱させる構成とするが、元々このボス状部分24aには変速入力軸22の後端部を軸支するものであるから、ミッションケース21に特別な支持構成を必要とせず構成を簡単化してコストを低減できる。
【0044】
変速入力軸22及びこの変速入力軸22と平行に第1カウンタ軸25を設け、この第1カウンタ軸25と前記入力変速軸22との間に設ける変速ギヤ群の選択により、第1の変速装置、及び第2の変速装置を構成し、変速入力軸22の動力を第1の変速装置26で変速された変速段を経由した後、第2の変速装置27による前進高低速又はバック速の変速段を経て前輪3及び後輪4を駆動する構成であるから、第1,2の変速装置を構成するがその変速出力は変速出力軸22やPTO軸24の回転に影響しない。
【0045】
図6,8に示すように、前記主クラッチ23のケーシング23aを覆うクラッチハウジング34を設けている。このクラッチハウジング34は、平面視でU状に形成され、基部34a,34aが前記ミッションケース21の前壁に着脱自在に装着され前側に形成された壁部に軸受部34bを形成している。上面及び下面は主クラッチ23本体が現れるが上面には図外薄板部材で覆う構成としている。なお、上記軸受部34bには前記エンジンEのクランク軸に連動する出力軸20を支持する構成である。このように構成すると、出力軸20の支持構成がミッションケース21と一体的になり、主クラッチ23の組み付けの際にその精度の向上がはかれる。
【0046】
前記ミッションケース21の走行車体2への装着は、
図7等におけるように、前後に亘る左右一対の走行フレーム2L,2Rにベース部材2B,2Bを一体化して設け、このベース部材2B,2Bにミッションケース21を側方から締結する構成である。
【0047】
次に、
図9〜
図11を用いて、前輪伝動機構及び操舵機構について説明する。
ここで、
図9は、フロントアクスルハウジングの一部断面の概略平面図であり、
図10は、
図9のA−A断面を示す概略図である。
【0048】
走行車体2の前側下方には、左右一対の前輪3,3へ駆動力を伝達するための前車軸50等を収納したフロントアクスルハウジング51が配置されている。
上記フロントアクスルハウジング51の中央後部には、前記走行伝動軸44に前伝動軸44fを介して連動する前輪入力軸52を軸支する円筒状ボス部51Aが形成されており、該前輪入力軸52のベベルギヤ52aはアクスルハウジング51中央部に配設した前輪デフ機構53を連動する。前輪デフ機構53から左右に延出する前車軸50はアクスルハウジング51の左右端部に連結する操向軸ケース54の操向軸55にベベルギヤ56,57をもって連結されている。なお、ここでベベルギヤ56は前車軸50端部に設けられ、ベベルギヤ57はこのベベルギヤ56の従動ベベルギヤであって操向軸55の上部に軸支されている。
【0049】
図11に示す通り、操向軸ケース54は、アクスルハウジング51の終端側への外嵌合部とこのアクスルハウジング51のフランジを介して連結されて上方に突出する筒状上部54aと、下部に至るほど漸次径小となるよう形成された円錐状部54bと、軸受58を備えファイナルケース59を操向軸55回りに回動自在に支持する筒状下部54cからなり、上記操向軸55および前車軸50の端部から操向軸55へのベベルギヤ56,57を備えている。またファイナルケース59は、右前輪3を支持する前輪軸66が軸支され、操向軸55の下端のベベルギヤ60及びこれと噛合う従動ベベルギヤ61を備えている。なおファイナルケース59は操向軸ケース54の下部を外側嵌合する嵌合部59aとこの嵌合部59aの外側面に連結して上記従動ベベルギヤ61を囲う側面部59bからなる。
【0050】
操向軸ケース54の操向軸55は鉛直線に対して下端側が車体外方に向かうよう傾斜状態に設けられ、ファイナルケース59、内装するベベルギヤ等の伝動機構及び前輪3はこの傾斜する操向軸55回りに回動自在に設けられている。
【0051】
前記操向軸ケース54の筒状上部54aの頂部にボス部54dを形成し、このボス部54dに対してスリーブを介して回動自在に嵌合する回動部材62と前記ファイナルケース59とを操向軸ケース54に沿って吊持状に連結部材63で着脱自在に連結している。この連結部材63の上下方向途中部に環状部63aを形成し、前記操向軸ケース54の円錐状部54bに外嵌合させている。すなわち、円錐状部54bの外側にスリーブを介して鍔状の環状部63aを回動自在に嵌合する構成である。この環状部63aの上面に後述操舵シリンダー機構に連動してファイナルケース59を回動操舵するナックルアーム64を取り付けている。
【0052】
上記連結部材63の環状部63aについて、その上下位置は、操向軸55の上部に取り付ける従動ベベルギヤ57の軸支のために厚さの大なる個所の直下であって、操向軸ケース54のうち比較的強度の高い部分に嵌合させている。このため、ナックルアーム64を経て伝達される操舵シリンダー機構からの操舵力を集中して受けるが、連結部材63が環状部材63aを形成して操向軸ケース54に外嵌合するため、ナックルアーム64に伝わる操舵荷重は操向軸ケース54で分担して受けるため、連結部材63の変形やひずみを防止する。しかも環状部材63aの位置を、操向軸ケース54の操向軸55やベベルギヤ57を支持する軸受部のために肉厚に形成した部分の近傍に配置することにより、上記操舵荷重を受けるための補強構造を呈するため、操舵荷重を直接受けない円錐状部54bを可及的に薄く成形できる。
【0053】
また、環状部63aの前側側面63afは、走行車体2の進行方向Fを基準として、左前輪3L側に向けて所定角度βだけ傾斜した傾斜面形状を有している。また、その環状部63aの上面に固定されたナックルアーム64は、進行方向Fを基準として、環状部63aの前側側面63afと同様に、左前輪3L側に向けて所定角度γだけ傾斜して固定されている(
図12(A))。
【0054】
最低地上高さHを出来るだけ高くする必要がある農用作業車両にあっては、作物に傷をつけないよう、出来るだけ障害とならないような構造にする必要があるが、上記の傾斜構成により、作物が走行車体2の下部をスムーズに流れるので、作物に傷がつきにくい。
【0055】
一方、従来、ナックルアームは、ファイナルケースからオフセットさせて取り付けるが、操向軸ケースの上部に設けた回動自在な回動部材か、連結部材に取り付けるかのどちらかであるため、最低地上高さHが高いと、ファイナルケースを回動させるための各部の構造体に曲げ応力が強くかかり破損し易いという問題がある。
【0056】
これに対して、本実施の形態の上記構成によれば、操向軸ケース54の上部側は、ナックルアーム64を配置する高さであり、この高さの近くに環状部63aを設けることは、ファイナルケース59を回動させる為の連結部材63に対して不要な曲げ応力をかけない様にすることが出来る。また、操向軸ケース54を筒状上部54aから下方に向けてその径が小さくなる略円錐状としたことにより、環状部63aや下部筒部54cを少ない部品数で安価に構成できる。また、連結部材63と環状部63aとが一体構成としたことによりこの構造体を少ない部品数で安価に構成できる。
【0057】
次いで、左右前輪及び後輪を連動して操舵する操舵シリンダー機構の構成について説明する。
前記走行車体2の前下方において、フロントアクスルハウジング51の前方には、左右一対の前輪3L,3Rを操舵する操舵シリンダー機構70を配設する。この操舵シリンダー機構70のピストンロッド71をそれぞれタイロッド72L,72Rを介して前記ナックルアーム64L,64Rに連結している。操舵シリンダー機構70の一方に圧油を供給するとピストンロッド71が左側に伸び出しタイロッド72Lを介してナックルアーム64Lを左向きに回動し左側前輪3Lは左に旋回される(
図8中実線矢印)。このときピストンロッド71の移動に連れて右側のタイロッド72Rは引かれてナックルアーム64Rを引いて右側前輪3Rも左に旋回される(同点線矢印)。なお、タイロッド72L,72Rはそれぞれボールジョイント73L,73Rによりピストンロッド71の左右端部に連結される。ナックルアーム64L、64Rは、左右一対のボールジョイント74L、74Rにより、左右一対のタイロッド72L、72Rと回動自在に連結されている。
【0058】
上記ナックルアーム64の環状部63aへの取付構成を
図12(B)に示す。ナックルアーム64の基部に縦方向の取付部64aを一体成形、又は溶接等の手段によって付加し、ナックルアーム64の基部に縦方向のボルト67、横方向のボルト68で固定している。このように構成することによって、ボルトの緩みなく強固にナックルアーム64を連結部材63に取り付けることができる。
【0059】
図10において、操舵シリンダー機構70のシリンダー部70aはチャネル状に折曲げられた板金部材で、その凹部にシリンダー部70aの円筒状本体の外周面の約半分を収納して固定したシリンダーハウジング75が設けられている。
【0060】
また、上記シリンダーハウジング75のほぼ中央には、後方、即ちフロントアクスルハウジング51側に向かって伸びた円筒状嵌合部76が、図例では溶接構造によって一体的に設けられている。円筒状嵌合部76の内部は筒状内部空間に形成される。一方前記フロントアクスルハウジング51の中央には、前記前輪入力軸52を支持する円筒状ボス部51Aに対して前方に、上記シリンダーハウジング75に設けられた円筒状嵌合部76に外嵌合する円筒状嵌合ボス部51Bが一体成形されている。そして、上記円筒状嵌合部76が、円筒状嵌合ボス部51Bに挿入された後、その連結部分は、抜け防止及び回転防止用の締結部材である固定ピン77で貫通されて固定されている。
【0061】
上記のように、フロントアクスルハウジング51の中央部には、その前側に円筒状嵌合ボス部51Bを後方に円筒状ボス部51Aを設けて軸芯Xを中心として回動可能に支持する前後一対の支持メタル78A,78Bが夫々ボルトナットにより強固に取り付けられている。なお、これら支持メタル78A,78Bのそれぞれフロントアクスルハウジング51から離れた側の端面を径小部とし、この径小部によって形成された規制端面78a,78bを前記円筒状ボス部51A及び円筒状嵌合ボス部51Bの後端面及び前端面に対向させることによって、該フロントアクスルハウジング51の前後方向のずれを規制できる。
【0062】
また、操舵シリンダー機構70のピストンロッド71の移動量を制御するため、ピストンを挟んで左右に配置された空間である左室又は右室に対して作動油を給排する油圧ホース79L,79Rが、前側の支持メタル78Bの左右側を経由して操舵シリンダー機構70のシリンダー部70aに接続されている。
【0063】
次に、
図11,
図13を用いて、左右一対のナックルアーム64L,64Rと左右一対のタイロッド72L,72Rとの連結構造について更に説明する。
図13は、左前輪3L側に連結されるタイロッド72Lとボールジョイント74Lとの固定状態を説明するための概略背面図である。
【0064】
図11(A)に示す通り、操向軸55の中心軸線Bは、鉛直線Dに対して内側へ角度αだけ傾斜しており、これに対して、操舵シリンダー機構70やタイロッド72L,72Rは、ほぼ水平に配置されている為、本実施の形態では、タイロッド72L,72Rとナックルアーム64L,64Rとの連結に用いられるボールジョイント74L,74Rを、
図13に示す通り、角度αだけ傾斜させてタイロッド72L,72Rの先端部に固定する構成とした。この傾斜角度αは、
図11に示した操向軸55の中心軸線Bが鉛直線Dとなす角度と一致させている。この構成により、操舵シリンダー機構70の動きが、タイロッド72L,72R、ボールジョイント74L,74R、ナックルアーム72L,72R等を介してスムーズに左右前輪3L、3Rに伝達される。
【0065】
ところで、従来の構成では、タイロッドに真っ直ぐに固定されて水平に配置されたボールジョイントに対して、もともと傾斜した回動軸(
図11の操向軸55参照)に対して垂直に配置されているナックルアームを連結するためには、ナックルアーム自体の形状の一部をボールジョイントとの連結面に合わせて斜め形状とする必要があった。そのため、従来は、左右のナックルアームはそれぞれ形状が異なっていた。
【0066】
しかし、上記した構成によれば、ボールジョイント74L,74R自体を、
図13に示す通り、角度αだけ傾斜させているため、ナックルアーム64L,64Rは、左右が同じ形状にできるので、部品作成時の型点数、及び部品の種類を削減することができる。
【0067】
尚、
図11、
図13を用いて説明した上記構成では、左前輪3L側を中心に説明したが、右前輪3R側についても同様の構成であるので、その説明は省略する。
また、左右一対の前輪3L、3Rを中心に説明した上記構成は、基本的には左右一対の後輪4L、4Rについても、同様に適用される。
図16に示すように、後車軸92を内装するリヤアクスルハウジング88の左右に操向軸ケース86を取り付け、その内部に操向軸87を傾斜姿勢で軸支する。操向軸ケース86の下部にはファイナルケース93を操向軸87回りに回動自在に支持している。操向軸ケース86の頂部には操向軸87軸芯回りに回動可能な回動部材80を設け、この回動部材80と上記ファイナルケース93を連結部材89で連結する。連結部材89には前輪3の連結部材63のように、途中に操向軸ケース86を嵌合する環状部89aを、前輪3側の連結部材63や環状部63aと同様の構成をもって構成する。
【0068】
後車軸92からの駆動力はベベルギヤ機構による伝動と相俟って操向軸87、ファイナルケース93内の後輪軸94を経て後輪4に至る。そして後車軸92と操向軸87の間のベベルギヤ95,96組、操向軸87と後輪軸94の間のベベルギヤ97,98組を構成している。
【0069】
次いで、
図14、
図15に基づき、前輪3と後輪4の操舵による連動構成について説明する。
蓋状の前記回動部材62を延長して前後輪を操舵連動する後述前後タイロッドの連動アーム65を形成している。このとき、前輪3L,3Rにおいては、連動アーム65L,65Rはともに
図14に示すように走行車体2の内向きに延長して形成する。一方後輪4L,4Rの蓋状の回動部材80L,80Rの夫々に延長する連動アーム81L,81Rは走行車体2の外向きに延長して形成している。
【0070】
そして、上記左前輪3Lの連動アーム65Lと左後輪4Lの連動アーム81Lを前後タイロッド82Lで連結し、左前輪3Lの連動アーム65Lと左後輪4Lの連動アーム81Lを前後タイロッド82Lで連結する。このように構成したから、左右前輪3L,3Rが左向きに操向されると、前後タイロッド82L,82Rを介して左右後輪4L,4Rは右向きに操向され、四輪操舵の状態となった左小回り旋回できる(
図14中実線矢印)。逆に左右前輪3L,3Rが右向きに操向されると、これに連れて左右後輪4L,4Rは左向きに操向され右小回り旋回できる(同図中点線矢印)。
【0071】
前後タイロッド82L,82Rは、フロントアクスルハウジング51から後方外方に向けて延出し、薬液タンク9の前側下方を通過し、リヤアクスルハウジング86に至る構成である。このうち左側の前後タイロッド82Lは走行車体2左側の昇降ステップ85の支持部を経由して前後に延出させている。
【0072】
上記の連動アームに対する前後タイロッドの各連結は、ボールジョイントによって行なわれる。即ち、前輪3L,3Rの連動アーム65L,65Rには、該アーム65L,65Rの先端部上側にボールジョイント83L,83Rのアーム等の連結部側を突出させ、後輪4L,4Rの連動アーム81L,81Rは該アーム81L,81Rの先端部下側にボールジョイント84L,84Rのアーム等連結部側を突出させる。このため、前後タイロッド82L,82Rの各前端側は連動アーム65L,65Rの上面側で連結されるのに対し、各後端側は連動アーム81L,81Rの下面側に連結される。前記のように、操向軸ケース54の操向軸55の中心軸線Bは鉛直線Dに対して下端側が車体外方に向かうよう角度αだけ傾斜する状態に設けられ、同様に後輪4における操向軸ケース86も内装の操向軸87の中心軸線が傾斜状に構成するものであり、このため、前輪3L,3R側連動アーム65L,65Rは低位に、後輪4L,4L側連動アーム81L,81Rは高位になり、上記のようなボールジョイントの配置によって前後タイロッド82L,82Rは略水平姿勢となって(
図15)、最低地上高の高位置確保に有利であるとともに、薬液タンク9や昇降ステップ85など走行車体2を構成する構成部材との干渉回避の構成を容易化できる。もって当該干渉によるトラブルを未然に防ぐことができる。
【0073】
ところで、前輪3側の前記回動部材62と連動アーム65は一体成形されるものであるが、後輪4側の回動部材80と連動アーム81の一体成形品と同一形状として生産コストの低減を図っている。即ち、前輪側連結部材63を連結するためのボルト挿通孔63bは回動部材62の連動アーム65対称位置に必要であること(
図11(A))、一方後輪側連結部材89のボルト挿通孔89bを連動アーム81の基部に必要であるが(
図16)、前輪3側・後輪4側ともに回動部材と連動アームの一体成形品は同一形状に製作し、夫々の装着位置に応じてボルト挿通孔63b又は88bを穿設加工するものである。なお予めボルト挿通孔63b及び89bを共に加工しておくこともできる。この場合は部品個数管理の工数を低減できる。
【0074】
フロントアクスルハウジング51が走行車体2に対して進行方向軸心X回りに揺動するが、一方のリヤアクスルハウジング88は走行車体2と一体的に装着される。ところがボールジョイント83L,83R、84L,84Rによる接続によって、左右の誤差を吸収しうる。
【0075】
なお、リヤアクスルハウジング88の左右に連結する操向軸ケース86L,86Rの構成は前記フロントアクスルハウジング51に連結する操向軸ケース54L,54Rと同様の構成である。
【0076】
前輪3側の前記連動アーム65及び後輪4側の前記連動アーム81は、ステアリングハンドルが直進の状態にあるとき、平面視においてそれぞれフロントアクスルハウジング51及びリヤアクスルハウジング88の投影面内に略位置するよう形成している。車体の点検整備等に際し、車体をクレーンで吊り上げるが、フロントアクスルハウジング51又はリヤアクスルハウジング88にバンドやロープ類の吊上げ帯90を巻きかける。この場合上記のように構成したから、ステアリングハンドルが直進にセットして吊上げ帯90を巻きかけると、この吊上げ帯90で連動アーム65及び81を直進状態に保持する形態となって、クレーン吊上げと共に車輪3,4がフリーとなって自重で操向軸回りに回動しようとしてもこれを阻止して、前輪3及び後輪4は略直進状態を維持でき、不測の前・後輪3,4回転による偏荷重状態を来たさず安全に点検作業を行うことができる。なお、符号91はフロントアクスルハウジングの自重による揺動を規制する楔体で、通常は外しておくがメンテナンスを行なう場合にこの楔体91を隙間に打ち込んでフロントアクスルハウジング51の揺動を規制する。