特許第5928241号(P5928241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5928241-転がり軸受 図000002
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  • 特許5928241-転がり軸受 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928241
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20160519BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   F16C33/58
   F16C19/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-182079(P2012-182079)
(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公開番号】特開2014-40844(P2014-40844A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−031947(JP,A)
【文献】 特開2001−165281(JP,A)
【文献】 特開平11−062999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、この内輪の外周に環状空間を隔てて同一中心線上に配設された外輪と、前記内輪の外周面に形成された内輪軌道面と前記外輪の内周面に形成された外輪軌道面との間に転動可能に配設された多数の転動体とを備えた転がり軸受であって、
前記転動体は、保持器によって互いに等間隔に保持されており、
前記内輪軌道面と、前記外輪軌道面とのうち、少なくとも一方の軌道面には多数の動圧発生用溝が周方向に等間隔に配設され、
前記動圧発生用溝は、前記動圧発生用溝の数をAとし、前記転動体の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、
「A=〔{n+(n+1)}/2〕×Z」
の関係となるように設定されることで、一つの前記転動体における前記動圧発生用溝が設けられた前記軌道面に対する接触面と一つの前記動圧発生用溝との距離が最短距離となったときには、他の前記転動体における前記動圧発生用溝が設けられた前記軌道面に対する接触面と他の前記動圧発生用溝との距離が前記最短距離とはならないように配置されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受であって、
多数の動圧発生用溝は、軌道面のうちの多数の転動体に接触する接触領域の外側に隣接する非接触領域に配設されていることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
内輪と、外輪と、内輪の内輪軌道面と外輪の外輪軌道面との間に転動可能に配設された多数の転動体とを備えた転がり軸受において、軌道面に対し多数の動圧発生用溝を形成してトルク低減を図ることが考えられる。
また、特許文献1に開示されているように、軌道面の転動体に対する接触領域に、転動体の転がり方向に対して直交する方向の幅に相当する有限長さの多数の溝を配設することで、潤滑油が溝に保持されて流れ出難くして動圧を発生するように構成した転がり軸受が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−108963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、転がり軸受においては、内輪や外輪の軌道面が真円に近づくように精密加工される。しかしながら、軌道面には、僅かではあるがうねりが生じ、このうねりによって軸受回転時に振動が発生する。
転がり軸受の振動(振幅)は、うねりの数が転動体の数の整数倍の数であるか、その整数倍の数に近い数である場合に大きくなる。
すなわち、うねりの数をXとし、転動体の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、「X=nZ」又は「X=nZ±1」の関係にあるときに、転がり軸受の振動(振幅)が大きくなる。
【0005】
ここで、軌道面に多数の動圧発生用溝が周方向に等間隔に配設された場合、動圧発生用溝はうねりと同じような作用をする。
このため、動圧発生用溝の数をAとし、転動体の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、
「A=nZ」又は「A=nZ±1」
の関係に設定されると、転がり軸受の振動(振幅)が大きくなり、これによって、転がり軸受の低トルク化や耐久性に悪影響を及ぼすことが想定される。
【0006】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、軌道面の周方向に等間隔に配設される多数の動圧発生用溝が原因となる転がり軸受の振動(振幅)を小さく抑えることができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る転がり軸受は、内輪と、この内輪の外周に環状空間を隔てて同一中心線上に配設された外輪と、前記内輪の外周面に形成された内輪軌道面と前記外輪の内周面に形成された外輪軌道面との間に転動可能に配設された多数の転動体とを備えた転がり軸受であって、
前記転動体は、保持器によって互いに等間隔に保持されており、
前記内輪軌道面と、前記外輪軌道面とのうち、少なくとも一方の軌道面には多数の動圧発生用溝が周方向に等間隔に配設され、
前記動圧発生用溝は、前記動圧発生用溝の数をAとし、前記転動体の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、
「A=〔{n+(n+1)}/2〕×Z」
の関係となるように設定されることで、一つの前記転動体における前記動圧発生用溝が設けられた前記軌道面に対する接触面と一つの前記動圧発生用溝との距離が最短距離となったときには、他の前記転動体における前記動圧発生用溝が設けられた前記軌道面に対する接触面と他の前記動圧発生用溝との距離が前記最短距離とはならないように配置されていることを特徴とする。
ここで、動圧発生用溝の数Aは、小数点以下を四捨五入(又は切り上げ)して正の整数(自然数)とする。
また、多数とは、2つを含まず、3つ以上の数をいう。
【0008】
前記構成によると、軌道面に多数の動圧発生用溝が周方向に等間隔に配設された場合、動圧発生用溝はうねりと同じような作用をすることが想定される。
そこで、動圧発生用溝の数をAとし、転動体の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、「A=〔{n+(n+1)}/2〕×Z」の関係となるように設定されている。
このため、多数の転動体のうち、一つの転動体が一つの動圧発生用溝に対応する位置に配置されたときには、他の転動体が他の動圧発生用溝から外れた位置に配置される。このため、全ての転動体が全ての動圧発生用溝に配置され、その後、全ての転動体が全ての動圧発生用溝から外れた位置にされる場合と比べ、転がり軸受の振動(振幅)を小さく抑えることができる。
【0009】
請求項2に係る転がり軸受は、請求項1に記載の転がり軸受であって、
多数の動圧発生用溝は、軌道面のうちの多数の転動体に接触する接触領域の外側に隣接する非接触領域に配設されていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によると、軌道面の非接触領域に多数の動圧発生用溝が形成されることで、動圧発生用溝が原因となる振動発生を抑制しながら、動圧発生用溝の本来の機能を達成することができ、転がり軸受の低トルク化や耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施例1に係る転がり軸受の軸方向断面図である。
図2】同じく内輪軌道面を示す内輪の側面図である。
図3】同じく内輪軌道面に形成された多数の動圧発生用溝を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0013】
この発明の実施例1を図面にしたがって説明する。
この実施例では転がり軸受が深溝玉軸受である場合を例示する。
図1に示すように、転がり軸受としての深溝玉軸受は、内輪10と、外輪20と、転動体としての多数(3つ以上)の玉31と、保持器35とを備えている。
内輪10は、円筒状に形成され、その外周面11の軸方向中央部には、円弧状の環状溝をなす内輪軌道面12が形成されている。
【0014】
図1に示すように、外輪20は、内輪10の外径寸法よりも大きい内径寸法を有する円筒状に形成され、内輪10の外周に環状空間を隔てて同一中心線上に配設される。この外輪20の内周面の軸方向中央部には、円弧状の環状溝をなす外輪軌道面22が形成されている。
多数の玉31は、保持器35によって保持された状態で内輪軌道面12と外輪軌道面22との間に転動可能に配設されている。
【0015】
図2図3に示すように、内輪軌道面12及び外輪軌道面22は、玉31に接触する接触領域13、23と、その接触領域13、23の両端部外側に隣接して形成されかつ玉31に接触しない非接触領域14、24とを有する。なお、図2図3に示す二点鎖線の楕円は、玉31との接触楕円40を示し、接触領域13、23の軸方向の幅寸法は、接触楕円40の長径寸法に相当する。
【0016】
内輪軌道面12と、外輪軌道面22とのうち、少なくとも一方の軌道面には多数(3つ以上)の動圧発生用溝15が周方向に等間隔に配設されている。
また、この実施例1において、多数の動圧発生用溝15は、内輪軌道面12のそれぞれの非接触領域14にヘリンボーン形状をなして配設されている。
すなわち、多数の動圧発生用溝15は、その外端が非接触領域14の外側に開口し、内端が接触領域13との境界部まで延びている。
さらに、多数の動圧発生用溝15の内端は、内輪10の回転方向の前側に位置し、外端が内輪10の回転方向の後側に位置して傾斜溝に形成され、内輪10が回転することで、多数の動圧発生用溝15の内端に潤滑油の動圧が発生する。
【0017】
また、動圧発生用溝15の数(周方向の数)をAとし、玉31の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、
「A=〔{n+(n+1)}/2〕×Z」
の関係となるように設定されている。
ここで、動圧発生用溝15の数Aは、小数点以下を四捨五入(又は切り上げ)して正の整数(自然数)とする。
【0018】
この実施例1に係る転がり軸受としての深溝玉軸受は上述したように構成される。
したがって、内輪軌道面12に多数の動圧発生用溝15が周方向に等間隔に配設されることで、軸受回転時において、内輪10が回転することで、多数の動圧発生用溝15の内端に潤滑油の動圧が発生する。これによって、深溝玉軸受の低トルク化を良好に図ることができる。
【0019】
また、内輪軌道面12の周方向に等間隔に配設される多数の動圧発生用溝15は、うねりと同じような作用をすることが想定される。
そこで、動圧発生用溝15の数(周方向の数)をAとし、玉31の数をZとし、自然数(1、2、3・・・)をnとしたときに、
「A=〔{n+(n+1)}/2〕×Z」
の関係となるように設定される。
このため、多数の玉31のうち、一つの玉31が一つの動圧発生用溝15の内端に対応する位置に配置されたときには、他の玉31が他の動圧発生用溝15の内端から外れた位置に配置される。
すなわち、全ての玉31が、全ての動圧発生用溝15の内端に対応する位置に配置されることがないと共に、その後、全ての玉31が全ての動圧発生用溝15の内端から外れた位置にされることがない。
これによって、全ての玉31が、全ての動圧発生用溝15の内端に対応する位置に配置され、その後、全ての玉31が全ての動圧発生用溝15の内端から外れた位置にされる場合と比べ、深溝玉軸受の振動(振幅)を小さく抑えることができる。
【0020】
また、この実施例1においては、内輪軌道面12の非接触領域14に多数の動圧発生用溝15が形成されることで、接触領域13に多数の動圧発生用溝15が形成される場合と比べ、多数の動圧発生用溝15が原因となる振動発生を抑制しながら、多数の動圧発生用溝15本来の機能を達成することができる。これによって、深溝玉軸受の低トルク化や耐久性の向上を図ることができる。
【0021】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、内輪軌道面12に、多数の動圧発生用溝15が形成される場合を例示したが、内輪軌道面12及び/又は外輪軌道面22に、多数の動圧発生用溝が形成されてもこの発明を実施することができる。
また、多数の動圧発生用溝は、内輪軌道面12及び/又は外輪軌道面22の多数の玉31に接触する接触領域13、23まで延びて配設されてもこの発明を実施することができる。
また、前記実施例1においては、転がり軸受が深溝玉軸受である場合を例示したが、アンギュラ玉軸受であってもよく、ころ軸受けであってもよい。
但し、転がり軸受がころ軸受である場合には、ころがクラウニング形状に形成される。
【符号の説明】
【0022】
10 内輪
12 内輪軌道面(軌道面)
13 接触領域
14 非接触領域
15 動圧発生用溝
20 外輪
22 外輪軌道面(軌道面)
23 接触領域
24 非接触領域
31 玉(転動体)
図1
図2
図3