(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(III)におけるRが、置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基又は置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリール基である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位が、アジピン酸単位、セバシン酸単位、及び1,12−ドデカンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを合計で50モル%以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
前記芳香族ジカルボン酸単位が、イソフタル酸単位、テレフタル酸単位、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを合計で50モル%以上含む、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
前記ω−アミノカルボン酸単位が、6−アミノヘキサン酸単位及び/又は12−アミノドデカン酸単位を合計で50モル%以上含む、請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
前記金属化合物(C)が鉄、マンガン、銅及び亜鉛から選択された一種以上の金属原子を含むカルボン酸塩、炭酸塩、アセチルアセトネート錯体、酸化物及びハロゲン化物から選ばれる一種以上である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
前記ポリアミド樹脂(B)が、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分と重縮合して得られるポリアミド樹脂である、請求項10に記載のポリアミド樹脂組成物。
請求項10又は11に記載のポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、前記ポリアミド樹脂(B)と前記金属化合物(C)とを溶融混合してマスターバッチを得る工程、及び該マスターバッチを前記ポリアミド樹脂(A)と溶融混練する工程を含む、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
前記ポリアミド樹脂(B)に対する前記金属化合物(C)の質量比[(C)/(B)]が、金属原子濃度として10〜5000ppmである、請求項12に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
前記マスターバッチと前記ポリアミド樹脂(A)との混合比が、ポリアミド樹脂(A):マスターバッチの質量比として99:1〜70:30である、請求項12又は13に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、後述する特定のポリアミド樹脂(A)(以後「酸素吸収性ポリアミド樹脂」と呼ぶこともある)、及び後述する特定の金属原子を含有する金属化合物(C)を含む。更に、ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド樹脂(B)を含むことが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。また、ポリアミド樹脂(B)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%である。
また、金属化合物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは10〜5000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0011】
1.ポリアミド樹脂(A)
本発明において、ポリアミド樹脂(A)は、下記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位、下記一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位、及び下記一般式(I−3)で表される直鎖脂肪族ジアミン単位からなる群から選ばれる少なくとも1つのジアミン単位を合計で50モル%以上含むジアミン単位25〜50モル%と、下記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位及び/又は下記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を合計で50モル%以上含むジカルボン酸単位25〜50モル%と、3級水素含有カルボン酸単位(好ましくは下記一般式(III)で表される構成単位)0.1〜50モル%とを含有する。
【化2】
[前記一般式(I−3)中、mは2〜18の整数を表す。前記一般式(II−1)中、nは2〜18の整数を表す。前記一般式(II−2)中、Arはアリーレン基を表す。前記一般式(III)中、Rは置換もしくは無置換のアルキル基又は置換もしくは無置換のアリール基を表す。]
ただし、前記ジアミン単位、前記ジカルボン酸単位、前記3級水素含有カルボン酸単位の合計は100モル%を超えないものとする。ポリアミド樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記以外の構成単位を更に含んでいてもよい。
【0012】
ポリアミド樹脂(A)において、3級水素含有カルボン酸単位の含有量は0.1〜50モル%である。3級水素含有カルボン酸単位の含有量が0.1モル%未満では十分な酸素吸収性能を発現しない。一方、3級水素含有カルボン酸単位の含有量が50モル%を超えると、3級水素含有量が多すぎるため、ポリアミド樹脂(A)のガスバリア性や機械物性等の物性が低下し、特に3級水素含有カルボン酸がアミノ酸である場合は、ペプチド結合が連続するため耐熱性が十分でなくなるだけでなく、アミノ酸の2量体からなる環状物ができ、重合を阻害する。3級水素含有カルボン酸単位の含有量は、酸素吸収性能やポリアミド樹脂(A)の性状の観点から、好ましくは0.2モル%以上、より好ましくは1モル%以上であり、また、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは30モル%以下である。
【0013】
ポリアミド樹脂(A)において、ジアミン単位の含有量は25〜50モル%であり、酸素吸収性能やポリマー性状の観点から、好ましくは30〜50モル%である。同様に、ポリアミド樹脂(A)において、ジカルボン酸単位の含有量は25〜50モル%であり、好ましくは30〜50モル%である。
ジアミン単位とジカルボン酸単位との含有量の割合は、重合反応の観点から、ほぼ同量であることが好ましく、ジカルボン酸単位の含有量がジアミン単位の含有量の±2モル%であることがより好ましい。ジカルボン酸単位の含有量がジアミン単位の含有量の±2モル%の範囲を超えると、ポリアミド樹脂(A)の重合度が上がりにくくなるため重合度を上げるのに多くの時間を要し、熱劣化が生じやすくなる。
【0014】
1−1.ジアミン単位
ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位は、前記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位、前記一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位、及び前記一般式(I−3)で表される直鎖脂肪族ジアミン単位からなる群から選ばれる少なくとも1つのジアミン単位を、ジアミン単位中に合計で50モル%以上含み、当該含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0015】
前記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位を構成しうる化合物としては、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、及びパラキシリレンジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
前記式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位を構成しうる化合物としては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のビス(アミノメチル)シクロヘキサン類が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類は、構造異性体を持つが、cis体比率を高くすることで、結晶性が高く、良好な成形性を得られる。一方、cis体比率を低くすれば、結晶性が低い、透明なものが得られる。したがって、結晶性を高くしたい場合は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類におけるcis体含有比率を70モル%以上とすることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上とする。一方、結晶性を低くしたい場合は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類におけるcis体含有比率を50モル%以下とすることが好ましく、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下とする。
【0017】
前記一般式(I−3)中、mは2〜18の整数を表し、好ましくは3〜16、より好ましくは4〜14、更に好ましくは6〜12である。
前記一般式(I−3)で表される直鎖脂肪族ジアミン単位を構成しうる化合物としては、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンを例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンが好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位としては、ポリアミド樹脂(A)に優れたガスバリア性を付与することに加え、透明性や色調の向上や、汎用的な熱可塑性樹脂の成形性を容易にする観点からは、前記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位及び/又は前記一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位を含むことが好ましく、ポリアミド樹脂(A)に適度な結晶性を付与する観点からは、前記一般式(I−3)で表される直鎖脂肪族ジアミン単位を含むことが好ましい。特に、酸素吸収性能やポリアミド樹脂(A)の性状の観点からは、前記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位を含むことが好ましい。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位は、ポリアミド樹脂(A)に優れたガスバリア性を発現させることに加え、汎用的な熱可塑性樹脂の成形性を容易にする観点から、メタキシリレンジアミン単位を50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0020】
前記一般式(I−1)〜(I−3)のいずれかで表されるジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる化合物としては、パラフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン等の脂環族ジアミン、N−メチルエチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等の脂肪族ジアミン、ハンツマン社製のジェファーミンやエラスタミン(いずれも商品名)に代表されるエーテル結合を有するポリエーテル系ジアミン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
1−2.ジカルボン酸単位
ポリアミド樹脂(A)中のジカルボン酸単位は、重合時の反応性、並びにポリアミド樹脂(A)の結晶性及び成形性の観点から、前記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位及び/又は前記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を、ジカルボン酸単位に合計で50モル%以上含み、当該含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0022】
前記一般式(II−1)又は(II−2)で表されるジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、1,3−ベンゼン二酢酸、1,4−ベンゼン二酢酸等のジカルボン酸を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
ポリアミド樹脂(A)中のジカルボン酸単位において、前記直鎖脂肪族ジカルボン酸単位と前記芳香族ジカルボン酸単位との含有比(直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位)は、特に制限はなく、用途に応じて適宜決定される。例えば、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度を上げて、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を低下させることを目的とした場合、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位は、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは0/100〜60/40、より好ましくは0/100〜40/60、更に好ましくは0/100〜30/70である。また、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度を下げてポリアミド樹脂(A)に柔軟性を付与することを目的とした場合、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位は、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは40/60〜100/0、より好ましくは60/40〜100/0、更に好ましくは70/30〜100/0である。
【0024】
1−2−1.直鎖脂肪族ジカルボン酸単位
ポリアミド樹脂(A)は、本発明のポリアミド樹脂組成物に適度なガラス転移温度や結晶性を付与することに加え、包装材料や包装容器として必要な柔軟性を付与する目的の場合、前記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を含むことが好ましい。
前記一般式(II−1)中、nは2〜18の整数を表し、好ましくは3〜16、より好ましくは4〜12、更に好ましくは4〜8である。
前記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
前記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位の種類は用途に応じて適宜決定される。ポリアミド樹脂(A)中の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、本発明のポリアミド樹脂組成物に優れたガスバリア性を付与することに加え、包装材料や包装容器の加熱殺菌後の耐熱性を保持する観点から、アジピン酸単位、セバシン酸単位、及び1,12−ドデカンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0026】
ポリアミド樹脂(A)中の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、本発明のポリアミド樹脂組成物のガスバリア性及び適切なガラス転移温度や融点等の熱的性質の観点からは、アジピン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましい。また、ポリアミド樹脂(A)中の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、本発明のポリアミド樹脂組成物に適度なガスバリア性及び成形加工適性を付与する観点からは、セバシン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましく、本発明のポリアミド樹脂組成物が低吸水性、耐候性、耐熱性を要求される用途に用いられる場合は、1,12−ドデカンジカルボン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましい。
【0027】
1−2−2.芳香族ジカルボン酸単位
ポリアミド樹脂(A)は、本発明のポリアミド樹脂組成物に更なるガスバリア性を付与することに加え、包装材料や包装容器の成形加工性を容易にする目的の場合、前記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を含むことが好ましい。
前記一般式(II−2)中、Arはアリーレン基を表す。前記アリーレン基は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
前記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位の種類は用途に応じて適宜決定される。ポリアミド樹脂(A)中の芳香族ジカルボン酸単位は、イソフタル酸単位、テレフタル酸単位、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを、芳香族ジカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。また、これらの中でもイソフタル酸及び/又はテレフタル酸を芳香族ジカルボン酸単位中に含むことが好ましい。イソフタル酸単位とテレフタル酸単位との含有比(イソフタル酸単位/テレフタル酸単位)は、特に制限はなく、用途に応じて適宜決定される。例えば、適度なガラス転移温度や結晶性を下げる観点からは、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは0/100〜100/0、より好ましくは0/100〜60/40、更に好ましくは0/100〜40/60、更に好ましくは0/100〜30/70である。
【0029】
1−3.3級水素含有カルボン酸単位
本発明において、ポリアミド樹脂(A)における3級水素含有カルボン酸単位は、ポリアミド樹脂(A)の重合の観点から、アミノ基及びカルボキシル基を少なくとも1つずつ有するか、又はカルボキシル基を2つ以上有する。具体例としては、下記一般式(III)、(IV)又は(V)のいずれかで表される構成単位が挙げられる。
【化3】
[前記一般式(III)〜(V)中、R、R
1及びR
2はそれぞれ置換基を表し、A
1〜A
3はそれぞれ単結合又は2価の連結基を表す。ただし、前記一般式(IV)においてA
1及びA
2がともに単結合である場合を除く。]
【0030】
ポリアミド樹脂(A)は、3級水素含有カルボン酸単位を含む。このような3級水素含有カルボン酸単位を共重合成分として含有することで、ポリアミド樹脂(A)は、遷移金属を含有せずとも優れた酸素吸収性能を発揮することができる。
【0031】
本発明において、3級水素含有カルボン酸単位を有するポリアミド樹脂(A)が良好な酸素吸収性能を示す機構についてはまだ明らかにされていないが以下のように推定される。3級水素含有カルボン酸単位を構成しうる化合物は、同一炭素原子上に電子求引性基と電子供与性基とが結合しているため、その炭素原子上に存在する不対電子がエネルギー的に安定化されるキャプトデーティブ(Captodative)効果と呼ばれる現象によって非常に安定なラジカルが生成すると考えられる。すなわち、カルボキシル基は電子求引性基であり、それに隣接する3級水素が結合している炭素が電子不足(δ
+)になるため、当該3級水素も電子不足(δ
+)となり、プロトンとして解離してラジカルを形成する。ここに酸素及び水が存在したときに、酸素がこのラジカルと反応することで、酸素吸収性能を示すと考えられる。また、高湿度かつ高温の環境であるほど、反応性は高いことが判明している。
【0032】
前記一般式(III)〜(V)中、R、R
1及びR
2はそれぞれ置換基を表す。本発明におけるR、R
1及びR
2で表される置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(1〜15個、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖、分岐又は環状アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基)、アルケニル基(2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖、分岐又は環状アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(6〜16個、好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、複素環基(5員環又は6員環の芳香族又は非芳香族の複素環化合物から1個の水素原子を取り除くことによって得られる、1〜12個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する一価の基、例えば1−ピラゾリル基、1−イミダゾリル基、2−フリル基)、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アルコキシ基(1〜10個、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖、分岐又は環状アルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基)、アリールオキシ基(6〜12個、好ましくは6〜8個の炭素原子を有するアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基)、アシル基(ホルミル基、2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するアルキルカルボニル基、或いは7〜12個、好ましくは7〜9個の炭素原子を有するアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基)、アミノ基(アミノ基、1〜10個、好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、6〜12個、好ましくは6〜8個の炭素原子を有するアニリノ基、或いは1〜12個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する複素環アミノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、アニリノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(1〜10個、好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキルチオ基、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基)、アリールチオ基(6〜12個、好ましくは6〜8個の炭素原子を有するアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基)、複素環チオ基(2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する複素環チオ基、例えば2−ベンゾチアゾリルチオ基)、イミド基(2〜10個、好ましくは4〜8個の炭素原子を有するイミド基、例えば、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)等が挙げられる。
【0033】
これらの官能基の中で水素原子を有するものは更に上記の基で置換されていてもよく、例えば、水酸基で置換されたアルキル基(例えば、ヒドロキシエチル基)、アルコキシ基で置換されたアルキル基(例えば、メトキシエチル基)、アリール基で置換されたアルキル基(例えば、ベンジル基)、アルキル基で置換されたアリール基(例えば、p−トリル基)、アルキル基で置換されたアリールオキシ基(例えば、2−メチルフェノキシ基)等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、官能基が更に置換されている場合、上述した炭素数には、更なる置換基の炭素数は含まれないものとする。例えば、ベンジル基は、フェニル基で置換された炭素数1のアルキル基と見なし、フェニル基で置換された炭素数7のアルキル基とは見なさない。以降の炭素数に記載についても、特に断りが無い限り、同様に解するものとする。
【0034】
前記一般式(IV)及び(V)中、A
1〜A
3はそれぞれ単結合又は2価の連結基を表す。ただし、前記一般式(IV)においてA
1及びA
2がともに単結合である場合を除く。2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、例えばメチレン基、エチレン基)、アラルキレン基(炭素数7〜30、好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基、例えばベンジリデン基)、アリーレン基(炭素数6〜30、好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基、例えば、フェニレン基)等が挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよく、当該置換基としては、R、R
1及びR
2で表される置換基として上記に例示した官能基が挙げられる。例えば、アルキル基で置換されたアリーレン基(例えば、キシリレン基)等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
ポリアミド樹脂(A)は、前記一般式(III)、(IV)又は(V)のいずれかで表される構成単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの中でも、原料の入手性や酸素吸収性向上の観点から、α炭素(カルボキシル基に隣接する炭素原子)に3級水素を有するカルボン酸単位がより好ましく、前記一般式(III)で表される構成単位が特に好ましい。
【0036】
前記一般式(III)中におけるRについては上述した通りであるが、その中でも置換もしくは無置換のアルキル基及び置換もしくは無置換のアリール基がより好ましく、置換もしくは無置換の炭素数1〜6のアルキル基及び置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリール基が更に好ましく、置換もしくは無置換の炭素数1〜4のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基が特に好ましい。
好ましいRの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、メルカプトメチル基、メチルスルファニルエチル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、メチル基、エチル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、及びベンジル基がより好ましい。
【0037】
前記一般式(III)で表される構成単位を構成しうる化合物としては、アラニン、2−アミノ酪酸、バリン、ノルバリン、ロイシン、ノルロイシン、tert−ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、2−フェニルグリシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン等のα−アミノ酸を例示できるが、これらに限定されるものではない。
また、前記一般式(IV)で表される構成単位を構成しうる化合物としては、3−アミノ酪酸等のβ−アミノ酸を例示でき、前記一般式(V)で表される構成単位を構成しうる化合物としては、メチルマロン酸、メチルコハク酸、リンゴ酸、酒石酸等のジカルボン酸を例示できるが、これらに限定されるものではない。
これらはD体、L体、ラセミ体のいずれであってもよく、アロ体であってもよい。また、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
これらの中でも、原料の入手性や酸素吸収性向上等の観点から、α炭素に3級水素を有するα−アミノ酸が特に好ましい。また、α−アミノ酸の中でも、供給しやすさ、安価な価格、重合しやすさ、ポリマーの黄色度(YI)の低さといった点から、アラニンが最も好ましい。アラニンは、分子量が比較的低く、ポリアミド樹脂(A)1g当たりの共重合率が高いため、ポリアミド樹脂(A)1g当たりの酸素吸収性能は良好である。
【0039】
また、前記3級水素含有カルボン酸単位を構成しうる化合物の純度は、重合速度の遅延等の重合に及ぼす影響やポリマーの黄色度等の品質面への影響の観点から、95%以上であることが好ましく、より好ましくは98.5%以上、更に好ましくは99%以上である。また、不純物として含まれる硫酸イオンやアンモニウムイオンは、500ppm以下が好ましく、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは50ppm以下である。
【0040】
1−4.ω−アミノカルボン酸単位
ポリアミド樹脂(A)は、本発明のポリアミド樹脂組成物に柔軟性等が必要な場合には、前記ジアミン単位、前記ジカルボン酸単位及び前記3級水素含有カルボン酸単位に加えて、下記一般式(X)で表されるω−アミノカルボン酸単位を更に含有してもよい。
【化4】
[前記一般式(X)中、pは2〜18の整数を表す。]
前記ω−アミノカルボン酸単位の含有量は、ポリアミド樹脂(A)の全構成単位中、好ましくは0.1〜49.9モル%、より好ましくは3〜40モル%、更に好ましくは5〜35モル%である。ただし、前記のジアミン単位、ジカルボン酸単位、3級水素含有カルボン酸単位、及びω−アミノカルボン酸単位の合計は100モル%を超えないものとする。
前記一般式(X)中、pは2〜18の整数を表し、好ましくは3〜16、より好ましくは4〜14、更に好ましくは5〜12である。
【0041】
前記一般式(X)で表されるω−アミノカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、炭素数5〜19のω−アミノカルボン酸や炭素数5〜19のラクタムが挙げられる。炭素数5〜19のω−アミノカルボン酸としては、6−アミノヘキサン酸及び12−アミノドデカン酸等が挙げられ、炭素数5〜19のラクタムとしては、ε−カプロラクタム及びラウロラクタムを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記ω−アミノカルボン酸単位は、6−アミノヘキサン酸単位及び/又は12−アミノドデカン酸単位を、ω−アミノカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、より好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0043】
1−5.ポリアミド樹脂(A)の重合度
ポリアミド樹脂(A)の重合度については、相対粘度が使われる。ポリアミド樹脂(A)の好ましい相対粘度は、成形品の強度や外観、成形加工性の観点から、好ましくは1.8〜4.2、より好ましくは1.9〜4.0、更に好ましくは2.0〜3.8である。
なお、ここでいう相対粘度は、ポリアミド樹脂(A)1gを96%硫酸100mLに溶解し、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96%硫酸そのものの落下時間(t
0)の比であり、次式で示される。
相対粘度=t/t
0
【0044】
1−6.末端アミノ基濃度
本発明のポリアミド樹脂組成物の酸素吸収速度、及び酸素吸収によるポリアミド樹脂組成物の酸化劣化は、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基濃度を変えることで制御することが可能である。本発明では、酸素吸収速度と酸化劣化のバランスの観点から、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基濃度は5〜150μeq/gの範囲が好ましく、より好ましくは10〜100μeq/g、更に好ましくは15〜80μeq/gである。
従来技術であるポリメタキシリレンアジパミドに遷移金属化合物を添加した酸素吸収性樹脂組成物では、末端アミノ基濃度が高くなると酸素吸収性能が低下する傾向であったため、例えばポリアミドの黄色度等、他の所望する性能に末端アミノ基濃度が影響する場合、その性能と酸素吸収性能とを両立できないことがあった。しかし、本発明のポリアミド樹脂組成物においては上述の末端アミノ基濃度の範囲であれば、遷移金属化合物によるポリアミドの酸素吸収性能には大きな差は生じないため、他の所望する性能に応じてポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基濃度を調節できる点で優れている。
【0045】
1−7.ポリアミド樹脂(A)の製造方法
ポリアミド樹脂(A)は、前記ジアミン単位を構成しうるジアミン成分と、前記ジカルボン酸単位を構成しうるジカルボン酸成分と、前記3級水素含有カルボン酸単位を構成しうる3級水素含有カルボン酸成分と、必要により前記ω−アミノカルボン酸単位を構成しうるω−アミノカルボン酸成分とを重縮合させることで製造することができ、重縮合条件等を調整することで重合度を制御することができる。重縮合時に分子量調整剤として少量のモノアミンやモノカルボン酸を加えてもよい。また、重縮合反応を抑制して所望の重合度とするために、ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミン成分とカルボン酸成分との比率(モル比)を1からずらして調整してもよい。
【0046】
ポリアミド樹脂(A)の重縮合方法としては、反応押出法、加圧塩法、常圧滴下法、加圧滴下法等が挙げられるが、これらに限定されない。また、反応温度はできる限り低い方が、ポリアミド樹脂(A)の黄色化やゲル化を抑制でき、安定した性状のポリアミド樹脂(A)が得られる。
【0047】
1−7−1.反応押出法
反応押出法では、ジアミン成分及びジカルボン酸成分からなるポリアミド(ポリアミド樹脂(A)の前駆体に相当するポリアミド)又はジアミン成分、ジカルボン酸成分及びω−アミノカルボン酸成分からなるポリアミド(ポリアミド樹脂(A)の前駆体に相当するポリアミド)と、3級水素含有カルボン酸成分とを押出機で溶融混練して反応させる方法である。3級水素含有カルボン酸成分をアミド交換反応により、ポリアミドの骨格中に組み込む方法であり、十分に反応させるためには、反応押出に適したスクリューを用い、L/Dの大きい2軸押出機を用いるのが好ましい。少量の3級水素含有カルボン酸単位を含むポリアミド樹脂(A)を製造する場合に、簡便な方法であり好適である。
【0048】
1−7−2.加圧塩法
加圧塩法では、ナイロン塩を原料として加圧下にて溶融重縮合を行う方法である。具体的には、ジアミン成分と、ジカルボン酸成分と、3級水素含有カルボン酸成分と、必要に応じてω−アミノカルボン酸成分とからなるナイロン塩水溶液を調製した後、該水溶液を濃縮し、次いで加圧下にて昇温し、縮合水を除去しながら重縮合させる。缶内を徐々に常圧に戻しながら、ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃程度まで昇温し、保持した後、更に、−0.02MPaGまで徐々に減圧しつつ、そのままの温度で保持し、重縮合を継続する。一定の撹拌トルクに達したら、缶内を窒素で0.3MPaG程度に加圧してポリアミド樹脂(A)を回収する。
加圧塩法は、揮発性成分をモノマーとして使用する場合に有用であり、3級水素含有カルボン酸成分の共重合率が高い場合には好ましい重縮合方法である。特に、3級水素含有カルボン酸単位をポリアミド樹脂(A)の全構成単位中に15モル%以上含むポリアミド樹脂(A)を製造する場合に、好適である。加圧塩法を用いることで、3級水素含有カルボン酸成分の蒸散を防ぎ、更には、3級水素含有カルボン酸成分同士の重縮合を抑制でき、重縮合反応をスムーズに進めることが可能であるため、性状に優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。
【0049】
1−7−3.常圧滴下法
常圧滴下法では、常圧下にて、ジカルボン酸成分と、3級水素含有カルボン酸成分と、必要に応じてω−アミノカルボン酸成分とを加熱溶融した混合物に、ジアミン成分を連続的に滴下し、縮合水を除去しながら重縮合させる。なお、生成するポリアミド樹脂(A)の融点よりも反応温度が下回らないように、反応系を昇温しながら重縮合反応を行う。
常圧滴下法は、前記加圧塩法と比較すると、塩を溶解するための水を使用しないため、バッチ当たりの収量が大きく、また、原料成分の気化・凝縮を必要としないため、反応速度の低下が少なく、工程時間を短縮できる。
【0050】
1−7−4.加圧滴下法
加圧滴下法では、まず、重縮合缶にジカルボン酸成分と、3級水素含有カルボン酸成分と、必要に応じてω−アミノカルボン酸成分とを仕込み、各成分を撹拌して溶融混合し混合物を調製する。次いで、缶内を好ましくは0.3〜0.4MPaG程度に加圧しながら混合物にジアミン成分を連続的に滴下し、縮合水を除去しながら重縮合させる。この際、生成するポリアミド樹脂(A)の融点よりも反応温度が下回らないように、反応系を昇温しながら重縮合反応を行う。設定モル比に達したらジアミン成分の滴下を終了し、缶内を徐々に常圧に戻しながら、ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃程度まで昇温し、保持した後、更に、−0.02MPaGまで徐々に減圧しつつ、そのままの温度で保持し、重縮合を継続する。一定の撹拌トルクに達したら、缶内を窒素で0.3MPaG程度に加圧してポリアミド樹脂(A)を回収する。
加圧滴下法は、加圧塩法と同様に、揮発性成分をモノマーとして使用する場合に有用であり、3級水素含有カルボン酸成分の共重合率が高い場合には好ましい重縮合方法である。特に、3級水素含有カルボン酸単位をポリアミド樹脂(A)の全構成単位中に15モル%以上含むポリアミド樹脂(A)を製造する場合に、好適である。加圧滴下法を用いることで3級水素含有カルボン酸成分の蒸散を防ぎ、更には、3級水素含有カルボン酸成分同士の重縮合を抑制でき、重縮合反応をスムーズに進めることが可能であるため、性状に優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。更に、加圧滴下法は、加圧塩法に比べて、塩を溶解するための水を使用しないため、バッチ当たりの収量が大きく、常圧滴下法と同様に反応時間を短くできることから、ゲル化等を抑制し、黄色度が低いポリアミド樹脂(A)を得ることができる。
【0051】
1−7−5.重合度を高める工程
上記重縮合方法で製造されたポリアミド樹脂(A)は、そのまま使用することもできるが、更に重合度を高めるための工程を経てもよい。更に重合度を高める工程としては、押出機内での反応押出や固相重合等が挙げられる。固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置及びナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミド樹脂(A)の固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回転ドラム式の加熱装置が、系内を密閉化でき、着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0052】
1−7−6.リン原子含有化合物、アルカリ金属化合物
ポリアミド樹脂(A)の重縮合においては、アミド化反応を促進する観点から、リン原子含有化合物を添加することが好ましい。
リン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のホスフィン酸化合物;次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル等のジ亜リン酸化合物;ホスホン酸、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸リチウム、ホスホン酸マグネシウム、ホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム等のホスホン酸化合物;亜ホスホン酸、亜ホスホン酸ナトリウム、亜ホスホン酸リチウム、亜ホスホン酸カリウム、亜ホスホン酸マグネシウム、亜ホスホン酸カルシウム、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル等の亜ホスホン酸化合物;亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等が挙げられる。
これらの中でも特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩が、アミド化反応を促進する効果が高くかつ着色防止効果にも優れるため好ましく用いられ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましい。なお、本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
リン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度換算で0.1〜1000ppmであることが好ましく、より好ましくは1〜600ppmであり、更に好ましくは5〜400ppmである。0.1ppm以上であれば、重合中にポリアミド樹脂(A)が着色しにくく透明性が高くなる。1000ppm以下であれば、ポリアミド樹脂(A)がゲル化しにくく、また、リン原子含有化合物に起因すると考えられるフィッシュアイの成形品中への混入も低減でき、成形品の外観が良好となる。
【0053】
また、ポリアミド樹脂(A)の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用してアルカリ金属化合物を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミド樹脂(A)の着色を防止するためには十分な量のリン原子含有化合物を存在させる必要があるが、場合によってはポリアミド樹脂(A)のゲル化を招くおそれがあるため、アミド化反応速度を調整するためにもアルカリ金属化合物を共存させることが好ましい。
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルコキシド等が好ましい。本発明で用いることのできるアルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、これらの化合物に限定されることなく用いることができる。なお、リン原子含有化合物とアルカリ金属化合物の比率(モル比)は、重合速度制御の観点や、黄色度を低減する観点から、リン原子含有化合物/アルカリ金属化合物=1.0/0.05〜1.0/1.5の範囲が好ましく、より好ましくは、1.0/0.1〜1.0/1.2、更に好ましくは、1.0/0.2〜1.0/1.1である。
【0054】
[ポリアミド樹脂(B)]
本発明で使用しうるポリアミド樹脂(B)(ここで言う“ポリアミド”は、前記“ポリアミド樹脂(A)”ではない)は、ラクタムもしくはアミノカルボン酸から誘導される単位を主構成単位とするポリアミドや、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される単位を主構成単位とする脂肪族ポリアミド、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とから誘導される単位を主構成単位とする部分芳香族ポリアミド、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される単位を主構成単位とする部分芳香族ポリアミド等が挙げられ、必要に応じて、主構成単位以外のモノマー単位を共重合してもよい。
【0055】
前記ラクタムもしくはアミノカルボン酸としては、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等が使用できる。
【0056】
前記脂肪族ジアミンとしては、炭素数2〜12の脂肪族ジアミンあるいはその機能的誘導体が使用できる。さらに、脂環族のジアミンであってもよい。脂肪族ジアミンは直鎖状の脂肪族ジアミンであっても分岐を有する鎖状の脂肪族ジアミンであってもよい。このような直鎖状の脂肪族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。また、脂環族ジアミンの具体例としては、シクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0057】
また、前記脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖状の脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸が好ましく、さらに炭素数4〜12のアルキレン基を有する直鎖状脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。このような直鎖状脂肪族ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ウンデカジオン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸及びこれらの機能的誘導体等を挙げることができる。脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0058】
また、前記芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラ−ビス(2−アミノエチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0059】
また、前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸及びその機能的誘導体等が挙げられる。
【0060】
具体的なポリアミドとしては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4,6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6IT、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、イソフタル酸共重合ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6I)、ポリメタキシリレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリメタキシリレンドデカナミド(ポリアミドMXD12)、ポリ1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジパミド(ポリアミドBAC6)、ポリパラキシリレンセバカミド(ポリアミドPXD10)等がある。
【0061】
また、酸素吸収性能を高めるために、本発明の効果を阻害しない範囲で、分子内に炭素−炭素不飽和結合を導入した変性ポリアミド樹脂を用いることもできる。
さらに、ポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド樹脂と他の樹脂とのブレンドであってもよい。酸素吸収性能を高めるために、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等に炭素−炭素不飽和結合を導入した変性ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等に炭素−炭素不飽和結合を導入した変性ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メタアクリル酸を含むポリマー、エチレン−ビニルアルコール共重合体等に炭素−炭素不飽和結合を導入した変性ポリビニル系樹脂、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有するポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ABS樹脂等のポリエン等と、ポリアミド樹脂とのブレンドを用いることもできる。
【0062】
より好ましいポリアミドとしては、ガスバリア性能に優れるポリアミド樹脂又は変性ポリアミド樹脂を使用することが、容器等の成形品を構成する上で、ガスバリア性樹脂層を省くことができるため好ましく用いられ、より好ましくはメタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分と重縮合して得られるポリアミド樹脂である。具体的には、ポリアミドMXD6、ポリアミドMXD6Iが挙げられる。なおその形状は、ペレット形状のものが取り扱い性に優れるため、好ましく使用される。これらの樹脂は、単独使用でも2種以上の併用でもよい。併用する際には、2種以上の樹脂を溶融混練してもよいし、樹脂ペレットを混合してもよい。また、2種以上を溶融混練して得られたペレットに更に上記樹脂のペレットを混合してもよい。
【0063】
また、前記ポリアミドの共重合成分として、少なくとも一つの末端アミノ基、もしくは末端カルボキシル基を有する数平均分子量が2000〜20000のポリエーテル、又は前記末端アミノ基を有するポリエーテルの有機カルボン酸塩、又は前記末端カルボキシル基を有するポリエーテルのアミノ塩を用いることもできる。具体的な例としては、ビス(アミノプロピル)ポリ(エチレンオキシド)(数平均分子量が2000〜20000のポリエチレングリコール)が挙げられる。
【0064】
また、前記部分芳香族ポリアミドは、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3塩基以上の多価カルボン酸から誘導される構成単位を実質的に線状である範囲内で含有していてもよい。
【0065】
前記ポリアミドは、基本的には従来公知の、水共存下での溶融重縮合法あるいは水不存在下の溶融重縮合法や、これらの溶融重縮合法で得られたポリアミドを更に固相重合する方法等によって製造することができる。溶融重縮合反応は1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。これらは回分式反応装置から構成されていてもよいし、また連続式反応装置から構成されていてもよい。また溶融重縮合工程と固相重合工程は連続的に運転してもよいし、分割して運転してもよい。
【0066】
3.金属化合物(C)
本発明で使用される金属化合物(C)は、鉄、マンガン、銅及び亜鉛から選択された一種以上の金属原子を含む。これらの金属の中でも、酸素吸収能力及び耐熱老化性の観点から鉄及びマンガンが好ましい。
【0067】
金属化合物(C)は、上述の金属を含む低価数の無機塩、有機酸塩又は錯塩の形で使用されることが好ましい。
無機塩としては、酸化物、炭酸塩、塩化物や臭化物等のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。一方、有機酸塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等が挙げられる。また、β−ジケトン又はβ−ケト酸エステル等との遷移金属錯体も利用することができる。
特に本発明では酸素吸収機能が良好に発現することから、上記金属原子を含むカルボン酸塩、炭酸塩、アセチルアセトネート錯体、酸化物及びハロゲン化物から選ばれる一種以上を使用することが好ましく、ステアリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びアセチルアセトネート錯体から選ばれる一種以上を使用することがより好ましい。
【0068】
本発明で用いられる金属化合物(C)は、ポリアミド樹脂と溶融混合しやすいように粉末状のものが好ましく用いられる。その粒径は0.5mm以下が好ましく、0.1mm以下であればより好ましい。金属化合物の粒径が0.5mm以下であれば、熱可塑性樹脂と混合した際に全体に均一に金属化合物を分散させることができる。
【0069】
4.添加剤
本発明のポリアミド樹脂組成物は、要求される用途や性能に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、結晶化核剤、白化防止剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。また、必要に応じて、その他の樹脂やエラストマーを本発明のポリアミド樹脂組成物に溶融混合してもよい。
【0070】
4−1.白化防止剤
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、熱水処理後や長時間の経時後の白化抑制として、ジアミド化合物及び/又はジエステル化合物を添加することが好ましい。ジアミド化合物及びジエステル化合物は、オリゴマーの析出による白化の抑制に効果がある。ジアミド化合物とジエステル化合物を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0071】
ジアミド化合物としては、炭素数8〜30の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10のジアミンから得られるジアミド化合物が好ましい。脂肪族ジカルボン酸の炭素数が8以上、ジアミンの炭素数が2以上で白化防止効果が期待できる。また、脂肪族ジカルボン酸の炭素数が30以下、ジアミンの炭素数が10以下で樹脂組成物中への均一分散が良好となる。脂肪族ジカルボン酸は側鎖や二重結合があってもよいが、直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。ジアミド化合物は1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、ステアリン酸(C18)、エイコサン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)等が例示できる。前記ジアミンとしては、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサンジアミン、キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が例示できる。これらを組み合わせて得られるジアミド化合物が好ましい。
炭素数8〜30の脂肪族ジカルボン酸と主としてエチレンジアミンからなるジアミンから得られるジアミド化合物、又は主としてモンタン酸からなる脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10のジアミンから得られるジアミド化合物が好ましく、特に好ましくは主としてステアリン酸からなる脂肪族ジカルボン酸と主としてエチレンジアミンからなるジアミンから得られるジアミド化合物である。
【0073】
ジエステル化合物としては、炭素数8〜30の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2〜10のジオールから得られるジエステル化合物が好ましい。脂肪族ジカルボン酸の炭素数が8以上、ジオールの炭素数が2以上であると白化防止効果が期待できる。また、脂肪族ジカルボン酸の炭素数が30以下、ジオールの炭素数が10以下で樹脂組成物中への均一分散が良好となる。脂肪族ジカルボン酸は側鎖や二重結合があってもよいが、直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。ジエステル化合物は1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、ステアリン酸(C18)、エイコサン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、モンタン酸(C28)、トリアコンタン酸(C30)等が例示できる。前記ジオールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が例示できる。これらを組み合わせて得られるジエステル化合物が好ましい。
特に好ましくは主としてモンタン酸からなる脂肪族ジカルボン酸と主としてエチレングリコール及び/又は1,3−ブタンジオールからなるジオールから得られるジエステル化合物である。
【0075】
ジアミド化合物及び/又はジエステル化合物の含有量は、樹脂組成物100質量%に対して好ましくは0.005〜0.5質量%、より好ましくは0.05〜0.5質量%、さらに好ましくは0.12〜0.5質量%である。樹脂組成物100質量%に対して0.005質量%以上添加し、かつ結晶化核剤と併用することにより白化防止の相乗効果が期待できる。また、添加量が樹脂組成物100質量%に対して0.5質量%以下であると、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体の曇値を低く保つことが可能となる。
【0076】
4−2.結晶化核剤
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、透明性を改善する観点から、結晶化核剤を添加することが好ましい。透明性を改善するだけでなく、熱水処理後や長時間の経時後の結晶化による白化にも効果があり、結晶化核剤をポリアミド樹脂組成物に添加することにより、球晶サイズを可視光の波長の1/2以下にすることで抑制できる。また、ジアミド化合物及び/又はジエステル化合物と結晶化核剤を併用すると、これらの相乗効果により、それぞれの白化抑制効果から予想される程度よりはるかに優れた白化抑制が得られる。
【0077】
結晶化核剤として、無機系のものとしては、ガラス充填剤(ガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等)、ケイ酸カルシウム系充填材(ワラストナイト等)、マイカ、タルク(粉状タルクやロジンをバインダーとした顆粒状タルク等)、カオリン、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、層状珪酸塩等のクレイ、ナノフィラー、炭素繊維等、通常熱可塑性樹脂に使用されるものでよく、これらの2種以上を併用してもよい。無機系結晶化核剤の最大径は0.01〜5μmであることが好ましい。特に、粒子径が3.0μm以下の粉状タルクが好ましく、粒子径1.5〜3.0μm程度の粉状タルクがより好ましく、粒子径が2.0μm以下の粉状タルクが特に好ましい。また、この粉状タルクにロジンをバインダーとした顆粒状のタルクは、ポリアミド樹脂組成物中での分散状態が良好であるため、特に好ましい。有機系の結晶化核剤としては、結晶化核剤を含む、マイクロレベルからナノレベルサイズの2分子膜からなるカプセル、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系やリン系の透明化結晶核剤、ロジンアミド系のゲル化剤などが好ましく、特に、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤が好ましい。
【0078】
結晶化核剤の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量%に対して0.005〜2.0質量%が好ましく、特に0.01〜1.5質量%がより好ましい。これらの少なくとも1種の結晶化核剤をジアミド化合物及び/又はジエステル化合物と併用してポリアミド樹脂組成物に添加することにより、白化防止の相乗効果が得られる。特に、タルクなどの無機系結晶化核剤はポリアミド樹脂(A)100質量%に対して0.05〜1.5質量%、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤などの有機系結晶化核剤はポリアミド樹脂(A)100質量%に対して0.01〜0.5質量%用いるのが特に好ましい。
【0079】
ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤は、ビス(ベンジリデン)ソルビトール及びビス(アルキルベンジリデン)ソルビトールから選ばれるもので、ソルビトールとベンズアルデヒドもしくはアルキル置換ベンズアルデヒドがアセタール化反応によって生成する縮合生成物(ジアセタール化合物)であり、当該分野で知られている種々の合成方法によって都合よく調製することができる。ここで、アルキルは鎖状でも環状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。一般的な合成方法では、酸触媒の存在下における1モルのD−ソルビトールと約2モルのアルデヒドとの反応が用いられる。反応温度は、反応の出発原料に用いられるアルデヒドの特性(融点等)に応じて広範囲に変化する。反応媒質は、水系媒質であっても非水系媒質であってもよい。ジアセタールを調製するために用いうる一つの好ましい方法は、米国特許第3,721,682号明細書に記載されている。この開示内容はベンジリデンソルビトール類に限定されているが、本発明で使用するビス(アルキルベンジリデン)ソルビトールもそこに記載された方法によって都合よく製造され得る。
【0080】
ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤(ジアセタール化合物)の具体例としては、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(n−プロピルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−イソプロピルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−イソブチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(2,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(2,4,5−トリメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(2,4,6−トリメチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(4−ビフェニルベンジリデン)ソルビトール等が挙げられる。
【0081】
ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤を調製するのに好適なアルキル置換ベンズアルデヒドの例としては、p−メチルベンズアルデヒド、n−プロピルベンズアルデヒド、p−イソプロピルベンズアルデヒド、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、2,4,6−トリメチルベンズアルデヒド、4−ビフェニルベンズアルデヒドが挙げられる。
【0082】
タルク、マイカ、クレイなどの結晶化核剤をポリアミド樹脂組成物に添加すると、結晶化速度が、無添加のポリアミド樹脂組成物と比べて2倍以上加速される。高い成形サイクルを求められる射出成形用途では問題ないが、延伸フィルム、シートから成形される深絞りカップなどでは、結晶化速度が速すぎると、結晶化により、フィルムやシートの延伸ができなくなり、破断したり、伸びムラなど、成形性が極端に低下する。しかし、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤は、ポリアミド樹脂組成物に添加しても結晶化速度を加速させることがないため、延伸フィルム、シートから成形される深絞りカップなどの用途で用いる場合は好ましい。
【0083】
さらに、ビス(ベンジリデン)ソルビトール系結晶化核剤は、白化抑制だけでなく、ポリアミド樹脂組成物に添加することで酸素バリア性が改善する。白化抑制と酸素バリア性改善の両方の効果が得られるビス(ベンジリデン)ソルビトールの結晶化核剤を用いることが特に好ましい。
【0084】
4−3.層状珪酸塩
本発明のポリアミド樹脂組成物は層状珪酸塩を含有してもよい。層状珪酸塩を添加することで、ポリアミド樹脂組成物に酸素ガスバリア性だけでなく、炭酸ガス等のガスに対するバリア性を付与することができる。
【0085】
層状珪酸塩は、0.25〜0.6の電荷密度を有する2−八面体型や3−八面体型の層状珪酸塩であり、2−八面体型としては、モンモリロナイト、バイデライト等、3−八面体型としてはヘクトライト、サボナイト等が挙げられる。これらの中でも、モンモリロナイトが好ましい。
【0086】
層状珪酸塩は、高分子化合物や有機系化合物等の有機膨潤化剤を予め層状珪酸塩に接触させて、層状珪酸塩の層間を拡げたものとすることが好ましい。有機膨潤化剤として、第4級アンモニウム塩が好ましく使用できるが、好ましくは、炭素数12以上のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも一つ以上有する第4級アンモニウム塩が用いられる。
【0087】
有機膨潤化剤の具体例として、トリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩、トリメチルエイコシルアンモニウム塩等のトリメチルアルキルアンモニウム塩;トリメチルオクタデセニルアンモニウム塩、トリメチルオクタデカジエニルアンモニウム塩等のトリメチルアルケニルアンモニウム塩;トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリエチルテトラデシルアンモニウム塩、トリエチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリエチルオクタデシルアンモニウム等のトリエチルアルキルアンモニウム塩;トリブチルドデシルアンモニウム塩、トリブチルテトラデシルアンモニウム塩、トリブチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリブチルオクタデシルアンモニウム塩等のトリブチルアルキルアンモニウム塩;ジメチルジドデシルアンモニウム塩、ジメチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジタロウアンモニウム塩等のジメチルジアルキルアンモニウム塩;ジメチルジオクタデセニルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデカジエニルアンモニウム塩等のジメチルジアルケニルアンモニウム塩;ジエチルジドデシルアンモニウム塩、ジエチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジエチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジエチルジオクタデシルアンモニウム等のジエチルジアルキルアンモニウム塩;ジブチルジドデシルアンモニウム塩、ジブチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジブチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジブチルジオクタデシルアンモニウム塩等のジブチルジアルキルアンモニウム塩;メチルベンジルジヘキサデシルアンモニウム塩等のメチルベンジルジアルキルアンモニウム塩;ジベンジルジヘキサデシルアンモニウム塩等のジベンジルジアルキルアンモニウム塩;トリドデシルメチルアンモニウム塩、トリテトラデシルメチルアンモニウム塩、トリオクタデシルメチルアンモニウム塩等のトリアルキルメチルアンモニウム塩;トリドデシルエチルアンモニウム塩等のトリアルキルエチルアンモニウム塩;トリドデシルブチルアンモニウム塩等のトリアルキルブチルアンモニウム塩;4−アミノ−n−酪酸、6−アミノ−n−カプロン酸、8−アミノカプリル酸、10−アミノデカン酸、12−アミノドデカン酸、14−アミノテトラデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、18−アミノオクタデカン酸等のω−アミノ酸等が挙げられる。また、水酸基及び/又はエーテル基含有のアンモニウム塩、中でも、メチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、エチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、ブチルジアルキル(PAG)アンモニウム塩、ジメチルビス(PAG)アンモニウム塩、ジエチルビス(PAG)アンモニウム塩、ジブチルビス(PAG)アンモニウム塩、メチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、エチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、ブチルアルキルビス(PAG)アンモニウム塩、メチルトリ(PAG)アンモニウム塩、エチルトリ(PAG)アンモニウム塩、ブチルトリ(PAG)アンモニウム塩、テトラ(PAG)アンモニウム塩(ただし、アルキルはドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル等の炭素数12以上のアルキル基を表し、PAGはポリアルキレングリコール残基、好ましくは、炭素数20以下のポリエチレングリコール残基又はポリプロピレングリコール残基を表す)等の少なくとも一のアルキレングリコール残基を含有する4級アンモニウム塩も有機膨潤化剤として使用することができる。中でもトリメチルドデシルアンモニウム塩、トリメチルテトラデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩、トリメチルオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジドデシルアンモニウム塩、ジメチルジテトラデシルアンモニウム塩、ジメチルジヘキサデシルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩、ジメチルジタロウアンモニウム塩が好ましい。なお、これらの有機膨潤化剤は、単独でも複数種類の混合物としても使用できる。
【0088】
有機膨潤化剤で処理した層状珪酸塩の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して好ましくは0.5〜8質量%添加、より好ましくは1〜6質量%、更に好ましくは2〜5質量%である。0.5質量%以上であればガスバリア性の改善効果が十分に得られ、8質量%以下であればポリアミド樹脂組成物の柔軟性が悪化することによるピンホールの発生等の問題が生じにくい。
【0089】
ポリアミド樹脂組成物において、層状珪酸塩は局所的に凝集することなく均一に分散していることが好ましい。ここでいう均一分散とは、ポリアミド樹脂組成物中において層状珪酸塩が平板状に分離し、それらの50%以上が5nm以上の層間距離を有することをいう。ここで層間距離とは平板状物の重心間距離のことをいう。この距離が大きい程分散状態が良好となり、透明性等の外観が良好で、かつ酸素、炭酸ガス等のガスバリア性を向上させることができる。
【0090】
4−4.酸化性有機化合物
ポリアミド樹脂組成物の酸素吸収性能を更に高めるために、本発明の効果を損なわない範囲で酸化性有機化合物を添加してもよい。
酸化性有機化合物としては、酸素が存在する雰囲気下において、自動的に、または触媒や、熱、光、水分等のいずれか一つの共存下において酸化される有機化合物であり、水素の引き抜きが容易に行えるような活性な炭素原子を有するものが好ましい。このような活性炭素原子の具体例としては、炭素−炭素二重結合に隣接する炭素原子、炭素側鎖の結合した第三級炭素原子、活性メチレン基を含むものが挙げられる。
例えば、ビタミンCやビタミンEも酸化性有機化合物の一例として挙げられる。また、ポリプロピレン等のように分子に酸化されやすい3級水素を持つようなポリマーや、ブタジエンやイソプレンのように分子内に炭素−炭素二重結合をもつ化合物やそれらからなる、もしくは含むポリマーも酸化性有機化合物の一例として挙げられる。その中でも、酸素吸収能力や加工性の観点から、炭素−炭素二重結合を有する化合物やポリマーが好ましく、炭素原子数4〜20の炭素−炭素二重結合を含む化合物やそれらから誘導された単位を含むオリゴマー乃至ポリマーがより好ましい。
酸化性有機化合物の含有量は、樹脂組成物100質量%に対して好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜4質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
【0091】
4−5.ゲル化防止・フィッシュアイ低減剤
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム及びそれらの誘導体から選択される1種以上のカルボン酸塩類を添加することが好ましい。ここで該誘導体としては、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸ナトリウム等の12−ヒドロキシステアリン酸金属塩等が挙げられる。前記カルボン酸塩類を添加することで、成形加工中に起こるポリアミド樹脂組成物のゲル化防止や成形体中のフィッシュアイを低減することができ、成形加工の適性が向上する。より効果的なゲル化防止、フィッシュアイ低減、更にはコゲ防止処方として、1g当たりの金属塩濃度が高い酢酸ナトリウムを用いることが特に好ましい。
【0092】
前記カルボン酸塩類の添加量としては、ポリアミド樹脂組成物中の濃度として、好ましくは400〜10000ppm、より好ましくは800〜5000ppm、更に好ましくは1000〜3000ppmである。400ppm以上であれば、ポリアミド樹脂組成物の熱劣化を抑制でき、ゲル化を防止できる。また、10000ppm以下であれば、ポリアミド樹脂組成物が成形不良を起こさず、着色や白化することもない。溶融したポリアミド樹脂組成物中に塩基性物質であるカルボン酸塩類が存在すると、ポリアミド樹脂組成物の熱による変性が遅延し、最終的な変性物と考えられるゲルの生成を抑制すると推測される。
なお、前述のカルボン酸塩類はハンドリング性に優れ、この中でもステアリン酸金属塩は安価である上、滑剤としての効果を有しており、成形加工をより安定化することができるため好ましい。更に、カルボン酸塩類の形状に特に制限はないが、粉体でかつその粒径が小さい方が乾式混合する場合、酸素吸収バリア層中に均一に分散させることが容易であるため、その粒径は0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下がより好ましい。
【0093】
4−6.酸化防止剤
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、酸素吸収性能を制御する観点や機械物性低下を抑える観点から酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としては、銅系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤等を例示することができ、中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0094】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2−チオビス(4−メチル−6−1−ブチルフェノール)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロキシシンナムアミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルスルホン酸エチルカルシウム、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−O−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、d−α−トコフェロール等が挙げられる。これらは単独であるいはこれらの混合物で用いることができる。ヒンダードフェノール化合物の市販品の具体例としては、BASF社製のIrganox1010やIrganox1098が挙げられる(いずれも商品名)。
【0095】
リン系酸化防止剤の具体例としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機リン化合物が挙げられる。これらは単独であるいはこれらの混合物で用いることができる。
【0096】
酸化防止剤の含有量は、組成物の各種性能を損なわない範囲であれば特に制限無く使用できるが、酸素吸収性能を制御する観点や機械物性低下を抑える観点から、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して好ましくは0.001〜3質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【0097】
5.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)及び金属化合物(C)、更に必要に応じてポリアミド樹脂(B)を混合することで製造することができる。
ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)及び金属化合物(C)の混合は従来公知の方法を用いることができる。例えば、タンブラーやミキサー等の混合機にポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)及び金属化合物(C)を入れて混合する方法が挙げられる。その際、金属化合物(C)が固体または粉体であれば、混合後の分級を防止するために粘性のある液体を展着剤としてポリアミド樹脂(A)又はポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の混合物に付着させた後、金属化合物(C)を添加、混合する方法を採ることもできる。また金属化合物(C)を有機溶媒に溶解し、この溶液とポリアミド樹脂(A)又はポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の混合物とを混合し、同時にまたは後に加熱することによって有機溶媒を除去し、ポリアミドに付着させる方法を採ることもできる。さらに押出機を用いて溶融混練する場合は、ポリアミド樹脂(A)とは別の供給装置を用いて押出機内に金属化合物(C)を添加することもできる。
【0098】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、マスターバッチ法によっても製造することができる。具体的な本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、本発明のポリアミド樹脂組成物がポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)及び金属化合物(C)を含む場合、ポリアミド樹脂(B)と金属化合物(C)とを溶融混合してマスターバッチを得る工程、及び該マスターバッチをポリアミド樹脂(A)と溶融混練する工程を含む方法が好ましい。前記マスターバッチを得る工程は、ポリアミド樹脂(B)と金属化合物(C)と界面活性剤とを溶融混合してマスターバッチを得る工程であってもよく、この場合の界面活性剤の添加量は金属化合物(C)100質量部に対して5〜50質量部が好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物がポリアミド樹脂(B)を含まない場合にも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、マスターバッチ法によっても製造することができる。この場合、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、ポリアミド樹脂(A)の一部と金属化合物(C)とを溶融混合してマスターバッチを得る工程、及び該マスターバッチを残りのポリアミド樹脂(A)と溶融混練する工程を含む方法が好ましい。
マスターバッチ法は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)及び金属化合物(C)を含む本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法として適用することが好ましい。マスターバッチ法によれば、金属化合物(C)をポリアミド樹脂組成物中に均一に分散することができ、また、ポリアミド樹脂組成物の製造時にポリアミド樹脂(A)と金属化合物(C)とが反応してポリアミド樹脂(A)が酸化劣化するのを抑制することができる。
【0099】
上記の添加剤は、あらかじめポリアミド樹脂(A)及び/又はポリアミド樹脂(B)に添加しておいてもよく、樹脂組成物の製造時に添加してもよい。
【0100】
マスターバッチを用いる方法の場合、ポリアミド樹脂(B)に対する金属化合物(C)の質量比[(C)/(B)]が、金属原子濃度として10〜5000ppmとなるようにすることが好ましく、より好ましくは50〜4000ppmである。金属原子濃度が10ppm以上であれば、得られるポリアミド樹脂組成物の酸素吸収能力が十分である。また、金属濃度が5000ppm以下であれば、金属化合物(C)の全量がポリアミド樹脂(B)に溶融混合できる。
【0101】
ポリアミド樹脂(B)と金属化合物(C)との混合は従来公知の押出機を用いて溶融混練する方法を用いることができる。また、ポリアミド樹脂(B)とは別の供給装置を用いて押出機内に金属化合物(C)を添加することもできる。
なお、添加剤等を添加する場合も、上述と同様の方法で添加することができる。
【0102】
また、ポリアミド樹脂(A)とマスターバッチとの合計質量に対する金属化合物(C)の割合は、金属原子濃度として10〜5000質量ppmとなるようにすることが好ましく、より好ましくは50〜1000質量ppmである。金属原子濃度が10質量ppm以上であれば、得られる樹脂組成物の酸素吸収能力が十分である。また、金属濃度が5000質量ppm以下であれば、ポリアミド樹脂(A)の酸化分解が少なく、成形時の溶融粘度低下等が生じにくい。
また、ポリアミド樹脂(A)とマスターバッチとの混合比は、マスターバッチの濃度にもよるが、ポリアミド樹脂(A)そのものの酸素バリア性と酸素吸収能力を勘案すると、ポリアミド樹脂(A):マスターバッチの質量比として99:1〜70:30の範囲が好ましい。
【0103】
6.ポリアミド樹脂組成物の用途
本発明のポリアミド樹脂組成物は、酸素バリア性や酸素吸収性能が要求されるあらゆる用途に利用できる。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物を単独で小袋などに充填して酸素吸収剤として利用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物の代表的な利用例としては包装材料や包装容器等の成型体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のポリアミド樹脂組成物を、その成型体の少なくとも一部として加工して使用することができる。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物をフィルム状又はシート状の包装材料の少なくとも一部として使用することができ、また、ボトル、トレイ、カップ、チューブ、平袋やスタンディングパウチ等の各種パウチ等の包装容器の少なくとも一部として使用することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物からなる層の厚みは、特に制限はないが、1μm以上の厚みを有することが好ましい。
【0104】
包装材料及び包装容器などの成形体の製造方法については特に限定されず、任意の方法を利用することができる。例えば、フィルム状若しくはシート状の包装材料、又はチューブ状の包装材料の成形については、Tダイ、サーキュラーダイ等を通して溶融させたポリアミド樹脂組成物を、付属した押出機から押し出して製造することができる。なお、上述の方法で得たフィルム状の成形体はこれを延伸することにより延伸フィルムに加工することもできる。ボトル形状の包装容器については、射出成形機から金型中に溶融したポリアミド樹脂組成物を射出してプリフォームを製造後、延伸温度まで加熱してブロー延伸することにより得ることができる。
また、トレイやカップ等の容器は射出成形機から金型中に溶融したポリアミド樹脂組成物を射出して製造する方法や、シート状の包装材料を真空成形や圧空成形等の成形法によって成形して得ることができる。包装材料や包装容器は上述の製造方法によらず、様々な方法を経て製造することが可能である。
【0105】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた成形体は、単層構造でも多層構造でもよい。
単層構造の成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物のみからなるものでもよく、本発明のポリアミド樹脂組成物と他の樹脂とのブレンドからなるものでもよい。
多層構造の成形体の場合、その層構成は特に限定されず、層の数や種類は特に限定されない。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物から形成される層を層(X)、他の樹脂層を層(Y)とした場合、1層の層(X)及び1層の層(Y)からなるX/Y構成であってもよく、1層の層(X)及び2層の層(Y)からなるY/X/Yの3層構成であってもよい。また、1層の層(X)並びに層(Y1)及び層(Y2)の2種4層の層(Y)からなるY1/Y2/X/Y2/Y1の5層構成であってもよい。さらに、必要に応じて接着層(AD)等の任意の層を含んでもよく、例えば、Y1/AD/Y2/X/Y2/AD/Y1の7層構成であってもよい。
【0106】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた包装容器は、酸素吸収性能及び酸素バリア性能に優れ、かつ内容物の風味保持性に優れるため、種々の物品の包装に適している。
被保存物としては、牛乳、乳製品、ジュース、コーヒー、茶類、アルコール飲料等の飲料;ソース、醤油、ドレッシング等の液体調味料、スープ、シチュー、カレー、乳幼児用調理食品、介護調理食品等の調理食品;ジャム、マヨネーズ等のペースト状食品;ツナ、魚貝等の水産製品;チーズ、バター等の乳加工品;肉、サラミ、ソーセージ、ハム等の畜肉加工品;にんじん、じゃがいも等の野菜類;卵;麺類;調理前の米類、調理された炊飯米、米粥等の加工米製品;粉末調味料、粉末コーヒー、乳幼児用粉末ミルク、粉末ダイエット食品、乾燥野菜、せんべい等の乾燥食品;農薬、殺虫剤等の化学品;医薬品;化粧品;ペットフード;シャンプー、リンス、洗剤等の雑貨品;半導体集積回路並びに電子デバイス;種々の物品を挙げることができる。
【0107】
また、これらの被保存物の充填前後に、被保存物に適した形で、包装容器や被保存物の殺菌を施すことができる。殺菌方法としては、100℃以下での熱水処理、100℃以上の加圧熱水処理、130℃以上の超高温加熱処理等の加熱殺菌、紫外線、マイクロ波、ガンマ線等の電磁波殺菌、エチレンオキサイド等のガス処理、過酸化水素や次亜塩素酸等の薬剤殺菌等が挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、共重合体を構成する単位に関して、
メタキシリレンジアミンに由来する単位を「MXDA」、
アジピン酸に由来する単位を「AA」、
イソフタル酸に由来する単位を「IPA」、
L−アラニンに由来する単位を「L−Ala」という。
また、ポリメタキシリレンアジパミドを「N−MXD6」という。
【0109】
製造例で得られたポリアミド樹脂のα−アミノ酸含有率、相対粘度、末端アミノ基濃度、ガラス転移温度及び融点は以下の方法で測定した。また、製造例で得られたポリアミド樹脂からフィルムを作製し、その酸素吸収量を以下の方法で測定した。
【0110】
(1)α−アミノ酸含有率
1H−NMR(400MHz,日本電子(株)製、商品名:JNM−AL400、測定モード:NON(
1H))を用いて、ポリアミド樹脂のα−アミノ酸含有率の定量を実施した。具体的には、溶媒としてギ酸−dを用いてポリアミド樹脂の5質量%の溶液を調製し、
1H−NMR測定を実施した。
【0111】
(2)相対粘度
ペレット状サンプル1gを精秤し、96%硫酸100mlに20〜30℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下時間(t
0)も同様に測定した。t及びt
0から次式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t
0
【0112】
(3)末端アミノ基濃度〔NH
2〕
ポリアミド樹脂を精秤し、フェノール/エタノール=4/1容量溶液に20〜30℃で撹拌溶解させ、完全に溶解した後、撹拌しつつ、メタノール5mlで容器内壁を洗い流し、0.01mol/L塩酸水溶液で中和滴定して末端アミノ基濃度〔NH
2〕を求めた。
【0113】
(4)ガラス転移温度及び融点
示差走査熱量計((株)島津製作所製、商品名:DSC−60)を用い、昇温速度10℃/分で窒素気流下にDSC測定(示差走査熱量測定)を行い、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を求めた。
【0114】
(5)酸素吸収量
Tダイを設置した30mmφ二軸押出機((株)プラスチック工学研究所製)を用い、(ポリアミド樹脂の融点+20℃)のシリンダー・Tダイ温度にて、ポリアミド樹脂から厚さ約100μmの無延伸単層フィルムを成形した。
製造した無延伸単層フィルムから切り出した10cm×10cmの試験片2枚を、アルミ箔積層フィルムからなる25cm×18cmの3方シール袋に、水10mlを含ませた綿と共に仕込み、袋内空気量が400mlとなるようにして密封した。袋内の湿度は100%RH(相対湿度)とした。40℃下で7日保存後、14日保存後、28日保存後のそれぞれに袋内の酸素濃度を酸素濃度計(東レエンジニアリング(株)製、商品名:LC−700F)で測定し、この酸素濃度から酸素吸収量を計算した。
【0115】
製造例1(ポリアミド樹脂1の製造)
撹拌機、分縮器、全縮器、圧力調整器、温度計、滴下槽及びポンプ、アスピレーター、窒素導入管、底排弁、ストランドダイを備えた内容積50Lの耐圧反応容器に、精秤したアジピン酸(旭化成ケミカルズ(株)製)13000g(88.96mol)、L−アラニン(Sinogel amino acid co.ltd)880.56g(9.88mol)、次亜リン酸ナトリウム11.7g(0.11mol)、酢酸ナトリウム6.06g(0.074mol)を入れ、十分に窒素置換した後、反応容器内を密閉し、容器内を0.4MPaに保ちながら撹拌下170℃まで昇温した。170℃に到達した後、反応容器内の溶融した原料へ滴下槽に貯めたメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)12082.2g(88.71mol)の滴下を開始し、容器内を0.4MPaに保ちながら生成する縮合水を系外へ除きながら反応槽内を連続的に240℃まで昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、反応容器内を徐々に常圧に戻し、次いでアスピレーターを用いて反応槽内を80kPaに減圧して縮合水を除いた。減圧中に撹拌機の撹拌トルクを観察し、所定のトルクに達した時点で撹拌を止め、反応槽内を窒素で加圧し、底排弁を開け、ストランドダイからポリマーを抜き出してストランド化した後、冷却してペレタイザーによりペレット化した。次にこのペレットをステンレス製の回転ドラム式の加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1torr以下まで減圧を行い、更に系内温度を110分間で180℃まで昇温した。系内温度が180℃に達した時点から、同温度にて180分間、固相重合反応を継続した。反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出すことにより、MXDA/AA/L−Ala共重合体(ポリアミド樹脂1)を得た。なお、各モノマーの仕込み組成比は、メタキシリレンジアミン:アジピン酸:L−アラニン=47.3:47.4:5.3(mol%)であった。
【0116】
製造例2(ポリアミド樹脂2の製造)
各モノマーの仕込み組成比を、メタキシリレンジアミン:アジピン酸:L−アラニン=44.4:44.5:11.1(mol%)としたこと以外は製造例1と同様にしてMXDA/AA/L−Ala共重合体(ポリアミド樹脂2)を得た。
【0117】
製造例3(ポリアミド樹脂3の製造)
各モノマーの仕込み組成比を、メタキシリレンジアミン:アジピン酸:L−アラニン=33.3:33.4:33.3(mol%)としたこと以外は製造例1と同様にしてMXDA/AA/L−Ala共重合体(ポリアミド樹脂3)を得た。
【0118】
製造例4(ポリアミド樹脂4の製造)
ジカルボン酸成分をイソフタル酸(エイ・ジイ・インタナショナル・ケミカル(株)製)とアジピン酸の混合物に変更し、各モノマーの仕込み組成比を、メタキシリレンジアミン:アジピン酸:イソフタル酸:L−アラニン=44.3:39.0:5.6:11.1(mol%)としたこと以外は製造例1と同様にしてMXDA/AA/IPA/L−Ala共重合体(ポリアミド樹脂4)を得た。
【0119】
製造例5(ポリアミド樹脂5の製造)
L−アラニンを添加せず、各モノマーの仕込み組成比を、メタキシリレンジアミン:アジピン酸=49.8:50.2(mol%)としたこと以外は製造例1と同様にしてN−MXD6(ポリアミド樹脂5)を得た。
【0120】
表1に、ポリアミド樹脂1〜5の仕込みモノマー組成、並びに得られたポリアミド樹脂のα−アミノ酸含有率、相対粘度、末端アミノ基濃度、ガラス転移温度、融点及び酸素吸収量の測定結果を示す。
【0121】
【表1】
【0122】
MB製造例1(マスターバッチ1の製造)
ポリアミド樹脂(B)として製造例5のポリアミド樹脂を用い、金属化合物(C)として酢酸マンガンを金属含有量が、ポリアミド樹脂(B)に対して4000ppmとなるようにドライブレンドしたものを、φ32mmのフルフライトスクリューを備えた2軸押出機で、回転数80rpm、265℃で溶融混合したものをストランド状に押出し、空冷したのちペレタイズして、酢酸マンガン4000ppmを添加したマスターバッチペレットを得た(マスターバッチ1)。続いて、得られたマスターバッチ1中に含まれる金属原子を以下の方法により定量した。結果を表2に示す。
【0123】
金属原子の定量
試料2gを白金るつぼに精秤し、予備燃焼後、電気炉で800℃、3時間の条件で灰化させた。冷却後、硝酸2mlを6回に分けて加え、300〜350℃のホットプレート上で完全に蒸発、乾固させた。次に塩酸3mlを加え、200〜250℃に加熱し、塩酸がるつぼの底に少量残る程度まで乾固させ、蒸留水で25mlにメスアップし、冷却装置により20℃に保って試料を作製した。この試料について、原子吸光分光光度計(島津製作所(株)製、商品名:AA−6500)を使用して原子吸光分析を行い、金属原子の定量を行った。
【0124】
MB製造例2(マスターバッチ2の製造)
金属化合物(C)として酢酸鉄を用いたこと以外は、MB製造例1と同様にして、酢酸鉄4000ppmを添加したマスターバッチペレットを得た(マスターバッチ2)。また、MB製造例1と同様にして、得られたマスターバッチ2中に含まれる金属原子の定量を行った。結果を表2に示す。
【0125】
MB製造例3(マスターバッチ3の製造)
金属化合物(C)としてステアリン酸コバルトを用いたこと以外はMB製造例1と同様にして、ステアリン酸コバルト4000ppm添加マスターバッチペレットを得た(マスターバッチ3)。また、MB製造例1と同様にして、得られたマスターバッチ3中に含まれる金属原子の定量を行った。結果を表2に示す。
【0126】
MB製造例4(マスターバッチ4の製造)
ポリアミド樹脂(B)として製造例1のポリアミド樹脂を用いたこと以外はMB製造例1と同様にして、酢酸マンガン4000ppm添加マスターバッチペレットを得た(マスターバッチ4)。また、MB製造例1と同様にして、得られたマスターバッチ4中に含まれる金属原子の定量を行った。結果を表2に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
次に、実施例1〜16及び比較例1〜7において、上記ポリアミド樹脂1〜5及びマスターバッチ1〜3を用いて共押出多層フィルム、PET多層ボトル及び無延伸フィルムを作製し、酸素透過率の測定、耐層間剥離性の評価、及び溶融滞留試験を実施した。
実施例及び比較例で得られた共押出多層フィルム及びPET多層ボトルの酸素透過率の測定、PET多層ボトルの耐層間剥離性の評価、無延伸フィルムの溶融滞留試験は、以下の方法で行った。
【0129】
(1)共押出多層フィルム及びPETボトルの酸素透過率(OTR)
共押出多層フィルムの酸素透過率は、酸素透過率測定装置(MOCON社製、型式:OX−TRAN2/21)を使用し、ASTM D3985に準じて、23℃、相対湿度60%の雰囲気下にて30日間測定した。
また、PETボトルの酸素透過率は、酸素透過率測定装置(MOCON社製、商品名:OX−TRAN 2−61)を使用し、23℃、成形体外部の相対湿度50%、内部の相対湿度100%の雰囲気下にてASTM D3985に準じて、成形後30日経過後までのボトルの酸素透過率を測定した。
測定値が低いほど酸素バリア性が良好であることを示す。
【0130】
(2)PET多層ボトルの耐層間剥離性
ASTM D2463−95 Procedure Bに基づき、ボトルの落下試験により層間剥離高さを測定した。層間剥離高さが高いほど、耐層間剥離性が良好であることを示す。
まず、ボトルに水を満たしキャップをした後、ボトルを落下させ層間剥離の有無を目視で判定した。ボトルは底部が床に接触するように垂直落下させた。落下高さ間隔は15cmとし、テスト容器数は30本とした。試験は、水の充填直後、及び水の充填後40℃で30日経過後に実施した。
【0131】
(3)無延伸フィルムの溶融滞留試験
厚さ250μmの無延伸フィルムを4枚重ねにし、直径約40mmの円に切り取った後、ポリテトラフルオロエチレンシートに挟み、該シートを金属板にて上下を挟み、金属板同士をボルトで固定した。その後、290℃に加温した熱プレス機に50kg/cm
2の圧力でプレスし、24時間加熱した。24時間加熱後、該金属板を取り出して、急冷後、室温にてサンプルを取り出した。
続いて、このサンプルを100mg秤量後、密栓可能な試験管に入れ、サンプルを60℃にて30分恒温乾燥機にて乾燥した(このときの質量を「サンプル質量」とする)。サンプル乾燥後、即座に試験管にヘキサフルオロイソプロパノール(純正化学(株)製、以下「HFIP」と記載することがある。)を10ml加え、蓋をし、24時間静置し、溶解させた。次に、予め秤量した0.3μm孔径のポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターを通し、減圧濾過し、メンブレンフィルターに残った残渣をHFIPにて洗浄した。その後、残渣の付着したフィルターを24時間自然乾燥した。続いて、乾燥した残渣とフィルターの総質量を秤量し、予め秤量したメンブレンフィルター質量との差から、滞留サンプルのHFIP不溶成分量(ゲル質量)を求めた後、ゲル分率はHFIP浸漬前の滞留サンプルに対するHFIP不溶成分の質量%として以下の式より算出した。
ゲル分率(%)=(ゲル質量/サンプル質量)×100
【0132】
[共押出多層フィルム(5層構成)]
実施例1
3台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層フィルム製造装置を用いた。1台目の押出機からポリアミド樹脂1及びマスターバッチ1をポリアミド樹脂1/マスターバッチ1の混合比(質量比)が90/10となるようにドライブレンドしたもの250℃で、2台目の押出機からポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、商品名:ノバテック、グレード:FY6)を230℃で、3台目の押出機から接着性樹脂(三井化学(株)製、商品名:アドマー、グレード:QB515)を220℃でそれぞれ押し出し、フィードブロックを介して、(外層)ポリプロピレン層/接着性樹脂層/ポリアミド樹脂1+マスターバッチ1層/接着性樹脂層/ポリプロピレン層(内層)の3種5層構造の多層フィルムを製造した。なお、各層の厚みは、60/5/40/5/60(μm)とした。
【0133】
実施例2〜7、比較例1及び2
ポリアミド樹脂(A)の種類、マスターバッチの種類及びポリアミド樹脂(A)とマスターバッチとの混合比を変更したこと以外は、それぞれ実施例1と同様に共押出多層フィルムを作成した。
【0134】
比較例3
実施例1におけるポリアミド樹脂1+マスターバッチ1層を構成する材料を、マスターバッチを混合せずポリアミド樹脂1のみに変更したこと以外は、実施例1と同様にPET多層ボトルを作成した。
【0135】
表3に、実施例1〜7及び比較例1〜3の共押出多層フィルムの製造後5日後及び30日後の酸素透過率の測定結果を示す。
【0136】
【表3】
【0137】
実施例1〜7の共押出多層フィルムは、マスターバッチを使用せず金属化合物を添加しない比較例3と比較して、30日後でも良好な酸素透過率を示した。また、ステアリン酸コバルトをN−MXD6に添加したマスターバッチを用いた比較例1は、5日目の酸素透過率は良好であるものの、30日後の酸素透過率は、フィルムが酸化分解したことにより大幅に悪化した。さらに、酢酸マンガンをN−MXD6に添加したマスターバッチを用いた比較例2は、酸素吸収作用を示さず、酸素透過率は良くなかった。
【0138】
[PET多層ボトル(3層構成)]
実施例8
下記の条件により、層(b)を構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層(a)を構成する材料を別の射出シリンダーから、層(b)を構成する材料と同時に射出し、次に層(b)を構成する材料を必要量射出してキャビティーを満たすことにより、(b)/(a)/(b)の3層構成のインジェクション成形体(パリソン)(22.5g)を得た。
層(b)を構成する材料としては、固有粘度(フェノール/テトラクロロエタン=6/4(質量比)の混合溶媒を使用、測定温度:30℃)が0.83のポリエチレンテレフタレート(日本ユニペット(株)製、商品名:BK−2180)を使用した。層(a)を構成する材料としては、ポリアミド樹脂2とマスターバッチ1を、ポリアミド樹脂2/マスターバッチ1の混合比(質量比)が80/20となるようにドライブレンドした。
得られたパリソンを冷却後、二次加工として、パリソンを加熱し2軸延伸ブロー成形を行うことでボトルを製造した。得られたボトルの総質量に対する層(a)の質量は5質量%であった。
【0139】
(パリソンの形状)
全長95mm、外径22mm、肉厚2.7mm、外側層(b)胴部厚み1520μm、層(a)胴部厚み140μm、内側層(b)胴部厚み1040μmとした。なお、パリソンの製造には、射出成形機(名機製作所(株)製、型式:M200、4個取り)を使用した。
(パリソンの成形条件)
層(a)用の射出シリンダー温度:250℃
層(b)用の射出シリンダー温度:280℃
金型内樹脂流路温度:280℃
金型冷却水温度:15℃
【0140】
(二次加工して得られたボトルの形状)
全長160mm、外径60mm、内容積370ml、肉厚0.28mm、外側層(b)胴部厚み152μm、層(a)胴部厚み14μm、内側層(b)胴部厚み114μmとした。延伸倍率は縦1.9倍、横2.7倍とした。底部形状はシャンパンタイプである。胴部にディンプルを有する。なお、二次加工には、ブロー成形機((株)フロンティア製、型式:EFB1000ET)を使用した。
(二次加工条件)
インジェクション成形体の加熱温度:100℃
延伸ロッド用圧力:0.5MPa
一次ブロー圧力:0.5MPa
二次ブロー圧力:2.4MPa
一次ブロー遅延時間:0.32sec
一次ブロー時間:0.30sec
二次ブロー時間:2.0sec
ブロー排気時間:0.6sec
金型温度:30℃
【0141】
実施例9〜11、比較例4及び5
ポリアミド樹脂(A)の種類、マスターバッチの種類及びポリアミド樹脂(A)とマスターバッチとの混合比を変更したこと以外は、それぞれ実施例8と同様にPET多層ボトルを作成した。
【0142】
比較例6
層(a)を構成する材料として、マスターバッチを混合せずポリアミド樹脂2のみを使用したこと以外は、実施例8と同様にPET多層ボトルを作成した。
【0143】
表4に、実施例8〜11及び比較例4〜6のPET多層ボトルの酸素透過率及び層間剥離高さの測定結果を示す。
【0144】
【表4】
【0145】
実施例8〜11のPET多層ボトルは、マスターバッチを使用せず金属化合物を添加しない比較例6と比較して良好な酸素透過率及び耐層間剥離性を示した。また、ステアリン酸コバルトを添加したマスターバッチを用いた比較例4は、酸素透過率は良好であるものの、40℃50%RHに30日間保管後の耐層間剥離性が大幅に悪化した。一方、酢酸マンガンを添加したマスターバッチをN−MXD6に適用した比較例5は、酸素吸収作用を示さず、酸素透過率は良くなかった。
【0146】
実施例12
ポリアミド樹脂1及びマスターバッチ1を、ポリアミド樹脂1/マスターバッチ1の混合比(質量比)が90/10となるようにドライブレンドしたものを直径25mmの単軸押出機及びTダイからなる装置のホッパーに投入し、回転数70rpm、260℃で押出し、厚さ250μmの無延伸フィルムを得た。本フィルムを290℃24時間の溶融滞留試験を行い、ゲル分率を求めた。
【0147】
実施例13〜16、比較例7
ポリアミド樹脂(A)の種類又はマスターバッチの種類を変更したこと以外は、それぞれ実施例12と同様に無延伸フィルムを作成し、溶融滞留試験を行い、ゲル分率を求めた。
【0148】
表5に、実施例12〜16、比較例7の無延伸フィルムの溶融滞留試験から得られるゲル分率の測定結果を示す。
【0149】
【表5】
【0150】
酢酸マンガン又は酢酸鉄を添加したマスターバッチを用いた実施例12〜16の無延伸フィルムの溶融滞留試験によるゲル分率は、ステアリン酸コバルトを添加したマスターバッチを用いた比較例7と比べて低く、ゲル生成が抑制されており、耐熱性に優れることがわかった。本結果から、実施例1〜11の成形体を連続的に作成する場合においても、コゲやゲルなどの生産上のトラブルを少なくすることが可能であることがわかる。