(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押出ダイから押し出された筒状の溶融樹脂組成物は、この溶融樹脂組成物を引っ張る力の影響や溶融樹脂組成物周辺のわずかな気流の乱れなどによって、サイジングダイの外周壁に張り付く直前に揺れやすい。このため、筒状の溶融樹脂組成物が、サイジングダイの外周壁に、周方向において、均一に張り付かないことがある。筒状の溶融樹脂組成物がサイジングダイの外周壁に周方向において不均一に張り付くと、筒状の溶融樹脂組成物の、サイジングダイの外周壁に張り付かない部分で溶融樹脂組成物の結晶化が生じることがある。この結晶化が生じると、筒状の樹脂成形物を折り曲げたときに、筒状の樹脂成形物の、結晶化が生じた部分で割れが生じる。
【0006】
一方、サイジングダイの冷却温度を若干下げると、筒状の溶融樹脂組成物がサイジングダイの外周壁に周方向において張り付くときの均一性を改善することができる。しかしながら、サイジングダイの冷却温度を下げすぎると、筒状の樹脂成形物の表面にしわのような波模様が発現する。このため、前記均一性を改善することができるサイジングダイの冷却温度の範囲は狭い。よって、サイジングダイの冷却温度の調整では、前記均一性を十分に改善することは難しい。
【0007】
本発明の目的は、割れが生じない筒状樹脂成形物を容易に製造することが可能な筒状樹脂成形物の製造装置を提供することである。
また、本発明の別の目的は、割れが生じない筒状樹脂成形物を容易に製造することが可能な筒状樹脂成形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するための手段として、以下に示す筒状樹脂成形物の製造装置及び筒状樹脂成形物の製造方法を提供する。
【0009】
[1] 溶融樹脂組成物を筒状に押し出すための押出ダイと、
押出ダイから押し出された筒状の溶融樹脂組成物の内側に位置し、筒状の溶融樹脂組成物が接する外周壁を有し、外周壁に接した筒状の溶融樹脂組成物を冷却しながら成形するためのサイジングダイと、
押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間のガスをこの空間から排気するためのガス排気機構と、を有
し、
前記ガス排気機構は、前記空間に面して開口しているガス排気管を含む筒状樹脂成形物の製造装置。
[2] 外周壁の表面の最大高さ粗さが10〜40μmである、[1]に記載の筒状樹脂成形物の製造装置。
[3] [1]または[2]に記載の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法であって、
押出ダイからサイジングダイに向けて筒状に溶融樹脂組成物を押し出す工程と、
押出ダイから押し出され、サイジングダイの外周壁に接触した筒状の溶融樹脂組成物を冷却する工程と、
押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれた空間のガスを
、前記空間に面して開口しているガス排気管から排出して前記空間の圧力を下げる工程と、を含む、筒状樹脂成形物の製造方法。
[4] 溶融樹脂組成物が、ナイロンを含むことを特徴とする[3]に記載の筒状樹脂成形物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間からガスを排出することができる。このため、前記空間の圧力が下がり、筒状の溶融樹脂組成物がサイジングダイの外周壁に周方向において均一に張り付く。よって、割れが生じない筒状樹脂成形物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る筒状樹脂成形物の製造装置は、押出ダイ、サイジングダイ、及びガス排気機構を有する。
【0013】
前記押出ダイは、溶融樹脂組成物を筒状に押し出す。押出ダイは、溶融樹脂組成物を流す筒状の流路を有する。このような押出ダイには、例えば特許文献1に記載の「成形金型」を用いることができる。
【0014】
前記サイジングダイは、筒状の溶融樹脂組成物を冷却する。サイジングダイは、押出ダイから押し出された筒状の溶融樹脂組成物が接する外周壁を有する。このようなサイジングダイとしては、円柱状の伝熱性を有する部材であることが好ましく、さらに伝熱性に優れることが好ましい。サイジングダイには、例えば特許文献1に記載のサイジング金型を利用することができる。
【0015】
前記サイジングダイの外周壁の表面の最大高さ粗さ(Rz)は10〜40μmであることが、所望の表面状態の筒状樹脂成形物を得る観点、および、サイジングダイの表面における筒状樹脂成形物の滑り易さの観点、から好ましい。最大高さ粗さ(Rz)は、基準長さにおける輪郭曲線の山高さの最大値(Zp)と谷深さの最大値(Zv)との和(Zp+Zv)で表される。外周壁の最大高さ粗さRzは、例えばサイジングダイの外周壁面のブラスト加工によって得られる。
【0016】
サイジングダイの端部のうち、少なくとも押出ダイ側端部の周縁部がR面であることが、筒状の溶融樹脂組成物とサイジングダイの外周面とを円滑に接触させる観点から好ましい。R面の曲率半径は、前記の観点から、2〜10mmであることが好ましい。
【0017】
前記ガス排気機構は、押出ダイ、サイジングダイ、及び前記筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間のガスを前記空間から排気する。前記「空間のガス」は、通常は空気であるが、窒素や希ガス等の、樹脂組成物に対して不活性なガスであってもよい。ガス排気機構は、通常、排気装置と、前記空間と前記排気装置とを連通する排気通路とから構成される。前記排気装置としては、例えば真空エジェクター及び真空ポンプが挙げられる。
【0018】
前記排気通路は、前記溶融樹脂組成物の押出方向に沿って配置することができる。前記排気通路としては、例えば前記押出方向に沿って押出ダイを貫通する管、及び前記押出方向に沿ってサイジングダイを貫通する管、が挙げられる。排気通路の径および数は、特に限定されないが、排気通路が押出ダイを貫通する管である場合には、押出ダイ本来の機能と排気通路の機能とを両立する観点から、排気通路の径(管径)は、8〜25mmであることが好ましく、10〜20mmであることがより好ましい。また排気通路の数は、前述の観点から、2〜4であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る筒状樹脂成形物の製造装置は、本発明の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば、溶融樹脂組成物を押出ダイに供給するための押出成形機、サイジングダイの内外で冷媒を循環させるための冷媒循環機構、サイジングダイで冷却されてなる筒状樹脂成形物を押出ダイの押出方向に引き出す引取機、引き出された筒状樹脂成形物を所望の長さで切断する裁断機、等が挙げられる。これらの他の構成には、例えば特許文献1に記載されている、公知の装置等を用いることができる。
【0020】
本発明における筒状樹脂成形物の製造方法は、前述した本発明の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法である。
【0021】
本発明の製造方法は、押出ダイからサイジングダイに向けて筒状に溶融樹脂組成物を押し出す工程と、前記押出ダイから押し出され、前記サイジングダイの外周壁に接触した筒状の溶融樹脂組成物を冷却する工程と、を含む。これらの工程は、公知の方法によって行うことができ、例えば特許文献1の記載事項に基づいて行うことができる。
【0022】
本発明の製造方法は、押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれた空間のガスを前記ガス排気機構によって排出して前記空間の圧力を下げる工程をさらに含む。
【0023】
前記空間の圧力は、周方向おいて筒状の溶融樹脂組成物を均一に接触させる範囲で適宜に決めることができる。一方で、前記空間の圧力は、筒状樹脂成形物におけるスジの発生を防止する観点から、押出ダイとサイジングダイとの間に位置する筒状の溶融樹脂組成物に過度のくびれが生じないことが好ましい。このような観点から、前記空間の圧力は、0.2〜1.5kPaであることが好ましく、0.6〜1.4kPaであることがより好ましい。前記空間の圧力は、前記空間又は前記排気通路の圧力の測定によって検出することができる。また前記空間の圧力は、ガス排気機構の運転によって検出、調整することが可能である。このようなガス排気機構の運転方法としては、例えば、前記排気装置の間欠運転、前記排気装置による排気量の増減、及び、前記排気通路の外部への開閉、が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法は、不均一な冷却によって部分的に結晶化を生じる溶融樹脂組成物を材料とする樹脂成形物の製造に適している。このような溶融樹脂組成物としては、例えばナイロンを含有する溶融樹脂組成物が挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程としては、例えば、押出ダイに溶融樹脂組成物を供給する工程、サイジングダイの内外に冷媒を循環させる工程、筒状樹脂成形物を押出方向に引き出す工程、及び、筒状樹脂成形物を所望の長さで切断する工程、が挙げられる。これらの工程は、公知の方法によって行うことができ、例えば特許文献1の記載事項に基づいて行うことができる。
以下、本発明を図面に基づきさらに説明する。
【0026】
本発明における筒状樹脂成形物の製造装置は、
図1に示すように、押出機10と、押出ダイ20と、サイジングダイ30と、ガス排気機構とを有する。サイジングダイ30の下方には、サイジングダイ30で製造される筒状樹脂成形物を下方に引き出す不図示の引取機と、サイジングダイ30の下方で筒状樹脂成形物を所望の長さで水平方向に切断する不図示の裁断機とが配置される。なお、サイジングダイ30及びその周辺の状態を示すために、図中、後述の外側マンドレル22や、筒状の溶融樹脂組成物Rf、及びそれが冷却さる筒状樹脂成形物は、断面で示されることもある。
【0027】
押出機10は、シリンダー11と、シリンダー11に収容されるスクリュー12と、シリンダー11を加熱するためのヒーター13と、シリンダー11中で発生したガス状成分を外部に排出するためのベント14とを有する。シリンダー11の上流側の端部には、樹脂材料をシリンダー11に供給するためのホッパー15が配置されている。シリンダー11の下流端には、溶融した樹脂材料(溶融樹脂組成物)中の異物を除去するためのフィルター16が接続されている。またスクリュー12は、スクリュー12を回転させるためのモーター17に接続されている。モーター17は例えば不図示の減速機を有している。
【0028】
押出ダイ20は、内側マンドレル21と、内側マンドレル21に対して所定の間隔を隔てて同軸に配置された外側マンドレル22と、内側マンドレル21と外側マンドレル22との隙間に溶融樹脂組成物を注入するための樹脂注入口23と、外側マンドレル22の周面を覆うヒーター24と、を有する。押出ダイ20は、ネック25を介して押出機10のフィルター16と接続されている。
【0029】
内側マンドレル21は、上部円柱部21aと、上部円柱部21aよりも小径の円柱部であるダイランド部21bと、上部円柱部21aとダイランド部21bとを繋ぐテーパー部21cとから構成される。内側マンドレル21は、上部円柱部21aの外周面に樹脂流路26を有する。樹脂流路26は、樹脂注入口23から下方に傾斜する、上部円柱部21aの外周面に形成される凹条である。樹脂流路26は、特許文献1におけるいわゆるコートハンガー型樹脂流路であってもよい。
【0030】
外側マンドレル22は、上部円柱部21aの周面を覆う上部円筒部22aと、ダイランド部21bの周面を覆う上部円筒部22aよりも小径の円筒部であるダイランド部22bと、上部円筒部22aとダイランド部22bとを繋ぐテーパー部22cとから構成される。
【0031】
ダイランド部21bとダイランド部22bとの間には、製造する筒状樹脂成形物の厚みより大きい隙間、例えば、0.8〜3.0mm、好ましくは0.9〜1.2mm程度の隙間、が形成されている。
【0032】
サイジングダイ30は、押出ダイ20の押出方向(
図2中の矢印X)における下流側(下側)に、押出ダイ20とは離れて配置されている。サイジングダイ30は、押出ダイ20の軸方向に沿って押出ダイ20の中央部を貫通する金具によって支持されている。押出ダイ20の下端とサイジングダイ30の上端との距離は、例えば20〜40mmである。
【0033】
サイジングダイ30は、
図2に示すように、伝熱性を有する円柱状の部材である。サイジングダイ30は、例えばアルミニウム製の円柱体である。サイジングダイ30の外径は、通常、ダイランド部21bの外径と同じかやや小さい。例えばサイジングダイ30の外径は、サイジングダイ30外径がダイランド部21bの下端における外径の80〜90%になるように(引落し率が10〜20%となるように)決められる。また、サイジングダイ30の外径は、筒状樹脂成形物の用途に応じて決めることができる。
【0034】
例えばサイジングダイ30の外径は、製品(中間転写ベルト)の周長寸法と、溶融樹脂組成物の収縮率と、必要に応じて筒状樹脂成形物の後工程用の装置の要部の寸法(例えば製品が中間転写ベルトであるときの形状矯正機の内筒寸法)と、から決めることができる。押出ダイ20のダイランド部21bの外径は、サイジングダイ30の外径に基づき、前記の引落し率となる範囲から適宜に(例えば加工や採寸を容易にする値に)決めることができる。通常の中間転写ベルトを製造する場合では、より具体的にはサイジングダイ30の外径は、100〜400mmであることが好ましく、100〜310mmであることがより好ましい。
【0035】
サイジングダイ30は中空部31を有する。中空部31には、押出ダイ20の中央部を通って中空部31の底部まで挿入される冷媒供給管32と、中空部31の天井に開口する冷媒排出管33とが接続されている。冷媒供給管32と冷媒排出管33とは、例えば温度調整装置を有する不図示の冷媒タンクや冷媒ポンプに接続される。これらは、中空部31に所望の温度の冷媒を循環させる冷媒循環機構を構成する。
【0036】
サイジングダイ30の外周面は適当な表面粗さを有している。サイジングダイ30の前記表面粗さは、筒状樹脂成形物の所望の表面状態や、サイジングダイ30の表面における筒状樹脂成形物の滑り易さに基づいて決めることができる。サイジングダイ30の表面の最大高さ粗さRzは、これらの観点から、中間転写ベルト用の筒状樹脂成形物であれば、例えば15〜35μmとすることができる。また、サイジングダイ30の外周面の周縁部はR面34となっている。このように、サイジングダイ30の外周面は、両端部のR面34と、その間の直胴部とからなる(
図2参照)。R面34の曲率半径は、押出ダイ20からの筒状の溶融樹脂組成物をサイジングダイ30の外周面に円滑に接触させる観点から、例えば2〜10mmとすることができる。
【0037】
前記ガス排気機構は、
図2に示すように、押出ダイ20の中心部を貫通して押出ダイ20の下端で開口するガス排気管41を含む。ガス排気管41は、不図示の真空エジェクターに接続される。このように前記ガス排気機構は、ガス排気管41と前記真空エジェクターとによって構成されている。
【0038】
次に、本実施の形態の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法を説明する。押出機10のシリンダー11及び押出ダイ20は、それぞれ、ヒーター13、24によって加熱され、樹脂組成物の溶融温度以上の温度(例えば300℃)に維持される。また、サイジングダイ30は、所望の温度に調整された冷媒(例えば水)を中空部31の内外で循環させ、押出ダイ20から連続して押し出される筒状の溶融樹脂組成物を冷却するのに適した温度(例えば樹脂組成物のTg以下の温度(約80℃等))に維持される。さらに不図示の前記真空エジェクターを適当な設定値で(例えば、真空エジェクターの背圧が0.2〜1.5kPaとなるように)運転し、押出ダイ20とサイジングダイ30との間に形成されるべき空間のガス(例えば空気)をガス排気管41から連続して排出する。
【0039】
樹脂組成物の材料がホッパー15からシリンダー11に供給される。樹脂組成物の材料は、例えば熱可塑性樹脂と添加剤である。これらの材料は、それぞれを直接ホッパー15に供給してもよいし、熱可塑性樹脂中に添加剤を混練、冷却、造粒してなる樹脂ペレットとしてホッパー15に供給してもよい。
【0040】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリカーボネートおよびそれらの混合物等が挙げられる。ポリエステルの具体例として、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。中間転写ベルトを製造する場合では、前記熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、またはそれらの混合物、が好ましく使用される。
【0041】
前記添加剤としては、例えば、導電性フィラー、滑剤、及び着色剤が挙げられる。特に、中間転写ベルトを製造する場合では、添加剤としては、導電性フィラー及び滑剤が好ましく使用される。導電性フィラーおよび滑剤としては、それぞれ、中間転写ベルトの分野で従来から導電性フィラーおよび滑剤として使用されているものが使用可能である。導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック及びイオン導電性液体が挙げられる。滑剤としては、例えば、モンタン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、及びモンタン酸エステルワックスが挙げられる。
【0042】
シリンダー11に供給された樹脂組成物の材料は、シリンダー11内で溶融し、スクリュー12によって混練されて溶融樹脂組成物となる。溶融樹脂組成物は、押出ダイ20に向けて搬送され、溶融樹脂組成物中の異物はフィルター16によって溶融樹脂組成物から除去される。フィルター16を通過した溶融樹脂組成物は、押出ダイ20に供給される。
【0043】
溶融樹脂組成物は、ネック25及び樹脂注入口23を介して押出ダイ20に流入する。押出ダイ20に流入した溶融樹脂組成物は、樹脂流路26を通って内側マンドレル21の全周に均一に行き渡り、内側マンドレル21と外側マンドレル22との間の筒状の隙間を拡散しながら流下する。こうして筒状の溶融樹脂組成物状の流れが形成される。溶融樹脂組成物は、上部円柱部21a(上部円筒部22a)、テーパー部21c、22c、及びダイランド部21b、22bを流れ、ダイランド部21b、22bから筒状の溶融樹脂組成物Rfとして連続して流出する。こうして、押出ダイ20からサイジングダイ30に向けて溶融樹脂組成物が筒状に押し出される。
【0044】
一方、筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周面に接近すると、ガス排気管41による排気によって、押出ダイ20とサイジングダイ30との隙間がわずかに負圧になる。このため、押出ダイ20から押し出された筒状の溶融樹脂組成物Rfは、サイジングダイ30の外周壁(直胴部)に、周方向において均一に接触する。サイジングダイ30の外周壁に接触した溶融樹脂組成物はアモルファス化し、筒状の樹脂成形物となる。こうして、押し出された筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周壁に接触し、冷却される。
【0045】
また、筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周壁に接触すると、押出ダイ20とサイジングダイ30との間には、押出ダイ20、サイジングダイ30、及び筒状の溶融樹脂組成物Rfで囲まれる空間が形成される。この空間に面してガス排気管41が開口している。そして前記真空エジェクターによってガス排気管41から空気が排出されている。真空エジェクターの背圧を適当な範囲(例えば0.2〜1.5kPa)に設定し、ガス排気機構による排気を適宜に調整すること(例えば真空エジェクターの運転の入り切りや、真空エジェクターとガス排気管41とを接続する三方弁の開閉)によって、前記空間の圧力が所定の負の圧力(例えば0.2〜1.5kPa)となる。このように、前記空間を、筒状の溶融樹脂組成物Rfの外側の空間よりもわずかに減圧することによって、筒状の溶融樹脂組成物Rfの揺動が減少し、筒状の溶融樹脂組成物Rfが、サイジングダイ30の外周壁に周方向において均一に接触する。その結果、筒状の溶融樹脂組成物Rfは、サイジングダイ30によって、周方向において均一に冷却され、筒状樹脂成形物となる。
【0046】
ところで、溶融樹脂組成物がサイジングダイ30による冷却によってアモルファス化するときに、樹脂成分に由来するガス状成分が溶融樹脂組成物から発生することがある。「ガス状成分」とは、例えば樹脂組成物中の樹脂の未反応モノマーや樹脂の分解成分などである。このガス状成分は、前記空間に滞留すると、例えばサイジングダイ30の表面で凝縮し、筒状樹脂成形物の内周面に付着し、筒状樹脂成形物に汚れを生じることがある。しかしながら前述したように、前記空間の空気はガス排気管41によって前記空間から排出される。このため、ガス状成分は、前記空間からの空気の排出に伴って前記空間から除去される。
【0047】
サイジングダイ30で冷却されて生成した筒状樹脂成形物は、前記引取機によって下方に引き取られ、必要に応じて前記裁断機によって水平方向に切断される。筒状樹脂成形物の切断品は、例えばその内周面の汚染の有無や、その外周面の表面状態が検査され、後工程に送られ、例えば、電子写真方式の画像形成装置に装着される無端ベルト状の中間転写ベルトとなる。筒状樹脂成形物は、中間転写ベルト以外の用途にも利用することが可能である。
【0048】
本実施の形態では、押出ダイ20を貫通し、押出ダイ20とサイジングダイ30との間に開口するガス排気管41が配置されている。これにより、前記空間の空気が排出され、この空間の圧力が負圧に維持される。このため、押出ダイ20から押し出された筒状の溶融樹脂組成物Rfが、サイジングダイ30の外周壁に周方向において均一に接触する。よって、溶融樹脂組成物における結晶化が抑制され、筒状樹脂成形物の割れの発生を抑制することができる。
【0049】
また、前記空間の圧力(負圧)を適宜に維持することによって、前記空間において、筒状の溶融樹脂組成物Rfのくびれの発生を防止することができる。このくびれの発生の防止は、成形中の筒状の溶融樹脂組成物の外形を監視しながら、または前記負圧の設定値の範囲で、前記空間からの空気の排出量を調整することによって行うことができる。これにより、筒状樹脂成形物におけるスジの発生を抑制することが可能である。
【0050】
なお、
図5に示すように、押出ダイ20とサイジングダイ30との間に吸着部材91を配置すると、筒状樹脂成形物へのガス状成分の付着を防止する観点から有効である。吸着部材91は、吸着材そのものであってもよいし、吸着材とそれを収容する、通気性を有する容器とから構成されていてもよい。吸着材は、ガス状成分を吸着する性質を有するものから選ばれる。吸着材としては、例えば活性炭、シリカゲル、及びアルミナが挙げられる。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
図3に示す、1本のガス排気管41を有する製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造した。
押出ダイ20のダイランド部21bの外径は250mmである。押出ダイ20のヒーター24の設定温度は300℃である。
サイジングダイ30はアルミニウム製である。サイジングダイ30の外径は240mmである。サイジングダイ30の外周壁面は、#46のアルミナのエアブラストによって均一に粗らされている。サイジングダイ30の軸方向(
図3中のX方向)に沿って測定されるサイジングダイ30の外周壁面の最大高さ粗さは35〜40μmである。R面34の曲率半径は10mmである。中空部31に供給する冷媒として水の温度は80℃である。
ガス排気管41の管径(内径)は16.1mmである。
樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド(E2180;東レ社製)84.7質量部、ナイロン樹脂(アミランCM1021T;東レ社製)6.0質量部、及び、酸性カーボンブラック(PrintexU;エボニックデグサ社製)9.3質量部、の混合物である。
【0052】
前記の条件に加えて、ガス排気管41から真空エジェクターを用いて空気の吸い出しを行い、筒状樹脂成形物を製造した。真空エジェクターの背圧が0.6〜1.2kPaの範囲内となるように真空エジェクターを運転し、筒状樹脂成形物を得た。
【0053】
得られた筒状樹脂成形物を長さ1,000mmで切断して、中間転写ベルトに用いられる大きさの複数の切断品を得た。得られた全ての切断品(100本程度)で割れが発生するか否かを以下に示す方法で検査し、以下に示す基準で評価した。結果を表1に示す。
【0054】
筒状樹脂成形物の、冷却時の結晶化によって割れが発生する部分は、外観上、正常な他の部分と同じであるため、目視では確認することができない。このため、切断品を、その表面のほぼ全域にわたって複数箇所で180°折り曲げた後に割れの有無を検査した。検査結果に基づき、本実施例で得られた筒状樹脂成形物を以下の基準で評価した。
〇:良(一本の筒状樹脂成形物から得られた全切断品中、割れが検出された切断品の数が0個)
△:画像確認による判定を要する(一本の筒状樹脂成形物から得られた全切断品中、割れが検出された切断品の数が1個)
×:生産中止 (一本の筒状樹脂成形物から得られた全切断品中、割れが検出された切断品の数が2個以上)
【0055】
なお、「画像確認による判定」とは、割れが検出されなかった他の切断品から作製された適当数の中間転写ベルトを用いて電子写真方式の画像形成装置で画出しを行い、形成された画像に画像ノイズが含まれるか否かを検査し、検査した中間転写ベルトの全てにおいて画像ノイズが検出されなかった場合を良品と判定することを言う。画像ノイズが検出された場合は、その筒状樹脂成形物から得られた全切断品を不良品と判定する。
【0056】
[実施例2]
図2に示す、2本のガス排気管41を有する製造装置を用いた以外は、実施例1と同様にして筒状樹脂成形物を作製し、切断品を得た。そして実施例1と同様に、筒状樹脂成形物を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
図4に示す、ガス排気管41を有さない製造装置を用いた以外は、実施例1と同様にして筒状樹脂成形物を作製し、切断品を得た。そして実施例1と同様に、筒状樹脂成形物を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、実施例1および2では生産上問題のないレベルに、折り曲げたときの筒状樹脂成形物の割れの発生を抑制することができる。特に、真空エジェクターの背圧をより高くすることによって、折り曲げたときの筒状樹脂成形物の割れの発生をより抑制することができる。