(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記溶融樹脂組成物は、一般に、サイジングダイに接触することで、樹脂組成物が溶融するのに十分な温度(例えば300℃程度)から樹脂組成物が固化するのに十分な、Tg以下の温度(例えば80℃程度)まで急激に冷却される。この急激な冷却による状態変化に伴って、樹脂組成物から未反応モノマーや樹脂の分解成分等のガス状成分(例えばナイロンを含有する樹脂組成物であればε−カプロラクタム)が発生することがある。このようなガス状成分は、筒状の溶融樹脂組成物が外接するサイジングダイを有する製造装置では、押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間に閉じ込められる。このため、前記ガス状成分がサイジングダイの表面で凝縮して筒状樹脂成形物に付着し、筒状樹脂成形物の不良を招くことがある。例えば、中間転写ベルト用に筒状樹脂成形物を製造する場合では、付着した前記ガス状成分は中間転写ベルトの汚れとなる。そして、中間転写ベルトを電子写真方式の画像の形成に用いたときに、画像の品質の低下をもたらすことがある。
【0006】
前記の問題点を解決するための手段として、筒状樹脂成形物の成形作業において、前記空間内の空気を吸い出すこと(以下、「真空引き」とも呼ぶ)が考えられる。前記空間から空気を排出するためのガス排気管は、サイジングダイに冷媒を循環させるための冷媒供給管及び冷媒排出管と同様に、押出ダイの中央部を貫通するように配置することができる。前記空間からの空気の吸い出しによって前記空間中の前記ガス状成分が前記空間から排除される。
【0007】
しかしながら、ガス状成分の排出のために前記空間からの空気の排出量を増やすと前記空間の減圧度が高まり、
図12に示すように、筒状の溶融樹脂組成物が前記空間の内側に入り込む(コーラの瓶のようにくびれる)現象(
図12中の符号Np)が発生することがある。この成形時におけるくびれの発生は、筒状樹脂成形物の内周面に溶融樹脂組成物の押出方向に沿って連続するスジを生じる。このスジは筒状樹脂成形物の外周面の表面状態に反映される。前記スジは、筒状樹脂成形物の膜厚のばらつきを大きくする。このため、中間転写ベルト用の筒状樹脂成形物の製造では、前記スジの発生は、次工程(形状矯正)の不良となりやすい。このため、前記真空引きを十分に強くすることができないことがある。真空エジェクターで前記空間から空気を排出する場合、前記の形状の不良を回避することができる真空エジェクターの背圧は、例えば0.2〜0.8kPa程度である。
【0008】
このように、前述したガス排気機構を有する押出成形装置では、強く真空引きを行うと、筒状の溶融樹脂組成物のくびれという別の不良が発生することがある。
【0009】
本発明は、前記ガス状成分による不良と、前記くびれの発生による不良との両方を防止可能な筒状樹脂成形物の製造装置及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、本来サイジングダイには不要である前記空間への給気という機能を付加することによって、成形品の品質不良の発生が抑制され、成形中の作業安定性が高まることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、前記の課題を解決するための手段として、以下に示す筒状樹脂成形物の製造装置及び筒状樹脂成形物の製造方法を提供する。
【0011】
[1] 溶融樹脂組成物を筒状に押し出すための押出ダイと、
前記押出ダイから押し出された筒状の溶融樹脂組成物の内側に位置し、前記筒状の溶融樹脂組成物が接する外周壁を有し、前記外周壁に接した前記筒状の溶融樹脂組成物を冷却しながら成形するためのサイジングダイと、
前記押出ダイ、前記サイジングダイ、及び前記筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間のガスを前記空間から排気するためのガス排気機構と、
前記空間にガスを供給するためのガス供給機構と、を有
し、
前記ガス排気機構は、前記空間に面して開口しているガス排気管を含む、筒状樹脂成形物の製造装置。
[2] 前記サイジングダイが円柱状であり、
前記ガス供給機構が、前記サイジングダイの軸方向に沿ってサイジングダイを貫通する貫通孔を含む、[1]に記載の筒状樹脂成形物の製造装置。
[3] 前記サイジングダイの前記押出ダイ側の端部の周縁部がR面であり、
前記貫通孔が前記R面に開口する、[2]に記載の筒状樹脂成形物の製造装置。
[4] 前記貫通孔が、前記R面における前記外周壁側の端部に開口する、[3]に記載の筒状樹脂成形物の製造装置。
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法であって、
前記押出ダイから前記サイジングダイに向けて筒状に溶融樹脂組成物を押し出す工程と、
前記押出ダイから押し出され、前記サイジングダイの外周壁に接触した筒状の溶融樹脂組成物を冷却する工程と、
前記押出ダイ、前記サイジングダイ、及び前記筒状の溶融樹脂組成物で囲まれた空間のガスを
、前記空間に面して開口しているガス排気管から排気し、前記ガス供給機構により前記空間にガスを供給する工程と、を含む、筒状樹脂成形物の製造方法。
[6] 溶融樹脂組成物が、ナイロンを含むことを特徴とする[5]に記載の筒状樹脂成形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間からガスを排気することができ、かつ前記空間に新規のガスを供給することができる。このため、前記空間を換気することができる。よって、前記ガス状成分による不良と、前記くびれの発生による不良との両方を防止可能な樹脂成形物の製造装置及び製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る筒状樹脂成形物の製造装置は、押出ダイ、サイジングダイ、ガス排気機構、及びガス供給機構を有する。
【0015】
前記押出ダイは、溶融樹脂組成物を筒状に押し出す。押出ダイは、溶融樹脂組成物を流す筒状の流路を有する。このような押出ダイには、例えば特許文献1に記載の「成形金型」を用いることができる。
【0016】
前記サイジングダイは、筒状の溶融樹脂組成物を冷却する。サイジングダイは、押出ダイから押し出された筒状の溶融樹脂組成物が接する外周壁を有する。このようなサイジングダイとしては、円柱状の伝熱性を有する部材であることが好ましく、さらに伝熱性に優れることが好ましい。サイジングダイには、例えば特許文献1に記載のサイジング金型を利用することができる。
【0017】
サイジングダイの端部のうち、少なくとも押出ダイ側端部の周縁部がR面であることが、筒状の溶融樹脂組成物とサイジングダイの外周面とを円滑に接触させる観点から好ましい。R面の曲率半径は、前記の観点から、2〜10mmであることが好ましい。
【0018】
前記ガス排気機構は、押出ダイ、サイジングダイ、及び前記筒状の溶融樹脂組成物で囲まれる空間のガスを前記空間から排気する。前記「空間のガス」は、通常は空気であるが、窒素や希ガス等の、樹脂組成物に対して不活性なガスであってもよい。ガス排気機構は、通常、排気装置と、前記空間と前記排気装置とを連通する排気通路とから構成される。前記排気装置としては、例えば真空エジェクター及び真空ポンプが挙げられる。前記排気通路は、前記溶融樹脂組成物の押出方向に沿って配置することができる。前記排気通路としては、例えば前記押出方向に沿って押出ダイを貫通する管、及び前記押出方向に沿ってサイジングダイを貫通する管、が挙げられる。排気通路の数は特に限定されない。
【0019】
前記ガス供給機構は、前記空間にガスを供給する。供給される前記ガスは、通常は空気であるが、窒素や希ガス等の、樹脂組成物に対して不活性なガスであってもよい。ガス供給機構は、給気通路を含み、必要に応じて衝突板や分岐管等の気流分配部材を含む。前記給気通路も、前記排気通路と同様に、前記溶融樹脂組成物の押出方向に沿って配置することができる。前記給気通路は、前記押出方向に沿って前記押出ダイを貫通する通気路であってもよいが、押出ダイの温度を樹脂組成物の溶融温度以上の高い温度に維持する観点から、前記押出方向(円柱状のサイジングダイの軸方向)に沿ってサイジングダイを貫通する通気路であることが好ましい。
【0020】
さらに、前記給気通路は、前記サイジングダイの中央部を貫通するように配置されてもよいが、前記空間を囲む前記筒状の溶融樹脂組成物の内側表面にガスを供給する観点から、サイジングダイの周縁部に配置されることが好ましい。また、前記の観点から、前記給気通路の数は複数であることが好ましい。このような好ましい給気通路としては、例えば前記R面を有する円柱状のサイジングダイであれば、R面に開口する貫通孔、が挙げられる。さらに、前記の観点から、前記貫通孔は、前記サイジングダイの周方向に均一かつ所望の間隔で配置されることがより好ましい。
【0021】
前記R面における貫通孔の開口の位置は、前記空間を囲む筒状の溶融樹脂組成物の内側表面により近いことが、溶融樹脂組成物から発生するガス状成分の凝縮または付着を防止し、筒状樹脂成形物の内周面への付着を防止する観点から好ましい。このような貫通孔としては、例えば、R面における前記外周壁側の端部に開口する貫通孔が挙げられる。なお、「ガス状成分」とは、樹脂組成物に由来するガス状の成分であり、例えば樹脂組成物中の樹脂の未反応モノマーや樹脂の分解成分である。また、前記外周壁は、筒状の溶融樹脂組成物が接触する部分であり、R面を有する円柱状のサイジングダイであれば直胴部の外周壁である。
【0022】
本発明に係る筒状樹脂成形物の製造装置は、本発明の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば、溶融樹脂組成物を押出ダイに供給するための押出成形機、サイジングダイの内外で冷媒を循環させるための冷媒循環機構、サイジングダイで冷却されてなる筒状樹脂成形物を押出ダイの押出方向に引き出す引取機、引き出された筒状樹脂成形物を所望の長さで切断する裁断機、等が挙げられる。これらの他の構成には、例えば特許文献1に記載されている、公知の装置等を用いることができる。
【0023】
本発明における筒状樹脂成形物の製造方法は、前述した本発明の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法である。
【0024】
本発明の製造方法は、押出ダイからサイジングダイに向けて筒状に溶融樹脂組成物を押し出す工程と、前記押出ダイから押し出され、前記サイジングダイの外周壁に接触した筒状の溶融樹脂組成物を冷却する工程と、を含む。これらの工程は、公知の方法によって行うことができ、例えば特許文献1の記載事項に基づいて行うことができる。
【0025】
本発明の製造方法は、押出ダイ、サイジングダイ、及び筒状の溶融樹脂組成物で囲まれた空間のガスを前記ガス排気機構によって排気し、前記ガス供給機構によって前記空間にガスを供給する工程をさらに含む。
【0026】
前記空間の圧力は、押出ダイとサイジングダイとの間に位置する筒状の溶融樹脂組成物にくびれが生じない範囲で適宜に決めることができる。前記空間の圧力は、サイジングダイの外周壁へ、周方向おいて筒状の溶融樹脂組成物を均一に接触させる観点から、負圧であることが好ましい。前記空間の圧力は、前記空間又は前記排気通路の圧力の測定によって検出することができる。また前記空間の圧力は、ガス排気機構の運転によって調整することが可能である。このようなガス排気機構の運転方法としては、例えば、前記排気装置の間欠運転、前記排気装置による排気量の増減、及び、前記排気通路の外部への開閉、が挙げられる。
【0027】
本発明の製造方法は、前記ガス状成分が発生する溶融樹脂組成物を材料とする樹脂成形物の製造に適している。このようなガス状成分が発生する溶融樹脂組成物としては、例えばナイロンを含有する溶融樹脂組成物が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程としては、例えば、押出ダイに溶融樹脂組成物を供給する工程、サイジングダイの内外に冷媒を循環させる工程、筒状樹脂成形物を押出方向に引き出す工程、及び、筒状樹脂成形物を所望の長さで切断する工程、が挙げられる。これらの工程は、公知の方法によって行うことができ、例えば特許文献1の記載事項に基づいて行うことができる。
以下、本発明を図面に基づきさらに説明する。
【0029】
本発明における筒状樹脂成形物の製造装置は、
図1に示すように、押出機10と、押出ダイ20と、サイジングダイ30と、ガス排気機構とを有する。サイジングダイ30の下方には、サイジングダイ30で製造される筒状樹脂成形物を下方に引き出す不図示の引取機と、サイジングダイ30の下方で筒状樹脂成形物を所望の長さで水平方向に切断する不図示の裁断機とが配置される。なお、サイジングダイ30及びその周辺の状態を示すために、図中、後述の外側マンドレル22や、筒状の溶融樹脂組成物Rf、及びそれが冷却さる筒状樹脂成形物は、断面で示されることもある。
【0030】
押出機10は、シリンダー11と、シリンダー11に収容されるスクリュー12と、シリンダー11を加熱するためのヒーター13と、シリンダー11中で発生したガス状成分を外部に排出するためのベント14とを有する。シリンダー11の上流側の端部には、樹脂材料をシリンダー11に供給するためのホッパー15が配置されている。シリンダー11の下流端には、溶融した樹脂材料(溶融樹脂組成物)中の異物を除去するためのフィルター16が接続されている。またスクリュー12は、スクリュー12を回転させるためのモーター17に接続されている。モーター17は例えば不図示の減速機を有している。
【0031】
押出ダイ20は、内側マンドレル21と、内側マンドレル21に対して所定の間隔を隔てて同軸に配置された外側マンドレル22と、内側マンドレル21と外側マンドレル22との隙間に溶融樹脂組成物を注入するための樹脂注入口23と、外側マンドレル22の周面を覆うヒーター24と、を有する。押出ダイ20は、ネック25を介して押出機10のフィルター16と接続されている。
【0032】
内側マンドレル21は、上部円柱部21aと、上部円柱部21aよりも小径の円柱部であるダイランド部21bと、上部円柱部21aとダイランド部21bとを繋ぐテーパー部21cとから構成される。内側マンドレル21は、上部円柱部21aの外周面に樹脂流路26を有する。樹脂流路26は、樹脂注入口23から下方に傾斜する、上部円柱部21aの外周面に形成される凹条である。樹脂流路26は、特許文献1におけるいわゆるコートハンガー型樹脂流路であってもよい。
【0033】
外側マンドレル22は、上部円柱部21aの周面を覆う上部円筒部22aと、ダイランド部21bの周面を覆う上部円筒部22aよりも小径の円筒部であるダイランド部22bと、上部円筒部22aとダイランド部22bとを繋ぐテーパー部22cとから構成される。
【0034】
ダイランド部21bとダイランド部22bとの間には、製造する筒状樹脂成形物の厚みより大きい隙間、例えば、0.8〜3.0mm、好ましくは0.9〜1.2mm程度の隙間、が形成されている。
【0035】
サイジングダイ30は、押出ダイ20の押出方向(
図2中の矢印X)における下流側(下側)に、押出ダイ20とは離れて配置されている。サイジングダイ30は、押出ダイ20の軸方向に沿って押出ダイ20の中央部を貫通する金具によって支持されている。押出ダイ20の下端とサイジングダイ30の上端との距離は、例えば20〜40mmである。
【0036】
サイジングダイ30は、
図2に示すように、伝熱性を有する円柱状の部材である。サイジングダイ30は、例えばアルミニウム製の円柱体である。サイジングダイ30の外径は、通常、ダイランド部21bの外径と同じかやや小さい。例えばサイジングダイ30の外径は、サイジングダイ30外径がダイランド部21bの下端における外径の80〜90%になるように(引落し率が10〜20%となるように)決められる。また、サイジングダイ30の外径は、筒状樹脂成形物の用途に応じて決めることができる。例えばサイジングダイ30の外径は、製品(中間転写ベルト)の周長寸法と、溶融樹脂組成物の収縮率と、必要に応じて筒状樹脂成形物の後工程用の装置の要部の寸法(例えば製品が中間転写ベルトであるときの形状矯正機の内筒寸法)と、から決めることができる。押出ダイ20のダイランド部21bの外径は、サイジングダイ30の外径に基づき、前記の引落し率となる範囲から適宜に(例えば加工や採寸を容易にする値に)決めることができる。通常の中間転写ベルトを製造する場合では、より具体的にはサイジングダイ30の外径は、100〜400mmであることが好ましく、100〜310mmであることがより好ましい。
【0037】
サイジングダイ30は中空部31を有する。中空部31には、押出ダイ20の中央部を通って中空部31の底部まで挿入される冷媒供給管32と、中空部31の天井に開口する冷媒排出管33とが接続されている。冷媒供給管32と冷媒排出管33とは、例えば温度調整装置を有する不図示の冷媒タンクや冷媒ポンプに接続される。これらは、中空部31に所望の温度の冷媒を循環させる冷媒循環機構を構成する。
【0038】
サイジングダイ30の外周面は適当な表面粗さを有している。サイジングダイ30の前記表面粗さは、筒状樹脂成形物の所望の表面状態や、サイジングダイ30の表面における筒状樹脂成形物の滑り易さに基づいて決めることができる。サイジングダイ30の表面粗さRzは、これらの観点から、中間転写ベルト用の筒状樹脂成形物であれば、例えば15〜35μmとすることができる。また、サイジングダイ30の外周面の周縁部はR面34となっている。このように、サイジングダイ30の外周面は、両端部のR面34と、その間の直胴部34aとからなる(
図3、4(B)、7)。R面34の曲率半径は、押出ダイ20からの筒状の溶融樹脂組成物をサイジングダイ30の外周面に円滑に接触させる観点から、例えば2〜10mmとすることができる。
【0039】
前記ガス排気機構は、
図2に示すように、押出ダイ20の中心部を貫通して押出ダイ20の下端で開口するガス排気管41を含む。ガス排気管41は、不図示の真空エジェクターに接続される。このように前記ガス排気機構は、ガス排気管41と前記真空エジェクターとによって構成されている。
【0040】
前記製造装置は、ガス供給機構をさらに有する。前記ガス供給機構は、例えば、
図3及び
図4に示すように、サイジングダイ30を貫通する複数の貫通孔51である。ここで、
図3(A)はサイジングダイ30の平面図であり、
図3(B)はサイジングダイ30をA−A線で切断したときの断面を示す図である。また
図4(A)は、
図3(A)のA1部分を拡大して示す図であり、
図4(B)は、
図3(B)のB1部分を拡大して示す図である。
【0041】
貫通孔51は、サイジングダイ30の周壁をサイジングダイ30の軸方向に沿って貫通する。貫通孔51は、例えば、サイジングダイ30の下端面に開口する下孔51aと、サイジングダイ30の上端のR面34に開口する上孔51bとから形成される。下孔51aは、サイジングダイ30の上側にあるR面34の下端をわずかに超える位置まで形成されている。上孔51bと下孔51aは同軸の孔であり、上孔51bの孔径は下孔51aの孔径に比べてわずかに(例えば下孔51aの孔径の15〜40%)小さい。なお、隣り合う下孔51a同士は独立して形成されていることが好ましい。例えば、隣り合う下孔51a同士の間隔(肉厚)は1mm以上あればよい。
【0042】
貫通孔51の孔径が大きいと、ガスの供給量を多くすることができる。貫通孔51の孔径が小さいと、貫通孔51の前記空間側の開口の位置を溶融樹脂組成物により近づけることができ、またガスの供給箇所をより多くすることができ、さらに筒状の溶融樹脂組成物近傍にあるガス状成分をより効果的に除去することができる。これらの観点から、貫通孔51の孔径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがより好ましい。また貫通孔51の数は、例えば60〜180個の範囲から決めることができる。また隣り合う貫通孔51の軸間の距離は、例えば上孔51bの孔径の0.5〜0.6倍の範囲から決めることができる。また上孔51bの軸から直胴部34aの周面までの距離(
図4BのL)は、例えば上孔51bの孔径の半値(半径)の0.35〜0.6倍の範囲から決めることができる。貫通孔51は、例えばドリルやエンドミルによる切削によって形成することができる。この場合、下孔51a及び上孔51bの孔径は、使用する工具の直径によって決めることができる。
【0043】
次に、本実施の形態の製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造する方法を説明する。押出機10のシリンダー11及び押出ダイ20は、それぞれ、ヒーター13、24によって加熱され、樹脂組成物の溶融温度以上の温度(例えば300℃)に維持される。また、サイジングダイ30は、所望の温度に調整された冷媒(例えば水)を中空部31の内外で循環させ、押出ダイ20から連続して押し出される筒状の溶融樹脂組成物を冷却するのに適した温度(例えば樹脂組成物のTg以下の温度(約80℃等))に維持される。さらに不図示の前記真空エジェクターを適当な設定値で(例えば、真空エジェクターの背圧が10〜15kPaとなるように)運転し、押出ダイ20とサイジングダイ30との間に形成されるべき空間のガス(例えば空気)をガス排気管41から連続して排気する。
【0044】
樹脂組成物の材料がホッパー15からシリンダー11に供給される。樹脂組成物の材料は、例えば熱可塑性樹脂と添加剤である。これらの材料は、それぞれを直接ホッパー15に供給してもよいし、熱可塑性樹脂中に添加剤を混練、冷却、造粒してなる樹脂ペレットとしてホッパー15に供給してもよい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリカーボネートおよびそれらの混合物等が挙げられる。ポリエステルの具体例として、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。中間転写ベルトを製造する場合では、前記熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、またはそれらの混合物、が好ましく使用される。
【0046】
前記添加剤としては、例えば、導電性フィラー、滑剤、及び着色剤が挙げられる。特に、中間転写ベルトを製造する場合では、添加剤としては、導電性フィラー及び滑剤が好ましく使用される。導電性フィラーおよび滑剤としては、それぞれ、中間転写ベルトの分野で従来から導電性フィラーおよび滑剤として使用されているものが使用可能である。導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック及びイオン導電性液体が挙げられる。滑剤としては、例えば、モンタン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、及びモンタン酸エステルワックスが挙げられる。
【0047】
シリンダー11に供給された樹脂組成物の材料は、シリンダー11内で溶融し、スクリュー12によって混練されて溶融樹脂組成物となる。溶融樹脂組成物は、押出ダイ20に向けて搬送され、溶融樹脂組成物中の異物はフィルター16によって溶融樹脂組成物から除去される。フィルター16を通過した溶融樹脂組成物は、押出ダイ20に供給される。
【0048】
溶融樹脂組成物は、ネック25及び樹脂注入口23を介して押出ダイ20に流入する。押出ダイ20に流入した溶融樹脂組成物は、樹脂流路26を通って内側マンドレル21の全周に均一に行き渡り、内側マンドレル21と外側マンドレル22との間の筒状の隙間を拡散しながら流下する。こうして筒状の溶融樹脂組成物状の流れが形成される。溶融樹脂組成物は、上部円柱部21a(上部円筒部22a)、テーパー部21c、22c、及びダイランド部21b、22bを流れ、ダイランド部21b、22bから筒状の溶融樹脂組成物Rfとして連続して流出する。こうして、押出ダイ20からサイジングダイ30に向けて溶融樹脂組成物が筒状に押し出される。
【0049】
一方、筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周面に接近すると、ガス排気管41による排気によって、押出ダイ20とサイジングダイ30との隙間がわずかに負圧になる。このため、押出ダイ20から押し出された筒状の溶融樹脂組成物Rfは、サイジングダイ30の外周壁(直胴部34a)に均一に接触する。サイジングダイ30の外周壁に接触した溶融樹脂組成物はアモルファス化し、筒状の樹脂成形物となる。こうして、押し出された筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周壁に接触し、冷却される。
【0050】
また、筒状の溶融樹脂組成物Rfがサイジングダイ30の外周壁に接触すると、押出ダイ20とサイジングダイ30との間には、押出ダイ20、サイジングダイ30、及び筒状の溶融樹脂組成物(図中の符号Rf)で囲まれる空間が形成される。この空間に面してガス排気管41が開口している。そして前記真空エジェクターによってガス排気管41から空気が排気されている。こうして、前記空間の空気が排気され、前記空間の圧力が所定の負の圧力となる。
【0051】
一方で前記空間には、
図5に示すように、前記空間の排気に伴って、サイジングダイ30の下方の空気が貫通孔51から供給される。このため、前記空間の空気が換気される。よって、筒状の溶融樹脂組成物が前記空間で空冷され、筒状の溶融樹脂組成物の冷却効率がより高められる。
【0052】
ところで、溶融樹脂組成物がサイジングダイ30による冷却によってアモルファス化するときに、樹脂成分に由来する前記ガス状成分が溶融樹脂組成物から発生することがある。前記ガス状成分は、前記空間に滞留すると、例えばサイジングダイ30の表面で凝縮し、筒状樹脂成形物の内周面に付着することがある。しかしながら前述したように、前記空間には貫通孔51を介してサイジングダイ30の下方の空気が供給される。よって、ガス状成分が前記空間に分散し、前記空間からの空気の排気に伴って、前記空間からガス状成分が除去される。
【0053】
さらに、貫通孔51から前記空間に空気が供給されることから、前記空間からの空気の排気量を増やしたときの前記空間の減圧度の上昇が抑制される。このため、貫通孔51からの空気の供給がない場合では前記空間の減圧度が高くなり過ぎる排気量で、前記空間から空気を排気することが可能である。よって、前記空間からの空気の排気量をより大きくしても、押出ダイ20とサイジングダイ30との間で筒状の溶融樹脂組成物がくびれることが防止される。よって、筒状樹脂成形物の表面におけるスジの発生が防止される。
【0054】
また貫通孔51は、R面34に開口している。したがって、貫通孔51は、前記空間では、筒状の溶融樹脂組成物Rfの近傍に開口している。このため、貫通孔51を通過した空気は、前記空間において、筒状の溶融樹脂組成物の内周面に沿って流れやすい。したがって、筒状の溶融樹脂組成物の冷却効率を高める観点から効果的であり、また、前記ガス状成分を拡散させる観点、及び前記ガス状成分の凝縮を抑制する観点、から効果的である。
【0055】
サイジングダイ30で冷却されて生成した筒状樹脂成形物は、前記引取機によって下方に引き取られ、前記裁断機によって水平方向に切断される。筒状樹脂成形物の切断品は、例えばその内周面の汚染の有無や、その外周面の表面状態が検査され、後工程に送られ、例えば無端ベルト状の中間転写ベルトとなる。
【0056】
本実施の形態では、溶融樹脂組成物が接触し、摺動するサイジングダイ30の外周壁面の近傍に、サイジングダイ30を軸方向に沿って貫通する貫通孔を多数設けている。これにより、前記空間に外部から新規の空気を強制的に吸引することが可能となる。さらに吸引した空気は、筒状の溶融樹脂組成物Rfの形状が安定化する直前に、筒状の溶融樹脂組成物Rfの内面近傍を通過すると考えられる。このように前記貫通孔の設置により、前記空間内において、サイジングダイ30の下端から押出ダイ20の下端で開口する排気管41まで、気流が起こり、溶融樹脂組成物から発生した前記ガス状成分が前記空間に滞留されることなく前記空間から排気される。このため、樹脂中のガス状成分が筒状樹脂成形物へ付着することが低減する。よって、筒状樹脂成形物の不良を低減させることができ、筒状樹脂成形物の安定した生産活動を継続することができる。
【0057】
また、前記空間からの空気の排気量は、前記空間の圧力を設定値に保つことによって、又は成形中の筒状の溶融樹脂組成物の外形を監視しながら、前記くびれが生じないように調整することによって、適切に制御することができる。これにより、筒状樹脂成形物における前記スジの発生が抑制される。
【0058】
このように、本実施の形態における前記空間に対する排気と給気の両方が可能な構造は、前記空間に滞留する、品質に悪影響を及ぼすガス状成分を除去し、かつ前記空間の溶融樹脂組成物の温度を短時間に低下させることに貢献している。
【0059】
なお、貫通孔51は、
図6に示すように、下孔51aの軸と上孔51bの軸とがずれている下孔51aと上孔51bとから構成されていてもよい。この第二の実施の形態における貫通孔61は、下孔51aの軸よりも上孔51bの軸がサイジングダイ30の外周面側に位置している。貫通孔61の前記空間側の開口位置は、貫通孔51のそれに比べて、筒状の溶融樹脂組成物により近い位置となる。したがって、筒状の溶融樹脂組成物の冷却効率の向上の観点、及び前記ガス状成分の分散、除去のさらなる促進の観点から効果的である。
【0060】
さらに貫通孔51は、
図7に示すように、下孔51aと横穴71bとから構成されていてもよい。この第三の実施の形態において、横穴71bは、サイジングダイ30のR面34の下端部(R面34における直胴部34a側の端部)に開口している。横穴71bは、サイジングダイ30の外周壁面に垂直な方向に沿って延びている。横穴71bの開口の最下位置は、R面34の下端である。横穴71bの孔径(
図7中の符号D)は、例えば2〜5mmの範囲から選ばれる。貫通孔71は、
図7に示すように、筒状の溶融樹脂組成物Rfの内側表面に向けて開口し、サイジングダイ30の外周壁面と筒状の溶融樹脂組成物Rfとが接触する部分である直胴部34aの上端から上方に開口する。このため、筒状の溶融樹脂組成物Rfの内側表面に向けて貫通孔71を介して空気が供給される。さらに、貫通孔71の開口位置は、貫通孔51、61のそれに比べて、筒状の溶融樹脂組成物にさらに近い位置となる。したがって、筒状の溶融樹脂組成物の冷却効率を向上させる観点、及び前記ガス状成分の分散、除去をさらに促進させる観点からより一層効果的である。
【0061】
また、ガス供給機構は、
図8に示すように、貫通孔と衝突板とから構成されていてもよい。この第四の実施の形態におけるガス供給機構は、サイジングダイ30を軸方向に沿って貫通する貫通孔81と、サイジングダイ30の前記空間側の端面から隙間を有して配置される衝突板82とを有する。
図8Aは、第四の実施の形態における押出ダイ、サイジングダイ、及び衝突板の構成を概略的に示す図であり、
図8Bは、貫通孔81の前記空間側の開口部を拡大して示す図である。
【0062】
貫通孔81は、サイジングダイ30の端面の中央部に配置される。貫通孔81の孔径及び貫通孔81の数は、前記空間の所望の減圧度が得られる範囲で決められる。貫通孔81の孔径は、例えば6〜10mmの範囲から決められる。また、貫通孔81の数は、例えば1〜6である。貫通孔81は、例えばサイジングダイ30を貫通する管によって構成される。前記管の下端には、中空部31からの水漏れを防止するためのシールが施される。
【0063】
衝突板82は、
図8Bに示すように、貫通孔81から前記空間に供給された空気を、筒状の溶融樹脂組成物に向けて案内する。衝突板82は、例えばサイジングダイ30の外径と同じ外径を有する金属の円板である。衝突板82の外径は、筒状の溶融樹脂組成物(図中の符号Rf)の内周面に接触しない範囲で決められる。また、衝突板82と貫通孔81の開口との距離は、例えば3〜15mmである。衝突板82は、空気を衝突板82の法線方向に案内するための、放射状に配置される溝や突条を有していてもよい。
【0064】
このようなガス供給機構も、筒状の溶融樹脂組成物Rfの内側表面に向けて空気を供給する。前記ガス供給機構は、貫通孔51〜71に比べて容易に作成することが可能である。また。前記空間へより多量の空気を供給する観点から有利である。
【0065】
なお、
図9に示すように、押出ダイ20とサイジングダイ30との間に吸着部材91を配置することによっても、筒状樹脂成形物へのガス状成分の付着を防止する観点から有効である。吸着部材91は、吸着材そのものであってもよいし、吸着材とそれを収容する、通気性を有する容器とから構成されていてもよい。吸着材は、ガス状成分を吸着する性質を有するものから選ばれる。吸着材としては、例えば活性炭、シリカゲル、及びアルミナが挙げられる。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
図1に示す製造装置を用いて筒状樹脂成形物を製造した。
押出ダイ20のダイランド部21bの外径は250mmである。押出ダイ20のヒーター24の設定温度は300℃である。
サイジングダイ30はアルミニウム製である。サイジングダイ30の外径は240mmである。サイジングダイ30の外周壁面は、#46のアルミナのエアブラストによって均一に粗されている。R面34の曲率半径は10mmである。貫通孔51の数は72であり、上孔51bの孔径は5mmであり、下孔51aの孔径は8mmであり、上孔51bの軸とサイジングダイ30の外周面との距離Lは5.5mmである。また、中空部31に供給する冷媒として水の温度は80℃である。
樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド(E2180;東レ社製)84.7質量部、ナイロン樹脂(アミランCM1021T;東レ社製)6.0質量部、及び、酸性カーボンブラック(PrintexU;エボニックデグサ社製)9.3質量部、の混合物である。
【0067】
前記の条件に加えて、ガス排気管41から真空エジェクターを用いて空気の吸い出しを行い、筒状樹脂成形物を製造した。連続して流下する筒状の溶融樹脂組成物の形状を監視し、押出ダイ20とサイジングダイ30との間でくびれを生じないことを確認しながら、真空エジェクターの背圧を徐々に上げた。その結果、真空エジェクターの背圧が1.0〜15.0kPaの範囲でくびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、ε−カプロラクタムが付着していないことを確認した。
【0068】
得られた筒状樹脂成形物を長さ1,000mmで切断して、中間転写ベルトに用いられる大きさの複数の切断品を得た。得られた切断品を全て(100本程度)検査し、以下に示す方法及び基準で評価した。
【0069】
(1)サイジング汚れ
前記切断品の内周面を目視にて観察し、ε−カプロラクタムの付着による染みについて、以下の基準で評価した。
◎:目視で染みを捕捉できない
〇:量産の基準書に照らし、染みの大きさが規格内である
△:量産の基準書に照らし、染みの大きさが規格以上で、染みの発生率が連続5本未満
×:量産の基準書に照らし、染みの大きさが規格以上で、染みの発生率が連続5本以上
【0070】
(2)成形スジ
前記切断品の外周面(押出方向に沿うスジ)について、(株)東京精密製ハンディサーフE−35で測定し、以下の基準で評価した(粗さはスジに直角となる方向で測定)。
〇:最大粗さRzが7μm未満である
×:最大粗さRzが7μm以上である
【0071】
(3)表面ブツ
前記切断品の外周面を限度見本に基づいて目視にて観察し、外周面に形成される微小な凹凸(ブツ)について、以下の基準で評価した。
〇:大きさ、数、共に規格内である
△:大きさは規格内であるが、規定範囲内の数が規格以上である
【0072】
(4)表面光沢
前記切断品の外周面を(株)堀場製作所製グロスチェッカIG331にて測定し、外周面の光沢について、以下の基準で評価した。
〇:照射角60°での光沢度が120以上である
×:照射角60°での光沢度が120未満である
【0073】
評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
[実施例2]
貫通孔51の数と大きさを変えた以外は実施例1のサイジングダイ30と同じサイジングダイを用いて、実施例1と同様に筒状樹脂成形物を製造した。本実施例では、上孔51bの孔径を2mmとし、貫通孔51の数を180とし、上孔51bの軸とサイジングダイ30の外周面との距離Lを2.5mmに変更した。そして、前記真空エジェクターの背圧が1.0〜10.0kPaの範囲で前記くびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、ε−カプロラクタムが付着していないことを確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。なお本実施例では、前記真空エジェクターの背圧が1.0〜1.4kPaのときの切断品の検体と、前記真空エジェクターの背圧が1.4〜10.0kPaのときの切断品の検体とをそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
サイジングダイ30及び貫通孔51に代えて
図8に示すガス供給機構を有する以外は実施例1の製造装置と同じ製造装置を用いて、実施例と同様に筒状樹脂成形物を製造した。本実施例では、貫通孔81の孔径を10mmとし、貫通孔81の数を2とし、貫通孔81の軸とサイジングダイ30の外周面との距離Lを54mmに変更した。また、衝突板82に直径220mmの円板を用い、サイジングダイ30と衝突板82との間隔を10mmとした。前記真空エジェクターの背圧が0.3〜0.5kPaの範囲で前記くびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、ε−カプロラクタムが付着していないことを確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例4]
貫通孔51の形状を変えた以外は実施例1のサイジングダイ30と同じサイジングダイを用いて、実施例1と同様に筒状樹脂成形物を製造した。本実施例では、貫通孔51に代えて
図7に示す貫通孔71を用いた。貫通孔71の数を72とし、横穴71bの孔径を5mmとした。そして、前記真空エジェクターの背圧が1.0〜15.0kPaの範囲で前記くびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、ε−カプロラクタムが付着していないことを確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
貫通孔51を有さない以外は実施例1のサイジングダイ30と同じサイジングダイ(
図10の符号90)を用いて、実施例1と同様に筒状樹脂成形物を製造した。なお、
図10Aはサイジングダイ90の平面図であり、
図10Bはサイジングダイ90の正面図である。前記真空エジェクターの背圧が1.0〜1.4kPaの範囲で前記くびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、
図11に示すように、サイジングダイの外周壁における直胴部とR面34との境界部にε−カプロラクタムの付着(黄色の付着物の帯、
図11中の符号By)を確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
前記真空エジェクターの背圧が特定の範囲となるように行った以外は比較例1と同様に筒状樹脂成形物を製造した。本比較例では、前記真空エジェクターの背圧を1.5〜2.0kPaとした。本比較例では
図12に示すように、くびれ(
図12中の符号Np)の発生を確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、サイジングダイの外周壁における直胴部とR面34との境界部に黄色の付着物(ε−カプロラクタム)を確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0080】
[比較例3]
表面が粗されていない、滑らかな外周面を有する以外は比較例1のサイジングダイと同じサイジングダイを用いて、実施例1と同様に筒状樹脂成形物を製造した。前記真空エジェクターの背圧が0.3〜0.5kPaの範囲で前記くびれが生じないことを確認した。また、製造終了後のサイジングダイの外周面を目視で観察したところ、サイジングダイの外周壁における直胴部とR面34との境界部に黄色の付着物(ε−カプロラクタム)を確認した。
さらに、得られた筒状樹脂成形物の前記検体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0081】
表1から明らかなように、実施例1〜4ではサイジング汚れと成形スジのいずれも発生しない。また、サイジングダイの外周壁面へのε−カプロラクタムの付着が防止される。さらに、多数の貫通孔をサイジングダイの周壁に設けることによって、前記真空エジェクターの背圧が10kPa以上となる強さで、前記空間から空気を排気することができる。
【0082】
また、貫通孔の孔径や、貫通孔の開口位置からサイジングダイ30の外周面までの距離をそれぞれ適宜に設定することが、サイジングダイの外周壁面へε−カプロラクタムが付着することを防止する観点からより効果的である。貫通孔51の孔径を大きくすると、空気が通過する面積が増加する。例えば孔径が5mmである貫通孔51の通気面積は、孔径が2mmである貫通孔51の通気面積の約2.5倍である(実施例1及び実施例2)。よって、前記空間への給気量をより多くすることが可能となる。また、
図7に示すように、横穴71bを形成することで、サイジングダイ30の外周面のごく近傍に貫通孔を開口させることができる(実施例4)。または、
図6に示すように、下孔51aと上孔51bを偏芯させて形成することでも、サイジングダイ30の外周壁のより近傍に貫通孔を開口させることができる。
【0083】
一方、比較例1〜3では、サイジング汚れか成形スジのいずれかの不良が発生するか、又は、前記切断品を得るために、サイジング汚れの選別と洗浄のためのさらなる工程を要する。また、サイジングダイの外周壁面にε−カプロラクタムが付着する。さらに、前記空間の負圧の許容範囲を狭く設定する必要があり、成形スジの発生を防止するための監視作業が必要である。またこの監視作業の個人差によって歩留まりが増減しやすい。
【0084】
以上より、従来のサイジングダイに微小の貫通孔を加えることで、筒状樹脂成形物の押出成形法において、成形中に目視できない箇所で発生し得る不良原因の物質を除去できることが分かる。そして、筒状樹脂成形物の量産中の品質管理を簡素化できる。さらに、ガス状成分の付着を除去する清掃工程では、噴射する空気圧の微妙な調整を要するが、このような個人差が発生しやすい工程が不要となる。